44. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:02:13.59 ID:qWjAk7mm0

私が立ち上がろうとすると、後ろから腕を掴まれた

振り向くとけいおん部の後輩の一人がにやにやと笑っている。


いちご「放して。もう帰るから」

律「純、放すんじゃねーぞ」
   「とりあえず話しが終わるまではじっとしていてもらいたいからな」


純と呼ばれた後輩が小さく頷き、私の肩を押す。


純「座って下さいよ」

いちご「やだ」

私はなんとか立ち上がろうとした

45. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:04:59.13 ID:qWjAk7mm0
律「別に立っててもいいさ。そこは被告席だ」

澪「これは若王子さんの裁判なんだ。復讐のための裁判だ」

唯「私達が判決を下すんだよ!  私達がね!」


皆、真剣な表情で私を見つめている。
思わず走って逃げ出したい衝動に駆られたが、後ろの後輩に
両腕をとられ、身動きができない。

裁判だって……?  ばかげている。
そんな思いと同時に、背中を寒いものが駆け抜ける。


紬「判決を申し渡す!」

ことぶきさんが静かに右手をあげた。そして……

46. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:08:59.22 ID:qWjAk7mm0

                      「死刑!!」

      「異議なし!」「意義なし!」「異議なし!」


全員が右手の拳を固めると親指を突き出し、それをぐっと下に下げた。
ジ・エンドだ。


死――?

死刑。
私はここで、けいおん部に殺される……?

そんなわけがあるものか。
これは酷い脅しに決まっている。


いちご「もう許して、帰らせて」

51. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:12:24.70 ID:qWjAk7mm0
   「あ、あの!」

突然背後の後輩の一人が声を上げた。

   「わたし、まだ初めてなんで、よくわからないんですけど!」

律「ん?  ああ、純ちゃんはまだ仮入部員みたいなもんだもんな」


純と呼ばれた後輩が照れくさそうに頭をかいた。
『鈴木』と書かれたジャージを着ている。


律「まあ、特に決まりは無いけど」

   「いちごが逃げるから。見つけて、殺すんだぞ」

   「武器、協力、罠、なんでもありだ」

   「ただし私から横取りしたら怒っちゃうからな!」


52. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:15:22.90 ID:qWjAk7mm0
唯「クラスメイトとするのは初めてだよね、ドキドキするよー」

紬「一応候補は挙がってたのよ。松本さんとか二、三人」

純「佐伯ミカさん……はリストに目立った理由が無いんですけど」
   「誰が提案してたんですか?」

澪「ああ、律が殺したがってたんだよ。私怨だな。馬鹿らしい」

律「なにおー!」



目の前で異常な会話が繰り広げられる。

私の頭は、まだこれが現実であるのかどうか、判断を下しかねていた。


紬「若王子さん、なんか聞きたいことある?」


聞きたいこと……?  言いたいことだらけだ。


53. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:18:04.76 ID:qWjAk7mm0
いちご「こんなのはもう嫌」
        「死刑とか復讐とか、意味分かんない」

両目から涙がこぼれる。私はただ黙ってけいおん部を見つめた。



律「まーだマジに考えてないわけ?  あ?」

紬「まあまあ、ちゃんと説明すればわかってくれるわよ」


ことぶきさんは律にそう告げると、私の方に向き直った。


紬「軽音部はね、別名、【殺人クラブ】って言うの」

55. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:20:17.31 ID:qWjAk7mm0
澪「桜高の中の選ばれた殺人集団、エリートなんだ」

紬「軽音部は仮の姿ってわけね。うふふ」

律「毎月、学校生活の邪魔になるやつをぶっ殺してきたんだぞー」

紬「行方不明として扱われているわね」

梓「毎年、新しい人材を確保するのに必死です」

紬「今年の一年は手強そうね。草食系ばっかりで」

唯「りっちゃんがアルバム見て復活させたんだー」

紬「もともとはさわ子先生の時代からあったらしいのよ。詳しくは知らないけど」




――殺人クラブ、だって。

にわかには、いや、こんな話だれだって信じれるわけがない。
あの軽音部にそんなヒミツがあるなんて。


いちご「……だから」

56. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:23:31.06 ID:qWjAk7mm0
いちご「それで」

いちご「何?」


私の問いに、けいおん部が揃ってこちらを見た。
十二の目に射竦められ、私は舌の乾きを感じた。


律「なんだよ、何か言いたいことでもあんのか」


しかし、負けてはいけない。
こんな不条理許されるわけがない。

何より……


いちご「私はなにも悪いことしてない」

いちご「迷惑もかけてない」

いちご「殺され――復讐される理由なんて無い」


58. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:25:40.33 ID:qWjAk7mm0
誰も口を開かない。

窓の外には闇が広がり、まるでこの部屋とは別の世界のように見えた。
この学校に残っているのは、もう私とけいおん部だけなのかもしれない。
そんな悪寒と共に、背中にねっとりとした湿りを感じた。

やがて、呆れたようにけいおん部が唸った。


澪「だめだこいつ。救いようがないな」

唯「あー、言っちゃったねえ」

紬「ここでビシッと教えてあげたら?  何がいけないのか」



律「……よし、言ってやろう」





律「私はな、ジュリエットをやりたくなかったんだ」


60. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:30:06.44 ID:qWjAk7mm0
……

…………?


