男はそんな唯に苛立ちを感じると、唯の肩を軽くどつき、
耳元で洗脳するかのように囁く。

男A「それは嘘だ・・・おまえのことはみんな大嫌いなんだ・・・」ボソリ

昔から人を騙すことに手馴れていた男Aにとっては
人間不信状態に陥った唯を騙すことなどまるで容易かった。


唯はすっかりそれを信じきってしまった。

そうだ・・・みんな私のことが大嫌いなんだ・・・

唯「私、みんなのこと大嫌いだから、この人にお願いしたの・・・」

唯が四人に向かって、言い捨てる。

そうだ、これ以上この人たちに関わっても
自分が愛し続けても、それは報われないだけ・・・

ならいっそ、関わりをもたないほうがいいんだ。


憮然とする唯に、梓が言う。

梓「そんな! それもまたいつか会ったときのように嘘ですよね!?
  ねえ、唯先輩!?」

梓が情的になると、唯に尋ねた。

唯「違うよあずにゃん。
  確かにあのときのは嘘だったけれど、今のは自分の意思だよ。」

唯は冷たく言い放した。

確かに今、こうした発言をしているのは、
今から逃げたいという自分に最も忠実な行動だった。

澪「本当なのか・・・・唯?
  なぁ唯、私たちのことまだやっぱり恨んでいるのか?」

澪は寂しそうにたずねる。

唯「・・・・・?」

唯の頭は今までに無いほど混乱していた。

今の澪の質問がもしも自分が相手を嫌いだったら絶対にしえない
ものだったからだった。

なら、どうして・・・・

いや、でもりっちゃんはああいってたんだ。
きっと何か裏があるに違いない。

唯の頭は律に復讐をした音楽準備室でのように、
割れるほどに痛み、悲鳴をあげていた・・・。

唯(この場から離れないと頭壊れちゃう・・・・!)

唯はそう思うと律たちに背を向けて、音楽室の
外へ出ようとかけていこうとした。


頭が割れそうな唯。
そしてそれに酷く落胆する澪たち。

ショーに最高の準備ができたと男は思う。

男A「じゃあ、そろそろいいかな・・・
  お別れも済んだみたいだし・・・・^^」

男が水を差すように話に口をはさむ。

じりじりと寄ってくる男たちを律たちはただ見ていることしか
できなかった。

そして男Aが右手で何か合図を送ると、周りの男たちは
一斉に律たちに襲い掛かった。


だが、そんな中で律はこれもまた唯への償いになるのならば
それでいいと思っていた。

二年かけてじっくり痛んだ唯の心の傷を少しでも
これによって癒せるのであれば、それは安いものだった。

そしてそれは他の三人も同じであろう。

律「・・・・っ!」

律は震えながらぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばった。


・・・唯・・・・ごめんなっ



ジャラララジャジャラ♪


律が覚悟を決めたそのとき、不意に室内に携帯の着信音
のようなものが響く。

男たちはそれに驚いて、思わず手をとめる。

そして部屋中のほとんどの人間はこの
曲が何かまるでわからなかったが、ただその中の五人だけはすぐにわかった。

ジャララララッジャラ♪

聞き覚えのあるリフ。

君を見てるといつもハート ドキドキ♪

甘々でダサダサな歌詞。

この曲は唯達HTTが初めて作った曲――――ふわふわ時間


するとこの場を去ろうとしてた唯が慌ててポケットから携帯を
取り出し、急いで音を止めた。

どうやら唯の携帯だったらしい。

音楽が止まった音楽室は一瞬静かになる。

男A「なにしてんだよ? おい!?」

男Aは邪魔されたことにひどく腹を立てる。

唯 ビクッ!

唯「すいません・・・・」

そしてそんなことをしておきながらなおもまだ憮然と
してその場を去ろうとする唯。

すると、突然律が立ち上がる。


律「おい唯! なんで・・中途半端なことするんだよ!
  私たちだってお前への償いになればと思って覚悟・・・
  決めたのに・・・・そんな後味の悪いことされたら
  自分が唯の事嫌いだって・・・自分を騙さないと
  折り合い・・・つかないじゃないかッ!」グスン

律が涙をボロボロと流しながら、唯に訴えかけた。

しかし、唯はそれを聞いてなお後ろを向いたり動じる様子も
なく、その場を去ろうとした。 一言かろうじて聞き取れる
くらいの音量でこうこぼして。

唯「忘れられるわけ・・・ないじゃん。
  だって私りっちゃんたちのこと・・・・本当は大好きだもん・・・・」

その声には震えと吐息が混ざっていた。


澪「・・・・え?」

男Aは自分の嘘がばれてしまうのではないかと心配し始めた。
そして、男Aは強引に話を戻す。

男A「唯、てめぇ・・・奴隷のくせによ・・もうしゃべんな!」ギロリ

男は唯を鋭い眼光で睨み付けた。

男A「そして、君たちのこともボコボコにしなきゃねぇ・・」

男Aがニヤニヤしながら再び合図を送る。

すると、向かってくる男たちに澪が毅然とした様子で尋ねた。

澪「あの! 最後にひとつ、どうして唯はサークルを
  やめることをしないんですか?
  私たちはボコボコにされても構わないから、コレだけは
  教えてください!」

