「注文の多い料理店:9スレ628」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

注文の多い料理店:9スレ628」(2016/01/01 (金) 06:49:13) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

二人の若い魔法使いが、一人はすっかり本を持っていく泥棒のかたちをして、ぴかぴかする八卦炉を胸にしまい、 もう一人は小さな女の子のような人形を2匹つれて、湖の近くのカサカサした森を、こんなことを言いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、ここらの洋館はけしからんね。魔法書を死ぬまで借りていくと文句を言いやがる。 なんでも構わないから、文句を言われずに本をもっていきたいもんだなあ。」 「魔理沙の黄いろな頬なんぞに、右ストレートを二三発お見舞いもうしたら、パチュリーはずいぶん痛快だろうねえ。 くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」  それはだいぶ、紅魔館の近くでした。案内してきた人間の豆腐屋も、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの近くでした。  それに、あんまり氷精の頭が物凄いので(馬鹿で)、その小さな女の子のような人形が、2匹いっしょにめまいを起こして、 しばらくうなって、それから首を吊って死んでしまいました。 「じつに、首吊り蓬莱人形だ」と一人の魔法使いが、乾いた笑いを立てながら、言いました。 「おいおい、上海はどうした。」と、もひとりが、おかしそうに、あたまをまげて言いました。  はじめの魔法使いは、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの魔法使いの、顔つきを見ながら云いました。 「わたしはもう、帰ろうかしら」 「さあ、わたしもちょうど、チルノのせいで寒くなったしおなかも空いたし戻ろうとおもう。」 「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、ミスティアの屋台でで、焼き鰻を十円も買って帰ればいいじゃない。」 「兎もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうぜ」  ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。  風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」 「わたしもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」 「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」 「たべたいもんだなあ」  二人の魔法使いは、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。  一人は食べる必要がないのですがね。  その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。  そして玄関には RESTAURANT 西洋料理店 KOUMA HOUSE 紅魔館 という札がでていました。 「アリス、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」 「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「はいろうじゃないか。わたしはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」  二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。  そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。 『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』  二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。 「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、 こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」 「どうもそうらしいわね。決してご遠慮はありませんというのはその意味でしょう。」    インド人もビックリな図々しさで二人は戸をおして、なかへ入りました。  そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。 『ことに若い女の子や胸にコンプレックスのある方は大歓迎いたします』  二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。 「アリス、わたしらは大歓迎にあたっているのだ。」 「わたしらは両方兼ねてるから」  ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキぬ塗りのと扉がありました。 「どうも変なうちだ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」 「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」  適当なことを言いながら、そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。 『当館は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください』 「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」 「それあそうだ。見たまえ、人間の里の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」  二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、 『注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。』 「これはぜんたいどういうんだ。」一人の魔法使いは顔をしかめました。 「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいとこういうことでしょ。」 「そうだろう。早くどこか室の中にはいりたいもんだな。」 「そしてテーブルに座りたいものね。」  ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そしてそのわきに鏡がかかって、  その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。  扉には赤い字で、 『お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。』 と書いてありました。 「これはどうももっともだ。私もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」 「作法の厳しい家ね。きっとよほどえらい人たちが、たびたび来るのよ」  そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。  そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。  二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。  