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彼岸花(白薔薇の続き)_前編」(2011/12/18 (日) 07:52:14) の最新版変更点

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「事故だったのよ、これは」 「誰も悪くない。 誰も攻めることのできない、悲しい事故だったの」 「言い換えれば、それは運命だったの」 1、 「岸に着いたよ」 死神にそう声を掛けられ、 「そうか」 男は答えた。 「まあ、判決は受けなくても、結果は分かってるけどな」 「んー? 随分と自信有りじゃないか」 「・・・生物を殺すことを生業とする職業ってのは、地獄行きって  相場が決まってるんだよ」 ○○は言った。二人とも船を降りる。 「そんじゃあ養豚場のおっさんとかは皆地獄行きか?」 「揚げ足取るな、赤髪の死神よ」 「余所余所しいねぇ、その言い方」 「こまっちゃんとか言って欲しいのか?」 「それは引く」 「さて小町。 閻魔様はどこにいらっしゃるのかな?」 「こっちだよ」 長い廊下。 途中の窓から覗くと、彼岸花が咲き乱れている。 ここの彼岸花がどういう物かは、先頃死神より説明を受けた。 ━━━ ・・・綺麗だな。 彼岸花は 他の花から独立した、情熱さえ感じる美しさ。 まるで『彼女』のようだ。 ○○は見とれていた。 えーっと、彼岸花の花言葉は何だったっけな? ━━━ 思い出した。 結構前向きの花言葉もあるんだよな。 イメージと違って。 「どうしたの? 早く行かないとあたいが怒られるんだからね」 「お、ごめんごめん。 行くよ、行く行く」 立ち止まってしまっていた○○は、小町に促され、廊下を急いだ。 「全く、貴方という方は・・・」 ○○の前で、四季映姫は溜息をついた。 「よりによって、なんて物を残して死ぬのですか?」 「いや、そんな事言われても、俺もう死んでたし・・・」 薔薇の花束の事か。 流石閻魔、自分の生き様処か、死に様もご存知のようで。 「喰っちゃえばよかったじゃん、アンタ自身で」 「黙りなさい! 小町!」 「きゃん!」 口を挟んできた小町を、映姫が怒鳴りつけた。 ━━━ 喰う? なんでプレゼントするはずの花を食わなきゃいけないんだ? 「・・・まあ、貴方にはどうすることもできなかったでしょう。  仕方がありません」 「情けない限りです、はい。 ・・・『彼女』、ずっと待っていたかも。  悪い事しちゃいました」 この男、○○は、自分が死んでからの事を何も知らないらしい。 映姫は思った。 彼なら。 彼なら『彼女』を、いや幻想郷を救えるのではないだろうか? 「○○よ。聞きなさい。  これから貴方がすべきことを、私が教えます」 「・・・わかりました」 いよいよ地獄行きが言い渡されるのか。 ○○は、覚悟を決めた。 2、 永遠亭の、ある病室。 一人の女が、ベッドから半身を起こし、ぼーっと窓の外を眺めていた。 「・・・・・・」 コンコン。 「入るわよ?」 女は窓の外を見つめたままだ。 間もなくして、扉が開いた。 永遠亭の薬師、八意永琳。それとその助手、鈴仙・優曇華院・イナバが病室に 入った。 続いて4人。 博麗霊夢、八雲紫、上白沢慧音、東風谷早苗がそれぞれ入室した。 「幽香」 慧音が口火を切った。 「・・・・・・」 幽香と呼ばれた女は、何の反応も示さない。 電池の切れた玩具の様だった。 「・・・どうなの?」 そう尋ねる紫に、永琳は首を振った。 「肉体は段々と回復してきているわ。 でも、精神が・・・  彼女妖怪だから、人間よりダメージが深いのよ」 溜息をつく薬師。 そう、と紫は言い、幽香に近づいていった。 そして頭を撫でる。 幽香は、やはり何も反応しなかった。 「私のせいで、わだじのせいで・・・ ううぅ」 俯いた早苗が泣き出してしまった。 「泣くな早苗!」 慧音が早苗に向かって怒鳴った。 「涙を流すな! 俯くな!   そうやって目を背けるな!  『これ』はお前と、私たちがやった行為の結果だ!」 一層泣き声を高める早苗。  「私だって、私だって我慢しているんだぞ!!」 慧音は半泣き状態だった。 「・・・安易だったわね、私は。 本当に。  御免なさいね、幽香」 紫は呟き、目を霊夢にやった。 そして紫もまた、溜息をついた。 生気が感じられない。 目が死んでいる。 