※キャラ性格改変注意
※グロ表現あり
「5次元閉曲面上の悪魔」









―あいつだけは許さない―



今、私は薄暗くカビ臭い石造りの廊下を疾走している。
空気はひんやりと冷たいが、その代わり湿度はかなり高い。
汗でシャツがじっとりと背中に張り付いている。


(見つけた!!)
私は足を止め、物陰に身を潜める。

あいつだ・・・
私にとって最も許せないのがあいつだ。
勿論、連中は一人残らず始末するつもりだが、あいつは自分の手で始末しないと気が済まない。

私はあいつの様子を伺いつつ、懐から銀製のナイフを取り出した。
そして深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせる。
1回・・・2回・・・3回・・・


しかしその時・・・

「ねぇ! そこにいるのは誰かしら!?」


気付かれた・・・!
流石は無敵の吸血鬼を名乗るだけのことはある。
そう簡単に不意打ちは出来ないということか。

だが、もう遅い。既にあいつは私の能力の射程内にいる。

「覚悟ッッッ!!!」
私はあいつに飛び掛った。


「こ・・・このっ!!」
私の強襲に対抗しようと、あいつはすかさず弾幕を張る。

しかし、そんなものは私に届かない。
弾は目の前で全て静止した。
私が時間を止めたのだ。


止まった時間の中で弾幕を潜り抜け、逆にあいつに向けて何本ものナイフを投げつけた。


時間が再び動き出す。


「あぁぁ!! うわっぁぁ!!!」

私の投げたナイフは見事、あいつの手足に命中した。
ろくに回避行動も取れてなかったのを見ると、まさか私に襲われるとは思いもしなかったのだろう。

しかし、それがあいつにとって命取りになった。
もう、あいつからの反撃はあり得ない。


その場に倒れこんだあいつの目の前に立つ。

「お前は・・・まさか・・・嘘よね?」

予想通りのつまらない反応だ。
それよりもっと心配するべき事があるだろう。



なるべく早く、そして楽に殺して貰えるよう、泣いて詫びろ。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




ボーン ボーン ボーン ボーン ボーン
紅魔館の地下、広大な図書館に柱時計の音が響き渡る。
今日という一日が終わった。

「結局、何も出来なかったね」
「うん、折角準備していたのにね」

フランとパチュリーがそれを嘆く。


「何よ、文句あるの?」

非難されていると感じたレミリアが不機嫌そうに言った。


「だって今日の為に何日も前から準備してたのよ?
 なのに、よりによってあなたがそれを忘れちゃうなんてね。
 全く、サプライズパーティのつもりがこっちが驚かされたわよ」

「私が咲夜の誕生日パーティに出なくちゃいけない義務でもあったわけ?」

「レミィ? 最初にこの企画のこと話した時、あなた言ったよね?
 『私もやりたい』って。
 てっきり、あなたも協力してくれるものだとばかり・・・」

「お姉様って本当に酷い主君だよね。
 そのうち愛想尽かされるんじゃないの?」

「・・・・・・・・・」



レミリアがここまで言われるのも当然だ。

今日、いや昨日は咲夜が紅魔館に来た日だった。
館の住人達は、その日を記憶の無い咲夜の誕生日だと決めていた。
ちなみにこれで5年目になる。

そこで、そんな咲夜の誕生日を盛大に祝ってやろうとサプライズパーティの話が持ち上がった。
レミリアを含めた全員がその案に賛成。
本人には内緒のまま、その準備は着々と進められていた。
抜かりは無い、筈だった。

しかし当日、肝心のレミリアが館にいなかった。

朝、確かに見かけたのに・・・
美鈴や妖精メイド達がいくら探しても見付からない。
仕事があるのであまり館から離れることも出来ず、時間だけが無駄に過ぎていった。


そのレミリアは神社にいた。
準備を人任せにしていた彼女は、咲夜の誕生日のことをすっかり忘れてしまったのだ。
お忍びで霊夢に会いに行ってしまった。

今日に限って話が弾み、夕食までご馳走され、更には酒盛りまで始まった。
パーティのことを思い出したのは、ほろ酔い気分になった午後の11時。
慌てて帰って来たが、あまりに遅すぎた。

