放課後、音楽室前

律「今から私と空き缶、どっちがドラムがうまいか勝負をするらしいんだ」

唯「・・・え?w」

唯はいけないと思いつつも、こみ上げる笑いを抑えられなかった
だがそうなるのも無理はない
空き缶と人間のドラム勝負など、ただのコントでしかないからだ

律「気持ちはわかるが笑わないでやってくれ・・・あいつは本気なんだ」

唯「う、うんっぷ・・・わか・・・プクク。わかった・・・プピ」


律「それとお前は澪の前では古手川唯と名乗ってくれ」

唯「古手川?なんで?」

律「平沢唯が二人もいたらあいつ混乱しちゃうだろ?私も一応ド田舎律で通っているんだ」

唯「ド田舎?」

律「うん」

唯「ド田舎」

律「そうだよ」

唯「ド田舎・・・ド田舎律・・・ぶふぉ!」

ついに笑いのダムが決壊し、唯は腹を抱えて笑い出した



頭にこぶを作った唯と律が音楽室に入ると、澪は空き缶達と談笑している最中だった

律「澪」

澪「おード田舎さん、待ってたよ。そちらは?」

唯「こ、古手川唯です。ド田舎さんに誘われて入部しにきました!」

同じ部活に2回も入部するなど、まったく珍しい話である

澪「そっかあ!歓迎するよ!軽音部も大所帯になるな!なあ、みんな!」

空き缶「」
空き瓶「」
ティッシュ箱「」

律「・・・」
唯「・・・」


澪「じゃあさっそくドラム勝負をしてもらおうか。ド田舎さん先にやる?」

律「いや、田井中さんからでいいです」

澪「そ。そういうことだ。準備しろ律」

そういうと澪は空き缶をドラム近くの椅子の上においた

唯「りっちゃん・・・」

律「黙ってみてろ・・・澪の好きにさせてやろう」

澪「それじゃあ律のタイミングで始めてくれ」


音のしない音楽室で澪だけが何か納得したように、うんうんと頷いていた

唯「間近で見ると怖いよ・・・りっちゃん」

律「大丈夫だ・・・大丈夫」

唯は澪の異様な姿に恐怖すら抱いていた


澪「うん!なかなかいいじゃないか!練習の甲斐があったな!」

澪の中で律はとてもいい演奏をしたらしい

唯「終わったの?」

律「そうらしいな・・・」

澪「じゃあ次、ド田舎さん」

律「ああ」

唯「りっちゃん頑張って!」

律「・・・」

唯(ん?)

律は苦笑したような顔を唯に向けた
この時の唯には律の真意を知ることができなかった


律「いくぞ、123」

どんどんがらしゃーん

澪(あれ?)

どんどん

澪(ド田舎さんのドラム、律にそっくりだ)

澪(いや、むしろ律の演奏そのものだ・・・!)

澪(一体どういうこと・・・?)


どんどんしゃんしゃん

律(私のドラムを聞けばきっと澪は何か思い出すはずだ・・・何か・・・)

律「」



律「うらあああああああああああ!」

律は演奏の途中にも関わらず、澪たちの方に向かってドラムスティックをぶん投げた

澪「ひッ!?」

唯「り、りっちゃん!?」

律「ハアハア・・・」

律「なあ澪、3Pバンド組もうぜ。田井中さん達とはバンド解消してさ。私と古手川さんで楽しくやろうぜ?」

唯「りっちゃん・・・?」

律の目には光がなかった


律は瞳孔開きっぱなしの目で澪に迫った

澪「ひいッ!」

律「なあ、文化祭は私達と出ようぜ?こんなぬるい奴らとやるよりいいだろ?なあ!?」

澪「あの・・・」

律は女の子と思えない力で澪の腕を握りしめていた

澪「い・・・いた・・・」

唯「ちょっとりっちゃん何してるの!」

ドン

唯「あいた!」

唯は律に突き飛ばされ、盛大に尻餅をつく

律「うるせえ・・・」

唯「え?え・・・?」

律「うるせえっつったんだ!今まで澪のことを放っておいたお前にとやかく言われたくねえんだよ!」

唯「り・・・」

唯は律の目を見て確信した
おかしくなった澪を助けようともがいていた律は、澪以上に狂ってしまっていたのだと


律「なあ!こんな奴らなんかより私達とバンド組んだほうがいいだろ!?ああ!?」

なおも律は澪の腕をギリギリと締め付ける

澪「いたい・・・やめて離して・・・」ポロポロ

唯「りっちゃん!」

律「!?」

唯の声に我に返った律は自分がとんでもないことをしたと実感した
律が締め上げた澪の腕には血が染み出していた

律「あ・・・ちが・・・これは・・・」

澪「・・・」ポロポロ

律「うわあああうわあああああ!!!!!!!あああ!!!!!!」

律は目に涙を浮かべ、奇声をあげながら音楽室を出て行った


唯「大丈夫?血が・・・」

唯(どうしてこうなった・・・)

