~合宿4日目・夜・学校職員室~

さわ子「溜まってた仕事、やっと終わったわね」

さわ子「もう少し早く終わってくれれば、途中からでも合宿に参加出来たのに」

さわ子「でも明日帰って来ちゃうんだから、今更よね」

(次は火事のニュースです)

さわ子「火事?冬場は空気が乾燥してるから、私も気を付けないと…」

(今日午後6時頃、○○県○○市○○で起こった火事は…)

さわ子「…え?」

さわ子「確かそこって、あの子達が合宿をするって言ってた場所じゃ…」

(…辺りに民家は無く、山火事の恐れは無い模様)

(ただ、消火活動自体は難航しており)

(建物の火は手が付けられない状態が続いています)

(現場へ繋がる唯一の道路では広範囲での雪崩が確認されており)

(車両での接近が出来ない事も消火活動を妨げています)

(その為、警察・消防は現在もヘリコプターから状況を見守るしかなく…)

さわ子「他のチャンネル…いえ、ネットで調べた方が確実ね」


さわ子「間違い無いわ、○○県○○市の山奥にあるペンションって言ったから…」

さわ子「でも、誰かが発見されたとは書かれてない…どういう事?」


~合宿5日目・夕方・ペンション跡~

さわ子「…」

さわ子「酷いものですね、殆ど何も残らない位に焼けてしまうなんて…」

警察「普通の火災では此処まで燃えてしまう事はあまりありません」

警察「何かの事故では無く放火…」

さわ子「放火?」

警察「ええ、それも意図的に建物を全焼させる様な火の付け方をした可能性があります」

さわ子(嘘でしょ…あの子達がそんな事をするなんて考えられないわ)

警察「何か気が付いた事はありませんか?」

警察「本来であれば部外者であるあなたに伺う内容ではないのですが」

警察「此処で合宿を行っていたとされる7人について」

警察「全員を良く知っている方という事なので」

警察「特別にこうして現場にも来て頂いているのです」

さわ子「気が付いた事って言われても」

さわ子「私は此処で合宿をするという話を聞いただけですし」

さわ子「その時も普段と変わりは無かったと思いますけど…」

警察「そうですか…では、何か思い出した事でもあれば言って下さい」

警察「帰りのヘリが出発するまでには少し時間があります」

警察「それまでの間は、ロープの内側に入らなければ何処を見て頂いて構いません」


さわ子「何処を見てもって、こんな焼け跡を見ても何も思い付かないわよ」

さわ子「…」

さわ子「とりあえずこの状況を学校にも報告して…」

さわ子「あ、そう言えば昨日の夜からメールをチェックして無かったわね」

さわ子「何通か来てるけど、どうせDMでしょ」

さわ子「…え!このメールは!?」


さわ子「私は和ちゃんと一緒に此処へやって来ました」

さわ子「そうしたら偶然にも軽音部のみんなが合宿をやっていて…」




さわ子「…以上です」

さわ子「何故こんな事をしてしまったのかは、どうしても言えません」

さわ子「でも、全て私がやった事なんです」

さわ子「いえ、違いますね」

さわ子「お姉ちゃんだけは自殺しました」

さわ子「今頃は、何処か山の中で死んでると思います」

さわ子「出来ればそのまま、死なせてあげて下さい」

さわ子「これからこの建物に火を付けます」

さわ子「死んでしまった後でも寂しくない様に、みんな一緒です」

さわ子「では…さようなら、先生」

さわ子「私宛だけって事は無いと思うから」

さわ子「ご両親や友達にも同じメールを送ってるかもしれないわね」

さわ子「でもこれを…ここに書かれている内容を信じるなら」

さわ子「この山の何処かで唯ちゃんは自殺」

さわ子「焼け跡の中には6人の死体があるって事?」

紬叔父「死体?やはり姪は此処で…」

さわ子「…あの、どちら様でしょう?」

紬叔父「これは、申し遅れました」

紬叔父「私は琴吹○○、紬の叔父です」

さわ子「私は紬さんの所属している部活の顧問を務めている、山中さわ子と言います」

さわ子(此処に来ているって事は…ご両親以上の関係者って事よね?)

