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衣玖さん紅魔館でいじめ」(2014/03/01 (土) 21:09:58) の最新版変更点

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「あなた、あの土臭い妖怪を私にけしかけたそうね」 天界の深海魚、衣玖さんはその日天界、緋想天に召喚されちゃっていました。 目の前でふんぞり返って文句を垂れているのは彼女の上司の悪餓鬼である天子ちゃんです。 「けちょんけちょんのメッタメタのギッタンギッタンにしちゃえって言ったそうね」 「そんなことは」 「うるさいっ!」 見るからに不機嫌そうな天子ちゃんは衣玖さんの言うことなんて聞きゃあしません。 天上天下唯我独尊なんて言葉は彼女のためにあるのですから。 「うるさいうるさいうるさいっ! この薄情者! 魚類っ! 蓮子2号!」 「ああっ、何をするのですか!」 「お前なんかこうしてやるぅー!」 あーれー 天子ちゃんは泣きながら衣玖さんのトレードマークともいえるひらひらの羽衣をぐるぐると剥ぎ取ってしまいます。 衣玖さんはそんなときでも自ら回転しやりやすいようにする配慮を怠りません。くるくる。 すっかり羽衣を剥がされてしまった衣玖さんは目を回しながら崖の方へふらついて行ってしまいます。 「あっ、危ない!」 天子ちゃんがそのことに気付きます。根はやさしい女の子なのです。 ダッシュで衣玖さんに駆け寄る天子ちゃん。予定調和です。 そんな予定調和を衣玖さんが見逃すなんてそんなわけはありません。しっかりと草を結わってあります。 「えっ!?」 こうして見事に決まる天子ちゃんDC。 ガードもせずに喰らう衣玖さんは見事な縦回転を披露しながら下界へと堕ちて行く事になるのです。 ざっぱーん。 いつものように門でお昼寝をしていた門番さんはその大きな水音で起こされてしまいました。 むにゃむにゃと目を擦りながらあたりの様子を伺います。部下の妖精があわてて駆け寄ってくるのが見えてしまいます。 「親分!ていへんだていへんだ!湖に何か落ちてきやしたぜ!」 息を切らして報告する部下を見てしぶしぶ立ち上がります。対応しないわけにはいかないのです。 門にいた妖精を数人引き連れて門番さんは湖へと様子を見にいきます。 門番さんがスッと手を上げます。それを合図に背後から数多くの釣り糸が投擲されます。 「釣り上げた者には今日の夕飯のデザート一割増するわ!」 おおー!と歓声が上がりそこらかしこで静かな戦いが始まります。 門番さんはそんな様子を見てひとしきり満足すると少しばかり離れた水辺に腰を下ろします。 やれやれ、ここでもう一眠り。 そう思ったのもつかの間。まさに目を瞑ろうとしたその瞬間、眼前にうつぶせの衣玖さんが浮かび上がってきてしまいました。 なんてこった。そう思ったのも無理はありません。見つけてしまった以上引き上げてやらなければいけないからです。 …なかったことに出来ないか。 そんな邪な考えが頭をよぎります。そしてそれを即座に採用してしまう何者かがいます。 沈めー、沈めー。 両手を向けてハンドパワーを送ります。実際気も送っちゃいます。 その気を受けて衣玖さんががポチャンと沈みます。本能です。 ふうやれやれ。 門番さんが額の汗をぬぐいます。いい仕事をした、これで寝れる。 門番さんの記憶は今日はここまでなのです。みー。 衣玖さんが目を覚ますとそこには見知らぬ天井がありました。 ここは誰? あたしはどこ? 「ここはリュウグウノツカイであたしは紅魔館ですよ」 返事が返ってきてしまいました。 その声がするほうに顔を向けるとどこかで見たメイドさんが瀟洒に雑巾を絞っているところでした。 「あなたは昨日湖に落ちてきたのです。勝手ではありますがこうして水揚げして手当てをさせていただきましたわ」 「そうですか、それはありがとうございます」 起き上がろうとする衣玖さんをメイドさんは濡れ雑巾で抑えます。 「まだ動いては駄目ですわ。今日一日は安静にお願いします。まだ釜の準備が整っておりませんので」 衣玖さんの額に濡れ雑巾を置き、そう言ってメイドさんは立ち去ってしまいます。 いいひとだー、と衣玖さんは涙目で感激してしまいました。人のやさしさに触れたのは久しぶりだったのです。 涙を拭き、傍らにおいてある新聞を手に取りパラリと眺めます。 文々。新聞と書いてあるその新聞には記事が三つありました。 一つ、知人を崖から突き落としたかどで天人が逮捕された。 一つ、湖のほとりでチャイナ服を着た妖怪が額にナイフが刺さった状態で発見された。 一つ、二股の猫が列車の往来を妨げたかどで被疑者死亡のまま書類送検された。 幻想郷といえども物騒なことです。やはりこの世の中自分の身は自分で守るしかないのでしょうか…。 「ここで働かせてもらえないでしょうか」 翌朝、巨大な出刃包丁を携えてやってきたメイドさん(メイド長らしい)に衣玖さんは開口一番そう告げました。 「どういうことかしら」 メイド長は声が上擦っています。当然です。働きたいと陳情してきた妖怪なんて見たことがなかったのですから。 対して、衣玖さんの目は真剣です。 天界から衣を奪われた上で突き落とされたのです。 これすなわち追放。平たく言えば帰ってくんなと言われたに等しいことなのです。 衣玖さんは地上の妖怪としての余生を甘受しなければいけないのです。 ならば職を。生きていくために何か仕事を。 衣玖さんは当然そう考えました。働かざる者食うべからず。 ただふよふよと雲の中を漂っていれば良かった天界での暮らしとは違うのです。 「言葉通りです。もはや私は天界には戻れません。どこにも行く場所がないのです。どうかここで雇ってください」 涙ながらに言う衣玖さんにメイド長は一瞬で心を砕かれました。 今の今までこんな態度で働かせてくれと言って来た者がいただろうか? いやない(反語) 「分かったわ、ならばここ紅魔館で私と一緒にメイドをやりましょう!」 感激のあまり涙を流し、衣玖さんの手をがっしと掴むメイド長。 出刃包丁をはさんで向かい合う二人。ああ、仲良きことは美しきことかな。 かくして、衣玖さんは紅魔館でメイドとして働くことになったのです。 「ふうん、新しいメイドね、がんばってね」 この屋敷の主人は衣玖さんにそういっただけ、興味もありそうにありませんでした。 衣玖さんはがんばりました。 朝は誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅くまで起きていました。 掃除や洗濯、炊事の腕は一流で、普通のメイドの100倍、メイド長の1/2程も仕事をしました。 「がんばってるわね、少しは手を抜いてもいいのよ」 「いえ、無理を言って雇っていただいていると言うのに手を抜くなんてとんでもないことです。  でも、手を抜いてもいいなら抜きます」 近くにいた妖精メイドはこんなありえない会話を聞いたとまで言います。 そんな馬鹿な、メイド長が手抜きを示唆しただと!? なぜあの新入りだけ!? 私たちは? いや待って、これは遠まわしに私たちにも手を抜けと言っているのよ! そ、そうか! メイド長はツンデレ属性だったわね! 新入りにプレッシャーをかけないように少しは気を使えって事ね!! 紅魔館にはナイフが降ってくる天候があるそうです。 何はともあれ、衣玖さんはがんばったのです。 そのため、館内での評価も鯉の滝登りのように急上昇していきました。 しかし、世の中と言うのはどす黒い物です。当然妬む者も出てきます。 一部の心無い者によって誹謗中傷が始まります。 あの魚、食事の用意をするとき自分のお風呂の残り湯を使っているそうよ お風呂の中で激しく動いているようね、いやらしい この前廊下を歩いていたらあいつの抜け鱗に滑って転んだのよ 土曜日の夜になると奇妙な音が聞こえてくるのよ、なにかしらあれ この前河童が変な機械持って訪ねて来たわ。