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「魔理沙さん、レースやりませんか?」 霧雨魔理沙が博麗神社でのんびりしていたところ、鴉天狗がやってきた。 「レース?」 「はい、レースです。スピードレース。飛べる人限定の」 「なんだそれ」 ―今度妖怪の山の天狗主催でレースを行うんです。 やってきた鴉天狗、射命丸文が説明をする。 なんでもスピード自慢を集めて幻想郷最速を決める公式レースを行うのだとか。 「公式を謳うだけあって、色々なところに協賛を募っています。  八雲紫や稗田阿求にも司会や記録係をお願いしてあります。  大掛かりですよ? やりませんか? 人間代表?」 文がニコニコしながら魔理沙に尋ねてくる。 一緒になって話を聞いていた霊夢はがんばってねーなんて呑気なことを言っている。 「って霊夢、知っていたのか?」 「当たり前です。博麗の巫女にそんな大掛かりなイベントの連絡をしなかったら後で何されるか…」 「なかなか面白そうよ。真面目な大会で協力の報酬もなかなかのものみたいだし」 「貰ったのかよ!?」 にへらと笑う博麗の巫女。そんなことでいいのだろうか。 「で、どうですか? 正直な話魔理沙さんに出てもらわないと盛り上がりに欠けるのですが」 出ないわけないでしょうとばかりに笑いかけてくる文。 「…ん、なんとなく今回は気が乗らないぜ」 だが、魔理沙は意外にも乗り気ではなかった。 驚いた様子で文と霊夢が目を見合わせる。 「こらこら、スピードスターがそんなこと言っちゃあ駄目でしょう、出なさいよ」 「あやややや。これは雹でも降りますかね」 「なんとなくな、今は出たくない気分なんだ。不思議と…」 何か偽者を見るような目つきで霊夢が魔理沙を睨む。 こいつは何を言っているんだといわんばかりだ。 「何を言っているのよ。参加賞は前払いなのよ」 「言うなよ! ってちょと待て! 前払いって!?」 「貰ったわ」 「払いました」 「お前らが幻想郷最速だよ!!」 魔理沙が文句を垂れるが残念ながら既に決定事項。 まあまあ、となだめて説得する霊夢と文。順序が逆。 「畜生、わかったよ…。出るよ、出りゃいいんだろ」 「乗り気じゃないですね。困りますよそんなことでは」 「優勝の副賞には紅魔館付属図書館の貴重な魔道書が付くって言うのにね」 「!!? マジで!?」 「!? 付きましたっけ?」 「つ・く・の・よ」 「あ…ええ、そうですね。付きますね…」 「と言う事よ。頑張りなさい魔理沙」 「おう、なんかやる気出てきたぜ!」 「優勝賞金は山分けよ!」 「おう! …!!?」 ご機嫌な霊夢。難しい顔でそろばんをはじく文。何か喚く魔理沙。 こうしてレースの開催が無事決定。最後の参加者も無事確保される事となった。 「さてやってまいりました幻想郷スピードレース。司会の八雲紫と」 「書記の稗田阿求です。ああ、どうしてこんなことに…」 妖怪の山。急遽天人の手によって建設された実況席に紫と阿求が陣取っていた。 「なかなかにいい眺めね。スタート及びゴールである滝がはっきりと見下ろせるわ」 「あんまり見下ろしたくないです。トラウマになりそうです」 ごうごうと轟音が鳴り響き、マイナスイオン(笑)が強烈に漂う。 「なんでわざわざ滝の上に実況席を作るんですか。それになんで下が金あ…」 ひょいと振った手が筆に当たり足元に落ちる。 カラーンと音を立て筆が金網のスキマを滑り落ち、そのまま滝へと吸い込まれて見えなくなる。 「・・・・・・・。」 「どうしたの?」 替えの筆をスキマから取り出しつつニヤニヤして阿求を見る紫。 ぶるぶると震えだす阿求。真っ青。 「もういや! ここから出して! おうちかえる!!」 「ちょww、落ち着いて! 落ち着きなさい!!」 一方スタートライン。 「第一レースはチルノと天子ですね。時間ですのでそろそろ始めましょう」 スタート及びゴールである滝の前に第一レースの選手であるチルノと天子。 