『うぃっす、さあ始めてくれや』

今夜もまた、おじさん方のお相手。

『あ…イクっ…』

バカみたいに早漏だ。ちょっと私がアイスを舐める想像をしただけで…まぁ、安上がりでいいけど。


「さて…お次は…」


お金を振り込んでくれた方に、順番にかけていく。
会員制は成功だ。ちなみに一見さんお断り、会員紹介。

あれ、着信だ。まだ知らない相手に、私は出た。

「もしもし?」

『……あの…』

か細い声。女性だ。女性第二号。

『……し、新規なんですが…』

「どちらのご紹介ですか?」

『しょ、紹介…?』

「…当店では、会員紹介のみ受け付けております…」

ああ。この声。澪さんだ。

『す、すいませんでした…っ』

「と言いたいところですが、特別にいいですよ」

『え…』

気まぐれ。女の人の相手もしたいのだ。毎晩毎晩、未婚者から既婚者、サラリーマンから大学生まで、みんなみんな男ばかり。

「まずは体験コースからでいいですか?」

『は、はい…』

今ではいろいろ充実した店になっている。様々なコースと料金が設けてあるのだ。

難なく澪さんを絶頂に導いた。
意外だった。まさかあのおとなしい澪さんが…ね。

『あ、ありがとうございました…』

こうして女性客二号を手に入れた。


そんなこんなで、私の電話サービスはさらに人気になっていった。
インターネット掲示板でも騒がれ、しかし驚くほどうちの店のお客様は口が堅い。
誰も店の情報を漏らさないのだ。私が毎回、もし他言したら即閉店ですから、と言っているだけあるのか。