いちご「それで」

律「は?」


私は驚くと同時に呆れてもいた。
ジュリエット。文化祭の配役。設定。

これが私を殺す理由?  どうも繋がらない。

だいたい、ジュリエット役になったことでなぜ私が殺されねばならないのか

律は、私の態度が気にくわなかったのか、突然椅子を蹴り上げ、激高した。


律「『それで?』じゃねえんだよこのアマッ!」


61. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:34:53.41 ID:qWjAk7mm0
律「わかってんのか?  お前だって知ってんだろ!」
   「私がジュリエットなんて柄か!  ああ!?」
   「知ってんだよ!  お前らが陰で笑ってたこと全部!  死ねよ!」
   「ホントはお前かミカがあそこで演技してるはずだったんだよ!」

私は律の剣幕に圧され、思わず後退った。

律「澪がロミオ!?  それだけの理由でアタシがジュリエット?  ふざけんじゃねえ!」
   「単なる澪の引き立て役!  当て馬じゃねえか!」
   「おかげでこっちはクズファンに追い回されて大迷惑だ!」
   「……じゃないはず……アタシはあそこに立たないはずだった!」
   「お前は……お前らはその責任をとって死ぬべきなんだよ!」


澪「私のファンをクズとか言うな」

唯「りっちゃんださーい」

律「うるせえ!」


突然、律はスティックを私のお腹に突き出した。
痛みのあまりうずくまった私を、後ろから鈴木が押さえ込んだ。

いちご「っ……!」

紬「いいわよ、そのまま押さえてて」

62. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:39:12.59 ID:qWjAk7mm0
ほんの少し開いた口に、ことぶきさんは何か固い物を滑り込ませた。

後ろから鈴木に無理矢理顎を閉じられ、私はそれを飲み込む。

ごくり。

それを見たことぶきさんは、とても満足そうに微笑んだ。



紬「今飲んでもらったのは……毒よ」

毒……!?


紬「別に大丈夫よ。すぐ効いてきたりはしないから」
   「胃液で溶けるカプセルだから、今日一日くらい持つはずよ」


64. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:42:09.82 ID:qWjAk7mm0
紬「まあ、あと五、六時間ってところかしら」
   「あなたの残りの人生は」

得意げな顔をすることぶきさんとは対照的に、
私は顔から血の気が引くのを感じた。

紬「うふふ、ゾクゾクするわね、こういうの」
   「今どんな気分なの。怖い?  悔しい?  今日の夜中には死んじゃうのよ?」

あと、五時間。
冷や汗が止まらない。死ぬってどういう事だろう。
毒って本物だろうか。やっぱり血を吐いたりするのかな、痛いのかな。

――死ぬ。死ぬんだろうか。



紬「でも諦めちゃだめよ。がんばって!  ここに解毒剤のアンプルがあるから!」

ことぶきさんは鞄から、黄色い液体の入った小瓶を取り出した。

66. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:46:02.49 ID:qWjAk7mm0
紬「どう?  ほしい?」

いちご「ほしい」


私は間髪を入れず返答した。
ことぶきさんは微笑んだまま、言葉を続ける。


紬「ちがうでしょ、いちごちゃん」
   「ほしい、じゃなくて、もっと言い方があるでしょ?」

紬「いただけませんか、ムギちゃん様。とかね」


いちご「……いただけませんか、ムギちゃん様」


けいおん部は顔を見合わせて笑った。


67. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:49:37.65 ID:qWjAk7mm0
いちご「ください」

ことぶきさんの手が小瓶を揺らし、中の液体が跳ねる。
私はそれをじっと見つめていた。


いちご「おねがい、します」

紬「え〜。どうしようかな〜」

いちご「なんでもしますから」


私は必死だった。
このままでは死んでしまうのだ。どうにかして……

ことぶきさんはじっと私の目をのぞき込むと、ぞっとするような笑みを浮かべた。



紬「いやでーす」


68. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:52:09.81 ID:qWjAk7mm0

いちご「あっ」


小瓶が落ち、床に当たって砕けた。

中の液体が床にぶちまけられ、浸みて行く。


いちご「酷い……」

あたまが真っ白になり、思わずことぶきさんに飛びかかりそうになる。

それを二人の後輩ががっちりと押さえ込んだ。


澪「あいかわらず可哀想なことをするなあ、ムギ」

律「まあいつものことじゃないか」


71. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 01:58:01.76 ID:qWjAk7mm0
紬「別にあわてなくてもいいのよ、いちごちゃん」

   「これと同じ物をこの学校のどこかに隠したから」


紬「まだ五時間近くあるし、ゆっくり探すのもいいんじゃない?」



体を押さえていた手が離れ、私は思わず膝をついてしまった。
けいおん部は入り口への道を作るように別れ、にやにやとこっちを見ている。


律「学校の外に出ようとか考えるなよ。出たらアンプルは処分させてもらうから」

澪「病院や警察は動かないと思え。ムギの親父は凄い権力者なんだからな!」



      「急げ」      「急げ」        「急げ」

        「急がないと死んじゃうぞ!」


けいおん部の嫌らしい声援の中、
私はなんとかドアノブに辿り着き、廊下へと転がり出た。

74. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/18(月) 02:01:18.64 ID:qWjAk7mm0
けいおん部を飛び出した私は無我夢中で走った。

彼女らに追い囃されるまま、走り、走り、走った。



気が付けば私は三年の教室近くまできていた。
私は躊躇無く教室の扉を開け、中に跳び込んだ。

はやる胸の鼓動が通り過ぎるのを待てば、
やがて恐ろしい現実が私の頭に追いついてくる。


私は、数時間以内にアンプルを探さなくてはならない。

そして、律は言った。

「逃げる私を追いかけて殺す」――と。


これからはけいおん部に襲われることも考えて行動しなくては。

争いは避けられないかもしれない。





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最終更新:2011年04月26日 18:13