更にスターター及び審判である四季映姫、タイム測定の十六夜咲夜が集まる。 「さいきょーのあたいにいどんでくるとはいいどきょうね、ギッタギタにしてあげる、かくごすることね!」 「ふん、下賎な妖精如きが天人と同じ土俵に立とうだなんておこがましい! 思い知らせてあげるわ!」 わー、と歓声が上がる。妖怪や人間が入り混じっており割と観客は多い。 「そろそろいいですか? 位置について」 映姫の指示に従いチルノと天子がラインに着く。 やかましいはずの滝に一瞬の静寂が訪れる。 「よーい」 ドン!! 「死ねえぇぇぇぇぇ!!!」 「天符「天道是非の剣」!」 ピピー! 開始早々天子に殴りかかるチルノに、いきなりのスペル宣言で斜め60°の方向にぶっ飛んでゆく天子。 そんな二人に無常にも試合終了のホイッスルが吹かれる。 「対戦者への妨害行為によりチルノ失格! 勝者天子!」 呆れたような映姫の声が勝者も敗者もいない滝に響く。 「総領娘様…」 観客席で見ていた衣玖はそっと涙を拭く。 こんな馬鹿なことをしていると天人というジャンルが軽んじられてしまうからやめてほしい。 そういう涙。 「さて、早苗。風祝の奇跡、見せてあげなさい」 「妖夢。勝つか死ぬか、好きな方を選びなさい」 「死!?」 続いてスタートラインに次なる対戦者が現れる。 再び歓声が上がり、滝が熱気に包まれる。 そんなメイン会場から少し離れた林の小道を魔理沙は一人歩いていた。 涼やかな湿気が心地よいその場所で思いに耽る。 「魔理沙」 そんな気持ちのいい一時に割り込む者がいる。 紅魔館の主。レミリア・スカーレット。 「レミリアか、何か用か?」 「用、用ね…。特にないわ。いけない?」 「そんなことはないが…」 「そうね、強いて言えばこの大会の優勝者とお話をしておきたかった、といったところね」 「おいおい、まだ優勝なんかしてないぜ。気が早いな」 「あら、魔理沙は優勝するわよ」 ざあ、と新緑鮮やかな木々が音を立てる。 驚く魔理沙にレミリアはニタリと笑ってみせる。 「運命視って奴か。詰まらない能力だな」 「ええ、まったく。勝負事や娯楽には極力排除したい能力だわ」 「見なければいいのに」 「見えちゃったのよ。今回は。パチェがあなたに高級な魔術書を泣きながらあげるところまではっきりとね」 「おいおい、そんな事言われたら運命に逆らおうという気力が湧かなくなるじゃないか。もったいない」 「いいじゃない。前祝。プレッシャーを被った魔理沙というのも一興でしょ?」 「別にいいけどさ、優勝祝いは優勝してからにしてくれ。私のモチベーションのためにも」 「優勝した後の魔理沙には大勢が殺到しちゃってゆっくり優勝祝いなんか出来そうにないもの」 そう言ってくるりと背を向けるレミリア。 「じゃあね魔理沙。あなたの優勝の瞬間、しっかりと見届けさせてもらうわ」 「さあて、本日朝から開催してまいりましたこの大会もいよいよクライマックスの時を迎えようとしております」 わーっ そろそろ日も傾きだし、ひんやりとした空気が漂いだした妖怪の山に紫の声が木霊する。 最終戦。決勝は射命丸文と霧雨魔理沙。 順当といえば順当な組み合わせ。準決勝で文に負けた妖夢の行方は誰も知らない。 「ふふふふふ。魔理沙さん、流石ですね」 「あー。残っちまった」 テンションの上がってきている文に対してあくまで平静を保つ魔理沙。 結果を知っている者の余裕という奴であろうか。 「覚悟は出来ていますか?」 「というかお前参加してたのかよ。主催者の癖に」 「何か? 主催は天狗ですよ。私個人ではありません」 「汚っ!」 しれっと言う文。鴉天狗に隙はなかった。 「魔理沙ー! 優勝賞金ー!」 「他に応援の仕方はないのか!」 笑顔で手を振る霊夢はとても嬉しそうだ。 魔理沙があたりを見渡すと様々な人妖の姿が目に入る。 不機嫌そうなパチュリー。けらけら笑う小悪魔。こっそり来ているアリス。何か売ってる妖怪兎。 魔理沙が見知っている殆どの者が集まっている。里の人間もたくさんいる。 