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第一次幻想郷大戦、勃発:34スレ578④」(2014/03/19 (水) 02:41:42) の最新版変更点

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同時刻、焼け落ちた陣地内で輝夜と永琳は鈴仙の帰りを待っている。 そこへ飛び込んで来る軽トラック。 そのまま輝夜達の前で止まると、運転席から鈴仙が降りて来た。 「遅かったわね」 「すみません。巨大ロボットのような物が暴れていたので、迂回してたら思いの外…」 「ロボット!? 何何!? 何がいたの!?」 「姫様、今は作戦会議中なので……」 「もう爆発しちゃいましたよ」 「何それ、つまんない」 「……………ああ、遅れた事はいいわ。それよりてゐだけど、これから私達二人でさとりの陣地を襲う事にしたの。  てゐが上手くやっててくれれば、戦力は分散してる筈よ。その丁度途中にいるだろうから、ついでに拾っていくわ」 「お願いします」 「それで貴方だけど、これからレミリアを倒しに行ってもらうわ」 「ええ!? 無理! 無理ですよ!」 そう言って鈴仙は手を顔の前で振り、拒絶の意思を示す。 すると永琳は鈴仙の肩をポンと叩いて、穏やかな表情を浮かべて言葉を紡ぎ出した。 「大丈夫よ、貴方なら出来るわ。いいえ、これは貴方だからこそ出来る事なのよ。  レミリアの陣営は、まだ5人残ってるわ。ここで潰しておかないと、次の夜が来た時に止められなくなるのよ。  やるなら昼の今、そして出来るのは完全に姿を消す術を持っている貴方だけ。  貴方はレミリアを撃ち、そのまま帰ってくればいい。そうすれば残すは紫の陣営だけよ」 「で、出来ません……」 しかし鈴仙は首を縦に振らない。 見かねた永琳は、ポケットから薬の入ったビンを取り出した。 「それは……」 「本当は使いたくなかったけど………実はこれは身体能力を数十倍に高める薬なの。  これがあれば吸血鬼以上の力を発揮出来るようになるわ。………でも当然リスクもある。  効果が切れた後は、どっと疲れが出るのよ。だから本当に危なくなったら使いなさい」 「わ、分かりました…!」 「頼んだわよ」 鈴仙の手をぎゅっと握り、薬を手渡す永琳。 その永琳の想いに覚悟を決めたのか、鈴仙は軽トラックの荷台に乗せていたバイクを降ろすと跨る。 「それでは姫様、師匠。また後で落ち合いましょう」 そしてそれだけ言うと、勢いよくバイクは走らせ出した。 その様子を心配そうに見ていた輝夜は、永琳の傍に近寄り問い掛ける。 「あんな薬、渡して大丈夫なの? もし戦闘中に効果が切れたら…」 すると永琳は、にっこりと笑って答えた。 「あれはただのビタミン剤です。鈴仙に必要なのは自信なんですよ」 あれから数時間後、太陽は空高く昇り出していた。 サンサンと降り注ぐ日の光に隠れて、吸血鬼は紅茶を啜る。 その吸血鬼、レミリアは親友のパチュリーと共に作戦会議の真っ最中だった。 「それで、これからどうするつもり?」 「フランが暴れてくれたおかげで、ある程度の戦力は潰せたと考えられるわ。問題は紫よ。  あの天人は紫の陣営だろうけど恐らくは捨て駒、まだ強力な配下を温存しているに違いないわ。  多分フランの襲撃も上手くやり過ごしている。だから夜になったら総攻撃をかけて、一気に勝負をつけるわ」 「リスクは大きいわね」 「こうでもしないと、紫は戦いを避け続けるわ。それに3日目はない。逆に攻め込まれて終わりよ」 「やられる前にやるって訳ね」 「紫が動くのは各陣営が消耗してから。それまでは守りに徹する気でしょうからね。そこを叩くわよ」 再びレミリアはティーカップを手に取り、紅茶を啜る。 すると突然、咲夜がレミリアの背後に現れた。 「お嬢様ぁ!!」 そして空目掛けて、勢いよくナイフを飛ばす。 ナイフは真っ直ぐ飛んで行くと、空中で何かにぶつかり弾かれた。 その光景にレミリアとパチュリーは目を見開く。 何せ一切の気配もなく、その攻撃は仕掛けられたのだから。 「!!」 「敵襲!? でも気配なんて何処にも…」 「お嬢様ー!!」 そこへ駆け付けて来る美鈴。 レミリアはその姿を見てある可能性を導き出すと、美鈴に問い掛けた。 「昨夜の兎か!」 「は、はい!」 「咲夜! 奴の姿を何処まで追える!」 「姿だけなら、うっすらとですが!」 「よし……咲夜! 美鈴! 侵入者を討ち取れ!」 『はい!』 レミリアの命を受け、咲夜と美鈴は侵入者に向かって走り出す。 それを見てレミリアを狙った狙撃手、鈴仙は慌てて薬を取り出した。 「まずいって……あんなのに追いかけられて逃げ切れる筈ないじゃない……」 このまま逃げたところで、時間を操る咲夜には確実に追い付かれる。 ならば逃げ切るには、戦って勝つしかない。 取り出した薬を呑み込み、鈴仙は覚悟を決める。 そして狂気の瞳を開き、自分の精神に干渉し始めた。 「大丈夫出来る出来る負ける筈がない師匠の薬がある勝てる勝てる絶対に勝てる………」 すると鈴仙は、勢いよく咲夜と美鈴の前に姿を現す。 そのまま咲夜に向かって飛んで行き、回し蹴りで思いっきり吹き飛ばした。 「咲夜さん!」 慌てる美鈴の背後へと、鈴仙は四本足で着地する。 同時に振り返りお互いに向かって行く二人。 やがて至近距離まで近付くと、美鈴の拳と鈴仙の脚がぶつかり凄まじい衝撃波を放った。 「………何も見えないし感じないけど、激しい戦いをしているのは分かるわ」 「大丈夫よ。咲夜も美鈴も強い、負ける筈がないわ」 それをレミリアとパチュリーは、ただ見ている事しか出来ない。 だがそこへ大きな爆発音と、それに掻き消されそうな小悪魔の声が響いてきた。 「パチュリー様! 上です!」 その声に急いで上を見るレミリアとパチュリー。 なんとそこには、こちらに崩れ落ちて来る高層建築の姿があった。 「し、しまっ…」 「パチュリー様ああああぁぁぁぁぁ!」 地を裂くような轟音と共に、レミリアとパチュリーは砕けた高層建築の残骸に押し潰される。 更に追い打ちをかけるかのように、次々と倒れて来る高層建築。 やがて空を覆い隠していた建築物がすべてなくなると、倒壊の原因である神奈子はゆっくりと小悪魔の前に降りて来た。 「急に死蝶が消えたと思ったら、変な道路標識立てていって………。んで標識通りに進んだらレミリアの陣地かい!  よっぽど紫は私とやり合うのが怖いと見たね! いいさ、どうせあんた等も倒すつもりだったんだ。  まずはあんた等を片付けて、それから紫をじっくりと………ん?」 「パチュリー様! しっかりしてください、パチュリー様!」 しかし小悪魔は神奈子には見向きもせず、必死に瓦礫を掻き分けパチュリーを探す。 すると紫の袖の如何にも病弱そうな細い腕が、瓦礫の隙間からひょっこりと出て来た。 その手を小悪魔はぎゅっと握る。 だがすでにパチュリーは虫の息だった。 「パチュリー様!? 大丈夫ですか!? パチュリー様ぁ!」 「……こあ……くま? ……私は…もうダメよ……。お願い……私の代わりに……レミィ……を……守っ………て……」 それだけ言うとパチュリーの腕は、ぐったりと力無く倒れてしまう。 「そんな……パチュリー様? パチュリー様! パチュリー様ぁ! うわあああああぁぁぁぁぁ!!」 途端に小悪魔は、わんわんと泣き叫び出した。 しかし後ろにいた神奈子は、お構いなしに手にした御柱を振り上げる。 それに気付いた小悪魔は、驚きそして怯えた表情で縮こまり出した。 「い、嫌ぁ……お許しください……」 「安心しな。すぐにあんたも同じ場所に送ってやるよ」 「嫌ああぁぁぁ! 誰か助けてええぇ!」 そのまま御柱を叩きつけようと、神奈子は腕を振り下ろそうする。 ところがその瞬間、突然それまで泣きじゃくっていた小悪魔が顔を上げた。 「…ってんな事言う訳ねぇだろ、ヴァーカ」 「!?」 同時に手に持っていたサイコロを、親指で神奈子の額に弾き飛ばす。 「!! うがあぁっ!?」 すると神奈子は一気に吹き飛ばされ、マンションを三つほど壊して倒れて来たマンションの下敷きになった。 小悪魔は地面に落ちたサイコロを広い、出た目を確認する。 「5でこの程度か。これじゃあ神は殺せないわね」 そして崩れ落ちたマンションの瓦礫の山から這い出て来る神奈子の方を、じっと睨みつけた。 「田舎者は丈夫ね。きっと貴方が支配していた国も、相当田舎臭い場所だったんでしょうね」 「……ごほっ! なんだい、低級悪魔が偉そうに。一発当てた程度で調子に乗ってんじゃないよ!」 「来なさいよ、井の中の蛙め。