【強さの代償】




 紅美鈴は主であるレミリア・スカーレットの自室に呼び出されていた。
 例の如く、霧雨魔理沙に門を破られた件についてである。
 美鈴の目線から見て左側にパチュリー・ノーレッジ、右側にはレミリアが座っており、美鈴はというと、扉の前で萎縮しながら立たされている。

「美鈴。あなたいつになったらあのこそ泥を止めることができるのかしら?」
「す……すいません……」
「謝ることは出来るのね。それで私の図書館の本が帰ってくれば嬉しいんだけど」
「まあそこまで攻めることじゃないわよパチェ。どうせこんな木っ端妖怪に魔理沙が止められるわけないじゃない」
「そんなこと言ったって、実害を受けるのは私なのよ。食い止めるまでは行かずとも、スペカを空にするぐらいはして欲しいわね。それに寝てこそ泥が入るのを逃すなんて、問題外じゃない」
「あー、そりゃ私も擁護できんわ。確かにそれは使えないわよねえ、いてもいなくても一緒。あははははは!」

 二人は美鈴を前にしながら随分と勝手なことを言っている。

 確かにここ最近は魔理沙素通りさせてばっかりですけど、それでも私だって弱いなりに頑張ってるんですよ……?
 それに比較的安全な昼に寝ないと、より集中しないといけない夜が仕事にならないんです。
 お嬢様だってそれは分かってるでしょうに……。

「んじゃ美鈴、もう戻っていいわよ。とりあえず三日間夕食抜きってことだから」
「妥協してあげ上げたのよ。感謝しなさい」
「はい……ありがとうございました」

 美鈴は挨拶をすると、とぼとぼと部屋から出て行く美鈴の背後から、突然声が掛けられた。

「お疲れ様、また夕食抜き?」
「あ、お疲れ様です咲夜さん。あはは……今回は三日間らしいです」
「あなたも大変ねえ」
「いやあ、咲夜さんほどじゃないですよ」

 咲夜は紅魔館で美鈴を心配してくれる数少ない人物である。
 これまでも色々と助けてもらっている美鈴にとって咲夜は、自分の部下以外で気を許せる数少ない相手であった。

「それじゃあ、またいつもみたいにこっそり残飯を置いておくから」
「はい、ありがとうございます!咲夜さんの料理は残飯でも美味しいです!」
「あら、それって褒めているのかしら?」
「ええ、もちろん!」

 美鈴が満面の笑みを浮かべて咲夜に返事をする。
 常に笑みを絶やさない美鈴ではあるが、この笑顔はいつもの笑顔よりも輝いているだろう。

「それじゃあ、私はこれで。頑張ってね」
「はい、咲夜さんも頑張ってください」

 咲夜は美鈴に励ましの言葉をかけると、時間をとめ、その場にトランプを残して自分の仕事に戻って行った。

 やっぱり咲夜さんは優しいな……。
 咲夜さんの料理は残飯でも本当に美味しいし楽しみだ。美味しいものを食べることとゆっくり寝ることは幸せなことだよなあ。
 期待を裏切らないように、そしてちゃんとした咲夜さんの手料理が食べられるように頑張らないと。

 自分のことを心配してくれる人がいるということが分かるだけで、美鈴は辛い門番の仕事を頑張ることが出来るのである。




 曇天のなか日付が変わり、美鈴に与えられた食事抜きの刑は終わりを迎える。
 美鈴は咲夜から与えられた残飯の器をこっそりと指定の場所に移し、再び門に戻ろうとしていたところであった。

「今日もお疲れ様」
「お疲れ様です咲夜さん」

 さすが瀟洒な従者と言ったところか、咲夜は美鈴が食べ終えるタイミングを見計らい現れる。

「今日で終わりね。今までろくなものを用意できなくてごめんね」
「いえいえ!咲夜さんの用意してくれた料理ですもん。しっかりとろくなものですよ!」
「なにそれ、ふふふ」
「あ、あはははは……」

 そんな他愛もない会話を5分ほど交わすと、咲夜は仕事があるからと言い、器を持っていって目の前から消えていった。
 咲夜が去った後、美鈴は背伸びをして体を伸ばしながらやる気を出し直す。
 うっすらと雲間からも月が見え、それなりに絵になる情景であった。

