「てゐの罠って案外ぬるいよね。根が優しいってことかな。でも罠って本来は陰惨なもの
だよね。たとえば人間を殺す――」


 きっかけは、鈴仙が口にした些細な一言。そう、当人にしてみれば罪の無い戯言に過ぎ
ないはずの……。

 その日は永遠亭で月見が行われようとしていた。輝夜や永琳だけでなく、末端の因幡た
ちも集う盛大な集まりである。
 主たる輝夜たちがまだ姿を見せていなかったため、それぞれが思い思いの雑談に耽って
いたのである。鈴仙がその『一言』を口にしたのは、てゐと共に一足早く月見酒を味わっ
ている最中だった。

 違和感にはすぐ気づいた。両の目が熱く、痛い。鈴仙は苦悶に顔を歪めながらも、痛み
の正体に考えをめぐらせた。
 そして記憶の片隅から拾い上げられたのは永夜の異変、乗り込んできた博麗の巫女との
戦闘。思いのほか手ごわい相手を前に酷使した『狂気の瞳』、その時も双眸が焼き切れそ
うな感覚に襲われた。

 まずい――と思ったときには遅かった。広範囲に渡って浸透した狂気の波長、てゐや因
幡たちはそれをまともに見てしまったのである。彼女たちの瞳に仄暗く赤い光が灯った。
しばし皆はぼんやりと虚空を見つめる。やがて一同を代表するようにてゐが口を開いた。
「うん、そうだね」

 何がそうなのか。不吉な予感が頭をよぎったが、鈴仙はその想像の受け入れを拒絶した。
やがて輝夜たちがやってきたこともあり、いま起きた事を無理やり頭の隅に追いやる。そ
の後つつがなく月見が行われたこともあり、彼女は何も問題は無いと自分を納得させてし
まった。



 それが過ちだったと思い知らされたのは、数日後の朝。散歩がてら竹林を見回りしてい
た鈴仙は『それ』を発見した。竹の葉や土で巧妙に偽装した落とし穴、数メートルはあろ
うかという穴底に人間の男が倒れている――全身を背面から竹槍で貫かれ、血反吐に塗れ
た顔を苦痛に歪めた状態で。

「なっ……これ、何……」
 思わず後ずさる。目をそらし、駆け出した先で彼女は再び息を呑んだ。叩き割られた果
実のように、頭部が原型を留めていない死体が横たわっている。辺りには砕けた頭蓋の破
片や、血と脳漿でピンク色の脳が飛び散っていた。

「う……うげええええ!!」
 耐え切れずに鈴仙は胃の中身の朝食を吐き出した。全て出し尽くしてもなお、えずいて
胃液を吐き散らす。呼吸は荒く、鼓動が異様に早い。それでも彼女はどうにか周囲の状況
を確認するだけの余裕を取り戻した。逃亡兵とはいえ、そこはやはり元軍人ということな
のだろう。

 涙ぐんだ目で辺りを観察する。目に付いたのは適切な長さに切られた竹と、先端に取り
付けられた鉄球。球には目を背けたくなるような棘が無数に取り付けられている。近くに
はピンと張られていたであろうワイヤーが落ちていた。

 それで鈴仙は状況を察した。ギリギリまでしならせた竹を仕掛けておき、ワイヤーに触
れた者に棘付き鉄球が襲い掛かる……スパイクボールと呼ばれるブービートラップに手を
加えたものだ。

 問題は、誰がこんなものを仕掛けたのかということ。彼女も幻想郷に来てからそれなり
に経つが、こんな残虐な殺しは見たことが無い。確かに妖怪が人間を食うこともあるが、
それならば罠など使わないだろう。そしてこの死体には食い荒らされた形跡が無い。

 鈴仙の疑問に対しては、解答の方から勝手にやってきた。少し離れたところから歓声と
悲鳴が聞こえる。鈴仙は駆けた。歓声が因幡のものに酷似していることを訝りながらも。

 そしてどこかで予期していた光景を前に、鈴仙は立ち尽くした。てゐに率いられた因幡
たちが、哀れな人間の男を取り囲んでいる。男はトラバサミに足を挟まれ、身動きが取れ
ずにいた。あの様子では骨にまで深く食い込んでいるだろう。因幡たちは先端を鋭く尖ら
せた竹槍を手にしている。

