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『工房』 それぞれが工房を出てから1時間30分が過ぎようとしていた頃、真っ先に工房へと帰ってきたのは魔理沙であった。 魔理沙は、箒にアリスを乗せた状態で工房の目の前まで降り立つと、工房のドアを開け中に入る。 「おーい!戻ったぜ、っていないのか」 魔理沙が叫んだ声は空虚な工房に消えていった。 まだ他のメンバーがまだ戻ってきていないことを理解した魔理沙は、工房の隅に座り込んだ。 「ほらアリス、他のやつはまだ戻ってきてないみたいだからこっち来いよ」 「そう、まだ帰ってきてないのね」 そういって魔理沙の隣に座り、他のメンバーが来るまでの間は雑談をしながら待つことにした。 「はぁー……萃香どうしたのかしら……」 それからしばらくして、霊夢が帰ってきた。 工房の前まで来た霊夢は、にとりにどう切り出したものかと迷っていた。 霊夢は、萃香の様子がおかしかった用に感じたのがもし気のせいじゃなかったとしたらと考えると、いてもたってもいられなかった。 「にとり、いるー?」 工房へ入るなり霊夢はにとりの名を呼ぶ。しかし、にとりはまだ戻ってきていないため、当然ながらにとりの返答はない。 「にとりならまだ帰ってきてないぜ!」 「魔理沙……?」 にとりの代わりに魔理沙からの返答があったことに驚き、そちらを向く。 「にとりと文はまだ帰ってきてないんだぜ」 「そう……。って魔理沙あんた何やってるのよ」 「何、ってアリス寝かせてるだけだけど?」 霊夢が見たのは、魔理沙の膝に頭を乗せて幸せそうにすやすやと眠るアリスの姿だった。 「いや、アリスが突然眠くなったって言い出すからさ、じゃあ他のみんなが戻ってくるまで寝ていれば?っていって私の膝に寝かせただけだ」 「あ、そ……。ま、私には関係ないけどね」 霊夢は半ば呆れた様子で魔理沙を見つめる。 魔理沙はその意味がわからず頭上にはてなマークを浮かべて首をかしげる。 霊夢はそんな魔理沙を無視しつつアリスの隣に腰をかける。 「それより霊夢、萃香はどうしたんだ?まだ来てないのか?」 「ぅん、それはにとりや文が帰ってきてから話すことにするよ」 「……?そうか、わかったぜ」 魔理沙はまたも疑問を浮かべつつもあまり突っかかるのもよくないと思い、それ以上話に突っ込むことをしなかった。 それに加えてアリスが寝ているため、大声をあげることができないのだ。 霊夢はそのままアリスと同じように眠たそうに目をこする。 「魔理沙、私にも膝かしなさいよ」 「え、ちょ!さすがに二人は無理だって」 「反対側に来れば文句ないでしょ?」 そういって魔理沙の隣に座ると、アリスと同じ体制になって眠り始めた。 「ぇっと……、にとりが早く帰ってくるのを祈るか」 魔理沙はため息をついて二人の髪をそっと撫でる。 「霊夢も眠っているときはこんなに可愛いのにな……。」 ふとわれに返ったかのように手を離す。 「っ!!私は何を考えているんだ……」 霊夢はただの親友だしな。慌てて考えを掻き消して小さくため息をついた。 それからまた少しすると、にとりが戻ってくる。 またもや霊夢と同じように黙り込んでしまっている。 工房に入るなりにとりは辺りを見回しながら大きなため息をついた。 「お、にとりもやっと戻ってきたか!どうかしたか?」 魔理沙がにとりに声をかける。 「あ、魔理沙?他のみんなは、どうし……!?」 にとりは魔理沙の膝で眠る二人を見て驚いた。 「えっと、魔理沙さん?何をしているのかな……」 「ぇ、あ。なんでもないんだぜ。にとりたちが戻ってくるまで暇だってんで眠くなって寝ちゃったんだぜ」 そう言いながら魔理沙は眠っている二人を見つめ、再びにとりを見る。 「ぜんぜん起きてくれなくって困ってるんだ。助けてくれないか」 「というかどうしたらそういう状況になるのか知りたいわ」 そう呟きながらもにとりは霊夢を抱きかかえ、眠ったまま自分の膝に移動させる。 にとりは霊夢の頬を軽く叩きながら声をかけた。 「霊夢、起きなって」 「んぁ、にとり……?」 と同時に魔理沙もアリスを起こそうと声をかける。 「ほらアリス、にとりが帰ってきたぜ?」 「ん、むにゃ……もう少し寝たい……」 「早く起きないとキスしちまうぜ?」 「んぁ、魔理沙なら……」 「……寝ぼけてるな……?」 そういって魔理沙は膝からアリスの頭を移動し、床に落とす。 「痛っ!!……ん、あれ。魔理沙?」 「やっと起きたか」 そう言って魔理沙が苦笑いすると同時に、にとりといつの間にか覚醒している霊夢も苦笑いした。 「ぇ、え……?」 アリスは一人、事態を把握してない様子で首をかしげる。 魔理沙は苦笑いをしつつもアリスをそっと見つめる。 「にとりが帰ってきたぜ!後は文だけだ」 「あ、そうだったの……私、すっかり眠ってしまっていたのね」 そういって慌てて起き上がると、服の埃を払って立ち上がる。 「そういえば霊夢もいるのね、魔理沙の話にはなかったけれど?」 「あぁ、にとりとチルノのことしか話してなかったからな」 「そぅ……」 霊夢は小さくため息をつくと本題に入ろうとにとりの方を向いた、そのときだった。 「あやぁ、お待たせしましたみなさん!!」 そこに現れたのは文であった。 「あ、文お帰り。どうだった?紅魔館の様子は」 「いやぁ、すごく緩い警備でしたよ。門番である美鈴さんは眠っていましたし、中の様子を探ってみましたがいつも働いているメイドの妖精さんたちもいない様子でした」 そういって文はメモ帳を取り出して紙切れを一枚切ってにとりに渡す。 にとりは受け取ったメモの切れ端をじぃっと見つめる。 「これ……本当なのか?」 「はい、間違いないみたいです」 文がそう告げて苦笑いすると、にとりはむむぅっと考え込む。 そのやり取りを見ていたアリス、魔理沙、霊夢は訳がわからないといった様子でお互いを見つめた。 そんな最中、霊夢はタイミングを見計らってにとりに声をかける 。 「にとり、萃香のことなんだけど……」 「んー、そういえば萃香来てないな。どうした?」 「実は……」 霊夢は萃香が参加してくれなかったこと、萃香の様子がおかしかったことなどを話した。 「そう、なら……仕方ないね。私も大ちゃんを誘うの失敗したしな。作戦を少し変える必要があるな」 にとりはそう言って考え込む。 「え、にとりも?大ちゃんならきっとチルノを助けに来るとおもってたんだけど」 「うん、いろいろあってね……」 「そう……」 何があったのかは知らないが、今はともかくチルノを助けるために作戦を考えなければならないのである。 と言っても、ほとんどにとりが考えているのだが。 「よし、新しい作戦を決めなきゃね」 「わかったぜ!!」 それからというものの、時間をかけて作戦をあーでもないこーでもないと話し合ったのである。 『紅魔館』 「いつまで寝てるのかしらね……」 仮眠室からスー、スー、と寝息が聞こえる。 チルノはとても図太い神経なのか、それとも単純に自分がどういう状況にいたっているのか理解していないのかは謎だが、美鈴がレミリアたちに報告してからの4時間30分ずっと眠っているのだ。 「いたずらしてみようかしら……」 何を思ったかパチュリーは、チルノの衣服に手を伸ばす。 チルノの服に手が触れた、その瞬間であった。 「んぅ、ぁぅ?」 「っ!?」 慌てて手を離すパチュリー。まさかこのタイミングで起きるとは思っていなく、ひどく焦っているようだ。 そしてチルノは起きたばかりでまだ眠気眼な目をこすり、視界を広げようとする。 「ぉ、おはよう。やっと起きたのね」 「んぅ……、誰?」 パチュリーはこの状況で焦せらないチルノを見て呆れた顔でため息をついた。 チルノは状況をまったく把握してないといった様子でパチュリーを見つめる。 「私はパチュリー。紅魔館にはよくいたずらしに来るようだけど、いつも私は地下にいるからしらなくて当然ね」 「パチュリー?ぅん、見たことないぞ!」 そういってチルノは目を輝かせ、興味津々な様子でパチュリーをじぃっと見つめる。 パチュリーは何とも言えない感情に襲われるも、理性で押さえつける。 「な、何よ?」 「パチュリー、ここはどこだ?」 「……私の話を聞いていなかったのかしら?紅魔館にいつもいたずらにくるみたいだけど私は地下にいるって言わなかったかしら?」 チルノは少し考えたのち、手を叩いてうなずいた。 「そうか、気がつかなかった!」 「それより、今日は何しに来たのかしら?まぁ、どうせいたずらしにきたんでしょうけどね」 「ぅん、いたずらしに……。あ!!」 チルノは突然何かを思い出したかのように飛び起きる。 そして、辺りを探しまわりだしたかと思えばパチュリーに飛びつく。 パチュリーは、騒がしい子だなと思いながらも聞いてみる。 「どうしたのかしら?」 「道具が、にとりにもらったコントローラーがない!」 チルノは涙目になりながらパチュリーに言う。 「コントローラー?あぁ、これのことかしら?」 そう言ってパチュリーは手に持った道具をコントローラーを見せる。 