今日から高校生!

 念願の桜が丘女子に入学した私はあふれる期待に胸を膨らませていた。
 親の影響で小学生の頃からギターを始めた私ですが小学校はもちろんのこと
 中学校にも軽音部は無く……
 高校生になったら軽音部に入ると決めていた私は入学初日にも関わらず
 職員室で入部届けを貰ってきた。
 一日でも早く入部したいからね!

 クラスでの自己紹介などが終わり今日のホームルームは終了。
 本格的な学校生活は明日からだ。
 まだ顔も名前もはっきりと憶えていないクラスメイト達が帰り支度をする中、
 私は机に座り入部届けにペンを走らせていた。

 ………ん?

 隣の席の女の子が私と同じように席を立たずになにか書いている。
 あれ?あの紙…入部届けだ……
 そしてそこに書いてある文字は―――

 『軽音部に入部することを希望致します』

 えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!

 こんな事があるでしょうか。
 高校に入学し、偶然同じクラスになり、偶然隣の席になった子が
 私と同じように入学初日から部活を始めようとしており、
 それが私と同じ軽音部だなんて………
 これは運命というやつでしょうか?

梓「あ、あのー……」

 おそるおそる隣の少女に声をかけてみる。

少女「は、はいっ?」

 急に声をかけられた少女は吃驚したのか若干声を裏返しながらこちらを向く。
 うわ。可愛い子。
 自分から声をかけておいて私はその子に見蕩れてボーっとしてしまった。

少女「も、もしもし……?」

梓「あ、ご、ごめんなさい!ボーッとしちゃって……あの、軽音部に入るんですか?」

少女「え?そ、そうですけど……」

 突然話しかけられた事に警戒している様子の少女に私は『軽音部』と記入した自分の入部届けを見せた。

梓「えへへ……私も軽音部に入ろうと思って……」

少女「えぇっ!?」

 この奇妙な偶然に私と隣の少女は盛り上がりすっかり意気投合してしまった。
 じゃあ一緒に入部届けを出しに行こうか、なんて話になったところで
 お互いに自己紹介をしてない事に気づく。
 ホームルームで全員の自己紹介を聞いたとは言えさすがに憶えきれるものではない。

梓「私、梓だよ。これからよろしくね!」

少女「私は唯。こちらこそよろしくね、梓ちゃん」

 二人で職員室に入部届けを出しに行ったが一年生が部活に参加できるのは明日以降だということで、
 今日は帰るようにと先生に言われてしまった。


 ―――――――――


梓「えぇっ!じゃあ唯と私の家すっごく近所じゃん!」

唯「そうだね。今度遊びに来てよ」

 帰り道。意気投合したとはいえ、まだほぼ初対面の私達はお互いの事を話しながら帰る。

梓「でも、中学は一緒じゃなかったよね……?」

唯「うん。私、中学卒業して引っ越してきたから。この町にはまだ来たばかりなんだ。

  お母さんが昔この辺りに住んでたらしいんだけど……」

 入学初日から同じクラスで家も近所、しかもこんなに可愛い子と友達になれるなんてラッキーだ。
 楽しい高校生活が送れそう。

梓「ちぇー、今日から練習に参加したかったのになー」

 唯に出会えたおかげで高校生活は順風満帆なスタートが切れたけど
 今日部活に参加できなかった点だけは不満だった。

唯「ふふっ、梓ちゃんはホントにギターが好きなんだね。入学初日から部活始めようとする人なんて

  私だけだと思ってたよ」

梓「私だって入学式にギター持ってくる人なんて私だけだと思ってたよ。唯こそ今日から部活に

  参加する気満々だったんじゃないの?」

 唯の背中のギターを見ながら言う。

唯「あ、あはは……」

梓「ねぇ、唯はいつ頃からギター始めたの?」

唯「小学校5年生ぐらいかな?親がギターやってたからその影響で……」

梓「……………」ポカーン

唯「ど、どうしたの?梓ちゃん」

梓「あ、ご、ごめんごめん。ギター始めた時期も、親の影響っていうのも私と同じだから吃驚しちゃって…」

唯「え!?梓ちゃんも同じなの?」

梓「これはいよいよ私と唯が出会ったのは運命かもね!」

唯「あはは。そうかもね」

梓「あ、そうだ。私のことは梓でいいよ。私、唯のこと呼び捨てにしちゃってるし」

唯「え、そ、そう…?えっと、じゃあ、あ、梓……///」

 ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!!

 や、やばい。可愛い!
 ちょっと恥ずかしそうに上目遣いで私を見ながら名前を呼ぶその姿に
 私は打ち抜かれそうになった。

梓「はぁ……唯、あんた気をつけなさいよー?」

唯「え、な、なにが?」

梓「女子校だからって油断するなってこと。唯みたいな可愛い子を狙うお姉様方がいるかもよー?」

唯「なっ!?そ、そんなこと……///あ、梓の方が可愛いじゃない!」

梓「いやいや……唯みたいな黒髪サラサラロングはきっと大人気だよ?羨ましいなー……その髪」

唯「そうかなぁ……私は梓みたいに明るい色でふわふわした髪に憧れるけどなぁ……

  私なんて日本人形みたいだなんて言われるし……」

梓「まあいいや。とにかく先輩とかに言い寄られたら私に任せなさい!私が唯を守ってあげるから!」フンス!

