和が意識を取り戻すと、自分の机で突っ伏していた。

「なんて変な夢なの・・・」

そう呟いて立ち上がり、部屋を出ようとする。
しかし、目の前の現実を突きつけられた和は、ドアノブに手をかけた状態で足が止まった。

「・・・え?じゅうに・・・」

カレンダーが、12月になっている。
あわてて携帯電話を開いたが、やはり2010年12月25日午前11時20分になっている。
少しめまいがしてき
た和に追い打ちをかけるかのように声が聞こえた。

――気づいたか!俺や!時計や。
   一ヶ月前に戻したで。

どうやらもう何を言っても無駄のようね、和はと小さく息を飲んだ。

――聞き分けのいい子で助かるわ。
   ほんなら改めて事件の説明するからよう聞いてな。
   事件は12月25日、ようするに今日や。クリスマスの部室で起こった。
   死因は鈍器のようなもので後頭部を、ボコボコに。
   いやいや・・・可哀そうに。
   部室の、いつもなら澪の席で、のたれ死んでいたわけや。
   凶器すらわからずこれといった証拠は出てこずに、疑惑の目は第一発見者の唯に向けられた。
   まあ当然不起訴になったんだが。
   これといって進展せずにいるわけやな。
   で、死亡時刻は・・・あと5分後。11時30分

「え!?だったら早くい」

――それは出来ん。人の生死を左右する事したら、時空の歪みが発生して、
   あんたは帰れんようになる。

「・・・なんて作者に都合のいい・・。もう細かい事に突っ込む気にはならないわね」

そう言って頭を抱えた。そんな和にはやはりお構いなしに時計は話続ける。

――他にも注意点言うで!まず、この世界の真鍋和はお前しかおらんから安心しろ。普通に振舞えば大丈夫や。で、悪いけどこっちにおれるんは24時間が限界や!だから24時間でなんか手がかり見つけて、なんとかしてくれ!

時計が喋り終わるのを確認する。

「はぁ。」

小さくため息をつき、ハンガーからコートを取り玄関へ向かった。

とりあえず部室へ行ってみるべきだな、と和と時計はいつもの登校ルートを進んでいく。

「生徒会引退したのに、冬休みに学校行くなんて思わなかったわ」

もしかしたら、犯人がまだ部室にいたりするのだろうか。
あるいは校外、道端で会ったりするかも知れないな。
などあらぬ不安を感じながら、歩いていく。
向かい側の道路を歩く、黒髪ツインテのギターと共に帰路に着く少女には気づかずに。



「すいませーん」

用務員室の前で和が叫び続けていた。
もう何度呼んでも一向に出てくる気配が無い。

――寝とんちゃうか?あのおっさん

「かもね」

そう言った瞬間、いかにも寝起きですと言った表情の用務員のおじさんが現れた。

「なんやのー・・・冬休みやのに学校来るなよみんな・・・気持ちいい眠りを邪魔しないでくれ・・・」

「学校入りたいんですけど」

「あーだる。はいはい、これに名前書いて勝手に入って」

そういって用務員は気だるそうに記録用紙とボールペンを手渡した。

「書けたら適当においていてー。寝るし」



「あの用務員、なぜクビにならないのかしら」

怒りを抑え、名前を書く。
ふと前のページを見てみると、結構な人数が既に学校を訪れているようだ。
何の気無しに眺めていると、ふと見覚えのある名前が目に入った。

「・・・中野、梓?」

今日の部活は部長命令で休みのはずだ。
和の頭に嫌な予感が走った。

「まさか、そんなはず」

――そんなはずない、人生では通用せん言葉やで

和の不安を煽るように、時計が冷たく言い放った。

「このページ、貰っていこう」

中野梓の名前が入ったページを破り、鞄にしまった。


――とりあえず部室いこか。

   憂が星になっとるはずや
和は何も言わず階段を早足で駆け上った。
今から目にすることになる現実を思うと、胸が苦しくなり引き返したくなる。
しかし、そんなことでは何の意味も無いと自分を奮い立たせ
部室の扉を開けた。
何も変わらない部室。


たった一つを除いて。



「憂・・・」



和は返事が返ってくるはずの無い相手に呼びかける。
出血などが無いことが、唯一の救いだろう、見た目はそれほどひどくは無い。
ただ、もうこの世の人間ではないのだが。

――とりあえず、くまなく調べてなんか情報を掴むんや

「でも、あんまりここに居て誰かに見られたら・・・」

――大丈夫、大きな音を立てたり、誰かを呼び出しでもせん限り、次に人が来るんは
   明日の朝の唯や。だから心配ない

謎の安堵感を得た和は、まず遺体に注目した。
椅子に座ったまま、机に突っ伏すように死んでいる。
顔、くび、手、足どこにも外傷は無い。やはり後頭部のみのようだ。

「遺体は別に・・・ん?右手が・・・」

どうやら右手が何かを握り締めるような形になっている。
そっと憂の右手を解き、手の中の物を確認する。

「これは・・・ピック?」

――なんでこんなもんもっとんやろな?

「いった誰の物だろ、憂のじゃないだろうし。唯のかな?」

意味があるのかすらわからないが、持って置おくことにした。

「遺体は別に、もう変わったところは無いみたいね」

――そうか?なーんか、ひっかかるんやな。なんかはわからんけど、違和感がする。
   遺体全体的に。気のせいかもやけどな

頼りないなお前、と言いかけてこらえた和の胸にも、やはり微かに違和感があった。


その後、何時間も部室中をくまなく漁ったが、見つかるのは唯と律がちらかした遺産ばかりで
手がかりは何も見つからなかった。

結局凶器が何かも掴めなかった。

「これ以上ここに留まっても仕方ない、かな。教室にでも行ってみよう、何も無いがするけど」

ならいくなよとつぶやく時計を小突き、3年2組の教室へ向かった。
誰も居ないと思っていたが、聞きなれたうめき声がする。
引き返したくなったが、

「誰ー?」

と気づかれてしまったので入ることにした。

真鍋です、そう言って教室に入ると、山中先生と目が合った。

「あら、どうしたの?冬休みなのに」

「生徒会の関係です。そのついでに用は無いんですが来てみました」

「へー。大変ねえ。」

「先生は何をされてたんですか?」

「ほら、今日ワックスがけがあったのよ。ドスキンが来て、全部の教室を順番にやったの。
で、もう乾いたから注意書きを剥がして回ってたとこ。1から3年全部だからもうくたくたよー・・・」

得意げに指を突き立てる先生を尻目に、和が訪ねる。

「先生・・・~9時45分ってなってますけど」

「ごめんw二日酔いで寝坊しちゃって、昼前に出勤したの。てへぺろ(・ω<)☆」

「帰ります・・・」

ピカピカになった床にご満悦の山中先生を残し、教室を後にした。




――で、公園のベンチに座ってて何かわかるのか?

「じゃあどうしたらいいか教えてよ!」

半ばイライラした和に、時計も言葉を失った。


元々、こんな事できるはず無かったんだ。そう言ってしまえばその通りである。
どうすればいいか分からず、寒空の下ベンチでうなだれるしか和には出来なかった。
そんな時、携帯からふわふわ時間‐instrumental‐が聞こえた。

「誰だろ・・・」

携帯を開き、受信フォルダを開く。

唯だ。


「「12月25日 18時46分
from yui
to megane.musou777@docomo.ne.jp
sub yばい


のどかちゃーん・・・助けてー・・・
      ‐end‐」」




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