その憧れの女性は訪問して真っ先に姉のことを尋ねた。
「図書館で調べ物してて、遅くなるってさ」
「そうか。最近律はいやに勉強熱心だな。特に英語に力入れてるみたいだし。まあ、いいことだな。帰ってくるまでここで待たせてもらうよ」
以前なら、彼女たちは幼馴染なのだから、それで納得できただろう。だが、最近の姉の様子から、それだけではなくなったのではと聡は察していた。
事実を知るのが怖い。澪は、聡の初恋の女性なのだから。
「あのさ澪ねえ」
ん、と振り返る澪は本当に美人だ。ますます聞くのが躊躇われる。だが、せっかくのチャンスだと思い切って鎌をかけてみた。
「澪ねえってさ、姉ちゃんと付き合ってるの?」
えっ、と澪は驚いた顔を見せ、続いて頬を染めてつぶやいた。
「律の奴、もう話したのか?」
「ううん、姉ちゃんの様子から、そうじゃないかなと思っただけ」
「参ったな…そうだよ。つい先週、律に告白されて付き合うことになったんだ」
全く隠すことなく、それどころか幸せそうに律との交際を明かす澪は、これまで聡の見たどの澪よりも可愛らしかった。
(姉ちゃんはいつもいつもこの顔を見れるのか…。どうして俺じゃないんだろう。女の姉ちゃんなんだろう)

「あのさ、女同士だってこと分かってるの?」
思わず聡の口からこの言葉が飛び出していた。
「え、そりゃ分ってるけど…」
「女同士だと結婚もできないし、子供も持てない。世間の目だってまだまだ厳しい。恥ずかしがり屋の澪ねえが、それに耐えられるの?」
「そ、それ位覚悟してるさ」
「仮に澪ねえは耐えられても、姉ちゃんはどうかなぁ。姉ちゃんが意外と繊細だってことわかるだろ」
澪がほかの人間と仲良くしていたということで寝込むまでになった律を、聡は知っている。当事者の澪には効果絶大のようだ。
「私が…律を守るっ」
「澪ねえが姉ちゃんを守る?いつも姉ちゃんに守られてる澪ねえが?」
「うっ」
「澪ねえのとこはどうか知らないけど、うちの親は絶対に同性愛には反対する。もしかしたら姉ちゃん、家族に絶縁されるかも。姉ちゃんがそんな思いをするの、俺、見たくないよ」
言って悲しげに眼を伏せる。澪の罪悪感を刺激する作戦は上手くいったらしい。
「そう…だな。同性愛の苦労は避けられないよな。律には、『普通』の幸せを歩ませてやるのが一番かもな。でも私、律と別れたくないよ…」
『別れ』という言葉が澪の口から放たれる。もう少しで上手くいく、というサインに聡には感じられた。
震える澪の手を取り、言う。
「俺じゃ、ダメかな」
「聡?」
「俺、ずっと前から澪ねえのこと好きだったんだ。姉ちゃんの代わりでもいい。澪ねえが女の人に惹かれても怒らない。澪ねえの傍にいられればいいんだ。年下だけど、俺、澪ねえのこと守るから。だから…付き合ってください」
澪の顔に明らかな迷いが見られた。あと一押しだ。身を乗り出し、澪の耳元でささやく。
「早いうちに解放してあげようよ、姉ちゃんをさ」
澪は放心したように聡の体に腕を回す。YESのサインだ、と確信した。



