*

5.

 澪とは依然良好な交際を続けつつも、唯や梓、紬を順に回す日々。
そのサイクルを経るうちに、気付けば十月も終わりに近づいていた。
そして今日は、誰とも約束が入っていない。
澪とショッピングにでも行こうか、律は季節を噛み締めながらそう思った。
寒さを覚える日も増えたので、冬服のレパートリーを増やしたかったのだ。

 他の三人を誘おうという気にはなれなかった。
今のところは、身体以外で繋がる気にはどうにもなれない。

 律は唯達の顔を頭から振り払うと、携帯電話を取り出した。
澪とは家が近いので、電話を前置せずに会いに行く事も多かった。
ただ、二人で出掛けるとなると、双方に準備が必要となる。
その準備に使う時間を調整する為の電話だった。

 だが、律が澪の番号をタップする前に、階下から電子音が聞こえてきた。
来客を告げるチャイムの音だった。

「むー。折角、澪と出掛けようと思ってたのにー」

 律は不満げに独り言を呟くと、来客の応対の為に部屋を出た。
ただ、この来客が澪である可能性もある。
もしそうなら運命的だと、律は階段を下りながら考えていた。

 期待に押されながら律が玄関を開けると、そこには唯の姿があった。
律は落胆を抑えて、努めて朗らかに唯を迎え入れる。

「唯じゃん。いきなり、どうしたの?」

 唯はすぐには言葉を返してこなかった。
玄関に並べられた靴を眺めるように、視線を斜めに落としている。

「唯?」

 律が不審げに呼び掛けると、漸く唯は口を開いた。

「いきなりごめんね、来ちゃった。
だってりっちゃん、最近は週に一度か二度しかプライベートに会えないんだもん。
寂しくなっちゃったよ」

 唯の不満も当然だろうと、律とて理解している。
不倫の相手が増えた影響は、各人と会う時間の減少となって如実に反映されていた。
唯達との同衾の頻度は週に一度か、多くても二度でしかなくなっている。
唯だけではなく、梓や紬も逢瀬の少なさに不満を抱いている事だろう。

「そっか。ごめんな。まー私にも、色々あるんだよ」

 その色々の内容など、言えるわけもない。
唯に理解を求める事など、到底無理な話なのだから。


「そこは理解したいんだけど、でも、私と会う時間をもっと作って欲しいな。
やっぱり、私達の関係が関係なだけに、会えないと不安なんだよ。
約束はしてるんだけど、
それでも私と会ってない間に、澪ちゃんに気持ちが傾いていないかって」

 唯はそう言いながら、屋内へと身を滑り込ませてきた。
拒む理由はあっても口にはできない。
澪とショッピングなど、唯が許すはずもないのだから。
止む無く律は唯を家に上げて、部屋へと先導する。

「なーに言ってるんだよ。
もっと私を信じて、自分に自信を持てって。
私は唯の事、大好きなんだからさ」

 律は階段を上りながら、後に続く唯に言った。
対する唯は、部屋に入るまで無言のままだった。

 部屋に入ると、律が促すまでもなく唯はベッドに腰掛けた。
そうして言葉を放つ唯の顔は、いつになく真顔だった。

「ねぇ、りっちゃん。私と付き合ってから一か月以上経つけど。
澪ちゃんとは、どうなってるの?
傍から見て、ちっとも別れるような素振りが感じられないんだけど」

 声にも深刻な調子が表れており、自然、律も気圧された。
時間を経て、唯にも期待より不審が濃くなってきたのだろう。
律よりも長くなった唯の髪にも、一か月以上という月日が表れている。
それは唯が髪を伸ばすと言ってから経た時間でもあるのだ。


「いや、そう簡単に片付く話じゃないって。
バンド活動に影響出さずに、長く続いてきた相手と別れるっていうんだから。
綱渡りみたいなものだよ」

「長引くなら、尚更私ともっと会って欲しいな。
話に目に見える進展がないと、不安なんだよ。
その不安、和らげて欲しいんだ。
りっちゃんとエッチしている間は、自分が優位だって思えるから。
……だから、私の事ももっと抱いて欲しいな」

 唯はそう言うと、シーツから目敏く髪の毛を一本摘み上げて振った。
唯の顔の横でこれ見よがしに揺れるその髪の毛は、黒く長い。

「いや、ほら、それだってソフトランディングの一環だよ。
急にご無沙汰になると、澪だって不審に思うだろうし。
だからまぁ、徐々に回数減らしていってる最中で……。
それはその、傷痕というか」

