―4億5千万年目―

梓「…何で何で何で何で」

あれからも考えたり、瞑想をして、最後の答えを求めたが結局分からずじまいだった。

梓「何でええええええええええええええええ!!」

梓「………」

梓「………ん?」

不意になしかしらの気配を感じた。距離感は分からない。しかしその気配は近づいてきてるような気がした。

梓「……な、何?」

梓「……!?」

また唯先輩たちだろうか。はたまたさわこ先生だろうか。

梓「………」

梓「……んっ!?」

近づいてきたのは人ではなかった。しかし形というものもない。だが今の梓にははっきり見えていた。

梓「…な、なななななな何!?」

梓の顔が強張る。体も小刻みに震えている。

?「………」

梓「………」

得体の知れぬソレは黙りこんでいる。そしてしばらくの間、梓を見つめていた。

?「………$¢£#*§☆※∝」

梓「!?」

口がないように見えたが、いきなりしゃべり始めた。梓の見つけた効率的な言語で。

?「Å♯ΕΨΠχЖЛ、◇$☆&#£」

梓「……あ………ああぁ」

梓の中に今までにない衝撃が走る。目の前にいるソレは、とんでもなく恐ろしいことを喋っていた。

?「仝ゞ△*※£?§§§§!!」

梓「ぁぁぁ……」

ジョーーー

梓は恐怖のあまり失禁する。動くことも出来なかった。

?「………」

スッ

梓「……はぁはぁはぁはぁ」

ソレはひとしきり喋った後消えてしまった。梓は走ってもないのに息切れをしていた。

梓「はぁ、はぁ、はぁ………」

少し落ち着いてきた。しかしまだ足が震えている。

梓「……………」

梓は目を見開き呆然と立ち尽くしている。最後のパズルのピースは埋まった。しかしあまりにもショッキングな情報であった。

梓「……………」

梓は動き出すことが出来なかった。

ー4億9千5百万年目ー

梓「…………」

梓はあれから動くことが出来ないでいた。もはや時間など気にもしていない。結果的に真理なるものを知ることは出来た。しかし到底受け入れられる内容ではなく、衝撃的なものだった。

梓「…………」

?「………梓ちゃん」

梓「………?」

久しぶりに声を掛けてくる者がいた。梓は振り返る。

さわこ「久しぶり梓ちゃん」

梓「……さ、さわこ……先生」

さわこ「……何か分かったみたいね、その顔は」

梓「……せ、せせ、先生!私どうしたら!」

さわこ「………心配ないわ」

梓「え?」

さわこ「………」

梓「…な、何ですか先生!?」

さわこ「……梓ちゃん、この空間は何のためにあるか分かる?」

梓「え?」

さわこ「この空間よ、何のためにあるか」

梓「……ひゃ、百万円を貰うために用意された空間…ですよね?」

さわこ「…それだけ?

