「今日も豆腐か」

夕食の用意をしながら藍がぼやいている。
この毒にも薬にもならない愚痴は、最近の八雲家の食卓に原因がある。

毎日が豆腐なのだ。



「一回、もう二度と見たくないって位に油揚げを食べてみたいものですね」

数ヶ月前、何気なく放ったあの一言がまさかこのような惨禍を引き起こすことになろうとは、
橙はもちろん、発言者である藍すら思いもよらないことであった。

「そう? それじゃあ今度の夏休みは油揚げオンリーで過ごしてみましょうか」
「ご冗談を、油揚げオンリーなんて栄養学的にありえませんよ」
「なら豆腐全般。百歩譲って大豆製品はぎりぎり認める、これでどう?」
「どうといわれましても。そんな毎日豆腐を調達できるのですか?」
「異存は無いようね、ではやりましょう。豆腐は私が調達するわ」

冗談だと軽く流して聞いていたのだがスキマ妖怪は本気だった。
そして、人里で夏休みが始まると同時に豆腐地獄が始まった。

とりあえず今日の分ねといって一m四方の豆腐を目の前に置かれた瞬間に藍はあきらめた。
白い巨壁、動かない橙、ゆあきんファンタジア。
今後の方針を尻尾に与えた九つの別人格とともに脳内で議論検討し、結論が出たところでようやく藍は動いた。

「絹ごしですか? 木綿ですか? どちらにせよ空気中で自重に耐えられるとんでもない豆腐ですね、これ」



初日は味噌汁と冷っこだった。めんどくさいから。
次の日からは油揚げや揚げ出し豆腐を作るようになった。カロリーが足りない。
一週間ほどたって、藍は納豆や枝豆に手を出し始めた。別の物が食べたい。
一ヶ月たつと、少し精神が軋み始めた。
卵豆腐やゴマ豆腐、高野豆腐や豆腐プリンなど、あらゆる豆腐料理は藍の式の中に組み込まれてしまった。
後十日前後。それが果てしなく長く感じた。



「ねえ、知ってる藍? 大学生の夏休みは九月いっぱいあるのよ」

抵抗する気力は無かった。
藍はもう豆腐なんて二度と見たくないと怨嗟をこめて吐き出した。
紫はほほう、それでそれで? と笑顔で言うばかりだった。

つまり、地獄は続いた。



「あーなたはーいーまーどこでなにーをしていま、す、かー」

橙は夏休みが始まってしばらくすると姿を見せなくなった。
今地獄で無いだけ地下のほうがましです。
そんな謎めいた紙切れが橙から藍への三行半だった。

クマゼミの鳴き声が、日を追うにつれひぐらしのものへと変わってゆく。
藍はそれが地獄の終わりを告げるものと信じて疑わなかった。疑うわけにはいかなかった。



「外の世界にはね、Not in Employment,Education or Training って人たちがいるらしいの」

紫の言葉はそこまでで十分だった。
数百、あるいは数千の年月をともに暮らしてきたのだ。言わずとも伝わるものはある。

ここにきて、ようやく藍は抵抗を試みることにした。
このままこの社会不適合な生活を続けるわけにはいかなかった。
米を、野菜を、さもなくば死を。
絶対王政なこの不条理な支配からの開放を藍は心に誓った。

だが、革命は弾圧される。
米を買ったはずなのに、帰ってくると米は豆腐になっていた。
翌日米屋に行くと、米屋は豆腐屋になっていた。
同じことは八百屋でも、肉屋でも起こった。
人里が豆腐に、いや恐怖に飲み込まれるのにそんなに時間はかからなかった。

「お願いだ、来ないでくれ。あんたに売るものは豆腐以外には何もない」
「お、俺はまだきゅうりやナスを作る農家をやっていたいんだ、田吾作んちの様に豆腐農家になるのはごめんだ!」

豆腐農家って何だと思ってこっそり見に行ってみると水田が真っ白だった。
もうこれ以上こんな光景を見ていたくない。
そう思うとこれ以上人里に下りようという気はなくなってしまった。
革命は無辜の民を巻き込んだ末、一方的に鎮圧されたのだ。



