【N女子大・寮 唯の部屋】

午前3時21分



唯(20)「ふわぁぁ……」

唯「むにゃむにゃ……」

唯「もう4時か…………」

唯「変な時間に起きちゃった」

唯「このまま寝るのもいいけれど」

唯「なんだか、ココアが飲みたい気分」


唯「……」


唯「よし、コンビニで買ってこよー」

【15分後 コンビニ前】

店員「ありがとうございましたー」

ティコティコティコーン♪


テクテクテク


唯「ふふふ、ホットココアをゲットだぜ!」

唯「さっそく一口!」


唯「……」

唯「うーん、あま~い!」


唯「ふぅ~、沁みるなぁ~」

唯「おー、気づけば、今日は雲ひとつない、スッゴクいい夜空♪」


唯「お星さまが、いつもよりも沢山!」

唯「沈みかけた満月も、みんなキラキラ耀いてる!」


唯「今日は、いいことが起こりそう♪」

唯「ふふふー、何が起きるかなー」

唯(あー、こうして夜の空を眺めていたら、)


唯(この前、みんなで行ったキャンプを思い出したよ!)

唯(あの日の夜は、反対に真っ暗ヤミだったなぁ)




唯(迷子のあずにゃんを見つけに)

唯(みんなで日の暮れた山に入っていったけど)

唯(私たちあずにゃん捜索隊も、森の奥で迷子になっちゃったんだよね)


唯(まさに、ミイラとりになったミイラ!)

唯(ドコに行けばいいか途方に暮れて、小雨も降ってきて)

唯(もう駄目だーっ、死んでしまうー……って絶望してたら)


唯(ムギちゃんがキャンプ地で着けてくれてた、焚き火が遠くからホンノリ見えて)

唯(みんなでそれを目印にして、無事に戻ってこれたんだよねー)


唯(真っ暗を照らす火に、暖かみを感じた一件でした♪)


唯(ムギちゃんにも感謝カンシャ! めでたしめでたし!!)

唯「……」

唯「風が出てきたなぁ」


唯「さ、早く部屋に戻って、もう一眠りしますかっ!」

唯「二度寝、二度寝~♪」




テクテクテク

【寮 1階廊下】

ヒックヒック

唯「ん?」


ヒック、ヒック

唯「……誰かの、泣き声?」


唯「共同トイレから、聞こえる……!」

唯「はっ、そう言えばちょっと前、憂が、」

唯「音楽室で出た、オバケの話をしていた様な……」

ヒックヒック

唯(音楽室に響く水音に、床に落ちた赤いシミ……)

唯(実はその正体は……!)




唯「うぅ、コワイけど……」

ヒック、ヒック……

唯「このトイレから響く泣き声も、気になる……!」

唯「ちょっとだけ、見てみよう……」

唯「もし、ほんとのオバケだったらスグ逃げよ!」


唯「…………」







唯(ポマードポマードポマード!!!)

唯「そーっ」


紬「……ヒック、ヒック」


唯「あれ、何だ。ムギちゃんじゃん」

紬「……ヒック、ヒック」


唯(……泣いてるみたいだけど、どうしたんだろ?)

唯「ム~ギちゃん!」

紬「ゆ、唯ちゃん!」


唯「こんな所でどしたの?」


唯「もしかして、お腹いたい??」

紬「うぅぅ、うぅぅぅ」



唯「えっ!?」

ガバッ!

むぎゅぅぅぅぅぅぅぅ

唯「あわわわわえあわ!?」

唯(い、いきなり抱きつかれた!?)

紬「うぅ……」



唯「ど、どうしたのムギちゃん? 何があったの??」

紬「ごめんね、ごめんね。唯ちゃん、みんな……」

唯「えっ??」

紬「私ね」

紬「妊娠しちゃってるみたい……」








唯「…………」

唯「どぅえええええええええ!??」

5日後

【ムギの部屋 午後10時12分】


澪「それで、病院で検査結果は!?」

律「まちがい、ないんだな!?」

紬「うん。お腹に赤ちゃんがいるって。1ヶ月の」

全員「ぅぉぉぉ……」


幸「おめでとう!ムギちゃん!」

晶「いや、おめでとう……なのか?」

菖「おめでとうだよ、そういうことにしとくの!!」




唯「……」

梓「それでムギ先輩! 相手の方は分かってるんですか!?」

紬「……うん」


律「ち、ちなみに誰なんだ?」

唯「私たちの知ってるヒト?」

澪「っていうか、ムギに彼氏とかが居たとか気づかなかった……」


紬「……ごめんね」

紬「……相手は、一応みんなも知ってるヒト」

梓「だ、誰なんです?」


紬「半年前に、皆でバンドマン同士の合コンに行ったでしょ。その時に来てた、ドラマーの人」


澪「あー、あの合コンで!」

律「えっ、でもあの時は全員が全員に脈なしだったろ?」

紬「う、うん。その時はね」

紬「でも。後日、バイト先で偶然出会って」



みんな「へー」



紬「ライブのチケット貰って、行って見たの」



紬「勢いあって力強くて、でもどこか暖かくて安心できるドラムを叩く人でね」

紬「何だか凄いなって思って、連絡先を交換して……」



紬「そこから一緒にお茶して音楽の話をしたり、」

紬「スタジオでキーボードとドラムのセッションしたり、買い物に行ったり……」

みんな「おぉ……」

唯「……」

紬「なんでもない日に、こっそりあって、二人きりで過ごしたり///」

紬「映画行って、バーでカクテル飲んで、それから、えーと……」



みんな(お、大人だー)


唯「……」

梓「っていうか、彼氏さんができたなら教えて下さいよ!」

澪「そうだよ! 水くさいじゃないか」

紬「ご、ごめん」

律「皆で、ムギと彼氏さんのデート、こっそり尾行したかったのに……!」プンプン

紬「……うぅ、みんなの期待に沿えなかった」



晶・幸・菖(や、デートに付いて来られるとか嫌だよ。私なら彼氏ができたの、内緒にしとく)


唯「……」

唯「それで、ムギちゃんはこの後、どうするの?」



紬「……この子を、生みたい。あの人と、人生を歩みたい」



唯「……」


紬「あの人には話をして、『いいよ。責任とるから』って、言ってくれたんだ」

みんな「おおー!」

紬「……でもね、琴吹家は許してくれそうにないの」

みんな「ええっ!?」


紬「あの人と結婚するのも、この子を生むことも……」


澪「厳格な家だもんな、ムギの実家って」


律「でも、家が反対だとすると、どうすりゃいいんだ?」


紬「……」

唯「……」

紬「夜逃げするの、あの人と二人して」


みんな「えええええええ」


梓「そんな、夜逃げだなんて」

澪「いや、でも、それしかないんじゃないか?」

唯「じゃぁ、大学やバンドはどうするの?」


紬「……どっちも、辞めるわ」

みんな「!」

紬「……ここに居たら、琴吹家に連れ戻されてしまうから」


唯「……」

紬「ごめんね、みんな」

紬「特に、唯ちゃんに澪ちゃんに、りっちゃんに梓ちゃん……!」

紬「勝手なお願いになっちゃうけど、どうか、こんな私を、許して……」


梓「あ、頭をあげてください! ムギ先輩!」

澪「……それで、いいのか。よく考えた上での、答えなんだな」


紬「……うん!」


律「だったら、だいじょうビッ!」

梓「寂しくなりますけど、ムギ先輩の意志を尊重します!」



澪「あぁ。バンドも大学も大切だけど、ムギの人生が、一番だいじだからな!」



紬「……みんな、ありがとう」

澪「それで、夜逃げったって具体的にいつから始めるんだ?」

紬「……今日の、午前零時。日付が変わると同時に、ここを発っていくわ」

律「ちょ、急だな!」

紬「……これ以上遅れると、琴吹家の追跡チームに追い付かれてしまうから」

唯「……」


梓「でもでも、それだともう2時間もありませんよ!」

梓「荷物とか、どうするんですか!?」

紬「……ホントに迷惑かけてばかりだけど、みんな、纏めるの手伝ってくれないかしら」


唯「……」

律「おうとも! 任せとけ親友(マブダチ)よ!」

律「ふふふ~。りっちゃんの旅行収納術を披露する時が来たようだな!」


澪「あぁ。他にも、できることあったら言ってくれ!」

梓「私もお手伝いします」

晶・幸・菖「うんうん!」

唯「…………私は、ヤだ」

澪「ちょ、唯!?」

紬「……唯ちゃん?」




唯「…………」



紬「…………」

唯「勝手だよ、こんなの!」




唯「……ごめんね。ムギちゃん」

律「唯?」

梓「唯センパイ??」




唯「……うまく、言えないケド」

唯「……私は、自分の部屋に戻ってるよ」

紬「……唯ちゃん」

唯「見送りとかも、行かないから」

紬「…………」



唯「じゃあね、バイバイ。さよならムギちゃん」


バタン!!

紬「……唯ちゃん」

晶「行っちゃった」

菖「ちょ、いいのか? 唯のやつアレで?」


律「あー、大丈夫でしょ。唯がいると荷物まとめももたつきそうだし」

澪「見送りとかも、どうせ寂しくなって自分から来るだろうしな」

梓「ですです」

幸「あー、ありそう」



律「よっしゃ、じゃぁちゃちゃっと夜逃げ……いや、駆け落ち応援隊スタートといきますか!」



みんな「おー」

【午後11時51分 N女子大 寮の門前】


ビッビー♪

律「おお、道路の向こう側で待ってる車が、そうだな?」

紬「うん。あの人の車」

澪「しかし、結構時間ギリギリだったな」

梓「はい。荷物まとめ間に合って良かったです」

晶「それじゃムギ、元気で!」

幸「今までありがとう」

菖「体に気をつけて」

紬「恩那組のみんな……」


澪「ムギ、彼氏さんと幸せにな。万一ツラいなら、いつでも戻ってこい!」

紬「澪ちゃん!」

律「梓ならともかく、ムギなら問題ないとは思うが、元気に子を生めよ!」

律「そんで赤ん坊の写真を年賀状にして送ってくれ!!」


梓「律センパイ! セクハラです! まぁ年賀状は私も見てみたいですが……」


紬「ふふふ。りっちゃんに梓ちゃん。そうするわ」



澪「それからコレ、みんなからのカンパ。気持ち程度だが、受け取ってくれ」

紬「……ありがとう。何から何まで、本当にアリガトウ」



澪「……時間だな」

晶「おい、大事なヤツが居ないけど、いいのかよ」

律「や、唯ならそこら辺の木陰にでも居て、こっちを見てるだろ」


ガサゴソ

唯「……」ジー



律「ほら居た」

梓「ほら唯センパイ、こっちに来て!

梓「さぁ、お別れの挨拶ですよ!」

唯「あわわ、引っ張らないでよ、あずにゃん!」

梓「ほら早く!」


唯「わわっ」


ズルッ

ビターン!



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