変なのと仲がいいようね そんな隠そうともしない中傷に、衣玖さんは傷ついてしまいます。 メイド長はそんな妖精メイドを次々粛清していきますが、中傷は止みません。 「衣玖ちゃんは悪くないよ、いぢめるやつが悪いんだよ」 「そ、そんなことないです。至らない私が悪いんです。ぇぐぇぐ」 「泣いちゃ駄目だよ! 連中の思う壺だよ!」 しかし、基本的に真面目な衣玖さんには助けてくれる妖精メイドさんもたくさんいます。 ご飯時にいぢめっ子集団に味噌汁をぶっかけられた衣玖さんに支援の手が差し伸べられます。 「だってこいつ自分の垢で出汁取ってんのよ! そんなえんがちょ汁飲めるわけないじゃない!」 「何言ってんのよ! それだから美味しいんじゃない! 馬鹿じゃないの!」 「きめえ!」 もはや公然の秘密と化した衣玖さんの調理手法をめぐって舌戦が展開されます。 激しい罵りあいを前に、衣玖さんは何も言えません。 目の前の争いは風呂の残り湯で味噌汁を作る事の是非に集中しています。 まさかそれ以上にお風呂の中でピーしてピー出してピーな事してるなんて言える筈ないじゃないですか。常考。 しかし、この派閥争いは拡大の一途を辿っていってしまうのです。 あろうことか、否定派の先頭に立ったのは紅魔館の主、レミリア・スカーレットその人でした。 「自分の身を削らないと美味しいご飯を作れないなんてとんだ優秀メイドさんね!」 そう言って運ばれてきた食事をちゃぶ台返し、衣玖さんを蹴り倒します。 「ああっ! おやめくださいご主人様ぁ!」 「このっ、このっ! 白々しいのよこの雌魚! これでもかっ! これでもかっ!」 勢いに任せて衣玖さんを踏みつけるお嬢様。 しかしお嬢様にも分かっているのです。衣玖さんをこのように扱うのは間違っているのだと。 ただ、否定派の頭になってしまった以上自らが率先して態度で示さなければいけないのです。 「おやめくださいお嬢様!」 「咲夜!?」 そこへ、メイド長が割って入ってきます。 うずくまって泣き崩れる衣玖さんにかぶさるように保護し、お嬢様に向き直ります。 「衣玖は一生懸命に仕事をしているではありませんか! なぜこのような仕打ちをなさるのですか!」 「それは…」 二人を前にしてお嬢様は臍を噛みます。 本来ならば自分も衣玖さんの食事を美味しいと言ってやりたいのです。 ただ、ある日口にしたスープの中に血が少量混ざっているのに気付き、 「O型ね」なんて口走ってしまったがために不満を持っていると思われ否定派の頭に担ぎ上げられてしまったのです。 「それは…、嫉妬をしているからよ…」 「お嬢様…?」 こうなってしまった以上は仕方ない。 多少傷を負ってでもこの負の連鎖を止めるより他に術はない。 そのような決断が出来るのもレミリア・スカーレットの当主としてのプライドとカリスマあっての事。 「どうして! どうしてこいつなの!?   こいつの料理の腕がいいことは認めるわ!  でもどうしてこいつなのよ!!」 お嬢様が悲痛な面持ちで胸の内を曝け出します。 「私は咲夜がいいの! 咲夜の汁が飲みたいのよ!!  どうして咲夜は私のために身を削って味噌汁を作ってくれないのよ!!」 はあはあと、息を荒げながらお嬢様が言い切ります。 そんなお嬢様を衣玖さんとメイド長はあっけに取られて見上げます。 悲しそうな、つらそうな主の顔を見ていられなかったのか、メイド長が目をそらします。 「申し訳ございませんお嬢様。  かつて一度だけご提供したあの味にそんなに恋焦がれておられたとは存じ上げませんでした。  ただ…、ただそれでも咲夜は衣玖の汁の方が好みで御座います」 衣玖さんによる雷鳴が轟きました。 こうして紅魔館にスカーレットデビルが降臨することになってしまったのです。 それからと言うもの、お嬢様は誰にも手を付けられない状態になってしまいました。 ヒステリーを起こし、見る物すべてに当り散らすのです。 「そこのメイドッ! 窓の桟に埃がある!」 「不味い! この洗いを作ったのは誰!?」 「何で雨が降っているのよっ!!」 万事がすべてこんな調子。 いつしか、元凶である衣玖さんいぢめの空気は消え、お嬢様を敬遠する空気が出来上がってしまいました。 ひそひそ、ひそひそとお嬢様に対する不満の声がささやかれるようになります。 「あの小娘、生じゃね?」 「生だよねー、何様ってカンジ?」 「お嬢様でしょ。れみりゃおじょうさま」 「カリスマ無いんだったら黙って幼女でもやってればいいのにねー」 キャハハハハハ そんな蔑みの声があたりから聞こえてきます。 「ねえ、衣玖ちゃん。あんたもそう思わない?あいつうざいよねー」 「ええ、自分ひとりじゃ何も出来ないくせに主だなんてちゃんちゃらおかしいですよねー」 そう適当に相槌を打ちながらも衣玖さんの心境は複雑でした。 前まで自分をいぢめてきたメイドまで自分へのいぢめをやめ、お嬢様いぢめをするようになってしまったのです。 ―これではまるでお嬢様を盾にいぢめから逃れたみたい。 そうは思ったけれど、衣玖さんにはこの空気を変えようという勇気がありませんでした。 下手にお嬢様をかばってまた自分が目を付けられたらどうしよう。 そんな思いが先行してしまいます。 そんな風に、何もしない日々が続いても、いや何もしなかったからこそ、起こるべき事件が起きてしまいます。 「この駄メイド! まだ分からないのか!!」 とあるメイドが、ついにやらかしてしまいました。 みんながみんな、お嬢様の気に障ることがないようにと極めて神経を使っていたというのに あろうことかこのメイドは廊下を歩くお嬢様の目の前を横切ってしまったのです。 「どういうつもり? この私の前を横切ろうだなんて、殺されたいの!?」 そう言って、恐怖に震えるメイドの喉を引っつかみ、壁に叩きつけます。 その衝撃にメイドの口から血が吐き出され、苦しみからか喉を掴んでいるお嬢様の腕に手を掛けてしまいます。 「ふうん、主に血を吐きかけた上、抵抗しようって言うの。いい度胸じゃない」 憎憎しげに言い、メイドを掴む手に更に力を入れます。 メイドの喉からは苦しげな声が漏れ、赤色の泡があふれ出してきます。 そんな状態になって、ようやくあたりから他の妖精メイドたちが駆けつけてきます。 「なあに、あなたたち。何か文句でもあるのかしら」 そんなメイドたちをお嬢様は半目で一瞥します。 瞼の間から覗くその真っ赤な瞳を前に、妖精メイドたちはそれ以上近寄ることが出来ません。 「あらあら、薄情なこと。紅魔館のメイドと言うのは本当に出来が悪いわね」 自らの召しいるメイドたちをそのように蔑み、お嬢様は粗相をしたメイドに向き直ります。 喉を掴む手の、中指だけに力を込め、メイドの更なる苦痛を引き出します。 「ぁ…ぐ…ぁぁ…」 「悲鳴ぐらいまともに上げなさいよ、ほんと使えないわね」 びくびくと痙攣する妖精メイドを見下し、やれやれとため息をつくお嬢様。 時折わざと力を緩め、メイドに息を継がせてやります。 そして、再び締め付け、苦痛を与えているのです。 次第に、周囲の妖精メイドの間に困惑が広がっていきました。 お嬢様は何がしたいのだろう。 何であんな生殺しの状態を維持しているのだろう。 間断なく継続的に聞こえてくるそのメイドの苦痛の声に、恐怖の声に、 周囲のメイドに言いようのない不安と恐怖が蔓延していきます。 「おやめください、お嬢様」 そんな中、毅然とした声が廊下に響き渡ります。 完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜その人です。 「まずはメイドの一人が粗相を致した事、お詫び申し上げます。  しかしながら、メイドたちの責任者はこの私で御座います。  仕置きならばこの私になさるようお願い申し上げます」 それを聞いたお嬢様の口元が吊り上がります。 その様子を見て周囲のメイドたちがはっと気付きます。 ああ、お嬢様はメイド長を待っていたのだ。 「いい度胸ね咲夜。