秋も過ぎ、冬が目前に迫っていた。
冬になれば紫様は冬眠するさ、それまでの辛抱だ、
と韓銀大勝利、ネトウヨなめなめ防衛線を布き、藍は精神の安定を図っていた。

「あら、狐さんだわ」
「本当だわ、やっぱりそろそろ北の国からな季節なのね」

冬に備えて薪を拾っていた藍の前に現れたのは秋の神様だった。

「でも、この狐さんはとっても優しそうよ」
「ええ、でも何か飢えているみたい。ほら、おいで。焼き芋をあげるわ」

豆腐に染まった精神が、無意識のうちに助けを求めていたのだろうか。
差し出されるほかほかの焼き芋を受け取って、藍の目からは知らず涙が流れた。
神はいた。幻想郷はまだ終わってなかった。
震える手で芋を割り、中から現れたほのかな湯気を立てる真っ白な湯豆腐を見て藍は思った。
やっぱり神なんていなかった。幻想郷終わってた、と。



冬になっても紫は元気だった。

「異変が起きているのに冬眠なんてするわけないでしょう」

藍は、異変を起こした者を恨んだ。
恨みは人を殺せる。異変の主が恨めしい、舞う白雪が恨めしい。
異変の主は見知らぬが、藍はその者を祟る理由など幾らでも作れた。

「そうそう、うちの猫は何処に行ったっけ? すぐ居なくなって困るのよねぇ
 自分の式神なら自分でちゃんとプログラムして欲しいわね。バグの無いように」

何か陰陽玉相手に楽しそうな主を尻目に、藍は黙って豆腐ステーキの準備に取りかかるのだ。

「今日も豆腐か」

もう駄目だ、この豆腐地獄はきっとずっと続くに違いない。
藍は、豆腐を焼きながら己の無力さをひしひしと感じていた。
だから、もはや己の手では現状の打破は不可能であると悟った。
ではどうするか。
決まっている。

虎の威を借りればよい。



藍が向かったのは博麗神社だ。
言わずと知れた幻想郷最凶の巫女の住まう社だ。

「こんにちは、霊夢」
「お賽銭は入れてくれた?」

奥から営業スマイルを満面に湛えて出てきた霊夢に藍はずっしりとした布袋を差し出す。
膝を突いて、恭しく。

「……どうしたの? こんなにたくさん」
「今の私に変換対象が豆腐のみな通貨など何の役にも立たない。察してくれ」

あまりにも悲壮な藍の態度に霊夢はあっさりと毒気を抜かれてしまう。
元々、霊夢は藍のことはそこそこ信頼している。他の連中が信用に値しない分。
だからこそ、霊夢は藍の話を真摯に聞いてあげた。聞くにつれ、藍に同情していった。

「分かったわ。あのスキマ妖怪は私がきっちりとお仕置きしてあげる。
 人里に被害も出ているんですもの、介入する理由は十分だわ」

ありがとう、ありがとうと霊夢の腹に顔を埋めて泣きながら感謝の意を示す藍。
霊夢はそんな藍をしばらくあやしてから、せっかくだからご飯を食べて行きなさいと勧めた。

「いや、ありがたいがそんなことをしては霊夢の食事まで豆腐に」
「あなた、私のことを信頼してくれているからここに来たんでしょう?
 それなのにその言いぐさは正直悲しいわ、心配しないで食べて行きなさい」
「そうか……、それならば」

霊夢の言葉に、藍は久々の安心感を覚えた。
久しぶりに豆腐以外の物を口に出来る期待を胸に、藍は霊夢が食事の用意をするのを眺める。

「さあ、食べましょう。今日の献立は雪花菜尽くしよ」

霊夢の言葉に、藍は涙が止まらなかった。



その晩、藍は寝付けなかった。
明日は霊夢がここに殴り込んできて紫様をぎったぎたにしてくれる。
そうすればこの悪夢から解放される。

この異変が解決した暁には霊夢には腹一杯肉を奢ってやろう、しっぽもふもふも時間の許す限り許してやろう。
初めてのデートを翌日に控えた十七歳女子高生のように、藍の心は期待に充ち満ちていたのである。



ところが、やはり紫は格が違った。

予定の時間になっても現れない霊夢を心配して、神社に様子を見に行った藍が見た物は
およそ五m四方とも思えるような巨大な豆腐の固まりだった。
やはり、五mともなると自重崩壊を起こすのか豆腐のブロックは無惨に崩れ、その麓には霊夢が横たわっていた。

