澪「ほら」ポイッ

唯「あわゎ」アセアセ

律「…」プカー

澪「ゴホッ!律!タバコ吸うなよ」

律「…んー?…なんか昔思い出してさー悪い悪 い」ゲシゲシ

澪「梓が死んで10年か…」

律「私達も歳食ったなぁー…」

唯「…ムギちゃんは?」

澪「会議だってさ」

律「流石市長、忙しいみたいだな」

唯「和ちゃんがいれば少しは忙しくなくなって たかも…」

澪「もう和はいないだろ…」

律「梓もな…」

唯「…」

記者「あのー…」

律「…ん?なに?」

記者「今ですねー、生存者の方達からインタビューという話を伺ってまして………………………

これは、world war Z を生き延びた人間達の回顧録である。

【10年前】

唯「あわわゎ!遅刻しちゃうよー!!」

ガチャ
憂「お姉ちゃん大丈夫?」ゴホゴホ

唯「憂は寝てなきゃ駄目だよ」

憂「うん、ごめんねお姉ちゃん…」

唯「やっぱり今の時期に中国に家族旅行に行くのはやめといた方がよかったんだよ!大気汚染が致死量レベルなんだから!」

憂「…ゴホッ!」

唯「ほらほら憂は寝てて」

憂「ごめんねお姉ちゃん起こせなくて…」ゴホゴホ

唯「大丈夫だよーちゃんと皆にはメールしとくから」フンス!

ガシャーン!
憂「…?」
唯「お父さんとお母さんの部屋からだ」

テレビ『現在流行しているこの風邪に似た症状の…

テレビ『発生源は中国と見られ…

憂「お父さんもお母さんも旅行から帰って来てから寝込んでたから…ちょっと様子見てくるね」ゴホゴホ

唯「ダメだよ!憂はちゃんと寝てなきゃ!私が見てくるから」

憂「でもお姉ちゃんみんなと約束が…」ゴホッ

唯「遅れるってメールしたから大丈夫だよ~」

テレビ『…中国全土の感染率は63%を越え、現在国家非常事態宣言が…


唯「お父さんお母さん入るよー」コンコン
ガチャ

ドアを開けた瞬間に飛び出して来た父親に体ごと体当たりされて唯は吹き飛ばされ床に倒れ込んだ。

お腹に肘の一撃を受けたせいで数秒息ができなくなったが目の前の父親に何か異常事態が起きてることを察した唯は素早く起き上がって平静を装った。

唯「お、お父さん?突っ込み激しすぎるよー」

唯パパ「…」

唯「吉本か!」ズビシ

唯パパ「…」

渾身の力を込めたツッコミもスルーされた。

唯「お父さん具合悪いんでしょ?寝てなきゃ…
唯パパ「アァァアア!!」
ガシッ!

物凄い力で両肩を掴まれてそのまま床に叩きつけられ父親の顔が眼前に迫った時唯は見た、父親の目が正気では無くなっている事を。

唯ママ「…」

そして母親も。

憂「お姉ちゃん…?」ゴホゴホ

唯パパ「アァァアアガァア!」

涎を撒き散らしながら唯の喉元に食らいつこうとしている父親を唯は懸命に力を込めて父親の頭を掴み振りほどこうともがく。

唯「お父さん!!お母さん助けて!!」

唯ママ「…」

その声に反応したのか唯ママはゆっくり唯の方に歩いてきた。

トントン
憂「お姉ちゃん?大丈夫?」ゴホゴホ

唯ママ「!」

階段を上ってきた憂に狙いを定めたのか唯ママは動物のような動きで走りながら唯の横を通過し憂に掴みかかった。

憂「…え?」

唯ママと憂は揉み合ったまま階段を転げ落ちていった。

普段は頼りっぱなしだが、妹の危険にはめっぽう頼りにならない唯である
上にのしかかっている父親をまず膝で思いっきり蹴り上げた後、膝を畳み逆立ちする形で両足で蹴り上げた。
そうすることによって、肩を掴んでいた父親の手が唯の肩から外れた。