ではさっそくあなたに仕置きをすることにするわ」 嫌らしい笑みを浮かべながらメイド長に向かって前傾姿勢をとるお嬢様。 次の瞬間、メイド長のいた場所にはお嬢様が立っていました。 メイドたちがあっけに取られ、続いてドンという音が届いてきます。 音のほうを振り向くと、メイド長が廊下を跳ね、転がっていくところでした。 元から紅い絨毯が、更なる紅で染められていきます。 「立ちなさい咲夜、急所ははずしたはずよ」 その声に、メイド長がぴくりと反応し、真っ赤な腹を押さえ生まれたての子鹿のように立ち上がります。 力なく、ふらふらと。そんな状態でもお嬢様を見る目にだけは力が入っています。 にっこりと微笑むお嬢様。 血まみれの手を掲げ、ゆっくりとメイド長に歩み寄るその姿は何故かとても美しいものでした。 「何かいうことはあるかしら」 弾んだ声でたずねるお嬢様。 「お怒りはお静まりになられましたでしょうか」 震えた声で返すメイド長。 互いに、互いの言葉を聞き笑顔で見詰め合う。 そんなあまりに不自然な時間。そしてその刹那。 お嬢様は血溜まりに着地し、メイド長は轟音と共に廊下の果ての壁にめり込んでいました。 あまりの事に声も出せないメイドたち。 メイド長の激突した壁は放射状の紅に染まり、 重力に従うのみのメイド長の体はずるずると壁の下に流れて止まります。 「もう終わり? やっぱり人間は駄目ね、すぐに壊れちゃう」 そんなメイド長に興をそがれたのか、お嬢様はため息をついて立ち止まります。 「止めくらいは刺してあげるわ。感謝なさい」 お嬢様の手に、紅く光る槍が出現します。 神槍「スピア・ザ・グングニル」 その槍を手元でぐるりと回し、メイド長に切先を合わします。 ここまでね。 自分に向けられているのであろうグングニルをその身に感じ、 メイド長は諦めにも安らぎにも思える心境に満たされていました。 お嬢様と仲直りできなかった諦め。 紅魔館の激務から開放される安らぎ。 目を開けることも出来ず、呼吸もままならないそんな状況で、 飛んでくる紅の槍が到達するまでの間、メイド長は考えるのです。 ああ、これで胸のことなんか考えなくても済む。 ベッドの下の本を処分しておいて正解だったわ。 そういえば、新入りの衣玖、少し無責任だったかしら。 薄れていく感覚が、槍の接近に伴って研ぎ澄まされていき、 あらゆる感覚のボリュームが大きくなっていく。 それが極大にまで大きくなり、突然ゼロになるその瞬間。 メイド長は何者かの絶叫を聞いた様な気がしたのでした。 「おはよう、ずいぶんといいご身分ね」 衣玖さんが目を覚ましたとき、真っ先に視界に入ってきたのは紫色の寝巻きを着た魔女でした。 図書館の魔女、パチュリー・ノーレッジ。 「もう深夜よ」 「ここは…図書館ですか。今は…いつですか?」 「状況認識がすばやいのは結構なこと。あれから一ヶ月経っているわ」 「そんなに…」 それを聞き、なにやらうなだれる衣玖さん。 自らの体をぐるぐる巻きにしている包帯に気付き、更にその表情は曇ります。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、成功したわ」 そう言って、魔女が机の上に置いてある一冊の本を指差します。 青いハードカバーの、だが表紙に何も書いていない本。 「あれが、そうなんですか?」 「ええ、レミィを封じた本。本来ならもっとしっかりした場所に保管する物なんだけど、  あなたには、一目見せておきたくてね」 その言葉に、衣玖さんはその立派な本を感慨深そうに見つめます。 表情からは悲しみが感じられます。 「ありがとうございます。もう結構です」 「そう…。  小悪魔」 「はい」 魔女の呼びかけに、彼女の使い魔たる小悪魔が応えます。 机の上にある本をそっと抱きかかえると、彼女はスッと図書館の奥に消えていってしまいます。 「パチュリー!」 突如、図書館に元気の良い声が響きます。 通称妹様と呼ばれていた紅魔館のもう一人の悪魔です。 「フラン、衣玖が起きたわ」 「えっ!?」 魔女の言葉に、妹様が振り返ります。 その視線に気付いた衣玖さんはえへへと笑いかけ、手を振ります。 「衣玖! 元気になったの!?」 嬉しそうに衣玖さんに駆け寄り布団に抱きつく妹様。 そのとたん、衣玖さんの体に激痛が走ります。 「ーーーーーっ!!!」 痛みにゆがむ衣玖さんを見て、妹様がしまったと言う表情をします。 その後ろでは魔女がやれやれとため息をついています。 「飲みなさい、薬よ」 差し出される数錠の薬と水。それを軽く飲み干すと改めて衣玖さんは妹様に向き直ります。 「お見舞いありがとうございます」 「いいよ、気にしないで」 ぽふんと、今度はやさしく布団に顔を乗せる妹様の表情はとても柔らかです。 背中の羽もご機嫌にぱたぱた動いています。 「あ、あの…」 「ん?」 「メイド長は…」 衣玖さんがメイド長の名を出した瞬間、辺りをどんよりとした暗い空気が漂います。 「あなた、まさか分からないわけ?」 「い…、いいえ。そうですよね。すいません、空気読めませんでした」 衣玖さんはやってしまったとばかりに視線をふらつかせ、布団を掴む手に力を込めます。 あの時、お嬢様がメイド長に止めの一撃を放ったとき、衣玖さんはお嬢様に飛び掛りました。 怒りに震えた彼女の一撃は見事に直撃し、反撃を受けながらもお嬢様を押さえ込むのに成功しました。 その隙に、図書館の魔女と妹様が封印の術を完成。 見事お嬢様を本に封印することに成功したのです。 「あの時は、発破をかけるまでずいぶんと腑抜けた表情をしていたわね」 「申し訳ありません」 「あなたの能力は空気を読むことだけれども、読んでいるだけでは駄目だという好例だったわね。  空を飛ぶときでも空気を読んでただそれに従うだけでなく、  時には逆らうようなことをしないと、地上に落下してしまうわ。思い出したかしら」 「ええ、思い出しました。今回の私はどうも気が抜けて流されるがままだったということですね」 「思い出したのならいいわ、それからあの二人の事はあなたの責任ではないわ、気に病まない事ね」 「ご忠告、感謝いたします」 そこまで言って、魔女はこれでこの話は終わりといった表情をしました。 衣玖さんはそんな表情を見てふっと笑みをこぼします。 「それにしても、フランの魔法の腕は大した物だったわ、いい魔法使いになりそうね」 「え? そう? あはは、おだてても何もでないよ?」 笑いあう二人を見て、衣玖さんは何か泣きたい気分になってきました。 今回の事で、この屋敷は二人ほど大きな存在を失ってしまいました。 でも、こうしてまだこの屋敷は生きているのです。まだやり直せる。 そう思うと衣玖さんの目から涙が止まらなくなってきます。 「ねえ!」 そこに、再び妹様が抱きついてきます。衣玖さんが痛くないようにそっと、やさしく。 「衣玖、紅魔館のメイド長をやってよ!」 「え? いえ、そんなわけには」 「衣玖しかできないって!」 衣玖さんに抱きついたまま懇願してくる妹様。 衣玖さんは、罪悪感からか困ったような顔をして口ごもるばかりです。 「気に病んでいるようならばむしろやって貰った方が良いわ」 「パチュリー様?」 「あなたは真面目だし、それなりの実力者だもの。そんなに大それた失敗はしないはずよ」 今回のことは失敗ではないのか。 そう言おうと思いましたが、衣玖さんは魔女の表情を見て思いとどまります。 そして、抱きついたままの妹様に向き直ると笑顔でこう言うのです。 「承りました。紅魔館のメイド長。務めさせていただきます」 それからしばらくの間、衣玖さんは紅魔館でメイド長をやることになりました。 新しい主は妹様。彼女の方も慣れないなりに頑張ってやっているようです。 妖精メイドたちは、あの一件からみんなして相談事をし、何かを決意したようです。 以前とは違ってみんなの顔には生気があふれています。 さて、新たなメイド長になった衣玖さんには新たな日課が出来ました。 