 苦し紛れの言い訳は、唯の怒気を孕んだ声に遮られていた。

「それ、私に言ってるのかな?
私にも当て嵌まるような気がするんだけど」

 唯の尋常ではない剣幕に圧倒されて、律は逃れるように言う。

「いや。そんなつもり、欠片もないよ。
まー、少しずつ進んでるからさ。
もうちょっと、様子見て欲しいかな」

 律は失言を悔いて、更にシーツのチェックを怠った事も悔いた。
だがすぐに、それ以前の問題だったと気付く。
思い返せば唯は今日、律の家を訪れる前に連絡など一切入れていない。
それこそが唯の不審を裏付けるものだと、律は漸く理解していた。
唯は律が澪と睦まじく過ごしていないか、抜き打ちで確かめに来たのだろう。
元々、澪と一向に別れようとしない律に、唯は不審を覚えていたのだ。
髪の毛も失言もなかったところで、唯から問い詰められる事に変わりはない。


「私は様子よりも、成果が見たいな。
それと、私と会っていない時、りっちゃんが何してるのかも見たい。
ああ、でもね。学校とかで澪ちゃんと楽しそうに話すりっちゃんは見たくないな」

 唯の低められた声と細められた瞳に射竦められて、
律は稚拙な言い逃れに徹する事しかできない。

「えっと、急いては事を仕損じるというか」

 その時、鳴り響く電子音が律の言葉を遮った。
先程も聞いた、来客を告げるチャイムだった。
その時は鬱陶しく思っていた音が、今となっては救いにも聞こえる。
詰め寄られた律にとって、唯から逃げ出す口実が折よく齎されたのだから。

「あー、誰か来たみたい。ちょっと、応対してくるなー」

 律は唯の言葉を待たずに部屋から出た。
律が居ない隙に澪との痕跡を探るべく、唯が室内を調べるかもしれない。
その危険性は承知していたが、今は話から逃れていたかった。
稚拙な一時凌ぎであっても構わなかった。

 階段を下りて玄関の扉に手を掛けたところで、ふと律は止まった。
もし、来客が澪だとしたら──
先程は期待していた人物の来訪が、今は恐ろしく思える。
もし今の思い詰めた唯が澪と出会ってしまえば、修羅場は避けられまい。
律はインターホンを通じて、相手の確認をする。

「はーい、田井中です。どちら様でしょうか?」

「あっ、律先輩だ。えへへ、梓です。来ちゃいました」

 澪ではなかったが、律に安堵は訪れなかった。
今の唯と会わせたくない相手である事に違いはないのだから。


「あー。梓かー。ごめんなー、今ちょっと、取り込んでて。
またにしような」

 インタホーンで断って、帰ってもらう他はない。
律はそう判断したが、梓は強硬だった。
初めて身体を重ね合わせて以来、梓は髪を結んでいない。
その一途さを思えば、簡単に退く相手ではなかった。

「いえ。お時間は取らせません。顔だけ見て、少しだけ話したいんです。
開けてくれませんか?」

「えーと、どんな用件?」

 梓の話に興味を覚えたのではない。断る理由を見つけたいだけだ。
だが、律の思惑はあっさりと砕け散る。

「どんなって。恋人なんだから、相手の顔を見たくなるのは自然です」

「だから、それは今度っていうか。
今はちょっと立て込んでて」

 不倫に誘う時は饒舌になる律の口とて、隠す段になると途端に口舌が悪くなった。
律はそのような自分を苛立たしく思う。

「顔見せるくらい、いいじゃないですか。
……何か、会いたくない理由でもあるんですか?」

 低くなった梓の声から不審が伝わってくる。
このままでは、帰ってくれないだろう。
顔だけ見せてすぐ返そうと、律は止む無く折れた。

「まぁいいけど。顔見せるだけだよー。
私、これから出かけなきゃいけないから、すぐに帰るんだぞー」

 律は溜息を堪えながら、ドアノブに手を伸ばす。
そういえば唯は、半ば無理矢理に家へと入って来た。
梓が同じことをしないように、立ちはだかって入口を塞ぐ必要がありそうだ。
そう思いながらドアノブに手が触れたところで、律は思わず硬直した。

