~合宿4日目・朝・山小屋~

律「…」

律「…ん」

律「…」

律「しまった!何時の間にか寝て…」

律「!」

律(やばい、もし奴が近くに居たら…)

律(…)

律(誰も…居ないのか?)

律「和…」

律「和、起きてるか?」

律「和、起きてたら返事をしてくれ!」

紬叔父「残念だな、寝てるよ」

律「!」

紬叔父「誰も居ないと思ったか?居ない訳が無いだろう」

律(くっ…)

紬叔父「喋るなと言ったはずだが、まあ良い」

紬叔父「食事の時間だ、これを食べろ」

紬叔父「手を使わなくても食べられるはずだ」

律(何だこれ?ゼリー飲料か?)

律(何が入ってるか分からないのに、素直に食べるはずがないだろ…)

紬叔父「毒でも入ってるんじゃないかと思っている様だが」

紬叔父「殺そうと思えば何時でも殺せるんだぞ?」

紬叔父「食べないのなら別にそれでも構わん」

紬叔父「そのまま衰弱死するだけの事だ」

律(確かにそうだ)

律(食べなくても結果は同じ、だったら少しでも体力を落とさない様に…)

紬叔父「そうだ、人間素直なのが1番だぞ」

律(何を言ってやがる)

紬叔父「さて、食べ終わった所で良い事を教えてやろう」

紬叔父「今食べた物の中には、丸一日は目を覚まさないであろう睡眠薬が入っている」

紬叔父「もっとも…次に眠った時が最後、二度と目を覚まさないだろうがな」ククク

律「何!どういう事だ?」

紬叔父「言ったままの意味だよ」

紬叔父「目隠しされていては隣りの状況も分からないだろうが」

紬叔父「もう1人のお友達は既に眠ってしまった様だな」

律「和…」

紬叔父「薬が効いてくるまでは約1時間」

紬叔父「私も暫くの間は退屈だ、話し相手になってやっても良いんだぞ?」

律「何でこんな事を…いや、そんな事を聞いても意味が無いな」

紬叔父「そうだな、全くの無意味だ」

律(何か…何でも良い、あたし達が助かる為の情報が欲しい)

律(こいつの計画に何か穴は無いのか?)

律(例えば…雪崩はどうなんだ?)

律(あれが偶然かどうかで、みんなが脱出出来る可能性が違って来るぞ)

律「それにしても、運が良かったな」

紬叔父「何がだ?」

律「偶然雪崩が起きるだなんて」

律「もしあれが無かったら、最初に脱出した2人が警察に駆け込んで」

律「お前もその時点で逮捕されてただろ?」

紬叔父「ああ、あの雪崩の事か…確かに運が良かった」

紬叔父「偶然にも花火が打ち上がるタイミングで雪崩が起きた様だが」

紬叔父「誰かが爆薬でも仕掛けたのかな?」ククク

律(駄目だ、それも計画的だったんだ…)

紬叔父「何故そんな事を聞いたのか当ててやろうか?」

紬叔父「今朝になって3人脱出したみたいだが、1人は帰って来た」

律(帰って来た?憂ちゃんは動けないだろうから、それを心配した唯か?)

律(じゃあ、澪と梓が…)

紬叔父「残った2人に期待しているんだろう?無駄だよ」

紬叔父「あの雪崩は歩いて越えられない位の規模で発生している」

紬叔父「それに途中で力尽きる様に、手も打ってあるからな」

律(そんな…もう、何も希望は無いのか…)

紬叔父「ん?これは…建物の中でも面白い事が起こっているぞ」

律(何だ?意識が遠のいて、何を言ってるのか…)

紬叔父「特別サービスだ、お前にも聞かせてやろう」

律(…この声は…唯…と…憂ちゃん)

紬叔父「こういう形で罠に引っ掛かってくれるとは…」

紬叔父「手間が省けて助かるよ」

律(…)

紬叔父「建物を離れた2人もそう長くは動けないだろう」

紬叔父「残る1人は籠の鳥だ、部屋から1歩も動くまい」

紬叔父「電話にしかけた罠も無駄になるだろうが、まあ良い」

紬叔父「…」

紬叔父「もう眠ってしまった様だな」

紬叔父「よし、先に建物を離れた2人を追う事にしよう」

紬叔父「あまり遠くまで行かれてしまうと、回収する手間も大変だからな」




律(…)

律(ふふっ…ふふふっ…)

律(最後に1つだけ…たった1つだけ…可能性ってやつが…見えて来たじゃないか…)


