梓「……ふぅ」

ひとしきり喜んで落ち着いた後、後ろを振り返った。扉はなかった。相変わらず非現実的すぎる。最初から最後まで

梓「……そうだ!学校に行かなきゃ!皆にあのボタンの怖さを伝えないと!」

梓は学校に向かって走り出した

―――

梓「……はぁはぁ」

梓「…それに、しても、怖、かった、な………はぁはぁ」

梓「…あの空間は、一体、何だったん、だろう」

梓「…………はぁはぁ」

梓は走り続ける。しばらく走っていると遠くから声が聞こえてきた

?「おーい梓ー!」

?「梓ちゃーん!」

梓「……え?」

純「…よっ梓!そんなに急いでどうしたんだ?」

憂「おはよー梓ちゃん、朝から元気だね!」

梓「あっ!純っ!憂っ!」

純「わっ!ど、どうしたんだよ、何でそんなリアクション大きいんだ!?」

梓「二人とも会いたかったああああああ!!!!」

憂「きゃっ!」

純「うあっ!」

梓は勢いよく二人に抱きつく。久々の再開であまりにもうれしかったからだ。

純「ど、どうしたんだよ梓?いきなり抱きついたりなんかして!」

憂「そうだよ梓ちゃん、私ビックリしちゃった」

梓「…う、うぅ…ごめん二人とも……あまりにうれしくて…」

純「…な、何かあったのか?」

梓「な、何かって…二人とも知ってるでしょボタンのこと」

純憂「ボタン?」

二人はキョトンとして聞き返す

梓「…?ぼ、ボタンだよ!5億年ボタン!ほら部室にあった!」

純憂「………」

二人は顔を見合わせている。まるで初耳のようだ。

梓「……?」

純「ボタンがあるのか?部室に?」

憂「どんなボタンなの梓ちゃん?」

梓「ふ、二人とも知らないの?私たちが百万円手に入れるために押したあの変なボタンだよ!」

純「……そんなの部室にあったっけか憂?」

憂「…ううん私も知らない」

梓「!?」

梓はその瞬間言い知れぬ恐怖に駆られた

梓「し、知らない…?あのボタンのことを?」

純憂「うん」

梓はしばらく立ち尽くしていた

梓「ど、どういう…こと…」

純「…と、とりあえずさ、その変なボタン、部室にあるんだろ?」

憂「そうだね、純ちゃんの言う通り。私も気になるから早く部室に行ってみよう梓ちゃん」

梓「……う、うん」

梓は拭えぬ違和感を抱えながらまた歩き出した

―――

純「それでさー」

憂「あはは…それは純ちゃんが悪いよー」

梓「………」

梓が黙り込んで歩いてる中二人は楽しく談笑してる

しばらく歩いて三人は交差点にたどり着いた

純「…うげっ、信号赤だっ!危ない危ない」

憂「ほらちゃんと前を向いて歩かなきゃ純ちゃん」

梓「………」

その時だった

純「…ん?お、おい梓!」

憂「え?…あ、梓ちゃん!?」

梓「………」

梓は俯いて赤信号を渡ろうとしていた


純「梓ああああ!!!」

キキー

向かってきたトラックが急ブレーキをかけた

赤信号は止まれ、当たり前のことだ

梓「………」

純「ば、馬鹿っ!何やってんだよ梓!」

憂「梓ちゃん大丈夫!?」

梓「………」

梓は俯いたままだ。普通ならトラックの方から怒号が飛んでくる出来事だが、車には誰も乗ってないのが幸いだった。

純「梓!返事しなよ!何で赤信号なのに渡ったんだ!?」

梓「……何で止まるの」

憂「え?」

梓「何で赤だと止まる必要性があるの?」

純「…な、何言ってんだ梓!?」

梓「別に止まる必要性なんてないじゃん。車が来てたって渡ろうと思えば渡れる」

憂「な、何を言って…」

純「…う、赤信号で止まるのは社会のルールだろ梓!?」

梓「………」

純「あ、梓!聞いてるのか?」

梓「………そだね、ごめん、私が悪かったよ」

純「………」

憂「…梓ちゃん、調子でも悪いの?」

梓「……ううん、ごめん大丈夫だから」

純「……ま、まぁいっか。早く学校に行こうか」

憂「…そ、そうだね、行こう梓ちゃん」

梓「………うん」

―――

純「………」

憂「………」

梓「………」

さっきの出来事から黙り込んだまま三人は歩いている。するとまた妙なことが起こった

梓「………」

スタスタ

純「……ん?」

憂「梓ちゃん、どうしたのいきなり早歩きになって!?」

梓「………」

スタスタ

純「お、おい梓!いきなりそんなに急いでどうしたんだよ!」

梓「………着いてきてる」

憂「つ、着いてきてるって誰が?」

梓「……黒い服の……組織…あそこ……」

純「組織!?」

梓はスーツを着た会社員を指差して言った

憂「あれはサラリーマンの人たちだよ梓ちゃん?」

純「そうだよ普通の会社員!組織って何だよ?」

梓「………いつもそう」

純「は?」

梓「…いつもそうやって私を否定してる」

憂「…梓ちゃん?」

梓「…いや、いいよ早く学校に行こうボタンを探したい」

純「………」

憂「………」

この時点で二人は梓の異変を感じた。明らかに普通ではない

梓「さっ、二人とも早く」

純「……あぁ」

憂「……うん」

二人は梓に疑念の目を向けながら再び学校へと向かい始めた

―――

学校に到着した

純「…よしっ、まぁ色々あったけど部室にボタン探しにいこうか」

憂「そうだね、ここは気持ちを切り替えて」