「霊夢、大丈夫か、生きているか」
「……らん、藍? う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……」

藍に抱き起こされた霊夢は、気が付くなり泣き出してしまった。
一体ここで何があったのか。
だが、服の代わりに湯葉を纏い、全身から豆乳を滴らせる霊夢にそれを聞く勇気は藍にはなかった。
ただ一つ、霊夢は紫に負けた。それだけははっきりと分かった。



霊夢と神社の後始末をし、傷付いた霊夢を寝かしつけてから、藍は最後の望みにかけることとした。
すなわち、幻想郷にやってきたもう一つの神社、守矢神社である。

「はいはいなんですかー?」
「……、いきなり祭神が出てくるとは思わなかった。ここの巫女はどうしたの?」
「ちょっとイジメにあってねー」

そっと目を伏せる諏訪子様。何気なく神社の奥を見つめるその瞳には悲しみが滲んでいる。

「なんかお願い事をしに来たんだろう狐さんにする話ではないんだけどね、ちょっとついでに聞いて行ってくれるかな」
「それでいいのなら、こちらこそお願いします」
「うん、お互い様だね」

おいでおいでと誘われるままに神社に上がり、座布団と、お茶のみが振る舞われる。
この方は分かっている、藍はそう直感し、淡い期待を再び胸に灯らせた。

「この前ね、家の早苗が人里に久しぶりに買い物に行ったのさ」
「人里……」

しかし、振られた話題に即座に現実が舞い戻ってくる。
半数が豆腐に侵された里、藍にとってはトラウマである。

そして、やはり話はそっち関係だった。
村人同士が豆腐派と反豆腐派に分裂し、抗争を行う様。
飛び交う豆腐、大根で殴られる村人。
そんな中、早苗は仲介を果たそうとした。
いきり立つ豆腐派をなだめ、やはり何事もほどほどが一番と説いて回った。
数日、数週の説得の末、早苗は両派の立ち会いの下和平協定の調印にまでこぎ着けた。
これで豆腐地獄から解放される、俺たちは豆腐を売らなくてもいいんだ、そんな豆腐派から漏れる明るい声。
しかし、平和なんて薄氷のようにもろい物。

「子供がね、言ったんだ」

―お姉ちゃんって豆腐屋なんだよね。

「その一言で、すべての村人の敵意が早苗に向くこととなった。
 豆腐派にとっては豆腐屋のくせに反豆腐派の肩を持った裏切り者。
 反豆腐派にとっては豆腐屋っていう、ただそれだけ」

体の奥から染み出てくるような諏訪子様の言葉に、藍はぞくりと身を震わせる。

「それは……、あの、すいませんが早苗さんが豆腐屋とは?」
「早苗の名字はね、東風谷って言うんだ」
「……、東風、谷……」

賢い藍は、その意味を即座に理解し、そして理解した自分を呪った。
なんてことだ、私は知らず知らずのうちにこんなところにまで被害を及ぼしていたのだ。
慚愧の念が沸き立ち、髪を掻きむしる藍。
そんな藍を見て、諏訪子様はふっと笑いを漏らす。

「あなたのそういうところ、私は好きだよ」

自分を省みることの出来る者は強い。
諏訪子様はそう言った。

「だからこそ、後始末はきっちりつけないとね」
「……はい」

諏訪子様の言葉に、藍は決意を新たにする。
そうだ、その通りだ。
今度こそケリをつけてやる。

脚に力を込め立ち上がる藍。
迷いはない、今度こそ必ずこのトウフファンタジアを打ち破ってみせる。

「それでこそ伝説の九尾の狐だ、そうこなくっちゃ」

藍の決意に鼓舞される諏訪子様。
こちらもすっくと立ち上がり、意気揚々と藍を見上げる。

「じゃあ行こうか! 最終決戦に!」
「あ、あなたも? ……はい! 行きましょう!」

諏訪子様の声につられて、元気のよい声が出る藍。
冬の空へと飛び立つ二人。ゴールまであと少し。



「なるほど、山の神様を味方につけたのね」
「紫様、こんなこと、もう終わりにしましょう。豆腐の呪いを解いてください」

八雲邸上空。
雪が吹き荒ぶなか、紫は藍と諏訪子様を前にして悔しそうに呟いた。

「藍はそんな事しない子だと思っていたのに……、
 先生にチクるなんて卑怯なことだって小さいときから教え込んできたって言うのに……!」
「もう終わりだよ、八雲紫。
 幻想郷はあなたのおもちゃじゃない。私たちみんなが住んでいる場所だ。あなたも含めてね」
「戯れ言を……! 幻想郷は、幻想郷は……っ!」

