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アリス+魔理沙×霊夢:2スレ993」(2016/10/18 (火) 14:59:19) の最新版変更点

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#このSSはフィクションのさらにフィクションであり   実際の東方projectおよびファン間のデファクトスタンダードとは   一切関係ありません。   内容は鬱SSなのでご用心、ご用心・・・  ・・・ 霊夢は飛んでいた。 ふらふらと、方向安定のない飛び方をしていた。 その顔には生気がなく、物憂げな何かが浮かべられている。 彼女の眼には、眼下の、永遠に続くかと思われるような 鬱蒼とした魔法の森に向けられていた。 焦点は合ってはおらず、それらの光景は、ただ退屈に後ろへ流れていく。 霊夢の手には、風呂敷でくるんだ物品が携えられていた。 それはアリスと魔理沙に送り届けられるはずの品物だ。 別に珍しい品物ではない。たいしたことのない食料品とか医療品、 衣類の替え、その他もろもろの消耗品だ。 そんなものを霊夢が二人に送り届けるなど、普段ならありえないことだ。 ありえないはずのことだった。 アリスも魔理沙も生活能力を持っていたからだ。 今はちがう。すべてが以前と変わってしまった。 霊夢ははっと我に返った。いつの間にか高度が落ちて梢をかすめていたのだ。 おかげで方位まで失いかけていた。深呼吸して、高度を取り戻す。 アリスの家は意外と近くにあった。 霊夢は目的地を見つけて、今度は溜息を吐いた。 また今日も、逃げ出してしまいたい現実に向き合わねばならない。 逃げることのできない現実に苛まれなければならない。 身震いがした。恐怖だ。下腹部から何かがこみあげてくる気がした。 荷物だけ軒先に置いて帰ってしまいたい。 それができたらどれだけ幸せになるだろう。 霊夢はそんなことができないことを知りつつ、しばし妄想にふけった。 あのドアの内側では―  ・・・ 「いらっしゃい、霊夢」 ドアを開いたのは当然ながらアリスだった。 以前のようなお洒落な格好をしていないアリスだった。 作業着に近い、はっきりしない色の服に、薄汚れたエプロン。 霊夢はアリスのその格好を見てひどく心が痛んだ。 初っ端でしかないというのに。 「・・・これ、頼まれてた品物」 つとめて平静を装って、風呂敷をアリスに手渡す。 アリスは『いつもご苦労様』とだけ言ってそれを受け取った。 「じゃあ、霊夢。上がって。魔理沙が待ってるわ」 そうだ、魔理沙が待っている。魔理沙が霊夢を待っている。 そして待たせている以上、霊夢は魔理沙に会う義務がある。 それが途方もない苦痛だった。なぜならば― 「あ、あの・・・」 霊夢の、その一瞬の躊躇に対し、アリスは容赦しなかった。 「霊夢、貴方の、義務でしょ」 「わ・・・解ってるわよ」 アリスはさして広くもない廊下をスイスイと進んだ。 その後ろに続き、一歩を踏み出すごとに、霊夢は自分の脈が早まるのを自覚した。 もう何十回も訪れてすべての配置を覚えているはずの廊下だが 霊夢にはそれが毎回別のものに感じられた。 アリスの周囲には人形がいなかった。 今、人形たちはすべて家の仕事のために働いていた。 アリスが趣味で人形を動かす余地はあまり残っていないのだ。  ・・・ アリスが問題の部屋のドアをそっと開いた。 「魔理沙、霊夢がきたわよ」 そう告げながら。優しい、慈愛すら感じ取れる声だった。 本来なら霊夢が魔理沙にそうしてやるべきことなのだが それを聞いて霊夢は更に動揺し、脈を乱し、酸欠を覚えた。 「霊夢」 アリスは促した。霊夢は促された。 そのまま二人は部屋へ入っていった。 部屋は薬品の匂いで満たされていた。 綺麗に片付けられていた。 机と、その上にあるいくつかの薬物のケースと、魔法瓶以外には 白いベッドしかそこには存在しなかった。 魔理沙はそこにいた。 我らが、普通の魔法使いの霧雨魔理沙がそこにいた。 アリスが語りかけた。 「魔理沙、貴方の大好きな霊夢が来たのよ。ほら」 魔理沙は動かなかった。 力なくベッドに横たわり、その眼は虚空に向けられ 自分を呼ぶ声に応じてその喉から言葉が返されることもなく アリスの家に未曾有に蓄えられたマジックアイテムを物色するでもなく 挨拶がわりに皮肉や軽口を叩くでもなく ただ横たわっていた。 