パーティは咲夜が何も知らぬまま中止になっていた。



「そんなにやりたかったなら、私抜きで始めれば良かったのに・・・」

「『レミィはどこかに行っちゃったけど、誕生日おめでとう』とでも言えば良かったの?」

「いや、それは・・・」



「そう言えば、前から聞きたかったんだけど・・・
 咲夜とお姉様の出会いってどんなだったの?」

「え・・・?」
突拍子も無いフランの質問に、レミリアは戸惑った。

「確かに、私も驚いたわよ?
 どこからか人間を拾って来たかと思えば、こいつを雇うとか言い出したから。
 ただの気紛れかと思ったら、意外と本気だったし」


「覚えてない・・・」


「「は・・・?」」


「咲夜を連れてきた日のことは・・・なんか記憶が曖昧なのよ」


「・・・なんだ、もっと咲夜のこと、大事にしているのかと思ってた」
「そんなことも忘れるようじゃ、誕生日を忘れてもしょうがないよね」

「だって、本当に覚えてないのよ! 自分でも変だとは思うけど」

「咲夜も気の毒だよね、こんな薄情な主を持って」

「ああ、分かったわよ! 私は部下を大事にしない嫌な上司! これで満足!?」

「・・・開き直ってどうするのよ?」

「もう寝る・・・」


これはもう、どう言い訳してもレミリアが悪い。
さっさと眠ってしまうことにした。

「来年はお姉様抜きでやるからね」

フランの憎まれ口を無視して、レミリアは図書館を出た。






「お嬢様、戻っていらしたのですか?」
「あ・・・咲夜」

自室まであと少しのところで咲夜と出くわした。

「今までどこにいたのですか? 心配しましたよ?」
「うん、ちょっと神社に・・・」

「お食事はお済みでしょうか? 宜しければ今からでも何か作りますが?」
「ううん、もう霊夢にご馳走になったから・・・ごめん」

「そうですか、ではお休みなさいませ。お嬢様」

そう言って咲夜は去って行った。


咲夜は、昨日が自分の誕生日だったことを覚えていたのだろうか?
今、咲夜は笑顔だったが・・・覚えていなかったとは限らない。

もしも覚えていたのなら、最悪だ。
自分の誕生日だと知っていて・・・誰かに、特に私に祝って貰うのを期待していたとしたら・・・
私はなんて酷い奴なんだろう。

流石のレミリアも、そう反省していた。


(ごめんね咲夜、来年こそは・・・絶対に忘れないから)
それを固く決心して、眠りに就いた。




ただ、『来年』が必ず来る保証なんてどこにも無い。
今の彼女には、それが分からなかった。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