噛み締めた奥歯の更に奥から滲み出る紫の声は、幻想郷の賢人としてのプライドから来る物か。

「幻想郷は私の物なのよ! 私が作った! 私が育てた! それを後からノコノコ来た者がぁーっ!!」

境符「波と粒の境界」

「そう来なくっちゃ!」

紫の一方的な宣言で突如始まる弾幕戦。
Ex二人とPh一人の弾幕戦は傍目からは夜空へ浮かぶ光の芸術以外の何物でもない。
だが、渦中にある者たちにとってそれは当たれば一ミスとなる凶器の光壁でしかないのである。

狂ったように笑いながら次々と放たれる紫の弾幕は、通常のそれの威力ではなかった。
相手が人外、それも相当の実力者だという事によるものか、
はたまた己を裏切った、あるいは刃向かう者への怒りと悲しみによるものなのか。
どちらにせよ、紫の弾幕はじわじわと、だが確実に二人を追い詰めていった。

「今は耐えて! チャンスはきっと来るから!」

藍に呼びかける諏訪子様にも余裕はない。
前後左右、緩急やホーミングを織り交ぜながら襲い来る弾幕を避けるので精一杯だ。
弾なんて撃とうものなら自分の弾に隠れて飛んでくる紫の弾に当たりかねない。

「どう! 幻想郷の賢者の力、思い知ったかしら! これで終わりよ!」

追い詰めたと判断したのか、紫が特大の弾を頭上に掲げる。
かの地獄鴉の特大弾をも凌駕しそうなその弾は、だがそれとは違って白く輝き……

「豆腐!!?」
「受け取りなさい! 地獄巡りの片道切符よ!」

その正体に気づいた瞬間の、わずかな動揺。
わずかコンマ一秒にも満たないようなその硬直は、しかし弾幕戦にとっては十分すぎる隙であった。

「がっ……!」

諏訪子様の小さな腹にのめり込む楔弾。
飛びそうになる意識を残機一つを引き替えに取り戻し、体勢を立て直そうと……

「あ」

眼前に迫る白い固まり。
それは、幻想郷指折りの弾幕の実力者である諏訪子様に回避がすでに間に合わないと判断させるには十分であった。

これで、終わりか……

ピチュリ直後のためパワーはゼロ、諏訪子はコンティニューを覚悟してそっと目を閉じる。
わずかの間に色々なことが胸に去来する諏訪子様。
その思い出を胸に、次こそは四面までノーミスで行ってみせると無駄な決意をする。

だが、いつまでたっても来るべき被弾は来なかった。
その違和感にそっと瞼を緩める諏訪子様。

「……早苗」
「ふふ、置いていくなんて諏訪子様は意地悪ですね、私もExデビューしていること忘れていましたか?」

巨大な豆腐弾の前に立ちふさがる秘法「九字刺し」
その光をバックに諏訪子様に微笑むその姿は、諏訪子様から見ても神々しさが漂っていた。

「早苗」
「行ってください諏訪子様。これは私が押さえます」
「駄目だよ、早苗にそんなことさせられない」
「優しいのですね。しかし」

ドン、と早苗に突き飛ばされる諏訪子様。

「へぼ将棋、王より飛車をかわいがり。
 そんな愚を、諏訪子様に犯させようだなんて」
「さな……!」
「ふふ、後はお願いします。
 大丈夫です。だって、私は奇跡を起こす風はふ……」
「さなえーー!!」

轟音とともに白い固まりに飲み込まれていく早苗。
そして、それに勝るとも劣らない諏訪子様の絶叫。



「紫様ぁぁぁぁ!!」
「藍!」

どっかのアニメみたいな寸劇が下方で繰り広げられている間、藍は豆腐弾で出来た紫の隙に攻め込んでいた。

「いつまでもこんな事を続けて一体何がしたいのですか!」
「分からない? 分からないの藍!? この私の夢が、野望が! この私の式でありながら!」
「分かるものか! こんな事! 私たちはあなたのおもちゃなんかじゃない!」