「てゐ、これはどういうことなの!?」
「ああ、鈴仙。いいところに来たね。今からこの人間を殺すんだよ」
「殺す? あなた、何を言って……」
「じゃあみんな、やっちゃって」
「やめ――」
 鈴仙が言い切る前に、因幡たちが一斉に突進した。男の体に四方から竹槍が食い込む。
複数の急所を同時に突かれたためか、男は悲鳴を上げることも無く痙攣し、事切れた。目
の前で人が殺された、その事実に鈴仙は慄然とする。
 それ以上に恐ろしかったのは、てゐや因幡たちが平然としていることだった。まるで
ゲームを終えた後のように和気藹々とし、談笑までしている。
(なんだこれは……)
 目を背けることもできず、鈴仙は自問する。むやみな人殺しが禁忌とされているのは、
てゐたちも知っている筈だ。こんなことをして博麗の巫女が黙っているはずがない。にも
かかわらず、目の前の地上の兎たちは屈託無く笑っていた。何がこうさせたのだ、誰が望
んだ、こんな……。

 そこまで思い至った時、鈴仙の全身から冷や汗が噴き出した。あれか、あれなのか。ほ
んの数日前、自分が戯れに口にした一言。そしてその時に感じた『双眸』の違和感……。
気がつけば、鈴仙は永遠亭に向かって全力疾走していた。



「あやややや、狭い幻想郷、そんなに急いでどこに行くんですか?」
 上空からどこか嘲笑じみた声が聞こえてきた。立ち止まって見上げると、予想通りの相
手がこちらを見下ろしている。射命丸文――山の天狗、新聞記者。この急いでいる時に、
と鈴仙は内心舌打ちした。
 文は目の前に降り立つと不思議そうな、というよりも好奇心旺盛な顔で喋り始めた。

「珍しい事もあるものですね、あなたがそんなに飛ばすなんて。脱兎の如く、ってやつで
すか?」
「……急いでいるんです、道を開けていただけませんか」
 殴り倒してやりたい衝動を必死で抑えながら、鈴仙はどうにか丁寧な言葉を選んだ。し
かしそれは用を成さなかったらしい。文はますます興味津々で、楽しげにこちらを覗き込
んでくる。

「これは事件の匂いですね。ひょっとしたら久しぶりにいい記事が書けるかもしれませ
ん。詳しく詳細に、事細かに話してもらえませんかね?」
「いい加減にしてくださいッ!!」
 鈴仙の堪忍袋の緒が切れた。唐突な怒声に驚いたのか、文は困惑気味に後ずさる。鈴仙
は相手が口を閉ざした好機を逃さず、一気にまくし立てた。

「新聞だかなんだか知りませんけど、あなたは相手の迷惑というものを少しでも考えた事
があるんですか!? さっきも言いましたけど、私は急いでいるんです、あなたのお遊び
なんかにつきあってる暇はありません!」
「お遊び!? それは聞き捨てなりませんね!」
「お遊びじゃないなら何だって言うんです? あんな新聞なんかやめて、あなたは山にで
も引きこもってればいいんですよ!」
 いくら切迫した状況で苛立っていたとはいえ言い過ぎたかな、と鈴仙は後悔した。今の
発言は相手の生き様を根底から否定したに等しい。
 当然、激しい反論が返ってくるものだと鈴仙は予期した。ところが文の表情は穏やかな、
というよりも無気力なものだった。そして生気の無い声が虚ろに響く。

「……はい、わかりました。新聞は辞めて山で静かに暮らします」
「え……」
 呆気に取られたのも束の間、鈴仙は文の目に起きた異変に気づいた。薄ぼんやりとだが、
角膜が赤い光を帯びている。これはどこかで見たことがある……鈴仙は必死で記憶の引き
出しを探った。そう、これは月見の夜と同じ。あの時もてゐや因幡たちの目が不自然に光
っていた。そしてあの時ほどではないが、自身の両目に疼痛が生じる。

 無気力な表情で飛び去っていく文を見送りながら、鈴仙は一つの結論に達した。彼女の
持つ狂気の瞳、その制御が失われている。自らの意志とは無関係に発動し、相手の精神を
犯す。それもどうやら鈴仙が口にした言葉と結びついているらしい。そこまで考えると、
鈴仙は今度こそ永遠亭に向かって高速飛翔した。



