澪「無事みたいだな…」
梓「よ、良かった…」
憂「梓ちゃん!」
憂「ごめんね、梓ちゃん…私…」
梓「良いんだよ、気にしなくて」
梓「私が先に滑ってたら、多分憂と同じ事になってたと思う」
梓「もしそうなってたら、憂は私と同じ事をしてくれたかな?」
憂「もちろんだよ!」
梓「そう言ってくれたら十分だよ」
梓「それにね、憂のおかげでご褒美…じゃなかった」
梓「お仕置きして貰えたから///」
澪「あ、梓!こんな時に何を言ってるんだよ///」
唯「お、何か興味のあるお話ですな~」ムフフ
憂「お姉ちゃん、今はそんな事を言ってる場合じゃないよ!」
唯「はっ!そうだよ!りっちゃんが!」
澪「律はまだ下の食堂に居るのか?」
唯「多分そうだと思う…」
唯「こんな事になるなら一緒に居れば、せめて隣の部屋に居てもらえば…」
澪「唯、今は後悔しても仕方が無い」
澪「憂ちゃんの怪我はどうだ?歩けそうか?」
憂「大丈夫です!私、歩けます!」
唯「駄目だよ憂、こういう時は正直に言わないと」
澪「そうだな、嘘を言われてその為に間違った判断をしてしまったら…」
澪「後悔するのは自分だぞ?憂ちゃん」
憂「ごめんなさい…私、全く歩けません」
澪「そうか、じゃあ唯は此処に居た方が良いな」
澪「梓、今私が照らしてる懐中電灯を取ってくれ」
梓「はい、取りました」
唯「懐中電灯?そっか、確か部屋の隅にあったよね…忘れてたよ」
澪「私達も暫く気が付かなくてな、ちょっとパニックになってたよ」
澪「とりあえず、これを持っておけば少しは安心出来るだろ」
澪「律の様子は私と梓で見に行くから、唯と憂ちゃんは此処に残っててくれ」
~憂の部屋→食堂~
梓「澪先輩、律先輩は無事ですよね?」
澪「ああ、律の事だから1人でもパニックになる事は無いだろ」
澪「それに、確かあの部屋にも非常用の懐中電灯があったはずだ」
梓「そうですね、確かにありましたね」
梓「…」
梓「でも…だったら…どうして…」
梓「律先輩は2階に上がって来なかったんでしょう…」
澪「…」
澪「梓、どうして立ち止まるんだ?」
梓「だって…」
澪「私だって怖いさ、でもこのまま2階に引き返してどうなる?」
澪「ほら、ずっと手を握っててやるから…行こう」
梓「離したら…嫌ですよ?」
澪「分かってるよ」
~食堂の前~
澪「何も音がしないな」
梓「灯りも漏れてないですね」
澪「よし、まずは私がドアの隙間から部屋の中を見てみるよ」
カチャ
澪「…」
澪(予想通り…居ないか…)
澪(ん?何だあれは…律のカチューシャか?)
澪(それに部屋の入り口からずっとあそこまで…)
澪「!!!」
バタン
梓「あの、澪先輩?」
梓「律先輩は、居なかったんですか?」
澪「…」
澪「梓、目を瞑れ」
梓「え?こ、こんな所でさっきの続きですか?///」
澪「良いから、目を瞑るんだ」
梓「もぅ、こんな時に…はい、瞑りましたよ?」
澪「そのまま動くなよ」
梓「分かりました…」
澪(食堂から出て…こっちは…玄関…外に行ったのか?)
澪(どうする?確かめるのか?)
澪(私だけなら…でも、梓まで危険に晒すわけには…)
梓(…)
梓(あれ?)
梓(澪先輩の手が…凄く震えてる…)
梓「あの、澪先輩?」
ギュッ
梓(え?後ろからなの?)
澪「梓、目を瞑ったまま、そのまま歩くんだ」
澪「階段の所は私が誘導してやる」
梓「え?ど、どうしてですか?」
澪「梓、上手く言葉が出ないんだ…分かってくれ」
梓「は、はい…」
梓(違う、キスなんかじゃないよ…)
梓(だって、澪先輩…)
梓(体全体で震えてるよ…)
梓(何を…一体何を見たの?)
~憂の部屋~
ガチャッ
唯「澪ちゃん!あずにゃん!」
憂「ど、どうでしたか?」
澪「…」
梓「…あの、澪先輩」
澪「まずは、鍵をかけるんだ」
梓「は、はい」
澪「それから唯、この部屋の窓からなら玄関の辺りも見えると思う」
澪「懐中電灯を向けて、誰か居ないか見てくれないか?」
唯「う、うん」
…
唯「澪ちゃん、誰も居ないよ?」
澪「そうか…分かった」
澪「寒いだろうから、もう窓は閉めても良いぞ…」
澪「みんな、落ち着いて話を聞いて欲しい」
澪「律は…律は食堂には居なかった」
梓「…やっぱり」
唯「やっぱり?」
梓「食堂の中は澪先輩しか確認してないんです」
梓「私には見せない様にしたから、多分そうなんじゃないかと…」
梓「でも、それだけじゃないですよね?」
憂「それだけじゃない?」
憂「嘘、律さんが居ないだけでもショックなのに…」
憂「な、何があったんですか?澪さん」
澪「分からない、分からないんだ…」
澪「でも、1つだけ分かった事がある」
澪「律は多分…外に行った」
唯「外?こんなに真っ暗なのに?」
憂「それに、今は凄く寒いんじゃないですか?」
梓「そう言えば、部屋の中も…」
澪「ああ、さっきから暖房も切れてるから寒くなって来てるな」
澪「でも、外の寒さはこんなもんじゃないだろう」
澪「その中を、律は外に出て行ったんだ…」
唯「どうして外に?真っ暗で方向が分からなかったの?」
憂「でも、流石に外に出る扉を開けたら気が付くよね?考えられないよ」
澪「ああ、そうだな…」
梓「でも、そんな考えられない様な事をしたって分かってるんですよね」
梓「澪先輩、そろそろ言って下さい」
梓「一体、何を見たんですか?」
梓「どうしてそんなあり得ない事が分かったんですか?」
澪「…血だよ」
澪「それ程の量じゃ無かったけど…食堂の床に、血が飛び散っていた」
澪「それが入り口から廊下を抜けて、玄関の方に点々と続いていたんだ」
澪「玄関に人影は無かったから、外に出たとしか考えられない」
唯「えっと、りっちゃんが食堂で怪我をしちゃって…」
唯「慌てて外に飛び出しちゃったって事?」
唯「大変だよ!すぐに手当てをしてあげないと!」
憂「お姉ちゃん…」
梓「唯先輩…」
澪「唯、私だってそう思いたいよ」
澪「でもな、もし仮にそうだったとしたら」
澪「どうしてすぐに中へ帰って来ないんだ?」
唯「でも…でも…そ、そうだよ!」
唯「もし誰かが怪我をしてたとしても、りっちゃんかどうかは分からないよ!」
澪「じゃあ、一体誰が怪我をしたって言うんだ?」
澪「それにな…私は見たんだ、血で濡れた律のカチューシャを」
澪「誰かがいたずらでこんな事をしてるんじゃないかって」
澪「ムギも和も何処かに隠れてて、私達を驚かそうとしてるんじゃないかって」
澪「そういう可能性も0じゃないって、今までは思えたんだけど」
澪「もう…駄目だよ」
澪「こんな状況になってるのに、2人がそんないたずらをするはずがない」
澪「律が血を流す程の怪我をしているのに、自分から外に出て行く訳が無い」
澪「誰かが、私達以外の誰かが何処かへ連れて行ったんだ」
澪「私達以外に、誰かが…」
澪「誰かが…この建物の中に居たんだ」
澪「いや…」
澪「今も、居るのかもしれない…」
澪「もしかして、玄関の扉の向こう側に…」
澪「私が行った時には、まだそこに律が居たかもしれない」
澪「そう思ったのに、足が動かなかった」
澪「此処に帰って来てしまった」
澪「私は律を、見殺しにしてしまったのかもしれない」
梓「見殺しって、そんな…」
梓「そんな律先輩がもう死んでしまったみたいな事、言わないで下さい!」
梓「澪先輩は私の事を考えて、私が危険にならない様に…」
梓「そう思って此処に帰って来たんですよね?」
梓「自分の事、そんなに責めないで下さいよ…」
梓「でないと、私のせいだって言われてるみたいで…つらいです」
澪「違う!そういう意味で言ったんじゃないぞ!」
唯「私の責任だよね、私がりっちゃんを1人にしてしまったから…」
憂「そうじゃないよ!元はと言えば私が怪我をしてしまったから…」
澪「いや、律を1人にしてしまったのは私の責任だよ」
澪「最後に律と一緒に居たのは私なんだからな…」
澪「…」
澪「でもみんな、後悔するのはもう止めよう」
澪(そうだ、後悔なんてしても何も始まらない)
澪(私がしっかりしないと、梓を守ってやらないといけないんだ)
澪「今考えなきゃいけない事は、これからどうするかって事だ」
唯「そ、そうだね…」
憂「何とかして、この状況を打開しないと…」
梓「何か良い案はあるんでしょうか?」
唯「歩いて町まで行くのは…やっぱり駄目かな?」
澪「いや、この状況になってしまった以上は最初の選択肢だと思う」