「今日もですか、飽きませんね」 「そう言うあなたも」 衣玖さんが毎朝小悪魔さんと会うのはあの惨劇の場です。 決して忘れないように、とそこは極力そのままで置いておくことになっているのです。 廊下に広がった赤黒いシミ、破壊された壁、そしてそこに広がる放射状の… 「毎日花を添えていると咲夜さん花嫌いになっちゃいませんかね」 「大丈夫でしょう、出来るだけ種類を変えるようにしていますから」 花を添え、二人して手を合わせます。 願わくは、あなたの来世が光に包まれた素晴らしいものにならんことを。 そんな毎日が続いていく。 そんなことをどのくらいの者達が思っていたのでしょう。 少なくともそう多くはなかったはずです。 だって、ここに集まった者達に驚きは見られなかったのですから。 「ほら、天子ちゃん。何か言うことがあるでしょう」 「…っく、ぇ…い、衣玖…」 幻想郷の高名なスキマ妖怪に連れられてきたのは衣玖の上司の娘である比那名居天子ちゃんです。 そこら中ボロボロで、頭におっきなたんこぶをこしらえて泣き崩れる彼女に衣玖さんはただおろおろするばかり。 「どうしました、総領娘様」 「あ…あの…、衣玖…」 涙声で、要領を得ない天子ちゃんの言葉を受け、衣玖さんは困った顔を紫に向けます。 「お父さんにたぁぁぁぁっぷり絞られちゃったのよねぇー」 天子ちゃんの顔をのぞき込んで楽しそうに言う紫を見て、その場にいたものは絶対にその限りではないことを確信します。 「ご、ごめ…なさい。ごめんなさい。…もど、もどってきて、衣玖」 天子ちゃんがうつむいたまま、衣玖さんの緋の衣を差し出してきます。 それを見て、その意味を悟って衣玖さんの顔色が変わります。 ばっと振り向いて、紅魔館の面々を見やります。 にやにや、にこにこと笑っています。手を振る者までいます。 「あの」 「いいのよ、行きなさい。ここで読むべき空気、分からないわけはないでしょう」 「楽しかったよ、またあそびにきてね!」 「またお花を供えに来てくださいね」 笑顔で別れの言葉を継げてくる紅魔館の住人達。 そのさようならな空気に、衣玖さんはそっと目を伏せて天子ちゃんの方に向き直ります。 「分かりました。帰りましょうか、総領娘様」 差し出された緋の衣を受け取り、サッと身に纏う衣玖さん。 天子ちゃんの手を握り、最後にもう一度だけ振り返ります。 「皆さん、ありがとうございました。また遊びに来ます」 何かが流れたような跡がある顔で、震えた声で衣玖さんが別れを告げます。 そのまま、天子ちゃんの手を引いて、ふわふわと天へと帰って行きます。 「さて、紅魔館はこれからどうなるのかしら」 空へと飛び去った衣玖さんたちが見えなくなると、紫がやれやれと言った風に言いました。 「どうにでもなるわ、これだけ居るのだもの」 魔女が言います。どことなく明るい声です。 「また遊びに来てくれるかな」 「ええ、きっと来てくれますよ」 少し不安そうな妹様に、それを励まそうとする門番さん。 周りでは妖精メイド達が妹様に笑顔を向けています。 「妹様! いいものが出てますよ!」 そんな中、威勢の良い声が聞こえてきます。 みんながその声の方を見ると、小悪魔が空を見上げて指さしています。 みんなが視線を向けた先。 そこには天へと繋がる七色の虹が、淡い光を放っていました… ---- - なんというハッピーエンド &br()衣玖に不幸は似合わないな -- 名無しさん (2009-04-18 23:09:58) - あれ?結局レミリアいじめじゃね?これ -- 名無しさん (2009-04-19 01:12:09) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-04-19 01:47:31) - 咲夜さんとは違って誰にも悼まれないレミリアざまあwww -- 名無しさん (2009-04-19 15:56:38) - 中国じゃねーの? &br()紅魔モノなのに出番が最初のみ、小悪魔より出番ねぇ &br()イク様のダシ汁なら喜んで飲みますよ -- 名無しさん (2009-04-20 06:48:39) - 結局、どんな話でも大抵はレミリアいじめになるというのが紅魔クオリティ。 &br() &br()それよりも、 &br()>一つ、二股の猫が列車の往来を妨げたかどで被疑者死亡のまま書類送検された。 &br()…どっちの猫なのかが気になる。 -- 名無しさん (2009-04-21 05:49:48) - >結局、どんな話でも大抵はレミリアいじめになるというのが紅魔クオリティ。 &br()いじめられ役=カリスマ(笑) &br()いじめ役=因果応報でカリスマ(笑) &br()どちらでもない1=いじめ放置のしっぺ返しでカリスマ(笑) &br()どちらでもない2=いじめられ役にしょうもないフォローして失敗しカリスマ(笑) &br() &br()鉄板の流れではある -- 名無しさん (2009-04-21 09:05:19) - 流石いじめ界のトップスター -- 名無しさん (2009-04-22 02:29:08) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-04-23 23:01:56) - レミリアは本当にどうしようもないなw -- 名無しさん (2009-04-25 03:16:02) - なんという、ほのぼのストーリー。 &br()そして無能すぎるカリスマ(笑)。消えるのがまるで気にならんとは。 -- 名無しさん (2009-04-25 08:46:09) - なんというカオス具合w &br()しかも結局レミリアいじめかw -- 名無しさん (2009-05-11 03:16:03) - どの作品見ても紅魔館が絡む物語は &br()最終的にレミリアが酷い目に合うな…w -- 名無しさん (2009-05-11 17:33:34) - やっぱり大抵紅魔館の話は最終的にカリスマ(笑)が・・・ -- 名無しさん (2009-05-17 15:22:34) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-07-12 00:14:11) - 衣玖さんの出汁とかw &br()俺だったら喜んで飲むね(キリッ -- 名無しさん (2009-12-01 10:54:26) - レミリア以外の紅魔キャラいじめは、最速レミリアに「ざまぁwww」と言うことがその話の終点 -- 名無しさん (2009-12-01 12:16:44) - たまにはメイド長のことも思い出してあげて下さい。基本、お嬢様の八つ当たりを受けるのは彼女です -- 名無しさん (2009-12-01 21:12:08) - ↑不憫だ…… -- 名無しさん (2010-04-16 08:09:06) - わーなんてはっぴーえんどー &br()というかどんな料理の仕方だw -- 名無しさん (2010-05-23 23:09:03) - もうそりゃ・・まあ出汁と言ってた気も・・想像付かないな -- 名無しさん (2010-06-02 21:27:28) - >…どっちの猫なのかが気になる &br()主人の又主人のスペルを考えると、橙じゃないか? -- 名無しさん (2010-06-13 02:58:54) - シュールな笑いは大好きSA☆ -- 名無しさん (2010-06-19 00:57:08) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2012-07-30 22:32:29) - レミリア(笑 -- 名無しさん (2013-04-06 18:18:48) - 「 &br() -- 名無しさん (2013-05-17 18:13:36) - レミリアざまぁだな。 -- 動かぬ探究心 (2013-06-04 21:37:27) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
