「妖夢×俺×幽々子:3スレ432」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「妖夢×俺×幽々子:3スレ432」(2018/12/12 (水) 22:38:28) の最新版変更点
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目を覚ますと、そこにはこの世のものとは思えない景色が広がっていた。
自分は長い階段の最上にいるようだ。降りた先は霞んで見えないほど長い階段。
今いる頂上にあるのは、大きな屋敷級の、建物の入り口。
周りには、そこら中を漂う、白くて半透明の物体。
遠くを見回してみれば、自分がいた世界とは全くの別もの。
自分が住んでいた世界は、見回せばどこまでも続くように見えるコンクリートジャングルの世界。
しかし今はどうか。マンションやビルなどというものは、一つも見当たらない。
自分は寝ている間に、見知らぬ世界へと転がり込んでしまったとでも言うのだろうか。
それとも自分は死んでしまったのだろうか。ここは死んだ先の世界であったりするのだろうか。
屋敷の門が、開かれた。
そこから出てきたのは背中に刀を差した少女。傍らには、白い半透明の浮遊物。
こちらを見るなり、少女の清ました表情はいてはいけないものを見るようなものに変わり、目を見開いた。
「……なんで、人間がこんなところに?」
少女の言ったことを理解するには、今自分が置かれている状況を把握すべきだと思った。
「あの……ここはどこか教えてもらえないか?」
「ここは、彼岸を越えた死者が住まう冥界のお屋敷。白玉楼よ」
冥界。その言葉でわかった。やはり、俺は死んだのだ。
「でもあなたは違う。生きた人間よ。それに、あなたは幻想郷の人間ではない」
少女は言って、俺の足を指差す。僕自身に足があるから、生きていると言いたいのか。幽霊ではないと言いたいのか。
「……幻想郷?」
「ずっと昔。現在進行形の日本から切り離された、幻想の日本」
「は、はあ……」
少女の言っていることは、絵空事にしか思えなかった。ただ周りの景色と自分の状況を考えると、否定できなかった。
俺の出現に少女は酷く困っている様子である。それもそうだ。ここは、生きた人間がいるべき世界ではないらしいのだから。
「つまり、俺は偶然その、幻想郷という世界に迷い込んだ。そういうことか?」
「そう、なるんじゃないかしら。わたしにもどうしてこうなったのか、よくわからない……」
少女は呟き、また困った顔をした。
出来ればこの少女よりも、もう少し賢い人に説明を頂きたいところではあるが……。
「少し待っていなさい人間。わたしの主人に話をきいてみるから」
そういうと、少女は門の中へ消えた。
近寄ってきた白い半透明の浮遊物──幽霊に見えるもの──が、近づいてきた。
それに触れると、あまりの冷たさにこれは現実であると認識させられた。
再び門が開き、先ほどの少女が見えた。
「お嬢様がお招きしていらっしゃるわ。どうぞ、中へ」
促されるがまま、お屋敷の中へ。導かれるまま、畳の間へ。
そこで待っていたのは、あまりの美しさに儚さを感じさせる、綺麗な女性。
「まずは座って、おくつろぎください。あなたについて、お話したいことが御座いますから」
お嬢様に言われるがまま、用意された座布団に腰を落ち着かせることに。
着物にアレンジを加えたお洒落をしたそのお姿に、目を奪われた。
「まずは自己紹介させていただきます。この屋敷、白玉楼の主。西行寺幽々子と申します」
「どうもご丁寧に。○○と申します」
「そしてこちらは従者であり、庭師もしてもらっている魂魄妖夢よ」
「魂魄妖夢と、申します」
先ほどの少女が、頭を下げて自己紹介。
そして熱いお茶を淹れてもらい、美味しくいただく。
「さて、○○さん。妖夢から聞いた通り、ここはあなたの住む日本とは別の日本です。ましてここは死者の世界。
おそらく、あなたが元の世界へ帰ることはとても難しいでしょう」
「西行寺さん、やっぱり俺は帰ることはできないんですか……?」
「幽々子で構いません。それと、できないとは言っていません。おそらく、わたしの古くからの友人が気まぐれで境界を弄ったせいで、ここへ転がり込んだのでしょう」
