昨日、今日、そして明日は臨時休業だ。全てのお客様にそう知らせておいた。

…二人を除いて。

『うまくいった?』

「はい…」

『やったね!バカだね、そいつ』

「…でもまだ、成功したわけじゃない…」

『…明日、だね。明日…やり遂げよう』

「…怖い…」

私は怖かった。電話越しだったからいくらでも知らない男性の相手をできたのだ。

『大丈夫…私と天使ちゃんなら、できるよ』

その自信はどこからくるんだろう。

『だって…親友でしょ?』

そう…天使とお姉ちゃんは親友に昇格していた。
日常では実の姉、電話の上ではただの客。
ちょっとした私の気まぐれではじまった、中身のない風俗嬢とお姉ちゃんは親しくなっていった。
いつしか、本当に友達になっていた。
私の気まぐれから始まったこの事件、気まぐれで築き上げた友情に私は頼った。

「本当にありがとう…えっと…」

『唯、でいいよ!私の名前は、平沢唯!』

見ず知らずの怪しい相手なのに。名前まで教えちゃうなんて。

電話を切る。
ありがとう、お姉ちゃん。…いや、唯。

これから、明日最重要な契約をかわす。

…女性No.2。臨時休業を教えていないのは、唯ともう一人。そう、同じ桜高生の。

「もしもし…」

『も、もしもし…て、天使さんですか』

「そうです」

『ど、どうしたんですか?そっちから電話だなんて』

「…あなたにお願いがあります」

『お、お願い…?なんですか』

「あなた、桜高生ですよね」

『え!?な、なななんで知って…』

「…あなたが私の店の会員だとは誰にも言いません。でも、桜高生のあなたにお願いがあります」

『…な、なんですか…』

「明日、会議室に行ってください…お願いします」

『…え?』

「あなたを危険な目に遭わすつもりではありません」

『……??』

「時間は…」


翌日。私は三時限の授業には出ず、会議室へ向かった。

会議室には案の定誰もいない。会議室には掃除用具入れがあって、そこにあるモップやほうきを別の場所に移す。
そこに人一人は入れるくらいのスペースが出来上がる。
私はそこに入り、扉をしめた。

私は電話を取り出し、かける。相手はもちろん…

「もしもし、唯…?準備できた」

『おおー、じゃ直ぐに行くね!』

ガラガラ。
会議室のドアが開く。

そこには……ヘアピンをせず、髪を後ろに縛ったお姉ちゃんがいた。
そう、お姉ちゃんにはこれから私の役を演じてもらうのだ。

「…私、平沢憂のクラスなんです」

『え、憂の?』

「はい…彼女のクラスで教師に恥をかかせました。だから、彼女のクラスの人が危険な目に…」

『憂もあずにゃんも純ちゃんまで居るじゃん…』

『そうだ』

『私憂になるよ』

「え…?」

『憂になって、そいつに会う。姉妹だからそっくりなんだよー』

「な、何言って…あなたが危ない目に遭うよ」

『私が代わりにあう。でも、その力で…私を守ってくれる?』

「……いったい、どういう…」

『うふふ。いいこと思いついたよ』


四時限のチャイムが鳴る。いよいよ、やつが来る。

「信じてるよ、天使ちゃん」

「…うん…」

まもなく、ドアが開いた。
やつだ。風貌は以前とはちがい、やつれていた。だがかつてのここの数学教師その人だった。

「…おまえが…」

「そう。私が超能力で相手の性感を煽ることができるんだ」

唯がやつと会話する。私は固唾を飲んで見守る。

やつは手持ちの鞄から何やら紙を取り出した。
…生徒名簿だ。多分、うちのクラスだ。

「平沢…うい、か。確かにあのクラスの生徒だな」

「なに疑ってんの?」

「ふふ…」

四時限が始まり、五分が過ぎた。息をあらげて、やつが唯に近づく。

私はやつが力が抜ける程度の快感を与える。

「うっ…」

…そして。同時に、唯にも快感を与えた。

「ひゃっ…」

力加減が難しい。何より二人の性感体を同時に撫でるなんて、かなりの精神力が必要だった。

唯には、できるだけ濡れてもらう。
やつには、いかない程度に興奮させる。

「うっ…くっ、おまえ……何がしたいんだ、ふっ…」

「はぁ、はぁ…んん、さぁ、ね…?」

唯は約束通り、制服のタイを外し制服を乱れさせる。タイツも破く。
唯もやつも頬が赤く染まっていて、どちらも息が荒く。

やつが唯に近づくたびに、やつには一瞬だけ膝をくじくくらい快楽を与える。

唯には触れさせない。


――――ガラガラ。

会議室の扉が開く。第三者の乱入。

「なっ…!?」

「…、みおちゃん…!助けて…」

「え……?え?」

澪さんが約束通り、やってきた。成功だ。
強姦未遂現場の証言者が作り上げられ、そして…

「きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!」

授業中は静か。声は学校中に響いた。

全て、うまくいった。

まもなくかけつけた教師らに取り押さえられ、現行犯逮捕だった。

教師らには唯や澪さんがなんでこんな場所にいたか問い詰められそうになったが、澪さんは軽いショックを受けカウンセリングを受けることになった。
ごめんなさい、澪さん…。