ぼーっとするのが好きな霊夢だが、これは訳が違う。 体温が無ければ、森の人形師が作成した霊夢の人形だ、と言い張られたら、 そう誤解する者が何人か出てきそうだ。 霊夢は壊れかけだが、幽香と違って喋る事はできた。 「・・・ごめんね。 ○○さん、幽香・・・」 病室に来るときの霊夢は決まってこれを言う。 いや、これしか言えないのだろう。 壊れていても、壊れて無くても。 霊夢の、濁った瞳を持つ目から、涙がこぼれた。 幽香が壊れた『白い薔薇の日』以降、霊夢はずっとこんな感じだ。 3、 幽香がリンチされた、あの日。 過度の暴力によって重傷を負った幽香は、一時永遠亭に 預けられることになった。 そして幽香が永遠亭で眠っている間、○○の失踪は発覚した。 ○○は、妹紅の焼き鳥屋台の料理の材料を、妹紅に分けていた。 ○○への報酬は、焼き鳥と酒。 妹紅は毎週月曜と木曜、材料を受け取っていた。 しかし、リンチから4日後の月曜。 妹紅はいつもの待ち合わせ場所で、いつもの時間に待っていたが、○○は何時まで経っても 現れなかった。 不審に思った妹紅が、慧音に相談。 慧音は、時間に律儀で真面目な○○が そのような事をする事に疑問を感じた。  彼女は人里の人々に、○○を見かけなかったか、聞いて回った。  人里の誰かに、告白でもしたのではないかと思ったからだ。 しかし、あの幽香が叩きのめされた日以降、彼に会った者はおろか、見かけたものすら いなかった。 首を捻りながら慧音は○○の家に行ってみたが、何度呼びかけても返事が無い。 おかしい。 そして次の木曜になっても、待ち合わせ場所に○○が現れなかったことを妹紅から聞くと、 慧音は緊急事態であることを確信した。 慧音は霊夢や妹紅らに協力を依頼し、○○の捜索が始まった。 「・・・慧音、これ・・・」 血肉腐臭が漂う森の中の一角。 「・・・」 飛び散った数本の歯。 所々欠けた人骨。 慧音と妹紅が会った日、彼が着ていた服の切れ端。 そして、一本の枯れかけた『白い薔薇』。 ○○がこの世に遺した物だった。 もし慧音と妹紅が当日彼に会っていなかったら、○○は自分の死すら、 誰にも分かってもらえなかったかもしれない。 その頃幽香は、意識を取り戻していた。 手足の自由が効きにくく、食事に苦労している状態だが。 さて、夕食の時間である。 ベッドで寝ている幽香は半身を起こし、目の前にあるテーブルを見た。 今日の夕食は鶏肉と野菜の入ったスープだ。 「・・・いい匂いね」 半さじ分だけ掬い、口に入れる。 「おいしい」 「そう言って頂けると、嬉しいです」 鈴仙が少しだけ微笑んで言った。 少しずつ掬い、少しずつ食べる。 味はいい。 おそらく栄養価も高くなるよう、考えて作られているのだろう。 幽香は永遠亭、もとい恐らく料理を作ったであろう、鈴仙に感謝した。 しかし。 どこか最後の一押しが足りない味がする。なぜだろう? ・・・原因はわかっている。 ○○だ。 彼が気になって、100%食事に集中できないのだ。 目を覚ましたときは、既にリンチの日から6日が経っていたので、気を失って 以降の出来事など、知りようが無い。 ○○は向日葵畑に来たのだろうか? 霊夢たちなら何か知っている可能性が高い。  そう思ってはいるのだが・・・ 「幽香さん? どうかしました?」 手が止まった幽香に、鈴仙が心配そうに聞いてきた。 「・・・何でもないわ」 彼女らには、目を覚ましてから1度も会っていない。 そもそも、会う気にもなれなかった。 そんな相手に下手に出て質問し、しかも○○は来たか?などと色ぼけた 事を聞けるはずがない。 どうするべきか。 ふと、病室の扉向こうの廊下が騒がしくなる。 「やっと見つかったんだってさ」 「ちょっとの歯と骨ぐらいしか残んなかったらしいよ。 運が無かったよね・・・  獰猛な妖怪だったんだろうね」 「そんな死に方はごめんだよ、私」 物騒な話をしている。 どうやら、人間が妖怪に派手な喰われ方をしたらしい。 「元人間でも、狙われるんだね」 「死ぬときは『人間扱い』だったわけかぁ」 「○○さんだっけ? 焼き鳥屋に材料を卸してた」 今、何て言った? ドガガガッシャアーーーーーーーン!!! 「ゆ、幽香さん?!」 6割方消費した料理をひっくり返し、鈴仙を無視し、幽香は体を引きずりながら 廊下へ向かう。 気がつくと、一匹の因幡の首を掴んでいた。 「誰?! 誰だって!!???」 