小野塚 小町は局にいた。
仕事の報告の為に上司の四季映姫の所へ出向き、その勤務態度についてこっ酷く叱られたばかりである。

廊下を歩く小町の足は、とても忙しない。早くここを出たいと言わんばかりに。
仕事をサボってばかりの小町が、業績最下位ダントツなのは当然だ。
長い説教を聴き終え、ため息をつく。

「 なんかあたいの事を「やれば出来る死神」 とか言ってる奴もいるらしいけど… 勝手な事言わないでほしいよホント 」

頑張って仕事して、やっと並の死神に追いつけるかどうか。

当然そんな者が、同じ死神達の職場で居場所を与えられる筈が無い。
マイペースに仕事をしていては、並の死神と比べるのが失礼な程の差が出てきてしまう。
一生懸命仕事をしてもロクに成績が上がらず、回りから孤立した状況は話好きで明るい小町には厳しい環境だった。
結果として他に担当する死神のいない、雑用に等しい船渡しの仕事を押し付けられ
誰もいない船付き場で、喋らぬ魂を相手に独り言のような会話を繰り返す破目になった。

話し相手のいない場所は、居場所の無い職場よりも辛いものであった。
小町はそんな寂しさを紛らわす為に昼寝をして時が過ぎるのを待ったり、上司が叱りに来るのを待ったり、
時には話相手を求めて幻想郷に下りていったりもした。


「 あたいだって駄目な事って解ってんだけど、どーにもね… 」


何とかしなくてはいけない。このままでは駄目だ。
人に言われずとも、頭で理解していても、それを直す術が中々出てこない。人間にもそんな者は多いんじゃないだろうか。
しかし、仕事がデキる訳でもなくサボってばかりの落ちこぼれには総じてロクな事が巡ってはこない。


「 よぉッ 小町 」
「 あっれー? 仕事中じゃないの、お前 」
「 またおサボリですかァー? いやーやっぱ仕事の出来る奴は違うねェ 」

図体の大きなガラの悪い死神が3人、小町に大きな声を向ける。
びくりと体を震わせると、下手な愛想笑いを浮かべて顔を向けた。

「 いや…仕事はもう済んだからさ。報告に… 」
「 えー? 本当ですかァー? 」
「 サボってる奴はすぐ嘘吐くからなァーッ 」

一人が小町の肩を掴むと、残りの二人も周りを囲んだ。

「 いや本当だって…… ちょ、もうあたい帰るからさ、離して… 」

こういう相手も出てきたりする。さっさと外に出てやり過ごそうとした、一番会いたくない三人に出会った事に狼狽する。
弱々しくもがき、手を振り払った小町を、通せんぼする様に二人が立ち塞がる。
人間に比べれば腕力のある小町だが、同種族の敏腕死神に比べれば非力なものだ。

「 オイオイオイオイ、何逃げようとしてんだよォ~ 」
「 お前がサボってるせいで同じ担当区の俺らの業績にまで影響出るんだよッ! 」
「 只でさえ他の担当区の方が仕事量も多いってのに、大迷惑だボケッ!! 」

小町の頭を強引に掴むと、勢いよく地面に引き倒した。

「 うぁっ……!  …いや、ごめんよほんと… 勘弁しとくれよ 」

相手の腕力が強い事もあるが、何より言い分は正しいのだ。
言い返す事も抵抗する事も出来ず、ただ許しを請うばかり。

「 毎回毎回同じ事ばっかり言いやがって、閻魔様からも注意受けてる癖に 」
「 だいたいなんでお前みたいなのがクビにならないんだ? あの方、公明正大って言ってる割にはこれ、贔屓って奴じゃないのォー? 」
「 全くだ。 俺達が同じ事やったらまずクビは間違いないだろうによォーッ どうやって閻魔様を口説いたんだ? 教えてくれよ 」