飛び交う怒号、乱舞する弾と豆腐。
行っている弾幕戦はハイレベルだがその原因は実にくだらなかった。

「殺ったぁぁ!!」

入念に退路を塞ぎ、藍を追い詰めた紫が勝利宣言であるかのように叫ぶ。
頭上に再び巨大豆腐弾を構え、それを藍めがけて放とうとする。

だが、弾は放たれることなく紫の頭上で爆散した。
即座に爆散した豆腐弾の、そのさらに上空を見上げる紫。
釣られて見上げる藍。

「ゆかりぃぃぃぃぃ!!!」
「霊夢」

遙か上空から終端速度を無視した速度で紫に突っ込んでくる霊夢。
大上段から振り下ろされたお払い棒を四重結界で回避する紫。

「そう、復活したのね。さすがは博麗の巫女。強いわ」

ふふんと鼻で笑う紫。
対する霊夢は紫を睨んだまま言葉を発することはない。

「霊夢?」

当然のことだった。
霊夢にとって先刻の敗北はあってはならないものだった。
解決するべき異変の主に熨される屈辱。
けーねを拷問にかけてでも消去したい歴史である。

だから、問答は無用だった。
豆腐に鎹、暖簾に腕押し。
もはや言葉は必要ない。
ただ黙らせるのみである。

真正面から神速で飛んできた挨拶代わりの針を躱し、紫もそれを理解する。
にぃ、と嫌らしい笑みを見せ、紫は再び弾幕を放つ。

だが、霊夢にはそれに付き合う気は粉微塵も存在しなかった。
一本一本、魅せるつもりなどなく確実に紫を殺る気で針を投げ続ける。
弾幕戦? 平和的決闘法?
馬鹿かおまえは。
殺し合いにルールなんてあるわけないだろ。
そう言わんばかりである。

そんな霊夢の弾幕にとうとう紫は回避を諦める。
前方に展開するのは豆腐結界。
紫の境界操作によってなんかよく分からないままに最強の結界と化したその豆腐は、
圧倒的存在感を持って霊夢の前へ立ちふさがる。

絶対の自信からか、豆腐の向こうで笑みをこぼす紫。
それを知ってか知らずか霊夢も笑みを浮かべる。

そっと、しかし十分な殺気を伴って霊夢の手から針が投擲される。
霊夢の手から離れた針は、まっすぐ紫の方へと飛んでいき、まず豆腐へと至った。

笑みを不気味に歪ませる霊夢と紫。

いつしか雪は止み、雲の間からのぞいた夕日がそんな二人を怪しく映し出していた。





「決着? ああ、霊夢が勝ったよ」

後日、早苗を豆腐から掘り出すのに夢中であの後全然見てなかった諏訪子様に結末を訪ねられ、藍はそう答えた。

「霊夢は針供養を施した私の針に貫けない豆腐はないとかかんとか言っていたけど。
 まあ、豆腐で針が防げるわけないよね。概念的に考えて」

そーなのかー、と頷く諏訪子様。

ここは八雲邸。かつてのラストダンジョン。
だが、それも過去のこと。
幻想郷を豆腐のどん底にたたき落としたスキマ妖怪は博麗の巫女によってしばき倒され、今は閻魔様に説教を食らっている。

「まー、色々迷惑な妖怪だね。面白いから私はいいけど」
「どうです? 私と替わりませんか」
「謹んでご遠慮申し上げます」

藍もずいぶんと回復してきた。
もはや夢まで豆腐に染まっていたあの頃とは違う。
だが、それでも傷は深かった。
失ったものもたくさんある。
橙はまだ帰ってこない。

「どうぞ、約束していた通り、今日は晩ご飯をご馳走します」
「待ってました」

のそりとこたつから起き出してくる諏訪子様。
こたつの上でほかほかと湯気を立てている料理を見て満面の笑み。

「あらあら、マーボーカレーに肉豆腐、それに豆乳鍋。大丈夫? 豆腐の呪いが続いているよ」
「残念ながら。昨夜久しぶりに肉を食べたら少しばかりお腹を壊しまして」
「もはや豆腐以外を受け付けないのか……、かわいそうに」
「はい、少しづつ慣らしていかないと駄目みたいです」