「さあて、私も頑張りますか……ってあれ?」

 美鈴は足元に月の光で銀色に光るものを見つける。

「あらら、咲夜さんフォーク忘れていってる。こういう抜けてるところが咲夜さんらしいなあ……。仕方ない、こっそり戻しに行きますか」

 そういうと美鈴は誰にもばれないよう能力で自分の気を消し、こっそりと屋敷の中へと入っていった。
 実際気を消さなくても妖精メイドぐらいならなんとかなるのだが、もしレミリアが歩き回っていて見つかりでもしたら大変である。
 美鈴はレミリアがいないか確かめながら厨房まで行き、こっそりと洗い場のところにフォークを置いていった。そうして門の前に戻ろうとしたときであった。

「……よね」
「……すわね」

 美鈴はメイドの休憩室から、よく知る声が会話しているのを聞く。
 それは主であるレミリアと先ほどまで話していた咲夜のものであった。
 美鈴はいけないと分かっていても、その会話に耳を傾けずには要られなかった。

「ご飯を与えて優しくするぐらいでやる気をだすなんて、美鈴らしいというかなんというか」
「扱いやすくて助かりますわ。門番がしょげて仕事が出来なかったら駄目ですもの」

(……え?どういうこと?)

「咲夜。美鈴を門番としてどう思う?」
「役立たずですわね。ごく潰し以外の何者でもないですわ」

(そんな……じゃあ今までの優しさは……?)

「さすが咲夜、そんな門番でも使いこなせる技術があるのはさすがね」
「嘘も方便です。これくらいのことが出来なければこの屋敷ではやっていけませんもの。我侭な主だっていますしね」
「ふん、言うじゃないの、まあ彼女は、門番としては駄目ってことね」
「ええ」

 ……嫌……唯一……唯一、屋敷の中にいる人で私に優しくしてくれる人だと思ったのに……!
 咲夜さんがいつも励ましてくれたから頑張れた。
 咲夜さんがいつも慰めてくれたから立ち直れた。
 咲夜さんが微笑みかけてくれるのが、好きだった。
 それなのに、いままでのは全部……演技だったというの……!?

 いつの間にか美鈴はその場から離れ駆け出していた。
 幸い、気は消したままだったので誰にも気づかれず屋敷の外へ出られた。
 外はいつの間にか豪雨であった。

 「あは……あはははは……とんだ……道化ですね……」

 美鈴は笑っていた、だが泣いてもいた。
 雨が降っているので泣いてるかどうかは外からは分からない。
 しかし、確かに彼女は泣いているのだ。

 どうしてだろう、どうして私だけ、皆から除け者にされるんだろう。
 門を守れないから?
 役立たずだから?
 私が弱いから?

 強くなりたい。

 力が欲しい。

 誰にも負けない力が、紅魔館の皆に認めてもらえる力が。

 何を捧げてもいい。

 私に、私に力を……!!


 強烈な光とともに大きな雷鳴が鳴り響き、美鈴を照らし出す。
 その目は、紅き狂気の色に彩られていた。




「……じゃあ咲夜。美鈴個人としてはどう思う?」
「かけがえのない家族です。彼女の笑顔を見るといつも癒されますし、だからついつい優しくしちゃうんですね」
「よねぇ、私はしょんぼりした美鈴のほうが好きだけどね」
「だからって、あんまりいじめないで下さいよ。一昨日は流石にやり過ぎです」
「あれはパチェの機嫌が悪かったのよ。どうも盗まれた本が1000冊に到達したとか……」
「まあ、それは確かにいらいらしますわね」
「ほんと、触れるものはみな傷つける状態だったんだから。でもパチェも後悔してるのよ?なんだかんだいってパチェも美鈴が好きなんだし。
だから来月、美鈴が門番になった記念日にお祝いして、そこで謝ろうってことになって……」
「あら、憶えていらしたんですの?」
「もちろんよ。あなたも言ったと通り、大切な家族ですもの」
「失礼いたしました。でも、これからはもうちょっと優しくしてあげて下さいよ?」
「善処するわ」