都会を知らない無知なあんたに、パチュリー様に手を出した事たっぷり後悔させてやる」 「はん! 上等だ、パンスト悪魔! 都会だか何だか知らないが下っ端に負ける程、落ちぶれちゃいないよ!」 そう言うと御柱を片手に、神奈子は小悪魔に向かって行く。 対して小悪魔はリボルバーを取り出し、シリンダーに弾を込め出した。 やがて弾を込め終わるとシリンダーを回転させ、神奈子に向けて発砲する。 だが弾は出ない。 「チッ!」 舌打ちして神奈子の振り回した御柱をかわす小悪魔。 距離を取り再び引き金を引くが、これまた不発。 続けて二発三発と撃ち、5発目にしてようやく弾が出た。 「ふん! だったらなんだい!」 しかし撃ち出された弾は、御柱によって防がれる。 その隙に小悪魔は角度を変えて引き金を引き、神奈子の脇腹に6発目を叩き込んだ。 「ぐっ…! やってくれるじゃないかい。でもただの銃で神を殺せると思うなよ!」 神奈子は撃ち終えた後の小悪魔目掛けて、御柱を放り投げる。 これはさすがにかわし切れず、小悪魔は御柱と共に瓦礫の山に突っ込んでいった。 「………かはっ! ………………さすがに分が悪すぎる、か……」 小悪魔は血を吐きながら、ボロボロの状態で瓦礫の中から立ち上がる。 ふと見ると此処はパチュリーが埋もれている高層建築の残骸。 その時、小悪魔はある方法を思い付いた。 「レミリア! あんた運命を操れるんでしょ!? だったらこの状況をひっくり返す運命、起こしてみなさいよぉ!」 そう言って小悪魔は、再び弾を装填する。 するとレミリアの魔力が瓦礫から流れ出し、リボルバーのシリンダーに巻き込まれていった。 「外したら承知しないわよ」 小悪魔はシリンダーを思いっきり回し、神奈子を狙って引き金を引く。 今度は1発目から弾が出て、神奈子目掛けて飛んで行った。 「だからそんなもんで私をどうにか出来ると思うなって、言っただろうが!」 だが神奈子の御柱の前に、弾は止められる。 次いで2発目を撃ち出す小悪魔。 しかしこれは不発に終わった。 「あんたの命運も、これまでみたいだね」 その隙に神奈子は、一気に距離を詰める。 そして振り回した御柱を、小悪魔の脇腹に叩きつけた。 「あがっ!」 そのまま勢いよく吹っ飛び、小悪魔は壁にぶつかり血で真っ赤に染める。 神奈子はそんな小悪魔に、ゆっくりと近寄って行った。 「……く、来るなぁ!」 血塗れになりながらも小悪魔は最期の抵抗と言わんばかりに、ポケットからチップを取り出し投げつける。 だがチップは神奈子に当たっても何も起こらず、ただ地面に転がって行くだけだった。 「醜いねぇ。最期くらい大人しく受け入れたらどうだい」 「この! この! このぉ!」 しかし小悪魔は必死にチップを投げつけ続ける。 その瞳には徐々に涙が浮かび出していた。 やがて投げるチップさえ、神奈子に当たらなくなっていく。 最後には自分と神奈子の間に力無く落として、手元のチップを使い果たしてしまった。 「……はぁ……はぁ……はぁ…」 「終わりかい? じゃあそろそろ止めを刺してやろうか」 すると神奈子は御柱を取り出し、大きく振りかぶる。 「あの世で主人の魔女と仲良くやりな!」 そして小悪魔目掛けて、思いっきり放り投げた。 「なっ!」 ところが御柱は、何かにぶつかり砕け散る。 何事かと慌てて周りを確める神奈子。 そこには先程まで散らばっていただけだったのに、今は光り輝き結界を作り出しているチップが転がっていた。 「これは一体……」 「……はぁ……はぁ……く、くくく……あはははははは…ごほごほっ!」 咳き込み吐血しながらも、小悪魔は脇腹を押えて立ち上がる。 その表情は完全に勝利を確信したものだった。 「悪いけど、そこは私がベットした場所なの。賭けるなら別の場所にしてくれる?」 「な、なんだって?」 「今のあんたは私が賭けた空間に囲まれている。逃げ場はないって事よ!」 そう言って小悪魔は、リボルバーを神奈子に突き付ける。 だが神奈子は全く慌てず、御柱を自分の足下に突き立てた。 「そんなもんで私を殺せると、未だに思ってるのかい。おめでたい奴だねぇ」 「おめでたいのはあんたの方よ。これがどういう武器か理解してないんだから」 すると小悪魔はリボルバーを自分のこめかみに向ける。 これには神奈子も驚き目を丸くした。 「何の……つもりだい?」 「こいつの真価はシリンダーを回して初めて発揮される。ロシアンルーレットって知ってるかしら?  こいつも特性上、弾が出るタイミングは分からないのよ。でも装填する時に情報を残せる。  私は弾を二発続けて入れた。つまり1発目が出れば次も弾が出る。でも一つだけ例外があるわよねぇ。  それは1発目と6発目に装填されてる場合、丁度今まさにこの状況よ。これを私は待っていた。  今回ばかりはレミリアに感謝しないとね。おかげでパチュリー様の仇を撃てる……ごほっ!  ……長話はここまでにするわ。こいつの特性それはねぇ、自分の頭に向けて撃った回数分威力が上がるのよ。  1回も撃たずに撃てば、人間が即死する程度の威力」 小悪魔はそう言って引き金を引く。弾は出ない。 「1回撃てば妖怪が即死する程度の威力」 更にもう一回、引き金を引く。これも不発。 「2回撃てば鬼も即死する程度の威力」 更に一発。不発。 「3回撃てば……神すら即死する程度の威力よ」 そして小悪魔は神奈子にリボルバーを向ける。 シリンダーを回してから、撃たれた回数は5回。 次は弾が出る。 「さぁ、小便は済ませたかしら? 魔界の神様にお祈りは? 結界の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」 「は、はったりだ!」 「なら受けてみなさい。貴方が無事なら嘘、死んだら本当。とても分かりやすい」 「ぐっ……があああああああああ!!」 すると突然、咆哮を上げる神奈子。 同時に自分の目の前に、御柱の壁を作り出す。 「私が! この私が! 大和の神と崇められたこの私が、こんな低級悪魔如きにぃぃぃ!!」 その様子を見た小悪魔は、にやりと口元を吊り上げた。 「醜いわね。最期くらい大人しく受け入れたらどうなの?」 そして放たれる6発目の弾。 弾は御柱の壁を粉砕し神奈子の額を撃ち抜き、その生命活動を停止させる。 更に神奈子の背後の建造物まで撃ち抜き、何処までも突き進んでいった。 「…………はぁ……はぁ……勝った……やりましたよ、パチュリー様……」 ところが小悪魔の体は、指先から崩壊を始める。 それを見ると、小悪魔は苦笑いを浮かべた。 「………チップを賭けて手にしたものは、賭けた空間の支配権。賭けて失うものは、賭けた分だけの己の肉体。  チップを使い果たす事は、自分に賭けられる全ての肉体を捧げる事。それすなわち死。  ……………あっははは! パチュリー様、貴方の遺言は守れませんよ……。  だってあいつに仕えるぐらいなら、死んだ方がマシですからねぇ……くくく……あはははは!」 やがて完全に消滅する小悪魔。 跡には弾の込められていないリボルバーだけが、持ち主を亡くして寂しく残されていた。 レミリアチーム パチュリー・ノーレッジ レミリアチーム 小悪魔 神奈子チーム 八坂 神奈子 リタイア チームリーダーのリタイアにつき 神奈子チーム 敗退 一方で鈴仙と戦闘中の咲夜と美鈴は、その思わぬ実力に苦戦していた。 路地裏で二人に応戦する鈴仙は、二人のあらゆる攻撃を無表情のまま受け流す。 沈黙を貫き通すその姿は、まるで攻撃を物ともしていないかのようだった。 「この!」 「…………………………」 咲夜が時間を止め背後から投げたナイフを、鈴仙は華麗に跳んでかわす。 そのまま美鈴の上空まで来ると、かかと落としを繰り出し襲いかかって来た。 「くっ!」 両腕で頭を守り、攻撃を受け止める美鈴。 しかし鈴仙は体を後ろに反らし逆立ちをすると、カポエラのように脚を回して美鈴を攻撃した。 「うぐっ!」 「美鈴!」 すかさず咲夜はナイフを飛ばし鈴仙を狙う。 だが鈴仙はナイフを蹴り落とし、拳銃を取り出すと咲夜に向けて発砲した。 それを時間停止を駆使して咲夜はかわす。 その隙に美鈴は、鈴仙目掛けて拳を放った。 「………………………………」 「なっ!」 しかし鈴仙は脚を振り上げ、美鈴の一撃を止める。 そして拳銃を美鈴に向けると、引き金に指をかけた。 「美鈴!」 「さ、咲夜さん!?」 そこへ咲夜は時間を止めて駆け付ける。 そのまま鈴仙を羽交い絞めにすると、弾道をずらし美鈴を助けた。 「あまり暴れると殺…」 ところが突如として響く、くぐもった銃声。 同時に驚愕の表情を浮かべて倒れる咲夜。 