 果たして唯の行動から学ぶべき注意は、それだけだろうか。
もっと基本的な事を見落としているような気がした。
そうだ、玄関を開けた時に、唯はまず何をしたのか──


 それに気付いた律は、慌てて唯の靴を蹴って下駄箱の下へと隠した。
そうして、危うかったと背筋に冷や汗を感じながら、律は玄関を開ける。

「や、梓。さっきも約束したけど、本当に時間は僅かしか取れないぞー」

「ええ、本当は二人きりで過ごしたかったんですけど。
まぁでも、最悪の想定は外れて良かったです。
私と会わなくなった多くの日を、澪先輩に当ててるんじゃないかって、苦しんでました。
でも、今日は澪先輩が来ていないようで良かったです」

 梓が律の身体の脇から、玄関に並んだ靴に目を走らせて言った。
玄関は浮気を疑う者に共通して、まず初めに調べるべき場所らしい。
不倫の歴自体は短い律にとって、危ういところで学べた事だった。

「そんな事は心配しなくていいの。
梓は安心してればいいんだよ」

「えへへ、そうですよね。ところで、今日は何処に出掛けるんですか?」

「えっと、病院。あ、いや、大した事じゃないんだけどね」

 梓の問いかけに、律は咄嗟の判断でそう口にした。
考える素振りを見せられない中では、誘いを断る際の常套句で逃げるしかない。

「何処か、悪いんですか?」

 梓が心配そうに首を傾けてきた。

「いや、ちょっと風邪気味というか……ね。
本当に大した事じゃないんだけど、念の為だよ」

「分かりました。じゃあ、私も着いていきますっ」

 梓の唐突な提案は、律を慌てさせるに十分だった。
唯を部屋に置いたまま出掛ける訳にもいかず、律は懸命に両手を振る。

「えっ?いやいや、大袈裟だよ。
一人で行けるって」

「でも、心配です。
それに本当に大した事がなかったのなら、その後、二人っきりで過ごせるじゃないですか。
熱とかあるのなら、私にだって看病くらいできます。
そういう恋人らしい時間、久しぶりに作ってくれませんか?」

 実は性に関する心配事で、とでも言おうか。
それで羞恥の名目で同行を拒もうかと律は考えたが、すぐに使えない言い訳だと気付いた。
性病を匂わせる嘘では、感染が心配だという理由で梓は付いてくるに違いない。
ならば、病院の後にも用事があると言おうか。
律がその用事の内容をどう繕おうか、思考を巡らせ始めた時だった。

「りっちゃん、どういう事?」

 律の背の後方から、心底まで凍て付かせるような声が響いてきた。
律は自然と強張った顔で、恐る恐る振り向く。


 階段に仁王のように屹立し、律を憤怒の形相で睥睨する唯の姿が視界に映る。

「律先輩?」

 梓も不穏な空気を感じ取ったのか、律の名を訝しげな声音で呼んでいる。

「いや、違くて……」

 律はそれきり、言葉を失くして黙り込んだ。
どう繕っても、切り抜けられるような状況ではない。

 律が固まっているうちに、唯は静かな足音で階段を下り始めた。
その一歩一歩を、閻魔の判決を待つ咎人の心持ちで律は数える。
階段を下りきっても唯は止まらず、更に律へと近付いてきた。
自然と、律の身体までも警戒に強張る。

「ねぇ、私の靴は?」

 服が擦れ合う距離まで来て、唯は漸く立ち止まって問い掛けてきた。
律は無言で、下駄箱の下を指差す事が精一杯だった。

「隠してたって事はさ。
私が居るってあずにゃんに知られると、疾しいって事だよね?
ふーん?あずにゃんとも、そういう関係なんだ」

 屈んで靴を取り出している間も、唯は糾弾の言葉を緩めていない。
その唯の言葉に触発されたように、梓も語気を強めて問い質してきた。

「あの、律先輩。どういう事なんですか?
私ともって、唯先輩とはどういう関係なんですかっ?」

「どういうって、説明には困るんだけど……」

「恋人だよ。少なくと、りっちゃんからそう聞かされてる。
澪ちゃんと別れてくれる、っていう話だったんだけどね」

 律が答えあぐねているうちに、唯が代わって説明していた。

「なっ?じゃ、じゃあ私は何なんですかっ、律先輩っ。
唯先輩にまで手を出してたなんて……」

 梓も表情に怒りを漲らせ、険しい目で律を睨んできた。
二人に詰め寄られた律は、気弱に視線を逸らす事しかできない。
逸らした先は、玄関の先にある外だった。
目がそこで紬の姿を捉えて、律は思わず口から驚きの声を上げる。

