紬「今日はレモンパイをもってきたわ」

律「おいしそうだな」

澪「た、体重が…」

梓「…おいしそうですね」

紬「みんながちゃんと食べられるようにきれいに数等分に切り分けるからね」

その日、私はレモンパイを食べた。

サクサクとして甘酸っぱいそれはしばらくの間、私の舌の上に苦いしびれを残した。

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唯「まさかねぇ…」

朝練のために通常よりも早めに1人で家を飛び出した私は、たまたま郵便ポストを覗いた。

こういう時、野生の勘っていうのは人間でも働いてしまうものなのかなぁ。

唯「でも、憂に先に見られなくてよかったや」

取り出した紙をまた折りたたんで封筒にしまう。


[平沢 唯 様] 


という冒頭から始まるそれは目をつぶりたくなるほど明るい黄色い紙に印刷されていた。

唯「おっと、急がないと朝練する時間なくなっちゃう」

なにも考えないように、全力で学校までいつもの道を走った。

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じゃーん

律「よし!だいぶまとまってきたな」

澪「いや、よし! じゃないから。律、またさっきのとこ走ってたぞ」

律「え?いや、私はさっきのところは注意して叩いたから!!澪が走ってたんじゃないのか?」

紬「もしかしたら私が走ってたのかもしれないわ」

梓「いや、それはないですから。ね、唯先輩」

唯「……」

律「おーい、唯やーい」

紬「唯ちゃーん」

唯「あ、ご、ごめん!ちょっとぼんやりしてた」デヘヘ

梓「んもー、しっかりしてくださいよ、唯先輩!!文化祭が近いんですからぁ」

唯「ご、ごめん。あずにゃん」

律「まぁまぁ。ほら、もう下校時間になるし。今日は練習終わろうぜー!!」

澪「まったく!!...って言いたいところだけど、本当に時間だ。みんな早く片付けて帰ろう」

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律「じゃーな、2人とも!」

澪「唯、梓、おつかれ。また明日!」

梓「おつかれさまです!気をつけて!!」

唯「…ばいばーい」

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唯「……」

梓「……」

唯「あずにゃんや、」

梓「はい、なんですか?」

唯「その。もし、いきがみもらったらどうする?」

梓「唐突になんの話をし出すのかと思えば。いきがみですか…?」

唯「そう、いきがみ」

梓「...あれってなかなか当たりませんからねぇ。なんというか、いきなり言われても想像がつかないです」

唯「想像がつかないって…。あずにゃんにも明日もしかしたら届くかもしれないんだよぉ?」

梓「あはは、可能性はゼロではないですけど、うーん。あまり考えたくはないですねぇ」

唯「想像力がないなぁーあずにゃんは」

梓「現実主義と言ってください」

唯「じゃあ、さ」

梓「はい?」

唯「私にいきがみが届いたって言ったら、どうする?」

梓「……え?」

唯「現実主義にゃんはどうする〜?」

梓「え、じょ、冗談ですよね?そ、…そんな冗談やめてくださいよ、唯先輩」

唯「冗談なんかじゃ、ないよ」

ピラッと出したそれを見ると、あずにゃんの顔がゆがんだ。

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梓「どうしてどうしてどうして・・・・なんで、なんで、なんでですか、なんで唯先輩が…」

唯「なんでもどうしてもないよ、あずにゃん。これって健康な人だったら誰でも選ばれちゃうやつだし」

梓「無作為選別...。

  唯先輩は…そりゃあ、練習はろくにしないでお茶ばっかりのんでお菓子ばっかりたべて、

  私が嫌だって言っても抱きついてきてちょっとウザい時もあるけど」

唯「おいおい、言ってくれるじゃないか後輩」

梓「唯先輩は悪くない…どうして、どうして…なんで唯先輩が死ななくちゃいけないんですかっ!!!!」


2人して瞬時にハッとした。

その瞬間に目があった。

その目に私は見覚えがあった。

あの日、送別会を開いた日の夕方、いきがみをしにがみとなじったクラスメイトと

そっくりの目だった。

あずにゃんは「しまった」という顔をした。

でも、もう遅い。私は聞いてしまった。

私にならわかる。

きっと、私だったから。
あずにゃんの発していたセリフはあきらかに、洗脳をされていない人のそれだった。

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唯「あずにゃんって、演技うまいねー」キコーキコー

梓「そんなこと…ないです…」キィキィ

私たち2人はそのまま近くの公園に行き、話をした。
ブランコが2つ空いていたから、2人ともブランコに座ってみたんだけど
久しぶりにこぐブランコってものすごく面白いっ。

