【回想】

中学の時の修学旅行、行き先は沖縄だった。
一日の行程を終え、沖縄のホテルで一息つく憂たち。

憂『いやー楽しかったねー』

純『防空壕は怖かったけどね』

陽子『……』

憂『? 陽子ちゃん、どうしたの?』

陽子『いや、な、なんでもないよ』

純『なんでもないようには見えないけど……
  気分悪いの? 先生呼ぼうか』

陽子『いや、そんなんじゃなくて……
    ちょっと気になることがあって』

憂『気になること?』

純『何?』

陽子『いや、いいよ……
    言っても信じてもらえなそうだし』

憂『大丈夫だよ、言ってよ、ちゃんと聞くから』

陽子『うん、じゃあ言うね……
    実は今日一日ずっと気になってて』

純『だから何がよ』

陽子『色々なとこ行ったでしょ、今日』

憂『うん、ひめゆりの塔とか防空壕とか
  平和祈念なんたらとか』

陽子『……その行く先々で、同じ人がいたの』

純『はい?』

陽子『ひめゆりの塔でも、防空壕でも、
    おんなじお婆さんを見かけたの!
    まるで私たちのことを待ち構えて、監視してるみたいに……』

純『あっはっは、何を言い出すかと思えば』

陽子『い、いやほんとなんだってば……
    すっごく怖かったんだから!』

聡美『あっ、私も見たよ、その人』

陽子『えっ、そうなの?』

聡美『うん、修学旅行の添乗員さんかなーと思ってさ、
    話しかけてみたけど違ったよ』

陽子『その人、白髪で赤い服着たお婆さんじゃなかった……?』

聡美『うん、その人だよ。
    私写真撮ったけど見る? ほらこの人』

陽子『そ、そうだ、この人だよ!
    今日ずっと私たちのこと監視してた人……』

純『監視とは大げさな』

憂『……』

純『? どしたの憂』

憂(とみおばあちゃんだ……)

陽子『やっぱり怖いよ……先生たちに言ったほうがいいんじゃないかなあ』

聡美『えー、別にそこまでしなくても』

陽子『だって怖いよ』

聡美『じゃー明日も尾行してくるようならさ、先生に言えばいいじゃん』

陽子『う、うん……』

しかし翌日以降、おばあちゃんは現れなかった。

2泊3日の修学旅行を終え、
地元に帰った憂。

憂『ふー疲れた、でも楽しかったー』

とみ『あら、憂ちゃん……』

憂『ひっ、お、おばあちゃん……』

とみ『修学旅行は楽しかったかい』

憂『え、ええ、とっても』
 (やっぱり見間違いだよね……
  沖縄なんかにおばあちゃんがいるわけないし……)

とみ『ひめゆりの塔で聞いた話は感動したねえ』

憂『えっ』

とみ『憂ちゃんはちょっと涙ぐんでいたねえ。
   いいんだよ、ああいうときは素直に泣けば』

憂『な、なんで……知ってるんですか』

とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』


【回想おわり】

【回想おわり】



純「あー、確かそういうこともあったねー。
  まさかあのお婆ちゃんがその人とは」

梓「つまりどういうことだってばよ」

憂「おばあちゃんが沖縄にいたかどうか、真相はわからないけど……
  とにかくこういう不気味な人なんだよ。
  関わるのはよしたほうがいいよ、ね」

梓「でも唯先輩と約束しちゃったしなぁ」

憂「お姉ちゃんは私からも説得するから、
  梓ちゃんも演芸大会に出るのはやめて、ね」

梓「えー、うーん……
  唯先輩が出ないんなら、私は出ないけども」

憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃんを説得して、
  演芸大会に出ないように」

梓「わ、分かったよ。できるだけやってみる」

憂「うん、お願い」



放課後、音楽室。

ガチャ
梓「こんちはー」

澪「おう」

律「梓ー、唯と一緒に演芸大会出るんだって?」

梓「え? はあ、まあ……」

律「実はうちのクラスがその話題で持ちきりでさ!
  本番の日、みんなで応援に行くことになったんだ!」

唯「みんな横断幕とか作ってくれるって~!
  がんばろーね、あずにゃん!」

梓(うわー説得しづれえええええ)

律「私たちも行くからなー。
  澪なんかチアガールのコスプレするって」

澪「しねェよ」

律「クラス総出で盛大に応援してやるから、
  楽しみにしてろよー」

梓「あーなんていうかそのー、
  お気持ちはうれしーんですが……」

律「ん? なんだよ」

梓「いやーなんてーかそのー
  伝え聞いたところによりますとー
  会場はたいへん狭くていらっしゃるみたいなのでー
  そんな大勢はーちょっとー」

律「そうなのか? 会場ってどこなんだ?」

唯「南豊崎の公民館だよっ」

澪「……南豊崎だと?」

律「南豊崎……」

唯「あれ? どうしたのみんな」

澪「えー、だって……なあ」

律「……うん」

唯「言いたいことがあるんならハッキリ言いなよ」

澪「唯、お前は知らないのか?
  南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれてるとこだぞ」

唯「知ってるよ、それがどうしたの?
  土地がどうとかなんて関係ないじゃん!」

律「私、昔からあの土地には近づくなって親に言われてたんだ。
  唯も近寄るのはやめたほうがいいぞ」

澪「そうだよ、いい噂も聞かないし」

唯「もう、いい噂とか親が言ったとか、そういうのはどうでもいいじゃん!
  なんで? なんでみんな南豊崎を嫌う? 南豊崎が何かした?」

律「そういんじゃないけど……」

唯「じゃあもういいよ、みんなは口出さないで!
  あずにゃん、私たち二人だけで頑張ろうね!」

梓(出るのヤメろとは言えない……)




