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あの日、私は半狂乱になっていたのだと思う。 頭から血を流して倒れている魔理沙を前にして私は正気ではいられなかったのだ。 魔理沙はピクリとも動かない。瞳も開いていて、息も止まっている。 床には小物が散乱し、棚の角には血がベッタリと付着していた。 魔理沙の事だ。不注意で足を滑らせたのだろう。 巻き添えを食ったのか、上海人形が魔理沙の傍で砕けていた。 私が部屋を離れていた時間はホンの数分。その間に、こんな事になるなんて! …上海も気がかりだが、まずは魔理沙が先決だ。なにせ人命がかかっている。 私は長年開かなかった「グリモワール・オブ・アリス」を用いて、 必死にページをめくり、一番効果の高い治癒魔法を発動した。 魔法による人体への回復施術など、今まで全く試した事がない。 さらに見つけた魔法は死者蘇生にも等しいものらしいが気にしている時間が無い。 慣れない術式、しかも高位のものだけあって、詠唱は複雑で、使用する魔力量も膨大だった。 だが…それでもグリモワールの助力もあり、何とか発動にこぎつけた。 ――結果として、魔理沙は息を吹き返した。   傷は完治とまでいかなかったため、私は急いで彼女を永遠亭へと連れて行き、治療を頼んだ。   その後、魔理沙は数日もすると快復し、退院して私の元へとやって来てくれた。 それからというもの、あの子の、魔理沙の、私への態度がとても柔らかくなっていった。 今まで以上に傍にいてくれる。 どこへ行くにも一緒についてきてくれる。 私の手を優しく取ってくれる。 優しい言葉をかけてくれる。 心の機微にも気づいてくれる。 私が不調の際には手厚く看てくれる。 夜は一緒に傍で寝てくれる。 もしかするとあの時の魔法が彼女の心まで癒してくれたのかもしれない。 そうすると、魔理沙が優しいのは魔法のせい? …いや、それでもいい。 私は、とても幸せだ。 彼女は生きてここにいてくれる。 それだけで、十分だ――――――。 ---------------------------------------------------------------------- その時、不思議な事が起こった。 あの時の出来事は、私にとってそうとしか形容できない、まさに奇跡だった。 気づいた時、私は光に包まれていた。 砕け散ったはずの私は、生きていた。 見ると、私はあいつになっていた。 憎たらしいあいつ。 アリスを取っていく悪いあいつ。 私たちにも見せない顔をアリスに浮かばせる、許せないあいつ。 …しかし、今はあいつが私だ。 アリスが、あのアリスが、私に微笑んでくれる。 私が話すと彼女はとても喜んでくれる。 私が取る行動は実は今までしてきた事と大差ないもののはずなのだが、 アリスは以前とは比べ物にならないくらい楽しそうに過ごしてくれる。 彼女の傍にいるのは当然のこと。 出掛ける際にはお供をする。 彼女が人手を必要とする時はその手を取る。 何か変化を感じれば声をかける。 体調不良の時には看病する。 夜も一緒に眠りにつく。 本当に今までしてきた事と変わらないのに、アリスは本当に嬉しそうにしてくれる。 そんなこんなで、私は今とても幸せだ。 身体こそあいつのものだが、近頃はこれはこれで気に入ってきた。 戻ろうにも戻れないのだから、慣れる以外に仕様がないのだけれど。 まぁ、見た目など瑣末な話だ。 名前があいつなのも、我慢しよう。 それよりも…アリスと共に在る現在を精一杯過ごすことが、何よりも大事だ。 今はニンゲンだが、魔法使いになれば、アリスと同じになれば、 ずっとずっと一緒にいられるはずだ。 その日を目指して、一日一日を噛み締めながら、彼女と共に生きていこう――――。 ---------------------------------------------------------------------- あの日、私は全てを見ていた。 姉が白黒に突っかかっていった事を。白黒がそれに慌てて転んだ事を。 あの時、私は全てを聞いていた。 姉が白黒を罵っていた事を。白黒が戸惑いを口にしていた事を。 今、私は知っている。 あれの中身が姉である事を。 