梓「え?」

さわこ「………」

梓「先生?」

さわこ「…ここにはね、ここには色々な人が来たわ」

梓「………」

さわこ「単純に欲にくらんで来る人が大多数だったけど、一方で違う人もいた」

梓「ち、違う人とは?」

さわこ「時間よ」

梓「は?」

さわこ「5億年という膨大な時間に惹かれてここに来る人もいたのよ」

梓「ど、どういうことですか!?」

さわこ「彼らはね、とっても頭の良い人たちだった」

梓「………」

さわこ「ノーベル賞受賞者、並外れたIQの持ち主、国一の天才、本当に色んな人間がきたわ」

梓「そ、その人たちはどうなったんですか!?」

さわこ「………無意味だったわ」

梓「無意味?」

さわこ「そう。帰るとここの記憶は消えるって書かれてたでしょう?だから彼らは二度とここには来なかったのよ」

梓「……り、利益を求めてなかったからですか?」

さわこ「鋭いわね。そうよ彼らは地球に帰り、記憶がなくなり、そこで歩みを止めてしまった。このボタンを押しても何も起こらない、と思ってね」

梓「………」

さわこ「……でもね」

梓「?」

さわこ「ずーーーと昔にある?が来たのよ」

梓「はい?」

さわこの言葉が途中聞こえなかった。

さわこ「?はね、知能レベルが群を抜いてた。そして?は膨大な時間を求めて幾度となくここに来たの」

梓「じ、時間の方を求めて何度も!?」

さわこ「えぇ、私もビックリだったわ。そして?は150回目くらいで真理なるものを修正しようと試みたの」

梓「え!?」

さわこ「…信じられないわよね。私も唖然とする一方だったわ」

梓「ちょ、ちょっと待ってください。私もここであらゆる側面から真理なるものを追求してきました。それを修正だなんて…」

さわこ「いいえ、それは間違っているわ」

梓「え?」

さわこ「あなたの求めていたものは一つの形にしか過ぎないのよ」

梓「…一つの……形?」

さわこ「えぇ、そうよ。結局、それは既存のものでしかない」

梓「き、既存……」

さわこ「そう、そして?はそれを変えようと試みたの」

梓「そ、そんなこと…」

さわこ「……そして?はこの空間からあるものを生み出したわ」

梓「…生み出した?何をですか?」

さわこ「宇宙よ」

梓「う、宇宙!?」

さわこ「えぇ、とても素晴らしい創造物だったわ」

梓「…ちょ、ちょちょちょっと待ってください!それはいつの話ですか!?」

さわこ「……確か…1千7百億年くらい前だったかしら」

梓「!?…そ、それって私たちが知ってる宇宙誕生の話より大分前じゃないですか!?」

さわこ「そうよ、今の宇宙は初めてじゃないもの。確か……3度目の宇宙のはず」

梓「そ、そんなめちゃくちゃな……」

さわこ「事実よ、そしてこの世界はその決められた法則に基づいて動いているわ」

梓「………」

さわこ「無理もないわね、いきなりこんなこと聞かされて。でもあなたに近づいてきた?も似たようなことを喋ってたはずよ」

梓「そ、そういえば…」

さわこ「ねっ。そしてそれが?の功績でもあり、負の遺産でもあるわ」

梓「……神様ですか?」

さわこ「え?」

梓「その?は神様なんですか?」

さわこ「………違うわ」

梓「じゃ、じゃあ…」

さわこ「神様なんてこの世界にいないわよ、きっと」

梓「………」

さわこ「………私、そろそろ行くわね」

梓「え?ちょ、ちょっと先生!」

さわこ「後は自分でどうするか決めるのよ梓ちゃん」

梓「き、決めるって何を……」

さわこ「………じゃあね」

スッ

梓「あっ!消え……ちゃった……」

梓「………」

梓は謎だった。なぜさわこ先生が自分にあんな話をしたのか、そしてなぜ自分の頭にないようなことを言ってきたのか、これだけはいくら考えても分かりそうにないと梓は感じていた。