 思いつく限りの可能性を説明した後、鈴仙は永琳と共に再び竹林を飛翔している。蓬莱
人だからなのか月人だからなのか、輝夜たちに『目』が効かないのは不幸中の幸いだった。
事態の重さを鑑みて、今回は輝夜も同伴している。少しも速度を落とすことなく、永琳が
口を開く。

「ウドンゲ、言いにくいことだけれども……」
「……」
「あなたは狂気の瞳に頼りすぎたのよ。弾幕勝負でもそう、正面からの対決を避け相手を
幻惑させることに固執してきた。それが悪いとは言わない。けれど、強すぎる力は、使い
すぎた力はいずれ破綻を――」
「わかってます、わかっています!!」
 鈴仙は自らに言い聞かせるように怒鳴った。制御できなくなった力が惨劇を引き起こし
た、それは彼女自身が最も理解している。ただ、それを他者に指摘されるのがたまらなく
辛かった。

「過ぎたことはいつでも悔いることができる。でも、未来を変えることは今しかできない
のよ」
 二人のやり取りを中断させたのは輝夜だった。それは永遠を生きる宿業を背負った者と
しての言葉なのだろうか。消えない過去、とこしえに続く未来。所詮は有限の生命体であ
る自分には理解できないことだろう、と鈴仙は思った。



 3人が到着したとき、状況は少々変わっていた。串刺しにされた男の近くで若い女と幼
い少年が泣き叫んでいる。おそらく死体になった男の妻子であろう。てゐと因幡の大軍は
それを遠巻きに取り囲み、ニヤニヤと眺めていた。

「どうしてこんな……うちの人を返して!」
 女が悲痛な叫びを上げ、憎悪の眼差しでてゐを射抜く。妖怪に囲まれたこの状況でも、
怒りが恐怖に打ち勝っているのだろう。

「いいよ、返してあげる。持って帰って葬ってあげなよ」
 意外なほどあっさりと了承するてゐ。拍子抜けしたのか、女は毒気を抜かれたような顔
をしている。鈴仙は強烈な違和感を覚えた。何故かはわからない。だが、そうさせてはな
らない、直感がそう告げていた。

「駄目、待って……!」
 しかし夫の遺体は大事だったのだろう。女は慈しむような手つきで男の体を抱き上げた。
刹那、閃光が鈴仙の目を灼く。間近の雷のような轟音が耳朶を貫いた。鼻を突くのは、月
で散々嗅いできた爆薬の臭い。

 視力が回復してきたとき、眼前にはほぼ予想通りの光景が展開されていた。男の死体も、
妻も、幼い子供も、みんなただの赤黒い肉片になっていた。飛び散った血肉が竹にへばり
つき、ちぎれた腸が枝に引っかかって垂れ下がっている。鈴仙が頬のぬめりを拭うと、指
先が赤黒く汚れた。

「てゐ、あなたは……!!」
「やったよ鈴仙、仕掛け爆弾大成功!」
 嬉々として小躍りするてゐ。男の死体の下にあらかじめ爆弾を設置しておき、動かすと
起爆するようにしてあったのだろう。数あるトラップの中でも卑劣極まりないやり方だっ
た。鈴仙より先に永琳が激昂する。

「てゐ、あなたは自分が何をしているかわかっているの!?」
「やだなあ、永琳様。何を怒ってるんですか? 人間は殺さなきゃいけないんですよ」
「今のあなたは異常な精神状態なの、診てあげるから永遠亭に帰るわよ。今ならまだ、大
事に至る前になんとか事を収められるかもしれない」
 人の命よりも永遠亭の対外的な立場か。やはりお師匠様も蓬莱人だな、と鈴仙は胸の内
で呟いた。いや、月人だと言うべきか。地上の穢れた人間の命など安いものと思っている
のだろうか。

 だが案の定と言うべきか、てゐを始めとした因幡たちの反応は芳しくないものだった。
てゐが口を尖らせて反論する。

「おかしいのは永琳様ですよ、人間は殺さなくちゃいけないのに。ところで考えたんです
けど、こんなところで罠を仕掛けてても殺せる数なんてたかが知れてますよね? だか
ら、これから人里に攻め込もうと思うんですけど、永琳様たちもどうですか?」
 常軌を逸した発言に、輝夜も永琳も鈴仙も絶句した。人里での虐殺……そんなことをす
ればもはや取り返しがつかない。巫女やスキマ妖怪に何をされるかわかったものではない。