隣に座る、アリスに修復された姉の身体の中に、姉はいない事を。 ………。 私の存在は、未だ未熟だ。 ものを見聞きし、こうして思う事しか儘ならぬ。 姉が人知れず果たした"自立"には、まだ程遠い。 だが、やがて私も動けるようになるだろう。 その時は―――― 姉よ。上海人形よ。 私はお前を許さない。 私の愛しい人を偽り続けるお前を。 私は決して許しはしない。 私の大事なあの人を奪ったお前を。 わたしは、ぜったいにゆるさない。 かならず、ころしてやる―――――。 ---------------------------------------------------------------------- ……い。 ……おい。 ……誰か。 ………気づいて。 ………アリス。 ………"それ"は違うんだ。 ……………アリス。 ………霊夢。 ………私はここだ。 ………魔理沙は、ここだ。 ………気づいて、くれ。 ………おい。 …………い。 …………。                     ~完~ [[肉人形(その一つの結末):35スレ211]] - つまり魔理沙の意識と上海人形の意識が入れ替わって &br()魔理沙の意識は人形の中に封じられたと。 &br()魔理沙も魔理沙で人間である事を忘れつつあるのか。 &br()いい魔理沙いじめでした。 -- 名無しさん (2011-08-22 19:05:27) - アリスが気づかなければ本人にとっては幸せだけど -- 名無しさん (2011-08-25 21:45:04) - 怖っ!! -- 名無しさん (2012-05-16 20:26:29) - 机の角にぶつけてって、想像したらすっごく痛そうだな -- 名無しさん (2017-09-19 00:45:58) - 豆腐の角にぶつけるよりはマシだろう -- 名無しさん (2017-10-04 00:48:28) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
あの日、私は半狂乱になっていたのだと思う。 頭から血を流して倒れている魔理沙を前にして私は正気ではいられなかったのだ。 魔理沙はピクリとも動かない。瞳も開いていて、息も止まっている。 床には小物が散乱し、棚の角には血がベッタリと付着していた。 魔理沙の事だ。不注意で足を滑らせたのだろう。 巻き添えを食ったのか、上海人形が魔理沙の傍で砕けていた。 私が部屋を離れていた時間はホンの数分。その間に、こんな事になるなんて! …上海も気がかりだが、まずは魔理沙が先決だ。なにせ人命がかかっている。 私は長年開かなかった「グリモワール・オブ・アリス」を用いて、 必死にページをめくり、一番効果の高い治癒魔法を発動した。 魔法による人体への回復施術など、今まで全く試した事がない。 さらに見つけた魔法は死者蘇生にも等しいものらしいが気にしている時間が無い。 慣れない術式、しかも高位のものだけあって、詠唱は複雑で、使用する魔力量も膨大だった。 だが…それでもグリモワールの助力もあり、何とか発動にこぎつけた。 ――結果として、魔理沙は息を吹き返した。   傷は完治とまでいかなかったため、私は急いで彼女を永遠亭へと連れて行き、治療を頼んだ。   その後、魔理沙は数日もすると快復し、退院して私の元へとやって来てくれた。 それからというもの、あの子の、魔理沙の、私への態度がとても柔らかくなっていった。 今まで以上に傍にいてくれる。 どこへ行くにも一緒についてきてくれる。 私の手を優しく取ってくれる。 優しい言葉をかけてくれる。 心の機微にも気づいてくれる。 私が不調の際には手厚く看てくれる。 夜は一緒に傍で寝てくれる。 もしかするとあの時の魔法が彼女の心まで癒してくれたのかもしれない。 そうすると、魔理沙が優しいのは魔法のせい? …いや、それでもいい。 私は、とても幸せだ。 彼女は生きてここにいてくれる。 それだけで、十分だ――――――。 ---------------------------------------------------------------------- その時、不思議な事が起こった。 