律「トイレじゃないのか?見て来るよ」

和「待って律、1人では行かないで」

和「私も付いて行くから、みんなは此処に残ってて」




唯「どうだった?」

律「トイレには居なかったな…」

和「律、正直に言いましょう?」

律「え?でも…」

和「隠してもすぐにバレるわ」

和「みんな食堂に集まって、そこで話すから」



~食堂~

和「私と律で、2階も含めて全部の部屋を見て」

和「念の為に建物の周りを1周してみたけど、紬は何処にも居なかったわ」

唯「見えない位に遠くまで行ったんじゃ…」

和「何の為に?外は今、マイナス何度の世界」

和「この建物以外には一切灯りが無いのに」

和「さっきの紬の格好で遠くまで出歩くなんて自殺行為よ」

憂「じゃあ紬さんは…」

和「考えたくは無いけど…」

澪「駄目だ和!言っちゃだめだ!」

和「…」

和「そうね、言わないでおくわ」

和「でも、紬が居なくなった事は事実よ?何も無かった事には出来ない」

唯「どうしたら良いんだろ…」

唯「電話が通じないんじゃ、誰かに来て貰う事も出来ないよね」

和「私もそうだけど、みんなも家族や友達には何時帰るのか伝えてあると思う」

和「帰って来なければ心配して探しに来てくれると思うけど…」

律「駄目だな、時間がかかり過ぎる」

和「そうね、この状況で何日も待つ事は出来ないわ」

梓「じゃあ、どうするんですか?」

憂「梓ちゃん、それはさっき…」

梓「あ、ごめんなさい!」

梓「何でも和先輩に聞けば良いってものじゃないですよね…」

和「ううん、良いのよ」

和「それにね、私には1つだけ考えがあるの」

和「夜が明ければ…明るくなれば手はあるわ」

律「どうするんだ?」

和「町から此処に来るまでの道は殆ど一本道だったでしょ?」

和「道なりに降りて行けば迷う事は無いと思う」

唯「町まで歩いて行くの?」

和「唯、車でも1時間以上かかるのよ」

和「歩いて行ってどの位かかると思う?」

唯「え~と、来た時の車は結構遅かったけど…でも20km位は出てたよね」

唯「歩くスピードは4km位だから、5時間以上…」

唯「え?5時間!?そんなに歩けるのかな…」

梓「雪の上をそんなに速く歩けるとは思えませんけど…」

和「そうね、私達はみんな雪の上を歩く事に慣れてないわ」

和「何時間かかるのか全く分からないんだから、そんなに無謀な事は出来ない」

律「じゃあ、どうするんだ?」

和「スキーで行くのよ」

唯「え?でも私は上手く滑れないよ?」

澪「私もだ…スキーなんて今日初めてやったんだぞ?無理に決まってる」

和「私にも無理よ、でも」

和「今日みんなが滑ってる所を見てたけど、梓と憂は上手だと思ったわ」

梓「私は何度かやった事がありますから」

憂「私は初めてだったけど、何となく出来ちゃった感じで…」

和「何時もの事だけど、憂には関心するわね…」

梓「もしかして、私と憂の2人で行けって事ですか?」

和「ええ、全員で行けない以上はそうするしかないと思う」

和「どうかしら?」

憂「私は…1人だったら不安だけど」