 思い立てば行動はすぐであった。美鈴はパチュリーの図書館からある本を一冊盗み出していた。それは埃を被っており、以前に呼んだのがかなり前だということがうかがえる。
 なぜならその本は特にパチュリーの魔法研究に対してなにか特になるわけではなかったし、パチュリー自体に合うような本ではなかった。
 しかし美鈴には必要であった。その本に記されているもの、それは代償を払う代わりに己の力を上げる呪いの一種が記されていた。
 魔法が使えない美鈴にできることは少ない。しかし、代償を払い力を得るならば、話は別である。
 いかなる代償になるかは、その本にははっきりと記されておらず、術が成功したときに分かるという曖昧なものだった。
 だからこそパチュリーが手を出さないのかもしれない。だが、今の美鈴にとってそんなものは関係はない。強くなれるかなれかいか、それにしか興味はなかった。
 美鈴は己の手の平を傷つけ、自室の床に血を使い、魔法陣を書き、そして本に記されている呪文を唱える。
 すると、その魔法陣は鈍い光を放ちだした。美鈴はその魔法陣に語りかける。

「さあ、条件は揃えたわ……まずは何がお望み?」




 三日後の昼過ぎ、美鈴は本を盗みに来た魔理沙と対峙していた。

「くっ!今日は随分と粘るじゃないか!そらっ!」
「ちぃ!!」

 形成はほぼ互角。どちらが勝ってもおかしくなかった。
 魔理沙は美鈴の弾幕をぎりぎりのところで避け、着実に魔理沙を追い詰める。

「おわっ!?」

 魔理沙が被弾する。
 どうやら美鈴の放った弾幕を避けて、事故を起こしたらしい。

「ちくしょー!今日は調子が悪かったんだからな!」

 捨て台詞を吐いて去っていく。

「ふぅ……」

 美鈴は弾幕ごっこを終えると、ゆっくりと地面に降り立つ。
 そこにはいつの間にか昼食を持った咲夜が。
 咲夜は微笑みながら昼食をおき、美鈴に話しかける。

「お疲れ、珍しいこともあるものね。魔理沙の調子が悪くてよかったわね美鈴」
「ええ、そうですね」

 美鈴も笑顔で返す。とびっきりの作り笑いで。
 いつも笑顔でいる美鈴には造作のないことであった。

 なるほど、確かに笑顔は武器だ。
 こう笑いかけていれば腹のうちで何を考えているかも分からない。
 咲夜さん、あなたも今もそうなんでしょう。
 白々しい。分かっていると、こうも咲夜さんの悪意が見えてくる。

「最近は真面目に働いてるわねえ、寝ている姿を見たことないわ」
「褒めていただき光栄です」
「今回は魔理沙も防げて、私としても嬉しい限りよ」

 嘘付け。どうせ内心では見下しているんだろう。

「あ、そうそう。今回新しい料理にチャレンジしてみたんだけど、感想をちょうだい」
「わかりました」

 そういって咲夜は昼食を差し出す。
 確かに今まで紅魔館では出たことのない料理であった。
 美鈴はそれを黙々と食べて一言、

「おいしかったです」

 と言った。

「おいしいって、もっとこう具体的に出来ない?」

 あはは、無理に決まってるじゃない。

「おいしいものはおいしいんですよ。それでいいじゃないですか」

 だって、

「まったくもう。それじゃあ、この後も頑張ってね」
「はい、咲夜さんも頑張ってください」


 私は今、味を感じることができないんだから。


 美鈴は強くなる代償として、睡眠が必要なくなり、味を感じれなくなった。
 それは、彼女が日常の中で感じていた小さな幸せであった。

 今日の戦いは辛勝だった。
 こんなものじゃ駄目だ。
 まだ私は弱い。
 もっと、もっと強くならないと……。




 五日後の夜、美鈴はレミリアとパチュリーに呼び出されていた。
 その日、美鈴はまたもや来訪してきた魔理沙に勝利したからである。
 その内容は、前回戦ったときよりもより優勢に事を進めていた。

「よくやったわ美鈴。最近なんかおかしなものでも食べた?」
「いえ、これも修練の賜物です」
「ま、今までの本の分を考えるとまだまだだけどね。まあ頑張ったほうじゃないの?」
「ありがとうございますパチュリー様」

