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135 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 04:45:46 ID:bekhfs1A0 「…寒い…」 そう言って紅魔館の外でガタガタと震える咲夜さん。いつもは館の中にいるので 日が沈むと外がこんなに冷えるとは知りませんでした。 「お腹…すいた…」 咲夜さんは朝から何も食べていません。今朝、咲夜さんは仕事で失敗をしてしまい それが酷くお嬢様のご機嫌を損ねたようで、紅魔館を追い出されてしまったのです。 「……」 頬をさすると、じんと痛みます。お嬢様にぶたれてしまったのです。 胸がズキンと痛むと、咲夜さんの目からは涙がぽろぽろとこぼれ落ちました。 ふいてもふいても涙はあふれ、咲夜さんのメイド服の袖は涙と鼻水でベトベトになりました。 咲夜さんは今まで自分のことを完璧だと思ってきました。 誰より美しく、誰より賢く、そして誰よりお嬢様に信頼されていると思っていました。 それが今日、違うと分かってしまった。お嬢様は咲夜さんに言いました。 「とんだでくのぼうね」 と。 周りのメイド達がクスクスと笑います。 そんな、なんで、なんでみんな私のこと笑うの?私はみんなの憧れ、尊敬の的じゃなかったの?? そんな目であたりのメイドたちを見回しました。 目が合った咲夜さんの次に偉いメイドは咲夜さんに聞こえるよう呟きました。 「調子に乗るな、ブタ」 と。 周りの子たちはキャハハと可笑しそうに嗤います。 ズキン。顔の血の気が引き、ざわざわと一気に血が酸になって全身を流れ、腕の辺りがピリピリと痺れます。 とてもイヤな感じ。 でも今はお嬢様に怒られたショックで何も考えられません。 ガシャ! 「!!?」 いきなり額に痛みが走ります。 「熱っ…!!!!」 何が起こったのかわかりませんでした。 からんと咲夜さんの足元に転がったのはお嬢様のティーカップでした。 あ、私いま紅茶をかけられたんだ… その事実が分かったとたん、咲夜さんは本当に自分はお嬢様から突き放されたのだと理解しました。 今日は格別においしい紅茶が入れられた。きっと当然お嬢様に褒められるはず。 そう思い淹れた紅茶でした。 それなのに…それなのにこんな… 薄らと笑みを浮かべたお嬢様が言います。 「どうしたの?床が汚れてしまったわ。早く拭きなさい」 気が動転している咲夜さんは言われたとおり着けていた白いエプロンをとり、 カタカタと震える手でこぼれた紅茶を拭き始めます。 拭いても拭いても、床にこぼれた紅茶はなかなか拭き取れません。 咲夜さんがエプロンを動かすたび紅茶は左右に流れ、咲夜さんから逃げていくのです。 急に視界がにじみ、涙がぽたぽたと紅茶の水溜りに落ちます。 人前で絶対に涙なんか見せない咲夜さん。 それを見てクスクスと笑うメイドたち。咲夜さんは恥ずかしくって耳まで真っ赤です。 ガッシャーン!!! 今度はさっきより随分と大きな音が響きました。 びくっ!と咲夜さんが顔を上げると、短いスカートの咲夜さんの脚に直接 熱湯がかかりました。 「熱い熱い熱い!!!!!!」 あまりの熱さに咲夜さんは床を転げまわりました。 それをみてさらに大きくなる笑い声たち。キャハハハハ! 怯え切った目でお嬢様を見上げる咲夜さん。 冷たい冷たい笑顔で咲夜さんを見下ろすお嬢様は、机の上に置いてあった 砂糖のビンを手に取ると、咲夜さんに向かって放り投げました。 ビンは避けようとしない咲夜さんめがけ弧を描きます。 ゴツン!! 予想より大きな衝撃は、咲夜さんの頭をガクンと揺らします。 ジーンとした痛みを感じます。 ずっと昔にお父さんに貰ったゲンコツなんかより、もっと痛くて、もっと冷たい痛み。 お嬢様は咲夜さんを見て言います。 「出て行きなさい。あなたみたいなウスノロ必要ないわ。」 出て行きなさい。たった七文字の言葉が頭の中をエコーがかかったように飛び回ります。 嫌、そんなの嫌です…!いや…許して…!! そう訴えようとしましたが、咲夜さんはお嬢様に睨まれ、ガタガタ震え、呼吸さえ上手く出来ません。 「…!?」 いきなり襟首をつかまれ咲夜さんは後ろにのけぞりました。 襟首をつかんだのはさっき咲夜さんを笑った二番目に偉いメイドさんでした。 