「ただいまー。あれ、澪来てたのか。丁度良かった。見せたいものがあるんだ」
息を弾ませながら帰ってきた律は、嬉しげに鞄に手を突っ込む。普段の澪なら「また宿題を見てくれと頼むのか」と呆れた調子でいうところだ。今はそれどころではない。律の喜びに満ちた顔を曇らせたくはなかった。
「あったあった、これ見てよ」
「あの律…」
「姉ちゃん、その前に話があるんだ」
聡がはっきりした口調で言う。「ん、なんだ?」と律は笑顔で聞き返す。澪の心が痛むが、聡は全く躊躇うそぶりがない。律の眼前で澪の手を取り、言った。
「俺たち、付き合うことになった」
律はぽかんと口を開け、やがて大声で笑い出した。
「あっはっは、やだなぁお前ら、冗談きついって」
律は澪を見ていた。否定してくれ、と言わんばかりに。
「冗談じゃ、ないよ律。私、聡と付き合うことになったんだ」
「澪ねえと姉ちゃんが付き合っていることは俺は知ってた。そのうえで口説いたんだ。ごめん」
「なんだよそれ…冗談だとしても本気で怒るぞっ。澪、なんでちょっと口説かれたくらいで恋人の弟に急に心変わりすんだよっ。そんな軽い女じゃないだろ!?」
律が鞄から取り出した、手に握られた紙がくしゃりと潰された。
「今でも律のことは好きだよ。でも、ごめんな。女同士で付き合っていても、『普通』の幸せは得られない。私は律を世間から守れるほど強くない。律には『普通』の幸せを歩んでほしいんだ」
「ふざけんな!誰が澪に守ってほしいって頼んだ!?私は、澪のそばにいられればいいんだよっ」
やっぱり姉弟だと澪は実感した。好きになる女も同じ。口説き方も同じ。
「澪の言う普通の幸せってなんだよ?結婚すること?子供を作ること?それだって叶わないわけじゃない。ほら、見ろよ。図書館でさっきプリントアウトしてきたんだっ」
そう言って律は、持っている紙を眼前に突き出した。
二人の外国人女性と、二人の子供の写真。説明文によると、この女性たちはアメリカで同性婚をしていて、同じ男性から精子提供を受けてそれぞれ子供を産み、一緒に育てているらしい。すごく、幸せそうだった。
「な?女同士で幸せになれる道なんて、いくらでもあるんだよ。私、大人になったら澪と一緒に同性婚のできる国に移住しようと考えてたんだ」
だから、英語の学習に力を入れていたのか?澪は驚愕した。律は自分より先に、真面目に考えていたのだ。女同士で幸せになれる道を。
聡を伺うと、彼も驚愕している。姉がこんなに深く考えているとは思わなかったのだろう。
だが。
「悪いけど律…それでも私は、世間にも何にも煩わされない『普通』の幸せがほしい。それに聡はこんな私に対して、私のことを守ると…傍にいるだけでいいと言ってくれたんだ。ごめんな律。聡なら、私のことを幸せにしてくれると…」
「もういいよ。正直に言えばいいだろ。聡に心変わりしたって。じゃあな聡、澪のこと幸せにしてやれよ」
力なく言うと、律はふらふらとした足取りで自分の部屋に向かう。残ったのは、幸せな一家が写された一枚の紙だけだった。

その後の律との関係崩壊を澪は覚悟していた。だが予想に反して律は学校に来て、いつも通り明るく振舞っていた。澪に対しても。
放課後の部活動も何事もなく過ぎた。律と澪はHTTの面々に交際を明かしていない。反対や白眼視を恐れたわけではない。唯たちなら応援してくれていただろう。ただ、二人の交際がメンバーの誰かの口から漏れたら、注目は免れない。とりわけ澪はFCから質問攻めにあいかねない。それを恐れて、交際発表を先延ばしにするよう澪は律に頼んでいた。
明かさなくてよかった、と律と別れた今は思う。もし明かしていたら今頃は余計な混乱や気まずさを招いただろう。
ティータイムの最中にそんな事を考えていると、律が声をかけてきた。
「なー澪、うちの親旅行中でさ、帰ってくるのが明後日になるんだ」
「え、りっちゃんのお父さんとお母さん旅行してるんだ。私のとこと一緒だー」
唯が朗らかに口を挟む。
「今日も部活追えたら家に遊びに来ないか?弟と親友の交際を私も祝福したいしさ」
澪は耳を疑った。昨日あれだけ打ちひしがれていたのに、満面の笑みでそんな事を言う。何か裏があるのでは、とも思った。
「えっ、澪ちゃん、りっちゃんの弟君と付き合ってるの?」
「おう」
「へぇ、澪先輩やるじゃないですか。私も彼氏とか憧れますけど、女子高だから出会いが…」
「梓ちゃんは可愛いから、きっとすぐいい人が見つかるわよ」
無邪気に盛り上がるHTTメンバー。彼女たちに発表したのは結局、澪と律の交際ではなく澪と聡の交際だった。そして部員たちの反応は、やはり男女の交際が『普通』なのだと改めて思わせるものだった。
「なあ、ぜひ来てくれよ。二人の邪魔はしないからさ」
取り立てて断る理由はない。それに、皆の前だ。
「ああ。行くよ」



ドタキャンもできず、結局指定時間に澪は田井中家に来た。
「お、澪早速来てくれたのか。さあ上がって。聡ー、彼女が来たぞー」
「や、やあ澪ねえ」
聡が緊張しているのは、交際相手が訪問してくれたからか、それとも律と澪に挟まれるからなのか。
緊張しているのは澪も同じだった。勿論、後者の理由で。
「そんなに固くなるなよー慣れ親しんだ家じゃんか」
緊張を解きほぐそうと澪の肩を笑顔で叩く律。まるで、澪と付き合っていた過去なんてなかったかのように。
律は澪にジュースを入れてくれたが、手を付けるどころではなかった。三人向き合ったとき、重い空気が降りた。
「あ、あの律、ごめんな…」
「姉ちゃん、本当に…」
「もう謝るなって。私ももう、吹っ切れたし。今は純粋な気持ちで二人を応援したいんだよ」
はじめは無理しているのかと考えたが、そうでもなさそうだ。あるいは、律は実はそれほど澪を好きでなかったのかもしれない。女子高であるが故の、思春期における勘違いだったのかもしれない。
「ありがとう、律」
「いーってことよ。それよりお前ら、もうどこまで進んだ?」
「どこまでって、まだ手をつなぐくらいしかしてないよ?」
聡が赤面して答える。
「マジ?で、いつどこまで進む予定?」
「予定も何も、み、澪ねえの心の準備ができてから…」
「いやー聡って案外奥手だなー。姉から彼女を奪うくらいだからもっと大胆かと思ったけど。あ、違う。責めてるわけじゃないよ。ま、いざって時にはいろいろ知ってる私が背中押してやるからなっ」
そっち方面に行きそうな話に、恥ずかしがり屋の澪は誤魔化すようにジュースを飲んだ。
(律の奴…あれ、なんか視界が…)



