~食堂~

唯「憂とあずにゃんはもう町に着いたかな?」

律「まだだろ…30分位しか経ってないぞ?」

澪「こういう時は、時間が経つのが遅く感じるな…」

唯「そうだね…」

律「…」

澪「…」

唯「そう言えば、軽音部の合宿なのに1回も練習してないよね」

唯「りっちゃんは折角自分のドラムセットを持って来たのに」

唯「まだ一度も触ってないんじゃないかな?」

唯「折角此処まで来たんだから、3人でちょっと練習してみよ?」

律「唯…」

律「そうだな、少しは気がまぎれるかもしれないし…やろうか」

澪「ああ、こういう時は何かしていた方が気は楽だからな…やってみよう」

唯「窓から外の様子も見えるから、場所は此処で良いよね」

ジャ~ン♪

律「ふぅ…何か本当に久しぶりに演奏した気分だな」

澪「やっぱり…良いよな、時間も忘れてしまうよ」

唯「そうだね、部活で最後に演奏したのは」

唯「確かムギちゃんが合宿をしますって言った時かな?」

澪「ムギ…」

律「だ、大丈夫だよ!ムギは何処かで無事に居るって!」

唯「そうだよ澪ちゃん、大丈夫だよ」

唯「ムギちゃんも和ちゃんも、きっと何処かで無事に居るよ~」

律「ああ、そうだな…」

律(こういう時は、唯の明るさが救いだよ…)