霊夢はいまにも耐えられなくなりそうだったが、必死で耐えた。 耐えるしかなかった。 魔理沙をこうしたのは自分の責任なのだから。 弾幕ごっこの事故で魔理沙の人間性を失わせしめたのは自分なのだから。 魔理沙の額に針を突きたて、前頭葉に損傷を負わせてしまったのは 他でもない、この博麗霊夢なのだから。 アリスが魔理沙に肩を貸して(魔理沙は動かなかったが)上体を起こさせても 魔理沙はやはりそれに反応しなかった。 これこそが、逃げ出したい現実に他ならなかった。 霊夢は泣き喚き叫びたい衝動にかられた。 自分の頭に、この針を、魔理沙にしたのとおなじように突き立てて 死んでしまいたいとさえ思った。 罪悪感が人を殺すことがあるなら自分を殺して欲しいと願った。 だが、霊夢がどれだけ現実逃避したいと願っても、現実が変わることはない。 魔理沙はこうなってしまった。おそらく残りの一生を同じくして過ごすのだろう。 彼女の周囲には人形たちがいた。容態を観察し、尿瓶を取替え、 寝返りをうつのを手伝う、アリス手製の人形たちが。 今の魔理沙は、それらの人形と戯れたりしない。 神社にやってきて茶をせがむこともない。 魔法図書館から蔵書をふんだくることもない。 マスタースパークを撃つことも、スターダストレヴァリエを繰り出すことも 霊夢やアリスを霊夢やアリスであると認識することも 白い歯を見せて悪戯っぽく笑うことも もう無いのだ。  ・・・ 霊夢に土下座までされた永琳は、すぐに事態の深刻さを認識して 魔理沙を救おうとすべての手段を試みてくれた。 そのおかげで、魔理沙は一命を取り留めた。 少なくとも、自発呼吸が停止したり、心臓が止まったりすることはない。 あの長い針が深々と頭蓋内を貫通したことを考えれば、奇跡だった。 しかし、魔理沙は生命以外のすべてを失った。 外界からの刺激に反応することがなくなってしまったのだ。 それっきり、霊夢の周囲は変わってしまった。 神社を人妖が訪れることは極端に減り、たまに来る者の態度はよそよそしくなった。 我侭放題だったレミリアが、神社を訪れる目的を、霊夢を励ますことに切り替えた。 萃香は霊夢のお下がりの巫女服を着て、境内を掃除するようになった。 紫が博麗大結界にちょっかいを出すこともなくなった。 だが、本来ならば喜び感謝するべきであろう、それらの配慮は、 かえって霊夢の神経をすり減らせることになる。 霊夢から見ると、皆から『魔理沙のために時間を使え』と言われているように感じるのだ。 その中でも、霊夢にとって際立って受け入れがたいものが、アリスだった。 最初、動かなくなった魔理沙に縋り付いて、連日のように号泣していたアリスだった。 いつの間にか魔理沙の介護をすべて引き受けるようになったアリスだった。 魔理沙を愛していたアリスだった。 霊夢は魔理沙につきっきりでいることなど、到底できない。 博麗の巫女の使命が霊夢を束縛した。大結界の管理や幻想郷の秩序維持は 到底、魔理沙の介護と両立できるものではない。 その意味では、アリスの献身は何よりもありがたかったが 愛する者が植物状態になっても世話を続けるアリスを見ることは 霊夢の中に、更なる罪悪感を根付かせ、精神を滅入らせた。 なぜならば、霊夢は、魔理沙だけではなく、アリスの愛と、その私生活までを 完全に破壊したということなのだ。  ・・・ 「いい、霊夢。私は幸せなのよ」 アリスはそう言う。 「大好きな魔理沙とずっと一緒で居られるんだから」 アリスはそう言って抱きしめた魔理沙の背中を撫でる。 「でもこれは、私から魔理沙への愛。私の満足。わかる?」 アリスの眼差しは穏やかだったが、それでも霊夢は、その視線が自分へ向けられたとたん 蛇の視線に射竦められたように硬直してしまうのだ。 「魔理沙が本当に欲しいのは私の愛じゃない」 動けない。 何度か聞かされたその台詞に、動悸が強まり、背筋を冷たいものが伝い、 視界がモノクロになっていく。 「だから、霊夢。魔理沙に愛を注ぐのは貴方の仕事よ」 背後でドアの閉まる音がした。アリスはもう部屋にはいなかった。 『魔理沙が本気で愛していた、貴方の』 視界に色彩が戻る。そこにあるのは先程とおなじ、薬品臭い白い部屋。 