そんな時だった。ある出来事が起こった。


昼休み。

「憂、ご飯たべよ」

梓ちゃんと純ちゃんがいつものように誘ってくれた。

「あ、ちょっと待って…トイレ行ってくるね」

教室をあとにした私は目的地に入る。

「ふう…」

私は用を足し、さて出ようとしたとき。


着信あり。

私は急いで手を洗い出る。

『あ、もしもし?天使ちゃん?』

お姉ちゃんからだった。

「…どうしたの?今は営業時間外…」

『実はね、澪ちゃん…友達が風邪引いて休んじゃって』

「はぁ…」

『ほかの友達もみんな今日用事があるみたいで、今一人なんだ…』

どうやら長話になりそう。はやくご飯食べたいんだけど。

『寂しいからちよっとお話しよ?』

「私は…」

『あ、そっか誰もいない場所に行かないと…』

こちらの事情はお構いなし…お姉ちゃんらしい。

『そうだ、トイレに行こっと』

「…え」

私は慌てて個室に入る。
まさか、お姉ちゃんがこのトイレに来るとは思わないけど…万が一、万が一。


トイレのドアが開いた。

『もしもし?今、トイレにいるんだ。ここならバレないよー』

「……」

返事ができない。ドア越しにお姉ちゃんがいる。すぐそばでお姉ちゃんの声がする。

ヤバい。どうしよう。
返事したら…“電話の天使”、つまり私がここにいるのがバレてしまう。


『もしもし?ね、どうしたの?』

「……あのね…」

『え?…なに、聞こえないよー』

「…今、ドアが閉まってるトイレがあるでしょ?」

『…ん?なんで声が後ろから…』

「…今、ここにいるの」

私は電話を切った。

「…天使ちゃん?いるの?」

「…うん」

「嘘ー!?」

…なんてこった。出られない。それどころか、バレちゃう寸前だ。

「ちょっとお姿を拝見ー」

「え…ちょ、ちょっと」

ドアに手がかかった。

「えへへ…友達なんだし、顔見せてよー」

「だ、だめー!!!!!」

私はとっさに、力が抜ける快感を与えた。

「ひゃあ…っ!?」

「はぁ、はぁ…すごい、本当に触らないで気持ちよくできちゃうんだね…」

「お願い…顔、見ないで…お願い…」

心からのお願い。バレたら…姉妹もオシマイだ。

「…わかったよ。ごめんね…。それにしても、本当によく似てる声だね」

「…誰にですか」

「妹だよー。あ、ねえねえ…昨日ねー」

ドア越しに、背中合わせで会話する。端から見たらなんとも奇妙な光景だ。

「天使ちゃん何年生?」

「…内緒です」

「本当に秘密主義なんだね…寂しいな、せっかくお友達になれたのに…」

ぐー。
お腹の虫が、鳴いた。

「…今の、天使ちゃんの?」

「はい…」

「ご飯、まだだったの?」

「まあ…」

「私は食べちゃったんだ…妹特製の、最高のお弁当!」

…今日はハンバーグだったよね。

「あ、ごめんね…じゃあご飯食べないとだね。私、行くよ」

「…ねぇ…私が出るとき、待ち伏せとかしない?」

「しないよー。信じて!」

…お姉ちゃんなら、信じられます。

「じゃあね!生の声が聞けて嬉しかったよー!」

ばたん。ドアが閉まって、私はしばらく出られずにいた。

「危なかったー…」

うまく、ごまかせた…のかな。
案の定、トイレから出てもお姉ちゃんの姿はなく。

やっぱりお姉ちゃんは優しいな。

「おまたせ、梓ちゃん、純ちゃん…」

「ながすぎ!先に食べてたよ」

「ごめんね…」


この一件を通して…お姉ちゃんと“天使”はよりいっそう、仲良くなっていった。
今では週一から週三にかかってくるようになった。


架空だけど実在の天使とお姉ちゃんは仲良しだ。

私はいつも営業用に喋り方を作っていた。できるだけ、素っ気ない感じ。

そんな喋り方でお姉ちゃんとお話できるのは新鮮で、私も楽しくなっていった。


『やっほー。今仕事中?』

「仕事中だったら電話にでれないよ」

『あ、そっか…えへへ。さっきは?』

「んー…ざっと三十人とプレイしてた」

『スゴいねー!!』

最近はあまりお姉ちゃんとはプレイしない。本当に、ただの友達のような会話しかしない。

「今日もまだ十人くらいいるからあんまり長話はできないよ」

『あ、ごめんね…たまには私も気持ちよくしてねー』

…友達というかセフレかな。

『天使たん…お願いだお』

「はい。えっと…オプションでピロートークつきですね。じゃさっそく」

『ああ…気持ちいいお…』

最近、ピロートークをつけるお客様が増えていた。
だいたい射精したあとのしばらくの時間、主に雑談だった。

私に関する質問は一切無し。ただ、私は聞き役に徹する。

『天使たんの声は癒しだよ…』

“癒し”。みな、そう言っていく。中年男性は家庭や仕事場のグチを、大学生はうまく行かなかったことを。

電話の風俗嬢に、いつしか憩いを求める人が増えていった。

『今日は会話だけでいいよ…』

そんなことを言う人までいる。…もう、店の趣旨変わって来ちゃってるね。

それでも私は、断らずにいた。


さて、次は…女2号さん。ああ、澪さんだ。
澪さんは月一くらいでやってきます。
澪さんもピロートークの常連さん。澪さんの苦労が、よく伝わってきます。

『ヒドいんだよ…さわこ先生がね、むりやり変な服着せてきて…』

「…変な先生ですね」

澪さん、苦労してるんだなぁ。

『…ね、天使さん…天使さんは好きな人いる?』

「はい?」

『私はね…いるよ』

『幼なじみで…ねぇ、相談に乗ってくれる?』

…今度、オプションに恋愛相談を加えようかな。



半年が過ぎた。
客数は一定を保っていて、毎日毎日お仕事をしている。
最近ではオフ会が開かれているとか何とか。

『私も行こうかなー』

いつものようにお姉ちゃんと会話していた。

「言っちゃ駄目。危ないよ」

『わかってるよー。みんな、天使ちゃんの大ファンだよ』

…確かにそうだった。
お客様と風俗嬢、というよりファンとアイドルのような関係。


着信、あり。

「もしもし…ご新規様ですか」

『ああ…会員No.62からの紹介だ』

「はい…了解しました。コースは…」

『体験頼む』

第六感、というものがあるなら、多分それは私に告げていた。
“こいつには関わるな。”
しかしながら私は第六感はなかった。あるのは相手の性感をくすぐる力、ただそれだけだった。