さわ子「紬さんの叔父さんという事は、もしかしてこの建物の…」

紬叔父「ええ、姪が軽音部?でしたか、そちらの合宿に使いたいと言いまして」

紬叔父「暫くの間は無人になる建物だったので、自由に使っても良いと…」

紬叔父「しかし、まさかこんな事になるとは…」

さわ子「…」

紬叔父「ところで先程死体がと仰っていましたが、何かご存知で?」

さわ子「ええ、実は此処で合宿をしていた7人の1人から」

さわ子「遺書の様なメールを貰ったものですから…」

さわ子「琴吹さんもご覧になります?」

紬叔父「…私が見てもよろしいのでしょうか?」

さわ子「ええ、姪御さんの事でもありますから…どうぞ」

紬叔父「では、失礼して…」

紬叔父「なるほど、私はてっきり事故では無いかと思ったのすが…」

紬叔父「これは警察の方にもお見せした方が良いでしょうね」

さわ子「ええ、もちろん後で見せるつもりです」

紬叔父「このメールを書いた方の名前は初めて見ますが、やはり姪の部活の?」

さわ子「いえ、この子は部員の1人の妹です」

さわ子「ですが、部員全員と…もう1人部員以外でこの合宿に参加した真鍋和さん」

さわ子「それにもちろん、私とも良く知っている間柄です」

紬叔父「そうでしたか…私も辛いですが、では先生もさぞかし…」

さわ子「いいえ、私が今考えていたのは1つだけです」

さわ子「この事件の犯人は一体誰なのかしらって」

紬叔父「え?しかし犯人は、先生も良くご存知と今仰った…」

紬叔父「平沢憂さんという方でしょう?」

さわ子「それは違います」

紬叔父「違う?」

さわ子「この事件の犯人は…平沢憂さん、憂ちゃんでは無いわ」

さわ子「確かに、メールにはそういった内容の事が書かれています」

さわ子「でも、それが事実だと証明する証拠は今の所何1つありません」

さわ子「それに、憂ちゃんは此処で合宿を行う事を知らなかったのですから」

さわ子「計画的に殺人を行う余裕なんて無かったはずです」

さわ子「こんな閉鎖的な場所で、誰にも邪魔されずに全員を殺害…」

さわ子「そんな事、突発的に行うなんて不可能でしょう」

さわ子「誰かが憂ちゃんを犯人に仕立て上げたとしか考えられません」

紬叔父「…では、先生は誰が犯人だと?」

さわ子「突発的には不可能でも、此処で合宿を行う事を予め知っていれば…」

さわ子「事前に計画を練っておけば不可能ではないと思います」

さわ子「つまり、この事件の犯人は…」



~合宿1ヶ月前・生徒会室~

紬「この事件の犯人は…」

紬「犯人はあなたよ!」ズビシッ

和「…」

和「お願いしたい事があるって言ったと思ったら」

和「急にどうしたのよ、演劇の練習?」

紬「あっ…」

紬「ごめんなさい、ちょっと話の順序が間違ってたわね」ウフフ

和「まあそういうのは律と唯で慣れてるわよ…」

紬「テレビとか漫画で良くやってると思うんだけど」

紬「探偵役の人が、最後に犯人をそうやって指摘するのよ」

紬「犯人はあなたよ!…って」

紬「それを一度で良いからやってみたいなって思うの」

和「やれば良いんじゃないの?」

和「来年の学園祭でそんな演劇を提案してみるとか、幾らでも出来そうだけど」

紬「違うの、和ちゃん」

紬「私はね、それに相応しい舞台で本格的にやってみたいの」

和「相応しい舞台ね…例えば?」

紬「例えば…絶海の孤島にある別荘」

紬「例えば…雪山の奥深くにある山荘」

紬「そういう場所で謎の連続殺人事件が起こって、最後に私がそれを解決する…」

紬「考えただけでワクワクしちゃうわ!」

和「いや、そういう気持ちも分からなくは無いけど…でも、連続殺人事件でしょ?」

和「そんなのが実際にあったとしても、私だったら怖くて何も出来ないわね」

紬「私だって怖くて何も出来ないと思うわ」

紬「でも、お芝居なら平気でしょ?」

紬「軽音部のみんなでそういう事をやってみたいの~」

和「お芝居ね…大体何を言いたいのか分かってきたわ」

和「つまり軽音部のみんなをそういった舞台に集めて」

和「実際に事件が起こった様に思わせたいわけね」

和「で、何?私にそのシナリオを考えて欲しいって事?」

紬「正解!」

紬「もちろん私も考えるわよ?」

紬「でも、私だけだと上手く内容がまとまらなくて…」

和「軽音部の誰かに頼めば良いんじゃないの?」

和「1人位ならネタバレしてても楽しめるでしょ」

紬「軽音部の…例えば誰に?」

和「唯は…駄目ね、最初の1行目で投げ出しそうだわ」

和「律は…駄目ね、アクション映画?そんな風になりそう」

和「澪は…駄目ね、途中で怖くなって書けなくなっちゃいそうな感じ」

和「…」

和「1年生の後輩、確か…梓よね?」

和「あの子はどうなの?まだ良く知らないんだけど、結構真面目そうな子じゃない」

紬「梓ちゃんは駄目よ」

和「どうして?」

紬「和ちゃんは吊り橋効果って言葉、知ってるかしら?」

和「聞いた事はあるわね」

和「確か、人は極度の緊張状態に置かれてしまうと」

和「その緊張感を恋愛感情と混同してしまって」

和「一緒に居る相手を好きになってしまう」

