平沢家を出ると律がいた。
私のことを待ってたらしい。


律「よう」

澪「……よう」

律「驚いちまったよ」

澪「何にだ」

律「お前が唯を殺したこと」

澪「信じるのか?」

律「嘘なのか?」

澪「……信じるのか」

律「和が話した唯と憂ちゃんのこと、
  それにその事実を合わせると、最近の妙なことが全部つじつまが合う。
  和と澪が急に学校休んだり、唯と憂ちゃんが交互に登校したり」

澪「怒るか?私のこと」

律「怒るというか失望したよ」

澪「ごめん……」

律「謝るなら唯に謝れ」

澪「このごめんは、軽音部を壊しちゃったことへのゴメンだ」

律「ああ、そう」

澪「どうでもよさげだな」

律「うん」

澪「もう元に戻れないんだぞ」

律「かもな」

澪「唯と憂ちゃんの秘密だって」

律「そこは別にどうでもいい。
  体がどうあれ唯は唯だし憂ちゃんは憂ちゃんだ」

澪「……」

律「それに澪、おまえもな」

澪「え?」

律「もう元の軽音部に戻れない、って言ったな」

澪「ああ……それが?」



律「互いの記憶さえ消せば、戻れるじゃないか」

澪「え」



律「悪かったな、今まで黙ってて」

澪「え」

律「秋山島はイイトコだぞ、夏は涼しくてな」

澪「え」

律「果物も美味しいんだ」

澪「え」

律「小さいころ友達ができなくてな。
  見かねた両親が、大学時代の友人からあの島のことを教えてもらって
  そしてお前という友だちを作ることができたわけなんだが」

澪「え」

律「親の大学時代の友達って、和のご両親だったんだな~」

澪「え」

律「さて、そろそろお前の体も取り替えの時期なわけ」

澪「え」

律「安心しろ、殺人の記憶は消してやる。
  きっと和も、同じコトしてるはずだしな」

澪「え…………?」




視界がブラックアウトした。
またあの夢が広がる。

幼いころの和。
幼稚園に溶け込めず、
一人ぼっちで本を読んでいる。

 友達と遊ばないの?
 友達なんかいないもん。

 どうしましょう、あなた、和ったら……
 そうだな……こうなったらあれを使うか

 大学時代に旅行中船が難破してな
 流れ着いた先がその島だったんだ

 人格入力装置
 記憶移植装置
 これで和の友達を作ってやれるぞ

 こんにちは、のどかちゃん
 いっしょにあそぼっ
 ゆいちゃん、ういちゃん、だいすきっ!

そうか、唯と憂ちゃんはこうやって生まれたんだなあ。
そして私も同じように、ってか。
私は作られたモノだったんだ。
馬鹿みたいだな。
入れ物の体同士で傷つけあってサ。



ああ、もう、ほんとうに、
私はどうしようもないバカヤロウだな。
一連の騒動で、私は何をした?
まず唯を殺しただろ。
この次点でもう相当救えないオバカさんじゃないか。
そのあとは和と一緒に平沢島に行ったろ。
そこでも和の足を引っ張ってばっかりだったよ。
なんの役にも立ってない。
何しに行ったんだって話だ。
結局何か行動したかっただけなんだよな。
あのままじっとしてたら罪悪感で潰されそうだったからさ。
行動をすることによって罪を償ってる、
って実感が欲しかっただけなんだ。馬鹿らし。
和にまでクズ呼ばわりされたしな。
でも。
でも律は、
元の軽音部に戻そうとしてくれてる。
唯からも、私からも、殺人の記憶を消しちゃって、
また今までの日常を過ごさせてくれる。
全部私が悪いのに。
友達にこんなに手を焼かせて。
私ってほんと馬鹿。
もう一度目が覚めたら、
唯を殺した記憶は消えるんだろうけど。
罪が消えるわけじゃない。
なあ、目覚めた後の私。
それだけは覚えとけよ。
そろそろ目覚めの時間だ。
まぶたの外が明るい。
新しい私が、目覚めるんだ。





――

――――

――――――


チャイムが鳴った。
これにて今日の授業はおしまい。
さっきまで眠かったのに
このチャイムの音を聞いた瞬間に
眠気が吹き飛ぶのはどういう理屈なんだろうね。

終令が終わって、
クラスのみんなが思い思いに立ち上がる。
さっさと帰っちゃう人、
自習室に行く人、
部活に行く人、さまざまだ。
そんな中で、私は――


唯「りっちゃーん、早く部活いこー!」

律「そんな急かすなよ、すぐ行くから」

紬「ふふ、唯ちゃんは元気ね」

唯「えへへ、部活だけが楽しみですから」

澪「あ、平沢さん」

唯「ん?なーに、秋山さん」

澪「昨日借りたCD、返すね、ありがとう」

唯「どういたしましてー。
  すごくよかったでしょ?」

澪「うん、良かった。私も軽音部入りたくなったよ」

唯「入っちゃいなよー、楽しいよ~!」

律「あっはは、秋山さん恥ずかしがりなんだから無理だろ~!
  な、ムギ!」

紬「ええ、それにベースは他の子がいるからね」

唯「え、なんでベース?」

紬「えあっ、ああ気にしないで、あはは……」

律「早く部室行くぞ、梓も待ってるだろうし」

唯「あ、待ってぇ~」


いいな、ああいうのは羨ましい。
私もあんな友達が欲しくなる、けど
友達って作ろうと思って作れるもんでもないよね。
どうやったら作れるんだろうね、友達って……


       お              わ             り





176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/27(月) 01:52:27.40 ID:CtGLTbr00

おしまいです
SS書いてる場合じゃなかった

最終更新:2013年05月01日 20:23