そもそも狐が油揚を好むのはその油分が目当てだからとか。
肉食な狐が豆腐なんて好んで食うわけないだろって話。

「藍ー、お肉買ってきたわよー」
「野菜も買ってきました」

表からずかずか入ってきたのは腋巫女二人組です。
両者とも戦いの傷(主に精神)が癒えたのかえらくご機嫌。

「あら、豆腐尽くし。飽きないわねえ」
「まあ、美味しいですからね」

こたつの上の料理を見ても何ら動揺しないところは流石。
さっさとこたつに潜り込んで、ほいほいと食材を鍋に放り込むところなんか見習うべき。

「さて、煮えるまでの間他のものを食べていましょう」

さっさと箸をつけようとする霊夢を見てさしもの諏訪子様も突っ込みます。

「こらこら、いただきますくらいしようじゃないか」
「ん? まだしてなかったの? じゃあさっさとしときましょう」

パンと音を立てて手を合わせる霊夢。
それを見てまだ立ったままだった藍もあわててこたつに潜り込んで手を合わせる。

「それでは、豆腐地獄の終演と」
「このご馳走の出資者である八雲藍さんに感謝の意を表しまして」

いただきます

と四つの声が重なり、こたつの上を四組の箸が行き交う。
その食卓を眺め、藍はすべてが終わったことを改めて実感する。
長かった、と夏から始まった豆腐地獄を振り返る藍。

「ほら、何をしてるの? 主役が率先して食べなきゃ私たちが卑しく見えちゃうでしょ」

ふとかけられた声に引き戻された藍の口にぐいとさじが差し入れられる。

「どう、美味しいでしょ」

笑顔で自分を見つめてくる三人。
口に入れられたものが豆腐であるとさとり、目の前の三人を見つめ返す藍。

「……ああ」

そっと口の中に意識を集中する藍。
その口の中にあるものは自分の長い生涯の中でもっとも美味しいものであると、藍はそう感じた。
















  • なんだこれwww -- 名無しさん (2009-06-11 15:43:32)
  • 何が紫をそうさせたのか -- 名無しさん (2009-06-11 18:16:59)
  • つまり豆腐は最強というお話か -- 名無しさん (2009-06-11 18:59:24)
  • 今日の夕飯は豆腐にしよう -- 名無しさん (2009-06-12 02:01:08)
  • イイハナシダナー(;∀;) -- 名無しさん (2009-06-12 19:06:21)
  • 豆腐農家って何だw -- 名無しさん (2009-06-12 20:00:45)
  • 結局この話は誰をいじめてるのかなって考えてみたら
    守矢神社が出てくる話なのに名前すら出てきていない神奈子じゃね?って結論になった -- 名無しさん (2009-06-13 07:49:41)
  • 何この豆腐ディスティニー? -- 名無しさん (2009-06-13 23:04:20)
  • これって今までで一番くだらないけど、一番皆に害のあった異変かもしれないwww
    これはイジメというより嫌がらせだwww
    紫はこれ程まで豆腐に何の思い入れがあるんだwww
    ついでに作者もwww -- 名無しさん (2009-06-19 19:24:14)
  • 豆腐や油揚げを食べるたびに感慨深くなった。そして好きになった。これもとうふ異変の弊害か・・ -- 名無しさん (2009-06-20 17:33:29)
  • とーふってばさいきょーね! -- 名無しさん (2009-06-20 22:12:48)
  • 今までの異変で一番やばいかもなwww -- 名無しさん (2009-07-23 01:07:49)
  • こんなに馬鹿馬鹿しくて
    こんなに暑苦しくて
    こんなに後味の悪くないいぢめは初めてだ
    作者は俺の弟をファックしていいぞ -- 名無しさん (2009-08-18 01:24:49)
  • どうしてこうなった! -- 名無しさん (2009-08-19 03:57:48)
  • Good Endに見えるけどちぇんさんは・・・ -- 名無しさん (2009-08-20 09:19:57)
  • ちぇんはきっと、おりんりんランドにお世話になってるんだよ。
    ・・・さて、明日はスーパーの豆腐を買い占めるとするか・・・ -- 名無しさん (2009-08-23 01:23:36)
  • 豆腐農家…A列車でいこうと言うゲームがあってだな
    ゲームの中に出てくる資源(資材?)が豆腐そっくりなのを思い出したよ -- 名無しさん (2009-10-30 03:24:01)
  • なんつーか・・・とうふの角に頭をぶつけて幻想入りしたい -- 名無しさん (2009-10-30 18:07:38)
  • キュウリとナス……
    (*´Д`)ハァハァ -- 名無しさん (2010-04-02 20:37:22)
  • 豆腐のどん底www -- 名無しさん (2010-04-07 15:07:59)
  • 東方ハーとうふル劇場 -- 名無しさん (2010-04-07 16:33:56)
  • くだらねぇww