呆然とする美鈴に、鈴仙は咲夜を撃った左腕の袖に隠しているもう一つの拳銃を突き付けた。 「二丁……拳銃……」 二つの拳銃に狙われてしまっては、美鈴も動く事が出来ない。 鈴仙の弾は、妖怪の耐性や頑丈さを無視して貫くからだ。 最早、絶体絶命の美鈴。 するとそこへ突然、爆音が響き渡ってきた。 「!!」 美鈴が音に反応すると、何やら建物を貫き何かが迫って来る気配を感じる。 それはなんと一発の弾丸だった。 弾丸は幾つもの建物を抜けながらも、止まる事無く進み続ける。 そして美鈴の所までやって来ると、鈴仙の右手と拳銃を貫き粉砕した。 「…………………ぐ、ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」 その瞬間、それまでの無表情が嘘のように鈴仙は凄まじい叫び声を上げる。 反撃のチャンスは今しかない。 美鈴は咄嗟に走り出し、鈴仙に掌底を打ち込んだ。 「『彩光蓮華掌』!」 すると鈴仙の体から虹色の気が放出され始める。 その気は徐々に強くなり、鈴仙の体を内側から圧迫していった。 「が……ああ……ぁ…」 「あまり褒められた戦い方じゃないけど、私にもプライドがある。  主を守る為ならあらゆる手を尽くす………門番としての誇りがね」 やがて溢れ出る気に堪え切れなくなり、爆散する鈴仙。 だが美鈴は一度も振り返る事無く、咲夜の許へと歩いて行った。 咲夜は鈴仙の弾に心臓を撃ち抜かれて即死している。 そんな咲夜に美鈴は深々と頭を下げると、そっと手を合わせた。 「咲夜さん、貴方のおかげで勝てましたよ。本当にありがとうございます。そして………お疲れ様でした」 そう言って美鈴は、咲夜の傍に転がる日傘を拾う。 そして瓦礫の山に登ると、気を探り場所を確認して日傘を開いた。 「お嬢様、もう大丈夫ですよ」 美鈴の言葉を合図に、レミリアは瓦礫の中から姿を現す。 手に持った日傘をレミリアに手渡す美鈴。 レミリアはその日傘を受け取ると、辺りの景色を見渡した。 「随分……酷い状況だな」 「すみません」 「いや、これは兎に気を取られて不覚をとった私の責任だ。お前はよくやってくれた」 「ですが……咲夜さんが……」 「………………私は……お前だけでも生き残っててくれてよかったと思ってる。  主の私がこう言ってるんだ。お前が気に病む理由など何もあるまい」 するとレミリアは瓦礫の山を降り、陣地の外へと歩いて行く。 「どちらへ?」 「決まっている、紫の所だ。今ので翼をやられた。歩くなら今から出ないと夜に間に合わん。  ………お前はどうする。どの道、奴と私の戦いだ。無理について来る必要はないぞ」 その言葉を聞くや否や、美鈴は急いで瓦礫の山を降り出す。 そしてレミリアの前までやって来ると跪いた。 「何処までもついて行きますよ。私に戦う事の意味を教えて下さったのは、お嬢様なんですから」 「……………天人に神、月の兎に襲われ私も随分と嫌われたものだ。だが嫌われるのも悪くない。  おかげでお前達のような素晴らしい配下とも、巡り合う事が出来たのだからな」 レミリアはそう言って再び歩き出す。 その後を美鈴は追いかけていった。 レミリアチーム 十六夜 咲夜 輝夜チーム 鈴仙・優曇華院・イナバ リタイア 「おっそいなぁ~」 その頃てゐは、平原の岩の上に座って輝夜達を待っていた。 特別連絡などは来ていないので、計画が変わった訳ではないだろう。 しかし何時まで待っても、輝夜達はやって来ない。 どうしたものかとてゐが困っていると、背後で何か物音がした。 咄嗟に身の危険を感じ、岩から飛び降り前に進む。 すると岩は後ろからの弾幕で、粉々に吹き飛んでしまった。 「危ないなぁ。当たったらどうするの」 そう言っててゐは茶化しながら振り返る。 そこには無数の鬼火を従えて、荒々しい妖気を放つ燐の姿があった。 「やっと見つけたよ! この嘘吐き兎ッ!」 凄まじい殺気を放ち、てゐを睨み付ける燐。 だがてゐは冷静に言葉を紡ぎ出す。 「待ってよ。嘘って何の事? 分かるように説明してほしいなぁ」 その本心は、どうにかして戦いを避けようと必死だった。 先程の早苗との戦いで、こちらは大分妖力を消耗している。 ましてや相手は火車、普通に戦っても勝つのは難しい。 せめて輝夜達が来るまで時間を稼げれば、戦うとしても3対1になる。 それまで何とか誤魔化せないかと考えていたてゐだが、燐はそんな話など聞く気はなかった。 「五月蝿い! 全部あんたの作戦だって事は分かってんだ! よくもあたいの住み家を滅茶苦茶にしてくれたな!  ずっと地獄を彷徨い続けて、やっと見つけたあたいの居場所だったのに!  返せよ! 幸せだった、皆で笑って暮らせた地霊殿を返せよぉ!!」 そう言うと燐は、目に涙を浮かべて鬼火を一斉に飛ばして来る。 てゐは喰らってなるものかと、慌ててその場から逃げ出した。 「知らないよ! 私は手を組まないかって誘っただけじゃん! それでおかしくなるなら、そっちの結束が弱かったんだよ!」 「うぎぎ……まだ言うか! 全部あんたが悪いんだ! あんたがあんな事言うから!」 すると燐は四つん這いになって、てゐを追いかける。 そのスピードはてゐの全速力より早く、一気に差は縮まって行った。 やがて燐は、必死に逃げるてゐに追い付く。 そしてその腕に喰らい付き、肉を引き千切った。 「うぐっ……あああっ!」 「まださ。猫の殺しは残酷なんだ。簡単に死ねるとは思わない方がいいよ!」 更に爪を立て、何度もてゐを斬り付ける燐。 指は噛み千切られ、足もへし折られる。 どんどん過激さを増すその攻撃に、てゐは次第に全身ボロボロになっていった。 しかし燐の攻撃は、まだ終わらない。 ぐったりとするてゐの腹に喰らい付くと、そのまま腸を引き摺り出し噛み千切った。 「ぎっ、があああああぁぁぁぁぁあああぁぁ!?」 あまりの激痛に、てゐは目をぐるんと回し失神する。 すると燐は小さく溜め息を吐き、猫車から鉈を取り出して来た。 「さすがにもう死ぬよね。じゃあ止めを刺してやるよ」 そう言うとてゐの正面に立ち、大きく鉈を振りかぶる。 そして燐は頭を狙って、勢いよく鉈を振り下ろした。 「死ねえええええぇ……!?」 ところが何処からともなく飛んで来た矢が、燐の頭を綺麗に射抜く。 途端に燐はふらふらとバランスを崩し、その場にばったりと倒れ込んだ。 そこへ現れる軽トラック。 荒っぽい運転で急停車すると、中から永琳と気分の悪そうな輝夜が降りて来た。 「……よく……あの距離から狙えたわね……」 「それはもう、私は大天才ですから。まず飛距離と風向きを計算し、更に走行中の車体から撃つ事を考え…」 「それより………ちょっと……何か……」 「川なら近くにありましたよ」 「ありがとう………。まったく……なんであっちゃこっちゃ岩が転がってんのよ……」 それだけ言うと青褪めた顔で、川を目指して走り出す輝夜。 後に残された永琳は、倒れている二人を見て何か考え始めた。 「さすがにこの状態じゃあ、どうしようもないわね。でもそこを、どうにかするのが天才たる私。  しかしてゐはもう………………ん? …………………………ちょっと待って。  ふっふっふ、素晴らしい方法を考え付いたわ。さぁ、オペを始めましょうか!」 輝夜チーム 因幡 てゐ リタイア 更に時間は流れ、太陽は下がり出し2日目の昼を迎える。 にとりとの戦いを終え自分の陣地に戻って来た空は、先程から見えないさとりの姿を探していた。 「さとり様ー? 何処行っちゃったんですかー?」 もうかれこれ数時間は探している。 だがさとりどころか、誰一人として陣地内にいない。 まさか全員で何処かに行ってしまったのだろうか。 空がそんな不安を感じ始めた時、ふと何者かの影が視界に映り込んだ。 「!!」 「やあ、お空」 その影の正体は燐。 見知った仲間の姿に、空はほっと胸を撫で下ろす。 しかし頬を膨らませむすっとすると、燐に強い口調で話しかけた。 「何処行ってたの? 探したんだよ?」 「いやぁ、ちょっとお空がいない間に事情が変わってね」 「事情?」 「そんなに難しい話じゃないよ」 そう言って燐は、近くの段差に腰かける。 そして口元をそっと吊り上げると、ゆっくりと口を開いた。 「さとり様は永遠亭と手を組む事にしたよ。だから皆、此処にはいない。お空も一緒においでよ」 「え? 何の話?」 「やだなぁ、忘れたの? 昨日、兎がやって来て話してたじゃないさ」 燐のその言葉に、空はそれまでの事を思い出す。 すると何時の間に来ていたのやら、物陰から永琳が出て来た。 「話はその子の言った通りよ。さぁ、一緒に他の陣営を攻め滅ぼしましょう。