小町の目の色が変わる。 自分の事だけでなく、映姫の陰口まで叩いた事に怒りを感じたのだ。
ゲラゲラと下品な笑いを浮かべる死神達に、小町は飛び掛った。

「 っ… 四季様の事を悪く言うな! 」

死神の肩に掴みかかったが、その直後に小町の全身に衝撃が走り、廊下の壁に背中を打ちつけた。
何が起こったか解らずにズルズルと崩れ落ちる最中、腹部に激痛が走った。
どうやら腹を蹴り飛ばされたらしい。

「 うぅっ…… ぐ……! がは…っ 」

立ち上がる事も出来ず、蹲る小町に悪態を付き、唾を吐くと

「 逆ギレしてんじゃねーよ 」
「 オラ立てよッ! 」

ツインテールの片方を乱暴に掴むと、勢いよく引っ張りあげた。

「 あぁっ! うぅ…! 」

強引に立たせた小町の体を、もう一人の死神が持っていた鎌の柄で何度も殴りつける。

「 痛っ…!! きゃん! や、やめて… あぅっ ぐぅぅ…! 」

再び床に倒れ、頭を抑えて丸くなる小町を、三人は何度も柄で殴り、突き、蹴りつけた。

「 ったく、何やったって死なないのは残念でしょうがないぜ! 」
「 あーあー、新品の服なのに思いっきり掴みやがってよォー。シワになっちまったじゃねーか 」
「 もうちょっと激しくヤキ入れておくか 」

突然抵抗された事に苛立った死神達は、未だに気が済んでいないようだった。
鎌の刃を小町の手の平の上に突きつけた。

「 っく…な、何する気… 」
「しばらく船漕げない手にしてやるよ、そしたら流石にお前もクビになるだろ 」
「 よかったな! 永久に休日だ!! 」

三人が笑うと、小町の体と手を二人が押し付けた。
手に鎌を突き刺すつもりらしい。

「 うぁっ…!! やだ、やめとくれよ、洒落にならないってば!! やめてってば!! 」

目に涙を浮かべながら暴れるも、腕力で勝っている死神二人に押さえつけられてはどうにもならない。
鎌が振り下ろされる瞬間


「 何をやってるの貴方達は!! 」


聞くに堪えない程大きな叫び声が、廊下に響き渡る。

「 ゲェッ! 」
「 うわ、閻魔様! 」

映姫がこちらに向かっていた。
廊下を広い歩幅、かつ早足で進み、遠くから写る姿にも怒りと威圧がハッキリと感じられる。

「 ……う 」

小町が泣きそうな顔を上げる。
回りの死神は慌てふためき、必死に言い訳を述べる。

「 いや、違うんですよォーッ これはちょっと はい 」
「 そ、そうなんですよ。こいつが、小野塚クンが不真面目なものでちょっと 」
「 私的に制裁を加えた、と…言う訳ね 」

ギロリと細い目を光らせると、三人は黙ってしまった。

「 要するに、小町の罪を裁いていた、と言いたいのね。 …断罪者気取り? 私を差し置いて、貴方達も偉くなったものね 」
「 申し訳ありません… 」

ペコペコと頭を垂れる死神達。

「 それで、貴方達は私に聞きたい事があるんじゃないのかしら? 」
「 は…? 」
「 小町がどうやって、私を口説いたとかどうとか… 」
「 い、いやッ!! それは断じてその 」
「 言い訳など聞きたくはありません!! さっさと仕事に戻りなさい!! 」