「な、な゛に゛が・・・」 「誰だって聞いてるでしょうがああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」 「幽香さん!!!!」 鈴仙が必死に止めに入る。 「誰が!!! 誰が殺されたって!!!?????」 「だ、だから○○って元人間が・・・・・」 「嘘をつくなぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!  殺すぞぉぉぉぉぉおお!!!!」 「幽香さん!  ちょっとあなた、師匠を呼んできて!  早く!!!」 「は、はい!!」 永琳が因幡に促されて到着した時、残っていたのは、 呆然と立ち尽くす因幡たちと、壁に投げられ気を失った鈴仙だった。 人里は騒然となっていた。 「何だ! 何があったんだ!」 ○○の死で気落ちしていた慧音は、声を荒げて言った。 「ど、どうやら花の妖怪が、『○○はどこだ』といって歩き回って いるようで・・・」 慧音に迫られた村人が答えた。 「花の妖怪? 幽香か!!」 慧音の怒りが頂点に達した。 あの妖怪は、どれだけ里に迷惑をかければ気が済むのだ。 人里を移動中、曲がり角から緑髪の女がひょっこり現れた。 幽香だ。 「貴様!! いい加減に・・・」 「慧音!! ○○は?! ○○はどこ?!」 慧音に最後まで言わせず、幽香が彼女の両肩を掴んだ。 「おい! お前・・・」 「ねえ!! どこ!! どこなの!?  お願い教えて!? 会わせて!!!」 ・・・見れば、幽香はボロボロの体を引きずりながら、此処まで来たことが 分かった。 涙を随分長い間流しているのだろう。 顔に流れた跡が残っている。 幽香の必死さを受けて、慧音は彼女とは対照的に冷静になっていった。 「ねえ!? 貴方なら知ってるでしょ!?! 彼はどこなの?!」 「・・・幽香」 慧音は間を置いて、 「・・・幽香。 ○○は・・・ 死んだんだ」 言った。 「・・・嘘よ」 幽香は慧音をにらみつけた。 「・・・墓まで案内する」 慧音は幽香に肩を貸し、○○の墓へと向かった。 「・・・知り合いだったのか? ○○と」 慧音は幽香に尋ねた。 知り合いと言うより、あの慌て振りは・・・ 「・・・」 幽香は墓の前で膝を着き、呆然としていた。 墓前に置かれている『それ』を見て、幽香は最後の望みを絶たれた。 彼は、○○は、死んだのだ。 「・・・なんでよ」 幽香が口を開いた。 「なんでよ!!!  来てくれるって言ったじゃない!!!  絶対、絶対来てくれるって言ったじゃない!!!!」 「ついその前の日に、約束したじゃない!!!」 「邪魔な妖怪も片付けて、貴方の足も治して・・・  なんで??!! ねえなんでよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 幽香が号泣している。 「いやぁ・・・ もう会えないなんていやぁ・・・  いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 供えられた白い薔薇の目の前で、幽香は絶叫を上げた。 慧音の他数名は、黙っていた。 顔を真っ青にして、呆然と立ち尽くす慧音。 ━━━ なんということだ。 そういう事だったのか。 そして、彼の背後から聞き覚えのある女の声が。 「・・・今の、本当、なの・・・?」 騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう。 ガタガタと震える霊夢が居た。 4、 早苗はこの1週間で20時間程しか寝ていない。 時間さえあれば、彼女は人里近くの森に行っていた。 無論、○○を襲った妖怪を退治するためだ。 「早苗。 無茶しちゃいけないよ?」 「大丈夫です、神奈子様。  今ほど、使命感に燃えている時はないと思います」 「・・・手伝おうか? 私たちも」 「いけません、諏訪子様。 これは私自身の問題です」 少々の睡眠と、神々の為のご奉仕を済ませたら、早苗は直に飛び出していった。 「・・・大丈夫かねぇ、早苗」 「まあ、本人が納得するまでやらせるしか・・・」 二柱も対応に困っていた。 早苗は、外の世界から幻想郷に来たとき、自分はもう特別な存在ではない ことを思い知らされた。 実力でも人望でも霊夢に負け、努力では魔理沙に負けているだろう。 ならば、自分に出来る事を一つずつ積み上げていくしかない。 そう考えて始めた、人里での奉仕活動、及び妖怪退治だったのに。 