幽々子さんのご友人はものすごいご友人のようである。
俺には言ってることがいまいち理解できていないが、そのご友人のせいで俺はここに来たということは把握できた。
「幽々子さん……そのご友人に会うことはできますか?」
「残念ながら、連絡はほとんどとれないわ。気まぐれでここを訪れに来る程度だから」
「……はあ」
「如何致しましょう。わたしの友人が来るまで、ここで休んでいかれますか?」
「幽々子様、正気ですかっ」
幽々子さんの提案に、魂魄が拒否を露にした。
「お引取りしてもらったところで、そこらの死霊に祟り殺されるに違いないわ」
「ですが幽々子様。生きた人間をここに置くのはいかがなものかと」
「妖夢。こんな珍しいお客さんを帰すのはもったいないわ」
「しかし……」
「そうと決まったらお部屋へ案内して差し上げなさい。でも、うっかり殺してしまってはいけないから、離れの母屋を使ってもらいなさい」
なんて怖いことをあっさりと言えるのだろうこの方は。
冥界のお嬢様となると、それなりの力を持っていらっしゃるのだろうか。
「……わかりましたよ、幽々子様~。もう、どうなっても知りませんよ~」
幽々子さんの我侭なのか、興味心なのか、親切心なのか。
何はともあれ、俺はここで幽々子さんのご友人を待つことになったらしい。
魂魄に案内されるがまま、屋敷から少し離れたプレハブのような建物へ。
「お食事やお布団はそのとき運びに来ますから。ご不浄の場合は外を出て本屋に向かえばすぐわかると思います。あと何か欲しいものは?」
「いや、ありがとう魂魄。それはともかく、訊きたいことがあるんだが」
「妖夢で構わないわ。で、何かしら?」
「ええと、幽々子さんの言ったことって……?」
「あなたを簡単に殺せるって話?」
「そう」
「幽々子様は、簡単に生きているものを死に誘える能力をお持ちなのよ。それこそ、息をするのと同じぐらいに」
「……」
「その能力に触れたくはないでしょう? だから離れに住ませるよう幽々子様が仰ったのよ。全く、こんな人間のどこがお気に召されたのか……」
妖夢はそう呟くと、部屋を出て行った。
いくら俺が気に入らないからって、客に悪口を言い放つのは客をもてなす使いとしてどうなんだ。
俺が招かざる者だとしても、あんまりではないだろうか。
無性に腹が立った。少し、妖夢に仕返ししてやろう。
お腹が空き始めたころ。部屋に入ってきた妖夢が昼食を運びに来てくれた。
「ご飯のおひつを置いておきますから、ご自由にお替りなさってください」
「ありがとう、妖夢」
「また片付けにきますから。それでは失礼します」
出て行く妖夢を、俺は引き止めた。
「何か説明不足な部分でもありました? ○○さん」
「いやな。妖夢のそのかっこう、似合ってるようには見えなくてさ」
「な……!」
「その頭の黒いひらひらは何なんだよ。キクラゲか? 気色悪い」
「失礼ねえ、これはこういう髪飾りよ!」
「それになんだよ、その隣にいつもいる人魂みたいなのは。気持ち悪いにも程がある」
「こ、これはもう半分の私なのよ! こういう生まれなの!」
「変な家系だな。ほんと、不吉だぜ」
「幽霊はぜんぜん不吉じゃないわよ! あなたの時代は人をけなすことが挨拶なの!?」
「いやいや。お前があんまり変だから、そう思っただけだって」
とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、妖夢が刀に手をかけた。が、そこで止まる。
興奮した妖夢が、呼吸を乱す。
清ました顔は崩れ、怒りをこめた形相。俺を嫌う、歪んだ表情。
妖夢のその様子に、俺は激しい興奮を覚えた。
「……○○が、幽々子様の客人じゃなかったら迷わず切り捨てるところよ!」
「そうかい」
「……ここであなたが言ったこと、聞かなかったことにするわ。だからもう、悪く言うのは止めて」
ぶつぶつ呟きながら、妖夢は逃げるように部屋を出て行った。
道徳的に見れば、今俺がした行為は酷いものだろう。
特異な生まれだからということで、悪口を言ったり。まして相手は俺と比べてとても年の離れた、まだ小さい少女。
ここが現代の日本なら、近所の人から冷たい視線を向けられるところであろう。
しかしここは幻想郷という別の日本。まして冥界。法律などというものはきっと存在しない。