お互いの主の為に」 空に近付き、手を差し伸べる永琳。 「……違う」 だが空は、どうしようもない違和感を感じて手を受け取らなかった。 燐は地霊殿という空間に、強い執着を持っている。 新入りのペットがいれば率先して地霊殿のルールを教え込み、ペット同士の輪を取り持っていた程だ。 それだけ燐は地霊殿を、余所者に穢されたくないのだろう。 そんな燐が部外者である永遠亭を簡単に受け入れるだろうか。 いや、さとりの命令なら従いはするだろう。 しかしこんなに積極的に動こうとはしない筈。 ならば今の燐は、何故こんな事をしているのだろうか。 生憎、空はその答えを出せる程賢い方ではない。 だが違和感として、おかしいと考える事は出来た。 「何か違う! 今のお燐はお燐らしくない!」 その言葉を聞くと、永琳と燐はお互いに顔を見合わせる。 そしてにやりと笑うと、永琳はメスを取り出し燐の首筋に突き立てた。 「なっ!」 「よく気付いたわね。てゐの話じゃ好感触だったみたいだから、丸めこめるかと思ったけど………まぁいいわ。  この子は私の洗脳手術を受けて、永遠亭の配下に下ったの。その気になれば自害させる事も出来るわよ。  でも貴方が私達のいいなりになるなら、この場は生かしておいてあげてもいいわ。さぁ、どうする?」 「言う通りにしないと、あたい殺されちゃうよ~。助けて、お空~」 「くっ……汚いぞ!」 「知的といいなさい。もしくは天才的とね!」 永琳の言葉に、成す術のない空。 永遠亭の残りの勢力が分からない以上、永琳を殺しても燐を助け出せる保証はないのだ。 ましてや燐に戦うよう命令されたら、こちらからは何も出来ない。 この場は屈するしかないのか。 そう空が思ったその時、何処からか気の抜けた声が聞こえて来た。 「は~い、そこまでー」 「………誰?」 「姫様!?」 「……えっ!?」 声の主である輝夜は、のんびりと空の方へ歩いて来る。 やがて正面までやって来ると、大きな溜め息を吐き永琳の方を流し目で睨んだ。 「本当、貴方の戦術は悪趣味ね」 「し、しかしこれは紫との戦いを優位に行う為の…」 「五月蝿いー、こっから先は私のやり方でやるから貴方は黙ってなさーい」 「ひ、姫様ぁ……」 「え~と、空。まず貴方がやり易いように話しておくけど…」 そう言うと輝夜は燐の方を指差す。 すると燐はびくっと反応した。 「あれは貴方の友達じゃありません。貴方の友達は永琳に殺されましたー」 「えっ!? じゃあ、あそこにいるのは……」 「私のチームのてゐよ。体がもうダメだったから、脳をダメージの少ない燐の体に移植させてもらったの。  これって判定的にはてゐが死んで燐が生き返った事になるのかしら。貴方に言っても仕方ないけど」 「ちょっと姫様ぁ! なんで話しちゃうの!? 何の為に私がこんな体になったと思ってるのさぁ!」 「生きててよかったね! そういう訳だから、貴方は気にせず全力で向かって来ていいわよ」 『姫様ぁ!』 「五月蝿いー、貴方達は紫とでも遊んで来なさーい。ぼさっとしてると一枚天井ぶつけるわよ」 『うわあぁぁん! 姫様が怒ったぁぁ!』 そのまま永琳と燐の体のてゐは、軽トラックで走り去る。 後に残された輝夜は、空の方に振り返り強気に笑った。 「さぁ、邪魔者もいなくなったし始めましょうか」 「その前に、一ついい?」 「どうぞ」 「なんであんな事言ったの? 貴方には私を本気で戦わせる理由はないでしょ?」 「理由ねぇ………あるわよ」 輝夜はくすくすと笑うと、妖力を放ち始める。 「永琳のやり方で勝っても面白くない、それだけよ!『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』!」 そしてショットガンを手に取ると、空に銃口を向けた。 「変わった奴」 「よく言われるわ」 「じゃあこっちも本気でいくよ!」 「そうじゃなきゃ、つまんないわ!」 「『核反応制御不能』!」 そう言って空が放つ巨大な弾幕の嵐。 地面を一瞬で焼き払い、周りの建造物を破壊し尽くす。 それを輝夜はかわしつつ、ショットガンを放ち応戦する。 空は被弾を避けながら、更に巨大な弾幕を輝夜目掛けて放ち続けた。 息も吐かせぬ激しい攻防。 辺りはすでに焼け野原と化していた。 それでも二人は戦い続ける。 やがて夕闇が二人を包み始めた頃、輝夜はショットガンをしまい空に話しかけた。 「ねぇ、そろそろお互いに消耗してきたし……ここらで決着をつけようと思うんだけど……どうかしら?」 「いいねぇ……全然弾が当たらなくて……嫌になってきたところだよ」 「じゃあ……私の必殺技……見せてあげる……。撃ち破ったら貴方の勝ちよ!」 「望むところだ!」 「いくわよ!『金閣寺の一枚天井』!!」 輝夜の言葉を合図に、突如地面から飛び出すロケット。 そのまま空高く飛んで行くと、やがて見えなくなってしまった。 「……………今のが切り札?」 「慌てずに見てなさいって」 すると上空から聞こえて来る轟音。 何事かと空が見上げてみると、なんと巨大な黄金の人工衛星が真っ直ぐこちらに向かって落ちて来ていた。 更に衛星の周囲には、金属の残骸が無数に浮かんでいる。 それらも衛星と共に落下しており、流星群のように降り注いでは大地を粉砕していった。 「な……あ……え……ちょ……嘘ぉ!?」 明らかに規格外のサイズの巨大な攻撃。 それはこの陣地よりも大きく、直撃すれば跡形も無く消し飛ぶのは容易く想像出来た。 「何これ!? これを撃ち破れって言うの!?」 「そうよ」 「いや、おかしいでしょ!? いろいろと!」 「先人はこう言ったものよ。漢は黙って金閣寺って」 「んな無茶苦茶なぁー! あ、それとも見かけ倒しとか?」 試しに衛星目掛けて弾幕を放とうとする空。 「『サブタレイニアンサン』!」 空最強の弾幕、その中心核を直接撃ち出した。 凄まじい光を放ち衛星にぶつかっていく空の弾幕。 やがて爆発音と共に治まった光の中から姿を現した衛星は、先程までと全く変わらない姿で落下を続けていた。 「うん、そうだよね。無理。無理無理。降参。何とかしてください」 冷や汗をだくだく流し、空は輝夜に哀願する。 しかし輝夜はにっこりと笑うと、肩を竦めてこう言った。 「一度撃ち出した物は、もうどうしようもありませーん」 「うぎゃああああぁぁぁぁー!! ……て貴方もヤバいんじゃない?」 「そうよ。でもそんな事は関係ない」 すると輝夜は、その場に腰を下ろす。 そして一息吐いてから、空に向かって言葉を紡いだ。 「だって私は死ぬ気なのだから」 「…………え?」 「飽きちゃったのよ。面白そうだから参加してはみたけれど、作戦立てて仲間を動かすのはどうも性に合わないわ。  やっぱり私もペットとか飼おうかな。その方が面白そうだし。でも紫は何がしたかったのかしらね。  いえ、目的は分かってる。でも幻想郷一とか最強とか、それに一体何の価値があるのかしら。  わざわざ仲間を巻き込んでまでする事なの? そんなに魅力的なの? 一番になる事って。  それとも私がおかしいだけ? ………もうそれでいいわ。兎に角つまんなくなっちゃったのよ。  だから後の事は永琳達の好きにやらせるわ。……最初から任せっきりか。でも最後に楽しい勝負が出来てよかった」 「ちょ、ちょっと…」 「それにしても気になるのは、この戦いを仕掛けたあの子。何か異様なものを感じたわ。  あの目……禍々しいんだけど、その奥にあるのは子供っぽさで……なんかまるで心の中を見通してるような…」 その瞬間、地面に激突する人工衛星。 途端に大爆発を起こし、輝夜も空も陣地も残らず消し飛んでしまう。 それは他のどの陣地からでも見える程の、大きな火柱を巻き起こしていた。 さとりチーム 霊烏路 空 輝夜チーム 蓬莱山 輝夜 リタイア チームリーダーのリタイアにつき 輝夜チーム 敗退 -[[第一次幻想郷大戦、勃発:34スレ578⑤]] - こあすげぇw -- 名無しさん (2011-03-20 10:19:28) - 神奈子「フン‥‥‥その程度か」 &br()小悪魔「なッ!?」 &br()神奈子「もう一度言う。大和の神と崇められたこの私が! &br()    貴様のような低級悪魔如きに!! &br()    負ける筈が無い!!!!」 &br()小悪魔「ピチューン」 &br() &br() &br()ってのも悪くないね。 -- 名無しさん (2011-06-12 22:04:36) - パチュリー間抜け… -- 名無しさん (2012-05-26 19:36:36) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