「どうしました? これだけの観客の前で負ける事が恐ろしいですか?」 「ほざけ、そういうお前こそどうなんだ?」 「私としては望むところです。大勢の観客の前で天狗の恐ろしさを見せ付けてあげましょう」 売り言葉に買い言葉。 互いにふふふと笑い合い、そのままスタートラインにつく。 「確認しておきますが、決勝はコースが異なります。わかっていますね」 映姫の問いに黙って頷く二人。わかっているならよろしいと満足げに言う映姫。 「よーい」 その言葉にあたりが静まり返り、すべての視線が三人に集中する。 ドン!! 「幻想風靡!」 「はやっ!」 普通のスタートダッシュをかける魔理沙に対し、スペルでのチャージをかける文。 あっという間に魔理沙は突き放された格好になる。 「おいおい、派手なスタートダッシュだな。後半持つのか?」 無理をしない程度の加速を維持し、せめて見失わない程度の距離を何とか維持する魔理沙。 「スリップストリームを使わせない気だな。それなりに考えているってことか!」 文の意図に気付くものの、魔理沙は自分のペースを崩さない。 この類の勝負は自分のペースを崩したら負け。 自分の能力範囲で最大の効果をあげられるペースを維持することこそが重要となる。 人里が見えてくる。折り返しポイントの鯉のぼりを文が綺麗な軌道を描いて折り返す。 それを見て地上から歓声が上がる。残っている里の人間だろうか。多くの者が鯉のぼりの下に集まっている。 折り返しを終え、帰りの直線に入ろうかという文と魔理沙が距離を置いてすれ違う。 文が魔理沙を見、魔理沙が文を見る。 文が口元に一枚のカードを掲げている。 突風「猿田彦の先導」 「マジかっ!?」 鯉のぼりを回り込みながら魔理沙は悪態を吐く。 この長くないコースで2枚だと!? 使えるスペルはせいぜい1枚だと思っていた魔理沙にとって、文の2枚目のスペル宣言はまさに暴挙と言えた。 持つはずがない。そう思っていた。自分がそうだから。 「伊達に妖怪はやってないか! こん畜生!」 愚痴りながら鯉のぼりを回りきり、再加速に入る。 ここからはいつも遊びでやっているコースとまるっきり同じ。 もはやゴマ粒ほどにしか見えない文をしっかりと見据え、限界まで速度を上げていく。 何の事はない。いつもやっていることじゃないか。 ゴマ粒が米粒になり、小豆になる。そのあたりで魔理沙は自らの最高速に達したと悟る。 ここだ 一本だけある大きな松、少しばかり癖のついた杉林。 その風景を捉え、魔理沙は一枚のスペルカードを取り出す。 彗星「ブレイジングスター」 やれた。最高のタイミング。この前とまったく同じタイミングでの宣言。 体に感じる衝撃、流れ行く風景。それらすべてがまったく同じ。 違う点は、目の前でどんどん大きくなってゆく天狗の姿。しかし、更にその先にはこの前と同じ風景が広がっている。 苔のむした岩肌。もみじの雑木林。落ち葉で埋まる池。 そして見えてくる谷。これを抜ければ滝。 岩を潜りカーブを曲がりきれば、 ―そこが、滝だ…。 魔理沙はブレイジングスターによる速度を抑えるべく制動をかけ始める。 クッと体にかかる荷重。慣れ親しんだ感覚。 この後は重心を左に倒し、箒を持つ手を引き上げればよい。 それをすることで箒は適切に左折を始め、やがて見知った滝の全体が見えてくる。 ―本当に? どこからか聞こえてくる疑問に魔理沙はびくりと身を固める。 ―本当に滝が見えてくるの?その前に何かなあい? 問と共に魔理沙の脳裏に何者かの影が横切る。 忘れようと思っていたもの、そして今まで忘れていたもの。 ―思い出しましたか? 隣から聞こえるその声に魔理沙は我に返り振り向く。 前にいたはずの相手がいつの間にか隣にいた。 風圧で乱れた髪が顔にかかり文の表情は伺えない。 ただ、不敵に歪む口元だけが覗き魔理沙に笑いかけている。 ―お前は ―天狗ですよ。知っているでしょう とん、と文の足が魔理沙の箒を蹴る。 