早苗は必死だった。 せめて、せめて○○の仇討ちだけはしなくては・・・ それこそが真の奉仕活動であり、真の妖怪退治だ。 「・・・お待たせしました、慧音さん」 「早苗。 無理しなくていいんだぞ?」 「その言葉、そっくりお返ししますよ」 慧音と早苗。 2人は、定期的に森の中をパトロールしていた。 人間にしては腕が立った○○を殺したのだから、中々強い妖怪である可能性がある。 よって、パトロールは必ず2人で行うようにしていた。 紫は元々そこまで人間に目をかける立場ではないし、霊夢は本業の 博麗大結界の管理もある。 比較的時間があるのは二人、特に早苗だろう。 慧音も人里の学校がある。 定期的に幽香の見舞いに行っている事も知っている。 早苗からすれば、自分より慧音のほうがよっぽど心配だ。 「・・・しかし、調査開始から1週間経ちますが・・・」 「駄目だな。 全く見当がつかない」 つかないのだ。 それはそうだろう。 手掛かりなしに、広い森の中をたった二人で捜索したところで、結果は見えている。 「非効率的だ。 そもそも人手が足りなすぎる」 「しかし、他に頼れる人が・・・」 まさかこんな危ない妖怪相手に、人里の人々を駆り出す訳にもいかない。 魔理沙のような腕の立つ人間も何人かいるが、彼女達に応援を依頼するのは 筋違いすぎる。 「・・・今日はこの辺にしよう。 もう一度計画を見直そう。  このままでは埒が明かない」 「・・・わかりました。 では明朝・・・」 たった二人の捜索隊は、解散した。 「・・・行くのか? 霊夢」 「うん・・・ じゃあね、魔理沙」 「霊夢」 「何?」 「元気、出しなよ」 「・・・ありがとう、萃香」 魔理沙と萃香の心配そうな顔に見送られながら、霊夢は今日も、 幽香の病室に向かっていた。 此処最近、結界の監視をする傍ら、病室に見舞いに来ては、暗い気分になって 神社に帰っていく、という生活を繰り返していた。 守るべき存在を放置して死なせてしまい、殆ど無実同然の妖怪を、完膚なきまで 痛めつけてしまった。 気疲れから来る、半ば八つ当たり的な対応によって、○○と幽香を ”殺してしまった”。 当事者として、そう考えられずには居られないのだ。 ━━━ 最低、ね。 これ程までに自分を情けないと思ったのは、初めてだったかもしれない。 霊夢は碌に食事や睡眠も取れていなかった。 「・・・まずいわね。 このままじゃ」 定期的に麓に来ては説教をしていた映姫が、それを見て思った。 「何とかしなければなりませんね。 これは」 後編に続く [[彼岸花(白薔薇の続き)_後編]] ---- - 前回の終わりかたで良かったのではないかと -- 名無しさん (2009-06-15 14:28:34) - ↑いますぐ後篇を読むんだ -- 名無しさん (2009-06-15 16:35:03) - ↑「救いの無い終わり」というのもまたいいもの。 &br() そこまでの過程がうつくしいと特に -- 名無しさん (2009-09-21 16:00:52) - 白薔薇は、前回の段階で終わらすのがいっちばん美しいのです。なので私は今作(ヒガンバナの前編後編)はおまけ、パラレルワールドとして解釈してます。 &br()だけど、続きがあってなんだか凄く嬉しかったな。やっぱバッドな展開で苦い想いしてる時に得られるハッピーエンドは格別だな♪ -- 名無しさん (2010-02-01 19:54:36) - 幽香が泣き崩れるシーンが心に来た -- 名無しさん (2010-03-18 23:55:45) - 殆ど無実って・・ &br()無実じゃないの? -- 名無しさん (2010-11-08 13:51:35) - 「嘘をつくなぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!! &br()殺すぞぉぉぉぉぉおお!!!!」 &br()可哀想だけど笑ってしまったwww -- 鳥 (2010-11-10 12:08:39) - 泣いた -- 名無しさん (2011-03-20 17:22:39) - ↑5 &br()バッド(BAD)がパッド(PAD)に見えた俺は &br()紅魔館でナイフにぶっさされる必要があるみたいだ -- 名無しさん (2011-12-04 07:26:30) - レスありがとう。詳細はこれですd(´∀`*)グッ☆ http://l7i7.com/ -- age (2011-12-18 00:34:25) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