三人の死神は閻魔の怒気に怯え、謝りながら早々に去っていった。



「 し、四季様… 」
「 小町 」

ほら、 と映姫は倒れた小町に手を伸ばす。

「 う…… っ 」

その手を小町が掴むと、立ち上がる前にぼろぼろと涙が零れ落ちた。

「 しっかりしなさい 」

やれやれ、と映姫は小町の体を抱き上げ、姿勢を正させた。
小町の服に付いた汚れを手で払う。

「 ううぅぅぅ…っ えぐ、しきざま…… うぇぇぇん…! 」

自分の惨めさと、助けてくれた映姫への感謝から小町は感情を抑えられずに大泣きした。
映姫は呆れる訳でもなく、同情する訳でもなく、
ふっ と笑顔を向けた。

「 大丈夫? 」
「 っ…はい… はい… 」

何度も縦に首を振る。

「 随分とこっ酷くやられたわね 」
「 あたい…… 駄目な死神ですから 」

悲しげに泣き笑いを見せる。

「 いいえ、貴女はやれば出来る死神よ 」
「 …… 」

四季様がそんな事言い出すとは。 やれば出来る… 
あまり聞きたい言葉ではなかった。

「 …買い被り過ぎですよ。 あたいの本気なんて、他の皆より全然 」
「 違うの小町。 他の者より実力が多少低くたって、そこで頑張る事を止めてしまっては駄目なの 」
「 … 」
「 成せば成る。 けど、成さなければ絶対に何も成らないの。数多の人生を見てきた私が保障してあげる。 
  挫けず、学んでいけば、貴女はやれば出来る子だ と。 この現状は、貴女にも原因があるのです。
  諦めとは、即ち『明らめる』事。 絶望し、立ち上がる事を止めてしまう事は… 正しい諦めではありません。

  …判る? 小町」
「 … 」
「 私は公明正大が故に、貴女を特別に扱ったりはしません。 …でも、私は公明正大が故に、貴女を絶対に蔑んだりはしないわ 」

昂ぶっていた小町の感情は、映姫の言葉に落ち着きを取り戻していた。 しかし、その目からは涙は止まらない。

「 寂しい時は、話し相手くらいにはなってあげるから。 ね? 」

小町は映姫の胸に顔を埋めた。映姫は小町の頭を そっ と抱きしめる。


「 貴女も、もっと勉強しないとね 」
「 明日から… ちょいとだけ頑張ってみます 」
「 ちょっとじゃなくてちゃんと頑張る事!! 」

泣き笑いで微笑む小町を、映姫はポカリと悔悟の棒で叩いた。































「 ……何のつもりです? 」

局のとある部屋の片隅で、映姫は二人の大柄な閻魔に詰め寄られていた。

「 何のつもりですぅ? だとさ 」
「 いやはや、偏狭の担当区の方は、やはり態度も大物ですな 」

胸倉を掴まれ、映姫の体が浮きそうになる

「 く……っ 」

苦しそうに呻く映姫に、閻魔が敵意を現し睨み付ける。
映姫は首を締め上げられる事よりも、その黒い感情を同じ閻魔が出している事に顔を顰めた。

「 お宅の担当区がキッチリ業績出してくんないとねぇ、こっちも困るんですよねぇ 」
「 けほっ… 何を、言い出すかと思えば… 」

二人は幻想郷の存在する場所、その周囲である外の担当区の閻魔だった。
広い土地を一人二人のシフトでは限界がある故、閻魔は一つの土地でも幾人に分かれて担当する。 
多くの閻魔がその土地で働いているが、閻魔の給料や成績はその土地全域によって決まる。
よって、同じ区域で働く閻魔一人一人の成績が全体の評価に関わってくるのだ。

「 仕方が無いでしょう? 幻想郷は… 元より人口が少ないんですから。私の裁く量が少ないのは必然で… 」
「 おやおや、閻魔が言い訳とは感心しませんな 」
「 …何の、事です? 」

映姫は隠し事など毛頭する気は無かった。 が、すぐに相手が何を言いたいのかを悟った。

「 お宅の死神だよ。 船渡しのポジションがサボってちゃ、裁く魂がいないのも当然ですねぇ 」
「 それは…… 小町には、私の方からしっかりと 」
「 しっかりと何だァ!? 以前から全然改善されて無いだろうがッ!! 」

突然大声を上げると、閻魔は映姫の頬を引っ叩いた

「 あうっ…!! 」

よろめく映姫を強引に立たせ、怒鳴りつける

「 ったく、こっちの担当区はクソ忙しい上にどいつもこいつも身勝手な人間ばかり裁いてストレス溜まるってのに 」
「 お前のお陰でこっちの給料にも影響が出る! 楽なトコを担当してる堕ちこぼれが、足引っ張るなッ!! 」