そのほんのわずかの力が箒の軸をぶらし、魔理沙がかけていた制動の意味を違うものへと変えてしまう。 ―こんなところで…。正気か? ―ええ、正気ですとも。いったい何の問題が? 文が魔理沙の視界の中心から右へと飛び去ってゆく。 上下左右の感覚が不意に失われ、時間の感覚までもが失われる。 魔理沙は狂った感覚から逃れようと反射的に目を閉じる。 浮かんでくるのはあの時の、この後カーブを曲がりきったその後の光景。 そこにいるのは魔理沙に気付き、驚いて目を見開く白狼天狗。 反射的に避けようと意識を巡らし、そして即座に避けられないと悟り絶望へと変じる表情。 かつて無いほどに近づき、彼女はふと表情の中に笑みを混ぜ、 そして― 真っ赤に染まった光景から魔理沙は意識を戻す。 そっと目を開けると空が見えた。 左から右へとゆっくりと穏やかに動く世界。 霊夢がいる。紫がいる。阿求、アリス、レミリア、パチュリー・・・ 誰もかも、驚きで目を見開いている。 …レミリアは、そうでもない。 霊夢や紫は状況判断が早いのか、腰が浮きつつもその表情に理解とあきらめが混ざり始めている。 ああ、そういうことなのか…。 それを見て、魔理沙も悟る。 これは、復讐なのだ。 理解と共に訪れる感情。 分かっていたはずなのに、のこのここんな大会に出てきて馬鹿みたいだ。 自嘲気味に呟き、馬鹿馬鹿しいことのように箒から手を離す。 観衆をぐるりと一周見渡すと、魔理沙の目には切り立った岩肌が映る。 ぐんぐんと近づくその光景を見て、魔理沙はあの時の彼女と同じように笑みを浮かべる。 目を閉じると、そこにはあの時の続きがある― ---- - どういうことだってばよ!? -- 名無しさん (2009-05-27 18:34:17) - レースのちょっと前に魔理沙が椛に衝突したからその復讐ってこと? -- 名無しさん (2009-05-28 00:22:09) - 魔理沙のサイコロステーキ -- 名無しさん (2009-05-28 12:54:31) - ・魔理沙と誰か(文?)が遊びでスピードレースをする。 &br() ⇒レース中に魔理沙と椛が滝で衝突。魔理沙は生存。椛のその後は不明だがおそらく死亡? &br() ⇒あれは事故だと決めつけ忘れようとする魔理沙。 &br()  一方文は復讐を果たすためにレースを企画し、椛と同じように事故死(に見せかけて殺害)させようとした? &br() ⇒一行目へ &br() &br()こんな感じと予想してみた。 -- 名無しさん (2009-05-29 14:36:44) - ほんとにどういうことなの!? -- J (2009-10-24 16:25:07) - 久しぶりに、魔的なレミリアお嬢様を見た。 &br()とりあえずパチュリーが不憫だ。 -- 名無しさん (2010-11-03 01:35:28) - ↑↑↑でもそれってたまたまそこに居た椛が運悪かっただけであって魔理沙のせいではないかなって思う。 &br()復讐を企てた文やそれに載った霊夢も悪いと思う。 &br()……霊夢は金に釣られただけか? -- 名無しさん (2010-11-04 00:36:03) - 魔理沙カッケ~ -- カードキャプターさくら (2013-12-26 15:35:32) - 無限ループって怖くね? -- 名無しさん (2014-01-07 13:49:14) - ざまぁwwww -- 名無しさん (2016-02-29 03:27:48) - 死んだ怖え &br()レミリアさん怖いねw -- よく分からん (2017-05-20 18:28:40) - 「天狗ですよ」って言ってるから、この復讐自体が文だけじゃなくて天狗全体の総意だったのかもね -- 名無し (2017-05-31 06:59:28) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)