「では…下着をお脱ぎください」

『……』

「…いいですか」

『はやくしろ』

「は、はい…」

なんだろう。こんなに不気味な相手は初めてだった。
私は早くイかせることにした。

『はぁ、はぁ…あっ…』

…多分イった。

「…いかがでしたか…」

『……ふふふふふ…ふふふふふ、ふははっ!』

突然、笑い出す男。なんだ、なんなんだ。

『お前、桜高生だな』

「…っ!?」

な…なんで、バレたんだろうか。

「違いますが」

『いや、絶対そうだ。この感覚で確証した…』

……この声、どこかで聞いたことがある。

「この、体の奥がいきなり熱くなったあとの射精の導かれ方。あのときと一緒だ」

「…数学の先生ですね」

『そうだ。よくわかったな』

はぁ…まさか、こいつが。

『俺はあの瞬間、全てが無に帰した』

こいつのおかげで私は開業できたわけだけども。

『有名大を出て、一番いいときだった…あんな目に遭うまでは』

『俺が辞めたあと、にわかに都市伝説がはやりだした。声だけで気持ちよくなれる伝説』

『まさかとは思った。でも、今現にこうなった』

『お前はあのクラスにいた生徒のうちの一人だ』

まずい。まずい。反論できない。

『反論なしか…やっぱりな』

「だったら…どうするんです。一人ずつ当たっていって吐かせますか」

『そんな馬鹿馬鹿しいことはしない。俺は今、無職だ。婚約者に逃げられ、挙げ句金もつきかけている』

『もう何もかもオシマイだ。俺はもう、復讐しかない』

…復讐…。

「…なにを…する気ですか」

『お前をレイプしてやる。お前を辱めてやる』

「な…」

『あのクラスにいたうちの一人がお前なわけだ。全員レイプすればいずれ行き着くさ』

「や、やめて!!!」

『…バカだな、お前。焦ったせいで本当にあのクラスの一人だとわかっちゃったじゃないか』

私のせいで、クラスメートが傷付く。梓ちゃんが、純ちゃんが…。

『明日またかけ直す。それまでに決めろ』

『お前が速やかに俺と会うか、全員レイプされるのを見るか』

それだけ言って電話はきられた。
ツー、ツー、と鳴る携帯。

……ああ…。
まさか、まさか。こんなことになるなんて。
念のために会員No.62に電話をかけたが繋がらなかった。
涙が溢れた。私のせいで、大事な友達、お客様が傷つけられていく。

一人で泣いた。どうしていいかわからない。
警察に届け出れば私が逮捕されてしまうし、私が犠牲にならなければみんなが傷付く。

私が、やつに会うしかないのだ。


しばらくして…着信あり。
出るとあか抜けた声が耳に入った。

『やっほー!天使ちゃん』

「ぐすっ…ひっく…」

『え…どうしたの?』

「たす、けて……」


心からの叫びだった。


『どうしたの!?泣いてちゃわかんないよ!』

「実は……」

私は自分が誰なのかをわからないように、ことの顛末を話した。

『そうだったんだ……』

「私…あいつに会いたくない」

会ってやつと対決するとか、それは無理だった。
確かにやつの力を抜くくらいはできる。でもその場しのぎだ。
何度もやつはやってくるだろうし、それに私以外に危害を与えるかもしれない。

『……そうだ…』

「え…?」


後日。やつから電話が来た。

『さて、どうする?』

「会いましょう。会って、私が辱めを受ける…それで、気が済みますか」

『物わかりがいい。よし、では放課後…』

「…会う場所と会う時間はこちらが指定します」

『は?』

「場所は学校の会議室。時間は四時限目」

「大丈夫です。授業中と昼休みはあそこは誰もいません」

『なぜそんな場所…』

「あなたが気を晴らすなら、因縁ある場所…そして授業時間がいいと思ったんです」

「あなたが辱めを受けた学校で、辱めを受けた授業中、私を犯せるんですよ?」

「私にとってこれ以上の屈辱はないと思いますが」

『…………』


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