「そのゴミを捨ててきて頂戴。今日からあなたが新しいメイド長よ、頑張って。」 そう言ってお嬢様がメイドに微笑んだその顔は、咲夜さんのよく知っているお嬢様の笑顔。 咲夜さんがお嬢様が自分にしか見せてくれないと信じ込んでいた笑顔でした。 こうして始まるさっきゅんのダンボール生活を幻視した 140 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 14:02:59 ID:6xgeR4V60 咲夜はメイド達に嵌められていたことに気が付いて酷く後悔するお嬢様を幻視した 142 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 17:41:57 ID:/3Qk/BnE0 そこまでにいたる以前はこんな具合だったのではないかと妄想してみた レミリアの日記 *月#日 昼ごろ、私が気持ちよく寝ていると大音響と地響きがして目が覚めた。 何が起きたのかと聞けば咲夜が原子レンジの操作を誤って 館の一部が壊滅したとのことだ。なんでも昨日の宴会疲れがまだ残っていて 朝から朦朧としていたらしい。あの小賢しい鬼娘と飲み比べさせただけなのに。 最近咲夜の失敗が多い。以前はここまで使えないやつではなかったのだが。 咲夜の日記 同月同日 パチュリー様の魔法実験で館の一部が壊滅した。このところあのお方は 立て続けに失敗ばかりなさっている。そのうえ「レミィには内緒にして」 などと私の裾にすがりついて泣く始末だ。最初はケツバット4096回の刑でも 食らわせてやろうかと考えていたが、小悪魔を一晩貸してくれるというので 庇うことにした。お嬢様のお仕置きの後こんどは私が小悪魔をお仕置き、 ああ今から鼻血が止まらない。今夜も桃源郷だ。 パチュリーの日記 同月同日 アリスが遊びにきてハイテンションになっていたのだが、失敗した。 酒を入れた状態でゲラゲラ笑いながら遊び半分に魔物を召還したら館を破壊したので 正直ヤバかった。咲夜からゲンコツをもらったが、彼女は小悪魔を生贄にすれば わりと簡単にレミィと話をつけてくれるようなのでまったく助かる。 小悪魔の日記 同月同日 またパチュリー様がやらかした。また私が咲夜さんの慰みものになる。 いくら使い魔といえど正直限界を感じている。お嬢様の咲夜さんを見る目が 最近厳しいことに誰も気づいていないようだし。 次何かあったらキレようと思う。もう我慢の限界だ。妖精メイドどもをチャームして 咲夜さんを陥れて館から追放してしまおう。きっとパチュリー様も目が覚める筈だ。 149 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 23:31:27 ID:bekhfs1A0 読んでくれた人ありがとう ちょっとだけ続きです。4レスほど拝借 こんなラスト認めんわ!と言う方は、数ある選択肢の一つだと思って許して! 「ぐすっ……えぐ」 今日あったことを思い出して泣いている咲夜さん。 でも泣いてたって何も変わりません。 辛い事があっても、泣いたり、いじけたり、落ち込むだけじゃ何も変わらない。 時間は味方してくれません。時間をとめてみても何も変わらない。 時間は咲夜さんだけの味方になんか、なってはくれないのです。 長いこと生きてきて、そんなこと分かりきっています。 だからこそ、自分で何とかしないと…。 「中に入って、お嬢様に謝ろう。」 小さい声ですが、咲夜さんは今日いちばん力強くそう呟きました。 とりあえずなかに入ろう。そう思い咲夜さんは立ち上がりました。 でも、裏の勝手口の方から入るのはちょっと戸惑われました。 意地悪なメイドにまた笑われるんじゃないか、そう思ったからです。 咲夜さんは紅魔館の正門に向かって歩き始めました。 中から見えないように少し茂みの中に入って。 外から見上げる紅魔館は、とても大きく、とても威厳のある感じでしたが、 今日ばかりはみんなの部屋の窓からもれる淡いオレンジ色の光が、とても冷たく感じました。 正門に近づいてきました。 門番さんが寒いのか手をこすりながら立っています。 咲夜さんは声をかけようと足を踏み出しましたが、急に躊躇してしまいました。 前に咲夜さんはあの門番さんが失敗をしてしまったときに、 「役立たず」とレッテルを張り付け、みんなで笑ったのです。 