澪「う、うん・・・大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけ」

澪「律達は大丈夫か?そう、良かった・・・」

空き缶達が無事なことを確認すると澪は安堵した

唯「み、澪ちゃん・・・」ポロポロ

唯はこのとき初めて律の気持ちがわかったような気がした
こんなにも健気な澪を見ていると、狂ってしまうほど助けたい気持ちになるのだろう
唯は軽音部の一員として、律も澪も救うことを決意した



律の自宅

律「私はなんてことをしたんだ・・・なんてことを・・・」

律はかれこれ1時間も、自分の手についた澪の血を眺めながら自責の念にかられていた

律「ごめんよ澪・・・ごめん・・・」



律「ハアア、澪の血・・・いい匂い・・・」

律「ちょっとくらいなら舐めてもいいよね?」ぺロ

律「あは、あははは」ポロポロ

律は自分の手を舐めると恍惚の表情を浮かべた




次の日、音楽室

唯「澪ちゃん、文化祭は私たちと3Pでやろうよ!」

澪「え・・・無理だよ。今までこの軽音部でやってきたんだ。4人と出るのは当然だろ?」

澪「ほら、古手川さんが変なこと言うから唯が怒ってるじゃないか」

唯「・・・」

唯「私が唯だよ・・・」

澪「え?」

唯「私が唯だよ!平沢唯!ずっと一緒にバンドやってきたでしょ!?なんで忘れちゃったの!?ねえなんで!?」

澪「こ、怖いよ古手川さん・・・」

唯「あ、ごめん・・・」

唯(これじゃありっちゃの二の舞じゃない・・・ダメダメ、落ち着かないと)

澪「それじゃあ唯たちと演奏した後に3人でやろうよ。ね?いいでしょ?」

唯(それじゃあダメなんだ。ゴミと一緒にバンド演奏なんてやったら澪ちゃんは本当のキチガイに思われちゃう)

澪「この話はこれで終わり!さ、練習練習!」



次の日、唯の教室

和「唯大丈夫?」

唯「何が?」

和「なんか疲れてるみたいだから・・・目にクマもあるし」

唯「あー、昨日の深夜番組が面白くってずっと起きてたからさあ!あははは」

和「そう、ならいいけど」

唯もまた律と同じく、澪の件で多大なストレスを感じていた

紬「唯ちゃん、久しぶりね。話って何?」

唯「うん、澪ちゃんのことなんだけど」

紬「ああ・・・」

唯「むぎちゃん、澪ちゃんを助けよう。もう一度みんなでバンドやろ?」

紬「・・・」

紬「ご、ごめんなさい・・・今は合唱部の方が楽しいし、文化祭に出ることも決まってるの。だから澪ちゃんのことにかまってる暇は」

唯「ふーん、そう。わかったぁ!だよねぇ!合唱部の方が大事だもんねえ!応援してるから頑張ってね!?」

紬「え、ええ。ありがと・・・」



文化祭当日、唯は校門で律が来るのを待っていた
あの日以来、律はずっと学校を休んでいた

唯(澪ちゃんを助けられるのはりっちゃんだけだよ。お願いだから来てよ)