 美鈴は二人の言葉に笑顔で答える。
 しかし内心はその笑顔とは裏腹に、あまり綺麗なものではなかった。


 褒めてもらえるのは嬉しいけど、どこまで本当か分からない。
 もっと圧倒的な勝利でこそ、私はお嬢様たちに認められるはずだ。
 魔理沙は人間で成長が早いだろうから、もっと強くなるだろう。
 現状で満足してはいけない。


 今の捻じ曲がってしまった美鈴の思考では、他人の言葉を素直に信じることさえ、難しいことであった。

「それじゃあ、もう戻っていいわよ。特別に休みを与えるから、今夜はゆっくり休みなさい」
「いえ、そういうわけにはいきません。しっかり門番を勤めさせていただきます。それでは」
「あ、ちょっと!」

 美鈴はレミリアの制止を振り切り、部屋から出て行く。

「あいつ、あんなに真面目だったっけ?」

 パチュリーが口を開く。それにレミリアは椅子にもたれながら答えた。

「さあ?久々に褒められて舞い上がってるんじゃないの?にしてもパチェ、あなた本当に素直じゃないわよね。もっと自然に祝えないわけ?」
「わ、私だって善処してるわよ……ただその、美鈴を目の前にしてそうストレートにものが言えないというか……」
「あー、そういやこの前の宴会で早苗から聞いたなあ、外の世界でそういうのなんていうか。えーと……ツンデレ?ツンドラ?まあなんでもいいや」
「べ、別にそういうのじゃ……ぶつぶつ」
「まったく……それにしても、さっきの美鈴……」
「ん?美鈴がどうかしたの?」
「いや、なんでもない」




 咲夜は仕事を終え、自室に向かって廊下を歩いていた。
 すると前方に見知った背中が見える、美鈴である。
 咲夜はちょっと脅かそうと思いこっそり後をつけていった。
 そのとき、美鈴が前方から来た妖精メイドとぶつかる。

(まったく何をやってるのかしら……)

 しかし美鈴は笑みを絶やさない。こういうことが起こっても大抵は美鈴は笑って許す。
 咲夜はそのような光景を今までも何回かこっそり見てきた。
 そして美鈴はそのメイドに言った。

「何やってるのよ、このノロマ」

(……え?今の……美鈴……?)

 一瞬、メイド妖精が悪態をついたのかと思ったが、怯えている様子から、それが美鈴が放った言葉だということが分かる。

「ちゃんと前見て歩きなさいよ。その目は何のためについてるのかしら?これだから妖精は使えないのよ」

 美鈴はさっきまでと変わらない笑みでメイドを罵っている。

 違う……こんなのは美鈴じゃない。
 美鈴のはずがない!
 彼女はもっと優しくて、おおらかな妖怪のはずだ。
 じゃあ、私の見ている、メイドを罵っているのは一体誰……?

「そこまでよ」

 咲夜はいつの間にか美鈴の後ろに立っていた。
 美鈴の姿をした何かが先ほどとまったく変わらぬ笑顔の仮面をつけながら振り返る。

「これは咲夜さん、見苦しいところを見られましたね」

 さっきまでメイドを罵っていたはずのその口は、普段咲夜と話すような声を出す。
 その変わり身の早さに咲夜は寒気すら憶えた。

「どうしたの一体?いつものあなたらしくない。最近休んでるところを見ないけど、疲れがたまってるんじゃない?一度しっかりと休んで頭を冷やしなさい」
「いえ、そんなことはありませんよ。疲れなんて感じるはずないんですから」
「え……?それってどういう……?」
「おっと、おしゃべりが過ぎましたね、それじゃあ門の前に私は戻りますので、仕事頑張ってください」
「ま、待ちなさい!」

 美鈴はその声に答えず、いつの間にか目の前から姿を消していた。

「なんだったの、あれは……?」

 咲夜は、何か大変なことが起き始めている、そんな気がした。




 フランドール・スカーレットは特に当てもなく、ただふらふらと屋敷の中を歩いていた。
 何か面白いことはないかと思っていると、丁度門の前に戻る美鈴の後姿を見つけたので、フランは美鈴めがけて飛び掛る。