唯「でも、澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんも、

  憂だってさ、

  きっとあずにゃんがいきがみのこと良く思ってないだなんてこと気づいてないよ」キコーキコー

梓「そうですかね…?それならいいんですが」キィキィ

唯「私も気づいてなかったし!!」キコーキコー

梓「唯先輩は…ねぇ…」キィキィ

唯「なにそのリアクション!?」キコーキコー

梓「あはは…」

唯「でも、どうしてあずにゃんはいきがみ反対派なの?」

梓「……えっと、その」

唯「うん」

梓「私、その、本当に小さいときに母にいきがみが届いたんです。本当に小さい時だったんですけど」

唯「……」

梓「その時はたしか、いきがみって絵本の中での話だと思ってたんです、私。

  でも、実際に自分の母の元に黄色い手紙が来て、私、すっごい喜びました。

 『絵本の中のと同じきいろいやつだー!おかあさんすごーい』

  って。まるで、現実にサンタが実現してたかのように喜んだんです」

唯「……」

梓「今思うとものすごく愚かで最低なことを母に私は言ってしまったんです。

  母が実際どう思ったのかは、今となっても私が知れることではないですが」

唯「……」

梓「でも。最後の夜、母は私を抱きしめながら泣いたんです。

 『もっと一緒に生きていたい』

 『どうして私が』

  って」

唯「……」

梓「当時、私はどうして母が泣いているのかを理解できませんでした。

  だって、いきがみのこと、現実に起こりえることだなんてこれっぽっちも思ってなかったんですから。

  でも幼い私の言葉は、確実に母を傷つけていました」

唯「……」

梓「唯先輩」

唯「ん?」

梓「いきがみをもらった者がそれを無効化する場合、どんな方法があると思いますか?」

唯「え?無効化なんてできるの?これ」

梓「まぁ、なんといいますか裏ワザのような気もしますけど」

唯「……わからにゃい」ムムッ

梓「あはは…。つまり、条件を逆手にとってしまえばいいんです。『健康体である』という条件を」

唯「それってつまり…」

梓「私の母は、期日の最終日に焼死自殺しました。殺されるくらいなら自分で死ぬって感じなんですかね」

唯「……」

梓「ガソリンをかぶって身体の80%が消滅。与える健康体がないんです。そして助かる見込みも。

  当然、いきがみは無効ですよね」

唯「あずにゃん……」

梓「自殺を選ぶほど、母は追い詰められた。そして、それに拍車をかけたのはきっと私の言葉なんです」

唯「……泣かないで」

梓「母のこと、ようやく自分の中でケリをつけられるかと思ってたのに...。せっかく仲良くなれたのに…」

唯「あずにゃん...」

梓「もっと一緒にいたかったのに...。もっと一緒にいたいのに...。唯先輩まで…どうして…」


ひっそりと泣くあずにゃんはとても痛々しかった。

「この子の涙を止めるためなら私なんでもするよ、神様」と思うほどだった。

「なら、いきがみに従って、多くの命を救えばいいんじゃない?」と言われたら

私は泣いているあずにゃんを抱きしめ続けるほうを選ぶんだけどね。





私の行動ってほんと、矛盾してる。

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いきがみが届けられた場合、その者は一週間以内に義務を果たさなければならない。
そう、これは国民に課せられた義務なのである。
拒否権はない。
それは国家に反逆することをただちに意味する。