早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。  扉の内側に、また変なことが書いてありました。 『八卦炉と人形をここへ置いてください。』  見るとすぐ横に黒い台がありました。 「なるほど、八卦炉を持ってものを食うという法はない。」 「いや、よほど偉いひとが始終来ているんじゃないかしら」  明らかにピンポイントなものを狙われているというのに、二人はそれぞれにつけているものを解いて、それを台の上に置きました。  また黒い扉がありました。 『どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。』 「どうだ、とるか。」 「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなのかしらね、奥にいる連中は」  二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。  扉の裏側には、 『ネクタイピン、カフスボタン、めがね、さいふ、その他金物類、  ことに尖ったものは、みんなここに置いてください』 と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵までそ添えてあったのです。 「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。  金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないとこう云うんだろう。」 「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」 「どうもそうらしい。」 「そうだ。きっと。」  二人はブラジャーをはずしたり、ヘアピンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。  すこし行きますとまた扉があって、その前にがらす硝子の壺が一つありました。扉には斯う書いてありました。 『壺のなかのおしろいを顔や手足にすっかり塗ってください。』  みるとたしかに壺のなかのものはおしろいでした。 「おしろいをぬれというのはどういうんだ。」 「これはね、ここは非常にVIPなとこだろう。室のなかがあんまり高級だと精神にひびがきれるから、その予防なのよ。  どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外わたしらは、大妖怪とちかづきになるかも知れないよ。」  二人は壺のおしろいを、顔にふって手にふってそれから靴下をぬいで足にふりました。  それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら相手にぶっかけました。  それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、 『おしろいをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか』 と書いてあって、ちいさなおしろいの壺がここにも置いてありました 「そうそう、わたしは耳にはつけなかった。あぶなく耳から精神を切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到だね。」 「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでわたしは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」  するとすぐその前に次の戸がありました。 『料理はもうすぐできます。  十五分とお待たせはいたしません。  すぐに変われます。  早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。』  そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。  二人はその香水を、頭へぱちぇぱちぇ振りかけました。   「この香水はへんに悩ましい。どうしたんだろう。」 「まちがえたんだ。こんなにエロティックじゃぁ、街をあるけやしない。」  二人は扉をあけて中にはいりました。  扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。 『いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。  もうこれだけです。どうか胸をたくさんよくもみ込んでください。』 「どうもおかしいぜ。」 「わたしもおかしいとおもうわ。」 「たくさんの注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」 「だからさ、西洋料理店というのは、わたしの考えるところでは、  西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやるうちとこういうことなんだ。  これは、その、つ、つ、つ、つまり、わ、わわたしたちが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。 「その、わ、わたしたちが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。 「に遁げ……。」がたがたしながら一人の魔法使いはうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう一部も動きませんでした。  奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つ、蝙蝠の形が切りだしてあって、 『いや、わざわざご苦労です。  大へん結構にできました。  さあさあおなかにおはいりください。』 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの紅い目玉がこっちをのぞいています。 「うわあ。」がたがたがたがた。 「うわあ。」がたがたがたがた。  ふたりは泣き出しました。  すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。 「だめだよ。パチュリーさま、もうあの二人は気づいたみたいだ」 「あたりまえさ。レミィの書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、  お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」 「どっちでもいいよ。どうせわたしらはお嬢様が遊んだあとにしかまわってこないもの」 「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、お嬢様のお怒りに触れてしまう。」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。  おべべも用意してますし、化粧の類も揃ってます、あなたも今日から淑女デビュー」 「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それとも詰め物はお嫌いですか。  そんならこれから貧乳向けにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」  二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃのかみくず紙屑のようになり、  お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。  中ではふっふっとわらってまた叫んでいます。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いてはせっかく折角のおしろいが流れるじゃありませんか。  へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」 「早くいらっしゃい。ブン屋が着せ替え写真をとろうと待っていますよ。」  二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。  そのとき扉の向こうからいきなり、 「何してるのみんなで。」という声がして、紅い刃が、扉をつきやぶってへやの中に飛び込んできました。  鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、哂い声と紅い光だけがとうとうなってしばらく室の中をくるくるまわっていましたが、また一声 「あなたがコンテニューできないのさ!」と高く吼えたかと思うと、いきなり次の扉が吹き飛びました。  戸はがたりとひらき、色とりどりの弾幕が吸い込まれるように飛んで行きました。  その扉の向うのまっくらやみのなかで、 「フ、フランドールお嬢様、少し自重を!」という声がして、それからがさがさ鳴りました。  室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。  見ると、上着や帽子や財布は、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。  風がどうとふ吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。  人形たちがいつのまにか戻ってきました。  そしてうしろからは、 「魔理沙―、アリスー?」と叫ぶものがあります。  二人は俄かに元気がついて 「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。  顔見知りの紅白巫女が、草をざわざわ分けてやってきました。  そこで二人はやっと安心しました。  そして巫女のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ焼きうなぎを買って魔法の森に帰りました。  しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、魔法の森へ帰っても、お湯にはいっても  もうもとのとおりになおりませんでした。 ---- - 宮沢賢治吹いた -- 名無しさん (2009-03-27 22:09:06) - GJ! &br()ただちょとわかりづらいな -- 名無しさん (2009-03-28 14:28:21) - ぱちぇぱちぇwww -- 名無しさん (2009-05-25 00:02:32) - なんかかわいい -- 名無しさん (2009-05-31 18:09:02) - 二人はブラジャーをはずしたり、 &br()てとこでニヤけた自分は負け組 -- 名無しさん (2009-05-31 23:44:33) - なるほどなるほど &br()結局ハゲで顔面くちゃくちゃry -- 名無しさん (2009-09-05 01:42:14) - 小学生の国語にあったから案外知名度高いのかな? -- 名無しさん (2010-09-02 21:56:58) - アリスは巨乳だ &br()異論は認めん &br()まりさは無乳で -- 名無しさん (2010-09-08 21:37:00) - アリスは腹をすかせたりしないし、 &br()う☆こだってしないよ。 -- 名無しさん (2010-11-02 23:03:08) - そ こ ま で よ っ ! -- 名無しさん (2014-05-27 18:36:13) - 「早くいらっしゃい。ブン屋が着せ替え写真をとろうと待っていますよ。」 &br() &br() &br()…入りたくなくなるんじゃね? &br() -- 名無しさん (2014-05-30 19:58:43) - これさ、、、一学期で習ったんだけどww &br()どうしよう年ばれる...! -- とーち (2014-08-09 03:27:12) - ぱちぇぱちぇってなんかかわいい -- 名無しさん (2014-08-09 21:44:25) - ここ国語の試験に出たwwwwwwwwww -- 名無しさん (2015-04-06 11:49:02) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
二人の若い魔法使いが、一人はすっかり本を持っていく泥棒のかたちをして、ぴかぴかする八卦炉を胸にしまい、 もう一人は小さな女の子のような人形を2匹つれて、湖の近くのカサカサした森を、こんなことを言いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、ここらの洋館はけしからんね。魔法書を死ぬまで借りていくと文句を言いやがる。 なんでも構わないから、文句を言われずに本をもっていきたいもんだなあ。」 「魔理沙の黄いろな頬なんぞに、右ストレートを二三発お見舞いもうしたら、パチュリーはずいぶん痛快だろうねえ。 くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」  それはだいぶ、紅魔館の近くでした。案内してきた人間の豆腐屋も、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの近くでした。  それに、あんまり氷精の頭が物凄いので(馬鹿で)、その小さな女の子のような人形が、2匹いっしょにめまいを起こして、 しばらくうなって、それから首を吊って死んでしまいました。 「じつに、首吊り蓬莱人形だ」と一人の魔法使いが、乾いた笑いを立てながら、言いました。 「おいおい、上海はどうした。」と、もひとりが、おかしそうに、あたまをまげて言いました。  はじめの魔法使いは、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの魔法使いの、顔つきを見ながら云いました。 「わたしはもう、帰ろうかしら」 「さあ、わたしもちょうど、チルノのせいで寒くなったしおなかも空いたし戻ろうとおもう。」 「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、ミスティアの屋台でで、焼き鰻を十円も買って帰ればいいじゃない。」 「兎もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうぜ」  ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。  風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。 「どうも腹が空いた。さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」 「わたしもそうだ。もうあんまりあるきたくないな。」 「あるきたくないよ。ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」 「たべたいもんだなあ」  二人の魔法使いは、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。  一人は食べる必要がないのですがね。  その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。  そして玄関には RESTAURANT 西洋料理店 KOUMA HOUSE 紅魔館 という札がでていました。 「アリス、ちょうどいい。ここはこれでなかなか開けてるんだ。入ろうじゃないか」 「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう」 「もちろんできるさ。看板にそう書いてあるじゃないか」 「はいろうじゃないか。わたしはもう何か喰べたくて倒れそうなんだ。」  二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。  そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。 『どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません』  二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。 「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、 こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」 「どうもそうらしいわね。決してご遠慮はありませんというのはその意味でしょう。」    インド人もビックリな図々しさで二人は戸をおして、なかへ入りました。  そこはすぐ廊下になっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。 『ことに若い女の子や胸にコンプレックスのある方は大歓迎いたします』  二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。 「アリス、わたしらは大歓迎にあたっているのだ。」 「わたしらは両方兼ねてるから」  ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキぬ塗りのと扉がありました。 「どうも変なうちだ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」 「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」  適当なことを言いながら、そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄いろな字でこう書いてありました。 『当館は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください』 「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」 「それあそうだ。見たまえ、人間の里の大きな料理屋だって大通りにはすくないだろう」  二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、 『注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。』 「これはぜんたいどういうんだ。」一人の魔法使いは顔をしかめました。 「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれどもごめん下さいとこういうことでしょ。」 「そうだろう。早くどこか室の中にはいりたいもんだな。」 「そしてテーブルに座りたいものね。」  ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そしてそのわきに鏡がかかって、  その下には長い柄のついたブラシが置いてあったのです。  扉には赤い字で、 『お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。』 と書いてありました。 「これはどうももっともだ。私もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」 「作法の厳しい家ね。きっとよほどえらい人たちが、たびたび来るのよ」  そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。  そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。  二人はびっくりして、互によりそって、扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。  早く何か暖いものでもたべて、元気をつけて置かないと、もう途方もないことになってしまうと、二人とも思ったのでした。  扉の内側に、また変なことが書いてありました。 『八卦炉と人形をここへ置いてください。』  見るとすぐ横に黒い台がありました。 「なるほど、八卦炉を持ってものを食うという法はない。」 「いや、よほど偉いひとが始終来ているんじゃないかしら」  明らかにピンポイントなものを狙われているというのに、二人はそれぞれにつけているものを解いて、それを台の上に置きました。  また黒い扉がありました。 『どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。』 「どうだ、とるか。」 「仕方ない、とろう。たしかによっぽどえらいひとなのかしらね、奥にいる連中は」  二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあるいて扉の中にはいりました。  扉の裏側には、 『ネクタイピン、カフスボタン、めがね、さいふ、その他金物類、  ことに尖ったものは、みんなここに置いてください』 と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵までそ添えてあったのです。 「ははあ、何かの料理に電気をつかうと見えるね。  金気のものはあぶない。ことに尖ったものはあぶないとこう云うんだろう。」 「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」 「どうもそうらしい。」 「そうだ。きっと。」  二人はブラジャーをはずしたり、ヘアピンをとったり、みんな金庫のなかに入れて、ぱちんと錠をかけました。  すこし行きますとまた扉があって、その前にがらす硝子の壺が一つありました。扉には斯う書いてありました。 『壺のなかのおしろいを顔や手足にすっかり塗ってください。』  みるとたしかに壺のなかのものはおしろいでした。 「おしろいをぬれというのはどういうんだ。」 「これはね、ここは非常にVIPなとこだろう。室のなかがあんまり高級だと精神にひびがきれるから、その予防なのよ。  どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外わたしらは、大妖怪とちかづきになるかも知れないよ。」  二人は壺のおしろいを、顔にふって手にふってそれから靴下をぬいで足にふりました。  それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら相手にぶっかけました。  それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、 『おしろいをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか』 と書いてあって、ちいさなおしろいの壺がここにも置いてありました 「そうそう、わたしは耳にはつけなかった。あぶなく耳から精神を切らすとこだった。ここの主人はじつに用意周到だね。」 「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでわたしは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」  するとすぐその前に次の戸がありました。 『料理はもうすぐできます。  十五分とお待たせはいたしません。  すぐに変われます。  早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。』  そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。  二人はその香水を、頭へぱちぇぱちぇ振りかけました。   「この香水はへんに悩ましい。どうしたんだろう。」 「まちがえたんだ。こんなにエロティックじゃぁ、街をあるけやしない。」  