梓「少し触るくらい いいじゃないですか、減るもんじゃないのに」

梓「むしろ一丁前に大きくなってるくせに」

唯「胸は小さいくせに態度は大きいなぁ」

梓「そういえば揉むと大きくなるらしいですよ、試してみましょう」

唯「私は間に合ってますから結構です」

梓「どれどれ」

唯「近寄らないで」 スパン

梓「じゃあいくら払えばいいって言うんですか」

唯「ウチはお触り禁止なので」

梓「わかりました、体で払いますから」

唯「何一つわかっちゃいなかった」

梓「私を好きにして下さい!」

唯「じゃあ出てってよ」

梓「そういえばあずにゃん分の補給しなくていいんですか?」

唯「なんか嫌がってたじゃん、中野」

梓「ダメです、ちゃんとあずにゃんって言って下さい」

唯「今は私が嫌がってるじゃん」

梓「あずにゃんってイって下さい! あずにゃんでイってください!!」

唯「めんどくさい子だなぁ」

梓「言わないと絶対に帰りませんよ?」

唯「はいはい、あずにゃんあずにゃん」

梓「あずにゃんにゃん!!」

唯「帰ってよ」

梓「でも 『ノリツッコミ』 ってエロいですよね、何しろ乗りながら突っ込んで……」

唯「ちょっとテレビ見てるから黙ってて」

梓「………」

梓「可愛い後輩がわざわざ会いにきたのに、そんなに帰って欲しいんですか?」

唯「そもそも呼んでないんだけどなぁ」

梓「じゃあお別れのキスをして下さい」

唯「絶対やだよ」

梓「それって絶対にお別れしたくないって事ですか!?」

梓「プププ、プロポーズですか!?」

唯「うっとうしいなぁ」

梓「もう私を黙らせるには口を口で塞ぐしかないですよ?」 ハァハァ

唯「じゃあぜんぶホッチキスで綴じちゃおう」 バチン

梓「キス違いです」

梓「先輩はいつの間にツンデレキャラになったんですか」

唯「ストーカーには明確な拒否の姿勢を取るべきだと思ってるだけだよ」

梓「まあいくらツンデレぶって邪険にしたところで、
  唯先輩にとって私は愛すべき素敵な天使ですからね」

唯「また薄気味悪いことを言い出した」

梓「先輩たちが愛を込めて作った詞なんですよ!?」

唯「何の先輩? 変態行為の先輩? ストーキングの先輩?」

唯「あっ、めぐみん先輩のこと?」

梓「軽音部の先輩ですよ!?」



梓「まあ確かに変態っぽいのがいましたけど」

梓「眉毛の……」

唯「ああ……」

唯「あの曲はトンちゃんに向けて歌ってたんだよ」

唯「うぬぼれないで」

梓「卒業は終わりじゃないとか歌ってくれたじゃないですか!」

唯「あれは卒業して同じ大学に行く私たちの仲を見せ付けただけだよ」

梓「大好きって言うなら?」

唯「ダイ大 好きって返すよ」

梓「ダイ大!?」

梓「ずっと永遠に一緒だって……」

唯「そんなのは言葉のあやだよ」

唯「永遠なんてこの世にありはしないんだよ」

唯「ばーか」

梓「そんな…なんでそんなひどい事いうんですか……」

梓「もっと言って下さい……」 ハァハァ

唯「手ごわいなぁ」

梓「唯先輩はやっぱり喘ぎ声を出す時も ふんす とか言っちゃうんですか?」

唯「またわけの分からない事を言い出した」

唯「あっ、憂から電話だ」

唯「私の危機を察知して助けにきてくれるのかな」

梓「私がついてますから大丈夫ですよ」

唯「何ひとつ大丈夫じゃないよ、大体お前が  あ、もしもし憂?」

梓「おま……」

憂『あ、お姉ちゃん!? あのね、梓ちゃんの事なんだけど……』

唯「やっぱり」

憂『梓ちゃんがね、ゆうべ、事故……で亡くなったって……』

唯「え? いや……だって、いま……」

憂『お姉ちゃん、落ち着いて……私も明日……って……に……

唯「………」


  頭が真っ白になって、憂の声が頭に入ってこなかった。
  いつの間にか電話は切れていた。


梓「憂、なんですって?」


  私を呼ぶ声に何も答えることができない。
  どうしても後ろを振り向けない。


梓「唯先輩?」


  私の肩を、誰かが掴んだ。

振り返ると、そこには誰もいなかった。



さっきまでの騒ぎが嘘みたいな静けさ。
私だけがこの世界に取り残されたような静寂。

まるで、短い夢のような。


いくら部屋の中を探し回っても、彼女の姿は見当たらない。

静まり返った部屋のあちこちには、
彼女がにここに居た形跡が確かに残っていた。

ふざけ合ってしわくちゃになったソファー。
散らかって、丸められた雑誌。
携帯電話に残された、ちっちゃな指の跡。

まだ少し暖かい、寄り添った二つのティーカップ。
かすかに残る、彼女の香り。


リダイヤルに残された彼女の自宅に電話をかけて、私は全てを知った。

部屋を片付けようと持ち上げたティーカップに、涙がこぼれ落ちる。
私はいつの間にか泣いている自分にようやく気が付いた。