律「しかし…流石に遅いな」

律「町まで行けば警察にだってすぐに連絡出来るだろうし」

律「車で迎えに来て貰う事も出来ると思うんだが…」

澪「もう3時だな…2人が出て行ってから6時間位か?」

唯「あれ?」

律「どうした?唯」

唯「あれは…あずにゃんと憂!」

ガチャッ…ダダダダダダダダ…

律「どうした!唯!」

澪「あれは…あれは梓じゃないのか?憂ちゃんを背負ってこっちに歩いて来るぞ!」



~建物の外~

梓「唯先輩…良かった、戻って来れたんですね…」

憂「お姉ちゃん…お姉ちゃんだ…」

唯「憂、どうしたの?歩けないの?」

憂「うん…私、ちょっと怪我をしちゃって…」

唯「待ってね憂、代わりに負んぶしてあげるから」


唯「あずにゃん、何があったの?どうして憂が怪我をしてるの?」

梓「駄目です…唯先輩…私…もう限界です…」

梓「後の事は…頼みます…」ドサッ

唯「え?あずにゃん!あずにゃん!どうしたの!」

律「唯!落ち着け!」

律「まずは2人を中に運ぶんだ」

澪「そうだ、話を聞くのはそれからでも良い」

唯「う、うん、分かった!」



~食堂~

律「梓は部屋に寝かせて来たよ」

律「澪が傍に付いてる」

唯「大丈夫かな、あずにゃん…」

律「疲れてるだけだと思うけど、分からないな」

律「あたしも医者じゃないんだから…」

憂「梓ちゃん…私のせいで…」グスッ

唯「憂…」

律「…」

律「憂ちゃん、今は泣いてる場合じゃないんだ」

律「何があったのか話してくれないかな?」

唯「そんな!憂がこんななのに話を聞くなんて可哀想だよ!」

憂「お姉ちゃん、良いんだよ…」グスッ

憂「梓ちゃんの為にも…ちゃんと何があったのか話さないと…」グスッ

律「そうだな、梓の為にも話してくれ」

憂「最初は…凄く順調でした」

憂「こんな事になっているのも忘れてしまって…」

憂「梓ちゃんと2人で気持ち良く滑り降りて行ったんです」

憂「でも、私はスキーを覚えたばっかりなのに…調子に乗ってしまって…」

憂「梓ちゃんはあんまりスピードを出すと危ないって言ってくれてたのに…」

唯「転んだの?」

憂「ううん、違うの」

憂「急カーブになってる所があって、先が見えなかったんだけど…」

憂「大丈夫だと思ってそのまま滑って行ったの」

憂「そうしたら急に壁になってて…」

律「壁?」

憂「雪崩が起きてたみたいなんです」

憂「ブレーキをかけたんですけど、間に合わなくて」

憂「そこにまともに突っ込んでしまって…」

憂「気が付いたら、板も外れてしまってて」

憂「両足が痛くて歩けない状態になってたんです」

唯「あずにゃんは大丈夫だったの?」

憂「梓ちゃんもやっぱり止まれなかったんだけど」

憂「私と違って軽くぶつかっただけだから大丈夫だって」

律「それから…どうしたんだ?」

憂「梓ちゃんがどうなってるのか調べてみるって言って」

憂「スキーを外して先の方がどうなってるのかを調べに行ったんですけど」

憂「何処が道なのか分からない位、ずっと先の方まで雪で埋まってたみたいです」

憂「こんな状態でこれ以上先に進むのは危ないから引き返そうって」

憂「でも、私は歩けなかったから…」

律「それで、梓が背負って此処まで帰って来たのか」

憂「まずはみんなに知らせる方が先だって言ったんですけど」

憂「1人で此処に残して行くのは不安だからって…」

唯(あずにゃん…ありがとう…)

律「憂ちゃん、辛いだろうけどもう1つ教えてくれ」

律「その雪崩が起きてた場所って此処からどの位離れてる?」

憂「正確な距離は分からないんですけど…多分滑り始めて10分も経ってないです」

律「10分としても…近いな」

律「まあだからこそ帰って来る事も出来たんだけど…」

唯「そうだよ、もしもっと遠く離れてる所だったら今頃は…」

律「いや、むしろその方が良かったかもしれないってな」

唯「え!?」

唯「酷いよりっちゃん!」

唯「そんなに遠い所だったら、2人共帰って来れなかったかもしれないよ!」

律「落ち着け、唯」

律「もし町の近くまで降りて行けたんだったら」

律「少し無謀かもしれないけど」

律「そこからはスキーを外して町まで行けるんじゃないかって思ったんだよ」

律「でも、今の話を聞いた限りではそれも無理ぽっいな」

唯「あ、そういう事か…」

唯「ごめんなさい、りっちゃん」

律「良いって、あたしも説明不足だったからな」

律「それより、憂ちゃんを部屋で休ませてあげよう」

唯「憂、何時の間にか寝ちゃってたんだね…」

律「唯が付き添ってやれよ」

唯「でも、りっちゃんが1人に…」

律「大丈夫だって」

律「何かあったら『きゃ~!』って叫ぶから」

唯「…」プッ

唯「うん、楽しみにしてるね」

律「ああ、期待してろ」

律「部屋までは一緒に運んでやるからな」

唯「ううん、私が負ぶっていくよ」

律「そうか…じゃあ、頼むな」



律「雪崩か…それで電話線も切れてしまったとか?」

律「可能性としてはあり得るけど…でも、あまりにも偶然過ぎる」

律「みんなの携帯は無くなるし、ムギと和は未だに見付からない」

律「やっぱり、何か異常な事が起こってるのは間違い無いんだろうな…」

律「何だ?何が起こってるんだ?」

律「こんな時に、和が居てくれたらな…」

律「和…」

律「いや、駄目だ駄目だ」

律「和も少し怒ってたよな、私も普通の女子高生なんだからって」

律「頼ってるだけじゃ駄目だ、あたしは軽音部の部長なんだからしっかりしないと」

律「みんなをこれ以上不安にさせちゃいけない」

ガチャッ

律「澪…梓の所に居なくて良いのか?」

澪「ああ、ずっと付いててあげたい所なんだが」

澪「色々と考えなきゃいけないと思うから、状況だけでも聞いておきたくてな」

律「そうか、じゃあ手短に話すよ」


澪「なるほど、それは困った状況になったな」

律「澪はどう思う?」

澪「雪崩が偶然かどうかは分からないけど、何かが起こってるのは間違い無いな」

律「ああ、あたしもそう思うんだけど…澪は怖くないのか?」

律「何時もだったら途中で聞くのを止めてしまいそうな話だろ」

澪「正直少しは怖いさ…でも、何て言ったら良いんだろうな」

澪「昨日から守らなきゃいけない存在が出来たと言うか…」

澪「そういう感情が先に来てしまってるな」

澪「今の話を聞いてしまうと尚更だ」

律「ほうほう、それはまた…」ウシシ

澪「律、冗談を言ってる場合じゃないぞ」

律「分かってるよ」

律「とりあえず、みんなでまたもう1度話し合うべきだろうな」

澪「私は梓の部屋に戻るけど、律はどうする?一緒に来るか?」

律「いや、止めておくよ」

澪「じゃあ、せめて廊下に…」

律「廊下に居るとな、それはそれは恥ずかしい会話内容が聞こえてくるんだよ」

澪「それは…すまん」

律「唯にも言ったけど、何かあったらすぐに知らせるよ」

律「大丈夫、この状況だったらあたしも油断はしない」

澪「分かった、梓が目を覚ましたら下に降りて来るからな」



~夜・梓の部屋~

澪(梓…良く此処まで無事に戻って来てくれたよ…)