妖夢に対しての苛め行為。そのことを俺は楽しんでいた。
幽々子さんにばれないよう、妖夢を弄って冥界ライフを楽しめないだろうか。
昼餉をいただきながら、そんなことを思った。
食器を片付けに来た妖夢へ、俺はさっきのことに詫びを入れた。
さすがに煙たがれてしまうと、近づきにくいものだから。
「なあ妖夢。さっきは酷いことを言って、すまなかった」
「……もう、いいわよ。それに、わたしの方こそ失礼なことを言ってしまったみたいだし」
「ああ。そのことで、少しイラっときてしまってな……」
「正直、あなたが迷い込んで混乱してるのよ。そのくせ幽々子様は慌てることなく、落ちついていらっしゃるし……。それもこれも紫様のせいよ……」
「ゆかり? それって幽々子さんのご友人のこと?」
「そう。いつもどこからともなく現れたり、異変を起したりする人。正しくは妖怪になりますけど」
「……」
妖夢は食器を運んでいき、急須と湯のみを置いて退出していった。
ともかく、妖夢は機嫌を取り戻してくれたようである。
次はどんなネタでからかってみようか。
それから、小腹が空き始める時間。部屋を出て、お屋敷の庭を散歩することにした。
遠くには一生懸命刀を操り、剣の修行をしている妖夢の姿が。
俺はネタにできないかと思い、妖夢に話しかけてみた。
「あら○○さん。何か用ですか?」
「いや、何してるのかなと」
「見てわかりませんか。剣の修練です。集中したいので、できればまたにしてください」
妖夢は俺のことなど構わず、素振りを再開した。
それでも俺は妖夢に話しかける。
「妖夢って何で刀持ってるんだ?」
「はぁ……」
集中させてくれない俺にあきれたのか。妖夢は刀を納めて、こちらを見た。
「決まってるじゃない。幽々子様を守るためよ」
「小さいのに、大したものだな」
「少なくとも、あなたよりは長く生きていますけど」
見た目とは裏腹に、高齢のようである。
「じゃあさ、今までここが襲われたりしたことがあるのか?」
「そうね。幽々子様が妖怪桜を復活させようとしたとき。幻想郷の巫女が邪魔しにきたわ」
「結果は?」
「……完敗だった。成す術もなく、負けた。わたしが、弱かったから……」
「それで、その妖怪桜は復活できたのか?」
「いいえ、幽々子様も負けてしまわれて、阻止されてしまった……」
「ふーん。お前が弱かったから、守りきれなかったから、駄目だったんだな」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いはありません!」
再び、胸の苦しみに歪む妖夢の笑顔。
「おいおい、事実を言ったまでじゃないか。それに、二度とそんなことがないよう修行してるんだろう?」
「え、ええ……」
少し掩護するような言葉をかけてみるも、あからさまに妖夢に嫌われてしまったようだ。
後ずさりするように、俺から離れているように見えるから。
さすがに言い過ぎたのだろう。なら、徹底的にするまで。
俺は妖夢に接近し、妖夢の霊体というものに触れた。
あからさまに、嫌な顔をされた。
「もう、近づかないで!」
さらに攻撃してみようと思ったとき、妖夢に突き飛ばされてしまった。
妖夢は鍛えているからか。俺の体はいとも簡単に吹き飛んだ。
走って、視界から消えていく妖夢の姿。
少々、やり方が強引であったようだ。これは反省すべきである。
しかし発見もある。妖夢の半霊に触れることで、妖夢自身にも感触が来るということ。
これを応用すれば、妖夢をいいおもちゃにできるかもしれない。
問題は妖夢に毛嫌いされているかもしれないことだ。
その後。部屋に戻り、妖夢を苛めて遊ぶ方法はないかと思考を巡らせて時間を過ごした。
そのうち、部屋の襖越しに声がかかった。
お腹が空いてきた。きっと、夕餉を運んできてくれたのだろう。
俺はどうぞと声をかけ、妖夢の入室を待った。
しかしそこにいた人物は妖夢ではなかった。
白玉楼の主。妖夢が慕う楼閣のお嬢様。幽々子さんであった。
幽々子さんの表情は冷たく、鋭く尖ったようなものだった。
ここに招かれたときに見せた柔らかい笑顔ではない。人を蔑むような目。
「うちの大事な妖夢に、手を出さないでいただけますか?」
彼女が扇子を開き、それを仰いだ。
扇子から光輝く蝶々が発生し、部屋中に蝶々が充満した。
