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479 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/10/07(土) 23:51:53 [ nxPe14h2 ]
せっかくここまで上手くやってきたのに。
せっかくここまで皆、幸せに暮らしてきたというのに。
ここでの平穏な日々の暮らしが、どんなに大切なものあって、
そして、どんなに貴重で得がたいものであったかなんて事。
失ってから、初めて分かる。
ここにいるもの全てがその事に気付いていたわけではない。
ここの狭い世界を生きるだけである人間の大半は気付いていなかった。
若い妖怪はそんな事考えもしなかった。
そのほとんどは、何も言わずただ泣きはらした目を向けて、遠い地を眺めている。
永い時を刻む人間や半獣たちは気付いていた。
永い時を刻む妖怪たちも知識としては知っていた。
永く世界を見守ってきた彼女と式は、ワカッテイタ。
それでも、……それでも。
この現実に、耐えられるわけではなかった。
480 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/10/07(土) 23:58:41 [ nxPe14h2 ]
いつしか世界は、単調な足音という名の地響きを残すのみになっていた。
「魔理沙。魔理沙。」
誰かが、泣いている。本当に、すぐそこで。
真赤な世界。何も見えないような赤い大地。
理想郷が燃えている。
アリスが泣いている。まだ上海も蓬莱も残っていると泣いている。
チルノは泣きやんだ。さっきのラジオ放送を聞いてから半狂乱になって、それから静かになった。
悔しがって泣くスキマ一家ももここにいる。もうぼろぼろになって。式の式は殆ど死んでいるように動かない。
がりがりと、雑音を鳴らすトランジスタラジオは沈黙したままだ。
川に映る遠く赤い、鬼灯みたいに紅い幻影が歩いていく。翼はまるで御伽噺の悪魔のように暗い。
そういえば、紅い悪魔と従者はどうなっただろうか。運命どおり巫女と無事合流できるだろうか。
月兎はどうだろう。今度は逃げる事無く、立ち向かった。己の守るべき箱庭を守護するため戦った。
その報告を聞いたのが最期だった。
今はただ、黙って巨大な像を見つめるだけだ。
無縁塚。ここに希望は無い。慰めも無い。
481 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/10/08(日) 00:06:17 [ pbsyO6VM ]
雲の切れ目に動くものがあった。
神社の方角から信じられないような速度で飛んでくる紅白。
更に、一筋、二筋、……数え切れないほどの白線。鬼の大群が紅白に続く。
「霊夢」
スキマ妖怪が、意を決し、もう立ち上がれない式達を置いて、立ち上がり。
そして紫の線が、紅白の横に並んだ。
地の底の煉獄の炎の宴から、舞い上がるように、紅と銀の線が急カーブを描いて紅白に続いた。
月兎は、来ない。もう来れない。
地上から声が掛かる。
それは応援なんて生易しいものなんかじゃない。罵声に近いものだ。
やっつけてくれ。あいつに一矢報いてくれ。
その声を聞くたびに、宵闇の妖怪は悲しみに打ち震える。
ここまでやっては、もうどうしようもない。彼女に救いは無いのだ、と。
「みすちー……みすちー……っ」
手元に握り締める折れた箒を見て、頭を振り、又空を見る。
あらゆる光点が、混じりあう、月も星も見えない、赤い暗い夜空。
そして、思う。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
どうしてこんな事態になることを防ぐ事ができなかったんだろう。