「事故だったのよ、これは」 「誰も悪くない。 誰も攻めることのできない、悲しい事故だったの」 「言い換えれば、それは運命だったの」 1、 「岸に着いたよ」 死神にそう声を掛けられ、 「そうか」 男は答えた。 「まあ、判決は受けなくても、結果は分かってるけどな」 「んー? 随分と自信有りじゃないか」 「・・・生物を殺すことを生業とする職業ってのは、地獄行きって  相場が決まってるんだよ」 ○○は言った。二人とも船を降りる。 「そんじゃあ養豚場のおっさんとかは皆地獄行きか?」 「揚げ足取るな、赤髪の死神よ」 「余所余所しいねぇ、その言い方」 「こまっちゃんとか言って欲しいのか?」 「それは引く」 「さて小町。 閻魔様はどこにいらっしゃるのかな?」 「こっちだよ」 長い廊下。 途中の窓から覗くと、彼岸花が咲き乱れている。 ここの彼岸花がどういう物かは、先頃死神より説明を受けた。 ━━━ ・・・綺麗だな。 彼岸花は 他の花から独立した、情熱さえ感じる美しさ。 まるで『彼女』のようだ。 ○○は見とれていた。 えーっと、彼岸花の花言葉は何だったっけな? ━━━ 思い出した。 結構前向きの花言葉もあるんだよな。 イメージと違って。 「どうしたの? 早く行かないとあたいが怒られるんだからね」 「お、ごめんごめん。 行くよ、行く行く」 立ち止まってしまっていた○○は、小町に促され、廊下を急いだ。 「全く、貴方という方は・・・」 ○○の前で、四季映姫は溜息をついた。 「よりによって、なんて物を残して死ぬのですか?」 「いや、そんな事言われても、俺もう死んでたし・・・」 薔薇の花束の事か。 流石閻魔、自分の生き様処か、死に様もご存知のようで。 「喰っちゃえばよかったじゃん、アンタ自身で」 「黙りなさい! 小町!」 「きゃん!」 口を挟んできた小町を、映姫が怒鳴りつけた。 ━━━ 喰う? なんでプレゼントするはずの花を食わなきゃいけないんだ? 「・・・まあ、貴方にはどうすることもできなかったでしょう。  仕方がありません」 「情けない限りです、はい。 ・・・『彼女』、ずっと待っていたかも。  悪い事しちゃいました」 この男、○○は、自分が死んでからの事を何も知らないらしい。 映姫は思った。 彼なら。 彼なら『彼女』を、いや幻想郷を救えるのではないだろうか? 「○○よ。聞きなさい。  これから貴方がすべきことを、私が教えます」 「・・・わかりました」 いよいよ地獄行きが言い渡されるのか。 ○○は、覚悟を決めた。 2、 永遠亭の、ある病室。 一人の女が、ベッドから半身を起こし、ぼーっと窓の外を眺めていた。 「・・・・・・」 コンコン。 「入るわよ?」 女は窓の外を見つめたままだ。 間もなくして、扉が開いた。 永遠亭の薬師、八意永琳。それとその助手、鈴仙・優曇華院・イナバが病室に 入った。 続いて4人。 博麗霊夢、八雲紫、上白沢慧音、東風谷早苗がそれぞれ入室した。 「幽香」 慧音が口火を切った。 「・・・・・・」 幽香と呼ばれた女は、何の反応も示さない。 電池の切れた玩具の様だった。 「・・・どうなの?」 そう尋ねる紫に、永琳は首を振った。 「肉体は段々と回復してきているわ。 でも、精神が・・・  彼女妖怪だから、人間よりダメージが深いのよ」 溜息をつく薬師。 そう、と紫は言い、幽香に近づいていった。 そして頭を撫でる。 幽香は、やはり何も反応しなかった。 「私のせいで、わだじのせいで・・・ ううぅ」 俯いた早苗が泣き出してしまった。 「泣くな早苗!」 慧音が早苗に向かって怒鳴った。 「涙を流すな! 俯くな!   そうやって目を背けるな!  『これ』はお前と、私たちがやった行為の結果だ!」 一層泣き声を高める早苗。  「私だって、私だって我慢しているんだぞ!!」 慧音は半泣き状態だった。 「・・・安易だったわね、私は。 本当に。  御免なさいね、幽香」 紫は呟き、目を霊夢にやった。 そして紫もまた、溜息をついた。 生気が感じられない。 目が死んでいる。 ぼーっとするのが好きな霊夢だが、これは訳が違う。 体温が無ければ、森の人形師が作成した霊夢の人形だ、と言い張られたら、 そう誤解する者が何人か出てきそうだ。 