そして魔理沙。魔理沙と自分の二人だけだ。 解っている。これはアリスの復讐なのだ。 彼女はけして魔理沙と自分を引き離してはくれないだろう。 死ぬまで魔理沙と対面させ続けるだろう。 魔理沙を壊した現実から逃れさせてはくれないだろう。 「・・・ごめんなさい」 霊夢の頬を涙が伝った。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 霊夢は、上体を起こした姿勢のままの魔理沙にしがみつき 嗚咽し、涙し、懺悔の言葉を繰り返した。 「魔理沙、アリス、ごめんなさい、お願い許して、ゆるして・・・ゆるし・・・」 ただ霊夢のすすり泣く声ばかりが、部屋に響いたが 魔理沙の瞳孔は何も映すことはなかった。  ・・・ 「最近わかってきた。パワーだけじゃ駄目なんだ、霊夢に勝つには・・・」 アリスは魔理沙とのあの日の会話を思い出し 紅茶が冷えきっているのも忘れて物思いに耽った。 止めておけばこんなことにはならなかっただろうか。 いや、そんなことはできなかっただろう。 猛烈に努力している魔理沙は輝いていた。 あの輝きをどうにかするなど、自分にできることではなかった。 霊夢を目標にした魔理沙の近くでは、自分の存在感など霞んでしまうのだ。 でもまさか魔理沙が霊夢を追い詰めるほど強くなるなんて。 その結果の事故。霊夢の焦りが針を射る手を狂わせた。 「もしかして私はこれを望んでいたのかもね」 もう、どうでもよかった。 魔理沙と毎日一緒にいられる。もう何も恥ずかしがることなどない。 何も心配することもない。ただ魔理沙に無条件に愛を注ぎ続ければいいだけの毎日。 恋敵に怯えることのない毎日。 人形ではない、本物の魔理沙と一緒の、毎日。 平穏で充実した、そんな毎日が、どこか苦痛で寂しかった。 魔理沙がアリスのものになることはない。 一方その頃、パチュリーはというと 魔理沙が来ないなら小悪魔をちょいちょいと弄くって 赤毛時代の魔理沙を作ってお茶を濁そうとか考え なんか「だぜ薬」を調合したり、咲夜に裁縫をさせていたらしいのだが それはまた別の話である。 おわり ---- - 最高だ &br()鬱さ加減と最後の笑いも -- 坂 (2008-10-29 21:13:02) - なるほど、窮鼠猫を噛む・・・じゃないがありえる話だな。 &br()でも、あまりにも霊夢が可愛そうだ・・・てかパチュリーww -- ナナシサソ (2008-12-24 09:44:10) - 鬱になる・・・と思ったら最後で吹いた -- 名無しさん (2009-02-17 19:22:05) - 霊夢とアリスが不憫すぎる・・・魔理沙だけのためにこんなに狂えるのか -- 名無しさん (2009-02-18 02:06:46) - 本編でパチュリーについて一言も触れられてないからおかしいと思ったら…。 &br()何だよ「だぜ薬」ってwww -- 名無しさん (2009-03-07 16:54:32) - 普通にある話ですよね。 &br()仕方ないこれだけはしかたない。 &br()ボクシングなんかが良い例。 &br()それに挑んできているのが魔理沙なんだからこう言う事故は覚悟の上と思うし。 &br()まあ周りにはそんな覚悟ないか。 -- 名無しさん (2009-03-16 13:51:15) - 「だぜ薬」ほしいぜ!・・・やっぱりいいのぜ。 -- 名無しさん (2009-04-11 22:31:21) - >2009-03-16 13:51:15 &br()殺さない為に断幕ごっこなわけでだな。 &br()っていうか魔理沙ころしたら魅魔が暴走するだろ。 &br()儚月抄の天狗の言動からみるに別段霊夢が死んだら幻想郷終了ってわけじゃないみたいだし。 -- 名無しさん (2009-05-27 08:35:55) - ↑ここはリアリティよりもシチュエーションを楽しむ場所だと思うなぁ。 -- 名無しさん (2009-05-27 08:46:46) - 魔理沙ごときが調子に乗るからこうなる -- 名無しさん (2009-05-28 21:34:06) - ↑魔理沙とヤムチャを一緒にするなよww -- 名無しさん (2009-05-31 00:54:20) - だけど鬱になりそうだったどころか当分全てのやる気が失せたwww &br()けど「だぜ薬」なら絶対欲しいけどね -- 名無しさん (2009-11-08 05:15:25) - 魔理沙とアリスかわいそう。