今日はちょうど日曜だった。
学校はない。
憂ちゃんも家にいるはず。
私たちは平沢家へと向かう。


澪「タクシーで直接唯の家まで行けばよかったのにっ!」

和「あそこ一方通行で遠回りになるから走ったほうが早いのよ!」


胸騒ぎが収まらない。
走っているからじゃない。
悪い予感が、私の背中を叩いている。
恐るべき結末が、てぐすねひいてるのが見える。
やめてくれ。
それだけは。
そんな結末だけはやめてくれ。

きっと和も同じ気持ちで走っているに違いない。
顔が青い。
和にも見えているんだ。
私と同じものが。

平沢家に到着した。
2人ともゼエゼエと肩で息をしている。
対して唯は平気そうな顔。
すごいなーと感心してる場合じゃない。
私は和に先んじて平沢家の玄関のドアを開けた。


靴が、5人分並んでいた。



見覚えのある靴だった。
唯と。憂ちゃんと。
そして、律と、ムギと、梓のだった。
家に、いるのか。
なんでいるんだ。
ああ、今日帰るって、
憂ちゃんにメール打ったのに。
こんな日に人を呼ぶなんて。

玄関のドアが開いた音を聞きつけて、
2階から梓が駆け下りてきた。


梓「澪先輩、和先輩まで!
  今までどこに行ってたんですか!!」

澪「の、和と一緒に、ちょっとな」


まだ息が整わなかった。
梓は必死の形相で食らいついてくる。


梓「唯先輩も! 一体何してたんですか、
  憂に自分のフリをさせて!」

和「ところで、ここで何してるの梓ちゃん。
  今から忙しくなるから出てってくれないかしら」

梓「それどこじゃないです、憂が…………!!」


ああ、やはりか。
最後に嗤ったのは神じゃなく悪魔だったか。


憂「あびゃば……あは……あびび……」


絶望した気持ちで二階に上がると
予想したとおり廃人と化した憂ちゃんがいた。
焦点の合わない目でヨダレを垂らしながら
言葉にならない言葉をつぶやいている。
手足が時々痙攣する。
壊れたおもちゃのようだった。

そんな憂ちゃんを律とムギが
泣きそうな顔で見つめていた。


澪「こういうことか……」

和「……ええ、定期的に体を入れ替えないと
  壊れてしまうのよ」

澪「……」

梓「ど、どういうことなんですか?
  憂がこうなっちゃった理由、何か知ってるんですか?
  なんで、こんな……唯先輩は……」


唯はまだ虚ろな表情をたたえたまま。
おそらく記憶を入れるまではずっとこうなんだろう。


梓「おかしいです、どうなってるんですか……
  説明してください……訳わかんないです……」


説明?
私が唯を殺したとこから説明するのか。
バカ言え。
そんなことしたら、
本当に私は軽音部に居場所を無くしてしまう。

目に涙を貯めて睨みつけてくる梓を
和はホコリを吹き飛ばすように軽くあしらった。


和「説明するつもりはないわ。
  憂の体のストックはある。
  明日にはもとに戻ってるから安心して」

梓「なっ……?」

紬「和ちゃん……」

律「……」

和「早く出ていってちょうだい……
  いつまでも憂のこんな姿、見たくないでしょう」

梓「う……」

紬「わかったわ、今日は帰る……
  でも。ちゃんと全部説明してくれるのよね?」

和「ええ、澪が唯を殺してしまったところからね」

澪「おっ、おい……!!」

律「み、澪が……唯を……!?」

紬「な……」

和「澪が唯を殺してしまったから、
  私たちは唯の新しい体を調達しに行ったの。それがこれね」

梓「……」

和「で、憂に事後処理を任せてたんだけど
  体が持たなくなるのが近かったのよね……
  なるべく早く帰ってきたかったんだけど……」


沈黙が降りる。
憂ちゃんが時折放つ奇声だけが部屋に響く。


紬「信じられない、そんなの……」

律「澪、本当か……?」

澪「……」

和「事実よ。
  信じる信じないは勝手だけど」

梓「そんなこと……」

和「さ、早く出ていって。
  憂と唯は、私がちゃんともとに戻しておくから」




律、ムギ、梓は素直に出て行った。
ここにいてもどうしようもないと判断したのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい、
問題は和だ。


澪「おい……何で言ったんだよ」

和「罰よ」

澪「罰って……!
  唯の死が公になったら色々まずいだろ!」

和「あの子たちなら公にはしないでしょう。
  仲間内だけの秘密にしといてくれるはずよ。
  もっとも、あなたが仲間に戻れるかどうかは分からないけど。
  あと自分の保身をはかる際に
  もっともらしい正論で理由付けするのはやめなさいね」

澪「っ……お前……!」

和「私も殺す?
  今度は殺人をごまかすすべはないわよ」

澪「……っ」

和「そう、それでいいのよ。
  あなたも早く帰りなさい、ご両親心配してるでしょ」

澪「言うぞ……平沢島のことも」


さすがの和も動揺したらしい。
クローゼットから記憶移植のためと思われる機械を取り出し
配線を繋いでいた手を止めて、こちらを見た。


澪「ふふ、公表すればどうなるかな……
  世界中の学者が殺到するぞ……
  そうなったらもう新しい体を取りに行けないな」

和「……」

澪「定期的に取り替えなきゃいけないんだろ?
  もうそれができなくなったら
  唯も憂ちゃんも廃人になったまま永遠に」


和の顔に焦りの色がにじむ。
後悔してるな、私の殺人をバラしたこと。
良い気味だ。


澪「まあ、黙っててあげないこともないけどな。
  そのへんの話は後からしようか。
  今はとりあえず唯と憂ちゃんを復活させてやれよ」

和「……ほんっとうに、どうしようもないクズね」


そんな捨て台詞を吐くのが精一杯か。
でも許せ、私だって自分の身が可愛い。
それに秘密を持ってるのはお互い様じゃないか。

私は家に帰ることにした。


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