「あなた、あの土臭い妖怪を私にけしかけたそうね」 天界の深海魚、衣玖さんはその日天界、緋想天に召喚されちゃっていました。 目の前でふんぞり返って文句を垂れているのは彼女の上司の悪餓鬼である天子ちゃんです。 「けちょんけちょんのメッタメタのギッタンギッタンにしちゃえって言ったそうね」 「そんなことは」 「うるさいっ!」 見るからに不機嫌そうな天子ちゃんは衣玖さんの言うことなんて聞きゃあしません。 天上天下唯我独尊なんて言葉は彼女のためにあるのですから。 「うるさいうるさいうるさいっ! この薄情者! 魚類っ! 蓮子2号!」 「ああっ、何をするのですか!」 「お前なんかこうしてやるぅー!」 あーれー 天子ちゃんは泣きながら衣玖さんのトレードマークともいえるひらひらの羽衣をぐるぐると剥ぎ取ってしまいます。 衣玖さんはそんなときでも自ら回転しやりやすいようにする配慮を怠りません。くるくる。 すっかり羽衣を剥がされてしまった衣玖さんは目を回しながら崖の方へふらついて行ってしまいます。 「あっ、危ない!」 天子ちゃんがそのことに気付きます。根はやさしい女の子なのです。 ダッシュで衣玖さんに駆け寄る天子ちゃん。予定調和です。 そんな予定調和を衣玖さんが見逃すなんてそんなわけはありません。しっかりと草を結わってあります。 「えっ!?」 こうして見事に決まる天子ちゃんDC。 ガードもせずに喰らう衣玖さんは見事な縦回転を披露しながら下界へと堕ちて行く事になるのです。 ざっぱーん。 いつものように門でお昼寝をしていた門番さんはその大きな水音で起こされてしまいました。 むにゃむにゃと目を擦りながらあたりの様子を伺います。部下の妖精があわてて駆け寄ってくるのが見えてしまいます。 「親分!ていへんだていへんだ!湖に何か落ちてきやしたぜ!」 息を切らして報告する部下を見てしぶしぶ立ち上がります。対応しないわけにはいかないのです。 門にいた妖精を数人引き連れて門番さんは湖へと様子を見にいきます。 門番さんがスッと手を上げます。それを合図に背後から数多くの釣り糸が投擲されます。 「釣り上げた者には今日の夕飯のデザート一割増するわ!」 おおー!と歓声が上がりそこらかしこで静かな戦いが始まります。 門番さんはそんな様子を見てひとしきり満足すると少しばかり離れた水辺に腰を下ろします。 やれやれ、ここでもう一眠り。 そう思ったのもつかの間。まさに目を瞑ろうとしたその瞬間、眼前にうつぶせの衣玖さんが浮かび上がってきてしまいました。 なんてこった。そう思ったのも無理はありません。見つけてしまった以上引き上げてやらなければいけないからです。 …なかったことに出来ないか。 そんな邪な考えが頭をよぎります。そしてそれを即座に採用してしまう何者かがいます。 沈めー、沈めー。 両手を向けてハンドパワーを送ります。実際気も送っちゃいます。 その気を受けて衣玖さんががポチャンと沈みます。本能です。 ふうやれやれ。 門番さんが額の汗をぬぐいます。いい仕事をした、これで寝れる。 門番さんの記憶は今日はここまでなのです。みー。 衣玖さんが目を覚ますとそこには見知らぬ天井がありました。 ここは誰? あたしはどこ? 「ここはリュウグウノツカイであたしは紅魔館ですよ」 返事が返ってきてしまいました。 その声がするほうに顔を向けるとどこかで見たメイドさんが瀟洒に雑巾を絞っているところでした。 「あなたは昨日湖に落ちてきたのです。勝手ではありますがこうして水揚げして手当てをさせていただきましたわ」 「そうですか、それはありがとうございます」 起き上がろうとする衣玖さんをメイドさんは濡れ雑巾で抑えます。 「まだ動いては駄目ですわ。今日一日は安静にお願いします。まだ釜の準備が整っておりませんので」 衣玖さんの額に濡れ雑巾を置き、そう言ってメイドさんは立ち去ってしまいます。 いいひとだー、と衣玖さんは涙目で感激してしまいました。人のやさしさに触れたのは久しぶりだったのです。 涙を拭き、傍らにおいてある新聞を手に取りパラリと眺めます。 文々。新聞と書いてあるその新聞には記事が三つありました。 一つ、知人を崖から突き落としたかどで天人が逮捕された。 一つ、湖のほとりでチャイナ服を着た妖怪が額にナイフが刺さった状態で発見された。 一つ、二股の猫が列車の往来を妨げたかどで被疑者死亡のまま書類送検された。 幻想郷といえども物騒なことです。やはりこの世の中自分の身は自分で守るしかないのでしょうか…。 「ここで働かせてもらえないでしょうか」 翌朝、巨大な出刃包丁を携えてやってきたメイドさん(メイド長らしい)に衣玖さんは開口一番そう告げました。 「どういうことかしら」 メイド長は声が上擦っています。当然です。働きたいと陳情してきた妖怪なんて見たことがなかったのですから。 対して、衣玖さんの目は真剣です。 天界から衣を奪われた上で突き落とされたのです。 これすなわち追放。平たく言えば帰ってくんなと言われたに等しいことなのです。 衣玖さんは地上の妖怪としての余生を甘受しなければいけないのです。 ならば職を。生きていくために何か仕事を。 衣玖さんは当然そう考えました。働かざる者食うべからず。 ただふよふよと雲の中を漂っていれば良かった天界での暮らしとは違うのです。 「言葉通りです。もはや私は天界には戻れません。どこにも行く場所がないのです。どうかここで雇ってください」 涙ながらに言う衣玖さんにメイド長は一瞬で心を砕かれました。 今の今までこんな態度で働かせてくれと言って来た者がいただろうか? いやない(反語) 「分かったわ、ならばここ紅魔館で私と一緒にメイドをやりましょう!」 感激のあまり涙を流し、衣玖さんの手をがっしと掴むメイド長。 出刃包丁をはさんで向かい合う二人。ああ、仲良きことは美しきことかな。 かくして、衣玖さんは紅魔館でメイドとして働くことになったのです。 「ふうん、新しいメイドね、がんばってね」 この屋敷の主人は衣玖さんにそういっただけ、興味もありそうにありませんでした。 衣玖さんはがんばりました。 朝は誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅くまで起きていました。 掃除や洗濯、炊事の腕は一流で、普通のメイドの100倍、メイド長の1/2程も仕事をしました。 「がんばってるわね、少しは手を抜いてもいいのよ」 「いえ、無理を言って雇っていただいていると言うのに手を抜くなんてとんでもないことです。  でも、手を抜いてもいいなら抜きます」 近くにいた妖精メイドはこんなありえない会話を聞いたとまで言います。 そんな馬鹿な、メイド長が手抜きを示唆しただと!? なぜあの新入りだけ!? 私たちは? いや待って、これは遠まわしに私たちにも手を抜けと言っているのよ! そ、そうか! メイド長はツンデレ属性だったわね! 新入りにプレッシャーをかけないように少しは気を使えって事ね!! 紅魔館にはナイフが降ってくる天候があるそうです。 何はともあれ、衣玖さんはがんばったのです。 そのため、館内での評価も鯉の滝登りのように急上昇していきました。 しかし、世の中と言うのはどす黒い物です。当然妬む者も出てきます。 一部の心無い者によって誹謗中傷が始まります。 あの魚、食事の用意をするとき自分のお風呂の残り湯を使っているそうよ お風呂の中で激しく動いているようね、いやらしい この前廊下を歩いていたらあいつの抜け鱗に滑って転んだのよ 土曜日の夜になると奇妙な音が聞こえてくるのよ、なにかしらあれ この前河童が変な機械持って訪ねて来たわ。変なのと仲がいいようね そんな隠そうともしない中傷に、衣玖さんは傷ついてしまいます。 メイド長はそんな妖精メイドを次々粛清していきますが、中傷は止みません。 「衣玖ちゃんは悪くないよ、いぢめるやつが悪いんだよ」 「そ、そんなことないです。