梓「……ごめんね二人とも」

純「い、いいっていいって、さぁ部長から部室へどうぞ」

梓「……うん」

グッ

憂「……ん?」

梓「…あれ?開かない」

グッ

純「………」

梓「…おかしい、開かないよ」

憂「…あ、梓ちゃん?」

グッ

梓「……ひ、開かないよ」

純「あ、梓?」

梓「何?」

憂「何でドアノブを押してるの?」

梓「え?……だってドア開くために押さなきゃいけないじゃん」

その言葉で純と憂の顔は真っ青になる

純「…お、押すんじゃないよ梓」

梓「え?」

憂「捻るんだよドアノブは梓ちゃん!」

梓「…………嘘」

純憂「………」

純「……梓、部室でボタン探したら病院行った方がいいかも」

梓「………」

憂「……私もそうした方がいいと思う、かも」

梓「………」

純「……とりあえず部室でボタン探そっか」

ガチャ

?「あー皆お疲れー!」

?「お茶とお菓子準備しといたわよー」

部室に入るとどこかで聞いたような声が出迎えてくれた

唯「あずにゃんおかえりー!」

梓「きゃっ!ゆ、ゆゆ唯先輩!?」

唯先輩がいきなり抱きついてきた

唯「ん?先輩?」

律「遅いぞ三人とも!」

澪「もう練習の時間始まってるぞ!」

紬「まぁまぁまぁ、皆さんお疲れよきっと」

そこには制服を着た唯先輩たちがいたのだ

梓「な、何で唯先輩たちがいるんですが!?しかも制服で!?」

純「何言ってんだよ梓、唯たちは私たちと同期の部員じゃん」

憂「そうだよ梓ちゃん私たち同期のメンバーじゃない」

梓「…ど、どういうこと?」

唯「?あずにゃん何か変だよ、いきなり私のこと先輩とか言ったり」

律「風邪でもひいたか梓?」

梓「ど、同期なはずなんかない。唯先輩たちは確かに年上だった…」

純「……やっぱり梓変だよ」

澪「何かあったのか?」

憂「うん、さっきから様子おかしくて…もしかしたら本当に風邪でもひいてるのかも」

紬「そう…体は大切にしなきゃ駄目よ梓ちゃん」

梓「あ…あぁ……違う……絶対違う…」

純「あっ、そうだボタン!」

澪「ボタン?」

純「うん、梓がなんちゃらボタンがどーたらこーたら」

梓「……はぁ…はぁ」

あまりの異常事態に呼吸が荒くなる

律「ボタンって何だ梓?」

梓「……そ、そそうボタン!この部室に変なボタンがあったんですけど誰か知りませんか!?」

唯「……さぁ?」

澪「見てないな」

律「私も知らん」

紬「私もよ」

純「ほらみろ梓皆知らないんだよそんなボタン」

梓「そ、そんな…」

バタン

?「あら、あなたたち」

誰かが入ってきた

佐和子「どうしたの集まって」

律「おぉ、さわちゃん!それがさー梓がボタンがどうのこうのって」

佐和子「ボタン??

唯「あずにゃんが変なボタン探してるんだってさ」

佐和子「………」

梓「せ、先生何か知りませんか?そのボタンのこと?」

純「知りませんよねー?山中先生」

佐和子「詳しく聞かせて梓ちゃんそのボタンのこと」

梓「…はい。あの押したら変な空間に飛ばされちゃうんです!そこで5億年耐えたら百万円貰えるっていうボタンなんです」

佐和子「5億年…百万…」

律「ないない、あるわけないよなーそんな上手い話」

唯「うんうん」

佐和子「…で、梓ちゃんは耐えたの?」

梓「え?何がですか?」

佐和子「………………5億年」

梓「…いえ、私抜け出せたんです!その…歩いてたら、扉があって、扉開いたら私たちの世界があって…つまり私たちの世界はすぐ隣にあったんです!」

佐和子「………」

梓「お、おかしいですよねこんな話」

佐和子「ねぇ梓ちゃん聞いて」

梓「何ですか?」

佐和子「ねぇ梓ちゃん聞いて」

梓「?」

佐和子「ねぇ梓ちゃん※いて」

梓「せ、先生?」

佐和子「ねぇ梓■ちゃん聞※て」

梓「………」

佐和子は同じ言葉を繰り返している。まるで壊れたCDみたいに

佐和子「ねぇ梓ちゃん…」

梓は耐えかねて先生に飛びつき、体を揺さぶった

梓「せ、先生しっかりしてください!」

佐和子「ぬぇ、梓ちゃん聞い聞い……」

梓「先生!!!」

佐和子「………うぅ……ごめ、なさい………齟齬が生じて…るみたい」

梓「そ、齟齬!?」

佐和子「…そう……調子が…」

梓「どこか体調が悪いんですか!?先生!?」

佐和子「…………わ、私じゃない…」

梓「………え?」

佐和子「………」

梓「せ、先生!何か言ってください!」

佐和子「………あなたよ」

梓「……は?」

佐和子「…あなたが私たちを支配してる」

梓「…な、何を言って…意味が…」

佐和子「………め、目を覚まして梓ちゃん」

梓「…………はっ!!?」

その言葉に梓は瞬間的に正気を取り戻す。

梓「あ…あぁ…」

目の前には思い出したくもない、あのおぞましい空間が広がっていた

梓「あぁ…あぁ……ああああああああああ!!!」

梓は戻ってなどいなかった。幻覚または妄想の世界にいたらしい

梓「ああぁぁああああぁぁぁぁあああ!!!」

梓は叫んでいる。訳も分からずただ叫んでいた。この時点でこの空間に来てから半年経っていた。

梓「うぞだっだぁ!全部うそだったんだあああああああぁぁぁぁあああああああ!!!」

※おわり