霊夢は壊れかけだが、幽香と違って喋る事はできた。 「・・・ごめんね。 ○○さん、幽香・・・」 病室に来るときの霊夢は決まってこれを言う。 いや、これしか言えないのだろう。 壊れていても、壊れて無くても。 霊夢の、濁った瞳を持つ目から、涙がこぼれた。 幽香が壊れた『白い薔薇の日』以降、霊夢はずっとこんな感じだ。 3、 幽香がリンチされた、あの日。 過度の暴力によって重傷を負った幽香は、一時永遠亭に 預けられることになった。 そして幽香が永遠亭で眠っている間、○○の失踪は発覚した。 ○○は、妹紅の焼き鳥屋台の料理の材料を、妹紅に分けていた。 ○○への報酬は、焼き鳥と酒。 妹紅は毎週月曜と木曜、材料を受け取っていた。 しかし、リンチから4日後の月曜。 妹紅はいつもの待ち合わせ場所で、いつもの時間に待っていたが、○○は何時まで経っても 現れなかった。 不審に思った妹紅が、慧音に相談。 慧音は、時間に律儀で真面目な○○が そのような事をする事に疑問を感じた。  彼女は人里の人々に、○○を見かけなかったか、聞いて回った。  人里の誰かに、告白でもしたのではないかと思ったからだ。 しかし、あの幽香が叩きのめされた日以降、彼に会った者はおろか、見かけたものすら いなかった。 首を捻りながら慧音は○○の家に行ってみたが、何度呼びかけても返事が無い。 おかしい。 そして次の木曜になっても、待ち合わせ場所に○○が現れなかったことを妹紅から聞くと、 慧音は緊急事態であることを確信した。 慧音は霊夢や妹紅らに協力を依頼し、○○の捜索が始まった。 「・・・慧音、これ・・・」 血肉腐臭が漂う森の中の一角。 「・・・」 飛び散った数本の歯。 所々欠けた人骨。 慧音と妹紅が会った日、彼が着ていた服の切れ端。 そして、一本の枯れかけた『白い薔薇』。 ○○がこの世に遺した物だった。 もし慧音と妹紅が当日彼に会っていなかったら、○○は自分の死すら、 誰にも分かってもらえなかったかもしれない。 その頃幽香は、意識を取り戻していた。 手足の自由が効きにくく、食事に苦労している状態だが。 さて、夕食の時間である。 ベッドで寝ている幽香は半身を起こし、目の前にあるテーブルを見た。 今日の夕食は鶏肉と野菜の入ったスープだ。 「・・・いい匂いね」 半さじ分だけ掬い、口に入れる。 「おいしい」 「そう言って頂けると、嬉しいです」 鈴仙が少しだけ微笑んで言った。 少しずつ掬い、少しずつ食べる。 味はいい。 おそらく栄養価も高くなるよう、考えて作られているのだろう。 幽香は永遠亭、もとい恐らく料理を作ったであろう、鈴仙に感謝した。 しかし。 どこか最後の一押しが足りない味がする。なぜだろう? ・・・原因はわかっている。 ○○だ。 彼が気になって、100%食事に集中できないのだ。 目を覚ましたときは、既にリンチの日から6日が経っていたので、気を失って 以降の出来事など、知りようが無い。 ○○は向日葵畑に来たのだろうか? 霊夢たちなら何か知っている可能性が高い。  そう思ってはいるのだが・・・ 「幽香さん? どうかしました?」 手が止まった幽香に、鈴仙が心配そうに聞いてきた。 「・・・何でもないわ」 彼女らには、目を覚ましてから1度も会っていない。 そもそも、会う気にもなれなかった。 そんな相手に下手に出て質問し、しかも○○は来たか?などと色ぼけた 事を聞けるはずがない。 どうするべきか。 ふと、病室の扉向こうの廊下が騒がしくなる。 「やっと見つかったんだってさ」 「ちょっとの歯と骨ぐらいしか残んなかったらしいよ。 運が無かったよね・・・  獰猛な妖怪だったんだろうね」 「そんな死に方はごめんだよ、私」 物騒な話をしている。 どうやら、人間が妖怪に派手な喰われ方をしたらしい。 「元人間でも、狙われるんだね」 「死ぬときは『人間扱い』だったわけかぁ」 「○○さんだっけ? 焼き鳥屋に材料を卸してた」 今、何て言った? ドガガガッシャアーーーーーーーン!!! 「ゆ、幽香さん?!」 6割方消費した料理をひっくり返し、鈴仙を無視し、幽香は体を引きずりながら 廊下へ向かう。 気がつくと、一匹の因幡の首を掴んでいた。 「誰?! 誰だって!!???」 「な、な゛に゛が・・・」 「誰だって聞いてるでしょうがああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」 「幽香さん!!!!」 