澪の質問に男Aは思わず少し考えた。

男A(唯の大切なアレを見せれば、あいつらもっと苦しむかも・・・)ニヤリ

男A「いいだろう、ちょっと待ってな・・・」

男はそういうと笑みを浮かべながら、
部屋の奥から何やら薄汚いダンボールを持ち出すと、
澪たちの目の前に置いた。

男A「見てみろよ」ニヤリ

初めは四人とも気が引けるようだったが、唐突に律が
その箱を開いた。

律・・・・!

律は驚くと、それをみんなにも見えるように箱をひっくり返した。


ガラガラガラ

中に入っていたものが勢いよく地面に落ちる・・・。

それを見たほかの三人もまた驚く。

それは一見ガラクタにしか見えなかったが、
よく見るとそれは―――――――――軽音部の思い出の品々だった。

軽音部で何気なく紬のお菓子の箱でつくったロボット。。

練習で使ったけれど、読めなかったたくさんの楽譜。

練習で先端が削れて使えなくなったピック。

何十枚何百枚と撮ったくだらない写真やミスショット。

そして、そのほかにもガラクタとしか思えないものが次々出てくる。

澪「そんな・・・・・なんで・・?」


例えば、それが楽器だったり学園祭の衣装だったのなら
まだ話はわかるのかもしれない。

しかし、それらはあまりにちっぽけなものだった。

しかし、澪たちにとってはこれが奴隷のような扱いを受け続けて
なお守らなければいけないほどのものだとは思えなかった。

澪「唯っ・・・・・なんでだよ!」グスン

こんなガラクタ当然のものをずっと守り続ける唯の切ない
心境を思うと、澪の目には涙が溜まる。


するとさっきまでそこで震えていた唯が話しだした。

唯「だって・・・・だって私は、弱い人間だから・・・
 こうやって常に安定した過去を自分の近くに置いておかないと
 おかしくなりそうになるの・・・・。
 だって、今の澪ちゃんたちは・・・・・私のことどんな風に
 思ってるかなんてわからないでしょ?」

唯が答える中で、男はショーの邪魔になるガラクタを
ダンボールの中に戻す。

ガバッ!

すると、律はそのダンボールをとっさに男の手から取り上げると、
後ろの窓から一気に外へ投げ出す。


ガラガラガラガシャーン!!

律が投げ出したガラクタたちは痛々しい音と
ともに、地面へ落ちた。

無残な姿になったことは容易に想像できた。

律のとった衝撃的な行動に男たちはもちろん
唯や澪たちでさえあっけにとられていた。


唯「・・・・・な、なん・」

唯が話し出そうとすると、それを遮って律が胸を張って言う。

律「なぁ唯、思い出なんてもういいんだ!
  また私たちと一緒につくろうぜっ!
  そして今私たちは唯のことが・・・・やっぱり大好きだっ♪」ニコッ

律の自信に満ち溢れた表情はもう疑うことはできなかった。

そして、唯はハッとすると男によって隠されてしまった
本当の気持ちを思い出す。


私はりっちゃんたちとずっと一緒にいたい!

唯の目にはもうくすみがなく、すっかり晴れ渡り、
いつかのように自信を取り戻していた。


律にいきなり箱を取られたことをあっけに取られていた男だったが、
今は自分の計画が潰されかかっていることに危機感とともに、
激しい怒りを覚えていた。

俺の計画が奴隷なんかに狂わされてたまるかぁぁぁ!!!

男A「ふざけんなぁぁ! やっちまえ!」

男が怒りに身を任せるかのように叫び散らすと、周りの
男たちが再び唯を含むHTTのメンバーに襲いかかろうとした。

梓(もうさすがにだめだ・・・・・・)

梓があきらめたところで、不意に音楽室のドアが開く。

ガチャ!