澪「ただ、どれ位の時間がかかるか分からないからな」
澪「準備は万全にして、出来れば夜が明けてすぐに出発したいな」
唯「憂は?憂はどうするの?」
澪「憂ちゃんはみんなで交代して背負って行く」
澪「スキーの他にソリもあったと思うから」
澪「途中まではそれに乗って貰うのも良いな」
憂「でも、私の為にみんなに迷惑をかけるのは…」
梓「憂、今はそんな事を言ってる場合じゃないよ!」
憂「梓ちゃんそれは逆だよ」
憂「こんな時だからこそ、私の事なんて気にしちゃいけない」
憂「私1人の為にみんなが危険になるなんて、そんなの嫌だよ…」
憂「もしそうするなら、私は置いて行くべきだと思う」
唯(そんな…憂を1人で置いて行くなんて出来ないよ…)
唯「じゃ、じゃあ逆に…この部屋の中にずっと居るのはどうかな?」
唯「明後日…じゃないね、日付は変わっちゃったから明日の夜」
唯「明日の夜になれば、私達が帰って来ない事を心配する人達が出て来る」
唯「そうしたら探しに来てくれるよね?」
唯「それまでの間、此処でじっとしているの」
澪「それも1つの手だな」
澪「部屋の鍵は中からしか掛けられないタイプだから」
澪「普通の方法では外から開ける事は出来ない」
澪「此処は2階だから窓から入って来る事も難しいだろうし」
澪「家具をずらして窓に被せておけば、そう簡単には入って来れないだろう」
唯「澪ちゃん…澪ちゃんはもう、私達以外の誰かが居るって…」
唯「誰かが襲って来るはずだって…」
澪「ああ、信じたくはないが…それしか考えられないからな」
澪「現実から目を背けても、何にもならないよ」
澪「この建物には私達以外の誰かが居て」
澪「ムギと和、それに律を何処かに連れ去った」
澪「今も近くに居るのかどうかは分からないけど」
澪「次に狙われるのは私達4人、そう思って行動した方が良いと思う」
梓「澪先輩…今、普通の方法ではって言いましたよね?」
澪「ああ、言ったな」
憂「普通じゃない方法、例えばドアを壊して中に入るとか…」
澪「そうだ、そういう普通じゃない方法を使われた時点でアウトだ」
澪「この案の最大の弱点はそれだな」
唯「じゃあやっぱり、みんなで歩いて行くしか無いのかな…」
憂「私はその案に賛成」
梓「私も、今はそれが1番良い様に思えます」
唯「じゃあ、やっぱり憂は私達3人で…」
澪「いや、憂ちゃんは置いて行こう」
唯「え!?」
唯「酷いよ!澪ちゃん!」
唯「憂を置いて行くなんて、そんな事出来る訳無いよ!」
澪「憂ちゃん、それで良いよな?」
憂「はい、私は1人で…此処で待ってます」
唯「そんな…ねえ、あずにゃんはどう思う?」
唯「あずにゃんはそんな事、憂を置いて行くだなんて言わないよね?」
梓「…」
梓「ごめんなさい、唯先輩」
梓「私も色々と考えてみましたけど」
梓「憂は置いて行った方が良いって思い直しました」
梓「見捨てる訳じゃ無いんですよ?」
梓「私達の誰かが助かれば、憂を助け出す事だって出来るんですから」
唯「でも…」
憂「お姉ちゃん、良いんだよ」
憂「それが1番良い方法なんだ」
澪「それにな、唯」
澪「こんな事は言いたくないんだが…」
澪「どうしても納得出来ないなら言わざるを得ない」
澪「ムギや和、律だって死んだ訳じゃないんだぞ?」
澪「律は怪我をしている可能性が高いけど、ムギや和は単に姿を消しただけだ」
澪「みんな何処かで生きてる可能性だって…いや、絶対に生きてると思う」
澪「それを唯は見殺しにするのか?」
澪「3人がどういう状況に置かれているのかは分からない」
澪「でも、助けを呼ぶ事が遅れてしまったら…」
澪「助かる可能性はどんどん減っていくと思う」
澪「憂ちゃんを見殺しにする訳じゃない、単に少し助けるのが遅くなるだけだ」
澪「それだけの理由で、唯は他の3人を見殺しに出来るのか?」
唯「そんな、そんな言い方って酷いよ…」グスッ
唯「ムギちゃんだって…和ちゃんだって…りっちゃんだって…」
唯「みんな大切な仲間、大切な友達なのに…」
唯「そんな風に比べる言い方をするなんて、酷いよ…」
澪「唯…分かって欲しい、憂ちゃんだってそう思ってる事なんだ」
澪「憂ちゃんの事を1番分かってるのは唯なんだろ?」
澪「だったら、憂ちゃんが唯にどうして欲しいのか」
澪「分かってあげられなくてどうするんだ?」
唯「…」
唯「憂…憂は本当に此処に1人で残る気なの?私に行って欲しいの?」
憂「うん、お姉ちゃんは澪さん梓ちゃんと一緒に行って」
憂「私なら大丈夫だよ、みんなが来てくれる事、信じてるから」
唯「そっか…うん、分かったよ」
唯「待っててね憂、絶対に助けに戻って来るからね!」
憂「うん!お姉ちゃんの事、信じてるから」
最終更新:2011年04月29日 19:09