「美鈴ー!あーそぼっ!!」

 いつもの美鈴ならば、

『おわわっ!!妹様!?い、今は仕事中で……仕方ないですねえ』

 と、少し困りながらも、優しく対応してくれただろう。
 しかし今回の反応は違った。

「すいません妹様、これから仕事なので遊ぶことは出来ません」
「え……?」

 フランドールは思わず声を出してしまう。
 いつもならもっと優しい対応をしてくれるだろう。

「ねえどうしたの?今日の美鈴、なんか冷たいよ?」
「いえ、そんなことはありません。それでは、私には用事があるので」

 そういうと、美鈴はフランドールに背を向け去っていく。
 フランドールはきょとんとそこに立ち尽くしてしまった。
 美鈴は明らかにおかしい。
 表情だけは笑顔でも、今の美鈴からは優しさが感じられなかった。
 それもそのはずである。

 美鈴が払った二つ目の代償は優しさであるのだから。




「美鈴の様子がおかしい?」
「はい、なんだか優しさがなくなったというか。それに最近、全然眠ってないようですし……」

 咲夜はレミリアに先ほどのことを報告しに言っていた。
 その後レミリアと雑談をしていたパチュリーも残っている。
 報告するほどでもないことなのだが、どうしても咲夜には先ほどのことがただ事には感じられなれなかったのだ。

「ふうん、確かにそれはおかしいわね」
「実は、私もなにかおかしいと思っていたのよ」
「お嬢様も?」
「ええ、なんだか違和感があると思ってね」
「そういえば、最近門の防衛率が上がってますわね、何か関係があるのでしょうか……」

 その場に流れるおかしな空気。
 そこにいる全員が美鈴の異変を感じ取っていた。
 特にパチュリーは、何か思い当たる節があるのか、なにやら焦ったような表情でいる。
 そのとき激しい音がして、突然部屋の扉が強く開かれる。

「ちょっとお姉様!美鈴に何言ったの!」
「フラン!?一体どうしたの!?」

 フランドールはレミリアの部屋に駆け込んでいた。
 さっきの美鈴は、恐らく姉に何かひどいことを言われて気分を害しているのだろう、そういった読みからであった。

「どうしたのじゃないわよ!遊ぼうって言ったら、すっごい美鈴が冷たいんだもの!あんなの美鈴じゃないよ!」
「そんな、私は何も……パチェ?どうしたの、さっきからおかしな顔して」
「ねえ咲夜、最近美鈴は突然強くなったのよね?」
「え?は、はい。確かにそうですが……」

 突然の質問に咲夜は狼狽する。
 だがパチュリーは、そのことにより、ある信じたくない仮説を立ててしまった。

「実わね。最近図書館から一冊の本が消えてるのよ。私の研究には全然関係ないから、一読した限りまったく読んでなかったんだけど」
「それは魔理沙が盗んだんじゃないの?」
「ええ、私もさっきまでそう思っていた。でも最近の美鈴を見る限り、恐らくその本は美鈴が盗んでる」
「それはどういうことですか?」
「その本はね、代償を払う代わりに戦闘能力を高める術式が書いてある。その代償は一見すると分からないけど、暗号になっていて書いてあるのよ。
魔法に長けているものとといないものを区別するためにね」
「その代償って、一体……?」

 フランドールが声を震わせながらたずねる。
 その質問に、パチュリーは間をおきながら、重々しく尋ねた。

「始めに、術者の幸せと感じている些細なこと。次に、術者の個性。そして三つ目は……術者の、心」

 それを聴いた瞬間、咲夜は部屋から姿を消していた。




「美鈴!!」

 時間を止めて咲夜は美鈴の部屋へと駆け込む。そこには怪しい魔法陣の上に立っている美鈴の姿が。
 咲夜は魔法陣から引き離すため思いっきり突き飛ばす。
 咲夜は美鈴と一緒に転げながら、壁にぶつかって止まった。