同時刻、焼け落ちた陣地内で輝夜と永琳は鈴仙の帰りを待っている。 そこへ飛び込んで来る軽トラック。 そのまま輝夜達の前で止まると、運転席から鈴仙が降りて来た。 「遅かったわね」 「すみません。巨大ロボットのような物が暴れていたので、迂回してたら思いの外…」 「ロボット!? 何何!? 何がいたの!?」 「姫様、今は作戦会議中なので……」 「もう爆発しちゃいましたよ」 「何それ、つまんない」 「……………ああ、遅れた事はいいわ。それよりてゐだけど、これから私達二人でさとりの陣地を襲う事にしたの。  てゐが上手くやっててくれれば、戦力は分散してる筈よ。その丁度途中にいるだろうから、ついでに拾っていくわ」 「お願いします」 「それで貴方だけど、これからレミリアを倒しに行ってもらうわ」 「ええ!? 無理! 無理ですよ!」 そう言って鈴仙は手を顔の前で振り、拒絶の意思を示す。 すると永琳は鈴仙の肩をポンと叩いて、穏やかな表情を浮かべて言葉を紡ぎ出した。 「大丈夫よ、貴方なら出来るわ。いいえ、これは貴方だからこそ出来る事なのよ。  レミリアの陣営は、まだ5人残ってるわ。ここで潰しておかないと、次の夜が来た時に止められなくなるのよ。  やるなら昼の今、そして出来るのは完全に姿を消す術を持っている貴方だけ。  貴方はレミリアを撃ち、そのまま帰ってくればいい。そうすれば残すは紫の陣営だけよ」 「で、出来ません……」 しかし鈴仙は首を縦に振らない。 見かねた永琳は、ポケットから薬の入ったビンを取り出した。 「それは……」 「本当は使いたくなかったけど………実はこれは身体能力を数十倍に高める薬なの。  これがあれば吸血鬼以上の力を発揮出来るようになるわ。………でも当然リスクもある。  効果が切れた後は、どっと疲れが出るのよ。だから本当に危なくなったら使いなさい」 「わ、分かりました…!」 「頼んだわよ」 鈴仙の手をぎゅっと握り、薬を手渡す永琳。 その永琳の想いに覚悟を決めたのか、鈴仙は軽トラックの荷台に乗せていたバイクを降ろすと跨る。 「それでは姫様、師匠。また後で落ち合いましょう」 そしてそれだけ言うと、勢いよくバイクは走らせ出した。 その様子を心配そうに見ていた輝夜は、永琳の傍に近寄り問い掛ける。 「あんな薬、渡して大丈夫なの? もし戦闘中に効果が切れたら…」 すると永琳は、にっこりと笑って答えた。 「あれはただのビタミン剤です。鈴仙に必要なのは自信なんですよ」 あれから数時間後、太陽は空高く昇り出していた。 サンサンと降り注ぐ日の光に隠れて、吸血鬼は紅茶を啜る。 その吸血鬼、レミリアは親友のパチュリーと共に作戦会議の真っ最中だった。 「それで、これからどうするつもり?」 「フランが暴れてくれたおかげで、ある程度の戦力は潰せたと考えられるわ。問題は紫よ。  あの天人は紫の陣営だろうけど恐らくは捨て駒、まだ強力な配下を温存しているに違いないわ。  多分フランの襲撃も上手くやり過ごしている。だから夜になったら総攻撃をかけて、一気に勝負をつけるわ」 「リスクは大きいわね」 「こうでもしないと、紫は戦いを避け続けるわ。それに3日目はない。逆に攻め込まれて終わりよ」 「やられる前にやるって訳ね」 「紫が動くのは各陣営が消耗してから。それまでは守りに徹する気でしょうからね。そこを叩くわよ」 再びレミリアはティーカップを手に取り、紅茶を啜る。 すると突然、咲夜がレミリアの背後に現れた。 「お嬢様ぁ!!」 そして空目掛けて、勢いよくナイフを飛ばす。 ナイフは真っ直ぐ飛んで行くと、空中で何かにぶつかり弾かれた。 その光景にレミリアとパチュリーは目を見開く。 何せ一切の気配もなく、その攻撃は仕掛けられたのだから。 「!!」 「敵襲!? でも気配なんて何処にも…」 「お嬢様ー!!」 そこへ駆け付けて来る美鈴。 レミリアはその姿を見てある可能性を導き出すと、美鈴に問い掛けた。 「昨夜の兎か!」 「は、はい!」 「咲夜! 奴の姿を何処まで追える!」 「姿だけなら、うっすらとですが!」 「よし……咲夜! 美鈴! 侵入者を討ち取れ!」 『はい!』 レミリアの命を受け、咲夜と美鈴は侵入者に向かって走り出す。 それを見てレミリアを狙った狙撃手、鈴仙は慌てて薬を取り出した。 「まずいって……あんなのに追いかけられて逃げ切れる筈ないじゃない……」 このまま逃げたところで、時間を操る咲夜には確実に追い付かれる。 ならば逃げ切るには、戦って勝つしかない。 取り出した薬を呑み込み、鈴仙は覚悟を決める。 そして狂気の瞳を開き、自分の精神に干渉し始めた。 「大丈夫出来る出来る負ける筈がない師匠の薬がある勝てる勝てる絶対に勝てる………」 すると鈴仙は、勢いよく咲夜と美鈴の前に姿を現す。 そのまま咲夜に向かって飛んで行き、回し蹴りで思いっきり吹き飛ばした。 「咲夜さん!」 慌てる美鈴の背後へと、鈴仙は四本足で着地する。 同時に振り返りお互いに向かって行く二人。 やがて至近距離まで近付くと、美鈴の拳と鈴仙の脚がぶつかり凄まじい衝撃波を放った。 「………何も見えないし感じないけど、激しい戦いをしているのは分かるわ」 「大丈夫よ。咲夜も美鈴も強い、負ける筈がないわ」 それをレミリアとパチュリーは、ただ見ている事しか出来ない。 だがそこへ大きな爆発音と、それに掻き消されそうな小悪魔の声が響いてきた。 「パチュリー様! 上です!」 その声に急いで上を見るレミリアとパチュリー。 なんとそこには、こちらに崩れ落ちて来る高層建築の姿があった。 「し、しまっ…」 「パチュリー様ああああぁぁぁぁぁ!」 地を裂くような轟音と共に、レミリアとパチュリーは砕けた高層建築の残骸に押し潰される。 更に追い打ちをかけるかのように、次々と倒れて来る高層建築。 やがて空を覆い隠していた建築物がすべてなくなると、倒壊の原因である神奈子はゆっくりと小悪魔の前に降りて来た。 「急に死蝶が消えたと思ったら、変な道路標識立てていって………。んで標識通りに進んだらレミリアの陣地かい!  よっぽど紫は私とやり合うのが怖いと見たね! いいさ、どうせあんた等も倒すつもりだったんだ。  まずはあんた等を片付けて、それから紫をじっくりと………ん?」 「パチュリー様! しっかりしてください、パチュリー様!」 しかし小悪魔は神奈子には見向きもせず、必死に瓦礫を掻き分けパチュリーを探す。 すると紫の袖の如何にも病弱そうな細い腕が、瓦礫の隙間からひょっこりと出て来た。 その手を小悪魔はぎゅっと握る。 だがすでにパチュリーは虫の息だった。 「パチュリー様!? 大丈夫ですか!? パチュリー様ぁ!」 「……こあ……くま? ……私は…もうダメよ……。お願い……私の代わりに……レミィ……を……守っ………て……」 それだけ言うとパチュリーの腕は、ぐったりと力無く倒れてしまう。 「そんな……パチュリー様? パチュリー様! パチュリー様ぁ! うわあああああぁぁぁぁぁ!!」 途端に小悪魔は、わんわんと泣き叫び出した。 しかし後ろにいた神奈子は、お構いなしに手にした御柱を振り上げる。 それに気付いた小悪魔は、驚きそして怯えた表情で縮こまり出した。 「い、嫌ぁ……お許しください……」 「安心しな。すぐにあんたも同じ場所に送ってやるよ」 「嫌ああぁぁぁ! 誰か助けてええぇ!」 そのまま御柱を叩きつけようと、神奈子は腕を振り下ろそうする。 ところがその瞬間、突然それまで泣きじゃくっていた小悪魔が顔を上げた。 「…ってんな事言う訳ねぇだろ、ヴァーカ」 「!?」 同時に手に持っていたサイコロを、親指で神奈子の額に弾き飛ばす。 「!! うがあぁっ!?」 すると神奈子は一気に吹き飛ばされ、マンションを三つほど壊して倒れて来たマンションの下敷きになった。 小悪魔は地面に落ちたサイコロを広い、出た目を確認する。 「5でこの程度か。これじゃあ神は殺せないわね」 そして崩れ落ちたマンションの瓦礫の山から這い出て来る神奈子の方を、じっと睨みつけた。 「田舎者は丈夫ね。きっと貴方が支配していた国も、相当田舎臭い場所だったんでしょうね」 「……ごほっ! なんだい、低級悪魔が偉そうに。一発当てた程度で調子に乗ってんじゃないよ!」 「来なさいよ、井の中の蛙め。都会を知らない無知なあんたに、パチュリー様に手を出した事たっぷり後悔させてやる」 「はん! 上等だ、パンスト悪魔! 都会だか何だか知らないが下っ端に負ける程、落ちぶれちゃいないよ!」 そう言うと御柱を片手に、神奈子は小悪魔に向かって行く。 対して小悪魔はリボルバーを取り出し、シリンダーに弾を込め出した。 やがて弾を込め終わるとシリンダーを回転させ、神奈子に向けて発砲する。 だが弾は出ない。 「チッ!」 舌打ちして神奈子の振り回した御柱をかわす小悪魔。 距離を取り再び引き金を引くが、これまた不発。 続けて二発三発と撃ち、5発目にしてようやく弾が出た。 「ふん! だったらなんだい!」 しかし撃ち出された弾は、御柱によって防がれる。 その隙に小悪魔は角度を変えて引き金を引き、神奈子の脇腹に6発目を叩き込んだ。 「ぐっ…! やってくれるじゃないかい。でもただの銃で神を殺せると思うなよ!」 神奈子は撃ち終えた後の小悪魔目掛けて、御柱を放り投げる。 これはさすがにかわし切れず、小悪魔は御柱と共に瓦礫の山に突っ込んでいった。 「………かはっ! ………………さすがに分が悪すぎる、か……」 小悪魔は血を吐きながら、ボロボロの状態で瓦礫の中から立ち上がる。 ふと見ると此処はパチュリーが埋もれている高層建築の残骸。 その時、小悪魔はある方法を思い付いた。 「レミリア! あんた運命を操れるんでしょ!? だったらこの状況をひっくり返す運命、起こしてみなさいよぉ!」 そう言って小悪魔は、再び弾を装填する。 するとレミリアの魔力が瓦礫から流れ出し、リボルバーのシリンダーに巻き込まれていった。 「外したら承知しないわよ」 小悪魔はシリンダーを思いっきり回し、神奈子を狙って引き金を引く。 今度は1発目から弾が出て、神奈子目掛けて飛んで行った。 「だからそんなもんで私をどうにか出来ると思うなって、言っただろうが!」 だが神奈子の御柱の前に、弾は止められる。 次いで2発目を撃ち出す小悪魔。 しかしこれは不発に終わった。 「あんたの命運も、これまでみたいだね」 その隙に神奈子は、一気に距離を詰める。 そして振り回した御柱を、小悪魔の脇腹に叩きつけた。 「あがっ!」 そのまま勢いよく吹っ飛び、小悪魔は壁にぶつかり血で真っ赤に染める。 神奈子はそんな小悪魔に、ゆっくりと近寄って行った。 「……く、来るなぁ!」 血塗れになりながらも小悪魔は最期の抵抗と言わんばかりに、ポケットからチップを取り出し投げつける。 だがチップは神奈子に当たっても何も起こらず、ただ地面に転がって行くだけだった。 「醜いねぇ。最期くらい大人しく受け入れたらどうだい」 「この! この! このぉ!」 しかし小悪魔は必死にチップを投げつけ続ける。 その瞳には徐々に涙が浮かび出していた。 やがて投げるチップさえ、神奈子に当たらなくなっていく。 最後には自分と神奈子の間に力無く落として、手元のチップを使い果たしてしまった。 「……はぁ……はぁ……はぁ…」 「終わりかい? じゃあそろそろ止めを刺してやろうか」 すると神奈子は御柱を取り出し、大きく振りかぶる。 「あの世で主人の魔女と仲良くやりな!」 そして小悪魔目掛けて、思いっきり放り投げた。 「なっ!」 ところが御柱は、何かにぶつかり砕け散る。 何事かと慌てて周りを確める神奈子。 そこには先程まで散らばっていただけだったのに、今は光り輝き結界を作り出しているチップが転がっていた。 「これは一体……」 「……はぁ……はぁ……く、くくく……あはははははは…ごほごほっ!」 咳き込み吐血しながらも、小悪魔は脇腹を押えて立ち上がる。 その表情は完全に勝利を確信したものだった。 「悪いけど、そこは私がベットした場所なの。賭けるなら別の場所にしてくれる?」 「な、なんだって?」 「今のあんたは私が賭けた空間に囲まれている。逃げ場はないって事よ!」 そう言って小悪魔は、リボルバーを神奈子に突き付ける。 だが神奈子は全く慌てず、御柱を自分の足下に突き立てた。 「そんなもんで私を殺せると、未だに思ってるのかい。おめでたい奴だねぇ」 「おめでたいのはあんたの方よ。これがどういう武器か理解してないんだから」 すると小悪魔はリボルバーを自分のこめかみに向ける。 これには神奈子も驚き目を丸くした。 「何の……つもりだい?」 「こいつの真価はシリンダーを回して初めて発揮される。ロシアンルーレットって知ってるかしら?  こいつも特性上、弾が出るタイミングは分からないのよ。でも装填する時に情報を残せる。  私は弾を二発続けて入れた。つまり1発目が出れば次も弾が出る。でも一つだけ例外があるわよねぇ。  それは1発目と6発目に装填されてる場合、丁度今まさにこの状況よ。これを私は待っていた。  今回ばかりはレミリアに感謝しないとね。おかげでパチュリー様の仇を撃てる……ごほっ!  ……長話はここまでにするわ。こいつの特性それはねぇ、自分の頭に向けて撃った回数分威力が上がるのよ。  1回も撃たずに撃てば、人間が即死する程度の威力」 小悪魔はそう言って引き金を引く。弾は出ない。 「1回撃てば妖怪が即死する程度の威力」 更にもう一回、引き金を引く。これも不発。 「2回撃てば鬼も即死する程度の威力」 更に一発。不発。 「3回撃てば……神すら即死する程度の威力よ」 そして小悪魔は神奈子にリボルバーを向ける。 シリンダーを回してから、撃たれた回数は5回。 次は弾が出る。 「さぁ、小便は済ませたかしら? 魔界の神様にお祈りは? 結界の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」 「は、はったりだ!」 「なら受けてみなさい。貴方が無事なら嘘、死んだら本当。とても分かりやすい」 「ぐっ……があああああああああ!!」 すると突然、咆哮を上げる神奈子。 同時に自分の目の前に、御柱の壁を作り出す。 「私が! この私が! 大和の神と崇められたこの私が、こんな低級悪魔如きにぃぃぃ!!」 その様子を見た小悪魔は、にやりと口元を吊り上げた。 「醜いわね。最期くらい大人しく受け入れたらどうなの?」 そして放たれる6発目の弾。 弾は御柱の壁を粉砕し神奈子の額を撃ち抜き、その生命活動を停止させる。 更に神奈子の背後の建造物まで撃ち抜き、何処までも突き進んでいった。 「…………はぁ……はぁ……勝った……やりましたよ、パチュリー様……」 ところが小悪魔の体は、指先から崩壊を始める。 それを見ると、小悪魔は苦笑いを浮かべた。 「………チップを賭けて手にしたものは、賭けた空間の支配権。賭けて失うものは、賭けた分だけの己の肉体。  チップを使い果たす事は、自分に賭けられる全ての肉体を捧げる事。それすなわち死。  ……………あっははは! パチュリー様、貴方の遺言は守れませんよ……。  だってあいつに仕えるぐらいなら、死んだ方がマシですからねぇ……くくく……あはははは!」 やがて完全に消滅する小悪魔。 跡には弾の込められていないリボルバーだけが、持ち主を亡くして寂しく残されていた。 レミリアチーム パチュリー・ノーレッジ レミリアチーム 小悪魔 神奈子チーム 八坂 神奈子 リタイア チームリーダーのリタイアにつき 神奈子チーム 敗退 一方で鈴仙と戦闘中の咲夜と美鈴は、その思わぬ実力に苦戦していた。 路地裏で二人に応戦する鈴仙は、二人のあらゆる攻撃を無表情のまま受け流す。 沈黙を貫き通すその姿は、まるで攻撃を物ともしていないかのようだった。 「この!」 「…………………………」 咲夜が時間を止め背後から投げたナイフを、鈴仙は華麗に跳んでかわす。 そのまま美鈴の上空まで来ると、かかと落としを繰り出し襲いかかって来た。 「くっ!」 両腕で頭を守り、攻撃を受け止める美鈴。 しかし鈴仙は体を後ろに反らし逆立ちをすると、カポエラのように脚を回して美鈴を攻撃した。 「うぐっ!」 「美鈴!」 すかさず咲夜はナイフを飛ばし鈴仙を狙う。 だが鈴仙はナイフを蹴り落とし、拳銃を取り出すと咲夜に向けて発砲した。 それを時間停止を駆使して咲夜はかわす。 その隙に美鈴は、鈴仙目掛けて拳を放った。 「………………………………」 「なっ!」 しかし鈴仙は脚を振り上げ、美鈴の一撃を止める。 そして拳銃を美鈴に向けると、引き金に指をかけた。 「美鈴!」 「さ、咲夜さん!?」 そこへ咲夜は時間を止めて駆け付ける。 そのまま鈴仙を羽交い絞めにすると、弾道をずらし美鈴を助けた。 「あまり暴れると殺…」 ところが突如として響く、くぐもった銃声。 同時に驚愕の表情を浮かべて倒れる咲夜。 呆然とする美鈴に、鈴仙は咲夜を撃った左腕の袖に隠しているもう一つの拳銃を突き付けた。 「二丁……拳銃……」 二つの拳銃に狙われてしまっては、美鈴も動く事が出来ない。 鈴仙の弾は、妖怪の耐性や頑丈さを無視して貫くからだ。 最早、絶体絶命の美鈴。 