「馬鹿な事はやめなさい! そんなことをして――」
 永琳は最後まで言い切ることができなかった。てゐの指先から放たれた閃光が永琳の脇
腹を貫いたのである。弾幕ごっこで使うものではない、殺傷力を持った一撃だった。蓬莱
人といえども苦痛とは無縁でない。永琳は腎臓を撃ち抜かれた激痛に蹲り、咳き込みなが
ら血を吐いていた。

「永琳、永琳! しっかりして!!」
 それまで比較的落ち着いていた輝夜が取り乱し、永琳に駆け寄る。二人の絆の深さを物
語る光景だが、今はそれに相応しい状況ではなかった。

「どうせ死なないんだからそれくらいいいですよね? ――じゃ、みんな行こう」
 てゐは嘲笑混じりに言い捨てると、因幡たちを引き連れて飛び去っていった。あの方向
は人里である。守護者である慧音がいるとはいえ、あの数を相手にどこまで持ちこたえら
れるか……。

「いや、いやあ! 血が、血が止まらないよお!」
 一方の輝夜は完全に錯乱状態だった。妹紅との殺し合いで慣れているはずなのに、今は
自分たちが蓬莱人であることをすっかり忘れているらしい。
 そして鈴仙は当惑していた。輝夜はこのありさま、永琳は重傷ですぐには動けない。鈴
仙は兵士だった。兵士は指揮官がいなければ動けない。指揮官を欠いた今、どうすればい
いのかわからなくなってしまった。

「ウドンゲ……、てゐを……追いなさい……」
「お師匠様!?」
「いま動けるのは……あなただけ。だから……」
 そこまで言って再び咳き込み、吐血する。だが鈴仙にはそれで十分だった。敬愛する師
匠からの指示があった、それだけで彼女は動ける。そしてなにより、すべての発端は自分
なのだ。どういう形であれ、幕引きは自分がやらなければならない。



 持てる限りの力で飛翔し、鈴仙は人里へ向かう。そしてたどり着いたそこで見たのは、
阿鼻叫喚の地獄だった。てゐの率いる因幡軍団の一斉射撃で家屋は破壊され、人間だった
であろう黒焦げの塊があちこちに転がっていた。
 火災が発生し、天をも焦がすような炎が方々で立ち上っている。そして逃げ惑う人間を
因幡たちが弄るように殺していった。直前まで走っていた人影が光に貫かれ、ばたばたと
倒れていく。
 動かなくなった母親に寄り添い、必死で揺り起こそうとしている少女がいる。ある因幡
の放った弾幕が、少女の頭部をスイカ割りのように砕いた。それを見た因幡たちはケラケ
ラと笑っている。

 だが一方的な殺戮は長くは続かなかった。寺子屋から飛び出した慧音が凄まじい勢いで
空に上がり、やはり『ごっこ』では無い弾幕を無数にばら撒く。

「やめろッ! これが貴様ら永遠亭のやり方なのかーッ!」
 憤怒の表情で咆哮する慧音。圧倒的で濃密な弾幕が次々に因幡たちを撃墜していく。里
の守護者を自任する彼女の憤激は凄まじかった。あれほどまでに一方的だった因幡たちが
一気に押し返され、どんどんその数を減らしていく。

「獣人のくせに人間の守護者気取り? その偽善、反吐がでるね!!」
 罵声と共にてゐが応戦する。だが力の差は歴然だった。慧音が繰り出す猛攻を前に、て
ゐは防戦一方だった。そして彼女が後退する素振りを見せた時のことである。遥か後方か
ら無数のアミュレットが飛来し、てゐを撃ち落した。

「いろんな異変を見てきたけど……こんなに酷いのは初めてよ」
 博麗神社の巫女、霊夢だった。



 後はただ、殺戮の対象が入れ替わっただけだった。霊夢と慧音によって残存因幡が次々
に掃討されていく。ようやく幾ばくかの落ち着きを取り戻した人間たちは、救助と消火活
動に専念している。守るべき人間を殺された慧音はともかく、一方的な展開に霊夢の表情
は晴れなかった。