~建物の前~

紬叔父「こんなに近くに倒れているとは…私は運が良い」

紬叔父「まずはこの2人を運んで、次は山小屋の3人だな」

~山小屋~

紬叔父「ふぅ、流石に4人を運ぶのは疲れるな」

紬叔父「怪我は大した事が無かった様だが…結果的に死ぬのは同じ事だったな、紬」

紬「2日目の昼、スキーが上手く滑れなくて…私はこの近くまで来てしまった」

紬「中がどうなってるのか覗いたら…叔父様、あなたが居た」

紬「何故って思ったけど、最初から私を殺す事が目的だったのね…」

紬叔父「そうだ、だが普通に殺してしまったのでは」

紬叔父「私も疑われてしまうのは判り切った事」

紬叔父「お前が此処を借りたいと言って来た時に、これは利用出来ると思った」

紬「あの小説も貸して、これを参考にして練習書きしてみると良いと言ったのは…」

紬叔父「当然この為だな、途中での修正作業もご苦労だった」

紬叔父「書き上がったシナリオを喜んで見せに来た時には、流石に笑ってしまったよ」

紬「叔父様、あなたの目的は全員を殺す事では無かったはずよ?」

紬「私は最初に書いたシナリオの通りに6人全員を殺そうとした…」

紬「絶望感を与えながら…生きたまま一箇所に集めて、最後にまとめて殺す」

紬「でも最後の段階で躊躇してしまって、罪の意識を感じて自殺してしまう」

紬「例え未遂であってもそれだけの事をすれば、お父様の名誉にも傷が付く」

紬「それで目的が達成されるはずじゃ無かったの?」

紬「そうすれば、建物に仕掛けた爆破装置を作動させないって」

紬「私以外の全員を生かして帰してくれるって約束だったのに…」

紬叔父「それを信じたのか?」

紬「…」

紬叔父「爆破装置は単なる脅しだったが、本当かどうかをすぐに調べる術は無い」

紬叔父「人質を1人手に入れるまでの時間稼ぎとしては、十分な効果があった」

紬叔父「私が此処に居た事で、全てが計画的だと思った時点で負けだったな」

紬叔父「お前の事だから、万が一を考えて従わざるを得なかっただろうよ」

紬叔父「だが、約束を信じていなかった事は丸分かりだ」

紬叔父「途中から妙に協力的になったが、そんな事で私は油断しない」

紬叔父「だからこそ何かをされる前に退場して貰った」

紬叔父「それに、例え最後までやり遂げる事が出来たとしても」

紬叔父「残りの6人には何か気が付かれている可能性がある」

紬叔父「生かして帰す気は最初から無かった、全員に死んで貰う予定だったんだよ」

紬(やっぱり…そういう事だったのね…)

紬(だからこそ、私はシナリオを修正する時に矛盾を作った…)

紬(それに…気が付いた?)

紬叔父「シナリオ通りに進めるのであれば、お前は生き残るつもりだった事になる」

紬叔父「であれば、誰か別の犯人役を用意しておく必要がある訳だ」

紬叔父「それはお前の提案した通り、平沢憂という娘にしておく」

紬叔父「犯人役として適しているかどうかは私には分からん」

紬叔父「だが、この偽装は100%見破られる事が前提だから何も問題は無い」

紬叔父「お前が誰か別に犯人が居ると思わせたい、そう考えた様にする為だからな」

紬(見破られても問題が無いだなんて…)

紬(ふふっ、別の意味で見破られる事には何も気が付いて無いわね…)

紬(これで少なくとも、私達7人の中に犯人が居なかった事は分かって貰えるはずよ)

紬(後は私達が生き残る為の、最後の希望には気が付かないで欲しい…)

紬叔父「この事件がどういう風に捜査されるのかは分からん」

紬叔父「このシナリオがある限り、偽装がすぐにバレる事は間違い無い」

紬叔父「そしてお前が大量殺人を企てたという推測が成り立つだろうが」

紬叔父「本当にお前にそれが出来るかどうかで、見解が分かれるかもしれない」

紬叔父「だが、どういう風に考えられても問題は無いんだよ」

紬叔父「睡眠薬で寝かせておいてそのまま焼死という事になれば」

紬叔父「死亡推定時刻は殆ど一緒、明らかに他殺と分かる死体は1つも無いのだから」

紬叔父「悪くとも、これを元にした遊びの延長上で起こった事故だと思われる」

紬叔父「事件・事故どちらであっても、お前が計画した事に変わりはない…完璧だよ」

紬叔父「さて、お前もそろそろ意識が無くなる頃だろうが…」

紬叔父「最後の1人をどうするか迷っている」

紬叔父「ここまで上手くいったんだ、下手に抵抗されたくはない」

紬叔父「参考までに意見を聞いておこう、どうすれば良い?紬」

紬「憂ちゃんは頭の良い子よ、下手に手出しをしたら…」

紬「やられる可能性、あるかもしれないわよ?」

紬叔父「その割には姉の話にショックを受けて、何も出来なくなってしまったな?」

紬(それは…唯ちゃんにあんな事を言われたら…当然よね…)

紬叔父「まあ良い、どうせこのまま動けずに焼け死ぬだけだ」

紬叔父「お前を処理した後は、そのまま此処を離れる事にしよう」

紬叔父「これ以上、此処に留まっているのは危険だからな」

紬(そうだわ…来る時には他の宿泊客に…紛れ込む事も出来た…)

紬(そのままこの山小屋に…隠れている事も出来たけど…)

紬(どうやって…此処から…脱出する…つもり…なの…)