至らない私が悪いんです。ぇぐぇぐ」 「泣いちゃ駄目だよ! 連中の思う壺だよ!」 しかし、基本的に真面目な衣玖さんには助けてくれる妖精メイドさんもたくさんいます。 ご飯時にいぢめっ子集団に味噌汁をぶっかけられた衣玖さんに支援の手が差し伸べられます。 「だってこいつ自分の垢で出汁取ってんのよ! そんなえんがちょ汁飲めるわけないじゃない!」 「何言ってんのよ! それだから美味しいんじゃない! 馬鹿じゃないの!」 「きめえ!」 もはや公然の秘密と化した衣玖さんの調理手法をめぐって舌戦が展開されます。 激しい罵りあいを前に、衣玖さんは何も言えません。 目の前の争いは風呂の残り湯で味噌汁を作る事の是非に集中しています。 まさかそれ以上にお風呂の中でピーしてピー出してピーな事してるなんて言える筈ないじゃないですか。常考。 しかし、この派閥争いは拡大の一途を辿っていってしまうのです。 あろうことか、否定派の先頭に立ったのは紅魔館の主、レミリア・スカーレットその人でした。 「自分の身を削らないと美味しいご飯を作れないなんてとんだ優秀メイドさんね!」 そう言って運ばれてきた食事をちゃぶ台返し、衣玖さんを蹴り倒します。 「ああっ! おやめくださいご主人様ぁ!」 「このっ、このっ! 白々しいのよこの雌魚! これでもかっ! これでもかっ!」 勢いに任せて衣玖さんを踏みつけるお嬢様。 しかしお嬢様にも分かっているのです。衣玖さんをこのように扱うのは間違っているのだと。 ただ、否定派の頭になってしまった以上自らが率先して態度で示さなければいけないのです。 「おやめくださいお嬢様!」 「咲夜!?」 そこへ、メイド長が割って入ってきます。 うずくまって泣き崩れる衣玖さんにかぶさるように保護し、お嬢様に向き直ります。 「衣玖は一生懸命に仕事をしているではありませんか! なぜこのような仕打ちをなさるのですか!」 「それは…」 二人を前にしてお嬢様は臍を噛みます。 本来ならば自分も衣玖さんの食事を美味しいと言ってやりたいのです。 ただ、ある日口にしたスープの中に血が少量混ざっているのに気付き、 「O型ね」なんて口走ってしまったがために不満を持っていると思われ否定派の頭に担ぎ上げられてしまったのです。 「それは…、嫉妬をしているからよ…」 「お嬢様…?」 こうなってしまった以上は仕方ない。 多少傷を負ってでもこの負の連鎖を止めるより他に術はない。 そのような決断が出来るのもレミリア・スカーレットの当主としてのプライドとカリスマあっての事。 「どうして! どうしてこいつなの!?   こいつの料理の腕がいいことは認めるわ!  でもどうしてこいつなのよ!!」 お嬢様が悲痛な面持ちで胸の内を曝け出します。 「私は咲夜がいいの! 咲夜の汁が飲みたいのよ!!  どうして咲夜は私のために身を削って味噌汁を作ってくれないのよ!!」 はあはあと、息を荒げながらお嬢様が言い切ります。 そんなお嬢様を衣玖さんとメイド長はあっけに取られて見上げます。 悲しそうな、つらそうな主の顔を見ていられなかったのか、メイド長が目をそらします。 「申し訳ございませんお嬢様。  かつて一度だけご提供したあの味にそんなに恋焦がれておられたとは存じ上げませんでした。  ただ…、ただそれでも咲夜は衣玖の汁の方が好みで御座います」 衣玖さんによる雷鳴が轟きました。 こうして紅魔館にスカーレットデビルが降臨することになってしまったのです。 それからと言うもの、お嬢様は誰にも手を付けられない状態になってしまいました。 ヒステリーを起こし、見る物すべてに当り散らすのです。 「そこのメイドッ! 窓の桟に埃がある!」 「不味い! この洗いを作ったのは誰!?」 「何で雨が降っているのよっ!!」 万事がすべてこんな調子。 いつしか、元凶である衣玖さんいぢめの空気は消え、お嬢様を敬遠する空気が出来上がってしまいました。 ひそひそ、ひそひそとお嬢様に対する不満の声がささやかれるようになります。 「あの小娘、生じゃね?」 「生だよねー、何様ってカンジ?」 「お嬢様でしょ。れみりゃおじょうさま」 「カリスマ無いんだったら黙って幼女でもやってればいいのにねー」 キャハハハハハ そんな蔑みの声があたりから聞こえてきます。 「ねえ、衣玖ちゃん。あんたもそう思わない?あいつうざいよねー」 「ええ、自分ひとりじゃ何も出来ないくせに主だなんてちゃんちゃらおかしいですよねー」 そう適当に相槌を打ちながらも衣玖さんの心境は複雑でした。 前まで自分をいぢめてきたメイドまで自分へのいぢめをやめ、お嬢様いぢめをするようになってしまったのです。 ―これではまるでお嬢様を盾にいぢめから逃れたみたい。 そうは思ったけれど、衣玖さんにはこの空気を変えようという勇気がありませんでした。 下手にお嬢様をかばってまた自分が目を付けられたらどうしよう。 そんな思いが先行してしまいます。 そんな風に、何もしない日々が続いても、いや何もしなかったからこそ、起こるべき事件が起きてしまいます。 「この駄メイド! まだ分からないのか!!」 とあるメイドが、ついにやらかしてしまいました。 みんながみんな、お嬢様の気に障ることがないようにと極めて神経を使っていたというのに あろうことかこのメイドは廊下を歩くお嬢様の目の前を横切ってしまったのです。 「どういうつもり? この私の前を横切ろうだなんて、殺されたいの!?」 そう言って、恐怖に震えるメイドの喉を引っつかみ、壁に叩きつけます。 その衝撃にメイドの口から血が吐き出され、苦しみからか喉を掴んでいるお嬢様の腕に手を掛けてしまいます。 「ふうん、主に血を吐きかけた上、抵抗しようって言うの。いい度胸じゃない」 憎憎しげに言い、メイドを掴む手に更に力を入れます。 メイドの喉からは苦しげな声が漏れ、赤色の泡があふれ出してきます。 そんな状態になって、ようやくあたりから他の妖精メイドたちが駆けつけてきます。 「なあに、あなたたち。何か文句でもあるのかしら」 そんなメイドたちをお嬢様は半目で一瞥します。 瞼の間から覗くその真っ赤な瞳を前に、妖精メイドたちはそれ以上近寄ることが出来ません。 「あらあら、薄情なこと。紅魔館のメイドと言うのは本当に出来が悪いわね」 自らの召しいるメイドたちをそのように蔑み、お嬢様は粗相をしたメイドに向き直ります。 喉を掴む手の、中指だけに力を込め、メイドの更なる苦痛を引き出します。 「ぁ…ぐ…ぁぁ…」 「悲鳴ぐらいまともに上げなさいよ、ほんと使えないわね」 びくびくと痙攣する妖精メイドを見下し、やれやれとため息をつくお嬢様。 時折わざと力を緩め、メイドに息を継がせてやります。 そして、再び締め付け、苦痛を与えているのです。 次第に、周囲の妖精メイドの間に困惑が広がっていきました。 お嬢様は何がしたいのだろう。 何であんな生殺しの状態を維持しているのだろう。 間断なく継続的に聞こえてくるそのメイドの苦痛の声に、恐怖の声に、 周囲のメイドに言いようのない不安と恐怖が蔓延していきます。 「おやめください、お嬢様」 そんな中、毅然とした声が廊下に響き渡ります。 完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜その人です。 「まずはメイドの一人が粗相を致した事、お詫び申し上げます。  しかしながら、メイドたちの責任者はこの私で御座います。  仕置きならばこの私になさるようお願い申し上げます」 それを聞いたお嬢様の口元が吊り上がります。 その様子を見て周囲のメイドたちがはっと気付きます。 ああ、お嬢様はメイド長を待っていたのだ。 「いい度胸ね咲夜。ではさっそくあなたに仕置きをすることにするわ」 嫌らしい笑みを浮かべながらメイド長に向かって前傾姿勢をとるお嬢様。 次の瞬間、メイド長のいた場所にはお嬢様が立っていました。 メイドたちがあっけに取られ、続いてドンという音が届いてきます。 