翌朝、重大な事件が館に起きていた。


「お嬢様、是非見て頂きたいものがあるのですが・・・」

レミリアはいつもより早く咲夜に起こされた。
よく分からぬまま着替えをさせられ、朝食も取らずに玄関ホールへと導かれた。



「何よ、この穴は・・・?」
「分かりません。今朝になって突然出来たようです」


玄関ホールの真ん中に穴が空いていた。
大きさは人が一人入れる程だが、かなりの深さがあるらしい。
カンテラで中を照らしても、底は闇に包まれ全く見えない。


「前に神社の近くにも穴が開いたことがあったけど、これもその一種かしら?」
パチュリーはかつてその異変の解決に一枚噛んでいた。

「それは分からないけど・・・間違いない。これは、異変よ!」
レミリアが眼を輝かせてそう言った。



「あの、お嬢様。どうするおつもりですか?」

「決まってるでしょ? 咲夜、中に入って調べてよ」

「え!? 私が・・・ですか?」

「そうよ。まずはあなたが中の様子を探るのよ。
 何かありそうだったら私も入るから」



「・・・私はこの中に入るのには反対です」

「何ですって・・・!?」

部下の反発はレミリアにとって予想外のことだった。



「咲夜、私の言うことが聞けないの?」

「嫌な予感がします。私もお嬢様も、誰もこの穴に入ってはいけません」

「だったらどうするのよ? このまま放っておくの?」

「埋めましょう。それが一番いいと思います」

「駄目よ! そんな事は許さない」

昨日やったことを考えれば咲夜には悪いが、レミリアは一歩も引く気はなかった。
異変が、自分の館に起きているのだ。
こんな面白そうなことは滅多にあることではない。



「パチェ、あなたはどう思う? この中に入るべきかどうか」

「そうね、あまり無防備に入っていくのも考え物だけど・・・やっぱり怪しいわね。
 調べてみる価値はありそうよ」

「うん、虎穴に入らずんば何とやらね。
 だから咲夜、少しでいいから入ってみて。
 そんなに不安なら準備も整えて、美鈴も連れて行っていいから」

「ですが・・・」

それでも咲夜は穴に入ろうとはしたがらなかった。


「しょうがないわね。だったら、私一人で行くよ」

「・・・分かりました、私が入ります」

従者として主にそんな事をさせる訳にはいかない。
遂に咲夜は折れてしまった。






「こ、この中に入るんですか?」

咲夜と同行することになった美鈴もやはり、穴に入るのは嫌そうだった。


「もしかしたら、中に凄くいいものがあるかもしれないわよ?」

「とてもそんな感じはしないのですが・・・」

「いいから、四の五の言わずにさっさと行きなさい」

「はい・・・」

咲夜と同様、美鈴もしぶしぶ従うことになった。


「お嬢様、準備が整いました」
そこへ咲夜が大きな荷物を背負って来た。

二人が穴の中を探索する為の装備・・・
3日分の食料、傷薬、解毒剤、携帯燃料、カンテラ、寝袋、スペルカードなど。
それにパチュリーから貰った魔法アイテムが2つずつ。
例の地霊殿異変の時に使った通信機と、転移魔法用の簡易魔方陣だ。
それらが2人分、2つの袋に入れられている。

咲夜達の使命はあくまで軽い偵察なのだから、十分と言うより逆に多すぎる程の装備だ。
それでもまだ足りないかもしれない、と咲夜は言っていた。



ガチャリ『あー、テステス。聞こえますか?』
『聞こえてるわよ、そっちは?』
『こちらも聞こえてますよ』ガチャリ

パチュリーと美鈴は通信機を耳に当ててそれの動作確認をした。

「良かった、ちゃんと動いているようね。あれから一度も使ってなかったからちょっと心配だったけど」

「それじゃ、私達は地上にいるから。
 これを使って逐一連絡を取りながら進むのよ? 分かった?」

「はい、かしこまりました。では、行って参ります。お嬢様」

「行ってらっしゃい」


遂に地底探索隊が穴の中に入って行った。
レミリアは笑顔でそれを見送った。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




それから1時間後・・・
ガチャリ『咲夜、美鈴、何か見えてきた?』

『いえ、まだ下には何も見えません』

『分かったわ。何かあったら連絡を頂戴』ガチャリ

二人はあれからずっと穴を下っている。
それほど遅いスピードでは無いらしいが、どこまで行っても底に辿りつかない。


「一体どれだけ深いのよ? やっぱりただの穴じゃないみたいね」

「パチェ、何か心当たりとかある?」

「ううん、何も。そう言うレミィは何だと思う? この穴は」

「そうね、行き先は地獄か、地球の裏側・・・あ、もしかしたら・・・」

「もしかしたら?」

「私のご先祖様が趣味で造った大迷路だったりして」

「迷惑な血筋よね、あなたの家系って」



ガチャリ『お嬢様、パチュリー様、聞こえますか!?』

『どうしたの? 咲夜』

『今、底に着きました』

『本当!? そこはどんなところ?』

『迷宮の様です。少なくとも自然に出来たものではありません』

『迷宮? 遺跡か何かなの?』

『それはまだ分かりませんが、何やら嫌な・・・』ガチャリ


咲夜との通信は急に途絶えた。

「ちょっと! 咲夜!? 返事してよ!!」

『・・・・・・・・・』



「パチェ、何でこんないいところで繋がらなくなるのよ?」

「そんな筈はないわ。灼熱地獄跡とだって通信は出来たし、故障もしていない」

「だって、現に咲夜と通信出来てないじゃないの。どうなってるのよ?」

「まさかとは思うけど、妨害電波みたいなものがあるとか・・・」

「全く、当てにならないわね・・・
 もしもし! 聞こえる? 聞こえたら返事してよ!! 咲夜! 美鈴!」



ガチャリ『お嬢様ですか・・・? 美鈴です』
その時、通信機からかなり弱った感じの美鈴の声が返ってきた。

『美鈴!! どうしたの? 何かあった?』


『咲夜さんが・・・死んじゃいました』



「え・・・?」



『美鈴! 何を言ってるのよ? どうして咲夜が死んだの?』

『分かる訳がないじゃないですか。私が見つけた時にはとっくに殺されてたんですよ』

『殺されたって? あなた達、誰かに襲われたの?』

『いえ。ただ、これはどう見ても・・・』ガチャリ

「ちょっと! 美鈴!? もしもし! もしもし!!」
通信は再び途絶えてしまった。



「・・・・・・・・・」

地上、玄関ホールに重い空気が漂い出す。
そこにはレミリア、パチュリーの他に妖精メイド達が何人もいたが、誰もが呆気に取られていた。
軽い冒険ごっこのつもりが、まさかあのメイド長が死ぬなんて。


「咲夜が死んだって、本当かしら?」

「・・・嘘に決まってるわよ」

レミリアはパチュリーの疑問を即否定した。


「どうせ美鈴の早とちりか何かよ。
 幾らなんでも咲夜程の手だれがこんな短時間でやられる訳が無いわ」

「でも、あの子は人間。もし不意を突かれたりしたら・・・」

「それは無いわ。あいつはこの穴のこと、かなり警戒していた。
 それが入ってものの数分でやられると思う?」

「だけど・・・」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・!!!
「な、何よ!?」

その時、館全体に異様な音が響き渡り、激しい揺れが起きた。

「地震!? こんな時に!」

「いえ、違うわレミィ。これはきっと・・・」


 ・・・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
轟音と揺れは一分ほど続いた。


「全く、どうしたのよ? まさかこの穴と関係が・・・って、あれ?
 何か・・・変な感じが・・・」

館が静まり返った後、レミリアは周りの様子が少しだけ変わっていることに気付いた。



「お嬢様! ご報告します!!!」

一人の妖精メイドが玄関ホールに駆け込んで来た。


「たった今、館が縮みました!」

「え・・・!? 縮んだ?」

「はい! その影響で館の被害は甚大、メイド達にも多数の負傷者が出ている模様です!」


「嘘・・・それじゃまるで咲夜が本当に・・・」

咲夜の能力によって紅魔館は実際よりも広くなっていた。
それが突然、本来の広さに戻った。

咲夜が死んだ可能性が高いことを認めなければならなかった。






「で、どうだったの? 図書館は?」

「はい、本は無事です。ですが、図書館自体は酷い有様です。
 片付けるのには相当な労力が・・・」

「それは困ったわね」

「私ももう少しで死ぬところでしたよ・・・」

「ふぅん・・・」

小悪魔は図書館の現状をパチュリーに報告していた。


今、玄関ホールには館の全員が避難している。
その中には怪我人も多い。
皆、迫り来る壁に押し潰れないよう必死で逃げてきたのだ。


「お姉様、凄く怖かったよ・・・
 なんで急にお家が縮んじゃったの?」

「・・・・・・私もよく分からないわよ」

その中にはフランの姿もあった。
寝ているところを、例の轟音と振動に叩き起こされたのだ。
半狂乱になりながらも、何とか逃げ出すことが出来た。


ここはまるで被災地だ。
恐怖のあまり泣き出す者、疲労で気を失うように眠ってしまう者が何人もいる。
精神的に余裕のある者達は怪我人の世話の為に大忙しで駆け回る。

その真ん中には相変わらずあの穴がポッカリと口を空けていた。
今はまるで忘れられているかの様だが。



そして日も沈みかけた頃。

「お嬢様、全ての怪我人の治療が終わりました」

「そう、ご苦労様」

妖精メイドの報告を受けてレミリアは立ち上がった。


「こっちは一段落したみたいだし、私はこれからここに入るわ」

彼女はそう言って例の穴を指差した。


「え・・・!? 何の為にですか?」

「決まってる。穴の調査、それに咲夜と美鈴の救出の為よ」

「レミィ・・・あなた咲夜がまだ生きていると・・・?」

「この眼で確かめるまでは信じない。
 それよりパチェ、あなたは来てくれる? それとも図書館の方で忙しい?」

「・・・私も行くわ。
 咲夜が生きているかどうかは別として、こんなものを放っておく訳には行かない」

「ありがとう・・・パチェ」

「小悪魔、そういうことだから、悪いけど図書館の修理はあなた一人でやってね」

「うぅ・・・分かりましたよ・・・」


「それと、フラン」

「何?」

「あなたも来なさい。きっと何かの役に立つ筈よ」

「いいけど・・・その穴って何? 咲夜達に何があったの?」

「全ては潜りながら話すわ」



咲夜、美鈴に続いてレミリア、パチュリー、フランの3人が穴に入ることになった。
装備は前の二人よりも更に多くなっている。


「行くわよ。覚悟はいいかしら?」

きっと咲夜は生きている。
精一杯、嫌な予感を押し殺しながらレミリアは穴に潜っていった。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




その穴は確かに深かった。
安全を確認しながら進んで行った為に、三人が底に着くまで90分以上も掛かってしまった。



「ここは・・・確かに異様な場所ね」
「こんなもの、一体誰が造ったのやら」

咲夜が言った通り、そこは石造りの迷宮だった。
薄暗いが、所々に蝋燭の明かりが設置されている。
カビ匂くジメっとした空気がとても不快だ。


ガチャリ『あー、あー、あー』

「やっぱり妨害電波みたいなものは無いわね。通信機は問題なく動いている様よ」

「つまり、二人に持たせた通信機が故障したってこと?」

「それしか考えられないわ。皆、一機ずつ持っていて」

「これは故障しないんでしょうね・・・?」


それから転移魔法用の簡易魔方陣をその場にセットした。
これでいつでも入り口に戻ることが出来る筈だ。


「それじゃ、私は向こうを探しているから。レミィとフランはあっちを探してね。」

「分かったわ。十分気を付けてね」

三人は二手に分かれて捜索を始めた。






「それにしても、誰がこんなもの造ったのかしらね?」
「・・・・・・」

「よりによってうちの地下に造るなんて、いい度胸しているじゃないの」
「・・・・・・」

「私に恨みのある誰かの仕業かしら?」
「・・・・・・」

「咲夜が死んだかどうかは別として・・・注意した方がいいわよ、フラン」
「・・・・・・」

「・・・ちょっと、聞いてるの? フラン」
「・・・・・・」

地下に降りておよそ一時間、フランはずっとこんな調子だった。



「やれやれ、何をそんなに怒っているのやら」


「・・・・・・お姉様、一つ聞きたいんだけど」
「どうしたの?」


「お姉様が嫌がる咲夜を無理矢理ここに行かせたんだよね?」
「それが?」


「お姉様のせいで咲夜が死んだのよ」


「何だって?」


「昨日の今日でこれ? 咲夜が可哀想じゃない?」

「私だってこんなことになるとは思っても見なかったわよ」

「お姉様って最低だよね? 誕生日忘れた上に死なせちゃうなんて」

「フラン、怒ってるの? 私が咲夜の言うこと聞かなかったから」

「さあね・・・」



「言っておくけど、まだ咲夜は死んだと決まった訳じゃない」

「・・・そうだといいけどね」



パァァッッン!!