その時はなんにも悪いとは思いませんでした。 洒落のつもりで言ったから?そうでもありません。 本当にその通りだと思ったからです。 私はお嬢様の一番近いところに御使いし、あなたは門の中にさえ入れない。 そんな存在を役立たずと言って何が悪いの? 他にも咲夜さんはことあるごとに門番さんをいじめてきました。 咲夜さんの事はもうすでに屋敷のみんなに知れ渡っているはず、とうぜん門番にも。 いま門番に話しかけたらどんな顔をされるだろう。 あのメイドたちと同じように罵声を浴びせられるのだろうか。 それだけは嫌です。みんなに笑われるのがあんなに不愉快だなんて…。 木の陰から様子を伺っていると、門番さんと目が合ってしまいました。 門番さんはあっと驚き、すぐきょろきょろと辺りを、どうしたらいいか分からないと言うふうに見回しました。 咲夜さんは思い切って門番さんに近づきます。 「さ、咲夜さん…」 門番さんは困ったという顔をし、咲夜さんを見ます。どうしたらいいんだろう。 咲夜さんは中に通して、と言うと、 門番さんはいよいよ困った顔をし言いました。 「で、ですが…!ぶ、部外者の方を勝手に…その……」 部外者。 咲夜さんは自分の頭に血が上るのが分かりました。 あなたの様な役立たずがこのメイド長に向かって部外者? こんな犬でも出来るような仕事しか与えられないくせに紅魔館の一員を語るなんて、図々しい。 気づいたら咲夜さんは手を振り上げ、門番さんを叩こうかとした、 そのとき、上から声が降ってきました。 「おかえりなさい」 はっと上を見上げると、お嬢様が門の上に腰掛けていらっしゃいました。 お嬢様は薄暗い外灯にてらされ、まるで高価な人形のように青白くおられます。 「よく帰って来たわね。うれしいわ、咲夜。」 咲夜さんの表情はぱっと明るくなります。 無表情のお嬢様に、 はい!と笑顔で答えます。 やっぱりお嬢様は私を待っていてくれたんだ、私はやはりお嬢様にとって必要な存在。 部外者なんかじゃない!咲夜さんはそう確信したのです。 150 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 23:32:11 ID:bekhfs1A0 本当は違っていました。 長い間怒られ続けて来た門番さんには分かりました。 お嬢様は 「おかえりなさい。よく帰って来たわね。うれしいわ。」ではなく、本当は 「なぜ帰って来たの?煩わしい。」と言ったこと。 お嬢様は咲夜さんが戻ってきたことに対してお怒りであること。 今までそれほど怒られたことのない咲夜さんには、それが分からなかったのです。 なんて冷たいおかえりなさい。 「咲夜、あなたに早速仕事を与えてあげる。」 咲夜さんは目を輝かせました。また元通りお嬢様の元で働ける。 お嬢様はあの新しいメイド長などすぐに愛想をつかすはず。 やはり紅魔館のメイド長、いえ、お嬢様のお世話が出来るのは私だけ―――。 咲夜さんは心のほんの隅っこでそう思いました。 お嬢様はうっすらと笑いながら言いました。 「妹の遊び相手をして頂戴、咲夜。」 ――え――? いまお嬢様はなんと言ったの? 咲夜さんの目の色は一変し、顔が真っ青になりました。話を聞いていた門番さんの表情も。 この紅魔館でフランの遊び相手をすることの意味は別にあるのです。 「遊び相手」と言うのは恐らく遠まわしな表現。 紅魔館の妹様は少々お気が触れており、さらに弱ったことに非常に強力な力を持っており、 それこそ人間や妖精、妖怪までもおもちゃのように扱われ、飽きたらバラバラにされるのです。 長い間付き合ってきたお嬢様は良く分かっていたのです。 咲夜さんを追い出したところで、何度も戻ってくるに違いない、と。 「最近、退屈しているようだから。」 お嬢様は怖い表情のままくすくすと笑います。 そんな、そんな―――私…。 妹様の遊び相手は侵入者の役目や酷い失態を犯した従者、生きて帰ってこれるものなどいないのです。 処刑を意味するのです。 ぞわぞわとした血液が全身をめぐり、すっぱい味のげっぷが出ます。 あたりがシーンと静まり返りました。 咲夜さんのバクバクという心臓の音だけが聞こえ、まるで世界が止まってしまったかのよう。 実際はその通り。 咲夜さんは無意識のうちに時間を止めていたのです。 咲夜さんは何か自分の身に危険なことがあると、あぶないと思うと時間を止める癖をつけていたのです。 