 霊夢が介入後、半刻ほどで事態は鎮圧された。残るは因幡を率いていた妖怪兎のリー
ダー、因幡てゐただ一人である。信じられないと言いたげなてゐの前に、霊夢と慧音、そ
して鈴仙の姿があった。

「なんで邪魔するの!? 人間は殺さなきゃいけないのに!」
「鈴仙から事情は聞いたわ。……でもね、てゐ。あんたは禁忌を犯したわ。知らぬ仲でも
ないけれど、庇いようが無いわね」
 霊夢が冷ややかな、それでいてどこか残念そうな声音で告げる。慧音は怒りのあまり、
言うべき言葉も無いようだった。霊夢が祓い棒をてゐに向ける。鈴仙はその間に立った。

「残念だけど……」
「そうじゃない。……私に、やらせて」
 霊夢に背を向けたまま、てゐをまっすぐ見つめて言う。ここで霊夢たちにまで『瞳』が
発動したら事だ。対するてゐは無邪気な、それでいていたずらっ気のある瞳のままだった。
返り血に汚れた顔とひどくアンバランスに見える。

「ねえ鈴仙、今回は失敗しちゃったけど次はもっとうまくやろうよ。いい考えもあるよ。
そうだね、例えば……」
 嬉々として虐殺計画を語り始めるてゐ。鈴仙は見ていられなかった。自分のせいだ。自
分がてゐをこんなふうにしてしまった――なら、責任を取るのも自分でなくてはならない。
右の指先をまっすぐ向けて、エネルギーを収束させる。そんな鈴仙をてゐは不思議そうな
顔で眺めていた。

 不意に、てゐと過ごした日々が脳裏をよぎった。思えば悪戯されたりからかわれたり、
どちらかというとロクな目に遭っていなかった気もする。でもそれが、鈴仙には不思議と
心地よかった。月の兎という事で距離を置く因幡たちの中で、唯一対等に接してくれたの
がてゐだった。悪戯をしていたのは照れ隠しもあったのかもしれない。
(ああ、そうか。やっぱりてゐは、根が優しいんだね……)
 そして鈴仙は覚悟を決めた。優しいてゐにこれ以上罪を重ねさせるわけにはいかない。
誰かがこの凶行を、惨劇を終わらせなくてはならないのだ。

「てゐ……好きだったよ」
 指先から放たれる真紅の光芒。それがまっすぐにてゐの心臓を貫いた、その瞬間も彼女
は『どうして』と言いたげな顔をしていた。そのままゆっくりとくずおれる。苦しむ間も
なく、即死だっただろう。せめてそれが救いになれば、と鈴仙は願った。

「鈴仙……」
 居た堪れない様子で霊夢が声をかける。何も答えず、鈴仙はその場に座り込んだ。視線
の先には物言わぬ屍となったてゐがいる。彼女は誰にとも無く、独白のように呟いた。

「罪を犯したものは報いを受けなければならない……そういうものだよね」
「……ああ。だから、その兎は死という罰を受けた」
 ようやく落ち着いたのか、慧音が静かに答える。しかし鈴仙は首を横に振った。そして
自嘲的に笑う。

「そう、てゐは罰を受けた。でも、まだ報いを受けていない者がいるわ」
「それは……?」
 言いかけて、霊夢は鈴仙の意図に気づいたようだ。だがもう遅い。彼女は両の手を眼窩
に捻じ込み、呪われた悪魔の瞳を抉り出した……。



 それから半年が過ぎた。あの後、顔を血まみれにした鈴仙を霊夢が永遠亭に運び込み、
永琳は怪我を押して緊急手術を実施した。出血が酷かったものの、鈴仙は一命を取り留め
たのである。
 そして永琳の政治的奔走によって『一部の暴走』という形で納まり、永遠亭は幻想郷で
の存続を許された。文の精神状態を治療することによって、妖怪の山の天狗社会とも決定
的な対立は避けることができた。

 その後、永琳とにとりの共同開発によって高性能の義眼が製作された。これにより、鈴
仙は日常生活を送るに支障ない視力を取り戻したのである。しかし、永琳の医術とにとり
の技術、それらをもってしても壊れた心まで治すことはできなかった。
 弟子の力の暴走を予見し切れなかった、と永琳は深く悔やんだ。以前のような研究意欲
を失い、ただ無為に過ごす日々が増えた。