……………………………………

記者「!?まってくださいよそれって『対Z格闘術』の基本形ですよね!?」

律「そんな大層な名前付いてたのか?アレって」

記者「そりゃあそうですよ!対Z格闘術の有効性は…
澪「インタビューは?」

記者「あ、あぁ失礼しましたつい興奮して…」

………
…………
……………


唯「憂ー!!」

階段を転げ落ちていった憂と唯ママを心配しすぐさま二人が落ちていった階段に走る。

唯「憂だいじょう!…ぶ…」

そこには折り重なるように倒れている二人の姿があった、母親は頭を強打したのか血と何か肌色の液体を頭から大量に流してピクリともしない。

唯「憂!憂!」

憂「…お姉ちゃん…」

そのまま憂を抱きしめあげると、引きずるような形で家の出口に走る
普段はギー太より重い物は決して持てない唯だがこのときばかりは違った。

憂「お姉ちゃん…お母さんが…」

唯「大丈夫だから!」
全然大丈夫ではないにも関わらず、口からは自然に妹を安心させようとする言葉が出てきて涙があふれてきた。

息を切らせながら家の出口を開けた瞬間
ガシャーン!!
前の道路で車が他の車と正面衝突し火柱があがった。

唯「なんなの…これ…」


至る所で火柱があがっていた。

ピロリロン
律「ん?唯からだ…『ちょっと遅れます』か、まーた寝坊したな」

いつものことだ、こうなることを予想して自分もまだ準備してない!てか寝坊した!律は胸をそらして笑った。

聡「ねえちゃんうるさい!」

隣で我が弟が喚いているが気にしないで16ビートでも叩いてみる
チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ

ガチャ
聡「だからねえちゃんうるさい!」

律「カルシウム足りないなー聡は」

聡「ねえちゃんは額の毛が足りないよ!」

律「」

姉弟で言い合っていたら近くで爆発音が聞こえ、姉弟で顔を見合わせた。

聡「ねえちゃんだろ」
律「なんでだよ!」

二人で部屋の窓から外を見てみたところ、町の至る所からただならない緊急事態を予想させるほどの火の手があがっていた。

律「なんだこりゃ」
聡「火事だ!火事だ!」

その時、家の入り口のドアから体当たりされるような物凄い音が響いた。

律「聡、お客さんだ」

聡「姉ちゃんが出ろよ」

律は嫌な予感がしたので窓から自分の家の入り口に誰が来ているのか見てみたところ
何人もの人間が入り口のドアに群がっていた。

律「聡、何人もいるぞ?」

聡「うん、いるね…」

姉弟はここに至り自分達が危機的状況に置かれてるのを理解し、互いに目を見合わせて頷いてから律はスティック、聡はバットを装備した。


入り口のドアが破られる音と、何人もの人間の荒々しい足音が同時に響いてきて姉弟は身構えた

人間はあまりに現実離れした事象に遭遇するとその事象を『外側』から傍観したかのように眺め精神を守るたと、唯は昔教わった記憶があった。

傍らに大事な妹を抱え、火と煙の中を安全な場所を目指しながら、いや、この時はまだ全世界に安全な場所など無い事を気付いていなかったのだがとにかく安全な場所を探して唯は歩き出した。


もう何年も、何年も何年も、朝学校に行くさいに『おはよう』と言えば『おはよう』と優しい笑顔で返してくれた優しい優しいお婆さん

そのお婆さんが数人の人間に食らいつかれてるのを唯は見た。


唯は助けようとはしなかった、泣きもしなかった
妹の命を優先してお婆さんを見捨てた。

唯「憂大丈夫?もうすぐ安全な場所に着くからね」

そんな安全な場所などどこにもないのではないかと唯自身うすうす思ってはいたが、唯は妹を安心させるため、自分を奮い立たせるため敢えてそう言った。

憂「お姉ちゃん…大丈夫?」ゴホゴホ

唯「えへへー、大丈夫大丈夫」

無理をして作った笑顔だったため、かなりひきつってしまった。

憂「ゴホッ!」

憂がかなりひどくせき込んだため、唯は一旦憂を下ろし背中をさすってあげた。

唯「憂、無理しちゃだめだよ」サスサス

憂「うん…もう大丈夫…」

唯「皆の待ち合わせ場所に行ってみよう!」

憂「うん…」
憂(奥歯が…)

憂は手の平の中の自分の奥歯を唯に気付かれないように排水溝に捨てた。

澪「…もうやだ…やだよぉ…」

待ち合わせ場所に向かう途中だった
いきなり目の前のお店のショーウィンドーが割れ、そこから人間が転がり落ちてきた。

あまりの恐怖で身動きすら出来ないでいたところ、追い討ちをかけるように澪の横を通り過ぎようとしていたバイクが宙に舞った。

そこから先はよく覚えてはいない
大量の人の怒号と悲鳴、それに押される形で澪は走った
気付いた時にはトイレの個室だった。

澪「うぅぇ…律…律…助けて…」ヒック

失禁のせいで股間がかなり冷たいがそんなものどうでもよかった
人が人に襲われる、そんな場面を目撃したら誰だって失禁する、恥ずかしいことじゃない
と、澪は自分を庇護した。

だが澪は知らなかったのだ、トイレの個室が一番危険な事を。

ヒタ
澪(あれ?今音がしたような…)

ヒタヒタ
澪(間違い無い!誰かの足音だ!)