激しい音を立てたドアの向こうから一人の男が駆け込んできた。


?「大丈夫ですか!!」

突然に入ってきた男―――――斉藤は心配そうに叫ぶ。

予想もしない部外者の乱入に、場はまたしても整然とする。

澪「なんで・・・・・」

澪は入ってきた斉藤を見ると、驚きを隠せなかった。

あの人・・・どうしてここに・・・

澪が不思議に思って辺りを見回すと、さっきまで気絶していたはずの紬が
こっちにアイコンタクトを送った。

紬「・・・・・・」パチッ

どうやら紬はずっと気絶していたフリをして助けを求めていたらしい。

澪(流石ムギだ・・・・)


澪がそんなことを思っていると、斉藤が野太く第二声をあげた。

斉藤「行きなさい!」

斉藤がそう言って合図をすると、斉藤の背後から
黒いスーツで身をかためた男たちが何十人と現れた。

これは律が後で紬から聞いた話だが、彼らはどうやら
琴吹家専属のSPで、今日来たのは全体の10分の1にも
満たない人数らしい。

男たちは律たちを襲っていた男たちを捕まえにかかった。

男A「くそっ! なんなんだお前らっ!」

そして、抵抗する男たちを斉藤が連れてきた男たちは絶望的
な強さであっという間に倒し、捕らえてしまった。

目の前の光景があまりにも速く展開したため、
律たちはそれまでの恐怖を忘れ、ただ呆然としてしまう。

男A「くそっ・・・・離せっ!」

男Aもまたスーツの男に捕らえられる。


男Aもまたスーツの男に捕らえられる。

するとそこにさっきまで背中を向けていた唯が駆け寄ってきた。

男A「なぁ、唯ちゃん。 こいつらに言ってやってくれよ!
  俺は何もしていないって・・・はぁ・・はぁ」

唯の腕に掴みかかると、すがるように必死に助けを求める男。
しかし唯がまるで反応しないと男は加えて言う。

男A「なぁ・・・俺ら同じサークルの・・・仲間だろう?」

仲間・・・・?

すると唯は掴まれていた男の手を腕から払い、
逆に男の腕を強く掴むと、男を睨み付けながらこう言い放った。


唯「ふざけんなっ! お前なんか死んでもいい!」ギロリ

ゴツッ!!

唯はこれまでの全ての思いをこめて、全力で男の顔にこぶしをぶつけた。

自分を奴隷として使ってきた二年間・・・

澪たちと自分に誤解を招いたのもコイツのせいだった・・・・

絶対に許さない・・・・・っ!!

唯に殴られると、男はスーツの男の腕をすりぬけて、床に伏した。

どうやらスーツの男に攻撃されたせいか自由に
動けないらしい。

男A「うぅ・・・やめてくれ・・・」

男Aは唯がその気になれば平気な顔で硫酸をばら撒く
ことをふと思い出す。

その瞬間、男の全身に悪寒が走る。

すると唯は、おびえながら床に伏す男に寄って行った。

男A ビクッ!

唯はしゃがみこむと床に伏せる男の前髪をつかむと、
強引に顔を上げさせた。

その男の顔は今までの態度とは別人のように、恐怖でゆがんでいた。

唯「これで私の気持ち・・・・少しはわかった?
  もう二度と・・・・死んでも、私に関わらないでっ!」ギロリ

べチャ!

唯は毅然とした様子で吐き捨てると、男の顔を
冷たい地面へとたたきつけた。


すると唯は何事も無かったかのように、男に背を向けて、
男の元をさっさと離れた。

スーツの男もおそらく唯と男Aの間に何があったのかは知らないが、
手を出すことも無く、黙ってそれを見届けた。 

男A「くそっ! お前・・・奴隷のくせにッ・・覚えとけよッ!!」

男は定番の台詞を吐くと顔を抑えながら、
引きずられるようにスーツの男に連行されていった。

どうやら、全体を指示する斉藤いわく警察に突き出すという。

律たちは無事に保護されて、お互い体を寄せ合って
安心感から泣き出してしまっていた。

でも・・・よかった・・りっちゃんたちが無傷で・・・

そして、斉藤たちが警察に連行すべく、忌まわしき
男たちを音楽室の外へ運び出していた。

やっと自分はあいつらから解放されたんだ・・・・・


唯はあらゆる緊張が一気に解けると、ふにゃりと体勢を崩し、
そのまま柱にもたれ掛ると安心感からそのまま眠ってしまった。



唯が音楽室で目を覚ましたのはその日の夕方だった。

唯「う・・・・・うん・・?」

唯は眠気で重たいまぶたを何とか開くと、辺りを見回す。

だが、さっきまで騒然としていた音楽室には人一人いなくなっていた。
いつかの日のように、唯はポツリと一人、音楽室に座り込んでいた。

かわりに外の夕日が音楽室に寂しげに注いでいる。

そして、唯の隣にはギー太だけがポツリと立てかけてある。

唯はいつかの音楽室を思い出していた。

あの日、自分を捨てた日・・・・
あの日もこうやってここにギー太と二人っきりだった・・・
そしてあの日も今日みたく、夕日がきれいな日だった。

唯はしばらくただ呆然としていたが、
しばらくすると時間を確認するために携帯を開いた。

唯「・・・・あれ?」

すると、誰かから新着でメールが入っていた。

アドレスを確認すると、それは登録されていない
人物からのメールだった。


9