だが、見せられたのはコントローラーだけであって受信機のような物はなかった。 「これ!……んぅ、これだけ?」 「え?あなたの元に落ちていたのはこれだけらしいけど」 美鈴からの報告では、チルノが倒れているのを見つけたときに見つけたのはこのコントローラーだけと聞いていたのである。 だが、コントローラ以外にもあるとすればこのコントローラーからの受信機と予測できる。 パチュリーはチルノが持っていたということもあるが、このコントローラーから魔力を観測したため、チルノが寝ている間に念入りに調べていた。 「これの他になにかあったの?」 「うん、受信機みたいのが……」 やはりそうかと思いつつ、パチュリーはその受信機というものがないということはチルノが倒れていた辺りにまだいるのではないかと思い、チルノと共に見に行くことにした。 「チルノ、探しにいきましょうか」 「ぅん、行く!」 レミリア曰くチルノを紅魔館にいさせることで今日は面白い一日になるのだと言う。 だから、レミリアの機嫌を損ねないためにもチルノから目を離すわけにはいかないのである。 パチュリーはチルノを連れて地上へと向かった。 「パチュリー様、どうなされました?」 「ちょっとチルノが倒れていた場所を見に……ね」 「大丈夫ですか?レミリアお嬢様の件もありますので……」 咲夜は廊下の掃除をしながらパチュリーに声をかけた。 レミリアが言っていた面白いことというのが気になるらしく、できるだけ外出は控えるようにとのことらしい。 だが、パチュリーが外に出るということは滅多にないため、よほど重要なことだと思ったのだろう。 咲夜は外に出るのを止めることはしなかった。 「そうですか、お気をつけてください」 「何言ってるの、ただ庭に行くだけじゃない。心配することないわよ」 そう言ってパチュリーはチルノを連れて、行こうとする。 チルノを見た咲夜は不思議そうに見つめた。 「ぁれパチュリー様、チルノも連れて行くのですか?」 「そうよ、レミリアの命令だしね、ほったらかしに出来ないでしょ」 「そういうことですか、わかりました」 そういって咲夜は掃除を再開した。 パチュリーはチルノと共に庭へ出る。 「美鈴の報告によるとチルノが倒れていたのはこの辺だったかしらね」 そう言って美鈴からの報告通りの場所にたどり着くと、辺りをみまわした。 それに釣られてチルノも探し回る。 しかし、あちこち探してみるものの、何分探せどそれらしいものは見当たらなかった。パチュリーの体力に限界が来ていたため諦めることとなった。 「結局見つからなかったわね……」 「ぅん……。どうしよう」 「まぁ、見つからないなら見つからないでいたずらされることはないのだから別にいいのだけれど」 そう言って紅魔館へと戻っていった。 パチュリーたちが紅魔館にもどると、咲夜が紅茶を用意してくれていた。 「はい、紅茶です。どうぞ」 「ありがとう、咲夜」 そう言って咲夜に微笑みかけたので、釣られて咲夜も微笑む。 そしてもう一杯紅茶を用意し、チルノにも差し出す。 「チルノさんもどうぞ」 「ありがとう、けどあたい熱いのは飲めないんだ」 「あぁ、氷の妖精でしたね。失礼しました」 そう言うなり、氷を持ってきて紅茶に入れる。 それから再びチルノに差し出す。 「これなら飲めるでしょう?」 「あ、ありがとう……」 そう言って受け取るが、チルノは一向に飲もうとしない。 咲夜は、どうしたのかと首をかしげる。 「あの、どうかしましたか?」 「これ、血入ってるの?」 「へ?」 咲夜は思ってもいなかったことを聞かれ、素っ頓狂な声をあげる。 だが、チルノはいたって真面目そうに話を続ける。 「ここの当主って吸血鬼なんでしょ?だから、この紅茶にも血が入ってるのかなって……」 チルノは不安げにおずおずと言った感じで聞く。 咲夜はそんなチルノが可愛くて笑ってしまう。 「ぷっ……あはっ……あはははははww」 確かにレミリアやフランに出すときには血が入っているが、それ以外は普通の紅茶なのである。 チルノは、急に咲夜が笑い出したので一瞬驚いたものの、何故笑われたのかわからなかったために困惑していた。 当然、血が入っているかもしれないと思っている紅茶を飲むことが出来るはずもなく、チルノは紅茶を机に置いたままであった。 そんな中パチュリーはというと、本を読みながらただ紅茶を飲むばかりであった。 少しして、咲夜はようやく落ち着いたのかチルノに話し始める。 「取り乱してしまってすみません。チルノさんはとても面白い方です。勘もいいのではないでしょうか」 「やっぱり血がはいってるのか?これ」 チルノが再びそう聞くと、咲夜は苦笑いする。 「いえ、この紅茶には入っていませんよ。ただ、レミリアお嬢様やフランお嬢様の紅茶には入っていますけれどね」 チルノはようやく意味を理解したらしく、大きくうなずいた。 咲夜がそういうことです、と告げるとチルノはようやく紅茶に口をつけた。 「おいしい、この紅茶おいしいぞ!」 チルノは冷え切った紅茶を飲み干すと、目を輝かせてそう叫ぶ。 「そう言っていただけると私も嬉しいです」 咲夜がそう言って微笑むと、チルノは無邪気に満面の笑みで笑って見せた。 咲夜には、このチルノという子がそこまで悪い子には見えなかったのだ。 だから、きっといたずらだってこの子にとっては遊びで、かまってほしいだけなのかもしれない。 そう思うと、咲夜はこのチルノという子が愛らしくて仕方ないように思えてくるのである。 そして咲夜は、ふと思い出したかのようにパチュリーにたずねる。 「そういえばパチュリー様、庭で何をしていたのです?」 「急に話を振るのね……」 パチュリーは少々不機嫌そうに言う。 咲夜がチルノのことを気に入ったのが一目瞭然だったので、パチュリーは少し腹立たしかったようである。 「申し訳ありません、パチュリー様。聞こうと思っていたのですが、チルノさんが可愛かったものでつい夢中に……」 「……まぁ、いいわ。私もそうだから」 そう言いながらパチュリーは先ほどのコントローラーを咲夜に見せる。 咲夜は頭に疑問符を浮かべながらそれを見つめる。 「なんです?それ」 「コントローラーと言うそうよ。この道具でチルノがいたずらをしようとしていたみたいなの。けれど、このコントローラーだけではなくて、受信機のようなものもあったらしいのよ」 「それでその受信機のようなものを探していた……と」 パチュリーは、そういうことだと告げて再び紅茶を口にする。 咲夜はそんなパチュリーを見た後、チルノを見つめる。 チルノは話についていけないといった様子でっ首をかしげる。 「チルノさんも受信機の行方を知らないと……。では、暇なメイドたちにでも探させましょう。どこかに落ちているとするならそれですぐに見つかるでしょう」 「ふふ、咲夜も相当チルノを気に入ったみたいね」 パチュリーはクスリと笑う。 「えぇ、チルノさんを紅魔館に引き入れたいくらいに」 「それもいいかもしれないわね……」 チルノは話についていけず、ただただ二人を交互に見るばかりであった。 『工房』 チルノ救出作戦についてそれぞれが意見を出し、しばらくしてやっとの思いで作戦は決定した。 「……以上、この作戦で行くよ!最後に何か意見あるひとはいるかい?」 そこで霊夢が手をあげる。 「ほぃ、霊夢」 「これってただの強行突破……だよね?」 霊夢が苦笑い気味に言うと、にとりはそうとも言うかもしれん。と同じように苦笑いしながら言った。 「まぁ、私は強行突破のほうが楽だけどな。霊夢もどっちかというとそうだろ?」 「うっ、まぁ否定はしないけど……」 そういって二人は笑い出す。 「それじゃあ、各自作戦を確認しておいてね。明日の朝に作戦開始だからね!」 話し合いの結果、最終的ににとりが決めた作戦はこうであった。 紅魔卿へしかける方法は単純で、魔理沙が先に向かって美鈴に攻撃を仕掛ける。美鈴が魔理沙の相手をしている間に他の者は門を突破する。それ以降は随時戦闘をしている間ににとりがチルノを救出に行くという実にシンプルなものであった。 「でも、にとりさんがいいとこどりですね」 「まぁ、チルノを助けたいのはにとりなんだからそれでいいんじゃないか?」 アリスがにとりに少しとげのある言葉を向けるものの、魔理沙がそれを庇う。 にとりは苦笑いしながらも着々と準備を進め、一通り準備が整ったところで話し始める。 「さ、準備は整ったよ!みんなも準備はいい?」 全員一致で頷く。 にとりが、準備したリュックを背負うと同時に全員行動を開始した。 『紅魔館』 あれからチルノは冷たい紅茶を3杯飲んだせいか、再び眠ってしまった。咲夜はチルノを起こさないように抱きかかえ、仮眠室に連れて行った。 仮眠室のベットに寝かせると、咲夜はパチュリーの元へと戻った。 「パチュリー様? パチュリー様はさっきの話、本気にしてますか?」 「チルノを紅魔館に引き入れるって話?」 「はい」 「まぁ、そうなったら嬉しいかもしれないわね」 パチュリーは苦笑い気味に言う。 咲夜はあまり嬉しそうにないパチュリーを見て首をかしげる。 「レミリアお嬢様に相談してみようかと思うのですが、パチュリー様は乗り気じゃないですか?」 