唯には無理やり連れて行かれた、とだけ言って被害者を演じてもらった。

こちらは可哀想な被害者でうまくいき、やつは精神疾患とされたらしい。

…で。私はしばらく外へ出られない羽目になった。
唯は掃除用具入れに近づいてきた。

「うまく、いったね…」

「大丈夫だった?唯、平気?」

「うん…ちなみに私も、うまくイったよ」

「え?」

「なんてね!」

「ぷ…くふふふ」

「えへへ…」

また、あとで話そうね。

そう言い、唯は会議室をあとにした。職員室に向かった。

大成功だった。


『ねえねえ、天使ちゃん!』

「なに、唯?」

『澪ちゃんまた元気になれたよ!でももう電話しないみたい』

「そっか……って、唯なんで澪さんがここの常連だって知ってるの?」

『あのあと私に教えてくれたんだ。色々、澪ちゃん知りたいみたい。
なんで自分が行った先であんなことになっちゃってるのか』

…そうだね。澪さんにはちゃんと教えなくちゃだ。

『あ、ねえ…』

「?なに」

『……お願いできる?』

「…エッチな子」

『ええー。天使ちゃんほどじゃないよー』

「………」

『…?天使ちゃん?』

「あ、うん……いくよ」

…力が、弱まりつつある。

いつからだったか。…あの会議室での一件以来だ。

前ほど多くのお客様を相手できなくなっていた。

一日に三十人、二十人…だんだん、減ってきていた。

理由はわかっていた。
一度に二人に刺激を与える。しかも微妙なバランスを保って、長時間だ。

無茶をしたせいだった。


『天使たん、どうしたんだい?最近、あまり相手してくれなくて寂しいお』

「ごめんね…疲れがたまってるの」

『じゃあ今日はお話でいいよ!』


ヒッキーなおじさんは心配してくれました。


『どうした?あまり元気ないじゃないか…前ほど快感も弱くなってる』

「ちょっと、力が弱くなってるの」

『そうか…いつもいつも、本当に助かってた。無理しないでくれよ』


サラリーマンのおじさんは、愚痴も言わず私の体を心配してくれました。


もう、限界が近づいていた。


私は決心した。全員に連絡を入れた。

「現役女子高生のボイスクラブ、閉店します」

一人ずつ電話をかけた。みな、泣いてくれた。会員は100人満たない程度になっていた。

「最後に、1日一人ずつ相手していきます」

会員ナンバーが若い順に。

最後の3ヶ月が始まった。


毎日一人ずつ。かつてはこんな楽だった行為も、今は一人で精一杯になりつつある。

「じゃあね…ニートのおじさん…」

『寂しいお…うっうっ…でも、かんばるお!これからは…天使たんが頑張った分、外に出てがんばってみるお!』

「…頑張ってね。この日本のどこかで、応援してるから」

電話の天使は、就職させる力まで持つようになっていた。

サラリーマンのおじさん。大学生のお兄さん。フリーター、ちょっと怖い系の人まで。

毎日、ラストまで一人ずつ。

いつしか、澪さんの番にも来ていた。

『ありがとう、今まで』

「私こそ…あのとき、澪さんを使っちゃって」

『ううん。天使さんの恋愛相談のおかげで、私勇気出たんだ』

オプションの恋愛相談も、お力添えができたみたいだ。


―――3ヶ月が過ぎた。

あと、九人。
私の力も限界だけど、うまく調節して十人分の力は残していた。

会員ナンバー順に相手をしてきた。


でも…最後は会員ナンバー順ではない。



初めて、我が店で女性客だったあの人。
いつしか大親友になっていたあの人。

私にとっては最愛のお姉ちゃん。

電話の天使にとって…掛け替えのない友達。

『……天使ちゃん…』

「唯……」

『本当に…やめちゃうの…?』

「うん。もう…力は底をついちゃったから」

『で、でも……私たち、親友だもんね?お店閉めても、電話で話せるよね?』

「………ごめんね」

『…なん…っ、でぇえ……!やだよぅ!ぐすっ、やだよぉ!!』

店を閉めれば、私は唯とはもう連絡をとらないつもりでいた。


「ラストのお客様は、唯だよ」

『ふぇ、ひっく…ううう…。天使ちゃん、なんで…』

「唯とはずっと大親友だよ。私、本当に嬉しい…よ……」

涙が落ちた。私も悲しかった。
でも仕方ないんだ。
私はいつかは辞めるつもりで開いた。
誤算はこんなにも天使が、みなに愛されたということだった。

…まさか、友達ができるだなんて。
しかもそれがお姉ちゃんで。いつまでもこんな関係を続けることは不可能だ。

キリの良い今。私と唯は、サヨナラする。


『…っ、天使ちゃん…。わかったよ…』

「今までありがとう。…唯

力を調節して、一人分残したのは…自分用に使うためだった。

初めて唯がかけてきたときと同じように。最後は…唯と、一緒に。

『…お願い…あるの』

「え?」

『最後は……直接会いたい』

「…それは…」

『あ、ううん。顔合わせするんじゃなくて…』


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