街には監視用として防犯カメラがいたるところに設置されている。
逃亡は考えない方が身のためだ。
反逆者は国籍を?奪され、国籍を持たないものはその身を抹消される。

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あずにゃんは目を物凄い勢いでゴシゴシしたかと思うと、

ブランコから立ち上がって、私の目の前に立ってこう言った。


梓「逃げましょう。唯先輩」

唯「ほぇ?」

キコキコと私の左で、誰も乗っていないブランコが音を立ててまだ揺れていた。

梓「私も一緒に逃げますから、きっと大丈夫です」

おわ、このあずにゃん。

目がマジだ。

マジにゃんだ。

唯「いやー、なにが大丈夫なのかわからないんだけどあずにゃん。というか、どこに逃げるの?」

梓「ど、どこかです!!」

唯「街の中は防犯カメラだらけって知ってるよねぇ?私でも知ってるよ?」

梓「唯先輩、昨日のいきがみの特番見たでしょう」

唯「うぐっ!?どうしてそれを!?」

梓「防犯カメラのコーナー、私も見てたんです」

唯「うわぁ。あずにゃんはああいうの見ないと思ってたから言ったのに!!知識をひけらかした私が恥ずかしい!!」

梓「まったく、でも、そういうところは唯先輩らしくて嫌いじゃないです」

唯「んーまぁ、でもさ、あの特番見てたら『人のために死ぬのも悪くないなぁ』って思えてくるから不思議だよね」

梓「唯先輩」

唯「ん?」

梓「お願いです。逃げてください。私のためだと思って…。理不尽から一緒に逃げてください」

普段は生真面目なあずにゃん。

私がどんなにひっついてそのことに口からは不満をもらしても、

内心はおそらくウハウハで、

「きゃー!唯先輩の胸があたってるぅ!?」とか考えてるだろう、あずにゃん。

そんな生真面目なエロにゃんの

その悲痛な声と表情を見たら、

私は


「うん、一緒に逃げて。あずにゃん」


自然と、そう応えていた。

あずにゃんは私の両手をその小さな小さな手でぎゅっと包み込んだ。

左ではもうブランコの揺れは止まっていた。

じわじわとあずにゃんの瞳に希望が染み渡って行く。

その光景を見れただけでも、きっと私の選択には意味があったんだ。







---きっと。



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「しない善意よりする偽善」ってネットスラングがあるじゃない?

面白いと思わない? あれ。

「しない善意」っていう架空の物体がまるで人間の中に最初からあるみたいじゃん? 

あるのかな、そんなもの。あるのかな、そんな善意。みなさんはあると思いますか? 

自分の中にそんな善意。話がよくわからない? 

うーん、ごめんね、ちょっと話をしないうちに話ベタになっちゃってるから、

口が最近ようやく聴けるようになったんだよね、周囲の人と(笑)

んーっと、話はそれちゃったけど、具体例。なんてことはな

イメージだよ、イメージ! 想像力を働かせてね。はい、では想像。

あなたの目の前には今一人の健康な人間がいます。
男の子でも女の子でも、不細工でもブスでも太ってても瘠せててもいいでーす。

とにかく、人間と呼ばれている1人の人間が正座とか体育座りとか、
女の子特有のあの座り方だったりをして目の前にいるわけですよ。
仮にQとでもしましょうか。女の子とか男の子とか表記することで特に意味とか生まれないからね。

Qはとある性癖を持っていて、とにかく自分自身を傷つけることに性的興奮を覚えちゃうわけ。
もうキリキリマイマイなわけ。

自分で出来る限りのところには傷とかつけられたけど、
どうしても1人じゃできない傷の付け方、痛みの感じ方ってものをQは次第に感覚的に悟っていく。

悩めども悩めども、1人でそれを試してみたとしてもどうしても中途半端になってしまう。
Qはやがて追い詰められていくのですよ。

「自分が追い求めている感覚、得たい興奮はこんなものじゃない」

どんなに悩んでいたとしても、他人には相談できない。
そりゃQにも一応常識が備わっていて、

「自分の抱えている問題は一般的におかしくて異常で逸脱している」ということをとても理解して、
誰にも理解してもらえないことであるということもとっくの昔に理解している体です。