気が付くと、澪は縛られて床に転がされていた。
「おっ、澪起きたのか」
普通の調子で声を掛けられ、澪は律のほうを見る。そして澪は自分の目を疑った。
律が聡を押し倒し、聡のペニスを口に含んでいたのだ。
「ね、姉ちゃんはなせよぉっ」
澪に見られたのが嫌なのか聡は抵抗する。その頬は涙でぬれており、元々聡が望んだことではないようだ。しかし律に抑えつけられていて敵わないらしい。
(なんで、なんで律はこんなことしてるんだ?姉弟なのに)
「嫌がっても体は正直だな。こんなに勃起しちゃって。準備万端だな。あとはこれを澪に入れるだけ」
耳を疑った。聡の勃起したものは、初めて見る物は予想以上に大きく、赤黒く、グロテスクで。
律が澪に近づく。抵抗できない澪のスカートに手を入れパンツに手を掛けようとする。
嫌だ、怖い、あれが…入る?
「いやあああああああああああああっ」
「おいおいなんだよ澪。聡と付き合ってるくせに嫌がるの?あはっ、澪は男のモノが怖いんだー。自分で、男と付き合うって望んだくせにね」
律は澪のパンツを脱がせた後、両脚を無理矢理開いた。
「うわああああああああああっ。見るな、見るなぁあああっ」
「でも怖がりは克服しなきゃな。ほら聡、澪のまんこ大公開だよ。興奮するだろ。ここに聡のモノを突き立てるんだよ」
聡は勃起しながらも必死で首を振る。よく見ると彼も縛られていた。
「姉ちゃん、許してっ」
「駄目駄目、言ったろ、背中押してやるって。どうせそのうちこうなる予定だったんだろ。時期が早まっただけじゃないか。澪は甘やかすといつまでも先延ばしにするからなー。その事はこの私が一番知ってるんだよ」
律は聡を無理やり起し、澪に近づけた。澪の性器に聡のそれをあてがう。
「聡、嫌だ、嫌だよぉっ…」
「澪ねえ…ごめん。俺、さっきのしゃぶられてるとこ、写真に撮られて…」
実の姉との近親相姦は充分に脅しの材料になりうる。
「何やってんだよっ。やれやれ、文字通り背中押してやんないと駄目か」
律が聡を後ろから押す。
澪は激痛を感じた。乾いたそこに、異物が無理矢理侵入していく。
「うあああああああああああっ!痛い、痛い痛いよぉおおおっ」
「あははは、澪ったら私の指ではあんなにイかされてたくせにね!」
聡が瞠目する。澪と律が肉体関係を持っていたことは知らなかったのだろう。
「姉ちゃん、もうやめて、許して…」
「ほらほらもっと動かしなよ。溜ってるんだろ、澪の中で思いっ切り出しちゃえよ」
今度こそ耳を疑う。中に出す?そんなことしたら、妊娠が。
「や、やめてぇ!律、中に出したら、あかちゃんがぁっ」
「それがどうした?それこそが澪の望みだろ」
律の目は、声は、冷たかった。
「男と交わって赤ちゃんを産む。これこそが澪の望む『普通』の幸せだ。私はその手助けをしてやってるのにな。あ、いいこと思いついた。あの写真の婦婦みたいに聡が子種を運んできて、私と澪が一緒にそれを育てるんだよ。そしたら全員幸せになれるじゃん!」
ハイテンションで話す律はもはや、正常ではなかった。狂っている。澪は今更悟った。これは律の復讐なのだと。
「うっ…!澪ねえごめん、もう…!」
その言葉と同時に澪の中に熱い液体がいっぱい放出された。
「あははもう出しちゃうのか。聡は早いなぁ。安心しろよ、妊娠したら責任は取らせるから」
(私が妊娠したら…パパとママは、唯は、ムギは、梓は、さわ子先生やクラスの人は何て言うのかな…これも律を裏切った私への罰なの…?)
漸く聡のペニスが引き抜かれる。痛みと絶望と後悔の中、澪は気が遠くなっていった。
「そうだ、あの一家は同じ男性の精子で両方が妊娠したんだったよな。聡、まだ残ってんだろ。私の中に出しなよ」
律の台詞から、本格的な近親相関に進むことがうかがえた。意識を失う直前に、澪は聡の悲鳴を聞いた。
 
Fin.