    あと神奈子様はどこ行ったwww -- 名無しさん (2010-04-07 16:51:00)
  • ちょっと豆腐作ってくる -- 名無しさん (2010-04-11 23:05:14)
  • ↑にがりはちょっと少なめが良いぞ -- Aーfd (2010-04-11 23:34:22)
  • トウフファンタジアwww -- 名無しさん (2010-04-12 02:21:43)
  • 豆腐を作ろうとしたら納豆みたいな物ができた
    どゆこと? -- 名無しさん (2010-04-13 01:24:51)
  • ↑何処のおっちょこちょいだww -- 名無しさん (2010-04-13 07:40:53)
  • 久しぶりにカオスな豆腐論争を垣間見た -- 名無しさん (2010-06-14 18:46:42)
  • 豆腐作ってみた                                                                                                         なぁにこれぇw -- 名無しさん (2010-06-16 20:31:54)
  • これはいいイジメだwww
    ワロタwwww -- 名無しさん (2010-06-16 22:19:38)
  • 豆腐作れないから牛乳プリンにしました -- 名無しさん (2010-06-19 00:51:30)
  • 苺豆腐作った
    まずい -- 名無しさん (2010-09-09 20:50:32)
  • 美味しんぼ読みながら豆腐作った。臭い固形物ができた -- 名無しさん (2010-09-09 21:21:42)
  • 豆腐食べたくなったwww作ってみたけど上手く固まらなくてぐちゃぐちゃww -- 名無しさん (2010-09-10 00:49:07)
  • 最後にオチが分かってたのにクソワロタwww
    -- 名無しさん (2010-09-20 13:08:21)
  • てゆうかなぜに豆腐?
    -- 名無しさん (2010-10-14 12:00:24)
  • >しっぽもふもふも時間の許す限り許してやろう
    藍しゃま可愛すぎだろjk -- 名無しさん (2010-11-05 14:19:17)
  • 久々にワロタwww -- 名無しさん (2011-06-14 21:09:43)
  • どこからともなく豆腐屋のラッパの音が・・・ -- 名無しさん (2011-06-25 21:55:27)
  • 豆腐屋さーんw
    -- 名無しさん (2011-07-31 02:06:34)
  • 東風谷からどんな経路で豆腐になるのか
    ⑨な俺には理解できない… -- 名無しさん (2012-01-14 20:25:34)
  • 東風谷を音読み -- 名無しさん (2012-01-14 20:50:49)
  • どうせだからリンクしておくか
    http://www35.atwiki.jp/th_izime/pages/1155.html -- 名無しさん (2012-01-14 22:23:30)
  • 豆腐屋早苗www -- 名無しさん (2012-02-13 23:39:44)
  • 豆腐の皮を被った何かができた -- Mr,R10r (2012-05-07 14:20:46)
  • 東風谷早苗(こちや さなえ) -- 名無しさん (2014-04-12 13:59:53)
  • 東風谷早苗(とうふや さなえ)
    看板商品はもちろん、常識にとらわれない豆腐 -- 名無しさん (2014-06-04 17:52:42)
  • ちょっと豆腐作ってきた


    作りすぎて妹が早苗みたいに埋もれた -- 名無しさん (2016-01-06 10:07:45)
  • 豆腐がイヤになるんなら、味噌をつければいいんだよ! -- コハク (2016-06-19 16:17:48)
  • 豆腐農家はさすがに笑う -- 名無しさん (2017-04-20 00:24:50)
名前:
コメント: