梓「こう言うのって、やっぱり楽しいですね」

唯「だよねー」

律「まあな」

私は失礼な言い方だとは思ったけど、本当に悪く無いと思ってたので律先輩にその事を伝えた。

梓「律先輩、高校時代より上手いぐらいですよね?」

律「中野ぉ!」

唯「あはは」

梓「いや、だって本当に驚いたから」

律「私は元プロ志望だぞ?高校出てからは結構真面目にやってたんだぞ?」

そうでしたね。

律「そう言う生暖かい目で見られると首筋がゾワゾワすんだけど…」

梓「ご、ごめんなさい、そう言うつもりじゃ」

律「まあ、良いけどなー。ところで、唯は何でベース弾いてるんだよ?」

唯「え?だって、3ピースだし」

律「そりゃそうだけどさ」

梓「あ…」

律「ん?」

梓「そろそろ日の出の時間ですね…」

私達は黙り込む。

本当に最後の日だ。


私は律先輩からジョイントを受け取る。

深く吸い込む。

後頭部にガクンと言う衝撃が来る。

梓「あー、これ凄いですね…」

律「良いやつだろ?」

唯「凄い上物だよねー」

梓「どっから手に入れたんですか?」

律「内緒」

梓「その内、痛い目見ますよ?」

律先輩は、何時もの様に笑ったりもせず、ただ無表情なまま、ビルを照らす日の出を見ていた。

律「いや、もうこれ以上の事は無いだろ」

唯先輩が少し申し訳無さそうな表情になる。

唯「こんなことになっちゃってごめんね?」

律「良いよ、気にしてない。私は大丈夫だよ、全然」

あまり、しんみりするのも嫌で私は少し偽悪的に振舞う。

梓「そうですよ。こうなったのだって律先輩の無駄遣いが原因なんですから、唯先輩が謝る事無いですよ」

律「おぅい!!」

律先輩が大げさに抗議して見せる。

唯先輩が笑う。

私も釣られて笑う。

この瞬間はあの部室みたいだな、と思って、でもそうじゃないと思い直して…。

ああ、この場所があの部室だったら良かったのに!


律先輩は階段を降りて言った。

「取って喰われる訳では無いから」なんて言っていクールに振舞ってたけど、でも、楽な仕事では無いと思う。

私は何もせずに律先輩に頼っているのが、心苦しくて、辛かった。

唯先輩はそんな私の気持ちを察してくれたのか、私を抱きしめてくれた。

唯「大丈夫、また帰ってこれるよ」

私は唯先輩の言葉に少しだけ勇気付けられて…。

?!


私達の余韻をぶち壊すように律先輩が駆け込んで来る。

梓「うわわっ!」

唯「あれ、りっちゃん、どしたの?」

律「悪ぃ、今から書類関係掻き集めなきゃいけなくなった。手伝ってくれ」

律先輩にからかわれるかと思ったけど、どうもそれどころでは無い様子だ。

梓「どうしたんです?」

律「いや、だから、あれだ!その、あいつがな、急に来て」

要を得ない説明。

梓「あれ、とかあいつじゃ分からないですよ」

律「だからぁ…」

?「ほら、律早くしろよ!」

律先輩の後ろから、懐かしい、本当に昔懐かしい人が現れて私は言葉を失う。

梓「澪…先輩…?」

私は言葉を失う。

唯「うわわっ!澪ちゃん?!」

唯先輩は驚く時でも、唯先輩らしくそうはならないらしい。


私達は澪先輩に促されるようにして、(よく聞く整理屋のパターン通りに)都内のホテルに連れて来られた。

よく聞く整理屋のパターンと一緒だった。

私は窓際のベッドに腰掛けて、澪先輩が律先輩と唯先輩に指示をしているのを、ボーっと見ていた。

澪先輩は、これからの流れを説明しているらしかった。

私は、突然現れた澪先輩を二人程信用出来なかった。

だって、うちの状況とそれと、今の澪先輩の事を考えたら、タイミングが良過ぎるように思えたし。

それで、スマートフォンを起動する。

検索ワードは…、えっと…。

『整理屋』『倒産』『乗じて』かな?

澪「梓?」

何時の間にか目の前に澪先輩が立っている。

全然、気付かなかった。

私は必死で後ろにスマフォを隠す。

梓「ははは、は、はいっ?!」

澪、先輩は私の横に腰かける。

唯先輩と律先輩が書類から顔を上げる。

律「おーい、二人で内緒話かぁー」

唯「ずるーい」

澪「良いから、二人はそれを頭に入れるっ」

律「ずるだな」

唯「ずるだね」


ふふふ、昔と変わらないなぁ、こう言うのって。

澪「あー、突然出て来ても、信用出来ないよな」

梓「そ、そんなこと…」

澪「いや、良いって」

梓「すいません」

澪「私も馬鹿だったからね。だから、あの時はああするしか無いと思って、でも、回り道してやっと分かったんだ。私の帰ってくる場所は『ここ』しか無いって事に」

梓「だから、危機を知って守るために?」

澪「ああ。私の選択は良くある下らないものだったけど、幸いにも『ここ』を守るための知識を得る事は出来たからね」

澪「でも、良かった。私の目にも届くような存在になってくれてたからね、HTTはさ。だから、こうして梓たちの危機に駆けつけて来れた…」


この時初めて分かった。

今までは分かっていなかった。

唯先輩が何故自分を痛めつけてまで、レーベルに貢献しようとしたのか。

律先輩が自分達の身の丈を超えるようなものを居城としようとしたのか。

世界に散らばってしまった、澪先輩やムギ先輩に「自分達はここにいるんだ」「ちゃんと戻って来る場所はあるんだぜ?」って知らせるためだったんだ。

私はただ、自分の事しか考えてなかった。

自分の事しか…。

梓「うわぁぁ!」

澪「あ、梓?!」

唯「あずにゃん?」

律「あ、澪が梓を泣かした」

澪「ち、違う!私は何もして無いぞ?!」

梓「び、びおぜんばいはなびぼばるいごどじでないでず~」

律先輩と澪先輩は顔を見合わせて少し困ったような顔をしている。

唯先輩はおろおろして…。

そう、ここはずっと変わらず、私のいる場所だ。


紬「みんな、お久し振り」

唯「あー、ムギちゃーん!」

律「ムギ、久し振り」

紬「唯ちゃん、りっちゃん、梓ちゃん…、みんな思ったより元気そうで良かったわぁ」

梓「ムギ先輩も、元気そうで」

紬「ええ、私はね」

ムギ先輩は少し、怒ったような、悲しいような表情で律先輩を見る。

紬「りっちゃん!」

律「あ、えーと…」

ムギ先輩は律先輩をギュっと抱きしめる。

紬「困った時は頼って欲しかったな」

律「ご、ごめん…」

紬「でも、これからは一緒にやって行こうね?」

律「あ、ああ、そうだな…」

唯「そう、私とりっちゃんはそのためにこのレーベルを作ったんだから。最初からね?そのつもりだったんだよ?」

律「ん、ムギどうした?」

紬「…、久し振りだし唯ちゃん、梓ちゃんにもギュってしたいなって…」

唯「ムギちゃん!」

紬「は、はい!」

唯「どんと来いだよ!ね、あずにゃん?」

梓「は、はい…、こちらこそ…、よ、よろしくお願いします…」

なんてね?

あ、澪先輩…。

何時の間にか部屋に入って来ていた澪先輩は、抱き合ってる律先輩とムギ先輩に顔を赤くして、そして会話に入って来れないでいた。

律「澪しゃん、照れてるんですか?よーし、おいでー」

澪「馬鹿!」

律「痛っ!」

唯、紬、梓「あはは」

私はムギ先輩の身体の温もりを感じながら、律先輩と澪先輩のやりとりをおかしく思う。

本当にあの部室みたいだった。

五人(純や憂やさわ子先生もいてくれればもっと良いな)がいれば、どこだってあの部室みたいなんだ。

ティータイムは何時だって始められる。

黄金時代は容易く過去になってしまう。

高校時代は過ぎ去り、HTTレーベルも壊れそうになっている。

実際、過去のものになってしまう。

でも、言い換えれば暗黒時代もまた容易く過去になると言う事であり…。

うん、大丈夫。

私達はもう大丈夫だ。

つまり…、こう言う事なんだと思う。

流転する運命は私達の悲劇であるけれど、同時に希望でもあると言う事なんだ。

もう、一回帰ってこよう。

この世界に。

大丈夫、帰ってこれるよね?


「Agora E Seu Tempo」
um bom final