律「あの日、部活が終わった後いつものように帰宅していたんだ」

律「そうしたら前から来た男にいきなりみぞおちをぶん殴られた」

律「怖くて声も出なかったよ。そのまま私は捕まった宇宙人のように人気のないところに運ばれた」

律「そこには何人も男がいて、それで・・・」ポロポロ

澪「律、無理するな。それ以上は言わなくていい」

澪は律の手を握り、涙を拭いてあげた

律「ああ、ありがとう澪」ポロポロ

律「そこにいたんだ、唯が」

紬「なんてことなの・・・」

律「あいつ泣き叫ぶ私を見てほくそ笑んでいたよ」

さわこ「ひどい」

律「私にとってそれが一番ショックだったんだろうな。その現実が受け止められず防衛手段として幼児退行してしまったんだろう」

律「あとはみんなが知る通りだよ」

にわかには信じられない話だったが、律がおかしくなってから唯が部活にこなくなったこと、律の大事な部分に傷があることから信じざるを得なかった

澪「なんでそんなことをしたんだ!?唯の奴、許せない!」

紬「ええ、こんなの人間の所業じゃないわ!」

さわこ「警察に連絡して逮捕してもらいましょ!」

律「待ってくれ。その前に唯の真意が聞きたい。一体なんでこんなことをしたのか・・・」

澪「そんな悠長な!裁判所でたっぷり語ってもらえばいいじゃないか!」

律「訴えるつもりなんてないよ・・・場合によっては許そうと思ってる」

澪「なんだと!?」


澪「こんなことをされてよくそんなことが・・・」

律「夢の中でわかったんだ。私にとって何が一番大切かってな。夢の中のさわちゃんがそれを教えてくれたんだ」

さわこ「夢の私も少しは役に立つわね!」

律「そうだな。私は何よりも軽音部とこのメンバーが大切なんだ。もちろん唯も」

律「もう一度仲のいい4人に戻りたい。またみんなでバイトしたり海に行ったりしたい。放課後グダグダした時間を過ごしたい」

律「私の望みはそれだけなんだ」

もう律に異を唱える者はいなかった
律の希望を叶えよう、これが澪たちの総意だった

澪「わかった。律のいうとおりにするよ」

紬「ええ。私にとっても、りっちゃんも唯ちゃんも大切な仲間だもの」

さわこ「私にとっては大切な教え子よ」

律「みんな・・・ありがとう」ポロポロ

澪「律~、元に戻ってから少し涙もろくなったんじゃないかぁ?」

律「そ、そんなことないよ!」

律は慌ててグシグシと涙をぬぐう

律「いつもいつも泣いてるお前に言われたくねー!」

澪「な、なんだとー!」

澪は律に向かって拳を振り上げる
律はとっさに目を閉じた

律(・・・!あ、あれ?)