何も聞こえず、何も動かない世界。咲夜さんはもう慣れっこですが、 今回はそのことが多く咲夜さんに考える時間を与え、多く咲夜さんを苦しめます。 今お嬢様はなんと言ったのか、嫌でも頭の中で繰り返されます。 お嬢様は私のことを許してくれない。 動揺はだんだんと恐怖に変わっていきます。 時間を止めても何の解決にもなりません。誰も助けに来てくれるなんて事は無いのです。 ふたたび時間は動き出しました。 咲夜さんが望んで動き出したのではありません。 それ以上時間を止めている事ができなかったのです。 「ついてきなさい。」 そうお嬢様は咲夜さんに声をかけました。 朦朧とする意識の中、お嬢様は門番さんに 「寒いなかごくろうさま。」 と声をかけていくのがうっすらと聞こえました。 どうして侵入者を止めなかったの。 とは、咎めませんでした。 まるではなからあなたに期待などしていないと言うふうに。 151 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 23:33:05 ID:bekhfs1A0 長くて薄暗くて、外より寒い廊下を咲夜さんとお嬢様は歩きます。 このまま逃げ出してしまおうか。行く途中何度もそう思いました。 無駄なことです。逃げる場所なんてありません。 スカーレット家から逃れきれる可能性など、この狭い幻想郷では皆無なのです。 戻ってこなければ良かったのか。 最初外に出されたとき、そのままどこかに消えてしまえばよかったのだろうか。 でもプライドの高い咲夜さんは、そんなのはいやでした。 みんなから陰口をたたかれ、コソコソと隠れて生きるような人生など。 咲夜さんの心の中には別の考えもありました。 ひょっとしてそれともこれはお嬢様が私を驚かそうとして…… まだ咲夜さんはお嬢様のことを信じているようです。 無理も無い、咲夜さんにとって世界でたった一人の味方は、お嬢様だけのはずなのですから。 ずっと昔からそうです。うららかな午後の昼下がりも、戦いのときも常に咲夜さんの傍には お嬢様がいて、お嬢様は何かあるとすぐに咲夜さんを呼びました。 咲夜、咲夜。はいはいお嬢様。 「着いたわ。」 そう言って重苦しい扉の前に立ちます。 扉の前に立つと、一気に現実味が増し、心がすべて恐怖で覆われてしまいます。 やだよ、怖いよ…………! 自分はこれからどんな目に遭わされるのでしょう。 生きたまま全身の骨を砕かれ、皮を剥がれ、焼かれ茹でられるのでしょうか。 イヤだ、イヤだ、イヤだ! 今この場で泣いて土下座したら許してくれるかな 膝がガクガクと震えてる 筋肉が痺れて胃に穴が開きそう 咲夜さんは今までに何度も不運にもお嬢様の機嫌を損ねさせてしまったそんな人たちを見てきました。 もういいと許しを貰った人もいれば、有無を言わさずその場で八つ裂きにされた人もいました。 恐らく自分は後者でしょう。 お嬢様がお許しを出す人は、お嬢様にとって本当にどうでもいい人。 生きていようが死んでいようがどっちでもいい人なのです。 「入って。」 コックに今から調理されることを分かっている犬のように怯えた咲夜さんの手をとって お嬢様は咲夜さんを部屋の中へと入れました。 ガコン…と重い音がして、がちゃっと鍵の閉められる音がしました。 咲夜さんは全身がいやな汗でびっしょりなのが分かって、 さらにいまも絶え間なく噴出しているのが分かります。 咲夜さんは呼吸数をおさえます。 ピーンと咲夜さんの周りの空気が張り詰めます。 今まで色んな敵と戦ってきました。 でも、戦いで恐怖を感じたことなんて、おそらく咲夜さんには一度もありません。 お嬢様と一緒の時もあったし一人の時もあったけど。 でも本当に独りじゃなかった、誰かが助けてくれたのです。 でも今度は違う。 後ろにお嬢様はいない。 誰も、 誰もいないのです。 怖い。 「こんばんわ、さくや。まってたよ。」 薄暗い部屋に、ぼーっと妹様のお姿が見て取れます。 咲夜さんは身構えます。もう誰も信用できない。 目の前にいるのは自分の主ではなく敵。 ナイフを持つ手が震えます。 汗で手の中のナイフが滑ります。 ずっと一緒に戦ってきた私ののナイフ。 刃渡り、重さ、切れ味。まっすぐ飛ばすにはどう投げればいいか、 相手を深くえぐるにはどう斬ったらいいか。 手に取った瞬間に教えてくれる。 