レミリアは妹の頬を思いっきり引っ叩いた。



「お姉様・・・!」
フランは暫く唖然としていたが、やがてその眼に憎悪の炎が宿っていった。



「・・・フラン、手分けして探すわよ。あなたはあっちへ行きなさい」

ちょうどそこで道は二手に分かれていた。
レミリアがその片方を指差している。


「・・・そうね! 私もお姉様なんかと一緒にいたくなかったところよ!」

「まあ、気を付けなさい。あなたが迷子になっても探さないから」

「お姉さまも気を付けてね! 咲夜の亡霊に呪い殺されないように!」


姉妹はそのまま別々の道へ進んでしまった。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「美鈴、起きなさい、美鈴」

「う、うぅぅん・・・」


3人が穴に潜って3時間ほどした頃、パチュリーは壁にもたれ掛かって眠っている美鈴を見つけた。


「パチュリー様? そうか・・・私、あのまま眠って・・・」

「大丈夫なの? 美鈴」


「全然大丈夫じゃないです。
 貰った通信機も魔方陣も使い物にならないし、いつまで経っても出口が見付からないし、
 咲夜さんも死んじゃうし・・・」


「やっぱり、咲夜は・・・」

「パチュリー様、知ってたのですか?」

「ええ、私もレミィと一緒にあなたからの通信を聞いてたから」


「あんなの・・・酷すぎます! 誰が咲夜さんにあんなことを!」


「・・・咲夜が誰に殺されたのか、分からない?」

「はい。ここに来てすぐに咲夜さんとはぐれてしまって・・・
 次に見つけた時にはもう・・・」

「死んでいたのね?」

「私もあの死体が咲夜さんだなんて信じられません。
 だけど、どう考えてもあれは・・・あの死体は・・・う、うぅぅ・・・」

美鈴の声に嗚咽が混じる。
咲夜の末路はそれほどまでに悲惨だったのだろう。



「だけど美鈴、あなただけでも生きていて良かった。
 私の他にレミィとフランも来ている。
 一先ずはあいつ達と合流して、ここから出るわよ。
 もっとも、レミィは咲夜が殺されたなんて信じないかも知れないけど」


「あ・・・そう言えばお嬢様と会いました」

「え!? レミィと?」

「はい。少しの間だけでしたが」

「だったらどうして一緒に行動しないのよ?」

「え、ええ・・・実は・・・はぐれてしまったんです」


「・・・はぐれた?」

「は、はい」

パチュリーの怒りは一瞬にして燃え上がった。



「何やってるのよ!? 人が必死に探してるのに、そんな簡単にはぐれないでよ!」

「す、すみません。ただ、少し眼を離している隙に何時の間にかお嬢様が・・・」

「どれだけ危険な状況なのか、分かってるの!?」

「で、ですけど・・・」

「それだけじゃない。咲夜とはぐれるのも早すぎ!」

「・・・ごめんなさい」

「全く、あなたって人の足引っ張ることに関しては幻想郷一よね」



「・・・パチュリー様、お言葉ですが、
 そんなに危険な所なら、最初から行かせなければ良かったじゃないですか!」

「あ・・・」

「いきなり中に入って調べろなんて、無謀すぎますよ。
 私だってこんな訳の分からないところをずっと一人で彷徨って、凄く怖かったんですよ?
 咲夜さんも、死んじゃうし・・・」


確かに美鈴の言うことにも一理あった。
更に言えば、パチュリーの用意した通信機が殆ど役に立っていないことも事態を悪化させていたのだった。


「ごめんなさい・・・私達が軽率すぎた。
 今回のことで一番迷惑被ったのは咲夜とあなたなのに」


「・・・いえ、やっぱりパチュリー様の言う通りです。
 私が咲夜さんと離れなければこんなことにはならなかったかも・・・
 それに、助けに来てくれたパチュリー様に文句を言う資格は私に無いです」