俺、鬱になった。 -- 天内 (2010-03-24 16:37:01) - でも俺はこあもなかなかに可哀想だと思うんだぜ -- 名無しさん (2010-03-25 14:04:41) - アリス…おい霊夢 -- 名無しさん (2010-05-01 21:01:55) - きれいな鬱だな &br()こういうの好きだわ -- 名無しさん (2010-11-09 01:39:43) - 植物人間、薬中廃人、半身不随…魔理沙…涙 -- 名無しさん (2012-05-16 20:11:21) - 最後www哀愁漂う雰囲気と俺のファンタ返せwww -- 名無しさん (2012-05-22 00:39:30) - 「だぜ薬」に不覚にもコーラ吹いてしまったww -- 名無しさん (2012-07-25 21:58:56) - だぜ薬ww -- … (2014-08-20 16:09:36) - だぜ薬w大爆笑してしまったww -- 上海人形ww (2014-11-04 19:15:46) - これ全員可哀想だよな。 -- 名無しさん (2015-01-21 21:47:37) - だぜ薬? &br()なにそれおいしいの? -- ぴーなっつさん (2015-03-14 08:46:20) - だぜ薬ってなんだwwwwwwwwww -- 名無しさん (2015-05-25 17:23:48) - 紺魔理沙 -- 名無しさん (2015-06-15 15:39:53) - こうゆうのっていっつも &br()アリス×魔理沙とか魔理沙×アリスとかだなぁ &br()れいむが可愛そう。 &br() -- 名無しさん (2015-11-16 17:04:23) - では、「だぜ薬」を飲んでしまった、俺の後にコメする人です、どうぞ! &br() &br() &br()ノリの良い人がいればいいが… -- キング クズ (2016-07-10 05:58:48) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
#このSSはフィクションのさらにフィクションであり   実際の東方projectおよびファン間のデファクトスタンダードとは   一切関係ありません。   内容は鬱SSなのでご用心、ご用心・・・  ・・・ 霊夢は飛んでいた。 ふらふらと、方向安定のない飛び方をしていた。 その顔には生気がなく、物憂げな何かが浮かべられている。 彼女の眼には、眼下の、永遠に続くかと思われるような 鬱蒼とした魔法の森に向けられていた。 焦点は合ってはおらず、それらの光景は、ただ退屈に後ろへ流れていく。 霊夢の手には、風呂敷でくるんだ物品が携えられていた。 それはアリスと魔理沙に送り届けられるはずの品物だ。 別に珍しい品物ではない。たいしたことのない食料品とか医療品、 衣類の替え、その他もろもろの消耗品だ。 そんなものを霊夢が二人に送り届けるなど、普段ならありえないことだ。 ありえないはずのことだった。 アリスも魔理沙も生活能力を持っていたからだ。 今はちがう。すべてが以前と変わってしまった。 霊夢ははっと我に返った。いつの間にか高度が落ちて梢をかすめていたのだ。 おかげで方位まで失いかけていた。深呼吸して、高度を取り戻す。 アリスの家は意外と近くにあった。 霊夢は目的地を見つけて、今度は溜息を吐いた。 また今日も、逃げ出してしまいたい現実に向き合わねばならない。 逃げることのできない現実に苛まれなければならない。 身震いがした。恐怖だ。下腹部から何かがこみあげてくる気がした。 荷物だけ軒先に置いて帰ってしまいたい。 それができたらどれだけ幸せになるだろう。 霊夢はそんなことができないことを知りつつ、しばし妄想にふけった。 あのドアの内側では―  ・・・ 「いらっしゃい、霊夢」 ドアを開いたのは当然ながらアリスだった。 以前のようなお洒落な格好をしていないアリスだった。 作業着に近い、はっきりしない色の服に、薄汚れたエプロン。 霊夢はアリスのその格好を見てひどく心が痛んだ。 初っ端でしかないというのに。 「・・・これ、頼まれてた品物」 つとめて平静を装って、風呂敷をアリスに手渡す。 