※これは【東方学園~権力~】【東方学園~学力~】と同じ設定ですがどれも単発でみておkです。


【東方学園~教師~】

「慧音先生、さよならー」
「ああ、さようなら」

 幻想郷立東方学園の教師である上白沢慧音は、教え子たちの下校姿を見送っていた。
 彼女は現在小等部の教師であるが、夢はこの学校でもトップレベルの学力を持つ者たちが集まる特待クラスを見て、生徒たちを正しい方向へ導くことであった。

「うーん、みんな元気でいいなあ!このまま小等部の先生でも悪くないかも…いやいや、もっと志は高くもたんとな、うん」

 背筋を伸ばしながら慧音は呟く。
 彼女は教師という職に誇りを持っていた。
 迷える生徒たちにその指針を示す、それが教師の正しいあり方だと信じていた。

「さて、職員室に戻ってテストの採点でもするか!」

 そういって彼女は教室から出て職員室のある高等部の校舎に向かってく。

 ドカッ!!

 そのとき、高等部の校舎裏からまるで何かを殴るような音が聞こえた。

「うん?何の音だ?」

 慧音はほんの興味本位で校舎の裏を覗く。
 そこにあったのは、彼女が最も嫌う光景であった。

「なっ!お前たち、何をやってるんだ!」

 高等部の生徒である藤原妹紅が、鈴仙・U・イナバと因幡てゐによって暴行を受けていた。
 そしてそれを学校に多額の融資をしている八意永琳と関連が深い名家の令嬢、蓬莱山輝夜が普段と変わらないような笑顔を浮かべてみている。

「あらあら、見つかっちゃったわね。イナバ、その程度にしておきなさい、帰るわよ」
「ハイ、姫様」
「待てお前たち!こんなことが許されると思っているのか!」
「さあ、どうかしらね?そこをどきなさい、私はこれから帰るの」
「うわっ!」

 慧音は輝夜たちに突き飛ばされる。
 その場に残ったのは尻餅をついた慧音と殴られた後が痛々しい妹紅だけであった。

「だ、大丈夫…なわけないな、今すぐ病院に」
「…いいえ結構です、私もこれから帰りますのでそれでは」

 妹紅はまるで何も無かったかのように立ち上がり、去っていこうとする。

「お、おい!そんな子と言われたって放っておけるわけが、」
「いいから!関わらないでほしいって言うのが分からないの!」
「うっ!」

 慧音はその気迫に押され口ごもってしまう。
 その間に妹紅は立ち去ってしまった。
 何故だ、何故、助けを求めないのだろう?
 そうだ、きっと生徒間の問題だから、教師が関わるのが嫌なのだろう。
 でも、それでも放っておくわけにはいかない。
 教師は生徒を助けるものなんだから。



「八坂先生、妹紅ってどんな生徒なんですか?」
「ふぇ?妹紅かい?ちょっと男勝りなところ意外はいたって普通だけど?」

 慧音は妹紅のクラスの担任である八坂神奈子に妹紅のことについて聞いていた。
 一体彼女はどんな生徒なのか気になったが、どうやら大した情報は得られないようだ。

「どうしてそんなこと聞くんだい?」
「いえ、実は…」

 慧音は先ほど見たことを説明する。

「ふぅん、生徒間のことなんだから深入りすることはないでしょ、それに上白沢先生は小等部の担任だし」
「何言ってるんですか!困ってる生徒がいたら助けるのが当たり前でしょう!」

 慧音は思わず熱くなったが、神奈子はまったく態度を崩していない、むしろ冷め切った目で慧音を見ていた。

「…上白沢先生、それ、本気で言ってるのかい?」
「当たり前でしょう!」

 神奈子はその言葉を聴くと、すっかりあきれきった様子で彼女を見つめ、言った。

「…そうかい。ま、そういうことにしておこう。一応忠告しておくけど、藪を突付いて蛇を出すことはないようにね」
「それはどういうことですか」
「さあ、どうだろうねぇ?少なくとも、ここじゃ賢く生きろってこと。それじゃあね」

 そういって神奈子は職員室を出て行く。
 そして慧音が神奈子の言ったことを理解するのは、すぐのことであった。



 数日後、慧音は高等部の廊下を歩いていた。
 あの日以来、慧音は何度か妹紅に接触を試みるが、まったくもって相手にされなかった。
 今日こそは、そう思い慧音は高等部の廊下を歩いていたのだが、