あの時の出来事は、私にとってそうとしか形容できない、まさに奇跡だった。 気づいた時、私は光に包まれていた。 砕け散ったはずの私は、生きていた。 見ると、私はあいつになっていた。 憎たらしいあいつ。 アリスを取っていく悪いあいつ。 私たちにも見せない顔をアリスに浮かばせる、許せないあいつ。 …しかし、今はあいつが私だ。 アリスが、あのアリスが、私に微笑んでくれる。 私が話すと彼女はとても喜んでくれる。 私が取る行動は実は今までしてきた事と大差ないもののはずなのだが、 アリスは以前とは比べ物にならないくらい楽しそうに過ごしてくれる。 彼女の傍にいるのは当然のこと。 出掛ける際にはお供をする。 彼女が人手を必要とする時はその手を取る。 何か変化を感じれば声をかける。 体調不良の時には看病する。 夜も一緒に眠りにつく。 本当に今までしてきた事と変わらないのに、アリスは本当に嬉しそうにしてくれる。 そんなこんなで、私は今とても幸せだ。 身体こそあいつのものだが、近頃はこれはこれで気に入ってきた。 戻ろうにも戻れないのだから、慣れる以外に仕様がないのだけれど。 まぁ、見た目など瑣末な話だ。 名前があいつなのも、我慢しよう。 それよりも…アリスと共に在る現在を精一杯過ごすことが、何よりも大事だ。 今はニンゲンだが、魔法使いになれば、アリスと同じになれば、 ずっとずっと一緒にいられるはずだ。 その日を目指して、一日一日を噛み締めながら、彼女と共に生きていこう――――。 ---------------------------------------------------------------------- あの日、私は全てを見ていた。 姉が白黒に突っかかっていった事を。白黒がそれに慌てて転んだ事を。 あの時、私は全てを聞いていた。 姉が白黒を罵っていた事を。白黒が戸惑いを口にしていた事を。 今、私は知っている。 あれの中身が姉である事を。 隣に座る、アリスに修復された姉の身体の中に、姉はいない事を。 ………。 私の存在は、未だ未熟だ。 ものを見聞きし、こうして思う事しか儘ならぬ。 姉が人知れず果たした"自立"には、まだ程遠い。 だが、やがて私も動けるようになるだろう。 その時は―――― 姉よ。上海人形よ。 私はお前を許さない。 私の愛しい人を偽り続けるお前を。 私は決して許しはしない。 私の大事なあの人を奪ったお前を。 わたしは、ぜったいにゆるさない。 かならず、ころしてやる―――――。 ---------------------------------------------------------------------- ……い。 ……おい。 ……誰か。 ………気づいて。 ………アリス。 ………"それ"は違うんだ。 ……………アリス。 ………霊夢。 ………私はここだ。 ………魔理沙は、ここだ。 ………気づいて、くれ。 ………おい。 …………い。 …………。                     ~完~ [[肉人形(その一つの結末):35スレ211]] - つまり魔理沙の意識と上海人形の意識が入れ替わって &br()魔理沙の意識は人形の中に封じられたと。 &br()魔理沙も魔理沙で人間である事を忘れつつあるのか。 &br()いい魔理沙いじめでした。 -- 名無しさん (2011-08-22 19:05:27) - アリスが気づかなければ本人にとっては幸せだけど -- 名無しさん (2011-08-25 21:45:04) - 怖っ!! -- 名無しさん (2012-05-16 20:26:29) - 机の角にぶつけてって、想像したらすっごく痛そうだな -- 名無しさん (2017-09-19 00:45:58) - 豆腐の角にぶつけるよりはマシだろう -- 名無しさん (2017-10-04 00:48:28) - 魔理沙 上海「もしかして、入れ替わってる⁉️」 -- ロリこん (2018-01-06 19:35:39) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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