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シャニムニガムシャラヤケッパチ(後編):27スレ798」(2013/06/05 (水) 17:59:30) の最新版変更点

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-[[シャニムニガムシャラヤケッパチ(前編):27スレ798]]から続き お嬢様殺害計画、5日目。 「嫌になるわね、最近天気が良くて」 今日も外は穏やかな日差し。 テラスからお嬢様は怨めしそうに中庭を眺める。 「まあ、こんな時もありますよ」 そう言いながら私はカップに紅茶を注ぐ。 そして懐から小さな紙の包みを取り出し、その中の白い粉末を紅茶に入れる。 最後にスプーンで良くかき混ぜてお嬢様にお出しした。 「今日はジンジャーティーに挑戦してみたのですが、どうでしょうか?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・お嬢様?」 だが、お嬢様は私の淹れた紅茶を飲もうとはしない。 それどころか、カップに触れようとさえしなかった。 「・・・あの、やはりいつもの方が良かったのでしょうか?」 「咲夜、ちょっとこのお茶飲んでみてよ」 「ええ!? 嫌ですよ! 死んでしまうじゃないですか?」 「・・・やっぱり」 「いくら命を狙っているとは言え、主に毒入りの紅茶を出すなんて、どういう了見なのよ?」 「いえ、そこは大丈夫です。私の予想では、この毒ではお嬢様は死にません」 「・・・そういう問題なのかしら?」 「とりあえず、飲んでみて下さい。絶対に死にませんから」 「・・・もし、飲みたくないって言ったら?」 「お夕飯に入れます。今度はこっそりと」 「・・・・・・お茶やご飯を人質に取るなんて、ずるいわよ」 お嬢様はカップを手に取り、暫くそれを眺めていた。 それから覚悟したような顔になって、一気に紅茶を飲み干した。 「おぐぉぉぉぉぉ! げはっ! げはっ! ごはぁっ!!!」 その途端、苦しんでもだえ出した。 「お嬢様、大丈夫ですか!?」 「ごほっ! だ、大丈夫よ・・・命には・・・がはっ! 別状ない」 「はぁ、やっぱり・・・」 「と、とにかく・・・飲んだんだから新しいお茶を頂戴。毒の入ってないのを」 「はい。かしこまりました」 私はお嬢様の口元を拭いて、もう一杯の紅茶を出した。 今度は毒を入れずに。 「それにしても・・・さっきのは何の毒なのよ?」 「はい。永遠亭に頼んだ吸血鬼用の毒で、1秒で心臓を止めてしまうそうです」 「心臓・・・」 「でも私は、お嬢様には効かないって分かってましたから」 「へぇ、あなたもボーとしている訳じゃないってことね・・・あら? 美味しい」 「気に入ってくれましたか?」 「ええ、体が温まるわ。まだまだ寒いしね」 良かった。初めて淹れた紅茶だけど、お嬢様は気に入ってくれたらしい。 好き嫌いの分かれそうな味だったから少し心配していた。 「・・・そう言えば、お嬢様は私を殺さないのですか?」 「いきなり何を言い出すのよ?」 「いえ、私が一方的に殺そうとしているのって、どうも不公平な気がしまして」 「今頃気が付いたか・・・  まあ、でも私にはお前を殺す理由がないしね。  遠慮なく一方的に仕掛けてきていいよ」 「・・・少し納得がいきません」 「強情ね。それとも私に殺されたいの?」 「まさか。ちゃんと殺し合いをした上で、お嬢様を殺したいだけです」 「それじゃ、こうしましょう。勝負を2ラウンド制にするのよ」 「2ラウンド制・・・ですか?」 「ええ。1ラウンド目は、あなたが私の弱点を見つけられるかどうかの勝負」 「弱点というのは・・・日光や流水ではなくて、もっと致命的なもののことですね?」 「そうよ。そんなものを見つけられたら、いくら咲夜でも生かしてはおけない。嫌でも殺し合いになる」 「つまり、お嬢様と勝負する土俵に立つ為の勝負ですね」 「そして2ラウンド目は勿論、殺し合い。死んだ方が負け。分かりやすいでしょ?」 「2連勝して初めて私の勝ちになる訳ですか」 「うん、凄く厳しいわよ?」 「分かりました。絶対に2連勝しますよ」 「どうかしらね? ちょっとは尻尾を掴んでいるみたいだけど、もう5日目よ?  2連勝どころか、1ラウンド目もクリア出来るかどうか・・・」 「お嬢様の期待は裏切りませんよ?」 するとお嬢様はスコーンを手にとってこう言った。 「あら? 悪いけど、私は全然期待してないわよ?  どうせあなたは負けて、死ぬまで私の忠実な犬」 そしてそれを一かじりした。 「まあ、そうなったら一生しあわ・・・ごぼぉっ!!!  ごはぁっ!! げほぁっ!! ぐはっ!!  咲 がっはぁ! 夜! ぐへぁっ! あなた! おぐぇっ! これにも・・・!」 「うーん、やっぱりこっちでも駄目か・・・」 -------------------------------------------------- お嬢様殺害計画、6日目。 「ちょっと、あんた何やってるのよ?」 仕事の合間に倉庫を引っくり返しているところをお嬢様に見つかった。 「いえ、あれを探しているのですが」 「あれがこんなところにある訳ないでしょ? 全く、こんなに散らかして・・・」 「これが終わったらちゃんと片付けておきますよ」 「それにしても、もう明日で終わりなのにガラクタ漁りしてるようじゃ駄目ね」 「ですが、代わりに凄いものを発見しましたよ?」 私は木箱に入ったそれを、お嬢様にお見せした。 「・・・? 何よ、これ? 漢方薬の材料?」 「いえ、これはお嬢様のへその・・・」 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「きゃあっっ!!」 突然、お嬢様が飛び掛ってきた。 私はすかさず時を止めてそれを避ける。 「い、いきなり何をするんですか?」 「何も糞もないわよ! 全く、そんなもの掘り出してきて・・・油断も隙もない」 「え? 見つけたらいけなかったのですか?」 「いいから、早くしまってよ。恥ずかしい」 「そうですか? でも記念の品ですよ? お嬢様と、お嬢様のお母様が・・・」 「だから、早くしまってってば!」 お嬢様は顔を真っ赤にして怒っている。 ここらへんの感覚は人間と吸血鬼で違うのかもしれないが、私には良く分からない。 「ですが、恐らく貴重なものですよ? 何せ500年ものですから」 「じゃあ聞くけど・・・それをどうするつもりなのよ?」 「折角なので、妹様やパチュリー様にも見せようかと・・・」 「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「きゃぁぁぁぁっっ!!!」 