「魔理沙さん、レースやりませんか?」 霧雨魔理沙が博麗神社でのんびりしていたところ、鴉天狗がやってきた。 「レース?」 「はい、レースです。スピードレース。飛べる人限定の」 「なんだそれ」 ―今度妖怪の山の天狗主催でレースを行うんです。 やってきた鴉天狗、射命丸文が説明をする。 なんでもスピード自慢を集めて幻想郷最速を決める公式レースを行うのだとか。 「公式を謳うだけあって、色々なところに協賛を募っています。  八雲紫や稗田阿求にも司会や記録係をお願いしてあります。  大掛かりですよ? やりませんか? 人間代表?」 文がニコニコしながら魔理沙に尋ねてくる。 一緒になって話を聞いていた霊夢はがんばってねーなんて呑気なことを言っている。 「って霊夢、知っていたのか?」 「当たり前です。博麗の巫女にそんな大掛かりなイベントの連絡をしなかったら後で何されるか…」 「なかなか面白そうよ。真面目な大会で協力の報酬もなかなかのものみたいだし」 「貰ったのかよ!?」 にへらと笑う博麗の巫女。そんなことでいいのだろうか。 「で、どうですか? 正直な話魔理沙さんに出てもらわないと盛り上がりに欠けるのですが」 出ないわけないでしょうとばかりに笑いかけてくる文。 「…ん、なんとなく今回は気が乗らないぜ」 だが、魔理沙は意外にも乗り気ではなかった。 驚いた様子で文と霊夢が目を見合わせる。 「こらこら、スピードスターがそんなこと言っちゃあ駄目でしょう、出なさいよ」 「あやややや。これは雹でも降りますかね」 「なんとなくな、今は出たくない気分なんだ。不思議と…」 何か偽者を見るような目つきで霊夢が魔理沙を睨む。 こいつは何を言っているんだといわんばかりだ。 「何を言っているのよ。参加賞は前払いなのよ」 「言うなよ! ってちょと待て! 前払いって!?」 「貰ったわ」 「払いました」 「お前らが幻想郷最速だよ!!」 魔理沙が文句を垂れるが残念ながら既に決定事項。 まあまあ、となだめて説得する霊夢と文。順序が逆。 「畜生、わかったよ…。出るよ、出りゃいいんだろ」 「乗り気じゃないですね。困りますよそんなことでは」 「優勝の副賞には紅魔館付属図書館の貴重な魔道書が付くって言うのにね」 「!!? マジで!?」 「!? 付きましたっけ?」 「つ・く・の・よ」 「あ…ええ、そうですね。付きますね…」 「と言う事よ。頑張りなさい魔理沙」 「おう、なんかやる気出てきたぜ!」 「優勝賞金は山分けよ!」 「おう! …!!?」 ご機嫌な霊夢。難しい顔でそろばんをはじく文。何か喚く魔理沙。 こうしてレースの開催が無事決定。最後の参加者も無事確保される事となった。 「さてやってまいりました幻想郷スピードレース。司会の八雲紫と」 「書記の稗田阿求です。ああ、どうしてこんなことに…」 妖怪の山。急遽天人の手によって建設された実況席に紫と阿求が陣取っていた。 「なかなかにいい眺めね。スタート及びゴールである滝がはっきりと見下ろせるわ」 「あんまり見下ろしたくないです。トラウマになりそうです」 ごうごうと轟音が鳴り響き、マイナスイオン(笑)が強烈に漂う。 「なんでわざわざ滝の上に実況席を作るんですか。それになんで下が金あ…」 ひょいと振った手が筆に当たり足元に落ちる。 カラーンと音を立て筆が金網のスキマを滑り落ち、そのまま滝へと吸い込まれて見えなくなる。 「・・・・・・・。」 「どうしたの?」 替えの筆をスキマから取り出しつつニヤニヤして阿求を見る紫。 ぶるぶると震えだす阿求。真っ青。 「もういや! ここから出して! おうちかえる!!」 「ちょww、落ち着いて! 落ち着きなさい!!」 一方スタートライン。 「第一レースはチルノと天子ですね。時間ですのでそろそろ始めましょう」 スタート及びゴールである滝の前に第一レースの選手であるチルノと天子。 更にスターター及び審判である四季映姫、タイム測定の十六夜咲夜が集まる。 「さいきょーのあたいにいどんでくるとはいいどきょうね、ギッタギタにしてあげる、かくごすることね!」 