パチュリーはそんなことはないと首を横に振る。 「そうですか、では……」 「ただ」 咲夜が図書館を出ようとすると、パチュリーがそれを止める。 「……ただ?」 「ただ、それは無理じゃないかと思うのよ」 「何故です?」 「これがあるから……かな」 そう言ってパチュリーは、先ほどのコントローラーを見せる。 咲夜は先ほどのチルノとパチュリーの会話をしらないため、当然首をかしげる。 「このコントローラーはね、河童のにとりが作ったらしいのよ」 「あのにとりですか……。でもそれに何の関係が?」 パチュリーはまだまだね、と言った感じでため息をついた。 「にとりが作ったこれをチルノが持ってきたということは、チルノの単独犯じゃないと言うこと。これでチルノが帰ってこなかったらどうなると思う?」 そこで咲夜はハッと気がついたように手を叩く。 「にとりがここにチルノを助けに来る……と」 「そういうこと。レミリアがいっていたのはおそらくこのことでしょうね」 「そういうことですか……。しかし、にとりだけでしたら追い返せるのでは……?」 「にとりがひとりで来たなら……ね」 咲夜は、くすくすと笑う。 「それなら心配ないはずです。あの河童は人付き合いが苦手と聞いたことがあります。誰かと共に助けに来ることはないはずです」 「だといいんだけれどね」 パチュリーはどこか疑問に思いつつも、それ以上突っかかることはなかった。 咲夜は少し不満に思いつつも図書館をあとにし、そのままレミリアの元へと向かった。 「咲夜、あなたは考えが甘すぎるのよ……」 咲夜が去った図書館でパチュリーはボソッと静かに呟いた。 咲夜はレミリアの部屋へとつくと、そのドアをコンコンと叩きそっと開ける。 「レミリアお嬢様、失礼します」 「あら咲夜、どうしたのかしら?」 レミリアは咲夜を部屋に招き入れながら用件を聞く。 咲夜は苦笑いしながら話し始める。 「チルノの件ですが、私もパチュリー様もチルノを気に入ってしまいまして、紅魔館に引き入れることはできないでしょうか……と」 「……へぇ、咲夜が妖精に興味を持つなんて珍しいわね。でも、チルノはきっとにとりが助けにくるわ」 レミリアはパチュリーと同様ににとりがくることを告げる。 しかし、咲夜はそれでも諦めたくないといった様子でレミリアを見つめた。 「そう、本気なのね?」 咲夜はこくりと頷く。 レミリアは咲夜がここまで妖精を気に入るなんて滅多にないことだとわかっていたため、咲夜の自由にさせることにした。 「そう、なら咲夜がにとりをどうにかしなさい。それでにとりを追い返せたら咲夜の好きにするといいわ」 そういってレミリアは微笑む。 咲夜はレミリアにありがとうございますと告げ、一礼すると部屋をあとにした。 『紅魔館~門前~』 「さて、どっから突撃したものか……」 作戦開始から真っ先にやってきた魔理沙は、木の陰からこそこそと門の様子を探る。 門の前には門番の美鈴がいるため、そのまま素通りというわけには行かないわけだ。 魔理沙は、もう少し近づこうと歩み寄る。 しかし、美鈴はこちらに気づく様子がない。 魔理沙はさらに一歩近づく。だが、一向に美鈴が魔理沙に気づく様子もない。 魔理沙がもっと近づくいて美鈴をよくよく観察してみると、美鈴が眠っているのがみてとれたため、すかさずにとりから預かったトランシーバーでにとり達に連絡する。 「こちら魔理沙。門番の美鈴が眠っているのを確認。今すぐこられたし、どうぞ」 「こちらにとり。了解した、すぐ向かう。どうぞ」 「了解だぜ!」 魔理沙はそういってにとりたちが来るのを待つ。 その間にも美鈴が起きてしまう可能性があるため、魔理沙は美鈴にいつでも攻撃を仕掛けられるように準備した。 それからしばらくしてにとり達が魔理沙のもとへたどり着くが、美鈴が起きる様子はなかった。 「お疲れ様。美鈴が起きないうちに中へ入るよ!」 「美鈴も可愛そうにな、あとからレミリアに怒られるんだろぅな」 そういって難なく全員門を突破し、紅魔館へと歩いていった。 そして、にとり達が去った門前で美鈴はくすっと笑い、静かに呟いた。 「私があえて寝ているふりをしていたということを喜ぶがいい」 『紅魔館~庭~』 「強行突破というほどでもなかったな」 「そうねぇ、ちょっとつまらないわね……」 魔理沙と霊夢がつまらなそうにそう言うと、にとりは苦笑いしながら目の前を指差す。 「そうでもないみたいだよ?」 そう言ってにとりの指が指す方向を見た2人は、急に真面目にそちらを見つめた。 「私がその暇をつぶして差し上げましょう」 そこにいたのは、微笑みながらこちらを見る小悪魔であった。 そこで魔理沙は前に出る。 「ここは私がいくぜ。みんなは先に行ってくれ」 「なら私もいくわ」 魔理沙が一歩前に出ると、アリスもそれに続く。魔理沙が懐から八卦炉を取り出し、小悪魔に向かって炎を放つ。 小悪魔がそれを避けると同時に、にとりたちは紅魔館の玄関へと向かった。 小悪魔はそれを追いかけることはせずに魔理沙に対峙した。 「へぇ、あなたひとりで戦えるのかしら……」 「それはやってみないとわからないんだぜ」 そう言って魔理沙は小悪魔へと攻撃を開始した。 にとり達は玄関までたどりつき、ドアを開ける。 文の情報どおり中にはメイドの妖精がいる様子はなかった。 「文、チルノは地下だったな。案内してくれるか」 「わかりました。こっちです」 そう言って文は走り出す。 それに続いてにとりと霊夢も走り出す。 地下へ降り、しばらく走ったところで文が急に止まる。 「ついたのか?」 「いえ、敵さんのようです」 にとりと霊夢も文の目にする方向を見る。 そこにいたのは魔導書を片手にしたパチュリーであった。 パチュリーはこちらをじぃーっと見つめ、様子を伺っているようだった。 霊夢は、パチュリーならとりあえず話し合いで解決するかもしれないと言うことで、前に一歩出る。 「久しぶりね、パチュリー」 「あら、霊夢。また荒らしに来たのかしら?本が片付かなくて困るの」 「今回は異変じゃないからそんなつもりはないわ。チルノを返してもらえれば私達はすぐ帰るけれど?」 霊夢はパチュリーの図書館など興味ないといった様子で言う。 パチュリーは少しむっとするものの、今の本題はチルノにあるのでスルーしておくことにする。 「やっぱりそういうことね。でも霊夢が来るとは思わなかったわ」 「そんなに意外だったかしら。暇つぶしに付き合ってるだけなんだけどね」 「でしょうね。でも、チルノは渡さない。レミリアがチルノを紅魔館に引き入れることを認めたのだから」 パチュリーはくすりと笑う。 霊夢は大きくため息をつき、霊符を取り出す。 「なら、戦うしかない……かな?」 「そうみたいね。全力で相手するわ」 そう言ってパチュリーも戦闘モードに入る。 霊夢は、札をパチュリーに投げつけながら2人に先へ行くように告げる。 「わかった、頼んだ!」 そう言ってにとりと文は図書館を後にした。 「ロイヤルフレァ!!」 ドゴーンという大きな音が図書館に鳴り響く。 二人は驚いて振り向く。 「図書館で火はまずいんじゃないか?」 「ぁはははは……。結界でも張ってるんじゃないでしょうか……」 にとりが冷や汗を流しながら呟くと共に文も苦笑いする。 そこでふとにとりが文を見る。 「なんですかぁ?」 文は首をかしげてニトリを見つめる。 にとりは意を決したように話す。 「なんで文もいるんだ……。文は紅魔館の情報収集だけだったはずだけど」 「……いまさらですね」 「いまさらだけど……」 「あやぁ、記事のためです。にとりさんの邪魔をするつもりはないのでいいかなぁっと。ね?」 文は苦笑いして悪びれもなくそういう。 にとりはやれやれといった様子で文を見つめた。 「記者って怖いな……。まぁ、チルノを探すには嬉しいけど」 そう呟きながらもチルノを探し始めた。 文もつられて探し始める。 2人はそれぞれ別の場所を探し、あちこち探し回った。 そしてようやくにとりがそれらしい部屋を見つける。 にとりが、仮眠室とかかれた部屋のドアを開け、中を覗く。 部屋には、スースーと寝息をたてて笑顔で眠るチルノがいた。 「チルノ!!」 にとりは大声で叫んでチルノの元へと走った。 「怪我はない……な。チルノ、帰るぞ!」 にとりはチルノの体を揺さぶり、チルノを起こそうとする。 しかし、チルノは起きる様子もなくのんきに寝ているばかりであった。 「チルノ、起きろ!」 「んぅ……まだねむぃ……」 「仕方ない……文、チルノを背負ってくれないか?」 「わっかりましたぁ」 にとりは、チルノが一向に起きそうにないので寝かせたまま文に背負わせる。 文がチルノを背負うのを確認すると、急いで仮眠室を出ようとする。 「どこへ行くのです?」 「っ……!」 だが、部屋を出ようとしたその瞬間を見計らったかのように咲夜が現れた。 「やっぱりきたのね、にとりさん?」 「どうして私のことを知っている……?」 にとりが咲夜に会うのは始めてなはずなので、何故咲夜がにとりのことを知っているのかにとりにはわからなかった。 「さぁ、どうしてかしら?それよりも……」 そう言って咲夜はチルノを背負っている文を見る。 「チルノさんは紅魔館に引き入れることになりました。なのでチルノさんを連れて行かせたりはしません!」 咲夜はナイフを数本取り出すと、文に向かって投げつける。 「ちょっと待ってください!私無抵抗です!」 文はチルノを背負っているため、避けることができない。 しかし、無常にもナイフは真っ直ぐ文の下へと向かう。 「っ……!!」 文はナイフが当たるのを覚悟し、目を瞑る。 「……ぁれ?」 しかし、いくら待てどもナイフが刺さる痛みは襲ってこなかった。文は恐る恐る目を開く。 「あ……」 その目に映ったのは、にとりが持ったアームによって文の目の前で静止しているナイフの姿だった。 「文、チルノを連れて外へ……!」 にとりは必死で文に叫ぶ。 文はこくりと頷き、ドアの外へと走り出す。 「待ちなさい、そうはさせな……っ!?」 にとりは、文に向かってナイフを投げようとする咲夜の腕をアームで制止する。 「させないよ……。チルノは私の大事な親友なんだっ!絶対に渡さない!」 「熱くなるのもいいけど……あなた一人で大丈夫かしら?私のナイフ捌きは誰にも負けないのよ?」 咲夜は妖笑してにとりを見つめ、大量のナイフを出現させてにとりに刃先を向ける。 にとりはそんな大量のナイフに怖じけることおもなく、リュックからアームをもう一本取り出し、アームを両手に持つ。そして片方のアームが咲夜のナイフを薙払い、咲夜へと突撃する。 咲夜はすかさず横に飛びのき、すばやくナイフを投げつける。 そのナイフはにとりの首筋を掠る。 「痛っ……!」 「ふふ、その程度かしら?大したことないわね」 咲夜はにこりと微笑んでにとりを見つめる。 「油断禁物……」 にとりはにやりと笑いながら先ほど放ったアームを反転させて咲夜に向かわせる、と同時にもう片方のアームを咲夜の正面めがけて突撃させる。 咲夜は咄嗟に後ろからくるアームを避けるものの、正面からの攻撃を避ける余裕はなかった。 「っ……仕方ない。いざ、私の世界へ!」 咲夜は時間を止めようとする。 しかし……。 がんっ!! 「がはっ……、なんで……?」 アームはなんの抵抗もなく咲夜の腹元にめり込んだ。 慌てて咲夜は胸元のポケットの懐中時計を探る。 「っ……ない!?」 しかしポケットに懐中時計は見つからず、一枚の紙切れが入っていた。 (あやぁ、珍しい時計だったのでもらっておきますね!それでわ!) 「……あの天狗っいつの間に!!」 「トラブルかな?こっちには好都合っ!!」 にとりはすかさず2本のアームを咲夜へ突撃させる。 咲夜は時計を持っていかれたことに動揺して避けるタイミングを失ってしまい、2本のアームをまともに食らってしまった。 「うっ……」 「その様子じゃもう動けないでしょ。人間だもんねぇ?」 「どうしてそれを……」 にとりは質問には答えず、くすっと笑う。 「じゃ、私は退散するわ!」 そう言ってにとりは部屋を飛び出した。 「……結局、チルノを紅魔館に誘うのは無理だった……か」 『紅魔館~地下図書館~』 にとりが仮眠室を出た頃、図書館ではいまだに霊夢とパチュリーの戦闘は続いていた。 「……き放て!ロイヤルフレァ!!」 「また同じ魔法ね、もうそのスペルは読みきってるわ!」 霊夢がそう叫んでパチェの魔法を避けたとき、ふいに図書室のドアが開かれる。 「パチェ!」 そう言って現れたのはレミリアであった。 「止めなさい、もう終わったわ」 「そう、……残念ね」 パチュリーは苦笑いして残念そうに魔導書を閉じる。 霊夢は訳がわからずに二人を交互に見る。 レミリアはくすっと笑って霊夢を見つめる。 「チルノはもう天狗が連れて行ったということ。霊夢、あなたの役目も恐らく終わりだわ」 「そう、無事助けたのね……なら私は帰るかな。いい運動になったし」 そう言って霊夢が背伸びすると、パチュリーはため息をついて椅子に座る。 「しかし霊夢、あなたが妖精を助けるために動くとはね」 「ただの暇つぶしよ」 レミリアの質問に素っ気無く答えた霊夢は、二人に向かってじゃあねと告げると、図書館を後にした。 「でもレミィ、あなたはよかったの?チルノを連れて行かれて。あなたの暇潰し相手にするんじゃなかったのかしら?」 「えぇ、チルノは諦めたわ。にとりが必死に言うものだから……」 「そぅ、本当に残念。あの妖精は私も気に入っていたのだけれど。で、その代わりは誰?」 「ふふっ、なんのことかしら?」 レミリアは不適な笑みをパチュリーに見せる。 そんなレミリアを見たパチュリーは、呆れた様子で苦笑いした。 『工房』 紅魔館を抜け出したにとりは、トランシーバにて文に連絡を取る。 「こちらにとりだ。文、無事に外出てるか?どうぞ」 「あー、こちら文です。チルノさんを背負って無事にとりさんの工房に到着しましたよ。帰る途中外の魔理沙さんとアリスさんの様子みようと思いましたがどうやら先に帰ってしまわれたようです。小悪魔さんがボロボロで倒れていたので聞いたらそう言っていました。どうぞ」 「了解した。すぐ工房に向かう」 そう言ってにとりはトランシーバーをしまう。 にとりはほっと一息つくと、急ぎ足で工房へと走った。 しばらくして工房へとついたにとりは、ドアをそっと開ける。 「チルノっ……」 「チルノさんならまだ寝ています。もう少し寝かせてあげてください」 チルノは、ソファーですーすーと寝息をたてて笑顔で眠っていた。 「そっか……ありがとう、文」 「あやぁ、お礼ならいいですよぉ。それよりも約束、覚えてますよね?」 「安心してくれ、ちゃんと覚えてる」 「そうですか、楽しみにしていますね!では、またきますね!」 そう言って文はにとりに一礼すると、工房を出て行った。 文が工房を出てていってから、にとりはチルノを見ながらにこりと微笑んだ。 「よかった……チルノ……」 にとりはそう呟いて、泣きそうになりながらチルノの髪を撫でる。 「んぅ……、んぁ……?」 「ん、起きたか?」 「にとり……?」 チルノは目をぐしぐしと擦り、起き上がろうとする。チルノが起き上がり、最初に見たのは涙目で自分を見つめるにとりの姿であった。 チルノは首をかしげてにとりを見る。 「にとり泣いてる……、どうしたの?」 「……いや、なんでもないぞっ!」 にとりは慌てて涙を腕で拭い、笑ってみせる。 「そっか。にとり、おはよう♪」 「あぁ、おはよう……」 今度は満面の笑みで笑って、にとりはチルノに抱きつく。 「おかえりっ……」 「ぇ……、ただいま……?」 チルノは訳がわからないといった様子で首をかしげるが、にとりはかまわずぎゅっと抱きしめる。 「にとり、くるしぃ……」 それからというものの、にとりはしばらくチルノを抱いて離さなかったらしい。 エピローグ 『紅魔館』 チルノをにとりが救出してからというものの、紅魔館では夜な夜な叫び奇妙な叫び声が聞こえるらしい。 「魔理沙!どうしてくれるのよ!」 「そんなの私が知るわけないだろ?」 アリスと魔理沙が言い合う。 咲夜はそんなの聞こえないと言った様子で言う。 「チルノさんを連れて行ってくれちゃったおかげで私はイライラしてるんです!しっかり働いてもらいます。レミリアお嬢様ならすぐに飽きたりはしないので安心してください」 「ま、待ってくれ。チルノを連れて行ったのは私ら関係ないんだ!私はパチュリーに本を借りに来ただけなんだって!」 「そ、そう。私も魔理沙についてきただけで何も知らなかったのっ」 「そんな言い訳通用すると思っているんですか?仮に本当だったとしても、そんなの関係ありません。来るタイミングが悪かったと自分を呪うんですね」 「そんなぁ……」 その後、魔法の森から二人の魔法使いが行方不明になったという噂が幻想郷じゅうに広まった。 だが、誰一人としてその行方を知るものはいなかったという。 また、博麗神社の巫女も突然行方不明になったらしい。 魔法使いの行方不明と関係があるかどうか、天狗の写命丸文が捜査中だという。 幻想郷にもまだまだ謎は多いようだ。 - 霊夢がチルノに借りがあるってどういうことだろう -- 名無しさん (2009-08-30 22:28:54) - エネミーコントローラーですね わかります -- 名無しさん (2009-08-30 22:43:16) - 受信機はたくさんあったってことか -- 名無しさん (2009-10-29 18:14:42) - アリス可愛い -- 名無しさん (2010-04-01 12:03:14) - すいかの様子がおかしかったのはどうなったwあと美鈴が呟いた言葉の意味は…? -- 名無しさん (2011-04-03 01:41:27) - 美鈴が喋る言葉に意味などあんまりない! -- 名無しさん (2011-05-15 20:07:57) - 美鈴「私があえて寝ているふりをしていたということを喜ぶがいい」 何か吹いたww -- 名無しさん (2014-02-20 23:55:41) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
『工房』 それぞれが工房を出てから1時間30分が過ぎようとしていた頃、真っ先に工房へと帰ってきたのは魔理沙であった。 魔理沙は、箒にアリスを乗せた状態で工房の目の前まで降り立つと、工房のドアを開け中に入る。 「おーい!戻ったぜ、っていないのか」 魔理沙が叫んだ声は空虚な工房に消えていった。 まだ他のメンバーがまだ戻ってきていないことを理解した魔理沙は、工房の隅に座り込んだ。 「ほらアリス、他のやつはまだ戻ってきてないみたいだからこっち来いよ」 「そう、まだ帰ってきてないのね」 そういって魔理沙の隣に座り、他のメンバーが来るまでの間は雑談をしながら待つことにした。 「はぁー……萃香どうしたのかしら……」 それからしばらくして、霊夢が帰ってきた。 工房の前まで来た霊夢は、にとりにどう切り出したものかと迷っていた。 霊夢は、萃香の様子がおかしかった用に感じたのがもし気のせいじゃなかったとしたらと考えると、いてもたってもいられなかった。 「にとり、いるー?」 工房へ入るなり霊夢はにとりの名を呼ぶ。しかし、にとりはまだ戻ってきていないため、当然ながらにとりの返答はない。 「にとりならまだ帰ってきてないぜ!」 「魔理沙……?」 にとりの代わりに魔理沙からの返答があったことに驚き、そちらを向く。 「にとりと文はまだ帰ってきてないんだぜ」 「そう……。って魔理沙あんた何やってるのよ」 「何、ってアリス寝かせてるだけだけど?」 霊夢が見たのは、魔理沙の膝に頭を乗せて幸せそうにすやすやと眠るアリスの姿だった。 「いや、アリスが突然眠くなったって言い出すからさ、じゃあ他のみんなが戻ってくるまで寝ていれば?っていって私の膝に寝かせただけだ」 「あ、そ……。ま、私には関係ないけどね」 霊夢は半ば呆れた様子で魔理沙を見つめる。 魔理沙はその意味がわからず頭上にはてなマークを浮かべて首をかしげる。 霊夢はそんな魔理沙を無視しつつアリスの隣に腰をかける。 「それより霊夢、萃香はどうしたんだ?まだ来てないのか?」 「ぅん、それはにとりや文が帰ってきてから話すことにするよ」 「……?そうか、わかったぜ」 魔理沙はまたも疑問を浮かべつつもあまり突っかかるのもよくないと思い、それ以上話に突っ込むことをしなかった。 それに加えてアリスが寝ているため、大声をあげることができないのだ。 霊夢はそのままアリスと同じように眠たそうに目をこする。 「魔理沙、私にも膝かしなさいよ」 「え、ちょ!さすがに二人は無理だって」 「反対側に来れば文句ないでしょ?」 そういって魔理沙の隣に座ると、アリスと同じ体制になって眠り始めた。 「ぇっと……、にとりが早く帰ってくるのを祈るか」 魔理沙はため息をついて二人の髪をそっと撫でる。 「霊夢も眠っているときはこんなに可愛いのにな……。」 ふとわれに返ったかのように手を離す。 「っ!!私は何を考えているんだ……」 霊夢はただの親友だしな。慌てて考えを掻き消して小さくため息をついた。 それからまた少しすると、にとりが戻ってくる。 またもや霊夢と同じように黙り込んでしまっている。 工房に入るなりにとりは辺りを見回しながら大きなため息をついた。 「お、にとりもやっと戻ってきたか!どうかしたか?」 魔理沙がにとりに声をかける。 「あ、魔理沙?他のみんなは、どうし……!?」 にとりは魔理沙の膝で眠る二人を見て驚いた。 「えっと、魔理沙さん?何をしているのかな……」 「ぇ、あ。なんでもないんだぜ。にとりたちが戻ってくるまで暇だってんで眠くなって寝ちゃったんだぜ」 そう言いながら魔理沙は眠っている二人を見つめ、再びにとりを見る。 「ぜんぜん起きてくれなくって困ってるんだ。助けてくれないか」 「というかどうしたらそういう状況になるのか知りたいわ」 そう呟きながらもにとりは霊夢を抱きかかえ、眠ったまま自分の膝に移動させる。 にとりは霊夢の頬を軽く叩きながら声をかけた。 「霊夢、起きなって」 「んぁ、にとり……?」 と同時に魔理沙もアリスを起こそうと声をかける。 「ほらアリス、にとりが帰ってきたぜ?」 「ん、むにゃ……もう少し寝たい……」 「早く起きないとキスしちまうぜ?」 「んぁ、魔理沙なら……」 「……寝ぼけてるな……?」 そういって魔理沙は膝からアリスの頭を移動し、床に落とす。 「痛っ!!……ん、あれ。魔理沙?」 「やっと起きたか」 そう言って魔理沙が苦笑いすると同時に、にとりといつの間にか覚醒している霊夢も苦笑いした。 「ぇ、え……?」 アリスは一人、事態を把握してない様子で首をかしげる。 魔理沙は苦笑いをしつつもアリスをそっと見つめる。 「にとりが帰ってきたぜ!後は文だけだ」 「あ、そうだったの……私、すっかり眠ってしまっていたのね」 そういって慌てて起き上がると、服の埃を払って立ち上がる。 「そういえば霊夢もいるのね、魔理沙の話にはなかったけれど?」 「あぁ、にとりとチルノのことしか話してなかったからな」 「そぅ……」 霊夢は小さくため息をつくと本題に入ろうとにとりの方を向いた、そのときだった。 「あやぁ、お待たせしましたみなさん!!」 そこに現れたのは文であった。 「あ、文お帰り。どうだった?紅魔館の様子は」 「いやぁ、すごく緩い警備でしたよ。門番である美鈴さんは眠っていましたし、中の様子を探ってみましたがいつも働いているメイドの妖精さんたちもいない様子でした」 そういって文はメモ帳を取り出して紙切れを一枚切ってにとりに渡す。 にとりは受け取ったメモの切れ端をじぃっと見つめる。 「これ……本当なのか?」 「はい、間違いないみたいです」 文がそう告げて苦笑いすると、にとりはむむぅっと考え込む。 そのやり取りを見ていたアリス、魔理沙、霊夢は訳がわからないといった様子でお互いを見つめた。 そんな最中、霊夢はタイミングを見計らってにとりに声をかける 。 「にとり、萃香のことなんだけど……」 「んー、そういえば萃香来てないな。どうした?」 「実は……」 霊夢は萃香が参加してくれなかったこと、萃香の様子がおかしかったことなどを話した。 「そう、なら……仕方ないね。私も大ちゃんを誘うの失敗したしな。作戦を少し変える必要があるな」 にとりはそう言って考え込む。 「え、にとりも?大ちゃんならきっとチルノを助けに来るとおもってたんだけど」 「うん、いろいろあってね……」 「そう……」 何があったのかは知らないが、今はともかくチルノを助けるために作戦を考えなければならないのである。 と言っても、ほとんどにとりが考えているのだが。 「よし、新しい作戦を決めなきゃね」 「わかったぜ!!」 それからというものの、時間をかけて作戦をあーでもないこーでもないと話し合ったのである。 『紅魔館』 「いつまで寝てるのかしらね……」 仮眠室からスー、スー、と寝息が聞こえる。 チルノはとても図太い神経なのか、それとも単純に自分がどういう状況にいたっているのか理解していないのかは謎だが、美鈴がレミリアたちに報告してからの4時間30分ずっと眠っているのだ。 「いたずらしてみようかしら……」 何を思ったかパチュリーは、チルノの衣服に手を伸ばす。 チルノの服に手が触れた、その瞬間であった。 「んぅ、ぁぅ?」 「っ!?」 慌てて手を離すパチュリー。まさかこのタイミングで起きるとは思っていなく、ひどく焦っているようだ。 そしてチルノは起きたばかりでまだ眠気眼な目をこすり、視界を広げようとする。 「ぉ、おはよう。やっと起きたのね」 「んぅ……、誰?」 パチュリーはこの状況で焦せらないチルノを見て呆れた顔でため息をついた。 チルノは状況をまったく把握してないといった様子でパチュリーを見つめる。 「私はパチュリー。紅魔館にはよくいたずらしに来るようだけど、いつも私は地下にいるからしらなくて当然ね」 「パチュリー?ぅん、見たことないぞ!」 そういってチルノは目を輝かせ、興味津々な様子でパチュリーをじぃっと見つめる。 パチュリーは何とも言えない感情に襲われるも、理性で押さえつける。 「な、何よ?」 「パチュリー、ここはどこだ?」 「……私の話を聞いていなかったのかしら?紅魔館にいつもいたずらにくるみたいだけど私は地下にいるって言わなかったかしら?」 チルノは少し考えたのち、手を叩いてうなずいた。 「そうか、気がつかなかった!」 「それより、今日は何しに来たのかしら?まぁ、どうせいたずらしにきたんでしょうけどね」 「ぅん、いたずらしに……。あ!!」 チルノは突然何かを思い出したかのように飛び起きる。 そして、辺りを探しまわりだしたかと思えばパチュリーに飛びつく。 パチュリーは、騒がしい子だなと思いながらも聞いてみる。 「どうしたのかしら?」 「道具が、にとりにもらったコントローラーがない!」 チルノは涙目になりながらパチュリーに言う。 「コントローラー?あぁ、これのことかしら?」 そう言ってパチュリーは手に持った道具をコントローラーを見せる。 だが、見せられたのはコントローラーだけであって受信機のような物はなかった。 「これ!……んぅ、これだけ?」 「え?あなたの元に落ちていたのはこれだけらしいけど」 美鈴からの報告では、チルノが倒れているのを見つけたときに見つけたのはこのコントローラーだけと聞いていたのである。 だが、コントローラ以外にもあるとすればこのコントローラーからの受信機と予測できる。 パチュリーはチルノが持っていたということもあるが、このコントローラーから魔力を観測したため、チルノが寝ている間に念入りに調べていた。 「これの他になにかあったの?」 「うん、受信機みたいのが……」 やはりそうかと思いつつ、パチュリーはその受信機というものがないということはチルノが倒れていた辺りにまだいるのではないかと思い、チルノと共に見に行くことにした。 「チルノ、探しにいきましょうか」 「ぅん、行く!」 レミリア曰くチルノを紅魔館にいさせることで今日は面白い一日になるのだと言う。 だから、レミリアの機嫌を損ねないためにもチルノから目を離すわけにはいかないのである。 パチュリーはチルノを連れて地上へと向かった。 「パチュリー様、どうなされました?」 「ちょっとチルノが倒れていた場所を見に……ね」 「大丈夫ですか?レミリアお嬢様の件もありますので……」 咲夜は廊下の掃除をしながらパチュリーに声をかけた。 レミリアが言っていた面白いことというのが気になるらしく、できるだけ外出は控えるようにとのことらしい。 だが、パチュリーが外に出るということは滅多にないため、よほど重要なことだと思ったのだろう。 咲夜は外に出るのを止めることはしなかった。 「そうですか、お気をつけてください」 「何言ってるの、ただ庭に行くだけじゃない。心配することないわよ」 そう言ってパチュリーはチルノを連れて、行こうとする。 チルノを見た咲夜は不思議そうに見つめた。 「ぁれパチュリー様、チルノも連れて行くのですか?」 「そうよ、レミリアの命令だしね、ほったらかしに出来ないでしょ」 「そういうことですか、わかりました」 そういって咲夜は掃除を再開した。 パチュリーはチルノと共に庭へ出る。 「美鈴の報告によるとチルノが倒れていたのはこの辺だったかしらね」 そう言って美鈴からの報告通りの場所にたどり着くと、辺りをみまわした。 それに釣られてチルノも探し回る。 しかし、あちこち探してみるものの、何分探せどそれらしいものは見当たらなかった。パチュリーの体力に限界が来ていたため諦めることとなった。 「結局見つからなかったわね……」 「ぅん……。どうしよう」 「まぁ、見つからないなら見つからないでいたずらされることはないのだから別にいいのだけれど」 そう言って紅魔館へと戻っていった。 パチュリーたちが紅魔館にもどると、咲夜が紅茶を用意してくれていた。 「はい、紅茶です。どうぞ」 「ありがとう、咲夜」 そう言って咲夜に微笑みかけたので、釣られて咲夜も微笑む。 そしてもう一杯紅茶を用意し、チルノにも差し出す。 「チルノさんもどうぞ」 「ありがとう、けどあたい熱いのは飲めないんだ」 「あぁ、氷の妖精でしたね。失礼しました」 そう言うなり、氷を持ってきて紅茶に入れる。 それから再びチルノに差し出す。 「これなら飲めるでしょう?」 「あ、ありがとう……」 そう言って受け取るが、チルノは一向に飲もうとしない。 咲夜は、どうしたのかと首をかしげる。 「あの、どうかしましたか?」 「これ、血入ってるの?」 「へ?」 咲夜は思ってもいなかったことを聞かれ、素っ頓狂な声をあげる。 だが、チルノはいたって真面目そうに話を続ける。 「ここの当主って吸血鬼なんでしょ?だから、この紅茶にも血が入ってるのかなって……」 チルノは不安げにおずおずと言った感じで聞く。 咲夜はそんなチルノが可愛くて笑ってしまう。 「ぷっ……あはっ……あはははははww」 確かにレミリアやフランに出すときには血が入っているが、それ以外は普通の紅茶なのである。 チルノは、急に咲夜が笑い出したので一瞬驚いたものの、何故笑われたのかわからなかったために困惑していた。 当然、血が入っているかもしれないと思っている紅茶を飲むことが出来るはずもなく、チルノは紅茶を机に置いたままであった。 そんな中パチュリーはというと、本を読みながらただ紅茶を飲むばかりであった。 少しして、咲夜はようやく落ち着いたのかチルノに話し始める。 「取り乱してしまってすみません。チルノさんはとても面白い方です。勘もいいのではないでしょうか」 「やっぱり血がはいってるのか?これ」 チルノが再びそう聞くと、咲夜は苦笑いする。 「いえ、この紅茶には入っていませんよ。ただ、レミリアお嬢様やフランお嬢様の紅茶には入っていますけれどね」 チルノはようやく意味を理解したらしく、大きくうなずいた。 咲夜がそういうことです、と告げるとチルノはようやく紅茶に口をつけた。 「おいしい、この紅茶おいしいぞ!」 チルノは冷え切った紅茶を飲み干すと、目を輝かせてそう叫ぶ。 「そう言っていただけると私も嬉しいです」 咲夜がそう言って微笑むと、チルノは無邪気に満面の笑みで笑って見せた。 咲夜には、このチルノという子がそこまで悪い子には見えなかったのだ。 だから、きっといたずらだってこの子にとっては遊びで、かまってほしいだけなのかもしれない。 そう思うと、咲夜はこのチルノという子が愛らしくて仕方ないように思えてくるのである。 そして咲夜は、ふと思い出したかのようにパチュリーにたずねる。 「そういえばパチュリー様、庭で何をしていたのです?」 「急に話を振るのね……」 パチュリーは少々不機嫌そうに言う。 咲夜がチルノのことを気に入ったのが一目瞭然だったので、パチュリーは少し腹立たしかったようである。 「申し訳ありません、パチュリー様。聞こうと思っていたのですが、チルノさんが可愛かったものでつい夢中に……」 「……まぁ、いいわ。私もそうだから」 そう言いながらパチュリーは先ほどのコントローラーを咲夜に見せる。 咲夜は頭に疑問符を浮かべながらそれを見つめる。 「なんです?それ」 「コントローラーと言うそうよ。この道具でチルノがいたずらをしようとしていたみたいなの。けれど、このコントローラーだけではなくて、受信機のようなものもあったらしいのよ」 「それでその受信機のようなものを探していた……と」 パチュリーは、そういうことだと告げて再び紅茶を口にする。 咲夜はそんなパチュリーを見た後、チルノを見つめる。 チルノは話についていけないといった様子でっ首をかしげる。 「チルノさんも受信機の行方を知らないと……。では、暇なメイドたちにでも探させましょう。どこかに落ちているとするならそれですぐに見つかるでしょう」 「ふふ、咲夜も相当チルノを気に入ったみたいね」 パチュリーはクスリと笑う。 「えぇ、チルノさんを紅魔館に引き入れたいくらいに」 「それもいいかもしれないわね……」 チルノは話についていけず、ただただ二人を交互に見るばかりであった。 『工房』 チルノ救出作戦についてそれぞれが意見を出し、しばらくしてやっとの思いで作戦は決定した。 「……以上、この作戦で行くよ!最後に何か意見あるひとはいるかい?」 そこで霊夢が手をあげる。 「ほぃ、霊夢」 「これってただの強行突破……だよね?」 霊夢が苦笑い気味に言うと、にとりはそうとも言うかもしれん。と同じように苦笑いしながら言った。 「まぁ、私は強行突破のほうが楽だけどな。霊夢もどっちかというとそうだろ?」 「うっ、まぁ否定はしないけど……」 そういって二人は笑い出す。 「それじゃあ、各自作戦を確認しておいてね。明日の朝に作戦開始だからね!」 話し合いの結果、最終的ににとりが決めた作戦はこうであった。 紅魔卿へしかける方法は単純で、魔理沙が先に向かって美鈴に攻撃を仕掛ける。美鈴が魔理沙の相手をしている間に他の者は門を突破する。それ以降は随時戦闘をしている間ににとりがチルノを救出に行くという実にシンプルなものであった。 「でも、にとりさんがいいとこどりですね」 「まぁ、チルノを助けたいのはにとりなんだからそれでいいんじゃないか?」 アリスがにとりに少しとげのある言葉を向けるものの、魔理沙がそれを庇う。 にとりは苦笑いしながらも着々と準備を進め、一通り準備が整ったところで話し始める。 「さ、準備は整ったよ!みんなも準備はいい?」 全員一致で頷く。 にとりが、準備したリュックを背負うと同時に全員行動を開始した。 『紅魔館』 あれからチルノは冷たい紅茶を3杯飲んだせいか、再び眠ってしまった。咲夜はチルノを起こさないように抱きかかえ、仮眠室に連れて行った。 仮眠室のベットに寝かせると、咲夜はパチュリーの元へと戻った。 「パチュリー様? パチュリー様はさっきの話、本気にしてますか?」 「チルノを紅魔館に引き入れるって話?」 「はい」 「まぁ、そうなったら嬉しいかもしれないわね」 パチュリーは苦笑い気味に言う。 咲夜はあまり嬉しそうにないパチュリーを見て首をかしげる。 「レミリアお嬢様に相談してみようかと思うのですが、パチュリー様は乗り気じゃないですか?」 パチュリーはそんなことはないと首を横に振る。 「そうですか、では……」 「ただ」 咲夜が図書館を出ようとすると、パチュリーがそれを止める。 「……ただ?」 「ただ、それは無理じゃないかと思うのよ」 「何故です?」 「これがあるから……かな」 そう言ってパチュリーは、先ほどのコントローラーを見せる。 咲夜は先ほどのチルノとパチュリーの会話をしらないため、当然首をかしげる。 「このコントローラーはね、河童のにとりが作ったらしいのよ」 「あのにとりですか……。でもそれに何の関係が?」 パチュリーはまだまだね、と言った感じでため息をついた。 「にとりが作ったこれをチルノが持ってきたということは、チルノの単独犯じゃないと言うこと。これでチルノが帰ってこなかったらどうなると思う?」 そこで咲夜はハッと気がついたように手を叩く。 「にとりがここにチルノを助けに来る……と」 「そういうこと。レミリアがいっていたのはおそらくこのことでしょうね」 「そういうことですか……。しかし、にとりだけでしたら追い返せるのでは……?」 「にとりがひとりで来たなら……ね」 咲夜は、くすくすと笑う。 「それなら心配ないはずです。あの河童は人付き合いが苦手と聞いたことがあります。誰かと共に助けに来ることはないはずです」 「だといいんだけれどね」 パチュリーはどこか疑問に思いつつも、それ以上突っかかることはなかった。 咲夜は少し不満に思いつつも図書館をあとにし、そのままレミリアの元へと向かった。 「咲夜、あなたは考えが甘すぎるのよ……」 咲夜が去った図書館でパチュリーはボソッと静かに呟いた。 咲夜はレミリアの部屋へとつくと、そのドアをコンコンと叩きそっと開ける。 「レミリアお嬢様、失礼します」 「あら咲夜、どうしたのかしら?」 レミリアは咲夜を部屋に招き入れながら用件を聞く。 咲夜は苦笑いしながら話し始める。 「チルノの件ですが、私もパチュリー様もチルノを気に入ってしまいまして、紅魔館に引き入れることはできないでしょうか……と」 「……へぇ、咲夜が妖精に興味を持つなんて珍しいわね。でも、チルノはきっとにとりが助けにくるわ」 レミリアはパチュリーと同様ににとりがくることを告げる。 しかし、咲夜はそれでも諦めたくないといった様子でレミリアを見つめた。 「そう、本気なのね?」 咲夜はこくりと頷く。 レミリアは咲夜がここまで妖精を気に入るなんて滅多にないことだとわかっていたため、咲夜の自由にさせることにした。 「そう、なら咲夜がにとりをどうにかしなさい。それでにとりを追い返せたら咲夜の好きにするといいわ」 そういってレミリアは微笑む。 咲夜はレミリアにありがとうございますと告げ、一礼すると部屋をあとにした。 『紅魔館~門前~』 「さて、どっから突撃したものか……」 作戦開始から真っ先にやってきた魔理沙は、木の陰からこそこそと門の様子を探る。 門の前には門番の美鈴がいるため、そのまま素通りというわけには行かないわけだ。 魔理沙は、もう少し近づこうと歩み寄る。 しかし、美鈴はこちらに気づく様子がない。 魔理沙はさらに一歩近づく。だが、一向に美鈴が魔理沙に気づく様子もない。 魔理沙がもっと近づくいて美鈴をよくよく観察してみると、美鈴が眠っているのがみてとれたため、すかさずにとりから預かったトランシーバーでにとり達に連絡する。 「こちら魔理沙。門番の美鈴が眠っているのを確認。今すぐこられたし、どうぞ」 「こちらにとり。了解した、すぐ向かう。どうぞ」 「了解だぜ!」 魔理沙はそういってにとりたちが来るのを待つ。 その間にも美鈴が起きてしまう可能性があるため、魔理沙は美鈴にいつでも攻撃を仕掛けられるように準備した。 それからしばらくしてにとり達が魔理沙のもとへたどり着くが、美鈴が起きる様子はなかった。 「お疲れ様。美鈴が起きないうちに中へ入るよ!」 「美鈴も可愛そうにな、あとからレミリアに怒られるんだろぅな」 そういって難なく全員門を突破し、紅魔館へと歩いていった。 そして、にとり達が去った門前で美鈴はくすっと笑い、静かに呟いた。 「私があえて寝ているふりをしていたということを喜ぶがいい」 『紅魔館~庭~』 「強行突破というほどでもなかったな」 「そうねぇ、ちょっとつまらないわね……」 魔理沙と霊夢がつまらなそうにそう言うと、にとりは苦笑いしながら目の前を指差す。 「そうでもないみたいだよ?」 そう言ってにとりの指が指す方向を見た2人は、急に真面目にそちらを見つめた。 「私がその暇をつぶして差し上げましょう」 そこにいたのは、微笑みながらこちらを見る小悪魔であった。 そこで魔理沙は前に出る。 「ここは私がいくぜ。みんなは先に行ってくれ」 「なら私もいくわ」 魔理沙が一歩前に出ると、アリスもそれに続く。魔理沙が懐から八卦炉を取り出し、小悪魔に向かって炎を放つ。 小悪魔がそれを避けると同時に、にとりたちは紅魔館の玄関へと向かった。 小悪魔はそれを追いかけることはせずに魔理沙に対峙した。 「へぇ、あなたひとりで戦えるのかしら……」 「それはやってみないとわからないんだぜ」 そう言って魔理沙は小悪魔へと攻撃を開始した。 にとり達は玄関までたどりつき、ドアを開ける。 文の情報どおり中にはメイドの妖精がいる様子はなかった。 「文、チルノは地下だったな。案内してくれるか」 「わかりました。こっちです」 そう言って文は走り出す。 それに続いてにとりと霊夢も走り出す。 地下へ降り、しばらく走ったところで文が急に止まる。 「ついたのか?」 「いえ、敵さんのようです」 にとりと霊夢も文の目にする方向を見る。 そこにいたのは魔導書を片手にしたパチュリーであった。 パチュリーはこちらをじぃーっと見つめ、様子を伺っているようだった。 霊夢は、パチュリーならとりあえず話し合いで解決するかもしれないと言うことで、前に一歩出る。 「久しぶりね、パチュリー」 「あら、霊夢。また荒らしに来たのかしら?本が片付かなくて困るの」 「今回は異変じゃないからそんなつもりはないわ。チルノを返してもらえれば私達はすぐ帰るけれど?」 霊夢はパチュリーの図書館など興味ないといった様子で言う。 パチュリーは少しむっとするものの、今の本題はチルノにあるのでスルーしておくことにする。 「やっぱりそういうことね。でも霊夢が来るとは思わなかったわ」 「そんなに意外だったかしら。暇つぶしに付き合ってるだけなんだけどね」 「でしょうね。でも、チルノは渡さない。レミリアがチルノを紅魔館に引き入れることを認めたのだから」 パチュリーはくすりと笑う。 霊夢は大きくため息をつき、霊符を取り出す。 「なら、戦うしかない……かな?」 「そうみたいね。全力で相手するわ」 そう言ってパチュリーも戦闘モードに入る。 霊夢は、札をパチュリーに投げつけながら2人に先へ行くように告げる。 「わかった、頼んだ!」 そう言ってにとりと文は図書館を後にした。 「ロイヤルフレァ!!」 ドゴーンという大きな音が図書館に鳴り響く。 二人は驚いて振り向く。 「図書館で火はまずいんじゃないか?」 「ぁはははは……。結界でも張ってるんじゃないでしょうか……」 にとりが冷や汗を流しながら呟くと共に文も苦笑いする。 そこでふとにとりが文を見る。 「なんですかぁ?」 文は首をかしげてニトリを見つめる。 にとりは意を決したように話す。 「なんで文もいるんだ……。文は紅魔館の情報収集だけだったはずだけど」 「……いまさらですね」 「いまさらだけど……」 「あやぁ、記事のためです。にとりさんの邪魔をするつもりはないのでいいかなぁっと。ね?」 文は苦笑いして悪びれもなくそういう。 にとりはやれやれといった様子で文を見つめた。 「記者って怖いな……。まぁ、チルノを探すには嬉しいけど」 そう呟きながらもチルノを探し始めた。 文もつられて探し始める。 2人はそれぞれ別の場所を探し、あちこち探し回った。 そしてようやくにとりがそれらしい部屋を見つける。 にとりが、仮眠室とかかれた部屋のドアを開け、中を覗く。 部屋には、スースーと寝息をたてて笑顔で眠るチルノがいた。 「チルノ!!」 にとりは大声で叫んでチルノの元へと走った。 「怪我はない……な。チルノ、帰るぞ!」 にとりはチルノの体を揺さぶり、チルノを起こそうとする。 しかし、チルノは起きる様子もなくのんきに寝ているばかりであった。 「チルノ、起きろ!」 「んぅ……まだねむぃ……」 「仕方ない……文、チルノを背負ってくれないか?」 「わっかりましたぁ」 にとりは、チルノが一向に起きそうにないので寝かせたまま文に背負わせる。 文がチルノを背負うのを確認すると、急いで仮眠室を出ようとする。 「どこへ行くのです?」 「っ……!」 だが、部屋を出ようとしたその瞬間を見計らったかのように咲夜が現れた。 「やっぱりきたのね、にとりさん?」 「どうして私のことを知っている……?」 にとりが咲夜に会うのは始めてなはずなので、何故咲夜がにとりのことを知っているのかにとりにはわからなかった。 「さぁ、どうしてかしら?それよりも……」 そう言って咲夜はチルノを背負っている文を見る。 「チルノさんは紅魔館に引き入れることになりました。なのでチルノさんを連れて行かせたりはしません!」 