二人は扉をあけて中にはいりました。  扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。 『いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。  もうこれだけです。どうか胸をたくさんよくもみ込んでください。』 「どうもおかしいぜ。」 「わたしもおかしいとおもうわ。」 「たくさんの注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」 「だからさ、西洋料理店というのは、わたしの考えるところでは、  西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやるうちとこういうことなんだ。  これは、その、つ、つ、つ、つまり、わ、わわたしたちが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。 「その、わ、わたしたちが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだして、もうものが言えませんでした。 「に遁げ……。」がたがたしながら一人の魔法使いはうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、戸はもう一部も動きませんでした。  奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つ、蝙蝠の形が切りだしてあって、 『いや、わざわざご苦労です。  大へん結構にできました。  さあさあおなかにおはいりください。』 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの紅い目玉がこっちをのぞいています。 「うわあ。」がたがたがたがた。 「うわあ。」がたがたがたがた。  ふたりは泣き出しました。  すると戸の中では、こそこそこんなことを云っています。 「だめだよ。パチュリーさま、もうあの二人は気づいたみたいだ」 「あたりまえさ。レミィの書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう、  お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」 「どっちでもいいよ。どうせわたしらはお嬢様が遊んだあとにしかまわってこないもの」 「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、お嬢様のお怒りに触れてしまう。」 「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。  おべべも用意してますし、化粧の類も揃ってます、あなたも今日から淑女デビュー」 「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それとも詰め物はお嫌いですか。  そんならこれから貧乳向けにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」  二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃのかみくず紙屑のようになり、  お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。  中ではふっふっとわらってまた叫んでいます。 「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いてはせっかく折角のおしろいが流れるじゃありませんか。  へい、ただいま。じきもってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」 「早くいらっしゃい。ブン屋が着せ替え写真をとろうと待っていますよ。」  二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。  そのとき扉の向こうからいきなり、 「何してるのみんなで。」という声がして、紅い刃が、扉をつきやぶってへやの中に飛び込んできました。  鍵穴の眼玉はたちまちなくなり、哂い声と紅い光だけがとうとうなってしばらく室の中をくるくるまわっていましたが、また一声 「あなたがコンテニューできないのさ!」と高く吼えたかと思うと、いきなり次の扉が吹き飛びました。  戸はがたりとひらき、色とりどりの弾幕が吸い込まれるように飛んで行きました。  その扉の向うのまっくらやみのなかで、 「フ、フランドールお嬢様、少し自重を!」という声がして、それからがさがさ鳴りました。  室はけむりのように消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、草の中に立っていました。  見ると、上着や帽子や財布は、あっちの枝にぶらさがったり、こっちの根もとにちらばったりしています。  風がどうとふ吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。  人形たちがいつのまにか戻ってきました。  そしてうしろからは、 「魔理沙―、アリスー?」と叫ぶものがあります。  二人は俄かに元気がついて 「おおい、おおい、ここだぞ、早く来い。」と叫びました。  顔見知りの紅白巫女が、草をざわざわ分けてやってきました。  そこで二人はやっと安心しました。  そして巫女のもってきた団子をたべ、途中で十円だけ焼きうなぎを買って魔法の森に帰りました。  しかし、さっき一ぺん紙くずのようになった二人の顔だけは、魔法の森へ帰っても、お湯にはいっても  もうもとのとおりになおりませんでした。 ---- - 宮沢賢治吹いた -- 名無しさん (2009-03-27 22:09:06) - GJ! &br()ただちょとわかりづらいな -- 名無しさん (2009-03-28 14:28:21) - ぱちぇぱちぇwww -- 名無しさん (2009-05-25 00:02:32) - なんかかわいい -- 名無しさん (2009-05-31 18:09:02) - 二人はブラジャーをはずしたり、 &br()てとこでニヤけた自分は負け組 -- 名無しさん (2009-05-31 23:44:33) - なるほどなるほど &br()結局ハゲで顔面くちゃくちゃry -- 名無しさん (2009-09-05 01:42:14) - 小学生の国語にあったから案外知名度高いのかな? -- 名無しさん (2010-09-02 21:56:58) - アリスは巨乳だ &br()異論は認めん &br()まりさは無乳で -- 名無しさん (2010-09-08 21:37:00) - アリスは腹をすかせたりしないし、 &br()う☆こだってしないよ。 -- 名無しさん (2010-11-02 23:03:08) - そ こ ま で よ っ ! -- 名無しさん (2014-05-27 18:36:13) - 「早くいらっしゃい。ブン屋が着せ替え写真をとろうと待っていますよ。」 &br() &br() &br()…入りたくなくなるんじゃね? &br() -- 名無しさん (2014-05-30 19:58:43) - これさ、、、一学期で習ったんだけどww &br()どうしよう年ばれる...! -- とーち (2014-08-09 03:27:12) - ぱちぇぱちぇってなんかかわいい -- 名無しさん (2014-08-09 21:44:25) - ここ国語の試験に出たwwwwwwwwww -- 名無しさん (2015-04-06 11:49:02) - これって結果的に誰が助けたん? &br() &br() &br()霊夢かフランだと踏んでいるけど -- 名無しさん (2016-01-01 06:49:13) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: