~食堂~
紬「そう、そんな事があったの…良かったわね」
和「ええ…」
紬「それで、りっちゃんは今どうしてるの?」
和「寝ちゃったわ」
和「風邪を引かない様に布団はかけてあげたけど」
和「ちゃんと被ってるかどうか心配だから、これを飲んだらすぐに戻るわね」
紬「そんな事言わずに、もう1杯どうかしら」
紬「結構自信があるのよ?紅茶の淹れ方」
和「そうね、ほんとに美味しいわね…それに、体が温まるわ」
和「もう1杯、頂こうかしら」
紬「ええ、どうぞ」
和「昼間はあんな事言っちゃったけど、ごめんなさい」
和「やっぱりお礼を言わせて貰うわ、紬、ありがとう」
紬「うふふっ、どういたしまして」
紬「後は、全部私が悪かった事にしちゃえば良いって事ね」
和「紬…やっぱり私、律には全部正直に言いたいわ」
和「全部正直に言ってから…それから律の事、好きだって言いたい」
紬「りっちゃんが和ちゃんの気持ちを受け止めてくれたとしても」
紬「和ちゃんはこの状況があったから、吊り橋効果のおかげだって思っちゃうから?」
和「ええ…その…通り…よ…」
紬「そんな事は無いと思うんだけどな…」
紬「でも、確かに焦る必要は無いかもしれないわね」
紬「和ちゃんの恋は始まったばかりなんだから」
紬「ゆっくりと気持ちを確かめていくのも良いかも…」
紬「…」
紬「和ちゃん?」
和「…」
紬「和ちゃん?」
和「…」
ユサユサッ…ユサユサッ…
和「…zzz」
紬「そう…やっと、寝てくれたのね…」
紬「ごめんなさい、和ちゃん」
紬「今実行しているシナリオ、最初に和ちゃんにも見せたわよね?」
紬「私と役を交換してしまうと…」
紬「1つ目のシナリオ、そのまま実行出来ちゃうのよ」
~山小屋~
和「うっ…」
紬「気が付いたかしら?和ちゃん」
和「紬…その声は紬なの?」
紬「ええ、私よ」
和「此処は何処?真っ暗で何も見えないんだけど」
紬「和ちゃんには話したわよね、あの建物の奥にある山小屋の中よ」
和「山小屋の中…」
和「ちょっと待って、暗いのは夜だからって思ったけど」
和「私、目隠しされてるの?」
紬「そうみたいね」
和「それに何?どうして動けない訳?」
紬「だって和ちゃん、手も足も縛られているんだもの」
紬「動ける訳がないじゃない」
和(この展開…何処かで見た記憶が…)
紬「でも和ちゃんは流石ね、こんな状況なのに冷静で居られるなんて」
紬「まるでこうなる事が分かってたみたい」
和(やっぱり…)
和「紬、あともう1つだけ聞くわ」
紬「何?」
和「私の状況は理解した…紬、あなたも私と同じ状況なの?」
紬「違うわね」
和「…」
和「そう…つまり私は…」
和「紬が見せてくれた1つ目のシナリオ、その最初の犠牲者って訳ね」
紬「その通りよ」
和(思い出して来た、あのシナリオ通りなら次の犠牲者は確か…)
和(律!律になる!)
和(でも、まだ紬の目的は分からない)
和(単に私だけを狙ってという事も考えられる)
和(そうじゃ無かったとしても、私だけを狙う様に…)
和(私だけを恨む様に、紬を怒らせてみる?)
紬「他に聞きたい事は?」
和「今の所は別に、何も無いわね」
紬「あら?どうして私がこんな事をするのか、聞きたくないの?」
和「ええ、聞きたくないわ」
和「言いたかったら言う、言いたくなかったら言わない、それだけの事でしょ?」
和「何か言いたい事があるのなら、勝手に言ってれば良いんじゃないの」
紬「…」
紬「和ちゃん、そんな言い方って酷いと思うな」
紬「そんな風に言われたら…私、いじめたくなっちゃうじゃない」
和「良いわよ、やれば良いでしょ」
紬「ええ、たっぷりといじめてあげるわ…」
紬「和ちゃんの大好きな…大好きなりっちゃんをね」
和「!?」
和「待って!紬!律は止めて!」
紬「和ちゃん、りっちゃんだけじゃないのよ?みんな一緒にいじめてあげる」
和「じゃあ紬は、あのシナリオを本気で…」
紬「ええ、実行する気よ?」
和「そんな…」
和(だとしたら…駄目、紬の事は誰も疑ってない)
和(みんなこのまま…捕まってしまう…)
紬「もう夜が明けて来たみたいね」
紬「今夜のお楽しみに備えて、私はもう寝る事にするわ」
紬「和ちゃん、ラストの瞬間まではちゃんと生かしておいてあげるから…」
紬「じゃ、おやすみなさい」
ガチャッ
和(隣の部屋に行ったの?)
和(でも、今ほんの少しだけど足音が…)
和(足音が2つ聞こえた気がするのは…気のせい?)
紬「りっちゃんを説得して連れ出す自信は無いけど…でもね」
紬「連れ出すだけなら…お芝居じゃ無かったら、そんな回りくどい方法は必要無い」
紬「それは今夜にでもやらせて貰うわ」
紬「残った4人は…憂ちゃんの怪我は予想外だったけど、シナリオの修正は出来る」
紬「脱出を目指すなら、澪ちゃんと梓ちゃんだけね」
紬「もしそうなったら2人には途中で眠って貰う、町までは辿り着けない」
紬「歩いて行ける距離なんてたかが知れてるわ」
紬「眠っている所を連れ帰す事もそんなには難しくはないはず」
紬「唯ちゃんは憂ちゃんを置いては行けないから此処に残ると思う」
紬「警戒もしてるでしょうから、まずは2人を引き離した方がやり易いわね」
紬「唯ちゃんには憂ちゃんを犯人だと思い込ませれば、一緒には居られないはずよ」
紬「多分1人になりたいと思うから、そこを襲いましょ」
紬「もし1人にならなかったら、絶対に部屋を出たくなる罠を仕掛けておくの」
紬「憂ちゃんは動けないから、そのまま放っておいても構わないわ」
紬「それで全てが終わる…そう、全てが終わるのよ」
~合宿3日目夜・食堂~
バチンッ
律「何だ?停電か!?」
律(落ち着け、落ち着くんだ…)
律(…)
律(確か、部屋の入り口の壁に懐中電灯があったよな?)
律(まずは壁を探して…よし、この壁伝いに行けば安全だな)
律(そろ~っと、そろ~っと…段々目も慣れて来たな)
律(ん?何だ?…誰か居る!)
ゴツンッ
律「痛っ!」
紬「りっちゃん、痛いじゃない…」
紬「ちゃんと前を向いて歩かないと駄目よ?」
律「え?」
律「む…」ムギュッ
紬「りっちゃん、大声を出さないで?」
紬「今大声を出すと危険よ、分かった?」
律「…」コクコク
紬「じゃあ、手を離すわね」
律「ぷは~」
律「ムギ!無事だったのか!」
紬「し~っ、大声を出しちゃ駄目って言ったでしょ?」
律「あ、そうだったな」
紬「うふふっ、りっちゃんは素直だから…大好きよ」
律「は?何だよいきなり…て、照れるじゃないか///」
グサッ
ポタッ…ポタッ…ポタッ…
律「え?」
律「ちょっと待てよ、ムギ…」
律「な、何でだよ…」
~合宿5日目・夕方・ペンション跡~
さわ子「この事件の犯人は、1人しか考えられません」
紬叔父「まさか、紬が犯人だと言うんじゃないでしょうね?」
さわ子「紬さんはこの合宿の発案者、条件としてはぴったりですね」
紬叔父「馬鹿な!紬がそんな事をする訳が無い!」
さわ子「…」
さわ子「ふふっ…ふふふっ…」
紬叔父「…何がおかしいんですか?」
さわ子「いえ、この事件の犯人の事を哀れんでいるんですよ」
さわ子「計画通りに行ったと思っているんでしょうけど」
さわ子「何て馬鹿なんだろうって」
さわ子「憂ちゃんを犯人に仕立て上げるなんて、本当にお馬鹿さん」
さわ子「計画的?突発的?」
さわ子「そんなの、全く関係無いんです」
さわ子「憂ちゃんがみんなを殺そうとするだなんて…」
さわ子「そんな事、絶対にあり得ないんですよ」
さわ子「それに、唯ちゃんはそのまま死なせてあげてですって?」
さわ子「笑ってしまう位にあり得ない」
さわ子「もし本当に唯ちゃんが自殺しようとしたら」
さわ子「憂ちゃんなら例え可能性が0であっても唯ちゃんを助けて欲しい」
さわ子「探し出して欲しいって言うはずです」
さわ子「もっと笑ってしまうのは…その程度の事、私にだって分かるんです」
さわ子「みんなの事を何時も見守っている紬さんであれば」
さわ子「それが分からないなんて事、絶対にあり得ない」
さわ子「あの子達はとても深い絆で結び付いてる」
さわ子「それが犯人には全く理解出来ていなかった様ですね」
紬叔父「さっきから何を…いや、何が言いたいんですか?」
さわ子「簡単な事ですよ、紬さんを含めて此処に集まった7人に犯人なんて居ません」
さわ子「犯人はそれ以外で、この合宿の事を知っていた人物」
さわ子「もちろん私ではありません」
さわ子「私は合宿期間中には此処から遠く離れた学校に居ました」
さわ子「それは多数の方が証言してくれます」