「でも本当は、もっと早く助けに行くべきだった。
 咲夜を殺した奴にあなたも殺されることだって十分あり得た。
 せめて咲夜が死んだって知ったすぐ後に・・・」



「・・・ちょっと待って下さい、あの通信はお嬢様と一緒に聞いたんですよね?」

「ええ、そうよ」


「それって何かおかしくないでしょうか?」

美鈴はとても不思議そうな顔をした。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「ちょっとパチェ、聞こえる!? 聞こえてたら返事してよ?」

「もしもし! もしもし!」

「問題ないって、パチェが言ったんじゃない! いいから早く返事してよ!」


地下に潜ってから6時間、レミリアの嫌な予感は的中していた。
絶対に大丈夫だと言われて渡された通信機はやはり通じない。
かれこれ1時間近くパチュリーとの会話を試みているが一向に反応が無かった。

更に悪いことに、レミリアはものの見事に迷っていた。
もう自分がどこにいるのかも、どこへ向かっているのかも分からない。
ここまで幾つも残していた筈の目印は根こそぎ無くなっている。
咲夜と美鈴を探すどころか今や彼女自身が迷子、正に典型的なミイラになったミイラ取りだ。

言うまでもなく転移用の魔方陣も動作せず。
レミリアは親友の頼りなさを心の底から呪った。


「うーん、やっぱりフランと分かれたのはまずかったかなぁ?」

どうやらここは想像していたより遥かに大掛かりな大迷宮のようだ。
一度離れたらそう簡単には再会出来そうにはない。
下手をしたら咲夜と美鈴を見つけた後もフランを探して彷徨い続ける羽目になるかも知れぬ。

パチュリーの魔法アイテムが役に立たないことなど容易に想像出来たのだから
あんな下らない喧嘩で離れてしまうなど、今にして思えばとんでもない愚行だった。


「咲夜ぁー! 美鈴ー! 聞こえるー? 聞こえてたら返事してー!」

まあ、それでも過ぎてしまったことはしょうがない。
とりあえず今は咲夜と美鈴の救出に専念することにした。



「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

その時、どこからともなく聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。

「え!? 今の悲鳴は・・・」


「助けて! 助けて! 助けて!!!」

それはこの廊下のT字路になった突き当たり、左の方から聞こえて来る。


それからすぐに、一人の少女がそこを左から右へと走り抜けていった。

「め、美鈴!?」

彼女はレミリアに気が付かなかったが、間違いない。確かに今のは美鈴だった。
しかも明らかに何者かに追われている。
もしかしたら咲夜を殺・・・襲った奴かも知れない。
全く、何と言うタイミングだろうか?

「く、くそ! 待ってなさい、今すぐに・・・」

レミリアは急いで美鈴の救出に向かおうとした。
しかし次の瞬間、美鈴を追って同じくT字路を走り抜ける者の正体を見て、飛び出す力を失った。


「待って! お肉っ!! お肉っっ!!」

それは、眼の異様に血走ったフランだった。


「今のって・・・フラン?」

凄まじいスピードだったが、吸血鬼の動体視力で見間違える筈はない。
まして実の肉親の姿ならなおさらだ。

確かに今、鬼神の如きフランが美鈴を追っていた。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
バァァァン!!!

すると美鈴の断末魔と何かが破裂するような音が廊下に響き渡った。



ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ・・・ぶち、ぶち、ぶち・・・ぐちゃ

次にこのような音がT字路の向こう側、レミリアの死角から聞こえてきた。


「何を、何をしてるのよ? 美鈴に一体何を?」

レミリアは恐る恐る突き当たりへと足を進める。


「ああ、美味しい! 美味しい! 美味しいよ!!」

そんなフランの声が聞こえてきたので、レミリアは軽い眩暈に襲われた。


「美味しいって・・・フラン、あなた何を食べてるの?」

「お肉っ! お肉っ! すっごく美味しい! もっと! もっと食べたい!!」
ぶち、ぶち・・・ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ・・・むしゃ、むしゃ、むしゃ・・・