澪(憂ちゃんも無事で良かった、唯も凄く喜んでるだろうな…)

澪(状況が良くなった訳じゃない、むしろ悪化している様に思えるけど…)

澪(でも、怖がってる場合じゃないな…私が梓を守ってやらないと)

梓「…ん」

梓「此処は…」

澪「気が付いたか?」

梓「澪…先輩…」

梓「私…今何処に居るんですか…」

澪「今は梓が泊まってる部屋に居るよ」

梓「そっか…帰って来れたんですね…良かった…」

澪「ああ、憂ちゃんも無事だぞ?良く頑張ったな」

梓「えへへ…だって、澪先輩が…」

梓「澪先輩が待っていてくれるって思ったら…頑張れちゃいますよ…」

澪「梓…」

梓「こんなに頑張ったんだから…何かご褒美…欲しいです」

澪「ご褒美か、どんな事をして欲しいんだ?」

梓「えっと、その…ずっと頭をなでて貰えるとか…」

澪「駄目だな」

澪「こんなに私を心配させておいて、ご褒美なんてあげられないぞ」

梓「そんな…」

澪「だから、罰としてお仕置きだ」

澪「今から酷い事をするからな?怖かったら目を瞑ってろ」

梓「わ、分かりました…」

チュッ

梓「…」

澪「どうした?お仕置きされたのに嬉しそうだな?」

梓「そんなの…そんなの嬉しいに決まってるじゃないですか///」


~憂の部屋~

唯「目が覚めた?憂」

憂「うん…私、何時の間にか寝ちゃってたんだね…外が真っ暗」

唯「足は?足は大丈夫?」

憂「凄く痛いけど…でも、大丈夫だよ」

憂「歩けない事は無いと思うから、梓ちゃんに謝って来ないと…」

唯「だ、駄目だよ!どんな怪我なのか分からないのに無理しちゃ駄目!」

唯「それにね、今あずにゃんには澪ちゃんが付いてるから」

憂「そっか…そうだよね」

唯「うん、邪魔したら悪いよ」

憂「こんな時にこんな事を思っちゃいけないんだけど」

憂「私も、お姉ちゃんと一緒に居るのが1番安心出来るな…」

唯「憂…」

バチンッ

唯憂「!」

唯「て、停電?」

憂「お姉ちゃん!何処?何処に居るの?」

唯「憂!私は此処だよ!」ギュッ

憂「お姉ちゃん…」

唯「憂…」

憂「ごめんねお姉ちゃん、すぐに抱き付きに行きたかったけど」

憂「足が、足が痛くて動けないんだよ…」

唯「憂、大丈夫、大丈夫だよ」

唯「お姉ちゃんがずっとこうしてあげるからね」

唯(ど、どうしよう…澪ちゃんとあずにゃんは一緒に居るから大丈夫だと思うけど)

唯(りっちゃんの事が心配だよ…でも、憂は置いて行けないし…)

唯(こんなに真っ暗な状態で憂を負ぶって歩いたら…)

唯(もし転んじゃったら…憂の怪我がもっと酷い事になっちゃうかもしれない)

唯(ど、どうしよう…どうすれば良いの?)

憂「お姉ちゃん、ごめんね」

憂「私はもう落ち着いたから、みんなの様子を見て来て?」

唯「駄目だよ!憂を1人にする事なんて出来ないよ!」

憂「でも、梓ちゃんと澪さんが一緒に居るって事は」

憂「律さんは今1人なんでしょ?心配だよ…」

唯「そうなんだけど…でも…」

唯(考えれば考える程、どうして良いのか分からなくなっていくよ…)

ガチャッ

唯「!」

憂「ま、眩しい!」

澪「2人共無事か?」

唯「澪ちゃん!」


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