憂「梓ちゃんも一緒だったら…大丈夫、行きます!」

梓「私も憂が一緒だったら安心出来ます」

和「じゃあ、2人にお願いするわね」

和「憂と梓には今から寝て貰って、後の4人は交代で仮眠を取りましょ」

梓「寝るって、何処で寝るんですか?」

梓「部屋に1人で寝るのはちょっと嫌なんですけど…」

憂「私も、それはちょっと不安かな…」

和「此処で寝ればって思ったけど…そうね」

和「明日の事を考えたら、ちゃんとベッドで寝た方が良いと思う」

和「だから憂には唯が付いてあげなさい」

和「憂もそれなら安心でしょ?」

憂「お姉ちゃんと一緒だったら…うん、安心出来る」

唯「大丈夫だよ、憂」

唯「憂が寝るまで、お姉ちゃんが付いててあげるからね?」

憂「お姉ちゃん…ありがとう…」

和「決まりね」

和「梓には…どうしましょうか」

梓「あの…私は澪先輩に付いていて欲しいです!」

澪「私が?」

和「そうね、梓がそうして欲しいなら澪が付いてあげなさい」

律「…」

律「あたしも、それが良いと思うな」

律「梓が1番安心出来る相手が澪だったら…」

律「澪が付いてあげるべきだ」

澪「律…」

澪「分かったよ、じゃあ梓には私が付いてる」

和「さっきは交代でって言ったけど、唯と澪もそのまま寝てしまって良いのよ?」

和「私と律が部屋の前で起きてるから」

律「そうだな、あたし達はずっと起きてるから安心しろ?」



~憂の部屋~

唯「憂は明日の為にも早く寝ようね?」

憂「お姉ちゃんも一緒に寝て欲しいな…」

唯「和ちゃんとりっちゃんには悪いけど…うん、そうするね」




唯「憂、眠れない?」

憂「お姉ちゃん…私、怖くて眠れないよ…」

唯「憂…」

唯「じゃあ、ずっと手を握っててあげるから」

唯「どうかな?」

憂「お姉ちゃん…まだ怖い…」

憂「手だけじゃ、お姉ちゃんが傍に居るって分からないよ…」

唯「じゃあ…」

ギュッ

唯「えへへ~、目の前にお姉ちゃんが居るんだよ~」

唯「これなら大丈夫でしょ?」

憂「お姉ちゃん…まだ怖いよ…」

唯「もぅ~、憂は意外と甘えんぼさんなんだね~」

憂(だって、怖いって言ったら…お姉ちゃんが甘えさせてくれるから…)

唯「じゃあね、憂が寝るまでずっと頭をなでてあげるからね」ナデナデ

唯「ずっとずっと、こうしててあげるからね…」

憂「お姉ちゃん…ありがとう…」

唯「良いんだよ~、憂には何時も一杯お世話になってるからね~」

憂(怖かったのはね、本当なんだ…)

憂(でも今この瞬間だけは…忘れる事が出来るよ…お姉ちゃん…)



~梓の部屋~

梓「澪先輩…」

澪「梓、何も言わなくて良い」

澪「今は寝る事だけを考えるんだ」

澪「大丈夫だよ、私も隣で寝てあげるからな?」

梓「はい、あの…嬉しいです」




澪「眠れないか?」

梓「眠れないです…」

澪「そうか、そうだよな…」

澪「このまま寝ちゃっても良いって律と和は言ってくれたけど」

澪「私も怖くて眠れそうにないよ」

梓(それもあるんだけど…そうじゃなくて…ドキドキし過ぎて眠れないんだよ…)