自分の欲望を解消できないフラストレーションとそんな悩みをだれにも打ち明けられない孤独を抱いてQは生きていた。

そんなQは悩み悩み抜いたあげく、ついにあなたに相談することを決意する。

とても切実な表情を浮かべQはあなたの元を訪れて、頭を垂れてこう頼むのだ。

「どうか自分を殺してほしい。

 自分が傷つけられる最高の痛みは『自身の死』だ。

 そして、そこに、君の存在が必要だ。

 君が自分を殺すときの『他人の死』に怯えた表情が見てみたい。

 どうか、殺すときは自分から目をそらさないで見つめ続けてほしい。

 苦痛ににじむ自分の顔を見続けてそのゆがんだものを自分に見せてほしい。

 親しい人は自分の鏡だ。

 自分の鏡は君だ。


 君に自分を、自分の生にしがみつく情けない自分の姿を映して見せてくれ。

 見せつけてくれ。

 そして、死を本当に悲しんでくれるのなら、

 刺したナイフで死ぬ前に右目をくりぬいて自分の残った左目の前で食べてほしい。

 君が自分のことを本当に思ってくれるなら、こんなこと、

 かんたんだろ?」

さて、お前の中の善に尋ねろ。

 あなたはこれができますか? できませんか?

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一旦家に帰って、必要なものを小さめのリックサックに詰めると私は憂に

「ちょっとでかけてくるね」と声をかけた。

なにも知らない憂はそれでも

「うん、遅くならないようにね」と私を送り出してくれた。

その笑顔を見て今すぐにでも憂の元へと駆け寄って、抱きしめたい衝動に駆られる。

抱きしめて、泣き叫びたかった。

死にたくないと声を上げたかった。

でも、そんな弱虫な私の、姉としての最後の強がり。

「うん、できるだけ、早く帰ってくるようにするからね、憂」

 そう言って笑った。

うまく笑えていますように。

願いを込めて。

「今日はお姉ちゃんの好きなカレーライス作るよ」

「うわぁ、もちろん甘口だよね?」

「当たり前だよぉ」

そうやって、当たり前を、私と憂の間に当たり前を私は憂と積み上げてきた。

それも、今日で終わりだ。当たり前が胸に染みて苦しくなる。どこにもいきたくなんてないのに。

「うん! じゃあ、いってきます」


 ―――――――どこに??????????!

 ねぇ、憂、お姉ちゃんどこにいくのかな????

これから、どうしてなのかな、ねぇ、どうして私なんだろうね、なんだこれ意味わかなんないんだけどさ、憂、教えてよ、どこにいくの? これから私はどこにいってなにをするの? 笑えてくるんだけど、足の震えが止まらないよ。
ねぇ、教えてよ、ねぇ、憂、私たち、わかりあえてるよね、仲良しだよね、私、お姉ちゃんなのに、どうしてだか憂よりもわからないことがたくさんあるよ、どうしよう、ねぇ、私どうしよう、憂うい憂憂憂憂うイ憂うイういういういういういういういういういういういういういうい・・・・・・・うい

私はゆっくりと家の玄関を開けた。
凍てつく空気が家の中に入ってきて憂が寒いと漏らしたけれど、
私はその寒さをもう共有してあげることができなかった。

「気を付けて。いってらっしゃい、お姉ちゃん」

歪んだ口元を隠すにの必死だった。

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「やっほー、あずにゃーん!」

「あ、やっときましたね、唯先輩」

そう言ってあずにゃんは公園のベンチから立ち上がった。

背にはパンパンのリュックサックを背負ってい……ない。

あずにゃんは「ちょっとそこまでおでかけしてくる」って感じの服装で、
荷物もちょっと大きめなポーチが1つだけだった。

自分の中の血が冷えていく感じがした。

そんなに荷物は必要ないってことですか、そうですかそうですか。
なんだよ、あずにゃんのくせに。逃げようって言い出したのあずにゃんのくせに。
私の命をこれっぽっちも信じてないんじゃん。

な〜んだァ。

ちぇ。

「あ、言ってなかったですけど、よかった。唯先輩ちゃんと荷物少なくしてきてくれて」

「ふぇ?」

「いや、だって逃亡ですからね。

平日にパンパンになってるリュックサックを背に背負った2人の女の子なんてカメラに映ってたら

明らかに怪しいじゃないですか!