鈴仙が必死に止めに入る。 「誰が!!! 誰が殺されたって!!!?????」 「だ、だから○○って元人間が・・・・・」 「嘘をつくなぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!  殺すぞぉぉぉぉぉおお!!!!」 「幽香さん!  ちょっとあなた、師匠を呼んできて!  早く!!!」 「は、はい!!」 永琳が因幡に促されて到着した時、残っていたのは、 呆然と立ち尽くす因幡たちと、壁に投げられ気を失った鈴仙だった。 人里は騒然となっていた。 「何だ! 何があったんだ!」 ○○の死で気落ちしていた慧音は、声を荒げて言った。 「ど、どうやら花の妖怪が、『○○はどこだ』といって歩き回って いるようで・・・」 慧音に迫られた村人が答えた。 「花の妖怪? 幽香か!!」 慧音の怒りが頂点に達した。 あの妖怪は、どれだけ里に迷惑をかければ気が済むのだ。 人里を移動中、曲がり角から緑髪の女がひょっこり現れた。 幽香だ。 「貴様!! いい加減に・・・」 「慧音!! ○○は?! ○○はどこ?!」 慧音に最後まで言わせず、幽香が彼女の両肩を掴んだ。 「おい! お前・・・」 「ねえ!! どこ!! どこなの!?  お願い教えて!? 会わせて!!!」 ・・・見れば、幽香はボロボロの体を引きずりながら、此処まで来たことが 分かった。 涙を随分長い間流しているのだろう。 顔に流れた跡が残っている。 幽香の必死さを受けて、慧音は彼女とは対照的に冷静になっていった。 「ねえ!? 貴方なら知ってるでしょ!?! 彼はどこなの?!」 「・・・幽香」 慧音は間を置いて、 「・・・幽香。 ○○は・・・ 死んだんだ」 言った。 「・・・嘘よ」 幽香は慧音をにらみつけた。 「・・・墓まで案内する」 慧音は幽香に肩を貸し、○○の墓へと向かった。 「・・・知り合いだったのか? ○○と」 慧音は幽香に尋ねた。 知り合いと言うより、あの慌て振りは・・・ 「・・・」 幽香は墓の前で膝を着き、呆然としていた。 墓前に置かれている『それ』を見て、幽香は最後の望みを絶たれた。 彼は、○○は、死んだのだ。 「・・・なんでよ」 幽香が口を開いた。 「なんでよ!!!  来てくれるって言ったじゃない!!!  絶対、絶対来てくれるって言ったじゃない!!!!」 「ついその前の日に、約束したじゃない!!!」 「邪魔な妖怪も片付けて、貴方の足も治して・・・  なんで??!! ねえなんでよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 幽香が号泣している。 「いやぁ・・・ もう会えないなんていやぁ・・・  いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 供えられた白い薔薇の目の前で、幽香は絶叫を上げた。 慧音の他数名は、黙っていた。 顔を真っ青にして、呆然と立ち尽くす慧音。 ━━━ なんということだ。 そういう事だったのか。 そして、彼の背後から聞き覚えのある女の声が。 「・・・今の、本当、なの・・・?」 騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう。 ガタガタと震える霊夢が居た。 4、 早苗はこの1週間で20時間程しか寝ていない。 時間さえあれば、彼女は人里近くの森に行っていた。 無論、○○を襲った妖怪を退治するためだ。 「早苗。 無茶しちゃいけないよ?」 「大丈夫です、神奈子様。  今ほど、使命感に燃えている時はないと思います」 「・・・手伝おうか? 私たちも」 「いけません、諏訪子様。 これは私自身の問題です」 少々の睡眠と、神々の為のご奉仕を済ませたら、早苗は直に飛び出していった。 「・・・大丈夫かねぇ、早苗」 「まあ、本人が納得するまでやらせるしか・・・」 二柱も対応に困っていた。 早苗は、外の世界から幻想郷に来たとき、自分はもう特別な存在ではない ことを思い知らされた。 実力でも人望でも霊夢に負け、努力では魔理沙に負けているだろう。 ならば、自分に出来る事を一つずつ積み上げていくしかない。 そう考えて始めた、人里での奉仕活動、及び妖怪退治だったのに。 早苗は必死だった。 せめて、せめて○○の仇討ちだけはしなくては・・・ それこそが真の奉仕活動であり、真の妖怪退治だ。 