チャンスとばかりに和が畳み掛ける。
「あなたが慌てて、机に忘れて行ったピックを最後の力振り絞って握ったのね。いい加減認めなさい。憂と部室で会ってたんでしょ?」
ここで動揺を誘えないと私の負け。
長い沈黙の後梓が言う。
「・・・確かに会いました!話もしました!状況としては物凄く怪しまれるのはわかります。でもそれがなんですか?私が殺したっていう決定的な証拠なんてあるんですか?」
明らかにうろたえているがここで一旦引いてみる。
「そもそも・・・、なんで呼び出したの?」
「別にいいじゃなですか。部活の事とか、進路の事とか相談してただけです」
「その相談について、もっと詳しく聞かせてくれるかしら」
「いいですよ。私は9時30分に学校に着きました。そして憂も10時前には着きました。1時間くらい話をして、11時過ぎに「「帰ろう」」と言ったら、「「30分に会う人が居るから」」といって憂は残りました。唯先輩だったんじゃないですか?そして殺され・・・」
「わかった。唯、もしくは誰かを憂ちゃんは部室で待ってた・・・ってわけね」
「はい。会う人がいる、そういってました」
「また、・・・ボロが出たようね。中野さん?」
「どういう事ですか・・・・」
「自分に置き換えて考えて見なさい。机に座って人を待っていた。そして時間になりドアが開いたら、その人が来たと思うでしょ?」
「はい」
「そしたらどうする?」
「ドアのほうを・・・・・・あ」
「そう、普通ならドアが開いたら必ずドアに目を向ける。その人が入った時点で殺気立っていたなら、椅子に座ってのうのうとせずに逃げるよね?普通な振りをして近づいたとしても、後頭部を向けたまま、なんて事不自然すぎる。なんで憂は後頭部を殴られているんだろうね?」
「イヤホン・・・そうだ、iPodで音楽を聴いていて聞こえなかったから分からなかったんじゃ・・・」
「憂の持ち物からオーディオプレイヤーの類は見つかってないわ」
「そんな物、犯人が持ち去ってしまえば分からない・・・」
「いったい何のために?犯人がプレイヤーを持ち去るメリットなんて、何かあるなら教えて」
「・・・・・・。」
「憂が誰かを待っていたなんて真っ赤な嘘で、実際は11時30分まで二人は部室にいた。
そしてかばんから携帯を取るとか適当な事言って、こっそり後ろに回りこみ、憂の後頭部を殴った。
そしてそのまま音楽室を後にした。」
梓は開き直ったかのように笑い出し、こう言った。
「さすが生徒会長さん、こじつけでこんなに人を悪者の空気にしたてあげるなんてすばらしいですね。
私に犯行が可能だってことは良く良く分かりました。で、もちろんあるんですよね?し・ょ・う・こ!」
「・・・。」
「まさかここまで悪者呼ばわりしておいて、証拠も無いなんて言いませんよね?」
「証拠は・・・」
「それに、結局凶器って何ですか?凶器も分からないんじゃ犯人だなんて」
――ピンチの時こそ、ふてぶてしく笑え――
「証拠は・・・・・・・有るに決まってるじゃない。とーっても、決定的になる・・・かも知れない奴がね」
そう言って和は背中に背負ったギターを突きつける。
「なんですか?またはったりを使うなんてせいt・・・それ」
「さっき平沢家から持ってきたの。唯のギター、あなたが昨日家でメンテナンスして、昼に唯へ返したたギターよね?」
「はい・・・それが何か?」
「ってことは、これ絶好調のはず・・・ちょっとアンプに繋いで弾いてみてくれないかしら?」
和がケースを開け、ギターを取り出した。
「・・・・・・。」
「弾けるわけないよね、それ。誰にだって弾けない。ちゃんと音が鳴らないんだから」
「!!」
「ほら、素人目にもはっきりわかるくらいボロボロじゃない。メンテナンスして返したばかりのギターがなんでこんなことになってるの?」
「それは・・・それは・・・・・・」
どう反論してくるか身構えた和の、意表をつく言葉が梓から聞こえた。
「全部、・・・ばれてるんですか?」
泣いているのだろうか、俯き声が聞こえづらくなった気がする。
「うん。多分ね」
どうやら、すっかり戦意喪失したように見えた。
「動機は何なんですか?なんで私が憂を殺す必要が・・・」
「唯」
「・・・え?」
「唯じゃない?憂、ギター、部室、仲間。唯から全てを奪って、唯を自分だけのものにしようとしたんじゃない?予想、だけどね。朝早く来るように言ったのは、必ず最初に発見させるため。疑惑をかぶせ、何もかもを失わせるように」
「さすがですね。もういいです。」
少し強い口調で和の言葉を遮った。
両手を強く握り、肩が振るえ、足元に雫が落ちる。
「自分のしたことは、自分で責任取ります。唯先輩と代わって来ます。全て私のわがままです」
そう言って梓は振り返ることなく、街の方へ去っていった。
――嘘に嘘を重ねると、また嘘を重ねるしか無くなる。でも、嘘とはとてもバランスの悪い形ばかり。
世の中の一握りの悪知恵を持つ人間しか重ね通す事は出来ない
「全部・・・奪うか。全部は奪えなかったみたいだけどね・・・
唯、メリークリスマス」
空気の読めない時計が声を荒げる。
――やるじゃねえか!!!じゃあ早速一ヵ月後に戻るぞ!!行くぞ!!
「え、ちょおま」
「・・・・ゃん?・・・のど・・・ちゃん?のどかちゃーん?」
気がつくと、唯の顔が目の前に会った。
安堵のため息と共に唯が喋る。
「よかったー、のどかちゃん死んじゃったかと思うくらい寝てるんだもん」
どうやら部室のソファで寝てしまっていたようだ。
- おそらく唯と二人で帰るはずの無い仲間を待っている時、窓の外の雪を眺めていたら
うとうとしていたのだろう。
何か、とてもリアルな夢を見ていた気がする。
少し頭がフラフラする。もう少し横になっていようと思った時、机のほうから
懐かしいような聞きなれたような声が聞こえた。
「ほんと、のどかがこんな所で寝るなんて、唯みたいだな」
「律、しょっちゅうそこで昼寝するお前が言うな!」
「いて!!やめろ澪!!誤解だ」
「目が覚めるように、お茶にしましょうか」
そこには4人がいた。
「わーいむぎちゃんのお茶だ☆、のどかちゃん、早く行こ!」
唯が笑って呼びかける。
私は、唯の笑顔が大好きだ。
唯の笑顔は、不可能をも可能にする。
ずっと幼馴染で小さいころから唯に救われてきた。
今回は、恩返しといった所だろうか。
奇抜な形の腕時計は、11時20分で止まったままだ。
「今行くよ、唯!」
-end-
72:1:2010/12/25(土) 05:39:46.25 ID:WgEyKHJE0
いやはや・・・
クリスマス一人でさびしいから夜明けまでに一筆握るぞ作戦 in 俺
無事成功です
こんな稚拙な文章に最後まで付き合ってくれた方がいると非常にうれしいです
78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/25(土) 05:47:15.64 ID:TcB18gla0
結局他の部員は唯とは切れてて部室に来なかったってだけか
80:1:2010/12/25(土) 05:51:53.18 ID:WgEyKHJE0
>>78
いえす
色んな要素詰め込める実力も時間もないっす
最終更新:2013年05月15日 21:39