じんじんと熱を帯びる頬の痛みに、映姫は屈する事無く鋭い視線を向け、閻魔に問う。

「 …貴方達は、一体何を想い… 人を裁くのです? 」
「 あ!? 」
「 仕事だから、だッ! 働かないと金が入らんだろうが! 」

「 ……。  そう、ですか…… 」

映姫は、悲しそうな目をして顔を俯ける。

四季映姫は閻魔としては「不良」である。
善行を説いて回るお節介さから、真面目な優等生かと死神にも思われていたが
本来彼岸の審判者が、此岸に顔を出し、裁きの対象と関わる事自体が閻魔から見て褒められた事では無いのだ。

映姫自身もその事を理解している。故に、冥界の庭師に似たような説教を垂れた事もある。
映姫はそのお節介な性格故に幻想郷という偏狭に左遷されてしまったのだ。
閻魔の仲間内でも評判は悪く、人口の少ない幻想郷の為、今回のように成績の事で他の閻魔に絡まれる事も珍しくはない。

映姫は幻想郷を担当する前に、この二人の閻魔が「 人の為 」という理念の元に働く事を志していた、
閻魔として優しく、誇り高い姿だった頃を思い出し、心を痛めた。


「 金の為……。 昔は良かった などと言うつもりはありません。ですが、貴方達は… 」
「 今はこっちが説教してる側だろうがッ!! 」

話を途中で切られ、鳩尾に膝蹴りを叩き込まれる。

「 ぐぅ…!! う……かは…っ 」
「 その説教癖も、これで少しは身を潜めるかね 」

がくりと膝を付き、呼吸が出来ず咳き込む映姫。

「 おい、そろそろ行こうや 」
「 あぁ… っち、誰かさんのおかげで酒を買う金も無いけどな。  次の査定で足引っ張ったら銅飲ませるくらいじゃ済まさんぞ 」

閻魔二人が財布の中身に不満を言いながら去っていく背を、映姫は苦しそうな、どこか哀しげな顔で見つめていた。



多くの人生を見ている内に、人間に愛想を尽かしてしまう閻魔もいる。
身勝手な生き方ばかりしている人間の為に働く事を、馬鹿らしく思ってしまう閻魔も多い。
外の人間には総じてそういった罪深い者が多かった。 彼らも、言わば心を病んでしまった閻魔なのだろう。

負の感情は伝染する。
争いの火種となり、欲を生み、憎しみを繋げ、誤審を誘い、気を鬱がせる。
悟りを開いた天人や閻魔、菩薩にさえも穢れた念を芽生えさせる。

「 ……私は、飲まれないわ… 決して… 」

よろよろと体を起こし、担当区・幻想郷へと向かう。
最早閻魔達の職場も、死神に誇れるような職場では… いや、私も小町に論している場合では無いか。
そんな考えが頭に浮かんだが、映姫は自嘲的な自分の思考に はっ として、両手で顔を叩き、鬱ぎかけた自分の気を正し、歩みだした。
















  • 映姫様かっこいいな -- 名無しさん (2009-06-12 20:02:56)
  • いぢめられるこまっちゃんも映姫さまもかわいいなぁ -- 名無しさん (2009-06-15 21:32:50)
  • 台詞からみて、作者がジョジョ好きっぽい。 -- 名無しさん (2009-09-22 21:41:53)
  • 小町「ふんッ!クソ四季様。悲しむ……と…思うか?あんたねこと………やられちまってヨオオオオオオ。あんたはすごく頭もよくて…私を叱ってくれるし、公正な判断力もある。そんでカリスマもある。だからアンタについて行けば安心と…思っていた…。」
    小町「でも弱いじゃねぇかヨオォォけちまったんじゃあヨオォォォォォォォォもうそんなカス、好きじゃなくなったんだヨッ!ぜーんぜんネェェェェッ!」 -- 名無しさん (2010-04-06 20:44:50)
  • 何言ってるん -- 名無しさん (2010-04-08 01:01:29)
  • ↑↑こ、こいつは危険だッ! 必ず暴走する!! -- 名無しさん (2014-07-22 21:59:30)
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