荷物は少なめにって言うの忘れてたから、ちょっと不安だったんですよ」

あずにゃんはそう真面目そうな顔をして言った。

「……」

「必要なものがあればその時にその場で買えばいいですから」

「……ごめん、あずにゃん」

「え? なにがですか?」

「……」

私は自分の早とちりを言うのを躊躇って黙ってしまった。そんな私の顔をあずにゃんは下から覗いてくる。

「!? な、なにしてんの!? あずにゃん!!!?」

「いや、いきなり黙っちゃうんで泣いているのかと」

「え、な、泣いてなんか!?」

「そうですか……」

あずにゃんはそういって私の両手を小さな手でさっきのブランコのときのようにギュっと包んだ、

とみせかけて、

私がいつもあずにゃんにしているように私のことを抱きしめてきた。

「……唯分補充?」

「唯分ってなんですか」

「ふぇ、とか、ほぇ、が自然に出てくる成分」

「……嫌な成分」

「なら離してよ……」

「絶対、逃げましょうね、唯先輩」

「……そうだといいね」


あずにゃんの肩に手をやると、すんなりとあずにゃんは私から引きはがすことができた。

できたんだけど、あれ? あずにゃん、その両手に握ってるケータイって何。

あれ、右手に握ってるケータイって見覚えがあるんだけど……。

右のスカートのポケットをゴソゴソとしてみる。


「それって、私のケータイ……」

そう言いかけたとたん、あずにゃんは公園の地面と水平にした両腕の先の手のひらを下に向け、

両手に握ったケータイを同時にその地に落とした。

「あ……」と言いかけたとき、ケータイは既に地面に落ち、

拾おうと反射的に右手を伸ばした瞬間にあずにゃんは可愛らしいその小さいな靴で私のケータイを踏みつぶした。

その躊躇いのなさに、こっちが躊躇った。

「あ、ああ、……あ、あ、……」

「ケータイはすぐに足が着きますから」

「……それにしたってこんなの……ひどいよ、あずにゃん。みんなとの思い出が……」

「あ、大丈夫ですよ、ほら、私のも」

あずにゃんは私のケータイを2、3度念には念を入れたあとに地面に落ちている自分のケータイも遠慮なく踏みつぶそうと
足を上げてその足を遠慮なく勢いをつけて下し―――寸でのところで止め、

「あ、唯先輩、ケータイ踏みたいですか? 私のケータイ踏みます?」

「え、いや、いいよ」

「そうですか」

私の許可を得てにっこりと笑った後、今度こそ、ケータイを粉々にするための一歩を下した。

あずにゃんがその足を地面にたたきつけ、ケータイをプラスチックの破片にしているのを見つめながら、

今頃憂は冷蔵庫の野菜室に材料と一緒に入れといたカレーの中辛のルーの箱と私の手紙を見つけ出し、

イキガミでも読んでいるころかな、とふと思った。

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口にさえ出さなければ、日本では何を考えてもいいことになってる。

口にさえ出さなければ、たかが5分遅刻しただけで怒りまくる先生を頭の中ではナイフでめった刺しにしていいし、

口にさえ出さなければ、あずにゃんの身体をむさぼる妄想をしたっていい。

(うそ、そんなことするわけないじゃん! 私もあずにゃんも女の子なんだし!)

口にさえ出さなければ、ムギちゃんの眉毛の上にたくあんを置いていいし、

口にさえ出さなければりっちゃんと澪ちゃんが女の子どうしなのに

お互いがお互いを思いあっているっていう妄想をしたっていい。

(だから、私、そういうのじゃないってばぁ! 妄想くらいいいじゃん!! 許してよ!)

口にさえ出さなければ、憂が私のことを姉としてではなく一人の人間として好きであってほしいと思ってもいい。
(ヒカナイデ! 戻って来て!)

口にさえ出さなければ、私はいつだって自由で、なんでもできる。



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