お嬢様は再び私に飛び掛ってきた。 そして私も再び時間を止めてそれを避けた。 ガツンッ! 「ぎゃあぁぁ!!」 しかし今度は、お嬢様は勢い余って棚にぶつかってしまった。 「あの・・・大丈夫ですか? お嬢様」 「・・・何故避ける?」 「すみません、いきなりでしたから・・・あっ! お嬢様、危ない!」 グラ・・・・・・ 「へ・・・?」 今の衝撃のせいか、山高く積まれた荷物がお嬢様に向け、落ちていった。 「お、お嬢様!」 あまりに一瞬の出来事だったので、思考が働かない。 軽率にも私は飛び出し、お嬢様を庇って覆いかぶさる形になった。 でもよく考えてみれば、その行動は明らかに間違いだ。 「逆でしょ!?」 「うわっ!」 まるで柔道で寝技をかけた選手が反撃される様。 私達はくるりと一回転して、今度はお嬢様が上になった。 ガラガラガラガラガラガラ・・・  ・・・・・・・・・ 「い、痛ぁ・・・」 「・・・お嬢様・・・?」 荷物が崩れた後、目の前にはお嬢様の顔があった。 そしてその顔越しに、背中が見えた。 翼が3つに増えていた。  ・・・と思ったが、違う。 斧がお嬢様の背中に突き刺さっていた。 これが私だったら、多分死んでいる。 「大丈・・」 「咲夜、怪我はない?」 「は、はい」 この時、先を越された私はきっと従者失格なんだろう。 「そう。それじゃ、ここに座りなさい」 これは間違いない、今からお説教タイムだ。 「本当、余計なことして・・・どうして私があなたに守られなきゃいけないのよ?」 「は、はい。確かにこんなことでお嬢様が死ぬ訳が・・・」 「それだけじゃない。あんなの避けられたわよ。お前が何もしなけりゃ」 「す、すみません。突然のことだったので、つい思わず」 「お陰でしなくていい怪我しちゃったじゃないの」 「はい・・・」 「全く、あなたって変なところで抜けてるから、いつまでも経っても見ていてちょっと心配なのよ」 「申し訳ございません・・・」 「・・・・・・・・・」 「大体さ、私を殺したらもう私はいないよ? 本当に大丈夫なの?」 「う・・・」 一番痛いところを突かれてしまった。 仮にお嬢様を殺せたとして、その後どうなるかなんて分からない。 「・・・ちょっと、自信ないですね」 「ほらね、やっぱり」 「でも私の人生を犠牲にする価値はあると思います。お嬢様に挑戦するのですから」 「挑戦ねぇ・・・私には出来ない。  私にはそこまで手強い挑戦相手がいないから。  ・・・うらやましい」 「まあ、もういいわ。それより、ちゃんと片付けておきなさいよ」 余程怒らせてしまったのか、夜までお嬢様は不機嫌だった。 -------------------------------------------------- その日の夕方、妹様の地下室にて。 「これがお姉様のへその緒?」 「そうですよ。お嬢様がまだ生まれる前、お嬢様とお嬢様のお母様を繋いでいたものです」 「何か、変なの」 「でもこれがあったからお嬢様は生まれることが出来たんですよ?」 「ふーん」 妹様はそれをまじまじと見つめている。それほど珍しいのだろう。 「ねえ、私のは?」 「妹様のですか?」 「うん、だってお姉様ばかりずるいじゃない」 「そうですね・・・妹様のもどこかにあると思います。後で探しておきますね」 「ありがとう! 咲夜!」 私は妹様に抱きつかれた。 「妹様ったら、そんなに喜んで。 ・・・・・・・・・?」 「どうしたの?」 「い、いえ。何でもありませんよ。それでは、私は仕事があるのでこれで・・・」 そうか! 何故気が付かなかったんだろう? あれの他に大事なものと言えば・・・ その後、パチュリー様にお嬢様のへその緒を見せたところ、貸して欲しいと頼まれた。 私のものではないし、まだ美鈴にも見せてないので断ったが、どうしてもと言われてしまい押し切られた。 無事に返ってくるといいが・・・ -------------------------------------------------- お嬢様殺害計画、最終日。 最後の日。とうとう、勝負の日。 「それにしても遂に今日で終わりね」 「ええ、そうですね」 「この1週間、ろくなことがなかったわよ。体中火傷したり、お茶に毒盛られたり」 「本当に、ご迷惑をお掛けしました」 「いい? こんなことはこれが最初で最後にしてよね。いくら私でも寿命が縮むわ」 「と言うより、私がお嬢様にお仕えするは今日が最後になりそうです」 「・・・・・・・・・咲夜?」 その言葉を聞いたお嬢様は、とても驚いた表情をした。 私が本当にあれを見つけるとは思っていなかったのだろう。 「どこまで分かってる?」 「後は右か左か、というところまでです。それも見れば分かるかと・・・」 「そこまでバレちゃ、しょうがないわね」 そう言ってむぅと頬を膨らます。 「勝負の時間ですが、夜の10時はどうでしょう?」 「今すぐじゃないの? 私はてっきり・・・」 「吸血鬼との勝負に、朝では少々風情がありません」 「それもそうね。それまで待ちましょう」 「晴れるといいですね」 「心配は無用よ。最近は天気がいいから」 決闘は今夜。 -------------------------------------------------- この日の私とお嬢様は、いつも通りの主と従者だった。 お嬢様はいつも通りの素敵なお嬢様だったし、私もいつも通りの瀟洒なメイド、だったと思う。 私が紅茶を淹れて、お嬢様がそれを飲んで美味しいと言う。 私がご飯を作って、お嬢様がそれを食べて美味しいと言う。 何もかもが、日常。 いつもと少し違うのは、パチュリー様は謎の研究の為に姿を見せなかったことくらい。 相変わらず、今日も平和で幸せな紅魔館。 そうやって楽しそうにしているお嬢様を見ていると、なんだか少し申し訳ない気持ちになってきた。 私の幸せは別にいいけど、お嬢様の幸せが私の我侭のせいで崩れてしまうことが。 あまりに今更なんだけども。 -------------------------------------------------- 夜の9時頃、お嬢様がお茶が飲みたいと言い出して、私はそれに従った。 「これが、私がお出しする最後の紅茶になります」 「悪いわね。こんな時間に無理言っちゃって」 それを一口飲んで、美味しいと言ってくれた。 「それにしても・・・やっと鳴いてくれたね。  鳴かない鳥だと思っていたのに、いつの間にか私を殺す爪を持っていたなんて」 「全てお嬢様のお陰です。ずっとお嬢様を見ていたから・・・」 「なんか、嬉しいよ。1ラウンド目は負けちゃったし、こんなことは望んでいなかったのに。  本当に、鳴くまで待って良かった。殺さないで良かった」 お嬢様が右手を私に差し出す。 私はその手の甲にキスをする。 