本能が告げる。蝶々に触れれば、きっと命はないと。
「あなたが何をしたか、わかっているでしょう?」
幽々子さんの平手が、俺の頬を引っぱたいた。
「話を聞いていますか? 妖夢があなたに苛められて嫌がっているんです」
喉元に、扇子を突きつけられた状態。
幽々子さんの表情を表すなら、怖いの一言だった。
「確かにわたしは、あなたにここにいることを許可しました。あなたは不可抗力で、ここに紛れ込んでしまったのですから。
でもここにいていいのと、ここで好き勝手なことをするのとは訳が違うわよねえ?」
「ええ……」
幽々子さんの表情は、さらに怖いものに。
険しい表情へと進んでいくのではなく、次第にいやらしい笑顔へ。
そう。俺が妖夢を苛めて、楽しんで、笑うように。
幽々子さんが、俺を苛めて笑っているんだ。
「もう一度言うわよ? 妖夢に変なことをしないで。今度こんなことをすれば、殺してさしあげるわよ?」
部屋中の蝶々が、包むように俺を囲んだ。
さらに卑屈に歪む幽々子さんのお顔と、自分の置かれている状況にマゾヒスト的快感を覚える。
「試しに腕の一本や二本、落としてみせましょうか?」
ただ、静かに首を横に振るしかなかった。
幽々子さんは満足したのか、扇子を閉じて退出していく。同時に、蝶々も消えた。
溜息を吐いて、その場に座り込む。幽々子さんの恐怖に、体が疲れていた。
頬の痛みを思い出し、幽々子さんのサディスティックな笑顔を想像する。
もし俺が妖夢を苛めるたび、幽々子さんが俺を叱りにきたら?
そんな考えが浮かんだ。
俺はサディストな楽しみを得られると同時に、その反対の快感もいただけるということだ。
なんとも美味しい状況であろうか。
下手をすれば、本当に幽々子さんに殺されてしまうかもしれない。
先ほど、それを肌で感じたのだから。
しかしそんなことがどうでもよくなる程、自分の置かれている環境に満足している。
これは幽々子さんのご友人にお礼をしなくてはならない。
さて夕餉を頂こう。そしてぐっすり休ませていただこう。
明日はどんな風に妖夢を苛めて、どの様に幽々子さんに叱られるのであろうか。
そんなことを妄想して、明日を待つばかり。
----
- 次は問答無用に殺されて終わり。 &br()楽しむ暇なんてないと思う。 &br()それすらも快楽かもしれないけど。 -- 名無しさん (2009-03-24 01:34:53)
- 湯湯子は**を気に入ってるようだからないな。先に妖夢に殺されそうだけど。続いてほしい -- 名無しさん (2009-03-24 19:12:23)
- 昨日今日来たばかりのなんとも知れない人間と、先代から自分を守ってくれてる妖夢。 &br()ゆゆさまは〇〇を殺すだろ -- 名無しさん (2009-03-25 20:50:49)
- ヤヴァイ。続きみたいわこれ -- 名無しさん (2009-04-19 18:51:57)
- 続き書いてくださいー -- 名無しさん (2009-04-22 16:49:00)
- 最初は気に入ってるかもしれないが飽きられて殺されて終わり -- 名無しさん (2009-07-29 13:53:31)
- たまらんな、これw &br()続き読みたいのう。 -- 名無しさん (2010-01-03 02:28:59)
- 変態は死ぬべき -- 名無しさん (2010-03-16 21:52:50)
- ちょっと死んでくる -- 名無しさん (2010-03-16 23:27:12)
- この男は紳士になれない。 -- 名無しさん (2010-03-17 08:09:44)
- 素晴らしいです -- 名無しさん (2010-06-02 15:08:06)
- この男は分かってない &br()継続的に苛めて楽しむためには &br()まず相手より精神的に優位であることを刷り込んでからだ -- 名無しさん (2010-07-04 20:53:31)
- いいなコレ ゆゆ様に蔑まれながら殺されたい -- 名無しさん (2010-10-27 02:52:09)
- age -- age (2011-01-03 00:40:12)
- ゆ、ゆゆこさん恐いです… -- 梨さん (2013-12-16 22:56:14)