律「よう唯」

唯「!?りっちゃん!やっぱり来てくれたんだね!」

律「当たり前だよ。私がいなかったらお前らはダメダメだからな!」

律の想像以上に明るい笑顔に唯は安堵した

そして唯はムギのことや澪がゴミと一緒にライブを開くことなどを話した

律「そうか、むぎがなあ・・・まあ合唱部があるんなら仕方ないだろ」


律「唯ありがとな」ボソ

唯「え?何?」

律「ちょっとこっち来て」

唯「え?」

ドフス

唯「ふぐぁ!?」

律は渾身の力をこめて唯のみぞおちをぶん殴った

唯「」

律「お前は私の親友だ。だからこそお前の手は汚したくない。ちょっとの間寝ててくれ」

律は唯を人目のないところに寝かせ、すぐに携帯電話を取り出した

プルルルルル

律「もしもし、むぎ?」

律「今から外の体育用具倉庫に来てくれない?」

紬『今から?でももうすぐ合唱部の本番が・・・』

律「すぐ終わるからさ!」

紬『そ、そう。じゃあすぐ行くわね』

律「サンキュー。待ってるよ」

律「すぐ終わる・・・すぐにな・・・」



用具室

ガララ

紬「りっちゃん?」

律「よっ!」ニコニコ

つむぎは何か言い知れぬ不安を感じていたが律の笑顔を見て安堵した

紬「話って?」

律「うん、澪のことなんだけどなあ」

紬「また澪ちゃん・・・もういい加減にしてよ・・・」ボソッ

律「澪がああなった理由、むぎは何か知らないかなーと思ってさ」

紬「し、知らない」

律「ふーん、私はてっきりむぎとさわちゃんが組んで何かしでかしたんだと思ったんだけど、違うの?」

紬「・・・!」

紬「知らない」

律「そう、嘘だけはつかないでね?」

律は制服の内ポケットからアーミーナイフを取り出した

紬「脅すつもり?」

律「そんなことしないよぉ。返答しだいで殺すけど」

律の目は、また光が消えていた


律「さわちゃんに澪のことで相談したとき、そりゃあ教師とは思えないような態度取られたんだよなぁ」

律「ムギはむぎで、澪のことなんてすぐに捨てて、のうのうと他の部活に行っちゃうしさぁ」

紬「それが何?そんなことで私とさわこ先生は犯人扱いなの?」

律「それだけで充分なんだよ」

律はものすごい勢いと力で紬を押し倒し馬乗り状態になった

紬「うっぐ・・・!」

律「みんなで苦しみを分け合うのが仲間ってもんだろお?」

律「なあ!」

律はつむぎの腕にナイフを突き刺した

紬「うっがあああああああああああ!!!!!!」

律「アハハハハ!」ポロポロ

律は紬の腹にもナイフを突き立てた

律「ごめんなむぎ!?ヒヒャハハ」ポロポロ

紬「う・・・あ・・・わたしじゃ・・・ない」

紬「さわ・・・先生が・・・」

紬「」

律「ハアハア」

律「やっぱあいつか・・・!」

律「むぎ、全部片付いたらちゃんと謝るから」

律は返り血を気にすることなくよろよろと体育館に向かった


唯「う・・・いてて・・・」

唯「りっちゃんは・・・?」

「キャー!!」

唯「!?」

唯「体育館の方からだ!」

唯は痛むお腹を押さえて精一杯走り出した




体育館

「次は軽音部によるバンド演奏です」

澪「いよいよだな!みんな頑張ろうな!」

和「ぎゃああああ!?」

澪は和の叫び声がしたほうを向くと、制服を真っ赤に染めた律がステージ脇に立っていた それを見た澪は腰を抜かし、その場にしりもちをついた

澪「うあ・・・ド田舎さん・・・?」

律「澪・・・もうこんなことはやめろ・・・私だよ。私が田井中律だよ」

澪「田井中律?でも律はそこに・・・」

澪はドラムの方を指さした
そこにはもちろん空き缶がおいてあった


律「こんなの私じゃないよ・・・これはただの空き缶なんだよ・・・澪」

澪「空き缶?一体何を言って・・・?」

律「見ろよ・・・こんなの簡単に握りつぶせる」

律はドラムの椅子においてあった空き缶を持つと、澪の目の前で握りつぶした

澪「!?」

澪「い、いやあああああああああああああ律があああ律うううううう!!!!」

律「澪・・・」ポロポロ

澪「ひ、人殺しいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」


律「ここまでやってもダメなのか!?私が今までどれだけ澪に尽くしてきたか・・・!」

澪「いやああああああああ!!!!!!!!くるなああああああああ!!!!!」

律「なんで・・・なんでだよ・・・どうしてこうなった・・・」ポロポロ

澪「律!しっかりしろ死ぬな律!うわああ!」ポロポロ


さわこ「あいつです!あいつが殺人犯です!」

律「!?」

客席の方を見ると、さわこと警官数名が体育館に突入した直後だった

律「くそ・・・!」

律「澪!後で迎えに行くから!それまで待ってて!」

澪「ううああ・・・律・・・律・・・」

逃げ出す律を横目に、澪は潰れた空き缶を握り締め律の名を呼び続けていた



唯「りっちゃん!」

さわこ「あら唯ちゃん遅かったわね。でも安心していいわ。極悪人田井中律は警察が捕まえてくれるから」

唯「極悪人?警察?」

さわこ「実はね・・・」

さわこは事の一部始終を唯に聞かせた

唯「そんな・・・」


澪は律(空き缶)の死によるショックから無気力症になり、入院生活を送っていた

澪(どうしてこうなった)

唯は事件のショックから部屋に引きこもる生活を送っていた

唯「どうしてこうなった」

律は潜伏先でその日の食料にも困る生活を送っていた

律「どうしてこうなった・・・」



さわこ「馬鹿な子達・・・いい気味だわ」


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