「…いないなぁ」

 その探す対象がまったく見つからない。
 一体どこにいるのやら。
 もう帰ってしまったのだろうか?
 そして、仕方ないと諦めて帰ろうとしたとき、

「…?あれは、てゐ?」

 慧音は普段は空いていない理科実験室にてゐが入っていくのを見かけた。
 なにやら嫌な予感がし、その教室を覗いてみると、

 優曇華が、なにやらビーカーに入った液体を持って、拘束された妹紅を追い詰めている。

 理科実験室

 ビーカー

 液体

 もしかして、

「待て!そのビーカーの液体は何だ!」
「あら慧音先生、また会いましたね」
「そんなことはどうでもいい!もしかしてそのビーカーに入ってるのは劇薬じゃないのか!?」
「さあ、どうかしら?今から妹紅にかければ分かることよ」

 輝夜がそういうと優曇華が妹紅の頭上でビーカーを傾ける。
 妹紅はこちらを見つめている。
 何故だ。
 何故私は今すぐ止めさせなければいけないのに、動き出そうとしないんだ?
 あのビーカーを奪えばいい話なのに。
 恐らく妹紅だってそれを望んでいるはずなのに。


 もしかして私は、生徒より、自分の身の安全を優先しているのか?


 そうこうしているうちに、妹紅に液体が掛けられ、そして、




















 何も起こらなかった。

「残念でしたぁ~、これはただの水でしたぁ~」

 てゐが悪びれた様子もなく言う。
 続けて輝夜が言う。

「先生、私最初にあったときから分かってたんだよ?先生が嘘つきだって」
「嘘…つき…?」
「ええどうよ。生徒のためといいながら、実は自分のことしか考えていない。自分がよければそれでいいと思ってる」
「そ、そんな…こと…」
「じゃあ何故、さっきビーカーを奪い取らずにただ見ていたのかしら?やろうと思えばいつでも参加できたのに、何故かしらね」
「それ…は…」
「先生の優しさはね、欺瞞なのよ。自分の行為を正当化するかめに自分についている、それはそれは優しい嘘。でも、つらいでしょ?いい加減、正直になったら?」

 そう言うと輝夜たちはくすくすと笑いながら教室を出て行く。
 取り残された慧音は、近くにいた妹紅に思わず手を伸ばしていた。

「ち、違うんだ妹紅…あいつらの言ってることは、全然…」
「もう止めてよ。そういう中途半端な態度で私に関わらないで」

 妹紅は吐き捨てるように慧音に言い放つと、彼女も足早に教室から出て行ってしまった。

「違う…私は、生徒のために…」

 床にうな垂れた慧音は、何度も自分にそう言い聞かせるとまるで夢遊病者のように歩き始める。
 そしていつの間にか校門前。

 今日はもう帰ろう…

 そう思い校門から出ようとしたときであった。

「待ちなさい、上白沢慧音」
「えっ…?」

 慧音を呼び止めた人物、それは、輝夜の実質的な後ろ盾、八意永琳であった。

「なぜ、あなたがここに…?まさか輝夜が」
「残念ながら少し違うわ。確かに輝夜がらみの話だけど、彼女が私に頼んだんじゃない。あくまで私が“偶然”聞いて独断で動いただけ」
「…それで、一体私に何のようだ」
「これ以上、輝夜に関わらないで」
「どういうことだ…?」
「彼女はね、その家柄から人の上にたつよう育てられてきた、だから普通の人との接し方を知らないの。彼女自身はとても可哀想な子なのよ。ね、だからお願い。彼女のしていることに口を出さないで上げて」
「そ、そんなこといったって…!」
「あら、大丈夫よ。ちゃんとあなたにも『お礼』はさせていただくわ。」
「お礼?」

 本当なら「そんなものいらない!」と叫び押し通るべきなのに、体が動かない。
 先ほどの輝夜たちの言葉を思い出す。
 私は恐らく、彼女の言う『お礼』に期待しているのかもしれない。
 例え、それが許されないことだと分かっていても。