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目を覚ますと、そこにはこの世のものとは思えない景色が広がっていた。
自分は長い階段の最上にいるようだ。降りた先は霞んで見えないほど長い階段。
今いる頂上にあるのは、大きな屋敷級の、建物の入り口。
周りには、そこら中を漂う、白くて半透明の物体。
遠くを見回してみれば、自分がいた世界とは全くの別もの。
自分が住んでいた世界は、見回せばどこまでも続くように見えるコンクリートジャングルの世界。
しかし今はどうか。マンションやビルなどというものは、一つも見当たらない。
自分は寝ている間に、見知らぬ世界へと転がり込んでしまったとでも言うのだろうか。
それとも自分は死んでしまったのだろうか。ここは死んだ先の世界であったりするのだろうか。
屋敷の門が、開かれた。
そこから出てきたのは背中に刀を差した少女。傍らには、白い半透明の浮遊物。
こちらを見るなり、少女の清ました表情はいてはいけないものを見るようなものに変わり、目を見開いた。
「……なんで、人間がこんなところに?」
少女の言ったことを理解するには、今自分が置かれている状況を把握すべきだと思った。
「あの……ここはどこか教えてもらえないか?」
「ここは、彼岸を越えた死者が住まう冥界のお屋敷。白玉楼よ」
冥界。その言葉でわかった。やはり、俺は死んだのだ。
「でもあなたは違う。生きた人間よ。それに、あなたは幻想郷の人間ではない」
少女は言って、俺の足を指差す。僕自身に足があるから、生きていると言いたいのか。幽霊ではないと言いたいのか。
「……幻想郷?」
「ずっと昔。現在進行形の日本から切り離された、幻想の日本」
「は、はあ……」
少女の言っていることは、絵空事にしか思えなかった。ただ周りの景色と自分の状況を考えると、否定できなかった。
俺の出現に少女は酷く困っている様子である。それもそうだ。ここは、生きた人間がいるべき世界ではないらしいのだから。
「つまり、俺は偶然その、幻想郷という世界に迷い込んだ。そういうことか?」
「そう、なるんじゃないかしら。わたしにもどうしてこうなったのか、よくわからない……」
少女は呟き、また困った顔をした。
出来ればこの少女よりも、もう少し賢い人に説明を頂きたいところではあるが……。
「少し待っていなさい人間。わたしの主人に話をきいてみるから」
そういうと、少女は門の中へ消えた。
近寄ってきた白い半透明の浮遊物──幽霊に見えるもの──が、近づいてきた。
それに触れると、あまりの冷たさにこれは現実であると認識させられた。
再び門が開き、先ほどの少女が見えた。
「お嬢様がお招きしていらっしゃるわ。どうぞ、中へ」
促されるがまま、お屋敷の中へ。導かれるまま、畳の間へ。
そこで待っていたのは、あまりの美しさに儚さを感じさせる、綺麗な女性。
「まずは座って、おくつろぎください。あなたについて、お話したいことが御座いますから」
お嬢様に言われるがまま、用意された座布団に腰を落ち着かせることに。
着物にアレンジを加えたお洒落をしたそのお姿に、目を奪われた。
「まずは自己紹介させていただきます。この屋敷、白玉楼の主。西行寺幽々子と申します」
「どうもご丁寧に。○○と申します」
「そしてこちらは従者であり、庭師もしてもらっている魂魄妖夢よ」
「魂魄妖夢と、申します」
先ほどの少女が、頭を下げて自己紹介。
そして熱いお茶を淹れてもらい、美味しくいただく。
「さて、○○さん。妖夢から聞いた通り、ここはあなたの住む日本とは別の日本です。ましてここは死者の世界。
おそらく、あなたが元の世界へ帰ることはとても難しいでしょう」
「西行寺さん、やっぱり俺は帰ることはできないんですか……?」
「幽々子で構いません。それと、できないとは言っていません。おそらく、わたしの古くからの友人が気まぐれで境界を弄ったせいで、ここへ転がり込んだのでしょう」
幽々子さんのご友人はものすごいご友人のようである。
俺には言ってることがいまいち理解できていないが、そのご友人のせいで俺はここに来たということは把握できた。
「幽々子さん……そのご友人に会うことはできますか?」
「残念ながら、連絡はほとんどとれないわ。気まぐれでここを訪れに来る程度だから」
