古くからの幼馴染の家を目指し、全力疾走した。


「唯、流石の私も怒るよ?炊飯器の使い方教えて欲しいならそう書いて!あんな文何かあったんじゃないか心配になるじゃない!!」

「ごめんのどかちゃんー。でも助かったよー、今日憂が友達の家に泊まってて、ご飯どうしようか悩んでたんだ」

「まったく・・・まあこんぐらいならいつでも作ってあげるけどさ・・・」

「そうだ、ご飯食べて行きなよ。で、ついでにうちに泊まっちゃうとかさ」

親にも言ってないし、何の準備もしてきてないし、ないないづくしだったが
目を輝かせる唯を悲しませるわけにはいかないしなと、和はしぶしぶではあったが承諾した。

家事を全て和がこなし、二人がパジャマに着替え部屋に落ち着いたのは日付が変わる30分程前だった。

「ほんとありがとね、のどかちゃん」

「いいよ。覚悟してたし笑」

好きなお笑い芸人の話題で一人盛り上がる唯を、物思い気に眺めてふと悲しくなった。

「のどかちゃん?かばんについてるのそれ何?」

「え?・・・ああ!!」

かばんについていたのは、「ワックス塗りたて 入るな~9時45分 12月25日 ドスキン」
の注意書きだった。
しかも厄介なことに、まったく剥がれそうに無い。

「もうやだ・・・このかばん気に入ってたのに・・・山中先生」

「おしゃれでいいんじゃないww」


和やかな空気を壊すかのように、時計が話しかけてくる。

――どうする気なんだ?あと12時間。

「・・・わかんない。あの子が、犯人なのかな?」

――さあなあ、そうだとしたらどうする?

「そう上手く追い詰められるかどうか・・・学校で何やってたかも知らないし」

――あきらめるのか?

「そういうわけじゃ・・・ないけど」

唯を見ていると泣き出してしまいそうなので、視線を横にそらす。
すると、視界にギターが入った。

「唯、変わったよね。強くなった。これも、軽音部、ギターのおかげだね」

「えー、ありがとう。どうしたの急に?」

「ちょっとね。・・・そういや唯?家では練習しないの?」

「するよー、今日は憂がいなくて色々大変だったからしてないけど。・・・・そうだ今から弾こう!!!」

「ちょ、おま!」

和の静止を聞かずに、ギターケースのチャックに手をかける。
意気揚々とギターを取り出す唯の顔が急に曇るのが見えた。

「ゆ・・・い?」

「・・・なにこれ・・・なにこれ・・・なんで?なんで?なんで!?」

「どうしたの唯!?」

「ギー太が・・・ボロボロだー・・・」

確かに素人目にもわかる異常だった。
泣き崩れる唯がかすかに呟いた。

「なんで・・・あずにゃんがメンテしてくれたばっかりなのに・・・」

「唯、今なんて!?」

「あずにゃんが今日メンテして持ってきてくれて、ずっとここに置いてたの。なのに・・・」

――これって・・・。もしかして。

「うん。多分・・・そういうことだと思う。」


唯は確かに憂が死んだ後、ギターを修理に出した。
疑惑が晴れてギターを見たらボロボロだったから、誰かいじめている連中が
いたずらをしたんだろうとしか思っていなかった。

しかし、これは明らかにおかしい。


「唯、それって12時くらい?」

「うん・・・そうだけど」

「唯、渡す時に何か言われた?」

「うん。せっかくメンテしたんだから、明日朝早く来て練習して下さいね。だから今日は楽器は弾かずに早く寝ること!って」

まだ泣き止まぬ唯の頭をなでながら、
和は覚悟を決めた。

「あずにゃんに電話してみる!!」

「唯、もう時間が時間だからやめなさい。明日また聞いてみたほうがいいよ」

「うぅ・・・」

――もう決まりだろ。

「そんな気がするけど、上手く行くかどうか。」

――じゃあどうすんだ、もう何も出来ないだろ!


「・・・。上手くいけば落とせるはず」

――上手くいけばってお前、上手くいかなかったらどうすんだよ!?