唯「はいはい。頼りにしてるね。じゃあ梓が言い寄られたら私が守ってあげるよ」フフッ


 ―――その後も私と唯はいろいろな事を話しながら帰った。
 もともと友達を作るのは苦手ではないけれどたった一日でここまで打ち解けれたのは唯が始めてだった。

梓「やっぱり運命の出会いってやつなのかなぁ……」

唯「ふふ……また言ってる」

梓「いや実はね、まだ言ってなかったんだけどもう一つ運命を感じてる事があるんだよ……」

唯「………え?」

梓「唯の名前ね、私のお母さんと同じなんだー」

唯「!!!」

梓「……どうしたの、唯?」

唯「うーん……ここまでくるとちょっと怖いかも……」

梓「え、な、なにが?」

唯「私のお母さん………梓って言うの……」

梓「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」



 ―――――――――



 私のお母さんは高校生の時に燃えるような恋をしたという。

 その相手は同じ女子校の一年後輩。つまり女の子だったのだ。
 二人は愛し合い生涯を共にする約束をしたが、やはり女の子同士ということで
 様々な面での障害があり、添い遂げる事はできなかった。
 何年もの話し合いの末、お互いの幸せを願い別れてしまったそうだ。

 今の旦那―――つまり私のお父さんのことをもちろん愛しているが、
 その女の子との大恋愛はお母さんの中で特別なもので決して忘れる事ができないという。

 だからお母さんは自分の娘―――私にかつて愛した少女の名前『梓』と名づけた。

 私が小学生の頃、自分の名前の由来をお母さんに聞いた時に教えてもらった話だ。
 話し終わった後、お母さんが『お父さんには内緒だよ?』と言ったのを憶えている。



 ―――――――――



梓「そっか……唯のお母さん梓って言うんだ……」

唯「うん……」

 私のお母さんのかつての恋人『梓』さん―――

 まさか、ね。

 今、私の目の前にいる黒髪をツインテールにまとめた小柄な少女、唯。そのお母さんである『梓』さんが
 昔の恋人を忘れられずに自分の娘に『唯』と名づけた……なんて話出来過ぎだ。
 そんなのってあまりにも素敵で、悲しすぎる。
 だからきっと私と唯の出会いは運命なんかじゃないんだ。
 偶々同じクラスで席が隣になって仲良くなった女の子。
 多分その方がいいんだ。


唯「あ、じゃあここで……バイバイ梓。また明日ね」

梓「うん。明日から部活頑張ろうね!」

 ギュッ

唯「にゃっ!?ちょ、ちょっと梓!なにすんのよ!!///」

梓「あ、ご、ごめん!!つい……///」

 別れ際に思わず唯を抱きしめてしまった。
 まあ私がスキンシップ好きなのは認めますし、唯がちっちゃくて抱き心地が良さそうだった
 というのもあるのですが……なんだろう。今のは吸い寄せられるように自然に抱きついていた。
 いくらスキンシップ好きの私とはいえ今日出会ったばかりの人に抱きつくなんてさすがに
 今までしたことは無い。………ホントだよ?

唯「まったくもう……///」

梓「ごめん……」シュン

唯「あ、べ、別に怒ってないよ?ちょっと吃驚しただけだから!」

 慌てた様子で私を慰めようとする唯。ホントにいい子だなぁ……

 唯と別れ家路に就く。
 お母さんは『梓』さんが近くに引っ越してきた事知ってるのかなぁ?
 でも私からはお母さんに話すつもりは無い。
 私と唯が仲良くしていれば近いうちに私のお母さんと唯のお母さんは
 顔を合わせることになるだろう。
 それこそ運命の再会と言えるのかもしれないけどそれはまた別のお話。




 翌日、放課後。



梓「音楽準備室……ここでいいんだよね?」

唯「う、うん……緊張するね……怖い先輩とかいないかなぁ?」

梓「うっ……唯、ドア開けて」

唯「えぇっ!?梓が開けてよ!昨日私のこと守ってくれるって言ったじゃん!」

梓「そ、それは誰かに言い寄られた時の話でありまして……」

 「なにやってるの?」

唯梓「「ひぃっ!!!」」

 後ろから突然かけられた声に私達は情けない悲鳴をあげてしまう。

先輩「あ、もしかしてあなた達入部希望者?」

 どうやら声の主は軽音部の先輩のようだ。

唯「は、はいっ!」

先輩「良かったー!いやー私ら今部員3人しかいなくてさー。今年誰か入ってくれなかったら

   廃部になっちゃうところだったのよ」

 気さくそうな先輩は私達を部室に招き入れてくれた。室内にはさらに2人の先輩の姿が。
 部員3人って言ってたからこれで全員なのかな?

先輩「じゃあとりあえず自己紹介してくれる?」



梓「はじめまして!1年2組、平沢梓です!」

唯「同じく1年2組、中野唯です。よろしくお願いします!」




 おわり