「ふん、下賎な妖精如きが天人と同じ土俵に立とうだなんておこがましい! 思い知らせてあげるわ!」 わー、と歓声が上がる。妖怪や人間が入り混じっており割と観客は多い。 「そろそろいいですか? 位置について」 映姫の指示に従いチルノと天子がラインに着く。 やかましいはずの滝に一瞬の静寂が訪れる。 「よーい」 ドン!! 「死ねえぇぇぇぇぇ!!!」 「天符「天道是非の剣」!」 ピピー! 開始早々天子に殴りかかるチルノに、いきなりのスペル宣言で斜め60°の方向にぶっ飛んでゆく天子。 そんな二人に無常にも試合終了のホイッスルが吹かれる。 「対戦者への妨害行為によりチルノ失格! 勝者天子!」 呆れたような映姫の声が勝者も敗者もいない滝に響く。 「総領娘様…」 観客席で見ていた衣玖はそっと涙を拭く。 こんな馬鹿なことをしていると天人というジャンルが軽んじられてしまうからやめてほしい。 そういう涙。 「さて、早苗。風祝の奇跡、見せてあげなさい」 「妖夢。勝つか死ぬか、好きな方を選びなさい」 「死!?」 続いてスタートラインに次なる対戦者が現れる。 再び歓声が上がり、滝が熱気に包まれる。 そんなメイン会場から少し離れた林の小道を魔理沙は一人歩いていた。 涼やかな湿気が心地よいその場所で思いに耽る。 「魔理沙」 そんな気持ちのいい一時に割り込む者がいる。 紅魔館の主。レミリア・スカーレット。 「レミリアか、何か用か?」 「用、用ね…。特にないわ。いけない?」 「そんなことはないが…」 「そうね、強いて言えばこの大会の優勝者とお話をしておきたかった、といったところね」 「おいおい、まだ優勝なんかしてないぜ。気が早いな」 「あら、魔理沙は優勝するわよ」 ざあ、と新緑鮮やかな木々が音を立てる。 驚く魔理沙にレミリアはニタリと笑ってみせる。 「運命視って奴か。詰まらない能力だな」 「ええ、まったく。勝負事や娯楽には極力排除したい能力だわ」 「見なければいいのに」 「見えちゃったのよ。今回は。パチェがあなたに高級な魔術書を泣きながらあげるところまではっきりとね」 「おいおい、そんな事言われたら運命に逆らおうという気力が湧かなくなるじゃないか。もったいない」 「いいじゃない。前祝。プレッシャーを被った魔理沙というのも一興でしょ?」 「別にいいけどさ、優勝祝いは優勝してからにしてくれ。私のモチベーションのためにも」 「優勝した後の魔理沙には大勢が殺到しちゃってゆっくり優勝祝いなんか出来そうにないもの」 そう言ってくるりと背を向けるレミリア。 「じゃあね魔理沙。あなたの優勝の瞬間、しっかりと見届けさせてもらうわ」 「さあて、本日朝から開催してまいりましたこの大会もいよいよクライマックスの時を迎えようとしております」 わーっ そろそろ日も傾きだし、ひんやりとした空気が漂いだした妖怪の山に紫の声が木霊する。 最終戦。決勝は射命丸文と霧雨魔理沙。 順当といえば順当な組み合わせ。準決勝で文に負けた妖夢の行方は誰も知らない。 「ふふふふふ。魔理沙さん、流石ですね」 「あー。残っちまった」 テンションの上がってきている文に対してあくまで平静を保つ魔理沙。 結果を知っている者の余裕という奴であろうか。 「覚悟は出来ていますか?」 「というかお前参加してたのかよ。主催者の癖に」 「何か? 主催は天狗ですよ。私個人ではありません」 「汚っ!」 しれっと言う文。鴉天狗に隙はなかった。 「魔理沙ー! 優勝賞金ー!」 「他に応援の仕方はないのか!」 笑顔で手を振る霊夢はとても嬉しそうだ。 魔理沙があたりを見渡すと様々な人妖の姿が目に入る。 不機嫌そうなパチュリー。けらけら笑う小悪魔。こっそり来ているアリス。何か売ってる妖怪兎。 魔理沙が見知っている殆どの者が集まっている。里の人間もたくさんいる。 「どうしました? これだけの観客の前で負ける事が恐ろしいですか?」 「ほざけ、そういうお前こそどうなんだ?」 「私としては望むところです。大勢の観客の前で天狗の恐ろしさを見せ付けてあげましょう」 売り言葉に買い言葉。 