アリスは『いつもご苦労様』とだけ言ってそれを受け取った。 「じゃあ、霊夢。上がって。魔理沙が待ってるわ」 そうだ、魔理沙が待っている。魔理沙が霊夢を待っている。 そして待たせている以上、霊夢は魔理沙に会う義務がある。 それが途方もない苦痛だった。なぜならば― 「あ、あの・・・」 霊夢の、その一瞬の躊躇に対し、アリスは容赦しなかった。 「霊夢、貴方の、義務でしょ」 「わ・・・解ってるわよ」 アリスはさして広くもない廊下をスイスイと進んだ。 その後ろに続き、一歩を踏み出すごとに、霊夢は自分の脈が早まるのを自覚した。 もう何十回も訪れてすべての配置を覚えているはずの廊下だが 霊夢にはそれが毎回別のものに感じられた。 アリスの周囲には人形がいなかった。 今、人形たちはすべて家の仕事のために働いていた。 アリスが趣味で人形を動かす余地はあまり残っていないのだ。  ・・・ アリスが問題の部屋のドアをそっと開いた。 「魔理沙、霊夢がきたわよ」 そう告げながら。優しい、慈愛すら感じ取れる声だった。 本来なら霊夢が魔理沙にそうしてやるべきことなのだが それを聞いて霊夢は更に動揺し、脈を乱し、酸欠を覚えた。 「霊夢」 アリスは促した。霊夢は促された。 そのまま二人は部屋へ入っていった。 部屋は薬品の匂いで満たされていた。 綺麗に片付けられていた。 机と、その上にあるいくつかの薬物のケースと、魔法瓶以外には 白いベッドしかそこには存在しなかった。 魔理沙はそこにいた。 我らが、普通の魔法使いの霧雨魔理沙がそこにいた。 アリスが語りかけた。 「魔理沙、貴方の大好きな霊夢が来たのよ。ほら」 魔理沙は動かなかった。 力なくベッドに横たわり、その眼は虚空に向けられ 自分を呼ぶ声に応じてその喉から言葉が返されることもなく アリスの家に未曾有に蓄えられたマジックアイテムを物色するでもなく 挨拶がわりに皮肉や軽口を叩くでもなく ただ横たわっていた。 霊夢はいまにも耐えられなくなりそうだったが、必死で耐えた。 耐えるしかなかった。 魔理沙をこうしたのは自分の責任なのだから。 弾幕ごっこの事故で魔理沙の人間性を失わせしめたのは自分なのだから。 魔理沙の額に針を突きたて、前頭葉に損傷を負わせてしまったのは 他でもない、この博麗霊夢なのだから。 アリスが魔理沙に肩を貸して(魔理沙は動かなかったが)上体を起こさせても 魔理沙はやはりそれに反応しなかった。 これこそが、逃げ出したい現実に他ならなかった。 霊夢は泣き喚き叫びたい衝動にかられた。 自分の頭に、この針を、魔理沙にしたのとおなじように突き立てて 死んでしまいたいとさえ思った。 罪悪感が人を殺すことがあるなら自分を殺して欲しいと願った。 だが、霊夢がどれだけ現実逃避したいと願っても、現実が変わることはない。 魔理沙はこうなってしまった。おそらく残りの一生を同じくして過ごすのだろう。 彼女の周囲には人形たちがいた。容態を観察し、尿瓶を取替え、 寝返りをうつのを手伝う、アリス手製の人形たちが。 今の魔理沙は、それらの人形と戯れたりしない。 神社にやってきて茶をせがむこともない。 魔法図書館から蔵書をふんだくることもない。 マスタースパークを撃つことも、スターダストレヴァリエを繰り出すことも 霊夢やアリスを霊夢やアリスであると認識することも 白い歯を見せて悪戯っぽく笑うことも もう無いのだ。  ・・・ 霊夢に土下座までされた永琳は、すぐに事態の深刻さを認識して 魔理沙を救おうとすべての手段を試みてくれた。 そのおかげで、魔理沙は一命を取り留めた。 少なくとも、自発呼吸が停止したり、心臓が止まったりすることはない。 あの長い針が深々と頭蓋内を貫通したことを考えれば、奇跡だった。 しかし、魔理沙は生命以外のすべてを失った。 外界からの刺激に反応することがなくなってしまったのだ。 それっきり、霊夢の周囲は変わってしまった。 神社を人妖が訪れることは極端に減り、たまに来る者の態度はよそよそしくなった。 我侭放題だったレミリアが、神社を訪れる目的を、霊夢を励ますことに切り替えた。 萃香は霊夢のお下がりの巫女服を着て、境内を掃除するようになった。 紫が博麗大結界にちょっかいを出すこともなくなった。 だが、本来ならば喜び感謝するべきであろう、それらの配慮は、 かえって霊夢の神経をすり減らせることになる。 霊夢から見ると、皆から『魔理沙のために時間を使え』と言われているように感じるのだ。 その中でも、霊夢にとって際立って受け入れがたいものが、アリスだった。 最初、動かなくなった魔理沙に縋り付いて、連日のように号泣していたアリスだった。 いつの間にか魔理沙の介護をすべて引き受けるようになったアリスだった。 魔理沙を愛していたアリスだった。 霊夢は魔理沙につきっきりでいることなど、到底できない。 博麗の巫女の使命が霊夢を束縛した。大結界の管理や幻想郷の秩序維持は 到底、魔理沙の介護と両立できるものではない。 その意味では、アリスの献身は何よりもありがたかったが 愛する者が植物状態になっても世話を続けるアリスを見ることは 霊夢の中に、更なる罪悪感を根付かせ、精神を滅入らせた。 なぜならば、霊夢は、魔理沙だけではなく、アリスの愛と、その私生活までを 完全に破壊したということなのだ。  ・・・ 「いい、霊夢。私は幸せなのよ」 アリスはそう言う。 「大好きな魔理沙とずっと一緒で居られるんだから」 アリスはそう言って抱きしめた魔理沙の背中を撫でる。 「でもこれは、私から魔理沙への愛。私の満足。わかる?」 アリスの眼差しは穏やかだったが、それでも霊夢は、その視線が自分へ向けられたとたん 蛇の視線に射竦められたように硬直してしまうのだ。 「魔理沙が本当に欲しいのは私の愛じゃない」 動けない。 何度か聞かされたその台詞に、動悸が強まり、背筋を冷たいものが伝い、 視界がモノクロになっていく。 「だから、霊夢。魔理沙に愛を注ぐのは貴方の仕事よ」 背後でドアの閉まる音がした。アリスはもう部屋にはいなかった。 『魔理沙が本気で愛していた、貴方の』 視界に色彩が戻る。そこにあるのは先程とおなじ、薬品臭い白い部屋。 そして魔理沙。魔理沙と自分の二人だけだ。 解っている。これはアリスの復讐なのだ。 彼女はけして魔理沙と自分を引き離してはくれないだろう。 死ぬまで魔理沙と対面させ続けるだろう。 魔理沙を壊した現実から逃れさせてはくれないだろう。 「・・・ごめんなさい」 霊夢の頬を涙が伝った。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 霊夢は、上体を起こした姿勢のままの魔理沙にしがみつき 嗚咽し、涙し、懺悔の言葉を繰り返した。 「魔理沙、アリス、ごめんなさい、お願い許して、ゆるして・・・ゆるし・・・」 ただ霊夢のすすり泣く声ばかりが、部屋に響いたが 魔理沙の瞳孔は何も映すことはなかった。  ・・・ 「最近わかってきた。パワーだけじゃ駄目なんだ、霊夢に勝つには・・・」 アリスは魔理沙とのあの日の会話を思い出し 紅茶が冷えきっているのも忘れて物思いに耽った。 止めておけばこんなことにはならなかっただろうか。 いや、そんなことはできなかっただろう。 猛烈に努力している魔理沙は輝いていた。 あの輝きをどうにかするなど、自分にできることではなかった。 霊夢を目標にした魔理沙の近くでは、自分の存在感など霞んでしまうのだ。 でもまさか魔理沙が霊夢を追い詰めるほど強くなるなんて。 その結果の事故。霊夢の焦りが針を射る手を狂わせた。 「もしかして私はこれを望んでいたのかもね」 もう、どうでもよかった。 魔理沙と毎日一緒にいられる。もう何も恥ずかしがることなどない。 何も心配することもない。ただ魔理沙に無条件に愛を注ぎ続ければいいだけの毎日。 恋敵に怯えることのない毎日。 人形ではない、本物の魔理沙と一緒の、毎日。 平穏で充実した、そんな毎日が、どこか苦痛で寂しかった。 魔理沙がアリスのものになることはない。 一方その頃、パチュリーはというと 魔理沙が来ないなら小悪魔をちょいちょいと弄くって 赤毛時代の魔理沙を作ってお茶を濁そうとか考え なんか「だぜ薬」を調合したり、咲夜に裁縫をさせていたらしいのだが それはまた別の話である。 おわり ---- - 最高だ &br()鬱さ加減と最後の笑いも -- 坂 (2008-10-29 21:13:02) - なるほど、窮鼠猫を噛む・・・じゃないがありえる話だな。 &br()でも、あまりにも霊夢が可愛そうだ・・・てかパチュリーww -- ナナシサソ (2008-12-24 09:44:10) - 鬱になる・・・と思ったら最後で吹いた -- 名無しさん (2009-02-17 19:22:05) - 霊夢とアリスが不憫すぎる・・・魔理沙だけのためにこんなに狂えるのか -- 名無しさん (2009-02-18 02:06:46) - 本編でパチュリーについて一言も触れられてないからおかしいと思ったら…。 &br()何だよ「だぜ薬」ってwww -- 名無しさん (2009-03-07 16:54:32) - 普通にある話ですよね。 &br()仕方ないこれだけはしかたない。 &br()ボクシングなんかが良い例。 &br()それに挑んできているのが魔理沙なんだからこう言う事故は覚悟の上と思うし。 &br()まあ周りにはそんな覚悟ないか。 -- 名無しさん (2009-03-16 13:51:15) - 「だぜ薬」ほしいぜ!・・・やっぱりいいのぜ。 -- 名無しさん (2009-04-11 22:31:21) - >2009-03-16 13:51:15 &br()殺さない為に断幕ごっこなわけでだな。 &br()っていうか魔理沙ころしたら魅魔が暴走するだろ。 &br()儚月抄の天狗の言動からみるに別段霊夢が死んだら幻想郷終了ってわけじゃないみたいだし。 -- 名無しさん (2009-05-27 08:35:55) - ↑ここはリアリティよりもシチュエーションを楽しむ場所だと思うなぁ。 -- 名無しさん (2009-05-27 08:46:46) - 魔理沙ごときが調子に乗るからこうなる -- 名無しさん (2009-05-28 21:34:06) - ↑魔理沙とヤムチャを一緒にするなよww -- 名無しさん (2009-05-31 00:54:20) - だけど鬱になりそうだったどころか当分全てのやる気が失せたwww &br()けど「だぜ薬」なら絶対欲しいけどね -- 名無しさん (2009-11-08 05:15:25) - 魔理沙とアリスかわいそう。俺、鬱になった。 -- 天内 (2010-03-24 16:37:01) - でも俺はこあもなかなかに可哀想だと思うんだぜ -- 名無しさん (2010-03-25 14:04:41) - アリス…おい霊夢 -- 名無しさん (2010-05-01 21:01:55) - きれいな鬱だな &br()こういうの好きだわ -- 名無しさん (2010-11-09 01:39:43) - 植物人間、薬中廃人、半身不随…魔理沙…涙 -- 名無しさん (2012-05-16 20:11:21) - 最後www哀愁漂う雰囲気と俺のファンタ返せwww -- 名無しさん (2012-05-22 00:39:30) - 「だぜ薬」に不覚にもコーラ吹いてしまったww -- 名無しさん (2012-07-25 21:58:56) - だぜ薬ww -- … (2014-08-20 16:09:36) - だぜ薬w大爆笑してしまったww -- 上海人形ww (2014-11-04 19:15:46) - これ全員可哀想だよな。 -- 名無しさん (2015-01-21 21:47:37) - だぜ薬? &br()なにそれおいしいの? -- ぴーなっつさん (2015-03-14 08:46:20) - だぜ薬ってなんだwwwwwwwwww -- 名無しさん (2015-05-25 17:23:48) - 紺魔理沙 -- 名無しさん (2015-06-15 15:39:53) - こうゆうのっていっつも &br()アリス×魔理沙とか魔理沙×アリスとかだなぁ &br()れいむが可愛そう。 &br() -- 名無しさん (2015-11-16 17:04:23) - では、「だぜ薬」を飲んでしまった、俺の後にコメする人です、どうぞ! &br() &br() &br()ノリの良い人がいればいいが… -- キング クズ (2016-07-10 05:58:48) - 謔イ縺励>亊 -- 名無しさん (2016-10-18 14:59:19) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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