自分の身体より詳しく知っているこのナイフ。 そのナイフも、今は咲夜さんの味方にはなってくれない。 汗ばんだ手で、強く握れば握るほど、ナイフの柄はすべり、咲夜さんの手から逃れようとします。 152 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/09/25(火) 23:33:55 ID:bekhfs1A0 「お姉さまがねぇ、さくやはもういらないから壊してもいいんだって。」 妹様が可笑しそうにケラケラと笑います。 咲夜さんの心がまたズキンと痛みます。 さくやはもういらない…。 でも動揺は必死に隠そうとします。相手に弱みを見せたら負けなのです。 震える心でキッと妹様を睨みます。 キャハハハと妹様の甲高い笑い声が部屋の中にこだまします。 咲夜さんの頭の中にはあのメイドたちの笑い声が響きます。 クスクス、クスクス… やめて―― ケラケラ、ケラケラ… やめて―――! 私を、私を笑わないで!! 「ぐすっ、……えぐぅ!………」 クスクス、クスクス… お嬢様が笑います。この役立たず。 「うぐっ、…う、うわあああぁぁぁぁん!!」 戦いが始まろうと言うのに、咲夜さんは泣き出してしまいました。 今更になってお嬢様に裏切られたこと、メイドたちに笑われて腹が立ったこと、悔しかったこと、 それに今の恐怖が一気に押し寄せてきたのです。 カラーンと音を立てて、ナイフは咲夜さんの手から落ちました。 びくっと驚いた妹様は不思議そうに咲夜さんを見ていました。 「さくや泣いてるの?」 「グスッ!うぐ……!ヒック、……ッ!!」 もう何もすることができません。 強く気高く美しく、完璧だと思っていた自分は、こんなにも無力なのです。 それが情けなくて情けなくて、悔しくて、寂しいのです。 お嬢様は私を捨てた。お嬢様は私の淹れた紅茶を褒めてくれなかった。 お嬢様は私なんかよりあの意地悪なメイドのほうがいいと言った。 お嬢様は私をゴミだと、でくのぼうだといった。 お嬢様は私を…いらないって、必要ないって…… 「うぐっ!!…エグッ、…ッ!うぁ、うわあああああぁぁぁぁん!!!」 様子を見ていた妹様はだんだん不安そうな顔になっていきます。 妹様まで泣き出しそう。 「やだよさくや…泣き止んでよ…」 「ぐす!グスッ、………うぐっ!!」 咲夜さんの服はもう汗やら涙やら鼻水やらでベトベトになっていて、 普段の咲夜さんを知っている人がみたら誰もが驚くほど。 「ウッ、わ、わたしは…グスッ、ひとりぼっち……」 誰に言うでもなくそう呟きます。 誰でもいいから、今から殺されるかもしれない妹様でもいいから、 咲夜さんは助けて欲しかったのです。 ひょっとして誰かに助けを求めたのは、 生きてきてこれが初めてだったかもしれません。 みかねた妹様は咲夜さんにハンカチをかしてくれました。 妹様のポケットに入っていたハンカチは、咲夜さんにはとっても温かいものでした。 ずっと暗く深い冷たい川を流されていて、 やっと確かなものをつかめた、ただの布切れですが、それは咲夜さんに確かな安心感を与えてくれました。 「もう弾幕ごっこはまた今度にしよう?」 「グス、……クスン…」 そう言って妹様は情けない咲夜さんの頭を不器用になでました。 妹様は嬉しかったのかもしれません。 なぜかは分からないけど。 自分も咲夜さんのように寂しかったのかも。 それともこんな風に孤独を泣き叫べる咲夜さんが羨ましかったのかも。 自分のお姉さまをこんな風に思ってくれる人がいて嬉しかったのかも。 お嬢様やメイド長にもっと遊ぶ以外でかまって欲しかったのかも。 そうじゃないかもしれないけど、そうかもしれません。 泣きじゃくる咲夜さんを見て、 妹様にお姉さん心が生まれたの知れません。 そのまましばらく妹様にもたれかかっていた咲夜さんは、 泣きつかれたのか、 それとも安心したのか寝息を立ててしまいました。 その間妹様は咲夜さんを、赤ちゃんを寝かすようにずっとやさしく撫でておられました。 後でお嬢様が様子を見に来たとき、妹様が 今日さくやはあたしの物なんだから、お姉さまはあっちいって と言ってくれたのを、咲夜さんは夢の中で聞いた気がしました。           Fin

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