「……はあ」
「如何致しましょう。わたしの友人が来るまで、ここで休んでいかれますか?」
「幽々子様、正気ですかっ」
幽々子さんの提案に、魂魄が拒否を露にした。
「お引取りしてもらったところで、そこらの死霊に祟り殺されるに違いないわ」
「ですが幽々子様。生きた人間をここに置くのはいかがなものかと」
「妖夢。こんな珍しいお客さんを帰すのはもったいないわ」
「しかし……」
「そうと決まったらお部屋へ案内して差し上げなさい。でも、うっかり殺してしまってはいけないから、離れの母屋を使ってもらいなさい」
なんて怖いことをあっさりと言えるのだろうこの方は。
冥界のお嬢様となると、それなりの力を持っていらっしゃるのだろうか。
「……わかりましたよ、幽々子様~。もう、どうなっても知りませんよ~」
幽々子さんの我侭なのか、興味心なのか、親切心なのか。
何はともあれ、俺はここで幽々子さんのご友人を待つことになったらしい。
魂魄に案内されるがまま、屋敷から少し離れたプレハブのような建物へ。
「お食事やお布団はそのとき運びに来ますから。ご不浄の場合は外を出て本屋に向かえばすぐわかると思います。あと何か欲しいものは?」
「いや、ありがとう魂魄。それはともかく、訊きたいことがあるんだが」
「妖夢で構わないわ。で、何かしら?」
「ええと、幽々子さんの言ったことって……?」
「あなたを簡単に殺せるって話?」
「そう」
「幽々子様は、簡単に生きているものを死に誘える能力をお持ちなのよ。それこそ、息をするのと同じぐらいに」
「……」
「その能力に触れたくはないでしょう? だから離れに住ませるよう幽々子様が仰ったのよ。全く、こんな人間のどこがお気に召されたのか……」
妖夢はそう呟くと、部屋を出て行った。
いくら俺が気に入らないからって、客に悪口を言い放つのは客をもてなす使いとしてどうなんだ。
俺が招かざる者だとしても、あんまりではないだろうか。
無性に腹が立った。少し、妖夢に仕返ししてやろう。
お腹が空き始めたころ。部屋に入ってきた妖夢が昼食を運びに来てくれた。
「ご飯のおひつを置いておきますから、ご自由にお替りなさってください」
「ありがとう、妖夢」
「また片付けにきますから。それでは失礼します」
出て行く妖夢を、俺は引き止めた。
「何か説明不足な部分でもありました? ○○さん」
「いやな。妖夢のそのかっこう、似合ってるようには見えなくてさ」
「な……!」
「その頭の黒いひらひらは何なんだよ。キクラゲか? 気色悪い」
「失礼ねえ、これはこういう髪飾りよ!」
「それになんだよ、その隣にいつもいる人魂みたいなのは。気持ち悪いにも程がある」
「こ、これはもう半分の私なのよ! こういう生まれなの!」
「変な家系だな。ほんと、不吉だぜ」
「幽霊はぜんぜん不吉じゃないわよ! あなたの時代は人をけなすことが挨拶なの!?」
「いやいや。お前があんまり変だから、そう思っただけだって」
とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、妖夢が刀に手をかけた。が、そこで止まる。
興奮した妖夢が、呼吸を乱す。
清ました顔は崩れ、怒りをこめた形相。俺を嫌う、歪んだ表情。
妖夢のその様子に、俺は激しい興奮を覚えた。
「……○○が、幽々子様の客人じゃなかったら迷わず切り捨てるところよ!」
「そうかい」
「……ここであなたが言ったこと、聞かなかったことにするわ。だからもう、悪く言うのは止めて」
ぶつぶつ呟きながら、妖夢は逃げるように部屋を出て行った。
道徳的に見れば、今俺がした行為は酷いものだろう。
特異な生まれだからということで、悪口を言ったり。まして相手は俺と比べてとても年の離れた、まだ小さい少女。
ここが現代の日本なら、近所の人から冷たい視線を向けられるところであろう。
しかしここは幻想郷という別の日本。まして冥界。法律などというものはきっと存在しない。
妖夢に対しての苛め行為。そのことを俺は楽しんでいた。
幽々子さんにばれないよう、妖夢を弄って冥界ライフを楽しめないだろうか。
昼餉をいただきながら、そんなことを思った。
食器を片付けに来た妖夢へ、俺はさっきのことに詫びを入れた。
さすがに煙たがれてしまうと、近づきにくいものだから。