「その時はその時よ。だって、それが本来でしょ?悔しいけど、無意味になっちゃうけど、仕方ないじゃない」

時計の返事は聞こえなかった。


そして、唯も和も眠った。
目覚めることが出来ると信じて、眠った。




2010年12月26日 午前10時45分
唯は今頃事情聴取中だ。


桜高の校門の前に、和と黒髪ツインテールの150cmの少女が向かい合っていた

「生徒会長さんが、私に何かようですか?」

先に口を開いたのはツインテールだった。
この女の子は、中野梓。桜高軽音部の2年生、通称あずにゃんだ。

「元・・・だけどね。ちょっとお話があってきてもらったの。憂の事でね」

「なんでしょう。できれば憂の事はしばらく掘り返さないで欲しいんですが」

露骨に嫌な顔をする梓を横目に和が続ける。

「どうも、そういうわけには行かないようだけど」

「・・・何が言いたいんですか?」

「中野梓さん、あなた昨日の午前中一体何をしていたの?」

「私を疑うんですか?昨日の午前中は家にいました。とても寒かったですしわざわざ出歩きません。」

「あら、だったらこれは何。優しい用務員のおじさんに記録を見せてもらったわ。綺麗な字ね、12月25日9時30分・来校者中野梓」

「それがどうかしたんですか?」

「何・・・?」

一瞬ひるんだかに見えた梓だったが、こう続けた。

「そう、私はただノートを一冊忘れたので取りに来ただけですよ?部室になんていって無いから関係ないと思って」

「つまりあなたは教室にいった、ってことよね?」

「ええ。それがどうかしたんですか?」

和がしばらく考え込んだ後、口を開く。

「・・・一緒に教室の前まで行ってみましょうか。そしたら話が早いわ」


二人は2年1組の教室の前にやってきた。

「あなたが学校に来てからまっすぐ教室に向かい、自分の机へ行きノートを取りそのまま帰った。間違い無いかしら?」

「はい、そうですけど?」

「残念ながら、それはありえないのよ。」

「なぜですか?はったりはよしてください」

「それはどちらの事かしらね。・・・教室の中、気づかない?」

そういって梓はゆっくりと室内を覗き込んだ。


「これは・・・・・・ワックス?」

「そう。昨日は午前中にドスキンとかいう業者が来てワックスがけがあったみたい。なのにどうやって入ったの?」

「ふん・・・私が教室にノート取りに来た時にワックスがけをしていたかなんてわかるんですか?」

「残念でした。それが分かっちゃうの。これ、読んで」

そう言って和は無様な姿になった自分の鞄をつきつけた。

「ワックス塗りたて。入るな・・・~9時45・・・分。」

「ようするに入れなかったはず、ってこと」

「そうだ、45分まで入れなかったから、15分間じっと待ってから注意書きを剥がして入ったんです!別に何も問題無いですよね?」

「・・・その注意書き外して回ったのは、2日酔いで寝坊してやってきた山中先生なの。

12時過ぎだって言ってたわ・・・。注意書きを剥がして入り、出た後にまた丁寧に張りなおして帰ったとでも主張するつもりかしら?」

「・・・」

「そろそろ本当の事を聞かせて欲しいのだけど・・・」

「ええ、確かに部室に行きました。部活は休みだけど、一人で練習しようと思って。でもすぐ気が変わって10時前には楽器を片付けて帰りました。憂とは会ってません」

さっきとは全く違う証言を平気で口走った。
こんなもの必ず嘘だ。憂と会ったはず・・・崩さなければ、負ける。


「そう・・・それが真実なのね。」

「はい、だから私は全く関係ありません」


――おいおい、どうすんだよ。話終わっちまうじゃねえか!

「「うん、だから賭けに出るわ。もしはったりが通用しなければ、負ける」」

――みてらんねーよ・・・


「憂とは会ってません・・・か。この子は違うって言ってるみたいだけど?」

そう言って震える手をこらえ、ポケットからピックを取り出した。

「このピックに見覚えはない?」

「あるような気もしますが沢山あるのでわかりません」

「憂の右手の中にあったわ」

「唯先輩のじゃないですか?そんな物関係ないですよ」


一瞬目を強く瞑り、唾を飲み込みふてぶてしい笑みを浮かべこう言い放った。

「警察によると、・・・あなたの指紋がついてたみたいだけど?」

もちろんこんな事、警察が来る前に和が保管しずっと持っていたのだから全くのでたらめだ。

「たまに借りることもありますから、その時ついたんじゃないですか?」

「・・・残念だったわね。練習が終わったら唯は必ずピックまでしっかり拭いて片付けるの。唯のピックなら誰の指紋もついてないはずよ。つまり、あなたの物なはず。」

――そんな上手くいくわk


梓は唇を震わせたまま、言葉を失っていた。



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