和「そんな感じだったかしら」

和「何?もしかしてそういう効果を狙いたいの?」

紬「ええ、その通りよ」

和「…」

和「流石にそういうのはまずいでしょ」

和「全く好きじゃない相手を好きになるかもしれないのよ?」

和「それはちょっと、どうかと思うわ」

紬「私はね、吊り橋効果は半分嘘じゃないかなって思ってるの」

紬「全く好きじゃない人の事は、流石に好きにはならないと思うわ」

紬「でもね、元々好きだった人の事はもっと好きになってしまう」

紬「そういう事はあるんじゃないかなって思う」

紬「梓ちゃんはね、澪ちゃんの事が大好きなの」

紬「でも女の子同士の恋愛って難しいから、なかなかそれを言い出せない」

紬「その後押しを出来ればって、何時も思ってるの」

和「つまり…探偵役をしたい、そういう恋愛を応援したい」

和「その2つが目的な訳ね?」

紬「そうなの!」

紬「だから梓ちゃんには、この計画のシナリオは任せられないわ」

和「じゃあ、そうね…憂なんてどうかしら?」

紬「憂ちゃん?もちろん憂ちゃんにも参加して欲しいんだけど」

紬「でも、私が後押ししたいって思ってるのは梓ちゃんだけじゃないのよ?」

和「ああ、なるほどね…憂にも無理って訳だ」

和(まあ、あの2人はもう恋人同士みたいなものなんだけど…)

和「分かったわ、憂の事もあるから手伝ってあげる」

和「でもね、私は生徒会の仕事もしたいから」

和「一緒に考えてあげる事が出来るのは少しだけよ?」

紬「それでも良いの!嬉しいわ!」

和「あと、1つだけ条件がある」

紬「何かしら?」

和「危険な事は絶対にしない、それだけは約束して欲しいわね」

紬「ええ、それはもちろんよ」

紬「あくまでもお芝居なんだから」

紬「殺人事件って言っても姿を隠すだけにしましょ」

和「そうね、それなら良いと思うわ」

紬「じゃあ、最初に姿を消す役はお願いね?」

和「え?私が最初に消える役なの?」

紬「だって、カラクリを知ってる人が残ってても面白く無いでしょ?」

紬「私は探偵役なんだから、最初に消えるのは…」

和「そうね、私しか考えられなかったわね…」ガックリ

紬「出来れば犯人役もお願いしたいんだけど…あら?」

紬「もしかして、吊り橋効果を期待したい相手が…」

和「居ない!居ないわよ!///」

紬「うふふっ、そういうお話も一緒にしたいわね♪」



~合宿3週間前・生徒会室~

和「それで、場所は決まったの?」

紬「ええ、良い場所が見付かったわ」

紬「私の叔父様が経営してるペンションの1つが○○県○○市の山奥にあるんだけど」

紬「管理してる方が体調を崩してしまって…」

紬「代わりのスタッフの都合も上手くつかずに、一時的に閉鎖する事になったの」

紬「だから、その間は自由に使っても良いって」

和「それはまた、随分と理想的な舞台が整ったものね」

紬「でしょ!」

和「それは良いんだけど…でも、此処からかなり遠いわね」

和「交通費だけでも結構な額になるわよ?」

紬「それは私が…」

和「まあ、全部紬が負担してくれるんでしょうけど」

和「そういうの、結構みんな気にするものよ?」

和「バレバレでも良いから、何か理由を考えておきなさい」

紬「ええ、分かったわ」

紬「叔父様の名前も出さないで、遠い親戚の方が経営してる事にして…」

紬「遠慮しないで泊まって貰える方法も何か無いか相談してみる」

紬「でも、和ちゃんは計画を一緒に考えてくれてるから」

紬「そういうのは無しで、憂ちゃんと一緒にご招待するわね」

和「ご招待ね…まあそう言って貰ったからには」

和「色々と協力してあげなくちゃいけなくなったけど」

和「私と憂はどういう風に参加させる予定なの?」

紬「商店街の福引でペア旅行が当たった事にすればどうかしら?」

和「…ちょっと苦しいわね」

和「私は知ってて参加するから良いんだけど」

和「憂はそういうの、見破るかもしれないわよ?」

紬「そこは、和ちゃんの日頃からの信頼度が試される所ね」ウフフ

和「まあ良いけど…でも、私が憂を誘うのはちょっと難しいわね」

和「普通に考えたら、私はやっぱり唯を誘うわよ」

紬「あら?唯ちゃんで良いのかしら?」

和「紬!」

和「そういう話は…私、慣れてないんだから…///」

紬「うふふっ、照れてる和ちゃんが見られるなんて…ちょっとした役得ね♪」

紬「でもそうね、確かに不自然かもしれない」

紬「じゃあこうしましょ、それを憂ちゃんにプレゼントして?」

和「え?じゃあ私はどうやって参加したら良いの?」

紬「大丈夫よ、憂ちゃんは絶対に唯ちゃんを誘うから」

紬「でも、唯ちゃんは合宿に参加するから一緒には行けないわ」

和「紬が合宿の話をした日の夜にどうなったかを聞いて…」

和「勿体無いから私と一緒に行きましょう…か」

和「まあ、それなら何とか」

紬「それに、多少は疑ってても唯ちゃんと合流出来ればもう大丈夫よ」

和「そうね、憂は唯と一緒に居られるなら、細かい事は気にしないと思う」


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