「美鈴!大丈夫!?何やってるのよこの馬鹿!!」

 咲夜は美鈴を心配しながらも、激しく美鈴に言葉を浴びせる。
 いつも通りの返答が帰ってくると信じて。





















「どいてください咲夜さん。門を守らなければいけませんので」
















 一ヶ月後、そこには門の前で笑顔を絶やさないでいる門番、紅美鈴の姿があった。
 その実力はまさに無敵。彼女がいる限り、紅魔館に無断で入るのは難しいことであろう。

「ほら美鈴、食事をもってきたわよ」

 咲夜は美鈴に食事を運びに行く。

 今の彼女には食事など必要ないのだが、少しでも美鈴と話す機会が欲しかった。
 絶えず話しかけていれば、いつか昔の優しい美鈴に戻ってくれる気がして。

「私に食事など必要ありません。そのようなことで門の警護を疎かにはできません」
「そ、そう……」

 美鈴はいくら咲夜が必死に料理を作っても、決して料理を口にしてくれない。

「うう……美鈴……私の、私のせいで……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 いつの間にか咲夜はしゃがんで泣いていた。

『泣かないで下さい。大丈夫ですよ咲夜さん……』

 昔なら、そうやって慰めながら頭をなでてくれただろう。
 だが、今の美鈴からそんな回答が返ってくるはずもなかった。

「何を泣いてるのでしょうか。そんなことよりも、早く仕事に戻られたほうがよいのでは?」

 ごめんね美鈴……。
 もっとあなたの事をいたわるべきだったのに、私が中途半端に優しくしたから……。
 あなたが変わっていなければ、今日は皆でお祝いをしたはずなのに……。
 ごめんさいごめんなさいごめんなさい……。




 パチュリーは連日連夜、図書館で美鈴を元に戻す方法を探していた。
 一度失った心を取り戻すのは、そう簡単なことではない。
 魔理沙に頭を下げ、盗まれた本を全て返してもらいもした。
 しかし、いつまでたってもまともな解決法は見つからない。
 小悪魔が身を心配して休んだらどうかと提案してもそれを聞き入れることは出来ない。

 美鈴をあんなふうにしてしまったのは自分の私だ。
 自分のことを棚に上げ、彼女を攻め立てて追い詰めた私の責任なのだ。
 だからこそ、私が彼女を元に戻さなければいけないんだ……!!


 そして今日も、パチュリーは一日中美鈴を元に戻す方法を探し求めるだろう。




 レミリアは食堂にて、一人寂しく布を持ちながら座っていた。

 本当ならば今日、ここで美鈴の門番就任記念日を祝っていた。
 楽しいパーティーになるはずだった。みんなで美鈴をもみくちゃにしながら、飲んで食べて、そして日頃のお礼を言うはずだった。
 しかし、もうそれは不可能なのだ。今の美鈴には門を守ることだけに存在しているようなものである。そのほかのことには一切興味を示さない。
 命令すれば参加するだろうが、主賓が楽しまないパーティーに何の意味もない。私がもう少し彼女に優しくしてあげれば、こんなことにはならなかった。
 全ては私の責任。彼女の気持ちも考えず、自分のためだけに彼女をいじめた私の責任。

 「ごめんね……ごめんね、美鈴……」

 レミリアはゆっくりと手に持った布に涙を流した。
 それは、本当は今日、食堂に掲げられるはずの横断幕であった。
 そこにはこう書いてある。

 『ありがとう紅美鈴。そしてこれからもよろしく』




 フランドールは地下に篭っていた。

 今の美鈴は遊んでも楽しくなかった。
 確かに頼めば遊んでくれるだろう。
 しかしそれは、実質一人遊びのようなもの。
 心のないものと遊ぶなんて、人形遊びと同じだ。
 いや、傷つかないだけ、人形のほうがまだましである。
 だからフランドールは地下に篭って一人遊びをする。
 昔の美鈴の事を、思い出しながら。




 今日も門を守れた。
 咲夜さんが料理を持ってきたがいらないと断った。
 するとなぜか咲夜さんが泣き出した。
 どうしたのだろうか。
 仕事の邪魔になるので帰ってもらった。
 どうして咲夜さんは泣いていたのだろうか。
 私には分からない。
 なぜ周りが泣き、怒るのかが分からない。
 疑問は私の思考の邪魔をするノイズだ。
 もし次にあの本で強くなれるとしたら、このノイズを取っ払ってくれたらいいのだが。