互いにふふふと笑い合い、そのままスタートラインにつく。 「確認しておきますが、決勝はコースが異なります。わかっていますね」 映姫の問いに黙って頷く二人。わかっているならよろしいと満足げに言う映姫。 「よーい」 その言葉にあたりが静まり返り、すべての視線が三人に集中する。 ドン!! 「幻想風靡!」 「はやっ!」 普通のスタートダッシュをかける魔理沙に対し、スペルでのチャージをかける文。 あっという間に魔理沙は突き放された格好になる。 「おいおい、派手なスタートダッシュだな。後半持つのか?」 無理をしない程度の加速を維持し、せめて見失わない程度の距離を何とか維持する魔理沙。 「スリップストリームを使わせない気だな。それなりに考えているってことか!」 文の意図に気付くものの、魔理沙は自分のペースを崩さない。 この類の勝負は自分のペースを崩したら負け。 自分の能力範囲で最大の効果をあげられるペースを維持することこそが重要となる。 人里が見えてくる。折り返しポイントの鯉のぼりを文が綺麗な軌道を描いて折り返す。 それを見て地上から歓声が上がる。残っている里の人間だろうか。多くの者が鯉のぼりの下に集まっている。 折り返しを終え、帰りの直線に入ろうかという文と魔理沙が距離を置いてすれ違う。 文が魔理沙を見、魔理沙が文を見る。 文が口元に一枚のカードを掲げている。 突風「猿田彦の先導」 「マジかっ!?」 鯉のぼりを回り込みながら魔理沙は悪態を吐く。 この長くないコースで2枚だと!? 使えるスペルはせいぜい1枚だと思っていた魔理沙にとって、文の2枚目のスペル宣言はまさに暴挙と言えた。 持つはずがない。そう思っていた。自分がそうだから。 「伊達に妖怪はやってないか! こん畜生!」 愚痴りながら鯉のぼりを回りきり、再加速に入る。 ここからはいつも遊びでやっているコースとまるっきり同じ。 もはやゴマ粒ほどにしか見えない文をしっかりと見据え、限界まで速度を上げていく。 何の事はない。いつもやっていることじゃないか。 ゴマ粒が米粒になり、小豆になる。そのあたりで魔理沙は自らの最高速に達したと悟る。 ここだ 一本だけある大きな松、少しばかり癖のついた杉林。 その風景を捉え、魔理沙は一枚のスペルカードを取り出す。 彗星「ブレイジングスター」 やれた。最高のタイミング。この前とまったく同じタイミングでの宣言。 体に感じる衝撃、流れ行く風景。それらすべてがまったく同じ。 違う点は、目の前でどんどん大きくなってゆく天狗の姿。しかし、更にその先にはこの前と同じ風景が広がっている。 苔のむした岩肌。もみじの雑木林。落ち葉で埋まる池。 そして見えてくる谷。これを抜ければ滝。 岩を潜りカーブを曲がりきれば、 ―そこが、滝だ…。 魔理沙はブレイジングスターによる速度を抑えるべく制動をかけ始める。 クッと体にかかる荷重。慣れ親しんだ感覚。 この後は重心を左に倒し、箒を持つ手を引き上げればよい。 それをすることで箒は適切に左折を始め、やがて見知った滝の全体が見えてくる。 ―本当に? どこからか聞こえてくる疑問に魔理沙はびくりと身を固める。 ―本当に滝が見えてくるの?その前に何かなあい? 問と共に魔理沙の脳裏に何者かの影が横切る。 忘れようと思っていたもの、そして今まで忘れていたもの。 ―思い出しましたか? 隣から聞こえるその声に魔理沙は我に返り振り向く。 前にいたはずの相手がいつの間にか隣にいた。 風圧で乱れた髪が顔にかかり文の表情は伺えない。 ただ、不敵に歪む口元だけが覗き魔理沙に笑いかけている。 ―お前は ―天狗ですよ。知っているでしょう とん、と文の足が魔理沙の箒を蹴る。 そのほんのわずかの力が箒の軸をぶらし、魔理沙がかけていた制動の意味を違うものへと変えてしまう。 ―こんなところで…。正気か? ―ええ、正気ですとも。いったい何の問題が? 文が魔理沙の視界の中心から右へと飛び去ってゆく。 