ゆいあずを応援すると言っていたクラスの人達は
会場が南豊崎ということを聞いて
急に応援するのをやめました


………

色々あって演芸大会当日。

梓「展開早っ!」

憂「結局お姉ちゃんを説得することはできず、
  お姉ちゃんと梓ちゃんは演芸大会に出ることになりました。
  私たち3人は今、南豊崎に向かっています」

唯「誰に喋ってんの?」

梓「で、その南豊崎っていうのはどこにあるの」

憂「もうちょっと歩かなきゃ。
  このへんはバスも電車もないから」

梓「もうちょっと……って、
  周りに人家が見当たらないんだけど……
  ほんとにこの先に人が住んでんの?」

憂「うん、1回だけ行ったことある……
  おばあちゃんに連れられて」

梓「へえ、どんな感じだった?」

憂「一言でいうと……不気味だった」

梓「不気味って……」

唯「南豊崎行くの久々だよねー、
  もう8年ぶりくらいかな~」

梓「ねえ、まだかかるの?
  もう40分くらい歩いてるよ」

憂「おかしいなあ、こんなに遠かったかな」

梓「早くしないと演芸大会に間に合わないんじゃ」

憂「間に合わなかったら間に合わなかったで
  こっちとしては嬉しいんだけどね」

唯「あ、憂ー、おうちが見えてきたよー」

梓「ああ、ほんとだ……
  良かった、迷子になってたわけじゃなかったんだ」

3人は南豊崎の町についた。
しかし憂と梓はすぐに景観の異様さにゾッとした。


道の脇に建っている家々はすべて同じ形、
そして屋根の色もすべて青で統一されていた。

梓「な、なにこれ……なんか怖い」

憂「前来た時もこうだったよ……
  その時はなんとも思わなかったけど」

唯「わー、屋根がみんな青色だよー。
  相変わらず綺麗だよねー、憂ー」

憂「はは、そうだね……」

さらに不気味さに拍車をかけていたのは町の静けさだ。
さっきから人っ子ひとり見かけない。

梓「だれもいないのかな……」

憂「分かんない……
  とにかく早く公民館に行こう」

唯「あ、憂、やばいよー、もうだいぶ遅刻しちゃってるよー。
  急がなきゃマズイよー」

憂「そんな急がなくて大丈夫だよ、
  私たちが出るのは後の方だから……」

公民館は町のはずれにあった。
いやもう町と呼ぶより集落としたほうが適切であろう。
同じ家が並ぶこの集落の中で
公民館は異様な存在感を放っていた。

ガラガラ
憂「あれ? まだ始まってない……?」

公民館の中には集落の人間が集まっていた。
そのすべてが老人だった。
憂たちが公民館に入ると、
規則正しく並べられた椅子に座った老人たちは
いっせいに憂たちのほうに振り向いた。

梓「す、すみません遅れてしまって」

唯「ごめんなさーい」

老人たちの中から
とみが歩み寄ってきた。

とみ「ああ、よく来たね、疲れたろう。
   遅れたのは良いんだよ、気にしないで」

憂「あの、まだ始まってないんですか」

とみ「ええ、みんな唯ちゃんたちを待ってたのよ。
   さあ中にお入り」

唯「おじゃましまーす」



そして演芸大会が始まった。
参加者は一人ひとり壇上にあがり、自慢の芸を披露していく。

司会『一番、山田尚吉さんによる手品です』

山田「ではいきますぞ、3,2,1……ホッ」

老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが尚さんの手品は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」

司会『二番、吉田玲次郎さんによる詩吟です』

吉田「延々んん~続行ぅ~ぉぉ~ルララーァァーあああー」

老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが玲さんの詩吟は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」

会場は盛り上がっていた。
しかし憂と梓は薄ら寒さを感じていた。
老人たちの盛り上がりが、まるで演技のように感じられたのだ。
意図的に作られた雰囲気。
それは憂たちに居心地の悪さを与えるばかりであった。

唯「わーすごいね今の詩吟! すっごくうまかったよー」

憂「そ、そだね……」

そして唯と梓の番が回ってきた。


『13番、ゆいあずのお二人によるギター演奏です』

唯「どもどもー!」
梓「ゆいあずでーす……」

二人が壇上に上がると、
先程までの盛り上がりが嘘だったかのように
会場は一気に静まり返った。
そして客席の老人たちは、
まるで品定めでもするかのような目で
ゆいあずの二人を凝視した。
それはとみも例外ではなかった。

とみ「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」

憂(な、なにこれ、どうなってるの?)

梓(なんなのこの人たち、怖い!)

唯「じゃー演奏しまーす、聞いてください!
  ふでペンボールペン!」

唯はなんとも思っていないようだった。
梓は客席からの刺すような視線を意識しないよう
演奏に集中することにした。


……

唯「かなり本気よー♪」
ジャジャーン

異様な空気に包まれたまま演奏は終了した。
老人たちは片時も二人から視線をそらすことはなかった。

憂「……」ぱちぱちぱち

憂が拍手をすると、老人たちも思い出したかのように拍手をした。

唯「どもどもー」

梓(帰りたい……)

司会『では今回の演芸大会は以上となります。
    優勝者は後日、広報紙で発表させていただきます』

唯「なんだ、今日発表してくれないんだ。
  優勝賞品早く欲しいのにー」

梓「賞品って何なんです?」

唯「ケーキ食べ放題だよ」

梓「老人メインの大会でケーキ食べ放題が賞品って……」

その後、3人は帰路についた。
帰りはなぜか来るときよりも時間はかからなかった。


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