レミリアの呼びかけにもフランは応えない。
ただフランは何かを噛み千切り咀嚼し、それに舌鼓を打つだけだった。


「幸せぇ・・・美味しくて幸せだよぉぉ・・・」

「フラン・・・?」


レミリアは少し躊躇したが、それでも妹が何をしているのか確かめることを決心した。
そして曲がり角の向こうを覗き込もうとしたその時・・・





「あれー? お嬢様、どうしてここにいるんですか!?」

「へ・・・?」

レミリアが後ろからの声に慌てて振り返ると、そこにいたのは何と美鈴だった。


「あ、もしかして私達を探しに来てくれたんですか? 嬉しいです!」


「美鈴・・・? あなたさっき、ここを通らなかった?」

レミリアがたった今、惨劇があったと思われるT字路を指差した。


「いえ? 通ってませんよ。私はお嬢様の後ろの方から来たんですから」

「だけど今、確かにあなたの悲鳴とフランの声が・・・」

「??? 私は何も言ってないし、何も聞こえませんでしたよ?」

「え・・・? ああ、そう?」


そう言えば、フランの声も謎の音も聞こえなくなっていた。
改めて向こうを覗き込んでみたが、何も無い、何の変哲も無いただの廊下だった。


「あの、お嬢様大丈夫ですか? なんだか様子が変ですよ?」
「・・・まあいいわ、それよりお前が見付かって良かったよ」

何が何やらさっぱり分からぬが、とりあえず美鈴と再会出来たのは確かだ。
今起きた事は忘れることにした。


「やっぱりお嬢様、私のこと探しに来てくれたのですね」
「まあ、あくまでここの調査のついでだけ・・・ああっ、そうだ!!」

レミリアはとても大事なことを思い出した。

「ど、どうしました?」


「咲夜よ! 美鈴、咲夜が誰かに殺されたって・・・本当なの!?」


「ええー!? 咲夜さん、殺されたんですか!!?」


「は・・・?」

「え・・・?」


「美鈴? あなたが言ったんじゃないの、咲夜が死んだって!」


「わ、私そんなこと言ってませんよ!?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・はぁ」
安心したやら、腹が立つやら。
レミリアは全身の力を失いその場に座り込んでしまった。

「全く、少しでも心配した私が馬鹿みたい。
 本当、あなたの報告っていつもそう。嘘、大げさ、紛らわしい」

「そんな、私が冗談でもそんな報告する訳がないじゃないですか?」

「うるさい。とにかく、そうと分かればこんな所に長居は無用よ。
 さっさと皆と合流してここを出るわよ」


レミリアは腰を上げ、美鈴と共に歩き始めた。

「死んでないにしろ咲夜と一緒じゃないってことは、はぐれたのね?」

「あ、はい。ここに来てすぐに・・・」

「使えない部下を持つと苦労するわ。
 いい? これが終わったらただじゃおかない。二人揃ってお仕置きよ」

「そ、そんなぁ・・・」

「当たり前でしょ? どれだけ迷惑かけたと思っているのよ?
 そうね、まず咲夜は1ヶ月仕事を倍に。
 あなたは・・・3日間食事抜きなんてどうかしら?
 ついでに、勤務時間も3時間増やして休憩もなし。
 あ、そうそう。ついでだから二人には湖畔の掃除でもして貰おうかしら?
 もちろん、文句は無いわよね?」



「・・・美鈴?」


レミリアが気付いた時には既に美鈴の姿は消えていた。

「ねぇ! どこ行ったのよ!? 美鈴!」




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5次元閉曲面上の悪魔(中):27スレ588へ続く




  • まさか…CUBEなのか? -- 名無しさん (2009-08-31 11:14:17)
  • なにこれこわい -- 名無しさん (2010-01-28 00:44:15)
  • どういう事なの!? -- 名無しさん (2010-08-16 00:30:58)
  • 新感覚ないぢめだな -- 七な名無し (2010-11-12 22:29:43)
  • 美鈴が複数存在しているように見えるが・・・
    -- 名無しさん (2010-12-04 18:32:23)
  • レミリアめっちゃひどいw
    -- 名無しさん (2011-11-25 17:23:54)
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最終更新:2011年11月25日 17:23