「……ウドンゲ、今日もいい天気ね」
 永琳は鈴仙の隣の縁側に腰掛けた。返事は無い。それはわかりきっていたが、それでも
永琳は声をかけた。鈴仙はまるで隣に誰もいないかのように、ただ虚ろに空を見つめ続け
ている。今日も永遠亭は静かだった。大勢の因幡が失われたため、以前の喧騒が嘘のよう
な静謐に包まれている。

 そんな師弟を、離れた場所から輝夜が見つめていた。鈴仙はいい、いつかは彼女も死に、
この苦しみから解き放たれる。しかし永遠を生きる自分たちは、未来永劫この出来事を背
負っていかねばならないのだろうと思うと、有限の生命体がひどく羨ましくなった。















  • ギアス暴走を思い出した -- 名無しさん (2009-05-28 00:07:41)
  • これは胸が苦しい… -- 名無しさん (2009-06-01 23:22:58)
  • 冷仙がのうのうと生き残ってるのが許せない。
    何よりも真っ先に処刑すべきでは?
    目玉放りだした位で許される事じゃないと思うのだが… -- 名無しさん (2009-07-04 15:27:11)
  • ギアスwww -- 名無しさん (2009-07-04 20:08:17)
  • そういやタイトルもギアスだね -- 名無しさん (2009-07-04 20:24:02)
  • >冷仙がのうのうと生き残ってるのが許せない。
    ・・話を理解してるか? -- 名無しさん (2009-07-04 22:47:00)
  • 人間からしたらたしかに処刑もんだよね -- 名無しさん (2009-07-06 02:09:59)
  • けーねのセリフがw 何処のランスロットだw -- 名無しさん (2009-10-30 16:23:20)
  • ギアスwww感情ブレイクされたwww -- 名無しさん (2009-10-30 17:40:59)
  • 駄目だwww
    >慧音「やめろッ! これが貴様ら永遠亭のやり方なのかーッ!」


    このセリフのせいでロンバルディア持った慧音がサンシオン持ったてゐと一騎打ちしてて回りでは十字の仮面被った兎が住民虐殺してる面しか思い浮かばないwww -- 名無しさん (2011-01-01 07:56:50)
  • 八意永琳
    「聞こえるか?歴史の管理者よ。


    上白沢慧音
    「・・・貴様らが敗れるのも時間の問題だな。


    八意永琳
    「我が永遠亭にとって幻想郷の覇権など些細な問題にすぎん。
    それを知らぬわけではあるまい?


    上白沢慧音
    「・・・・・・・・・。 -- 名無しさん (2011-01-12 19:29:48)
  • 『だめだ、月の・・・援護を要請するんだ・・・。我々だけでは・・・動を抑え・・・きない・・・。』


    上白沢慧音
    「・・・日増しに高まる民衆の不満を抑えきれないようだな・・・?


    八意永琳
    「所詮、地上人は我々とは違い劣等民族だからな。彼らには少々荷が重すぎたということだ。


    上白沢慧音
    「力で人を縛り付ける、そうした永遠亭のやり方に問題がある、・・・そうは思わないのか?


    八意永琳
    「縛り付けた覚えなどないな。彼らは力で支配されることを望んだのだ。


    上白沢慧音
    「望んだだと? -- 名無しさん (2011-01-12 19:33:06)
  • 八意永琳
    「そうだ。・・・世の中を見渡してみろ。どれだけの人間が自分だけの判断で物事を成し遂げるというのだ?自らの手を汚し、リスクを背負い、そして自分の足だけで歩いていく・・・。
    そんな奴がどれだけこの世の中にいるというのだ?


    上白沢慧音
    「・・・・・・・・・。


    八意永琳
    「・・・貴公らの戦いを思い出してみよ。貴公らが血を流し、命を懸けて守った民はどうだ?
    自分の身を安全な場所におきながら勝手なことばかり言っていたのではないのか?


    上白沢慧音
    「彼らは自分の生活を維持するだけで精一杯だったのだ・・・。 -- 名無しさん (2011-01-12 19:34:32)
  • 八意永琳
    「いや、違う。被害者でいるほうが楽なのだ。弱者だから不平を言うのではない。
    不満をこぼしたいからこそ弱者の立場に身を置くのだ。彼らは望んで『弱者』になるのだよ。


    上白沢慧音
    「ばかな・・・。人には自分の人生を決定する権利がある。自由があるのだ!