「愛してますわ、お嬢様」 「・・・私もよ」 「それでは1時間後、例の場所で」 「ええ、存分に殺しあいましょう」 お嬢様に一礼して寝室を出た。 -------------------------------------------------- 「咲夜、待たせたわね」 夜の10時、決闘。 「お嬢様、そのお姿は・・・」 「どうかしら? 暫くぶりに着てみたんだけど」 妹様の地下室に現れたお嬢様は、黒いマント姿だった。 「とても似合ってますよ。格好いいです」 「ありがとう。本当は羽が邪魔なんだけど、やっぱり吸血鬼と言ったらこれよね」 「フランったら、よく寝てるわね」 「これも永遠亭から貰ったお薬の力です」 目の前で、妹様が可愛らしい寝息を立てている。 私は寝巻きのボタンを一つ一つ外していく。 雪のように真っ白な肌が露になった。 「昨日、心音で気が付いたのです。妹様の心臓は・・・2つある」 妹様の薄い胸にナイフを突き立て、下へ切り裂く。 思ったとおり、心臓が2つ寄り添うように、左右に並んでいた。 左はゆっくりと、右はせわしなく脈打っている。 「右・・・ですよね? こちらの方が鼓動が早いですから」 「そうよ。いい? 絶対に間違えないでよ。大事な妹なんだから」 「間違えませんよ。大事な妹様なのですから」 こんなことをされてるとは知らない本人は、相変わらず幸せそうに眠っている。 「それが私の心臓。そのナイフを突き刺したなら、私は死ぬ」 「その前に殺されたら、私の負けですね」 「あなたに私を殺せるかし・・・」 「お姉様の馬鹿ぁ・・・ムニャムニャ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「お嬢様、夢の中でまで妹様を虐めて・・・」 「知らないわよ! どうせフランが悪いのよ」 私達は少しだけ笑った。 そして仕切りなおし。 「さあ、もう後戻りは出来ないわよ!? 吸血鬼対人間、どっちに賭ける?」 「当然、鉄板の人間に私の全てを」 ナイフを高く掲げ、妹様の右の心臓に狙いを付ける。 「ちなみに、オッズは1:100!」 お嬢様が襲い掛かってきた。 「やった! 私、大金持ちですね!」 私はナイフを振り下ろした。 -------------------------------------------------- 「・・・や・・・さん・・・やさん・・・」 「う・・・ん?」 「咲夜さん! 気が付いたんですね?」 「へ・・・美鈴?」 私が目を覚ましたのは、医療用ベッドの上だった。 「良かった。咲夜さん、妹様の部屋で倒れてたんですよ。  3日も目を覚まさないから、どうしようかと思いました」 「・・・・・・・・・私が、倒れてたって・・・?」 この状況で、尚且つ私が生きている。 つまりこれは負け・・・ですらないのだろう。 お嬢様が手加減したんだ。 私に殺されないように、それと同時に私を殺してしまわないように。 言うまでもなく、そんなもの・・・勝負なんかじゃない。 流石はお嬢様だ。私を屈服させる、最も効果的な方法を実行した。完敗だ。 それにしても・・・殺し合いだって、あれだけ言ってくれたのに。 「咲夜さん、どうしたのですか?」 「え・・・う、うん、何でもないわ」 そんな私の気持ちなど露知らず、美鈴の話は続く。 「誰かが地下室に侵入していた様です。  それが誰かは妹様も知らないと言ってました」 「そう・・・」 妹様が何も分からない筈がない。 恐らくはお嬢様が口止めしたのだろう。あの一件のことを。 「咲夜さんの他にはお嬢様と妹様がいた様ですが・・・  妹様は無事です。でも・・・  あの、落ち着いて聞いてくださいね」 「何・・・???」 「お嬢様が・・・殺されました」 「え・・・? 本当?」 「本当です。もう、お嬢様はいないんです・・・」  ・・・・・・やった! やった! やった! 私は、勝っていたんだ。 多分、これが真相なのではないか。 きっとお嬢様よりも、私のナイフの方が早かったんだ。 でも、死んだからってあの勢いがすぐに止まる訳がない。 そのままぶつかって、私は吹き飛ばされて気を失った。 勿論、細かいところが違うかも知れない。 だけど、お嬢様は死んで、私は生きている。 これが勝利じゃなくて何だ!? 殺し合いの末、私はお嬢様に勝ったんだ。 お嬢様に! 強くて可愛らしくて格好良かったお嬢様に! ずっと私の憧れだったお嬢様に! 「う・・・ひっぐ・・・ぐぅ・・・」  ・・・・・・・・・勝利に浮かれる私の目の前で、美鈴が泣いていた。 「美鈴・・・どうしたの?」 「ぐすっ、だって、お嬢様が・・・お嬢様が死んじゃったんですよ? えっぐ」 「・・・・・・・・・」 そうだ。美鈴は、お嬢様を失ったのが悲しくて泣いているんだ。 私のせいだ。 美鈴は、あの勝負には無関係だったのに。 なのにお嬢様を奪われた。 分かるよ。私だって、お嬢様が私以外の奴に殺されてたら、とても悲しいもの。 「ごめんなさい・・・美鈴」 「いいえ、咲夜さんに非はありません」 違う。美鈴は何も知らない。 本当の事を知ったら、どれだけ私を軽蔑するだろう? 私はお嬢様のものだったけど、お嬢様はみんなのものだった。 たかが人間の分際で、お嬢様を独り占めにするつもりだったのか、と。 なんて身勝手な、どこまで強欲な奴なのだろう、と。 「ううん、やっぱり私が悪い・・・ごめんなさい。実は・・・」 「咲夜さん・・・ひっく、そんなに自分を責めないで下さい。くうぅ・・・  それより、目が覚めたら私の部屋に来いって、妹様が・・・」 「妹様が・・・?」 -------------------------------------------------- 3日ぶりに動かす体は鉛の様に重い。それを引き摺るようにして妹様の地下室へと向かう。 それにしても、妹様が私に何の用だろう? 当然、当主が死んだのだからこれからの館の運営について話し合うのだろうが・・・ 私は少し期待している。 お嬢様を殺せたことを、褒めて貰えると。 「妹様、御用ですか?」 「ああ。お疲れ、咲夜」 私が知るよりも、少し威厳に満ちた妹様がそこにいた。 「もう聞いたとは思うけど・・・」 「はい。私がお嬢様を殺したのですね」 「そうよ。こっちに来て」 そう言われた私は、妹様の目の前に跪く。 「凄いよね。本当に咲夜は頑張ったよ」 「はい。ありがとうございます」 期待通り、私の頭を撫でてくれた。 妹様に褒めて貰えるなんて、とても嬉しい。 「私がここの当主になるって決まったんだけど・・・異論はない?」 「はい。妹様ならきっとお嬢様に負けないくらい立派な主君になれますわ」 「それで咲夜は、これからもここで働いてくれるの?」 「当然ですよ。一生妹様に付いて行きます。お嬢様に出来なかった分まで・・・」 「うん、ありがとう。これからは私があなたのお嬢様だからね」 「分かりましたわ、お嬢様」 「でも・・・私のことは、殺したくないの?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・止めておきます。勿論、お嬢様のことは愛してますが・・・」 「私は、あなたの憧れじゃない。お姉様とは違うのね?」 「それもありますし・・・レミリア様の命だけでも私には大きすぎるほどです。  これ以上、身の丈に合わないものを望む訳にはいきません」 「・・・そう。ずるいよね、お姉様ばかり」 「申し訳ございません。お嬢様」 「いいわよ。どうせ、私にはもう咲夜は殺せない」 「?? どういうこと・・・ひぎぃぃ!?」 いつの間にか、妹様の拳が私の腹を貫いていた。 それが引き抜かれると大量の血と共に、私の内臓が外に飛び出す。 私の意識は次第に深い闇に包まれて・・・・・・  ・・・・・・いかない。 痛みこそあるものの、どういう訳か私は死なない。 それどころか、飛び出した内臓さえも元に納まっていく。 暫くすると傷は完治してしまった。 私の体に一体、何が? 「これは・・・どういうことなのですか?」 「分からない? この勝負は多分、あなたの負けよ」 -------------------------------------------------- あの時・・・ 「頑張ったね・・・お前は良くやったよ、咲夜。ここまでやってくれるなんて、思いもしなかった」 レミリアは死に行く咲夜を抱きかかえていた。 その右手は、咲夜の脇腹に突き刺さっている。 「ちょっと、お姉様。これってどういうことよ? 聞いてないわよ」 「あ、ああ。ごめんね、フラン。その・・・お前の中に隠しておけば絶対に安全だと思ったから」 「・・・妹の体を金庫かなんかだと思っていたのね?」 「本当に、ごめん・・・」 「それに、今回の勝負だって、そう。二人きりで馬鹿なことやって・・・」 「うん、お前には迷惑掛けたと思う。  だけど・・・こいつが私のこと、ここまで求めてくれるのが嬉しくて。  どれだけやれるのかを見たくて、つい・・・」 「全く、お姉様って、過保護だよね」 「そうかしら?」 「そうだよ。その過保護のせいでずっと閉じ込められてきた私が言うのよ?」 「・・・だって、しょうがないじゃない。  人間なんて弱くて儚い存在の筈なのに、こんなに必死になってさ・・・  それを見守ってやりたかった」 咲夜の頬をそっと撫でる。 するとその指が灰になってボロリと崩れた。 「これからどうするのよ? どうせ私が当主になるんだろうけど。  でもお姉様も咲夜もいなくなって、いきなり任されても困るわよ?」 フランが己の体に刺されたナイフを引き抜いた。 レミリアの心臓を貫いていた、それを。 「こいつを頼ってやってよ。  ちょっと危なっかしいけど・・・お前のこと、私と同じくらいに愛してくれるから」 レミリアは咲夜を全身でぎゅっと抱きしめた。 僅かに残った呼吸に乗って、灰になった体が咲夜の中に吸い込まれていく。 「私はもう、駄目だけど、こうすればこいつは助かるから」 「本当、お姉様って過保護なんだから・・・」 -------------------------------------------------- 「お嬢様、もう時間ですよ。早く行きましょう」 「うん。でも、この服ちょっと変じゃない?」 「そうですか?」 「私には黒って似合わないよ。地味すぎるし」 「これはそういうものではありませんよ。儀式の為の服装だから」 「でも・・・」 「さあ、それより早く行きましょう。レミリア様も、待ちくたびれてますよ」 私も、私の新しいお嬢様も、パチュリー様も美鈴も、他の皆も黒尽くめだった。 館の中庭に、真新しいお墓が立っていて、そこにレミリア=スカーレットと書かれていた。 私達は灰の入った袋をそこに埋め、お祈りをする。 美鈴が泣き出して、私はそれを叱ったんだけど、暫くして私も泣いてしまったのが恥ずかしい。 そんな従者達を尻目に妹様、ではなく、新しいお嬢様は黙々と式を進める。 私は今度こそ、このお嬢様に一生を捧げるのだろう。 犬が噛むのは一回きり、あれが私の最後の我侭だ。 別に悪魔の犬として生きることに不満はないし、それこそが私の幸せなんだと思う。 だけど、もう死んでしまったお嬢様の墓を見ていると、こんなことを考えてしまう。 結局、勝ちたいだとか挑戦だとか言っていたけど、何時だって私はお嬢様に守られていた。 背伸びをしていても、ずっとお嬢様の胸の中だった。 今回だってそうだ。 お嬢様を越えるつもりが、最後までその優しさに甘えていただけ。 いや、灰を吸い込み不死身になった私は、これからもお嬢様に守られていくのだろう。 私はそれがとても嬉しくて、不甲斐なくて。 - イイハナシダナー &br()感動した -- 名無しさん (2009-09-12 02:46:48) - どうでもいいけどタイトルで吹いたw -- 名無しさん (2009-09-12 13:01:28) - お嬢様はほんとに過保護だなぁw -- 名無しさん (2009-09-12 15:08:10) - 結局パチェの謎の研究って何だったんだぜ? -- 名無しさん (2009-09-12 15:34:30) - パチュリーの伏線を回収してほしかったなw -- 名無しさん (2009-09-12 16:58:33) - 信用しているだろう従者に自分を殺したいと言われてまったく動揺しないのはすごい &br()久々にかっこいいレミリアを見た気がする。 -- 名無しさん (2009-09-12 23:33:21) - パチェの伏線でお嬢様復活だと思ってたんだが… &br()ここをいじめネタスレッドだと忘れてたよ。 -- 名無しさん (2009-09-14 00:59:32) - カリスマレミィ -- 名無しさん (2009-09-14 18:22:05) - いじ・・・・・・め? &br()いや、面白かったけどさw -- 名無しさん (2010-03-09 02:50:41) - なんて母性的なお嬢様(´;ω;`)ブワッ -- 名無しさん (2010-03-09 08:49:23) - 咲夜さん、イキナリ殺すは怖いよ。でもそれを受け入れるレミリアつえーーーー! そして結局へそのおはどうなったのか?凄く気になるねー。 -- 壊れかけてる生き物 (2010-03-09 21:20:10) - いい話なんだけどレミリアの不死の理由がなんか小細工っぽくて &br()ちょっとカリスマダウンだなあと感じた。それがレミリアらしさなんだけど。 -- 名無しさん (2011-09-23 15:59:48) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
-[[シャニムニガムシャラヤケッパチ(前編):27スレ798]]から続き お嬢様殺害計画、5日目。 「嫌になるわね、最近天気が良くて」 今日も外は穏やかな日差し。 テラスからお嬢様は怨めしそうに中庭を眺める。 「まあ、こんな時もありますよ」 そう言いながら私はカップに紅茶を注ぐ。 そして懐から小さな紙の包みを取り出し、その中の白い粉末を紅茶に入れる。 最後にスプーンで良くかき混ぜてお嬢様にお出しした。 「今日はジンジャーティーに挑戦してみたのですが、どうでしょうか?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・お嬢様?」 だが、お嬢様は私の淹れた紅茶を飲もうとはしない。 それどころか、カップに触れようとさえしなかった。 「・・・あの、やはりいつもの方が良かったのでしょうか?」 「咲夜、ちょっとこのお茶飲んでみてよ」 「ええ!? 嫌ですよ! 死んでしまうじゃないですか?」 「・・・やっぱり」 「いくら命を狙っているとは言え、主に毒入りの紅茶を出すなんて、どういう了見なのよ?」 「いえ、そこは大丈夫です。私の予想では、この毒ではお嬢様は死にません」 「・・・そういう問題なのかしら?」 「とりあえず、飲んでみて下さい。絶対に死にませんから」 「・・・もし、飲みたくないって言ったら?」 「お夕飯に入れます。今度はこっそりと」 「・・・・・・お茶やご飯を人質に取るなんて、ずるいわよ」 お嬢様はカップを手に取り、暫くそれを眺めていた。 それから覚悟したような顔になって、一気に紅茶を飲み干した。 「おぐぉぉぉぉぉ! げはっ! げはっ! ごはぁっ!!!」 その途端、苦しんでもだえ出した。 「お嬢様、大丈夫ですか!?」 「ごほっ! だ、大丈夫よ・・・命には・・・がはっ! 別状ない」 「はぁ、やっぱり・・・」 「と、とにかく・・・飲んだんだから新しいお茶を頂戴。毒の入ってないのを」 「はい。かしこまりました」 私はお嬢様の口元を拭いて、もう一杯の紅茶を出した。 今度は毒を入れずに。 「それにしても・・・さっきのは何の毒なのよ?」 「はい。永遠亭に頼んだ吸血鬼用の毒で、1秒で心臓を止めてしまうそうです」 「心臓・・・」 「でも私は、お嬢様には効かないって分かってましたから」 「へぇ、あなたもボーとしている訳じゃないってことね・・・あら? 美味しい」 「気に入ってくれましたか?」 「ええ、体が温まるわ。まだまだ寒いしね」 良かった。初めて淹れた紅茶だけど、お嬢様は気に入ってくれたらしい。 好き嫌いの分かれそうな味だったから少し心配していた。 「・・・そう言えば、お嬢様は私を殺さないのですか?」 「いきなり何を言い出すのよ?」 「いえ、私が一方的に殺そうとしているのって、どうも不公平な気がしまして」 「今頃気が付いたか・・・  まあ、でも私にはお前を殺す理由がないしね。  遠慮なく一方的に仕掛けてきていいよ」 「・・・少し納得がいきません」 「強情ね。それとも私に殺されたいの?」 「まさか。ちゃんと殺し合いをした上で、お嬢様を殺したいだけです」 「それじゃ、こうしましょう。勝負を2ラウンド制にするのよ」 「2ラウンド制・・・ですか?」 「ええ。1ラウンド目は、あなたが私の弱点を見つけられるかどうかの勝負」 「弱点というのは・・・日光や流水ではなくて、もっと致命的なもののことですね?」 「そうよ。そんなものを見つけられたら、いくら咲夜でも生かしてはおけない。嫌でも殺し合いになる」 「つまり、お嬢様と勝負する土俵に立つ為の勝負ですね」 「そして2ラウンド目は勿論、殺し合い。死んだ方が負け。分かりやすいでしょ?」 「2連勝して初めて私の勝ちになる訳ですか」 「うん、凄く厳しいわよ?」 「分かりました。絶対に2連勝しますよ」 「どうかしらね? ちょっとは尻尾を掴んでいるみたいだけど、もう5日目よ?  2連勝どころか、1ラウンド目もクリア出来るかどうか・・・」 「お嬢様の期待は裏切りませんよ?」 するとお嬢様はスコーンを手にとってこう言った。 「あら? 悪いけど、私は全然期待してないわよ?  どうせあなたは負けて、死ぬまで私の忠実な犬」 そしてそれを一かじりした。 「まあ、そうなったら一生しあわ・・・ごぼぉっ!!!  ごはぁっ!! げほぁっ!! ぐはっ!!  咲 がっはぁ! 夜! ぐへぁっ! あなた! おぐぇっ! これにも・・・!」 「うーん、やっぱりこっちでも駄目か・・・」 -------------------------------------------------- お嬢様殺害計画、6日目。 「ちょっと、あんた何やってるのよ?」 仕事の合間に倉庫を引っくり返しているところをお嬢様に見つかった。 「いえ、あれを探しているのですが」 「あれがこんなところにある訳ないでしょ? 全く、こんなに散らかして・・・」 「これが終わったらちゃんと片付けておきますよ」 「それにしても、もう明日で終わりなのにガラクタ漁りしてるようじゃ駄目ね」 「ですが、代わりに凄いものを発見しましたよ?」 私は木箱に入ったそれを、お嬢様にお見せした。 「・・・? 何よ、これ? 漢方薬の材料?」 「いえ、これはお嬢様のへその・・・」 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「きゃあっっ!!」 突然、お嬢様が飛び掛ってきた。 私はすかさず時を止めてそれを避ける。 「い、いきなり何をするんですか?」 「何も糞もないわよ! 全く、そんなもの掘り出してきて・・・油断も隙もない」 「え? 見つけたらいけなかったのですか?」 「いいから、早くしまってよ。恥ずかしい」 「そうですか? でも記念の品ですよ? お嬢様と、お嬢様のお母様が・・・」 「だから、早くしまってってば!」 お嬢様は顔を真っ赤にして怒っている。 ここらへんの感覚は人間と吸血鬼で違うのかもしれないが、私には良く分からない。 「ですが、恐らく貴重なものですよ? 何せ500年ものですから」 「じゃあ聞くけど・・・それをどうするつもりなのよ?」 「折角なので、妹様やパチュリー様にも見せようかと・・・」 「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「きゃぁぁぁぁっっ!!!」 お嬢様は再び私に飛び掛ってきた。 そして私も再び時間を止めてそれを避けた。 ガツンッ! 「ぎゃあぁぁ!!」 しかし今度は、お嬢様は勢い余って棚にぶつかってしまった。 「あの・・・大丈夫ですか? お嬢様」 「・・・何故避ける?」 「すみません、いきなりでしたから・・・あっ! お嬢様、危ない!」 グラ・・・・・・ 「へ・・・?」 今の衝撃のせいか、山高く積まれた荷物がお嬢様に向け、落ちていった。 「お、お嬢様!」 あまりに一瞬の出来事だったので、思考が働かない。 軽率にも私は飛び出し、お嬢様を庇って覆いかぶさる形になった。 でもよく考えてみれば、その行動は明らかに間違いだ。 「逆でしょ!?」 「うわっ!」 まるで柔道で寝技をかけた選手が反撃される様。 私達はくるりと一回転して、今度はお嬢様が上になった。 ガラガラガラガラガラガラ・・・  ・・・・・・・・・ 「い、痛ぁ・・・」 「・・・お嬢様・・・?」 荷物が崩れた後、目の前にはお嬢様の顔があった。 そしてその顔越しに、背中が見えた。 翼が3つに増えていた。  ・・・と思ったが、違う。 斧がお嬢様の背中に突き刺さっていた。 これが私だったら、多分死んでいる。 「大丈・・」 「咲夜、怪我はない?」 「は、はい」 この時、先を越された私はきっと従者失格なんだろう。 「そう。それじゃ、ここに座りなさい」 これは間違いない、今からお説教タイムだ。 「本当、余計なことして・・・どうして私があなたに守られなきゃいけないのよ?」 「は、はい。確かにこんなことでお嬢様が死ぬ訳が・・・」 「それだけじゃない。あんなの避けられたわよ。お前が何もしなけりゃ」 「す、すみません。突然のことだったので、つい思わず」 「お陰でしなくていい怪我しちゃったじゃないの」 「はい・・・」 「全く、あなたって変なところで抜けてるから、いつまでも経っても見ていてちょっと心配なのよ」 「申し訳ございません・・・」 「・・・・・・・・・」 「大体さ、私を殺したらもう私はいないよ? 本当に大丈夫なの?」 「う・・・」 一番痛いところを突かれてしまった。 仮にお嬢様を殺せたとして、その後どうなるかなんて分からない。 「・・・ちょっと、自信ないですね」 「ほらね、やっぱり」 「でも私の人生を犠牲にする価値はあると思います。お嬢様に挑戦するのですから」 「挑戦ねぇ・・・私には出来ない。  私にはそこまで手強い挑戦相手がいないから。  ・・・うらやましい」 「まあ、もういいわ。それより、ちゃんと片付けておきなさいよ」 余程怒らせてしまったのか、夜までお嬢様は不機嫌だった。 -------------------------------------------------- その日の夕方、妹様の地下室にて。 「これがお姉様のへその緒?」 「そうですよ。お嬢様がまだ生まれる前、お嬢様とお嬢様のお母様を繋いでいたものです」 「何か、変なの」 「でもこれがあったからお嬢様は生まれることが出来たんですよ?」 「ふーん」 妹様はそれをまじまじと見つめている。それほど珍しいのだろう。 「ねえ、私のは?」 「妹様のですか?」 「うん、だってお姉様ばかりずるいじゃない」 「そうですね・・・妹様のもどこかにあると思います。後で探しておきますね」 「ありがとう! 咲夜!」 私は妹様に抱きつかれた。 「妹様ったら、そんなに喜んで。 ・・・・・・・・・?」 「どうしたの?」 「い、いえ。何でもありませんよ。それでは、私は仕事があるのでこれで・・・」 そうか! 何故気が付かなかったんだろう? あれの他に大事なものと言えば・・・ その後、パチュリー様にお嬢様のへその緒を見せたところ、貸して欲しいと頼まれた。 私のものではないし、まだ美鈴にも見せてないので断ったが、どうしてもと言われてしまい押し切られた。 無事に返ってくるといいが・・・ -------------------------------------------------- お嬢様殺害計画、最終日。 最後の日。とうとう、勝負の日。 「それにしても遂に今日で終わりね」 「ええ、そうですね」 「この1週間、ろくなことがなかったわよ。体中火傷したり、お茶に毒盛られたり」 「本当に、ご迷惑をお掛けしました」 「いい? こんなことはこれが最初で最後にしてよね。いくら私でも寿命が縮むわ」 「と言うより、私がお嬢様にお仕えするは今日が最後になりそうです」 「・・・・・・・・・咲夜?」 その言葉を聞いたお嬢様は、とても驚いた表情をした。 私が本当にあれを見つけるとは思っていなかったのだろう。 「どこまで分かってる?」 「後は右か左か、というところまでです。それも見れば分かるかと・・・」 「そこまでバレちゃ、しょうがないわね」 そう言ってむぅと頬を膨らます。 「勝負の時間ですが、夜の10時はどうでしょう?」 「今すぐじゃないの? 私はてっきり・・・」 「吸血鬼との勝負に、朝では少々風情がありません」 「それもそうね。それまで待ちましょう」 「晴れるといいですね」 「心配は無用よ。最近は天気がいいから」 決闘は今夜。 -------------------------------------------------- この日の私とお嬢様は、いつも通りの主と従者だった。 お嬢様はいつも通りの素敵なお嬢様だったし、私もいつも通りの瀟洒なメイド、だったと思う。 私が紅茶を淹れて、お嬢様がそれを飲んで美味しいと言う。 私がご飯を作って、お嬢様がそれを食べて美味しいと言う。 何もかもが、日常。 いつもと少し違うのは、パチュリー様は謎の研究の為に姿を見せなかったことくらい。 相変わらず、今日も平和で幸せな紅魔館。 そうやって楽しそうにしているお嬢様を見ていると、なんだか少し申し訳ない気持ちになってきた。 私の幸せは別にいいけど、お嬢様の幸せが私の我侭のせいで崩れてしまうことが。 あまりに今更なんだけども。 -------------------------------------------------- 夜の9時頃、お嬢様がお茶が飲みたいと言い出して、私はそれに従った。 「これが、私がお出しする最後の紅茶になります」 「悪いわね。こんな時間に無理言っちゃって」 それを一口飲んで、美味しいと言ってくれた。 「それにしても・・・やっと鳴いてくれたね。  鳴かない鳥だと思っていたのに、いつの間にか私を殺す爪を持っていたなんて」 「全てお嬢様のお陰です。ずっとお嬢様を見ていたから・・・」 「なんか、嬉しいよ。1ラウンド目は負けちゃったし、こんなことは望んでいなかったのに。  本当に、鳴くまで待って良かった。殺さないで良かった」 お嬢様が右手を私に差し出す。 私はその手の甲にキスをする。 「愛してますわ、お嬢様」 「・・・私もよ」 「それでは1時間後、例の場所で」 「ええ、存分に殺しあいましょう」 お嬢様に一礼して寝室を出た。 -------------------------------------------------- 「咲夜、待たせたわね」 夜の10時、決闘。 「お嬢様、そのお姿は・・・」 「どうかしら? 暫くぶりに着てみたんだけど」 妹様の地下室に現れたお嬢様は、黒いマント姿だった。 「とても似合ってますよ。格好いいです」 「ありがとう。本当は羽が邪魔なんだけど、やっぱり吸血鬼と言ったらこれよね」 「フランったら、よく寝てるわね」 「これも永遠亭から貰ったお薬の力です」 目の前で、妹様が可愛らしい寝息を立てている。 私は寝巻きのボタンを一つ一つ外していく。 雪のように真っ白な肌が露になった。 「昨日、心音で気が付いたのです。妹様の心臓は・・・2つある」 妹様の薄い胸にナイフを突き立て、下へ切り裂く。 思ったとおり、心臓が2つ寄り添うように、左右に並んでいた。 左はゆっくりと、右はせわしなく脈打っている。 「右・・・ですよね? こちらの方が鼓動が早いですから」 「そうよ。いい? 絶対に間違えないでよ。大事な妹なんだから」 「間違えませんよ。大事な妹様なのですから」 こんなことをされてるとは知らない本人は、相変わらず幸せそうに眠っている。 「それが私の心臓。そのナイフを突き刺したなら、私は死ぬ」 「その前に殺されたら、私の負けですね」 「あなたに私を殺せるかし・・・」 「お姉様の馬鹿ぁ・・・ムニャムニャ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「お嬢様、夢の中でまで妹様を虐めて・・・」 「知らないわよ! どうせフランが悪いのよ」 私達は少しだけ笑った。 そして仕切りなおし。 「さあ、もう後戻りは出来ないわよ!? 吸血鬼対人間、どっちに賭ける?」 「当然、鉄板の人間に私の全てを」 ナイフを高く掲げ、妹様の右の心臓に狙いを付ける。 「ちなみに、オッズは1:100!」 お嬢様が襲い掛かってきた。 「やった! 私、大金持ちですね!」 私はナイフを振り下ろした。 -------------------------------------------------- 「・・・や・・・さん・・・やさん・・・」 「う・・・ん?」 「咲夜さん! 気が付いたんですね?」 「へ・・・美鈴?」 私が目を覚ましたのは、医療用ベッドの上だった。 「良かった。咲夜さん、妹様の部屋で倒れてたんですよ。  3日も目を覚まさないから、どうしようかと思いました」 「・・・・・・・・・私が、倒れてたって・・・?」 この状況で、尚且つ私が生きている。 つまりこれは負け・・・ですらないのだろう。 お嬢様が手加減したんだ。 私に殺されないように、それと同時に私を殺してしまわないように。 言うまでもなく、そんなもの・・・勝負なんかじゃない。 流石はお嬢様だ。私を屈服させる、最も効果的な方法を実行した。完敗だ。 それにしても・・・殺し合いだって、あれだけ言ってくれたのに。 「咲夜さん、どうしたのですか?」 「え・・・う、うん、何でもないわ」 そんな私の気持ちなど露知らず、美鈴の話は続く。 「誰かが地下室に侵入していた様です。  それが誰かは妹様も知らないと言ってました」 「そう・・・」 妹様が何も分からない筈がない。 恐らくはお嬢様が口止めしたのだろう。あの一件のことを。 「咲夜さんの他にはお嬢様と妹様がいた様ですが・・・  妹様は無事です。でも・・・  あの、落ち着いて聞いてくださいね」 「何・・・???」 「お嬢様が・・・殺されました」 「え・・・? 本当?」 「本当です。もう、お嬢様はいないんです・・・」  ・・・・・・やった! やった! やった! 私は、勝っていたんだ。 多分、これが真相なのではないか。 きっとお嬢様よりも、私のナイフの方が早かったんだ。 でも、死んだからってあの勢いがすぐに止まる訳がない。 そのままぶつかって、私は吹き飛ばされて気を失った。 勿論、細かいところが違うかも知れない。 だけど、お嬢様は死んで、私は生きている。 これが勝利じゃなくて何だ!? 殺し合いの末、私はお嬢様に勝ったんだ。 お嬢様に! 強くて可愛らしくて格好良かったお嬢様に! ずっと私の憧れだったお嬢様に! 「う・・・ひっぐ・・・ぐぅ・・・」  ・・・・・・・・・勝利に浮かれる私の目の前で、美鈴が泣いていた。 「美鈴・・・どうしたの?」 「ぐすっ、だって、お嬢様が・・・お嬢様が死んじゃったんですよ? えっぐ」 「・・・・・・・・・」 そうだ。美鈴は、お嬢様を失ったのが悲しくて泣いているんだ。 私のせいだ。 美鈴は、あの勝負には無関係だったのに。 なのにお嬢様を奪われた。 分かるよ。私だって、お嬢様が私以外の奴に殺されてたら、とても悲しいもの。 「ごめんなさい・・・美鈴」 「いいえ、咲夜さんに非はありません」 違う。美鈴は何も知らない。 本当の事を知ったら、どれだけ私を軽蔑するだろう? 私はお嬢様のものだったけど、お嬢様はみんなのものだった。 たかが人間の分際で、お嬢様を独り占めにするつもりだったのか、と。 なんて身勝手な、どこまで強欲な奴なのだろう、と。 「ううん、やっぱり私が悪い・・・ごめんなさい。実は・・・」 「咲夜さん・・・ひっく、そんなに自分を責めないで下さい。くうぅ・・・  それより、目が覚めたら私の部屋に来いって、妹様が・・・」 「妹様が・・・?」 -------------------------------------------------- 3日ぶりに動かす体は鉛の様に重い。それを引き摺るようにして妹様の地下室へと向かう。 それにしても、妹様が私に何の用だろう? 当然、当主が死んだのだからこれからの館の運営について話し合うのだろうが・・・ 私は少し期待している。 お嬢様を殺せたことを、褒めて貰えると。 「妹様、御用ですか?」 「ああ。お疲れ、咲夜」 私が知るよりも、少し威厳に満ちた妹様がそこにいた。 「もう聞いたとは思うけど・・・」 「はい。私がお嬢様を殺したのですね」 「そうよ。こっちに来て」 そう言われた私は、妹様の目の前に跪く。 「凄いよね。本当に咲夜は頑張ったよ」 「はい。ありがとうございます」 期待通り、私の頭を撫でてくれた。 妹様に褒めて貰えるなんて、とても嬉しい。 「私がここの当主になるって決まったんだけど・・・異論はない?」 「はい。妹様ならきっとお嬢様に負けないくらい立派な主君になれますわ」 「それで咲夜は、これからもここで働いてくれるの?」 「当然ですよ。一生妹様に付いて行きます。お嬢様に出来なかった分まで・・・」 「うん、ありがとう。これからは私があなたのお嬢様だからね」 「分かりましたわ、お嬢様」 「でも・・・私のことは、殺したくないの?」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・止めておきます。勿論、お嬢様のことは愛してますが・・・」 「私は、あなたの憧れじゃない。お姉様とは違うのね?」 