音のほうを振り向くと、メイド長が廊下を跳ね、転がっていくところでした。 元から紅い絨毯が、更なる紅で染められていきます。 「立ちなさい咲夜、急所ははずしたはずよ」 その声に、メイド長がぴくりと反応し、真っ赤な腹を押さえ生まれたての子鹿のように立ち上がります。 力なく、ふらふらと。そんな状態でもお嬢様を見る目にだけは力が入っています。 にっこりと微笑むお嬢様。 血まみれの手を掲げ、ゆっくりとメイド長に歩み寄るその姿は何故かとても美しいものでした。 「何かいうことはあるかしら」 弾んだ声でたずねるお嬢様。 「お怒りはお静まりになられましたでしょうか」 震えた声で返すメイド長。 互いに、互いの言葉を聞き笑顔で見詰め合う。 そんなあまりに不自然な時間。そしてその刹那。 お嬢様は血溜まりに着地し、メイド長は轟音と共に廊下の果ての壁にめり込んでいました。 あまりの事に声も出せないメイドたち。 メイド長の激突した壁は放射状の紅に染まり、 重力に従うのみのメイド長の体はずるずると壁の下に流れて止まります。 「もう終わり? やっぱり人間は駄目ね、すぐに壊れちゃう」 そんなメイド長に興をそがれたのか、お嬢様はため息をついて立ち止まります。 「止めくらいは刺してあげるわ。感謝なさい」 お嬢様の手に、紅く光る槍が出現します。 神槍「スピア・ザ・グングニル」 その槍を手元でぐるりと回し、メイド長に切先を合わします。 ここまでね。 自分に向けられているのであろうグングニルをその身に感じ、 メイド長は諦めにも安らぎにも思える心境に満たされていました。 お嬢様と仲直りできなかった諦め。 紅魔館の激務から開放される安らぎ。 目を開けることも出来ず、呼吸もままならないそんな状況で、 飛んでくる紅の槍が到達するまでの間、メイド長は考えるのです。 ああ、これで胸のことなんか考えなくても済む。 ベッドの下の本を処分しておいて正解だったわ。 そういえば、新入りの衣玖、少し無責任だったかしら。 薄れていく感覚が、槍の接近に伴って研ぎ澄まされていき、 あらゆる感覚のボリュームが大きくなっていく。 それが極大にまで大きくなり、突然ゼロになるその瞬間。 メイド長は何者かの絶叫を聞いた様な気がしたのでした。 「おはよう、ずいぶんといいご身分ね」 衣玖さんが目を覚ましたとき、真っ先に視界に入ってきたのは紫色の寝巻きを着た魔女でした。 図書館の魔女、パチュリー・ノーレッジ。 「もう深夜よ」 「ここは…図書館ですか。今は…いつですか?」 「状況認識がすばやいのは結構なこと。あれから一ヶ月経っているわ」 「そんなに…」 それを聞き、なにやらうなだれる衣玖さん。 自らの体をぐるぐる巻きにしている包帯に気付き、更にその表情は曇ります。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、成功したわ」 そう言って、魔女が机の上に置いてある一冊の本を指差します。 青いハードカバーの、だが表紙に何も書いていない本。 「あれが、そうなんですか?」 「ええ、レミィを封じた本。本来ならもっとしっかりした場所に保管する物なんだけど、  あなたには、一目見せておきたくてね」 その言葉に、衣玖さんはその立派な本を感慨深そうに見つめます。 表情からは悲しみが感じられます。 「ありがとうございます。もう結構です」 「そう…。  小悪魔」 「はい」 魔女の呼びかけに、彼女の使い魔たる小悪魔が応えます。 机の上にある本をそっと抱きかかえると、彼女はスッと図書館の奥に消えていってしまいます。 「パチュリー!」 突如、図書館に元気の良い声が響きます。 通称妹様と呼ばれていた紅魔館のもう一人の悪魔です。 「フラン、衣玖が起きたわ」 「えっ!?」 魔女の言葉に、妹様が振り返ります。 その視線に気付いた衣玖さんはえへへと笑いかけ、手を振ります。 「衣玖! 元気になったの!?」 嬉しそうに衣玖さんに駆け寄り布団に抱きつく妹様。 そのとたん、衣玖さんの体に激痛が走ります。 「ーーーーーっ!!!」 痛みにゆがむ衣玖さんを見て、妹様がしまったと言う表情をします。 その後ろでは魔女がやれやれとため息をついています。 「飲みなさい、薬よ」 差し出される数錠の薬と水。それを軽く飲み干すと改めて衣玖さんは妹様に向き直ります。 「お見舞いありがとうございます」 「いいよ、気にしないで」 ぽふんと、今度はやさしく布団に顔を乗せる妹様の表情はとても柔らかです。 背中の羽もご機嫌にぱたぱた動いています。 「あ、あの…」 「ん?」 「メイド長は…」 衣玖さんがメイド長の名を出した瞬間、辺りをどんよりとした暗い空気が漂います。 「あなた、まさか分からないわけ?」 「い…、いいえ。そうですよね。すいません、空気読めませんでした」 衣玖さんはやってしまったとばかりに視線をふらつかせ、布団を掴む手に力を込めます。 あの時、お嬢様がメイド長に止めの一撃を放ったとき、衣玖さんはお嬢様に飛び掛りました。 怒りに震えた彼女の一撃は見事に直撃し、反撃を受けながらもお嬢様を押さえ込むのに成功しました。 その隙に、図書館の魔女と妹様が封印の術を完成。 見事お嬢様を本に封印することに成功したのです。 「あの時は、発破をかけるまでずいぶんと腑抜けた表情をしていたわね」 「申し訳ありません」 「あなたの能力は空気を読むことだけれども、読んでいるだけでは駄目だという好例だったわね。  空を飛ぶときでも空気を読んでただそれに従うだけでなく、  時には逆らうようなことをしないと、地上に落下してしまうわ。思い出したかしら」 「ええ、思い出しました。今回の私はどうも気が抜けて流されるがままだったということですね」 「思い出したのならいいわ、それからあの二人の事はあなたの責任ではないわ、気に病まない事ね」 「ご忠告、感謝いたします」 そこまで言って、魔女はこれでこの話は終わりといった表情をしました。 衣玖さんはそんな表情を見てふっと笑みをこぼします。 「それにしても、フランの魔法の腕は大した物だったわ、いい魔法使いになりそうね」 「え? そう? あはは、おだてても何もでないよ?」 笑いあう二人を見て、衣玖さんは何か泣きたい気分になってきました。 今回の事で、この屋敷は二人ほど大きな存在を失ってしまいました。 でも、こうしてまだこの屋敷は生きているのです。まだやり直せる。 そう思うと衣玖さんの目から涙が止まらなくなってきます。 「ねえ!」 そこに、再び妹様が抱きついてきます。衣玖さんが痛くないようにそっと、やさしく。 「衣玖、紅魔館のメイド長をやってよ!」 「え? いえ、そんなわけには」 「衣玖しかできないって!」 衣玖さんに抱きついたまま懇願してくる妹様。 衣玖さんは、罪悪感からか困ったような顔をして口ごもるばかりです。 「気に病んでいるようならばむしろやって貰った方が良いわ」 「パチュリー様?」 「あなたは真面目だし、それなりの実力者だもの。そんなに大それた失敗はしないはずよ」 今回のことは失敗ではないのか。 そう言おうと思いましたが、衣玖さんは魔女の表情を見て思いとどまります。 そして、抱きついたままの妹様に向き直ると笑顔でこう言うのです。 「承りました。紅魔館のメイド長。務めさせていただきます」 それからしばらくの間、衣玖さんは紅魔館でメイド長をやることになりました。 新しい主は妹様。彼女の方も慣れないなりに頑張ってやっているようです。 妖精メイドたちは、あの一件からみんなして相談事をし、何かを決意したようです。 以前とは違ってみんなの顔には生気があふれています。 さて、新たなメイド長になった衣玖さんには新たな日課が出来ました。 「今日もですか、飽きませんね」 「そう言うあなたも」 衣玖さんが毎朝小悪魔さんと会うのはあの惨劇の場です。 決して忘れないように、とそこは極力そのままで置いておくことになっているのです。 