「なあ妖夢。さっきは酷いことを言って、すまなかった」
「……もう、いいわよ。それに、わたしの方こそ失礼なことを言ってしまったみたいだし」
「ああ。そのことで、少しイラっときてしまってな……」
「正直、あなたが迷い込んで混乱してるのよ。そのくせ幽々子様は慌てることなく、落ちついていらっしゃるし……。それもこれも紫様のせいよ……」
「ゆかり? それって幽々子さんのご友人のこと?」
「そう。いつもどこからともなく現れたり、異変を起したりする人。正しくは妖怪になりますけど」
「……」
妖夢は食器を運んでいき、急須と湯のみを置いて退出していった。
ともかく、妖夢は機嫌を取り戻してくれたようである。
次はどんなネタでからかってみようか。
それから、小腹が空き始める時間。部屋を出て、お屋敷の庭を散歩することにした。
遠くには一生懸命刀を操り、剣の修行をしている妖夢の姿が。
俺はネタにできないかと思い、妖夢に話しかけてみた。
「あら○○さん。何か用ですか?」
「いや、何してるのかなと」
「見てわかりませんか。剣の修練です。集中したいので、できればまたにしてください」
妖夢は俺のことなど構わず、素振りを再開した。
それでも俺は妖夢に話しかける。
「妖夢って何で刀持ってるんだ?」
「はぁ……」
集中させてくれない俺にあきれたのか。妖夢は刀を納めて、こちらを見た。
「決まってるじゃない。幽々子様を守るためよ」
「小さいのに、大したものだな」
「少なくとも、あなたよりは長く生きていますけど」
見た目とは裏腹に、高齢のようである。
「じゃあさ、今までここが襲われたりしたことがあるのか?」
「そうね。幽々子様が妖怪桜を復活させようとしたとき。幻想郷の巫女が邪魔しにきたわ」
「結果は?」
「……完敗だった。成す術もなく、負けた。わたしが、弱かったから……」
「それで、その妖怪桜は復活できたのか?」
「いいえ、幽々子様も負けてしまわれて、阻止されてしまった……」
「ふーん。お前が弱かったから、守りきれなかったから、駄目だったんだな」
「あなたに、そんなことを言われる筋合いはありません!」
再び、胸の苦しみに歪む妖夢の笑顔。
「おいおい、事実を言ったまでじゃないか。それに、二度とそんなことがないよう修行してるんだろう?」
「え、ええ……」
少し掩護するような言葉をかけてみるも、あからさまに妖夢に嫌われてしまったようだ。
後ずさりするように、俺から離れているように見えるから。
さすがに言い過ぎたのだろう。なら、徹底的にするまで。
俺は妖夢に接近し、妖夢の霊体というものに触れた。
あからさまに、嫌な顔をされた。
「もう、近づかないで!」
さらに攻撃してみようと思ったとき、妖夢に突き飛ばされてしまった。
妖夢は鍛えているからか。俺の体はいとも簡単に吹き飛んだ。
走って、視界から消えていく妖夢の姿。
少々、やり方が強引であったようだ。これは反省すべきである。
しかし発見もある。妖夢の半霊に触れることで、妖夢自身にも感触が来るということ。
これを応用すれば、妖夢をいいおもちゃにできるかもしれない。
問題は妖夢に毛嫌いされているかもしれないことだ。
その後。部屋に戻り、妖夢を苛めて遊ぶ方法はないかと思考を巡らせて時間を過ごした。
そのうち、部屋の襖越しに声がかかった。
お腹が空いてきた。きっと、夕餉を運んできてくれたのだろう。
俺はどうぞと声をかけ、妖夢の入室を待った。
しかしそこにいた人物は妖夢ではなかった。
白玉楼の主。妖夢が慕う楼閣のお嬢様。幽々子さんであった。
幽々子さんの表情は冷たく、鋭く尖ったようなものだった。
ここに招かれたときに見せた柔らかい笑顔ではない。人を蔑むような目。
「うちの大事な妖夢に、手を出さないでいただけますか?」
彼女が扇子を開き、それを仰いだ。
扇子から光輝く蝶々が発生し、部屋中に蝶々が充満した。
本能が告げる。蝶々に触れれば、きっと命はないと。
「あなたが何をしたか、わかっているでしょう?」
幽々子さんの平手が、俺の頬を引っぱたいた。
「話を聞いていますか? 妖夢があなたに苛められて嫌がっているんです」
喉元に、扇子を突きつけられた状態。
幽々子さんの表情を表すなら、怖いの一言だった。