さわ子「それに第一、私が犯人だったらこんなヘマはしませんから」
紬叔父「…」
さわ子「消去法で考えれば…誰が犯人なのか、お分かりになりますよね?」
さわ子「この事件の犯人は…」
紬「犯人は叔父様!あなたよ!」ズビシッ
紬「…」
紬「き、決まったわ!」ジーン
さわ子「…」
さわ子「それ、普通に考えたら私の台詞でしょ…」
紬「ごめんなさい、さわ子先生」
紬「どうしても言ってみたかったんです」ウフフ
さわ子「そこの木の陰でずっとタイミングを見てたのはこれだったのね…」
紬「美味しい所だけ貰っちゃいました」
紬叔父「つ、紬…」
紬「どうして生きてるの?って顔をしてるわね」
~合宿3日目・夜・食堂~
律「何でだよ…」
紬「りっちゃん…い、痛い…」
律「何でムギが…ムギが、刺されてるんだ…」
紬叔父「大声を出さないのは紬の言った事を守っているから…では無さそうだな」
紬叔父「人間、あまりにも予想外の出来事が起きた場合、意外と声は出ないものだ」
紬叔父「まあ叫んで貰っても構わないんだが…」
紬叔父「その場合は2人共、今すぐに死んで貰う事になるぞ」
紬「嘘…どうして…約束が…違…う…」ドサッ
律「ムギ…」
律「嘘…嘘だろ?」
紬叔父「嘘では無い、これは現実の出来事だ」
紬叔父「このままでは紬は失血死する」
紬叔父「死なせたくなければ大声を出すな、話を良く聞け」
律「あ、ああ…ど、どうすれば良いんだよ…」
紬叔父「紬は私が担いで行く、お前は私の後を付いて来い」
紬叔父「言っておくが、もし何か変な事を考えたら…紬の命は無いものと思え」
紬叔父「おっと、私がそれを言うのはおかしいな…言い方を変えよう」
紬叔父「真鍋和とかいう娘の命は無いものと思え」
律「和…和だって!?」
紬叔父「大声を出すなと言ったぞ?」
律「あ、ああ…わ、分かったよ…」
紬叔父「よし、では行くぞ」
~山小屋~
律「和!」
和「その声は…律?」
律「生きて、生きてたんだな…」
紬叔父「感動のご対面だな」
…
…
…
律「縛った上に目隠しか、手も足も出ないとはこの事だな…」
紬叔父「口を開くのはそこまでだ」
紬叔父「次に口を開いたら、二度と閉じる事は出来なくなると思え」
律(…)
律(いっそ大声で叫ぶか?)
律(必死だったからどれ位歩いたのか分からないけど)
律(建物まで声が届けばあるいは…)
紬叔父「言っておくが、今更大声を出しても無駄だぞ?」
紬叔父「あの建物まで声が届く程、此処は近くない」
紬叔父「雪がこのまま降り続ければ足跡を辿る事も出来なくなる」
紬叔父「此処を見付ける事もまず不可能だな」
律(随分と色々喋ってくれるんだな…)
律(まあ、今更何をしても無駄だって事だろうけどよ)
律(それよりムギは、ムギは無事なのか?)
紬叔父「紬の事が気になるか?」
紬叔父「止血はしておいたが、どうだろうな」
紬叔父「残りは4人、人数が少なくなればこちらとしてもやりやすくなる」
紬叔父「2~3日生きていてくれれば何の問題もない」
律(くっ…)
律(何か言ってやりたいけど、今は何を言っても無駄だ)
律(状況を整理して考えるしかない)
律(犯人はこいつ1人なのか?)
律(だったら、何時かは此処から離れるはずだ)
律(そうすれば、和から色々と聞く事も出来る)
紬叔父「1つだけ言っておこう」
紬叔父「私は暫くの間、此処を動かないぞ?」
律(動かない?どうしてだ?)
律(此処から動かなかったら、建物の中に居る4人には何も出来ないぞ?)
紬叔父「4人が1つの部屋に集まってるな」
紬叔父「脱出の相談をしているが…ふふっ、無駄な事だ」
律(見てもいないのに、何でそんな事が分かる?)
律(いや、見てるのか?)
律(監視カメラだ!)
律(気付いてたんだ…あたしも、他のみんなも)
律(でもあれはムギの仕業だと思って、誰も何も言わなかった)
律(合宿を出来るのはムギのおかげだから、その位のいたずらは許してやろうって)
律(その内みんな忘れてしまって…)
律(まさかこんな事に利用されているとは…)
律(このままじゃ4人が危ない)
律(何か、何か手は無いのか?)
律(何か、手は…)
最終更新:2011年04月29日 19:12