梓「………」

梓は再び遠くを見つめ、まるで振り出しに戻ったかのように途方に暮れている。

ー499999999年と365日目ー

梓「………」

とうとう最終日まできた。梓は一つの形として物事を理解した。しかしさわこ先生の言葉がどうしても引っかかる。

唯「す、凄いよ!あずにゃん!」

律「さっすが私の後輩だな~」

澪「梓、よく頑張ったな!」

紬「お祝いに美味しいケーキなんてどう?梓ちゃん」

憂「おめでとう、梓ちゃん!」

純「正直梓がここまでやるなんて…」

菫「…わ、私感動しました!」

直「お疲れ様です、先輩」

存在しない外野が梓に向けて賞賛の声を送る。

梓「………」

しかし梓にその声は届いていない。梓は何も考えず、心を無にしている。

梓「………」

刻一刻と終わりの時が近づいていた。解放されるという喜びの一方で、どこか名残惜しいという気持ちがあった。

梓「………」

梓はジッとしたまま終わりの時を待っている。気のせいか白くもやもやしたようなものが梓を包んでいるように見えた。

梓「………ふぅ」

梓は最後に一息漏らす。とうとう終わりの時がきた。5億年間、終了。

梓「…ん!?きゃあああああぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

最初に引っ張られた時と同じような感覚が梓を再び襲った。

――――――――――

―――――――――

梓「………んっ!」

梓「………」

梓は帰ってきた。あの空間にいた記憶はない。

ガシャ

梓「あっ」

純「あっ!や、やっぱり百万円が出てきたよ梓!」

梓「ほ、本当にボタン押すだけで百万円が…」

憂「こ、怖いねこのボタン…」

純「何言ってんのさ!それ、連打しちゃえ!」

ポチポチポチポチ

梓「あっ!ちょっと純!」

ガシャガシャガシャガシャ

純「やったー!四百万ー♪」

菫「す、凄い…」

純「ほらほらー、梓も連打しちゃいなよ♪」

梓「……あ………ああ」

目の前の誘惑に理性がきかない。

純「ほらほら梓~♪」

純が札束をちらつかす。さらなる誘惑の波が押し寄せてきた。

梓「……あぁ………あああああああああ!!」

ポチポチポチポチ

梓は耐えきれずボタンを数連打した。

梓「…………んっ!?」

梓「……きゃ、きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

―――――――――

梓「………ンッ」

視界がぼやている。周りがはっきり見えない。

梓「………」

梓「……あ………あぁ!」

視界が徐々に慣れてくる。目の前にはあのおぞましい空間が広がっていた。

梓「……い、嫌ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

―5億年ボタン10往復コース、スタート―

―――――――――

梓「………はっ!」

ガシャガシャガシャガシャ

純「……す、すすすす凄いよ梓!!一気に一千万!!」

憂「い、一千万………」

菫直「………」

みな唖然としている。夢か現実か区別がつかなかった。

純「と、とりあえず私たちこれでお金持ちだよ!やった―!」

憂「う、うん、でも何か…」

菫「い、いいじゃないですか!ただで大金貰えたんですから!」

梓「………」

ガチャ

ふと扉の開く音がする。誰か来たようだ。

さわこ「……あら、あなたたち」

一同「先生!!」

さわこ「どうかしたの?皆真剣な顔しちゃって」

直「あの、それが変なボタン…」

さわこ「ボタン?」

憂「は、はい、何かおかしなボタンが…」

その時だった。

?「きゃああああああああああああああああああああ!!」

いきなり部室に悲鳴が響き渡る。みないっせいにその声がする方を振り向いた。

純「きゃああああああああああああああああああああ!!」

梓「じゅ、純!?」

菫「純先輩!?」

悲鳴を上げていたのは純だった。狂ったように叫んでいる。

憂「ど、どうしたの純ちゃん!?」

純「ああああああああああああああああああああ!!」

純は叫びながら窓を指差している。一同はいっせいにその方向に目を向けた。

梓「………あっ!?」

憂「………あっ」

菫「………あっ」

直「………あっ」

皆、「あっ」とだけ呟き窓を見つめている。

梓憂菫直「…………………………」

ドサッドサッドサッ

彼女たちは持っていた札束を落とした。まるで価値のないものであるかのように。

梓「…………う、ううう」

憂「あは、はははははは」

純「嫌ああああああああああ!!」

菫「……んん………んんん」

直「………」

少しして、それぞれが色々な感情をあらわにした。ある者は笑い、ある者は泣いて、ある者は叫んでいる。

梓「ううぅ………ううう……」

ジャンジャン♪

憂「あはは、はははははは」

ジャンジャン♪

純「嫌…嫌ああぁ……」

ジャンジャン♪

そして彼女たちはいきなり楽器を演奏し始めた。まるで何かを確かめるかのように。

菫「……んあ……ああぁ」

ジャンジャン♪

直「………」

ジャンジャン♪

さわこ「…………」

さわこはその様子を神妙な面もちで見つめている。彼女たちの演奏している曲はあの空間で作った曲と、どこか似ているような気がした。



おわり