澪「…」

澪「なあ、梓」

澪「どうして私なんだ?」

梓「え?何がですか?」

澪「まあ唯と憂に付いて貰うわけにはいかないし…」

澪「和の事はあまり知らないだろうから律か私なんだろうけど」

澪「こういう時は律の方が良い様な気もするんだけどな」

澪「私はその…強がっても仕方が無いから言ってしまうけど…」

澪「怖いのが凄く苦手だからな」

澪「一緒に居ると余計に梓を不安にさせちゃうんじゃないかって」

澪「それが心配なんだけど…」

梓「澪先輩…」グスッ

澪「ど、どうしたんだ!?や、やっぱり私が一緒じゃ不安か!?」

梓「違いますよぉ…澪先輩全然分かってくれない…」

梓「私は澪先輩だから一緒に居て欲しいって思ったのに…」

澪「梓…」

梓「でもやっぱり、澪先輩は律先輩の事が…」

ギュッ

梓「え!?」

澪「梓、ごめんな」

澪「梓が律の事を気にして遠慮してるんだったら、安心させてやるよ」

澪「律は1番の親友だけど…友達だ」

澪「でも梓は違う、友達でもあるし後輩でもあるけど…それだけじゃない」

澪「私にとって梓は…」

梓「」ドキッ

澪「梓は妹の様な存在だな」

梓「…」

梓「あの、普通はそこに違う台詞が入るんじゃないでしょうか…」

澪「こういう時だから、梓が喜ぶ様な事を言ってあげたいんだけどな…」

澪「でも、嘘を言われたくはないだろ?」

梓「確かにそうですけど…」

澪「今はまだそういう風にしか考えられない」

澪「でもな、律よりは身近に感じてるって事、言ってあげたかったんだ」

澪「律にはこんな事しないぞ?梓だから、妹みたいだと思ってるからやってるんだ」

澪「それにな梓、隣の部屋には誰が居る?」

梓「隣には憂と…唯先輩…」

澪「妹だって頑張れば、憂ちゃんみたいになれるかもしれないぞ?」

澪「唯が憂ちゃんを想う様に…私も梓の事、特別に感じる様になるかもしれない」

梓「分かりました…私、そうなれる様に頑張ってみます!」

澪「ああ、頑張れ」

澪「こんな事を言うって事は…梓の事、どう思ってるのか分かるだろ?」

梓「はい、全く可能性が無いって事じゃ無いんですよね…」

梓「それが分かっただけでも…嬉しいです…」

澪「泣かれてしまった時はどうしようかと思ったけど…」

澪「私も正直な気持ちが言えて良かったよ」

澪「どうだ?そろそろ眠れそうか?」

梓「そうですね…正直に言うとさっきまでは凄くドキドキしてたんですけど…」

梓「今は、安心出来る感じの方が大きいです…」

澪「そうか、それは良かった」

梓「おやすみなさい、澪…お姉ちゃん」

澪「ああ、おやすみ、梓」



~部屋の前~

律和「…」

律「意外と聞こえるものだな…」

和「そうね、聞いてるこっちの方が恥ずかしくなる位よ」

和「でも、唯はちゃんとお姉ちゃんしてるのね…結構意外だったわ」

律「ああ、やっぱり唯には憂ちゃんに付いてて貰って良かったよ」

律「それに梓は…やっぱり澪の事が好きだったんだな」

和「律はどう思ってるの?澪の事」

律「澪か?澪は…1番の親友だな」

和「親友…ね」

律「まあ和が思ってる様な感情も、正直少しはあるよ」

律「でもな、梓だって軽音部の大事な大事な後輩だ」

律「梓の事だって考えてやりたいって思う」

律「澪がそれで良いって思うなら、梓の為にもこれで良いんだよ」

和「律…」




律「…ん?朝か?」

律「…」

律「あっ、つい寝ちゃってたよ!」

律「ごめんな和、1人で起きてるのは退屈…」

律「…」

律「…嘘だろ?」




律「駄目だ、何処にも居ない…」



~合宿3日目・朝・食堂~

梓「和先輩、何処にも居ませんでしたね…」

律「すまん、あたしがつい寝ちゃったからこんな事に…」

澪「律、自分を責めるのはよせ?」

唯「そうだよ、りっちゃん」

唯「和ちゃんは何処か散歩に行っただけかもしれないよ?」

律「唯…そうだな、和は何処か散歩に行ったんだろう…」

憂(こんな時に1人で外に出て行くなんて考えられないけど…)

憂(今はお姉ちゃんの言ってる事、みんな信じたいよね…)

唯「でも廊下で寝ちゃうなんて…りっちゃんは風邪引かなかった?」

律「ああ、何時の間にか布団を被ってたからな…大丈夫だよ」

律(多分和が…かけてくれたんだろうな…)

梓「それで、これからどうしましょう?」

梓「和先輩の言ってた通り、スキーで町を目指した方が良いんでしょうか?」

律(そうだな…今は落ち込んでる場合じゃない)

律「梓が1番の経験者だから聞いておきたいんだけど」

律「少し雪が舞って来てるよな…この位なら滑れるのか?」

梓「大丈夫ですよ、夜なからともかく明るい内ならもっと天候が悪くても滑れます」

律「此処に残ってても状況は変わらないと思うからな…」

律「あたしは和の案を採用してみたいと思う、みんなはどうだ?」

唯「私は何も出来ないから…憂に任せるよ」

憂「梓ちゃんが大丈夫って言ってるんだから…大丈夫です、私は行きます」

澪「私も梓に任せるよ、どうなんだ?大丈夫そうか?」

梓「大丈夫です、任せて下さい!」

梓「距離は少しありますけどずっと下り坂ですから、町まではすぐに行けますよ」

律「そうか…よし、決まりだな」


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