は?
体は入れ物だって?
何を言っているんだ。
魂を降ろせばまた動き出すってか?


 ――――似たようなものですけど、この体じゃもう無理です

 ――な、何言って……

 ――――和さんを呼んできてください

 ――し、死体は……

 ――――物置に隠しときましょう

 ――鍵ないから開けられたらバレるぞ

 ――――私が内側から押さえときます

 ――そ、そうか、じゃ、じゃあたのんだ……

 ――――ええ、私もお姉ちゃんが死んだのが公になるのは面倒ですし


私は言われたとおり和の所に行った。
事情を話すと和は一発私の頬を殴った。
当然の制裁だろう。友達を殺したんだから。
でも和は特に取り乱しはしなかった。
憂ちゃんもそうだった。
本当に違う体があればまた唯は復活するのか。
その時の私はそんな馬鹿げたこと信じられなかった。


平沢島。
南アメリカの海の果てにある絶海の孤島。
人類未踏の地。謎多きジャングル。
そこに唯と同じ顔をした人々が住んでいて、
今まで私達と一緒にいた唯と憂ちゃんも
そこから連れてこられた……和はそう説明した。


 ――――私は今すぐそこに行って唯の代わりをつれてくる

 ――唯の代わり、って……

 ――――1週間ほどかかるけど、その間に唯が死んだことがバレたら

 ――――大丈夫です、私が何とかしときます

 ――――そう、じゃあ頼んだわよ、憂

 ――あ、あの、私も連れてってくれないか!

 ――――……ええ、いいわよ

 ――すまない、憂ちゃん。まだよく分からないけど唯の代わりは必ず連れて帰るから

 ――――お願いします


お願いします、か。
結局これは私がしてしまったことの尻拭いであり
ただの罪滅ぼしでしかない。お願いされるようなことじゃないんだ。
ともかく私はそのまま荷物をまとめて和と一緒に
その日のうちに日本を発ったのだった。パスポート取っといて良かった。



こうして私は平沢島に来て
信じられないものをいっぱい見てしまった。
唯と同じ顔の裸族……
これが本当に唯の代わりになるのか……
いや、体は唯そっくりだけど中身は?
日本語しゃべれないし、記憶だって……
一体どうするつもりなんだろう……

そして、
復活した唯は、
私が唯を殺したこと、
覚えているのだろうか?

なあ、唯。
私が馬鹿だったせいで
謝っても謝りきれないことしてしまったな。
本当にごめん、ごめん、ごめん。
ごめん…………


 ――えへへへ

唯……?
どうして、笑って……


 ――――私には、友達がいないの

 ――これからはずっと、いっしょだよ。ずっとだよ


違う、これは昨日も見たあの夢だ。
私の記憶にないはずの、知らない映像だ。


なんだ、これは。
いつの、どこの映像なんだ?
なぜ私の夢に現れる?
唯と話しているのは誰だ?
この唯は……何歳だ?


 ――――これからは、この子が和のお友達よ

 ――ゆいです、よろしくね

 ――いもうとの、ういです

 ――――お友達? 私の、お友達……?

 ――あそぼっ、のどかちゃん!

 ――おままごとする?それとも、おにんぎょうであそぶ?

 ――――おそとにあそびにいこっ

 ――あー、まってー、のどかちゃーん

 ――――ふふ、あの子ったらあんなにはしゃいで……

 ――――あの島がこんな形で役に立つなんてな……


和か? 和なのか?
小さいころの、平沢姉妹と遊ぶ、和……
和の両親は、何を言ってるんだ……
唯たちは……和は……




和「着いたわ」

澪「うっ……」


窓から朝日が差し込む。
ボートはもう止まっていた。
アイナマ共和国に到着したらしい。
眠い目をこすり、ぼうっとした頭を働かせる。
さっき見た夢は、なんだったんだろ……
和に聞いてもいいのかな、
と思って和のほうを見ると
和の目には大きなクマが出来ていた。
本当に夜通し運転してたんだな……
そんな和に意味不明な夢の話を振って
また怒られても嫌なので黙っておくことにした。