紬叔父「この山小屋の存在はお前も知っていた様だが」

紬叔父「更に奥に行けば、山の裏側へ抜けるルートがあるのは知らなかったかな?」

紬叔父「最短で抜けられる様に、目印も予め付けておいた」

紬叔父「多少命懸けにはなるが、装備は万全だ」

紬叔父「今朝脱出した2人の様にはならないだろうよ」

紬(…)

紬叔父「眠ってしまったか…では、最後の仕上げをするかな」

紬叔父「お前を運び込んで発火装置をセット、それで終わりだよ」

紬叔父「恐らく事故だと考えられる可能性の方が高いだろうが」

紬叔父「事件だと考えられたなら、最後は罪の意識を感じて自殺という事になるかな」

紬叔父「紬、私はちゃんと約束を守ってやったぞ?」

紬叔父「もっとも、6人は死んでしまうという些細な違いはあったがな」ククク

紬(…)

紬(何を言ってるのか…もう…分からない…)

紬(でも…最後の希望には…まだ気が付いてない…それだけは…分かったわ…)


~合宿5日目・夕方・ペンション跡~

紬叔父「何故だ…」

紬叔父「紬!何故生きている!」

紬「私だけじゃないのよ?」

紬「7人全員生きているわ」

紬叔父「…何故だ…馬鹿な!あり得ない!」

紬叔父「全員を集めて発火装置をセットしたはずだ!」

紬「全員?嘘でしょ」

紬「叔父様は油断して、1人だけ例外を作ってしまった」

紬叔父「例外?あの罠が作動しなかったのか?」

紬叔父「いや、そもそも最後の1人は歩けない状態だったはずだ!」

紬叔父「罠にかかろうとかかるまいと同じ事」

紬叔父「そのまま焼け死んでいなければおかしい!」

紬「実はね、罠自体は作動したのよ」

紬「憂ちゃんが唯ちゃんを想う力は私にも計算外だったわ」

紬叔父「では何故!」

紬「だから言ってるでしょ?例外が1人だけ居たって」

紬「罠自体は唯ちゃんを引っ掛ける為でもあったんだけど…」

紬「その唯ちゃんが自殺を考えたから」

紬「叔父様は油断してそれ以上は何もしなかった」

紬叔父「まさか…」

唯「そう、そのまさかだよ!」

唯「私はちゃんと生きてるからね」

紬叔父「お前は!妹が犯人だと思い込んで自殺したはずでは!」

唯「あ~、そう言えばそんな感じだったかな?」

唯「あれはもう、自分で自分を褒めてあげたい位の名演技だったね~」

唯「私だって、やる時にはやるんだよ?って感じかな」



~合宿4日目・夕方・山の中~

ピピ…ピピ…ピピ…(お姉ちゃん、朝だよ~)

唯「…」

ピピ…ピピ…ピピ…(お姉ちゃん、朝だよ~)

唯「…はっ!」

唯「危ない危ない、ほんとに寝ちゃう所だった」

唯「目覚まし時計、持ってて良かったよ~」

唯「周りには…誰も居ないね」

唯「どうしよう、憂の事も気になるし」

唯「澪ちゃんとあずにゃんもどうなったか分からない」

唯「すぐに戻った方が良いのか、もう暫く待った方が良いのか…」

唯「…あれ?」

唯「そう言えば、とにかく遠くへって考えて歩いてただけだから…」

唯「戻る時の事、考えて無かったよ!」ガーン

唯「うわ~ん、どうしよう~」アセアセ


~合宿5日目・夕方・ペンション跡~

唯「いや~、良く戻って来れたよね~」

紬「…危ない所だったのね」

紬「でも、良く修正したシナリオの矛盾に気が付いてくれたわ」

紬「流石は唯ちゃんね」

唯「憂のバッグにはそれとしか考えられない物が入ってた」

唯「でも、憂が犯人だなんてあり得ない」

唯「じゃあ誰が?って思ったんだけど…そこまでは私にも分からなかった」

唯「でもこれだけは分かったんだよ、犯人は私にそう思わせたいんだってね」

唯「それに、そんな風に思わせる位なんだから結果がどうなるのか気になるよね?」

唯「それを何処かで見てるんじゃないかなって思ったんだ」

唯「だから何とかして私が騙されてるフリをしたかった」

唯「普通に逃げ出しただけじゃ、誰かが見張ってたらアウトでしょ?」

唯「追いかけられない方法は何か無いかなって必死に考えたんだけど」

唯「上手くいったみたいだね~」

唯「その後も結構綱渡りだったけど」

唯「戻る途中で山小屋を見付けたのがラッキーだったよ」

唯「みんなを必死で起こして…まだ全然起き上がれる状態じゃ無かったけど」

唯「あの建物に居ると危ないってムギちゃんが教えてくれて…」

唯「私1人でみんなを頑張って運んだ」

唯「そのすぐ後で建物が燃え出したから、正に危機一髪だったね」

唯「やっぱり、私の日頃の行いが良かったからかな?みんなが助かったのは」

紬「…」

さわ子「…」

唯「…」

唯「嘘です、調子に乗りました…」

さわ子「そうね、唯ちゃん1人の日頃の行いじゃないと思う」

さわ子「みんなの仲の良さが最後に奇跡を起こした…そう思いたいわね」


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