廊下に広がった赤黒いシミ、破壊された壁、そしてそこに広がる放射状の… 「毎日花を添えていると咲夜さん花嫌いになっちゃいませんかね」 「大丈夫でしょう、出来るだけ種類を変えるようにしていますから」 花を添え、二人して手を合わせます。 願わくは、あなたの来世が光に包まれた素晴らしいものにならんことを。 そんな毎日が続いていく。 そんなことをどのくらいの者達が思っていたのでしょう。 少なくともそう多くはなかったはずです。 だって、ここに集まった者達に驚きは見られなかったのですから。 「ほら、天子ちゃん。何か言うことがあるでしょう」 「…っく、ぇ…い、衣玖…」 幻想郷の高名なスキマ妖怪に連れられてきたのは衣玖の上司の娘である比那名居天子ちゃんです。 そこら中ボロボロで、頭におっきなたんこぶをこしらえて泣き崩れる彼女に衣玖さんはただおろおろするばかり。 「どうしました、総領娘様」 「あ…あの…、衣玖…」 涙声で、要領を得ない天子ちゃんの言葉を受け、衣玖さんは困った顔を紫に向けます。 「お父さんにたぁぁぁぁっぷり絞られちゃったのよねぇー」 天子ちゃんの顔をのぞき込んで楽しそうに言う紫を見て、その場にいたものは絶対にその限りではないことを確信します。 「ご、ごめ…なさい。ごめんなさい。…もど、もどってきて、衣玖」 天子ちゃんがうつむいたまま、衣玖さんの緋の衣を差し出してきます。 それを見て、その意味を悟って衣玖さんの顔色が変わります。 ばっと振り向いて、紅魔館の面々を見やります。 にやにや、にこにこと笑っています。手を振る者までいます。 「あの」 「いいのよ、行きなさい。ここで読むべき空気、分からないわけはないでしょう」 「楽しかったよ、またあそびにきてね!」 「またお花を供えに来てくださいね」 笑顔で別れの言葉を継げてくる紅魔館の住人達。 そのさようならな空気に、衣玖さんはそっと目を伏せて天子ちゃんの方に向き直ります。 「分かりました。帰りましょうか、総領娘様」 差し出された緋の衣を受け取り、サッと身に纏う衣玖さん。 天子ちゃんの手を握り、最後にもう一度だけ振り返ります。 「皆さん、ありがとうございました。また遊びに来ます」 何かが流れたような跡がある顔で、震えた声で衣玖さんが別れを告げます。 そのまま、天子ちゃんの手を引いて、ふわふわと天へと帰って行きます。 「さて、紅魔館はこれからどうなるのかしら」 空へと飛び去った衣玖さんたちが見えなくなると、紫がやれやれと言った風に言いました。 「どうにでもなるわ、これだけ居るのだもの」 魔女が言います。どことなく明るい声です。 「また遊びに来てくれるかな」 「ええ、きっと来てくれますよ」 少し不安そうな妹様に、それを励まそうとする門番さん。 周りでは妖精メイド達が妹様に笑顔を向けています。 「妹様! いいものが出てますよ!」 そんな中、威勢の良い声が聞こえてきます。 みんながその声の方を見ると、小悪魔が空を見上げて指さしています。 みんなが視線を向けた先。 そこには天へと繋がる七色の虹が、淡い光を放っていました… ---- - なんというハッピーエンド &br()衣玖に不幸は似合わないな -- 名無しさん (2009-04-18 23:09:58) - あれ?結局レミリアいじめじゃね?これ -- 名無しさん (2009-04-19 01:12:09) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-04-19 01:47:31) - 咲夜さんとは違って誰にも悼まれないレミリアざまあwww -- 名無しさん (2009-04-19 15:56:38) - 中国じゃねーの? &br()紅魔モノなのに出番が最初のみ、小悪魔より出番ねぇ &br()イク様のダシ汁なら喜んで飲みますよ -- 名無しさん (2009-04-20 06:48:39) - 結局、どんな話でも大抵はレミリアいじめになるというのが紅魔クオリティ。 &br() &br()それよりも、 &br()>一つ、二股の猫が列車の往来を妨げたかどで被疑者死亡のまま書類送検された。 &br()…どっちの猫なのかが気になる。 -- 名無しさん (2009-04-21 05:49:48) - >結局、どんな話でも大抵はレミリアいじめになるというのが紅魔クオリティ。 &br()いじめられ役=カリスマ(笑) &br()いじめ役=因果応報でカリスマ(笑) &br()どちらでもない1=いじめ放置のしっぺ返しでカリスマ(笑) &br()どちらでもない2=いじめられ役にしょうもないフォローして失敗しカリスマ(笑) &br() &br()鉄板の流れではある -- 名無しさん (2009-04-21 09:05:19) - 流石いじめ界のトップスター -- 名無しさん (2009-04-22 02:29:08) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-04-23 23:01:56) - レミリアは本当にどうしようもないなw -- 名無しさん (2009-04-25 03:16:02) - なんという、ほのぼのストーリー。 &br()そして無能すぎるカリスマ(笑)。消えるのがまるで気にならんとは。 -- 名無しさん (2009-04-25 08:46:09) - なんというカオス具合w &br()しかも結局レミリアいじめかw -- 名無しさん (2009-05-11 03:16:03) - どの作品見ても紅魔館が絡む物語は &br()最終的にレミリアが酷い目に合うな…w -- 名無しさん (2009-05-11 17:33:34) - やっぱり大抵紅魔館の話は最終的にカリスマ(笑)が・・・ -- 名無しさん (2009-05-17 15:22:34) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2009-07-12 00:14:11) - 衣玖さんの出汁とかw &br()俺だったら喜んで飲むね(キリッ -- 名無しさん (2009-12-01 10:54:26) - レミリア以外の紅魔キャラいじめは、最速レミリアに「ざまぁwww」と言うことがその話の終点 -- 名無しさん (2009-12-01 12:16:44) - たまにはメイド長のことも思い出してあげて下さい。基本、お嬢様の八つ当たりを受けるのは彼女です -- 名無しさん (2009-12-01 21:12:08) - ↑不憫だ…… -- 名無しさん (2010-04-16 08:09:06) - わーなんてはっぴーえんどー &br()というかどんな料理の仕方だw -- 名無しさん (2010-05-23 23:09:03) - もうそりゃ・・まあ出汁と言ってた気も・・想像付かないな -- 名無しさん (2010-06-02 21:27:28) - >…どっちの猫なのかが気になる &br()主人の又主人のスペルを考えると、橙じゃないか? -- 名無しさん (2010-06-13 02:58:54) - シュールな笑いは大好きSA☆ -- 名無しさん (2010-06-19 00:57:08) - カリスマ(笑) -- 名無しさん (2012-07-30 22:32:29) - レミリア(笑 -- 名無しさん (2013-04-06 18:18:48) - 「 &br() -- 名無しさん (2013-05-17 18:13:36) - レミリアざまぁだな。 -- 動かぬ探究心 (2013-06-04 21:37:27) - 東方の貴族キャラはいくらでもひどくできるな -- 名無しさん (2014-03-01 21:09:58) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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