特別な関係になることが怖くて、臆病を隠すようにふざけ合って、
最後まで強がって、素直になれなかった私たち。


踏み込みすぎたら壊れてしまいそうな二人のカタチを、
ずっとこのままなんだろうって思ってた距離のままで、
そっと繋ぎ止めておきたかっただけなのに。


私はついに声を殺して泣き始めた。

会おうと思えばいつでも会えると思ってたのに。
急に居なくなるなんて、ひどいよ。


たくさんの思い出が、ずっと抑え続けた感情が、言えなかった言葉が、
遠い放課後の夕焼けに浮かんでは消えていく。


やがて私は、ギターを取って静かに歌い始める。
私の小さな天使が大好きだった歌を。

ちゃんと言えなかったお別れを、せめて笑顔で届けよう。
あなたがそうしてくれたように。

確かめるように、ゆっくりと。 せいいっぱい優しく。
天国までこの歌が届くように。


  ねえ 思い出の欠片に名前をつけて保存するなら
  「宝物」 がぴったりだね

  そう ココロの容量がいっぱいになるくらいに過ごしたね
  ときめき色の毎日

  馴染んだ制服と上履き ホワイトボードの落書き
  明日の入り口に置いてかなくちゃいけないのかな


やがて 「あの頃」 と呼ばれて、いつしか色あせてしまう日々。
終わりが来るなんて信じたくなかった放課後が、拙いギターの音色に蘇る。


  でもね、会えたよ! すてきな天使に
  卒業は終わりじゃない これからも仲間だから

  一緒の写真たち おそろのキーホルダー
  いつまでも輝いてる ずっとその笑顔ありがとう


私は、あなたに何かをあげられたのかな。
あなたが目を閉じた時、そこに私がいたのなら、それだけで私は嬉しい。

もう触れることのできない温もりが、もう二度と聞くことのできない憎まれ口が、
悪戯に笑う声が、心の中を埋めていく。


  ねえ 桜の木もちょっと背丈が伸びたみたい
  見えないゆっくりなスピードでも

  きっと あの空は見てたね
  何度もつまずいたこと それでも最後まで歩けたこと

  ふわり 放課後の廊下にこぼれた音符の羽根
  ふかふか積もるまで このままでいれたらいいのにな


あなたがどこにも行かないように、もっと強く抱きしめればよかった。
確かにそこにあったはずの、楽しかったはずの時間が、今はただ悲しい。


  でもね、ふれたよ! 愛すべき天使に
  「ただいま」 って言いたくなる この場所は変わらないよ

  メールの受信箱 マルしたカレンダー
  とびきりの夢と出会いくれた音楽に ありがとう


私たちが初めて出会った日、今でも覚えてるよ。
あの日、軽音部の扉を開けてくれて、ありがとう。

あなたに会える明日はもう来ないけれど、
目を閉じれば、いつだってあの日の私たちがあなたを待ってるよ。

数えきれない思い出が、涙と一緒に溢れて止まらない。
笑顔でお別れを伝えるのって、やっぱり難しいね。


  駅のホーム 河原の道
  離れてても同じ空見上げて ユニゾンで歌おう!


声がかすれて、言葉が詰まって、上手く歌えない。
ギターを持つ手が震えて、指が上手く動かない。

こんな弾き方じゃ、また怒られちゃうね。
何気ない時間を過ごした放課後に、また戻れたらいいのにね。


  でもね、会えたよ! すてきな天使に
  卒業は終わりじゃない これからも仲間だから


永遠なんてこの世界にはなかった。
それでも、あなたと過ごした思い出は、私たちの中にずっと生きている。


  「大好き」 って言うなら 「大大好き!」 って返すよ
  忘れ物、もうないよね? ずっと、永遠に一緒だよ


おやすみなさい、あずにゃん。

ひとつ、ふたつとギターにこぼれた涙が、お互いを求め合うように重なって消えていった。

最後まで気づいてあげられなくて、ごめんね。
あなたの気持ちに応えてあげられなくて、ごめんね。


あなたの事は、私が忘れないから。
どんなに時間が過ぎたって、思い出すのが辛くたって、きっと忘れないから。

今度は私があなたのところに押しかけてあげるから。
今度はきっと素直になれるから。 もう寂しい思いはさせないから。


だから、あなたを殺した憂をどうか許してあげて。
憂がずっと一人で抱え込んできた寂しさを、どうかわかってあげて。



しっかりと吊るした縄の輪っかに、私はそっと手をかけた。

紬「という夢を見たの」

唯「そ、そうなんだ……」

紬「こういう事態に備えて、唯ちゃんはもっと自分に正直になったほうがいいと思う」

律「どういう事態だよ」

澪「緊急ミーティングっていうから急いで来てみたら何の話だよ」

紬「もうぶっちゃけ早く梓ちゃんと付き合っちゃったほうがいいと思うの」

唯「……じゃあ私、正直に言うね?」


唯「ムギちゃん、きもい」

紬「………」







おわれ