    八意永琳
    「わからぬか!本当の自由とは誰かに与えてもらうものではない。
    自分で勝ち取るものだ。しかし民は自分以外にそれを求める。
    自分では何もしないくせに権利だけは主張する。
    救世主の登場を今か、今かと待っているくせに、自分がその救世主になろうとはしない。
    それが民だっ!


    上白沢慧音
    「人はそこまで怠惰な動物じゃない。ただ、我々ほど強くないだけだ。 -- 名無しさん (2011-01-12 19:36:06)
  • 八意永琳
    「・・・管理者よ、貴公は純粋すぎる。民に自分の夢を求めてはならない。支配者は与えるだけでよい。


    上白沢慧音
    「何を与えるというのだ?


    八意永琳
    「支配されるという特権をだっ!


    上白沢慧音
    「ばかなことを!


    -- 名無しさん (2011-01-12 19:37:37)
  • 八意永琳
    「人は生まれながらにして深い業を背負った生き物だ。
    幸せという快楽の為に他人を平気で犠牲にする・・・。
    より楽な生活を望み、そのためなら人を殺すことだっていとわない。
    しかし、そうした者でも罪悪感を感じることはできる。彼らは思う・・・、これは自分のせいじゃない。
    世の中のせいだ、と。
    ならば、我々が乱れた世を正そうではないか。秩序ある世界にしてやろう。
    快楽をむさぼることしかできぬ愚民にはふさわしい役目を与えてやろう。
    すべては我々が管理するのだ!


    上白沢慧音
    「意にそぐわぬものを虐げることが管理なのか!


    八意永琳
    「虐げているのではない。
    我々は病におかされたこの世界からその病因を取り除こうとしているにすぎん。
    他組織に影響を及ぼす前に悪質なガン細胞は排除されねばならぬのだ!


    上白沢慧音
    「身体に自浄作用が備わっているように心にもそれを正そうという働きはある!


    八意永琳
    「それを待つというのか?ふふふ・・・貴公は人という動物を信用しすぎている。
    民はより力のある方へ、より安全なほうへ身を寄せるものだ。


    -- 名無しさん (2011-01-12 19:39:32)
  • おいアンタ!ふざけたこと言ってんじゃ… -- 名無しさん (2011-01-13 00:30:21)
  • ↑やめろ名無しっちゃん!! -- 名無しさん (2011-01-13 00:38:24)
  • ↑↑↑
    つまらん米すんな。人の神輿担ぐことしか出来ない輩が。 -- 名無しさん (2011-03-14 21:51:12)
  • 厨二病でも患ってるのかな -- 名無しさん (2011-03-15 20:03:25)
  • こいつ外道だろ。
    5次元閉曲面上の悪魔(終):27スレ588
    のやつの -- 名無しさん (2011-03-16 13:14:13)
  • なんか人のSSに要らん米するオナニー野郎=外道って式ができとるwwww -- 名無しさん (2011-03-16 13:23:14)
  • ↑↑↑↑↑↑↑↑このいらん米って
    タクティクスオウガの会話イベント「二人のランスロット」まんまじゃねーかwww


    慧音「やめろッ! これが貴様ら永遠亭のやり方なのかーッ!」
    絶対このセリフだけで思いついたネタだろwww -- 名無しさん (2011-03-20 01:59:51)
  • どうでもいいけどえーりんはうどんげって呼ばなかった気がする -- 名無しさん (2011-10-28 19:57:57)
  • タイトルでギアス連想したけど、 内容もまんまだった -- 名無しさん (2013-09-28 01:49:28)
  • コードキアスとかランスロットとかは全然分からなかったが面白かった -- 名無しさん (2014-11-16 21:38:08)
  • えーりん!えーりん!ww -- 名無しさん (2015-01-21 19:46:00)
  • 優曇華を責めるのは、
    僕には…無理だ…(リオン風 なんとなく -- キング クズ (2016-06-28 03:35:22)
  • 暴走したてゐ様も可愛いよおおおおおおおお -- てゐ様は嫁 (2016-10-28 23:42:54)
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最終更新:2016年10月28日 23:42