上下左右の感覚が不意に失われ、時間の感覚までもが失われる。 魔理沙は狂った感覚から逃れようと反射的に目を閉じる。 浮かんでくるのはあの時の、この後カーブを曲がりきったその後の光景。 そこにいるのは魔理沙に気付き、驚いて目を見開く白狼天狗。 反射的に避けようと意識を巡らし、そして即座に避けられないと悟り絶望へと変じる表情。 かつて無いほどに近づき、彼女はふと表情の中に笑みを混ぜ、 そして― 真っ赤に染まった光景から魔理沙は意識を戻す。 そっと目を開けると空が見えた。 左から右へとゆっくりと穏やかに動く世界。 霊夢がいる。紫がいる。阿求、アリス、レミリア、パチュリー・・・ 誰もかも、驚きで目を見開いている。 …レミリアは、そうでもない。 霊夢や紫は状況判断が早いのか、腰が浮きつつもその表情に理解とあきらめが混ざり始めている。 ああ、そういうことなのか…。 それを見て、魔理沙も悟る。 これは、復讐なのだ。 理解と共に訪れる感情。 分かっていたはずなのに、のこのここんな大会に出てきて馬鹿みたいだ。 自嘲気味に呟き、馬鹿馬鹿しいことのように箒から手を離す。 観衆をぐるりと一周見渡すと、魔理沙の目には切り立った岩肌が映る。 ぐんぐんと近づくその光景を見て、魔理沙はあの時の彼女と同じように笑みを浮かべる。 目を閉じると、そこにはあの時の続きがある― ---- - どういうことだってばよ!? -- 名無しさん (2009-05-27 18:34:17) - レースのちょっと前に魔理沙が椛に衝突したからその復讐ってこと? -- 名無しさん (2009-05-28 00:22:09) - 魔理沙のサイコロステーキ -- 名無しさん (2009-05-28 12:54:31) - ・魔理沙と誰か(文?)が遊びでスピードレースをする。 &br() ⇒レース中に魔理沙と椛が滝で衝突。魔理沙は生存。椛のその後は不明だがおそらく死亡? &br() ⇒あれは事故だと決めつけ忘れようとする魔理沙。 &br()  一方文は復讐を果たすためにレースを企画し、椛と同じように事故死(に見せかけて殺害)させようとした? &br() ⇒一行目へ &br() &br()こんな感じと予想してみた。 -- 名無しさん (2009-05-29 14:36:44) - ほんとにどういうことなの!? -- J (2009-10-24 16:25:07) - 久しぶりに、魔的なレミリアお嬢様を見た。 &br()とりあえずパチュリーが不憫だ。 -- 名無しさん (2010-11-03 01:35:28) - ↑↑↑でもそれってたまたまそこに居た椛が運悪かっただけであって魔理沙のせいではないかなって思う。 &br()復讐を企てた文やそれに載った霊夢も悪いと思う。 &br()……霊夢は金に釣られただけか? -- 名無しさん (2010-11-04 00:36:03) - 魔理沙カッケ~ -- カードキャプターさくら (2013-12-26 15:35:32) - 無限ループって怖くね? -- 名無しさん (2014-01-07 13:49:14) - ざまぁwwww -- 名無しさん (2016-02-29 03:27:48) - 死んだ怖え &br()レミリアさん怖いねw -- よく分からん (2017-05-20 18:28:40) - 「天狗ですよ」って言ってるから、この復讐自体が文だけじゃなくて天狗全体の総意だったのかもね -- 名無し (2017-05-31 06:59:28) - ↑↑↑↑↑↑運とかじゃなくてアホみたいにスピード出す魔理沙が悪いんじゃねえの? &br()アレよ、スピード違反が原因の死亡事故みたいな -- 名無しさん (2017-06-13 01:31:00) #comment(vsize=2,nsize=20,size=40)

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