するとそこへ突然、爆音が響き渡ってきた。 「!!」 美鈴が音に反応すると、何やら建物を貫き何かが迫って来る気配を感じる。 それはなんと一発の弾丸だった。 弾丸は幾つもの建物を抜けながらも、止まる事無く進み続ける。 そして美鈴の所までやって来ると、鈴仙の右手と拳銃を貫き粉砕した。 「…………………ぐ、ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」 その瞬間、それまでの無表情が嘘のように鈴仙は凄まじい叫び声を上げる。 反撃のチャンスは今しかない。 美鈴は咄嗟に走り出し、鈴仙に掌底を打ち込んだ。 「『彩光蓮華掌』!」 すると鈴仙の体から虹色の気が放出され始める。 その気は徐々に強くなり、鈴仙の体を内側から圧迫していった。 「が……ああ……ぁ…」 「あまり褒められた戦い方じゃないけど、私にもプライドがある。  主を守る為ならあらゆる手を尽くす………門番としての誇りがね」 やがて溢れ出る気に堪え切れなくなり、爆散する鈴仙。 だが美鈴は一度も振り返る事無く、咲夜の許へと歩いて行った。 咲夜は鈴仙の弾に心臓を撃ち抜かれて即死している。 そんな咲夜に美鈴は深々と頭を下げると、そっと手を合わせた。 「咲夜さん、貴方のおかげで勝てましたよ。本当にありがとうございます。そして………お疲れ様でした」 そう言って美鈴は、咲夜の傍に転がる日傘を拾う。 そして瓦礫の山に登ると、気を探り場所を確認して日傘を開いた。 「お嬢様、もう大丈夫ですよ」 美鈴の言葉を合図に、レミリアは瓦礫の中から姿を現す。 手に持った日傘をレミリアに手渡す美鈴。 レミリアはその日傘を受け取ると、辺りの景色を見渡した。 「随分……酷い状況だな」 「すみません」 「いや、これは兎に気を取られて不覚をとった私の責任だ。お前はよくやってくれた」 「ですが……咲夜さんが……」 「………………私は……お前だけでも生き残っててくれてよかったと思ってる。  主の私がこう言ってるんだ。お前が気に病む理由など何もあるまい」 するとレミリアは瓦礫の山を降り、陣地の外へと歩いて行く。 「どちらへ?」 「決まっている、紫の所だ。今ので翼をやられた。歩くなら今から出ないと夜に間に合わん。  ………お前はどうする。どの道、奴と私の戦いだ。無理について来る必要はないぞ」 その言葉を聞くや否や、美鈴は急いで瓦礫の山を降り出す。 そしてレミリアの前までやって来ると跪いた。 「何処までもついて行きますよ。私に戦う事の意味を教えて下さったのは、お嬢様なんですから」 「……………天人に神、月の兎に襲われ私も随分と嫌われたものだ。だが嫌われるのも悪くない。  おかげでお前達のような素晴らしい配下とも、巡り合う事が出来たのだからな」 レミリアはそう言って再び歩き出す。 その後を美鈴は追いかけていった。 レミリアチーム 十六夜 咲夜 輝夜チーム 鈴仙・優曇華院・イナバ リタイア 「おっそいなぁ~」 その頃てゐは、平原の岩の上に座って輝夜達を待っていた。 特別連絡などは来ていないので、計画が変わった訳ではないだろう。 しかし何時まで待っても、輝夜達はやって来ない。 どうしたものかとてゐが困っていると、背後で何か物音がした。 咄嗟に身の危険を感じ、岩から飛び降り前に進む。 すると岩は後ろからの弾幕で、粉々に吹き飛んでしまった。 「危ないなぁ。当たったらどうするの」 そう言っててゐは茶化しながら振り返る。 そこには無数の鬼火を従えて、荒々しい妖気を放つ燐の姿があった。 「やっと見つけたよ! この嘘吐き兎ッ!」 凄まじい殺気を放ち、てゐを睨み付ける燐。 だがてゐは冷静に言葉を紡ぎ出す。 「待ってよ。嘘って何の事? 分かるように説明してほしいなぁ」 その本心は、どうにかして戦いを避けようと必死だった。 先程の早苗との戦いで、こちらは大分妖力を消耗している。 ましてや相手は火車、普通に戦っても勝つのは難しい。 せめて輝夜達が来るまで時間を稼げれば、戦うとしても3対1になる。 それまで何とか誤魔化せないかと考えていたてゐだが、燐はそんな話など聞く気はなかった。 「五月蝿い! 全部あんたの作戦だって事は分かってんだ! よくもあたいの住み家を滅茶苦茶にしてくれたな!  ずっと地獄を彷徨い続けて、やっと見つけたあたいの居場所だったのに!  返せよ! 幸せだった、皆で笑って暮らせた地霊殿を返せよぉ!!」 そう言うと燐は、目に涙を浮かべて鬼火を一斉に飛ばして来る。 てゐは喰らってなるものかと、慌ててその場から逃げ出した。 「知らないよ! 私は手を組まないかって誘っただけじゃん! それでおかしくなるなら、そっちの結束が弱かったんだよ!」 「うぎぎ……まだ言うか! 全部あんたが悪いんだ! あんたがあんな事言うから!」 すると燐は四つん這いになって、てゐを追いかける。 そのスピードはてゐの全速力より早く、一気に差は縮まって行った。 やがて燐は、必死に逃げるてゐに追い付く。 そしてその腕に喰らい付き、肉を引き千切った。 「うぐっ……あああっ!」 「まださ。猫の殺しは残酷なんだ。簡単に死ねるとは思わない方がいいよ!」 更に爪を立て、何度もてゐを斬り付ける燐。 指は噛み千切られ、足もへし折られる。 どんどん過激さを増すその攻撃に、てゐは次第に全身ボロボロになっていった。 しかし燐の攻撃は、まだ終わらない。 ぐったりとするてゐの腹に喰らい付くと、そのまま腸を引き摺り出し噛み千切った。 「ぎっ、があああああぁぁぁぁぁあああぁぁ!?」 あまりの激痛に、てゐは目をぐるんと回し失神する。 すると燐は小さく溜め息を吐き、猫車から鉈を取り出して来た。 「さすがにもう死ぬよね。じゃあ止めを刺してやるよ」 そう言うとてゐの正面に立ち、大きく鉈を振りかぶる。 そして燐は頭を狙って、勢いよく鉈を振り下ろした。 「死ねえええええぇ……!?」 ところが何処からともなく飛んで来た矢が、燐の頭を綺麗に射抜く。 途端に燐はふらふらとバランスを崩し、その場にばったりと倒れ込んだ。 そこへ現れる軽トラック。 荒っぽい運転で急停車すると、中から永琳と気分の悪そうな輝夜が降りて来た。 「……よく……あの距離から狙えたわね……」 「それはもう、私は大天才ですから。まず飛距離と風向きを計算し、更に走行中の車体から撃つ事を考え…」 「それより………ちょっと……何か……」 「川なら近くにありましたよ」 「ありがとう………。まったく……なんであっちゃこっちゃ岩が転がってんのよ……」 それだけ言うと青褪めた顔で、川を目指して走り出す輝夜。 後に残された永琳は、倒れている二人を見て何か考え始めた。 「さすがにこの状態じゃあ、どうしようもないわね。でもそこを、どうにかするのが天才たる私。  しかしてゐはもう………………ん? …………………………ちょっと待って。  ふっふっふ、素晴らしい方法を考え付いたわ。さぁ、オペを始めましょうか!」 輝夜チーム 因幡 てゐ リタイア 更に時間は流れ、太陽は下がり出し2日目の昼を迎える。 にとりとの戦いを終え自分の陣地に戻って来た空は、先程から見えないさとりの姿を探していた。 「さとり様ー? 何処行っちゃったんですかー?」 もうかれこれ数時間は探している。 だがさとりどころか、誰一人として陣地内にいない。 まさか全員で何処かに行ってしまったのだろうか。 空がそんな不安を感じ始めた時、ふと何者かの影が視界に映り込んだ。 「!!」 「やあ、お空」 その影の正体は燐。 見知った仲間の姿に、空はほっと胸を撫で下ろす。 しかし頬を膨らませむすっとすると、燐に強い口調で話しかけた。 「何処行ってたの? 探したんだよ?」 「いやぁ、ちょっとお空がいない間に事情が変わってね」 「事情?」 「そんなに難しい話じゃないよ」 そう言って燐は、近くの段差に腰かける。 そして口元をそっと吊り上げると、ゆっくりと口を開いた。 「さとり様は永遠亭と手を組む事にしたよ。だから皆、此処にはいない。お空も一緒においでよ」 「え? 何の話?」 「やだなぁ、忘れたの? 昨日、兎がやって来て話してたじゃないさ」 燐のその言葉に、空はそれまでの事を思い出す。 すると何時の間に来ていたのやら、物陰から永琳が出て来た。 「話はその子の言った通りよ。さぁ、一緒に他の陣営を攻め滅ぼしましょう。お互いの主の為に」 空に近付き、手を差し伸べる永琳。 「……違う」 だが空は、どうしようもない違和感を感じて手を受け取らなかった。 燐は地霊殿という空間に、強い執着を持っている。 新入りのペットがいれば率先して地霊殿のルールを教え込み、ペット同士の輪を取り持っていた程だ。 