船を降りて、港の店で軽く朝食を済ませる。
唯はスプーンもフォークも使えなかったので
パンだけを機械的に食べていた。
あ、ちなみに今は裸じゃないです。

朝食を食べた後は車と運転手を雇って
陸路で東チカ国へと二日かけて向かう。
そこから飛行機で日本に帰る、というわけだ。

東チカ国へ向かう途中も
日本への飛行機の中でも
あの変な夢を見た。
でも和には黙っておいた。

そうこうして日本に帰ってきた。
飛行機から降りて休む間もなく
急いでタクシーを止めて3人転がるようにして乗り込む。
ずっと思っていたのだが
和はなんだかやたらと慌てている感じだ。
確かに憂ちゃんに唯の死をごまかしつづけてもらうのが
長くなるとボロが出てしまうだろうが……
いやでも、それを恐れているわけじゃなさそうだ。
なんかもっと別の……


澪「なあ、どうしたんだ、和?」

和「え、何?」

澪「いや……なんか落ち着かない感じだし」

和「なんでもないわよ。
  というかなんであんたはそんなに落ち着いてんの、殺人鬼のくせに」


タクシーの運ちゃんがブッと吹き出したのが聞こえた。
そりゃ女子高生の会話で殺人鬼なんて言葉が出てきたら
誰だってそれなりに驚くだろうな。
それを本気に受け取るかは別として。

和は小声で続ける。


和「唯の死はごまかせるけど、澪がやったことはずっと残るから」


私には返す言葉もなく。


澪「唯が生き返ったら、唯に謝るよ。
  謝っても、謝りきれないけど……」

和「まあ、唯なら、許してくれるでしょうね」


唯なら許してくれる。
でもそれでホントに私のやったことが許されるわけじゃない。
一生かけて、償っていかないといけない。
私は友達を殺してしまったのだから。

そうは思いつつも
心のどこかで安心している自分がいた。
殺しちゃったときはどうしようかと思ったけど
でももうこれで大丈夫、すべてごまかせる。
私は誰からも咎められることはない。
このこと知ってるのは、憂ちゃんと和だけ。
この二人が私の殺人を誰かに話そうとしたら、
私も言ってやればいいのだ。平沢島のことを。
おそらくあの島のことは
和たちにとって最大の秘密なんだろうから。

でもそんな考えをしてしまう自分が嫌だった。
そんなことだから唯を殺してしまったんだ。
生まれ変わらないと。
もう誰も傷つけない、傷つかない私に。


運転手「付きましたよー」


タクシーが止まる。和は万札を運転手に押し付けて
お釣りももらわないまま飛び降りた。慌て過ぎだろう。




見慣れた街。
一週間ぶりの帰還だ。
非日常が続きすぎたせいで
なんだかひどく懐かしく見える。
しかしそんな感慨にふけっているわけにもいかない。
早く唯をどうにかしないと。

和は唯の手を引いて走り始める。
ジャングル探検の荷物を詰めたリュックは
東チカ国の空港で捨ててきた。
今持ってるのは小さい旅行カバンだけだったが
和はそれさえも放り出して走っていった。
私はその後を必死で追いかける。


澪「おい、和!」

和「何!」

澪「ちょっと、待て、落ち着け!
  何そんな急いでんだ!」

和「急ぐに決まってるわよ!」

澪「というか、ちょっと」

和「何よ!」

澪「その唯を、どうやって、もとの唯に仕立て上げるんだ!?」

和「記憶を植えつけるのよ!」



全力疾走で会話する私たち。
唯は息を乱さずに和の後を追っている。
さすが裸族は運動神経抜群だな。


澪「はあ?」

和「記憶とはすなわち人格よ。
  それさえ植えつければこの唯は平沢唯になるのっ」

澪「そ、そんなこと、できるのかっ」

和「何度もやってるからねっ」

澪「何度も……?」


その言葉を聞いて思いだした。
和が、憂ちゃんの代わりを何度も捕まえていた、ということを。
理由を聞きそびれてしまったが、結局なぜだったんだ?
なぜ、憂ちゃんを何度も捕まえる必要があった?
それはつまり憂ちゃんの体を何度も取り替えて、
何度も記憶を植えつけていたということ。
それは何故だ?
考えた。
走りながら考えた。
そして至った結論は一つだけだった。

まさか。
和がずっと急いでた理由って。




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