「・・・お待たせしました、慧音さん」 「早苗。 無理しなくていいんだぞ?」 「その言葉、そっくりお返ししますよ」 慧音と早苗。 2人は、定期的に森の中をパトロールしていた。 人間にしては腕が立った○○を殺したのだから、中々強い妖怪である可能性がある。 よって、パトロールは必ず2人で行うようにしていた。 紫は元々そこまで人間に目をかける立場ではないし、霊夢は本業の 博麗大結界の管理もある。 比較的時間があるのは二人、特に早苗だろう。 慧音も人里の学校がある。 定期的に幽香の見舞いに行っている事も知っている。 早苗からすれば、自分より慧音のほうがよっぽど心配だ。 「・・・しかし、調査開始から1週間経ちますが・・・」 「駄目だな。 全く見当がつかない」 つかないのだ。 それはそうだろう。 手掛かりなしに、広い森の中をたった二人で捜索したところで、結果は見えている。 「非効率的だ。 そもそも人手が足りなすぎる」 「しかし、他に頼れる人が・・・」 まさかこんな危ない妖怪相手に、人里の人々を駆り出す訳にもいかない。 魔理沙のような腕の立つ人間も何人かいるが、彼女達に応援を依頼するのは 筋違いすぎる。 「・・・今日はこの辺にしよう。 もう一度計画を見直そう。  このままでは埒が明かない」 「・・・わかりました。 では明朝・・・」 たった二人の捜索隊は、解散した。 「・・・行くのか? 霊夢」 「うん・・・ じゃあね、魔理沙」 「霊夢」 「何?」 「元気、出しなよ」 「・・・ありがとう、萃香」 魔理沙と萃香の心配そうな顔に見送られながら、霊夢は今日も、 幽香の病室に向かっていた。 此処最近、結界の監視をする傍ら、病室に見舞いに来ては、暗い気分になって 神社に帰っていく、という生活を繰り返していた。 守るべき存在を放置して死なせてしまい、殆ど無実同然の妖怪を、完膚なきまで 痛めつけてしまった。 気疲れから来る、半ば八つ当たり的な対応によって、○○と幽香を ”殺してしまった”。 当事者として、そう考えられずには居られないのだ。 ━━━ 最低、ね。 これ程までに自分を情けないと思ったのは、初めてだったかもしれない。 霊夢は碌に食事や睡眠も取れていなかった。 「・・・まずいわね。 このままじゃ」 定期的に麓に来ては説教をしていた映姫が、それを見て思った。 「何とかしなければなりませんね。 これは」 後編に続く [[彼岸花(白薔薇の続き)_後編]] ---- - 前回の終わりかたで良かったのではないかと -- 名無しさん (2009-06-15 14:28:34) - ↑いますぐ後篇を読むんだ -- 名無しさん (2009-06-15 16:35:03) - ↑「救いの無い終わり」というのもまたいいもの。 &br() そこまでの過程がうつくしいと特に -- 名無しさん (2009-09-21 16:00:52) - 白薔薇は、前回の段階で終わらすのがいっちばん美しいのです。なので私は今作(ヒガンバナの前編後編)はおまけ、パラレルワールドとして解釈してます。 &br()だけど、続きがあってなんだか凄く嬉しかったな。やっぱバッドな展開で苦い想いしてる時に得られるハッピーエンドは格別だな♪ -- 名無しさん (2010-02-01 19:54:36) - 幽香が泣き崩れるシーンが心に来た -- 名無しさん (2010-03-18 23:55:45) - 殆ど無実って・・ &br()無実じゃないの? -- 名無しさん (2010-11-08 13:51:35) - 「嘘をつくなぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!! &br()殺すぞぉぉぉぉぉおお!!!!」 &br()可哀想だけど笑ってしまったwww -- 鳥 (2010-11-10 12:08:39) - 泣いた -- 名無しさん (2011-03-20 17:22:39) - ↑5 &br()バッド(BAD)がパッド(PAD)に見えた俺は &br()紅魔館でナイフにぶっさされる必要があるみたいだ -- 名無しさん (2011-12-04 07:26:30) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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