それだけ燐は地霊殿を、余所者に穢されたくないのだろう。 そんな燐が部外者である永遠亭を簡単に受け入れるだろうか。 いや、さとりの命令なら従いはするだろう。 しかしこんなに積極的に動こうとはしない筈。 ならば今の燐は、何故こんな事をしているのだろうか。 生憎、空はその答えを出せる程賢い方ではない。 だが違和感として、おかしいと考える事は出来た。 「何か違う! 今のお燐はお燐らしくない!」 その言葉を聞くと、永琳と燐はお互いに顔を見合わせる。 そしてにやりと笑うと、永琳はメスを取り出し燐の首筋に突き立てた。 「なっ!」 「よく気付いたわね。てゐの話じゃ好感触だったみたいだから、丸めこめるかと思ったけど………まぁいいわ。  この子は私の洗脳手術を受けて、永遠亭の配下に下ったの。その気になれば自害させる事も出来るわよ。  でも貴方が私達のいいなりになるなら、この場は生かしておいてあげてもいいわ。さぁ、どうする?」 「言う通りにしないと、あたい殺されちゃうよ~。助けて、お空~」 「くっ……汚いぞ!」 「知的といいなさい。もしくは天才的とね!」 永琳の言葉に、成す術のない空。 永遠亭の残りの勢力が分からない以上、永琳を殺しても燐を助け出せる保証はないのだ。 ましてや燐に戦うよう命令されたら、こちらからは何も出来ない。 この場は屈するしかないのか。 そう空が思ったその時、何処からか気の抜けた声が聞こえて来た。 「は~い、そこまでー」 「………誰?」 「姫様!?」 「……えっ!?」 声の主である輝夜は、のんびりと空の方へ歩いて来る。 やがて正面までやって来ると、大きな溜め息を吐き永琳の方を流し目で睨んだ。 「本当、貴方の戦術は悪趣味ね」 「し、しかしこれは紫との戦いを優位に行う為の…」 「五月蝿いー、こっから先は私のやり方でやるから貴方は黙ってなさーい」 「ひ、姫様ぁ……」 「え~と、空。まず貴方がやり易いように話しておくけど…」 そう言うと輝夜は燐の方を指差す。 すると燐はびくっと反応した。 「あれは貴方の友達じゃありません。貴方の友達は永琳に殺されましたー」 「えっ!? じゃあ、あそこにいるのは……」 「私のチームのてゐよ。体がもうダメだったから、脳をダメージの少ない燐の体に移植させてもらったの。  これって判定的にはてゐが死んで燐が生き返った事になるのかしら。貴方に言っても仕方ないけど」 「ちょっと姫様ぁ! なんで話しちゃうの!? 何の為に私がこんな体になったと思ってるのさぁ!」 「生きててよかったね! そういう訳だから、貴方は気にせず全力で向かって来ていいわよ」 『姫様ぁ!』 「五月蝿いー、貴方達は紫とでも遊んで来なさーい。ぼさっとしてると一枚天井ぶつけるわよ」 『うわあぁぁん! 姫様が怒ったぁぁ!』 そのまま永琳と燐の体のてゐは、軽トラックで走り去る。 後に残された輝夜は、空の方に振り返り強気に笑った。 「さぁ、邪魔者もいなくなったし始めましょうか」 「その前に、一ついい?」 「どうぞ」 「なんであんな事言ったの? 貴方には私を本気で戦わせる理由はないでしょ?」 「理由ねぇ………あるわよ」 輝夜はくすくすと笑うと、妖力を放ち始める。 「永琳のやり方で勝っても面白くない、それだけよ!『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』!」 そしてショットガンを手に取ると、空に銃口を向けた。 「変わった奴」 「よく言われるわ」 「じゃあこっちも本気でいくよ!」 「そうじゃなきゃ、つまんないわ!」 「『核反応制御不能』!」 そう言って空が放つ巨大な弾幕の嵐。 地面を一瞬で焼き払い、周りの建造物を破壊し尽くす。 それを輝夜はかわしつつ、ショットガンを放ち応戦する。 空は被弾を避けながら、更に巨大な弾幕を輝夜目掛けて放ち続けた。 息も吐かせぬ激しい攻防。 辺りはすでに焼け野原と化していた。 それでも二人は戦い続ける。 やがて夕闇が二人を包み始めた頃、輝夜はショットガンをしまい空に話しかけた。 「ねぇ、そろそろお互いに消耗してきたし……ここらで決着をつけようと思うんだけど……どうかしら?」 「いいねぇ……全然弾が当たらなくて……嫌になってきたところだよ」 「じゃあ……私の必殺技……見せてあげる……。撃ち破ったら貴方の勝ちよ!」 「望むところだ!」 「いくわよ!『金閣寺の一枚天井』!!」 輝夜の言葉を合図に、突如地面から飛び出すロケット。 そのまま空高く飛んで行くと、やがて見えなくなってしまった。 「……………今のが切り札?」 「慌てずに見てなさいって」 すると上空から聞こえて来る轟音。 何事かと空が見上げてみると、なんと巨大な黄金の人工衛星が真っ直ぐこちらに向かって落ちて来ていた。 更に衛星の周囲には、金属の残骸が無数に浮かんでいる。 それらも衛星と共に落下しており、流星群のように降り注いでは大地を粉砕していった。 「な……あ……え……ちょ……嘘ぉ!?」 明らかに規格外のサイズの巨大な攻撃。 それはこの陣地よりも大きく、直撃すれば跡形も無く消し飛ぶのは容易く想像出来た。 「何これ!? これを撃ち破れって言うの!?」 「そうよ」 「いや、おかしいでしょ!? いろいろと!」 「先人はこう言ったものよ。漢は黙って金閣寺って」 「んな無茶苦茶なぁー! あ、それとも見かけ倒しとか?」 試しに衛星目掛けて弾幕を放とうとする空。 「『サブタレイニアンサン』!」 空最強の弾幕、その中心核を直接撃ち出した。 凄まじい光を放ち衛星にぶつかっていく空の弾幕。 やがて爆発音と共に治まった光の中から姿を現した衛星は、先程までと全く変わらない姿で落下を続けていた。 「うん、そうだよね。無理。無理無理。降参。何とかしてください」 冷や汗をだくだく流し、空は輝夜に哀願する。 しかし輝夜はにっこりと笑うと、肩を竦めてこう言った。 「一度撃ち出した物は、もうどうしようもありませーん」 「うぎゃああああぁぁぁぁー!! ……て貴方もヤバいんじゃない?」 「そうよ。でもそんな事は関係ない」 すると輝夜は、その場に腰を下ろす。 そして一息吐いてから、空に向かって言葉を紡いだ。 「だって私は死ぬ気なのだから」 「…………え?」 「飽きちゃったのよ。面白そうだから参加してはみたけれど、作戦立てて仲間を動かすのはどうも性に合わないわ。  やっぱり私もペットとか飼おうかな。その方が面白そうだし。でも紫は何がしたかったのかしらね。  いえ、目的は分かってる。でも幻想郷一とか最強とか、それに一体何の価値があるのかしら。  わざわざ仲間を巻き込んでまでする事なの? そんなに魅力的なの? 一番になる事って。  それとも私がおかしいだけ? ………もうそれでいいわ。兎に角つまんなくなっちゃったのよ。  だから後の事は永琳達の好きにやらせるわ。……最初から任せっきりか。でも最後に楽しい勝負が出来てよかった」 「ちょ、ちょっと…」 「それにしても気になるのは、この戦いを仕掛けたあの子。何か異様なものを感じたわ。  あの目……禍々しいんだけど、その奥にあるのは子供っぽさで……なんかまるで心の中を見通してるような…」 その瞬間、地面に激突する人工衛星。 途端に大爆発を起こし、輝夜も空も陣地も残らず消し飛んでしまう。 それは他のどの陣地からでも見える程の、大きな火柱を巻き起こしていた。 さとりチーム 霊烏路 空 輝夜チーム 蓬莱山 輝夜 リタイア チームリーダーのリタイアにつき 輝夜チーム 敗退 -[[第一次幻想郷大戦、勃発:34スレ578⑤]] - こあすげぇw -- 名無しさん (2011-03-20 10:19:28) - 神奈子「フン‥‥‥その程度か」 &br()小悪魔「なッ!?」 &br()神奈子「もう一度言う。大和の神と崇められたこの私が! &br()    貴様のような低級悪魔如きに!! &br()    負ける筈が無い!!!!」 &br()小悪魔「ピチューン」 &br() &br() &br()ってのも悪くないね。 -- 名無しさん (2011-06-12 22:04:36) - パチュリー間抜け… -- 名無しさん (2012-05-26 19:36:36) - なんでこあはいっつもこんなキャラなんだw -- 名無しさん (2014-03-19 02:41:42) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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