「確かにわたしは、あなたにここにいることを許可しました。あなたは不可抗力で、ここに紛れ込んでしまったのですから。
でもここにいていいのと、ここで好き勝手なことをするのとは訳が違うわよねえ?」
「ええ……」
幽々子さんの表情は、さらに怖いものに。
険しい表情へと進んでいくのではなく、次第にいやらしい笑顔へ。
そう。俺が妖夢を苛めて、楽しんで、笑うように。
幽々子さんが、俺を苛めて笑っているんだ。
「もう一度言うわよ? 妖夢に変なことをしないで。今度こんなことをすれば、殺してさしあげるわよ?」
部屋中の蝶々が、包むように俺を囲んだ。
さらに卑屈に歪む幽々子さんのお顔と、自分の置かれている状況にマゾヒスト的快感を覚える。
「試しに腕の一本や二本、落としてみせましょうか?」
ただ、静かに首を横に振るしかなかった。
幽々子さんは満足したのか、扇子を閉じて退出していく。同時に、蝶々も消えた。
溜息を吐いて、その場に座り込む。幽々子さんの恐怖に、体が疲れていた。
頬の痛みを思い出し、幽々子さんのサディスティックな笑顔を想像する。
もし俺が妖夢を苛めるたび、幽々子さんが俺を叱りにきたら?
そんな考えが浮かんだ。
俺はサディストな楽しみを得られると同時に、その反対の快感もいただけるということだ。
なんとも美味しい状況であろうか。
下手をすれば、本当に幽々子さんに殺されてしまうかもしれない。
先ほど、それを肌で感じたのだから。
しかしそんなことがどうでもよくなる程、自分の置かれている環境に満足している。
これは幽々子さんのご友人にお礼をしなくてはならない。
さて夕餉を頂こう。そしてぐっすり休ませていただこう。
明日はどんな風に妖夢を苛めて、どの様に幽々子さんに叱られるのであろうか。
そんなことを妄想して、明日を待つばかり。
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- 次は問答無用に殺されて終わり。 &br()楽しむ暇なんてないと思う。 &br()それすらも快楽かもしれないけど。 -- 名無しさん (2009-03-24 01:34:53)
- 湯湯子は**を気に入ってるようだからないな。先に妖夢に殺されそうだけど。続いてほしい -- 名無しさん (2009-03-24 19:12:23)
- 昨日今日来たばかりのなんとも知れない人間と、先代から自分を守ってくれてる妖夢。 &br()ゆゆさまは〇〇を殺すだろ -- 名無しさん (2009-03-25 20:50:49)
- ヤヴァイ。続きみたいわこれ -- 名無しさん (2009-04-19 18:51:57)
- 続き書いてくださいー -- 名無しさん (2009-04-22 16:49:00)
- 最初は気に入ってるかもしれないが飽きられて殺されて終わり -- 名無しさん (2009-07-29 13:53:31)
- たまらんな、これw &br()続き読みたいのう。 -- 名無しさん (2010-01-03 02:28:59)
- 変態は死ぬべき -- 名無しさん (2010-03-16 21:52:50)
- ちょっと死んでくる -- 名無しさん (2010-03-16 23:27:12)
- この男は紳士になれない。 -- 名無しさん (2010-03-17 08:09:44)
- 素晴らしいです -- 名無しさん (2010-06-02 15:08:06)
- この男は分かってない &br()継続的に苛めて楽しむためには &br()まず相手より精神的に優位であることを刷り込んでからだ -- 名無しさん (2010-07-04 20:53:31)
- いいなコレ ゆゆ様に蔑まれながら殺されたい -- 名無しさん (2010-10-27 02:52:09)
- age -- age (2011-01-03 00:40:12)
- ゆ、ゆゆこさん恐いです… -- 梨さん (2013-12-16 22:56:14)
- 自分なら、殺される前に幽々子の寝首を掻くかも。 &br()いわゆる「やられる前にやれ」である。 -- 名無しさん (2018-12-12 22:38:28)
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