咲夜はナイフを数本取り出すと、文に向かって投げつける。 「ちょっと待ってください!私無抵抗です!」 文はチルノを背負っているため、避けることができない。 しかし、無常にもナイフは真っ直ぐ文の下へと向かう。 「っ……!!」 文はナイフが当たるのを覚悟し、目を瞑る。 「……ぁれ?」 しかし、いくら待てどもナイフが刺さる痛みは襲ってこなかった。文は恐る恐る目を開く。 「あ……」 その目に映ったのは、にとりが持ったアームによって文の目の前で静止しているナイフの姿だった。 「文、チルノを連れて外へ……!」 にとりは必死で文に叫ぶ。 文はこくりと頷き、ドアの外へと走り出す。 「待ちなさい、そうはさせな……っ!?」 にとりは、文に向かってナイフを投げようとする咲夜の腕をアームで制止する。 「させないよ……。チルノは私の大事な親友なんだっ!絶対に渡さない!」 「熱くなるのもいいけど……あなた一人で大丈夫かしら?私のナイフ捌きは誰にも負けないのよ?」 咲夜は妖笑してにとりを見つめ、大量のナイフを出現させてにとりに刃先を向ける。 にとりはそんな大量のナイフに怖じけることおもなく、リュックからアームをもう一本取り出し、アームを両手に持つ。そして片方のアームが咲夜のナイフを薙払い、咲夜へと突撃する。 咲夜はすかさず横に飛びのき、すばやくナイフを投げつける。 そのナイフはにとりの首筋を掠る。 「痛っ……!」 「ふふ、その程度かしら?大したことないわね」 咲夜はにこりと微笑んでにとりを見つめる。 「油断禁物……」 にとりはにやりと笑いながら先ほど放ったアームを反転させて咲夜に向かわせる、と同時にもう片方のアームを咲夜の正面めがけて突撃させる。 咲夜は咄嗟に後ろからくるアームを避けるものの、正面からの攻撃を避ける余裕はなかった。 「っ……仕方ない。いざ、私の世界へ!」 咲夜は時間を止めようとする。 しかし……。 がんっ!! 「がはっ……、なんで……?」 アームはなんの抵抗もなく咲夜の腹元にめり込んだ。 慌てて咲夜は胸元のポケットの懐中時計を探る。 「っ……ない!?」 しかしポケットに懐中時計は見つからず、一枚の紙切れが入っていた。 (あやぁ、珍しい時計だったのでもらっておきますね!それでわ!) 「……あの天狗っいつの間に!!」 「トラブルかな?こっちには好都合っ!!」 にとりはすかさず2本のアームを咲夜へ突撃させる。 咲夜は時計を持っていかれたことに動揺して避けるタイミングを失ってしまい、2本のアームをまともに食らってしまった。 「うっ……」 「その様子じゃもう動けないでしょ。人間だもんねぇ?」 「どうしてそれを……」 にとりは質問には答えず、くすっと笑う。 「じゃ、私は退散するわ!」 そう言ってにとりは部屋を飛び出した。 「……結局、チルノを紅魔館に誘うのは無理だった……か」 『紅魔館~地下図書館~』 にとりが仮眠室を出た頃、図書館ではいまだに霊夢とパチュリーの戦闘は続いていた。 「……き放て!ロイヤルフレァ!!」 「また同じ魔法ね、もうそのスペルは読みきってるわ!」 霊夢がそう叫んでパチェの魔法を避けたとき、ふいに図書室のドアが開かれる。 「パチェ!」 そう言って現れたのはレミリアであった。 「止めなさい、もう終わったわ」 「そう、……残念ね」 パチュリーは苦笑いして残念そうに魔導書を閉じる。 霊夢は訳がわからずに二人を交互に見る。 レミリアはくすっと笑って霊夢を見つめる。 「チルノはもう天狗が連れて行ったということ。霊夢、あなたの役目も恐らく終わりだわ」 「そう、無事助けたのね……なら私は帰るかな。いい運動になったし」 そう言って霊夢が背伸びすると、パチュリーはため息をついて椅子に座る。 「しかし霊夢、あなたが妖精を助けるために動くとはね」 「ただの暇つぶしよ」 レミリアの質問に素っ気無く答えた霊夢は、二人に向かってじゃあねと告げると、図書館を後にした。 「でもレミィ、あなたはよかったの?チルノを連れて行かれて。あなたの暇潰し相手にするんじゃなかったのかしら?」 「えぇ、チルノは諦めたわ。にとりが必死に言うものだから……」 「そぅ、本当に残念。あの妖精は私も気に入っていたのだけれど。で、その代わりは誰?」 「ふふっ、なんのことかしら?」 レミリアは不適な笑みをパチュリーに見せる。 そんなレミリアを見たパチュリーは、呆れた様子で苦笑いした。 『工房』 紅魔館を抜け出したにとりは、トランシーバにて文に連絡を取る。 「こちらにとりだ。文、無事に外出てるか?どうぞ」 「あー、こちら文です。チルノさんを背負って無事にとりさんの工房に到着しましたよ。帰る途中外の魔理沙さんとアリスさんの様子みようと思いましたがどうやら先に帰ってしまわれたようです。小悪魔さんがボロボロで倒れていたので聞いたらそう言っていました。どうぞ」 「了解した。すぐ工房に向かう」 そう言ってにとりはトランシーバーをしまう。 にとりはほっと一息つくと、急ぎ足で工房へと走った。 しばらくして工房へとついたにとりは、ドアをそっと開ける。 「チルノっ……」 「チルノさんならまだ寝ています。もう少し寝かせてあげてください」 チルノは、ソファーですーすーと寝息をたてて笑顔で眠っていた。 「そっか……ありがとう、文」 「あやぁ、お礼ならいいですよぉ。それよりも約束、覚えてますよね?」 「安心してくれ、ちゃんと覚えてる」 「そうですか、楽しみにしていますね!では、またきますね!」 そう言って文はにとりに一礼すると、工房を出て行った。 文が工房を出てていってから、にとりはチルノを見ながらにこりと微笑んだ。 「よかった……チルノ……」 にとりはそう呟いて、泣きそうになりながらチルノの髪を撫でる。 「んぅ……、んぁ……?」 「ん、起きたか?」 「にとり……?」 チルノは目をぐしぐしと擦り、起き上がろうとする。チルノが起き上がり、最初に見たのは涙目で自分を見つめるにとりの姿であった。 チルノは首をかしげてにとりを見る。 「にとり泣いてる……、どうしたの?」 「……いや、なんでもないぞっ!」 にとりは慌てて涙を腕で拭い、笑ってみせる。 「そっか。にとり、おはよう♪」 「あぁ、おはよう……」 今度は満面の笑みで笑って、にとりはチルノに抱きつく。 「おかえりっ……」 「ぇ……、ただいま……?」 チルノは訳がわからないといった様子で首をかしげるが、にとりはかまわずぎゅっと抱きしめる。 「にとり、くるしぃ……」 それからというものの、にとりはしばらくチルノを抱いて離さなかったらしい。 エピローグ 『紅魔館』 チルノをにとりが救出してからというものの、紅魔館では夜な夜な叫び奇妙な叫び声が聞こえるらしい。 「魔理沙!どうしてくれるのよ!」 「そんなの私が知るわけないだろ?」 アリスと魔理沙が言い合う。 咲夜はそんなの聞こえないと言った様子で言う。 「チルノさんを連れて行ってくれちゃったおかげで私はイライラしてるんです!しっかり働いてもらいます。レミリアお嬢様ならすぐに飽きたりはしないので安心してください」 「ま、待ってくれ。チルノを連れて行ったのは私ら関係ないんだ!私はパチュリーに本を借りに来ただけなんだって!」 「そ、そう。私も魔理沙についてきただけで何も知らなかったのっ」 「そんな言い訳通用すると思っているんですか?仮に本当だったとしても、そんなの関係ありません。来るタイミングが悪かったと自分を呪うんですね」 「そんなぁ……」 その後、魔法の森から二人の魔法使いが行方不明になったという噂が幻想郷じゅうに広まった。 だが、誰一人としてその行方を知るものはいなかったという。 また、博麗神社の巫女も突然行方不明になったらしい。 魔法使いの行方不明と関係があるかどうか、天狗の写命丸文が捜査中だという。 幻想郷にもまだまだ謎は多いようだ。 - 霊夢がチルノに借りがあるってどういうことだろう -- 名無しさん (2009-08-30 22:28:54) - エネミーコントローラーですね わかります -- 名無しさん (2009-08-30 22:43:16) - 受信機はたくさんあったってことか -- 名無しさん (2009-10-29 18:14:42) - アリス可愛い -- 名無しさん (2010-04-01 12:03:14) - すいかの様子がおかしかったのはどうなったwあと美鈴が呟いた言葉の意味は…? -- 名無しさん (2011-04-03 01:41:27) - 美鈴が喋る言葉に意味などあんまりない! -- 名無しさん (2011-05-15 20:07:57) - 美鈴「私があえて寝ているふりをしていたということを喜ぶがいい」 何か吹いたww -- 名無しさん (2014-02-20 23:55:41) - 萃香は? -- 名無しさん (2018-02-17 22:06:07) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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