律の頭にポンと手が置かれる
澪の手だった
澪はそのまま律を抱きしめた

澪「おかえり律」

律「う・・・」

律「うわあああああ!ああああああん!」

律は初めて堰を切ったようにおお泣きした

澪「怖かったんだな。ごめんな助けてあげられなくて」ポロポロ

律「うわあああああん!みおおおああああ!」

澪「もう律を一人にしなから。ずっとずっと私がいるから」ポロポロ

紬は抱き合う二人をじっと見ていたが、この時ばかりはさすがに空気を読んだ

さわこ「これで後は唯ちゃんが改心してくれたら一件落着ね!」


唯「いいねえこの茶番!私泣けてきちゃった!」

一同「!?」

音楽室の扉の前にはいつの間にか唯が立っていた
手にアーミーナイフを握って

律「唯・・・」

唯「あーあ、りっちゃん元に戻っちゃったんだ。ずっとあのままで良かったのに」

澪「唯!お前!」

唯「動かないで!動いたら自殺する」

本来なら唯が自殺してくれるのはありがたいことだったが、律の希望を叶えるため、それだけはなんとしてでも阻止しなければならなかった

律「待て!唯、なんでお前はあんなことをしたんだ?それを聞かせてくれ」

律「私たちは友達じゃなかったのか?大切な仲間じゃなかったのか?」

唯「友達?はっ!私はそんなこと一度も思ったことないよ!」

唯の目は血走り、光はなかった


律「どうして・・・あんなに仲良くしてたじゃないか!」

唯「そりゃあするよ、仲良くする振りをね。そうしないと私は一人ぼっちになっちゃうもの」

澪「どういう意味だ?」

唯「私はね、馬鹿な振りをして自分を偽らないと友達ができないの」

唯「りっちゃんにはわからないよね、自分を偽ってなんとかそこに自分の居場所を作ろうともがく人の苦しみがさ」

律「なんだ?一体何を言っている?」

唯「わからない?私は無理してこんなお馬鹿キャラでいるんだよ」

律「なぜそんなことをする必要がある?」

唯「だからそうしないと友達ができないんだってば。本当の私は暗くてジメジメした子なんだよ。そんな子が友達できる?できないよね?」

唯「私は自分を偽り続けた。そうしたらいっぱい友達ができたよ。私のやってることは間違ってない、もしかしたらこれが本当の自分かもしれないとも思うようになった」



唯「でも違うんだよ。私は家に帰ると学校の反動で喋るのも億劫になってしまうようになった」

唯「ああ、やっぱりこれが本当の私なんだなって実感しちゃったよ」

唯「澪ちゃんなら私の気持ちわかるよね?」


澪「ああ・・・少し・・・わかる・・・」

律「私にはわからねえよ!なんで偽る必要がある!?本当の自分を見てもらわないでなんの意味があるっていうんだ!」

唯「それがムカつくんだよりっちゃん」

律「なんだと?」

唯「りっちゃんはいつも自分をさらけ出してる。私には理解できなかった。そしてそんなりっちゃんが一番友達が多いことが許せなかった」

唯「だから本当のりっちゃんには意識の奥底で眠ってもらおうとあの計画を思いついたんだ」

唯「あんなことされてこれからも明るく生活できる人なんていないもんね!実際りっちゃんもおかしくなっちゃったし」

唯「いや~笑っちゃったよ!暗い性格になる思ってたのに、まさか幼児退行しちゃうなんてさ!アハハハハ!」

澪「お前って奴は・・・」

紬「人間じゃないわ・・・この子は悪魔よ・・・」

さわこ「許されないわ」

律「唯・・・」ポロポロ


律「唯・・・私はお前がどんな性格だろうと友達になったのは間違いないよ信じてくれ」

唯「そんなの信じられるわけないよ!本当の私はりっちゃんと正反対なんだよ!りっちゃんみたいな子が暗い子と仲良くしてるのなんか見たことない!」

律「それは普通の奴らの話だろ!私たちは軽音部なんだ!」

唯「・・・ッ!」

律「軽音部なんだ。大切な仲間なんだ。お前がどんな性格かなんて知るか。そんなの関係ねえよ」

唯「・・・」

律「私はどんな唯でも受け入る自信があるし、こんなことをされてもお前と友達でいられると思ってる」

澪「律・・・」

唯「ば、馬鹿だよ!りっちゃんは馬鹿だ!」

律「ああ、馬鹿だな。自分でもそう思うよ」

律は曇りのないまっすぐな目で唯を見つめた
およそ唯には真似できな目だった

唯「や、やめて・・・そんな目で見ないで・・・」

律「見るよ。私にはこんな目しかできないからな」

唯「い、いや・・・」ポロポロ

律「唯戻って来い。もう一度一緒に部活をしよう。お菓子食べたり買い物したり海に行ったり・・・楽しいことがたくさん待ってる」

澪「そうだぞ。唯の悩み私にもわかる。苦しいときは私に相談すればいいんだ。似た者同士、きっといい解決法が見つかるよ」

紬「唯ちゃん、唯ちゃんがいないとお菓子が余って捨てることになっちゃうのよ。だから戻ってきて」

さわこ「そうそう」

唯「みんな・・・うう・・・うううう・・・」ポロポロ

唯の手からナイフが落ちる
それと同時に唯も床に崩れ落ちた

唯「うう、ごめんなさい・・・みんなごめん。りっちゃん私・・・私」ポロポロ

律はさっき澪がしてくれたように唯の頭に手を置き思いっきり抱きしめた

律「いいよ。謝ってくれれば私はそれでいい。それにさっきの唯、本音でぶつかってきてくれて嬉しかったぞ」

唯「うう・・・りちゃああ・・・」ポロポロ

律「自分を偽って得たのは友達なんて言わないんだ。さっきの唯と私たちみたいに本音でぶつかり合えるのが友達なんだ」

律「いるじゃないか。お前の友達」

唯が顔をあげるとそこには微笑みを浮かべた軽音部のメンバーが立っていた
もう誰一人、唯を許さないという者はいなかった

唯「りちゃ・・・りちゃあああああ!!うわーん!」

律は唯の気がすむまで自分のムネで泣かせてあげた

律は唯をしょっ引くつもりはなかったが、唯がどうしても罪を償いたいということで、希望通り自首させた

さわこ「それじゃあ私が警察署まで送るわね。たぶん少年院に入ったら当分会えないと思うけど・・・何か言いたいことはある?」

唯「みんなごめんね。私罪を償ったらもう一度音楽室にいくから。それまで待っててくれる?」

律「ん~まあ、友達がそう言うなら仕方ねえなあ。澪とむぎはどうだ?」

澪「待ってるよ。もう一度みんなで武道館を目指そう」

紬「おいしいお菓子も用意してるわ」

律「唯、良かったなあ!優しい友達ができて!」

澪「そういう意地悪なこと言うな!」

ポカ

昔の軽音部のいつもの風景がそこにあった


澪「お前はやさしいな」

律「あ?何が?」

澪「普通あんなひどいことされて、許せることなんてできないよ」

律「人は間違いを犯すものだからな。唯は罪を償うって言ってくれた。私にはそれで充分なんだよ」

澪「律らしいな」

律「夢の中の私は何度も間違いを犯したからな。仲間を想う気持ちがなかったせいで・・・」

律「もうそんな過ちは犯さない。私は唯を信じるよ」

律「それに私には澪がいるんだ。あんなことくらいすぐ許せるよ」

澪「?どういう意味?」

律「え?ずっと私と一緒にいてくれるって言ったじゃん」

澪「・・・。は?」

律「まさかお前、私にこんな汚れた体で嫁入りしろってのか!?私と一生一緒にいてくれるんだろ?」

澪「///」

澪「あ、当たり前だろ・・・!」


唯が出所の日

梓「怖い人なんですか?唯先輩って」

律「怖いぞ~なんたって少年院に入るくらいだからな!・・・プププ」

梓(ええ~・・・やだなあ・・・)

澪「嘘をつくな嘘を!」

ポカ

律「あいた!」

紬「あ、ほら!出てきたわよ!」

紬の指差す方に、少し逞しくなった唯がいた

律「おかえり唯」

唯「ただいまりっちゃん」

そこには本当の仲間になった軽音部メンバーの姿があった


fin