ヒタヒタヒタ
澪(早く!早く通りすぎて!)

足音はトイレの入り口で止まった

澪()ドキン

ガチャ
足音の主はトイレに入ってきた
そしてそのままトイレの中をウロウロするような音が澪の耳に聞こえてきた。

両手で口をふさぎ、便座のフタの上に体育座りする形で澪は音の主が去るのを1秒が1時間にも感じられる時間の感覚のなか待ち続けた。

やがて足音の主はトイレから出て行った。

澪「ふぅ…」
と一息着いた次の瞬間、個室のドアが勢い良く破られた。

澪「ぎゃぁぁあ!!!」

澪の肛門から勢い良くウンコが噴出した。

いつもと同じ一日のはずだった。

いつもと同じように学校に行き。

いつもと同じように学校で憂や純と話し。

いつもと同じように紅茶の香りのする部室に足を運び。

いつもと同じように先輩たちにいじられ。

いつもと同じように先輩たちに小言を言う。

そんな一日になるはずだった。

リビングのソファーに座る私の隣で預かった可愛い猫が舌を出しながら舐めている。

もう考える事も出来なくなってきた。

もう終わるんだ。

最後に脳裏に浮かんだのはいつも抱きついてくる先輩の顔だった。




梓の頸動脈から吹き出してソファーに流れている血を舐めていた猫が、目の前の生き物の生命の活動が停止したのを察して血を舐めるのをやめ、顔を上げた。

……
………

記者「…え?それで終わりですか?そんなあっけなく?」

律「あぁそうだよ、あっけなく、だよ」

記者「もっとなんというか、部員全員で一丸になって危機に立ち向かう的な…」

澪「そんな甘くないよ、そんな状況じゃなかった」

律「実際見たのはソファーで死んでた梓だし、何か梓なりに戦ったのかもしれないけど死んでたから聞きようがないんだ」

澪「今のも梓だったら最後こう考えてたろうなって私達が思ってるだけだし」

唯「絶対あずにゃんは私のこと考えてたよ!」

律「はいはい」

記者「そんなもんなんですね…」

律「そんなもんだよ」


……
………

澪「ギャァァアアア!!ぎゃぁぁあ!!」

自分でもいままでこれほど出した記憶がないほどの大声だった
いつも発声練習していた影響なのだろうか、こんな緊急事態にも関わらずそんな事が頭に浮かぶ人間の頭脳は計り知れない、と澪は思った。

澪「ちょちょ!ちょっと待って!今は駄目!トイレ入ってるから!駄目!絶対!!」

口から血を滴らせた妙齢の女性と狭い個室内で格闘になり、糞尿を撒き散らしながらなんとか澪は個室から抜け出ようともがく。

澪「ふぅぁあ!!」

人間本気の本気になると口から獣のような声が出る
その叫び声と共に女性を壁に押し付け返す刀で個室から脱出…

コテッ

出来なかった。
まただ、大事なところで私はいつも転ぶ、終わった…
と澪はすべてを諦めた。

女性Z「ぐるぅぅ…」

女性Zが澪の頭に手を伸ばした瞬間、ゴキュと変な音を立てて女性Zはゆっくり崩れ落ちた。

澪「?」

そこには血の付いたバールを持って息荒く仁王立ちしている和の姿があった。

グシャ
頭から鈍い音をたてながら家に不法侵入してきた正気を失ってる人間の一人が頭蓋骨が陥没した状態で床に崩れ落ちた。

聡「ねえちゃん!!」

ザクッ
目の前の人間の眼目掛けて振り下ろしたスティックが眼を貫き脳に達した辺りで律は弟の方を振り向かず大声をあげた。

律「なんだよ!?」

聡「これ正当防衛!?」

バットをフルスイングさせながら、聡も姉の方を振り向かず叫んだ。

律「当たり前だろ!」

聡「ねえちゃん釘どこだっけ!」

律「工具箱の中!」


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