 なるほど、藪を突付いたら本当に蛇が出てきた。
 そしてその蛇は、今私に、知恵の実をかじれと誘っているのだ。

「簡単な話よ、あなた、特進クラスの担任になりたいんでしょう?なんせあそこの担任ともなると、給料としてもキャリアとしても段違いだものね」
「な、なぜそんなことを…!」
「さあ、壁に耳あり、障子に目あり、といったところね。ねえ、私なら、あなたを特進の担任にすることが出来る、それに、そのほかにちょっぴり私の感謝の気持ちをあげる」

 そういって永琳は手元に小切手をふってきた。
 よく見えないが、少なくとも0が6~7個は付いていた気がするのだ。
 思わず私は、唾を飲み込む。

「ね、簡単な話でしょう?」
「…ああ、悪くない」

 先ほどの話で心が弱っているのか、本来はしてはいけないような発言までしている。

 奴に何かされてしまったのだろうか?
 それともこれがやはり、私の本心なのだろうか?

「物分りのいい人ね、これは前金、ゆっくり考えてね」

 そういいながら永琳は私に小切手を握らせる。

 私はなぜこれを手放さないのか。
 何故これを破ろうとしないのか。
 私は、私は…



 ~翌年~



「先生、さようなら」
「ああ、さようなら」

 慧音は今、特進クラスでも担任を行っている。
 夢だった特進クラスの担任、それも、あの日永琳の誘いに乗ったおかげである。
 きりきりとした様子で廊下を歩いていると、ふと妙な音が聞こえた。

 まるで誰かが誰かを蹴り飛ばしているような音。

 それを何かと思い音のする興味本位で見てみると、アリス・マーガトロイドが、レミリア・スカーレットとその取り巻きに暴行を受けていた。
 その光景を見ると、慧音は静かにその場に現れる。

「…慧音先生」
「やあ、レミリア。どうしたんだ、こんなところで」
「何を白々しい、分かってるくせに」
「さあ、私は忘れっぽいかあぁ」
「分かったわよ…咲夜」
「はい、お嬢様」

 すると咲夜はどこからか財布を持ち出し、札束を慧音の懐に入れていく。
 慧音はそれを見て満足そうな笑みを浮かべる。
 すると、

「いや~、本当に物忘れが激しくなったものだ。一体何があったかすっかり忘れてしまったよ」
「もう、先生たら忘れっぽいんですから、うっかりは気をつけてくださいよ」

 レミリアのその言葉に、アリスを除く全員が笑い出す。
 アリスはまるで汚い虫でも見るような目で慧音を見る。
 しかし慧音はお構いなしで、さくさくと部屋から出て行ってしまった。

「おらぁ!何してんだよ、気持ち悪いんだよ!」
「…っ!!」

 そのような声がしてしても、聞こえなかったように。


「うん、時にはいいこづかい稼ぎね。」

 慧音はポケットに詰められたお金を出して金額を数えている。
 このようなケースは実に多い。
 そのたびに、慧音はこのように口止め料として、私服を肥やしていた。
 慧音は金額を数え終えると、思わず笑みを浮かべる。

 やはり、家柄が違うと払われる金額も気前が良くていい。
 しかしさっきのアリスの態度、いつだかの妹紅の顔を思い出す。

 …大丈夫、私は正しい選択をしたんだ。
 間違っているはずは、ない。
 ほら、地位だって名声だってお金だって簡単に手にはいるじゃないか!


 …でも、どうして私は、泣いているのだろう。
 一体何が悔しいのだろうか。
 一体何が苦しいのだろうか。
 あの頃と比べて、いろいろなものを手に入れたはずなのに。
 どうして、どうして、どうして。


「うっ、ううう…私は、私はっ…!」


 本当に、この選択でよかったのだろうか?
 地位や金に固執し、他の何か大切なものを、失ってしまったのではないか?
 しかしそれが分からない。
 何を失ったか、分からない。

 今出来るのは、ただひたすら、泣くだけであった。






  • これもう上がってなかったっけ? -- 名無しさん (2009-07-26 17:56:56)
  • あるな。なぜか「その他」に分類されてるが・・・ -- 名無しさん (2009-07-26 18:16:20)
  • それは多分、このシリーズの物を全て同じ場所に置くためだろ -- 名無しさん (2009-07-27 18:36:32)
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