文々。新聞の紙面をリニューアルした文。

主張し過ぎない程度の表現で、かつなるべく分かりやすいように心がけ、

丁寧に丁寧に、そしてついに新しい文々。新聞が完成しました。

ただどうにも一味足りないと思っていた矢先、ばったり椛と遭遇。

そうだ、せっかくだから椛に4コマ漫画を書かせて載せちゃおう!

その日のうちにすぐ原稿を書かせ、次の日から新生文々。新聞を配り始めました。





文が思っていた以上に新聞の評判はよく、お便りもよく届くようになりました。

中には4コマ漫画の単行本化希望!なんてのもあり、せっかくなので

おまけ冊子という形で、新聞購入者にサービスで無料配布してみました。

これがまた幻想郷の中ですごいプレミアがつき、お便りとともに新聞の購入希望が殺到し、

このままでは印刷が間に合わないということで、河童に小さな印刷所を作ってもらいました。

新聞は毎週作るようになり、当然配達は間に合わないので、暇そうな妖怪を配達員として雇いました。

さらに椛に紙面三面を使わせ、4コマとともにもう一本、ストーリ仕立てで書いてもらうことにしました。






やがて、文々。新聞は日刊になりました。

いまや文々。新聞を読んでないやつはモグリとまで言われるようになり、

大天狗様から山の神様、麓の巫女までもが楽しみにしているとのことで、

幻想郷中が文々。新聞に熱狂するようになりました。

配達ではもう間に合わないので、人里付近に販売所をつくり、売られることになりました。

もう取材なんかしてる暇もないので、取材員を雇いました。

さらに記事なんか書いていられないので、編集部員を雇いました。

そのころには椛だけでなく、他の白狼天狗も漫画原稿を書くようになっており、

そのページ数は100を超えるほどになりました。







まここまでくるともはや新聞ではありません。気づいた雇われ編集長は決断しました。

"新聞部門と、漫画部門は切り離す"、と。

新聞部門の編集長は、現編集長がそのまま引継ぎ、

漫画部門の編集長は、長年携わっていた椛が就くことになりました。

最高取締役には当然、これまた長年取り仕切ってきた現編集長が兼務することとなり、

文々。新聞社は社名を改め、幻想郷出版社として新しいスタートを切りました。

幻想郷の出版業界は、永くこの一社が独占することとなります。






創業者の一員として隅っこに名前が載っている「写命丸 文」は、現在では妖怪の山の哨戒任務を行っています。

白狼天狗のその多くが出版社に入ったため、その代わりとして

すばしっこく、力もそこそこ強い鴉天狗が、大天狗様の命により、任に当たることとなりました。







現在の文は、ときおり大天狗にお金を渡しては仕事をサボっていました。

そのサボる口実が、"自分で新聞を作る為"らしいのですが、その新聞をついぞ見たことがありません。

実際には、自室で昼間から酒を飲む生活が続いているようでした。

過去の栄光にすがり酒におぼれてしまった文は、すでにペンを持てる体ではないのでした。






少しの間ですが、過去、文は間違いなく幻想郷の支配者でした。

自分の一筆、自分の一言しだいでいくらでも幻想郷を動かせる、そんな時代が確かにありました。

お金も女も地位も、そのすべてを手に入れていました。

そのときの生活のレベルが今でも落とせなく、ときおり幻想郷出版社に出入りし、

かつての部下だった椛にお金を無心する姿がありました。

椛も、元は尊敬し、慕っていた上司、また創業者としての文の願いを断るわけにもいかず、

そこそこの額を包んでは帰ってもらっていましたが、それがいつまでも続くとなると、いくら過去があっても限界があります。

ついに椛は決意しました。

「現在、あなたは天狗のなかで一番位の低い鴉天狗。その鴉天狗が我々白狼天狗にいつまでも金を無心するとは何事か。
 二度と我が社の敷居をまたぐことを禁ずる。哨戒任務に戻り、自らの職務を全うすべし。」

昔の誇り高い文に戻って欲しい、また新聞を書いて欲しい、という一念で、文との決別を決め、伝えました。

その思いは伝わったのか、文はあっさりと引き下がりました。

「いままで申し訳ありませんでした、椛…様。今後、己の分を知り、職務を全うしたいと思います。」

椛は、後姿が見えなくなるまで頭を下げ、見送りました。

いつかまた気高い姿を見せていただけますようにと、思いをこめて…。







自室に戻った文は、部屋にある酒のすべてを捨て、今までに欠かさず購入していた新聞と雑誌のすべてを焼き払い、

またその他物品のすべてを処分し、部屋を引き払いました。

妖怪の山を一回りし、人里を眺め、太陽の畑、魔法の森、迷いの竹林、紅魔館を通り過ぎ、博麗神社を一瞥し、

天界、冥界、なんと地底まで尋ね、幻想郷のすべてを巡り、…やがて無縁塚までやってきました。

近くには誰もいません、死神も、妖精の姿すら見えません。本当に静かです。



以前見た大きな桜の木の根元、捨てられず持ってきてしまった手帳を埋めました。

同じく、持ってきてしまったペン、持つと手がぶるぶる震えます。

その震えがなぜか可笑しく、つい笑ってしまいました。笑いすぎて涙まで出てきてしまいました。

出てきたはいいのですが、止まりません。全然止まらないのです。



だからしょうがないので、ペンを両手でしっかりと握って、自分の喉に思いっきり打ちこみました。

そのまま引っこ抜いて、結構血は出ましたが、きにせず今度は左胸に深く深く。

でも、笑いは止まりませんでした。声は出ませんが、可笑しくて可笑しくてしょうがないのです。

大の字に寝転がって、だんだん景色が暗くなってきて、それでも、笑い続けました。

目の前はもう真っ暗なのですが、なぜか、出来上がった新聞とそれを見て喜ぶ椛の姿が、ずっと見えていて、それがまた幸せそうで、

とても、幸せそう、で―――。












































  • 新聞の隅に小さく『元幻想郷出版社編集長、射命丸文、自害』という記事が載ったが、次の日にはそれを覚えている者は誰一人としていなかった。 -- 名無しさん (2009-09-22 18:40:37)
  • 少なくとも椛は記憶し続けるはずさ
    残されたもみもみがこの後どうなるか考えるとゾクゾクするんだぜ -- 名無しさん (2009-09-22 19:46:02)
  • 泣けたよ、正直に -- 名無しさん (2010-08-22 02:46:15)
  • わざとなのかどうか分からないけど、
    名前が載っている「写命丸 文」は
    って、
    名前が載っている「射命丸 文」は
    の間違いかと。
    -- 名無しさん (2010-11-26 09:43:56)
  • わざとじゃない? -- 鳥 (2010-11-26 10:00:37)
  • 偽名か -- 名無しさん (2010-11-26 18:51:56)
  • ペンネームみたいなもの? -- 名無しさん (2010-11-27 07:09:25)
  • >お金も「女も」地位も、そのすべてを手に入れていました。


    このSSの文は百合だったのかwww -- 名無しさん (2011-04-21 18:19:48)
  • ↑なんという俺得 -- 名無しさん (2011-04-30 06:44:03)
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最終更新:2011年04月30日 06:44