「それもありますし・・・レミリア様の命だけでも私には大きすぎるほどです。  これ以上、身の丈に合わないものを望む訳にはいきません」 「・・・そう。ずるいよね、お姉様ばかり」 「申し訳ございません。お嬢様」 「いいわよ。どうせ、私にはもう咲夜は殺せない」 「?? どういうこと・・・ひぎぃぃ!?」 いつの間にか、妹様の拳が私の腹を貫いていた。 それが引き抜かれると大量の血と共に、私の内臓が外に飛び出す。 私の意識は次第に深い闇に包まれて・・・・・・  ・・・・・・いかない。 痛みこそあるものの、どういう訳か私は死なない。 それどころか、飛び出した内臓さえも元に納まっていく。 暫くすると傷は完治してしまった。 私の体に一体、何が? 「これは・・・どういうことなのですか?」 「分からない? この勝負は多分、あなたの負けよ」 -------------------------------------------------- あの時・・・ 「頑張ったね・・・お前は良くやったよ、咲夜。ここまでやってくれるなんて、思いもしなかった」 レミリアは死に行く咲夜を抱きかかえていた。 その右手は、咲夜の脇腹に突き刺さっている。 「ちょっと、お姉様。これってどういうことよ? 聞いてないわよ」 「あ、ああ。ごめんね、フラン。その・・・お前の中に隠しておけば絶対に安全だと思ったから」 「・・・妹の体を金庫かなんかだと思っていたのね?」 「本当に、ごめん・・・」 「それに、今回の勝負だって、そう。二人きりで馬鹿なことやって・・・」 「うん、お前には迷惑掛けたと思う。  だけど・・・こいつが私のこと、ここまで求めてくれるのが嬉しくて。  どれだけやれるのかを見たくて、つい・・・」 「全く、お姉様って、過保護だよね」 「そうかしら?」 「そうだよ。その過保護のせいでずっと閉じ込められてきた私が言うのよ?」 「・・・だって、しょうがないじゃない。  人間なんて弱くて儚い存在の筈なのに、こんなに必死になってさ・・・  それを見守ってやりたかった」 咲夜の頬をそっと撫でる。 するとその指が灰になってボロリと崩れた。 「これからどうするのよ? どうせ私が当主になるんだろうけど。  でもお姉様も咲夜もいなくなって、いきなり任されても困るわよ?」 フランが己の体に刺されたナイフを引き抜いた。 レミリアの心臓を貫いていた、それを。 「こいつを頼ってやってよ。  ちょっと危なっかしいけど・・・お前のこと、私と同じくらいに愛してくれるから」 レミリアは咲夜を全身でぎゅっと抱きしめた。 僅かに残った呼吸に乗って、灰になった体が咲夜の中に吸い込まれていく。 「私はもう、駄目だけど、こうすればこいつは助かるから」 「本当、お姉様って過保護なんだから・・・」 -------------------------------------------------- 「お嬢様、もう時間ですよ。早く行きましょう」 「うん。でも、この服ちょっと変じゃない?」 「そうですか?」 「私には黒って似合わないよ。地味すぎるし」 「これはそういうものではありませんよ。儀式の為の服装だから」 「でも・・・」 「さあ、それより早く行きましょう。レミリア様も、待ちくたびれてますよ」 私も、私の新しいお嬢様も、パチュリー様も美鈴も、他の皆も黒尽くめだった。 館の中庭に、真新しいお墓が立っていて、そこにレミリア=スカーレットと書かれていた。 私達は灰の入った袋をそこに埋め、お祈りをする。 美鈴が泣き出して、私はそれを叱ったんだけど、暫くして私も泣いてしまったのが恥ずかしい。 そんな従者達を尻目に妹様、ではなく、新しいお嬢様は黙々と式を進める。 私は今度こそ、このお嬢様に一生を捧げるのだろう。 犬が噛むのは一回きり、あれが私の最後の我侭だ。 別に悪魔の犬として生きることに不満はないし、それこそが私の幸せなんだと思う。 だけど、もう死んでしまったお嬢様の墓を見ていると、こんなことを考えてしまう。 結局、勝ちたいだとか挑戦だとか言っていたけど、何時だって私はお嬢様に守られていた。 背伸びをしていても、ずっとお嬢様の胸の中だった。 今回だってそうだ。 お嬢様を越えるつもりが、最後までその優しさに甘えていただけ。 いや、灰を吸い込み不死身になった私は、これからもお嬢様に守られていくのだろう。 私はそれがとても嬉しくて、不甲斐なくて。 - イイハナシダナー &br()感動した -- 名無しさん (2009-09-12 02:46:48) - どうでもいいけどタイトルで吹いたw -- 名無しさん (2009-09-12 13:01:28) - お嬢様はほんとに過保護だなぁw -- 名無しさん (2009-09-12 15:08:10) - 結局パチェの謎の研究って何だったんだぜ? -- 名無しさん (2009-09-12 15:34:30) - パチュリーの伏線を回収してほしかったなw -- 名無しさん (2009-09-12 16:58:33) - 信用しているだろう従者に自分を殺したいと言われてまったく動揺しないのはすごい &br()久々にかっこいいレミリアを見た気がする。 -- 名無しさん (2009-09-12 23:33:21) - パチェの伏線でお嬢様復活だと思ってたんだが… &br()ここをいじめネタスレッドだと忘れてたよ。 -- 名無しさん (2009-09-14 00:59:32) - カリスマレミィ -- 名無しさん (2009-09-14 18:22:05) - いじ・・・・・・め? &br()いや、面白かったけどさw -- 名無しさん (2010-03-09 02:50:41) - なんて母性的なお嬢様(´;ω;`)ブワッ -- 名無しさん (2010-03-09 08:49:23) - 咲夜さん、イキナリ殺すは怖いよ。でもそれを受け入れるレミリアつえーーーー! そして結局へそのおはどうなったのか?凄く気になるねー。 -- 壊れかけてる生き物 (2010-03-09 21:20:10) - いい話なんだけどレミリアの不死の理由がなんか小細工っぽくて &br()ちょっとカリスマダウンだなあと感じた。それがレミリアらしさなんだけど。 -- 名無しさん (2011-09-23 15:59:48) - 心臓が体内に無く別の場所にあったのが不死身のカラクリってのび太の魔界大冒険の大魔王デマオンみたいだな -- 名無しさん (2013-06-05 17:59:30) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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