  • これ美鈴いじめなのか・・・? -- 名無しさん (2009-09-13 19:27:54)
  • 疑問を感じるのなら最後の術は完全じゃなかった、と信じたいね -- 名無しさん (2009-09-13 21:12:34)
  • いいなこれ -- 名無しさん (2009-09-15 00:30:45)
  • レミリアの所で笑っちまう -- 名無しさん (2009-09-15 22:08:43)
  • ら抜き言葉がものすごく気になる -- 名無しさん (2009-09-16 00:25:58)
  • すみません。この作者さんに一言頼みがあります。これ続編作って下さい。美鈴がその後どうなってしまうのか?咲夜達は美鈴をもとに戻せるのか?とかとても気になります。
    お願いします。
    PS, 因みに俺も自己満ではありますが、東方の小説ケータイで書いてます。 -- 名無しさん (2009-10-11 00:37:53)
  • しかし門番を使うのは嘘も方便とかいいながら大事な家族ですとは笑わせる。
    -- 名無しさん (2009-10-11 08:23:32)
  • >しかし門番を使うのは嘘も方便とかいいながら大事な家族ですとは笑わせる。
    創想話でも似たような話がいくつかあるよ。散々な扱いしておきながら「美鈴
    は大事な家族なんだよ」てやつ。家族ならナイフで刺したり食事抜いたりするな -- 名無しさん (2009-10-17 01:39:04)
  • ナイフで刺すのはじゃれたり、軽く頭をはたく程度のレベルだと思ってるし(めーりんは妖怪だし)門番としての役目を果たせなかった罰というのも理解は出来る(食事抜きという罰が妥当なものかどうかは別として)
    だから↑の言う散々な扱いはけっこうほのぼのと見ていられる。
    だから
    >「ご飯を与えて優しくするぐらいでやる気をだすなんて、美鈴らしいというかなんというか」
    >「扱いやすくて助かりますわ。門番がしょげて仕事が出来なかったら駄目ですもの」
    は許せるけど「ごく潰し以外の何者でもない」というのは許せない。
    その後に個人としての評価云々行ってるけど「ごく潰し」というのが個人としての評価なんじゃないのか?と

    作者さんがどう考えてこれを書いたのかはわからないけど、自分はそう思った。
    だからめーりんを必死で治そうとするさくやさんは理解できなかったけど、めーりんの心情はとても理解できると思う。 -- 名無しさん (2009-10-17 02:39:20)
  • 美鈴いじめと思いきやか。

    これはハッピーエンドが見てみたい、でも甘くなっちゃうかな… -- 名無しさん (2009-10-17 07:17:37)
  • ハッピーエンド!ハッピーエンド!を希望!
    続編プリーズ! -- 名無しさん (2009-11-03 11:27:22)
  • ハッピーエンドぉ!?ここはいじめスレさ★
    いじめることで愛でるSSばかりだからそんなの関係なくない? -- 名無しさん (2009-11-03 11:34:33)
  • できればこれで完結がいいな -- 名無しさん (2009-11-04 15:44:48)
  • むしろこれの続きでもっと酷くなるのが見たい
    これを機にどんどん関係がギクシャクしてったり
    落ち込みまくって精神がおかしくなったり -- 名無しさん (2009-11-04 23:55:57)
  • ↑穀潰しってのは一般的な門番だったらそれでしかないど美鈴は家族だよってことだと思う。 -- 名無しさん (2011-07-29 14:10:46)
  • いつ読んでもこの話好きだなぁ -- 名無しさん (2011-08-24 02:51:22)
  • 全部ゴミクズ魔理沙のせいだな -- 名無しさん (2011-08-25 21:44:00)
  • 続編はもっと酷いのがみたいなー -- 名無し (2011-11-26 17:14:56)
  • ↑同意 俺もモットひどいのがみたいぜ -- 名無しさん (2011-11-28 00:18:44)
  • 「チップはもうひとつある」
    美鈴は湖に飛び込み、グッドラックしながら沈んでいった
    -- 名無しさん (2011-12-14 05:27:33)
  • なんかソウル·サクリファイスみたい。代償でそれが一番先に思い付いた。 -- 中学三年生 (2014-04-14 21:26:30)
  • いつもナイフ刺されてるけど、妖怪だからとか 
    関係なしにきついと思うな。門番って大変な仕事だし -- 名無しさん (2016-02-07 22:20:12)
  • こういう精神系めっちゃ好き -- 名無しさん (2016-10-21 10:08:54)
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