「えっ?」


「お取り込みの所、失礼するわね。
どういう事か、私も聞きたいわー」

 律と目が合った紬は表情に微笑みを広げて言うが、傍から見ても繕われた笑みだと分かる。
内心に反して笑む事の限界を訴えるように、紬の頬が痙攣しているのだから。

「ていうか、ムギ、どうして、私の家に?」

「お菓子を作ろうって約束してたでしょ?
でもあの日はりっちゃんと初めて寝て、それ以来、有耶無耶になってたから。
だから今日、家で作って持って来たのよ」

 そう言われて、律は紬が手にラッピングされた袋を持っている事に気付いた。

「なっ、ムギ先輩にも手を出してたんですかっ?
信じられない……」

「もうさ、私、誑かされたようにしか思えないな。
……いい加減にしてもらえないかな?」

 梓と唯も順に、律へと更なる呆れと怒りを伝えてきた。

「そういう事みたいね。
……こんな物作って、私馬鹿みたいっ」

 紬は彼女に似つかわしくない咆哮を上げると、乱暴に袋を破った。
その勢いのまま、中身のクッキーが地へと散らされる。
紬は激しい地団駄で、クッキーを踏み潰し始めた。
その粗暴な姿に、律は声を掛ける事もできなかった。
このような乱れた紬を、律は今までベッドの上でさえ見た事がない。

「りっちゃん。もし、私の心を弄んだのだとしたら。
絶対に、絶対に許せないわ。
初夜の言葉の通り、絶対に私と付き合ってもらうから」

 クッキーを粉々にした紬が、律を見据えながら宣した。
それが口火となったように、梓と唯からも同様の声が上がる。

「ちょっ、ムギ先輩、何を勝手な事を言ってるんですか。
律先輩は、私の事を大好きだって言ってくれたんですよ?
私と付き合って貰うんだからっ」

「りっちゃん、私、何度も言ったよね?離れたら嫌だって。
りっちゃんの事、何回も気持ちよくさせてきたよね?
なのに今更私を捨てるなんて、絶対に許さない。
私と付き合わなきゃいけないって、分かるよね?」

 三人の矛先は律のみならず、互いにも向き合っている。
律にとって自分に対する追及が緩む事は有り難い反面、
ここで騒然と争われる事は歓迎できなかった。
家が近い澪に、この騒ぎを察知されたくはない。
澪に対する露見を防ぐ為、律は窘めるように言う。

「まぁ、落ち着いてよ。こんな所で騒いでも、近所迷惑なんだしさ」


「落ち着けって、どの口が言ってるんですかっ?
律先輩が原因を招いたんですよ?」

 猛る梓の言葉も尤もだが、自分が招いた原因だからこそ言える事もある。

「まぁ、だからこそ、騒ぎを鎮める責任が私にあるっていうか。
どうあれ、大声で騒いだら、近所に迷惑でしょ?それは本心だよ」

「ていうか、その近所って、澪ちゃんの事じゃないの?
澪ちゃんに聞かれたくないんでしょ?不倫、隠したいから。
いいよ、聞かれても。澪ちゃんが参戦するなら、返り討ってあげる」

 律の思惑を見透かしたかのように、唯が挑発的に言い放った。
図星を衝かれた律が戸惑う間にも、梓が唯に続いて言う。

「丁度いい機会です。澪先輩も交えて、じっくりと話し合いましょう」

「ええ、受けて立つわ」

 紬までもが二人に同調して、気勢を上げる。
このままでは本当に澪を巻き込みかねないと、律は危惧した。
もし澪に見つかってしまえば、唯達を相手とした不倫も終わってしまう。
まだ、それは避けていたかった。

「そう言わずに、ちょっと待ってよ。
私が悪いのは認めるから、ちょっと猶予が欲しいな。
時間さえもらえれば、ちゃんと一人に絞るからさ。
それまで放っておいて欲しいな」

 自分の口にした提案など、一時凌ぎに過ぎないと律とて分かっている。
だが妙案が浮かばない以上、まずはこの場を切り抜ける事が先決だった。

「りっちゃんさ、澪ちゃんと別れる別れるって言いながら、
今まで実行に移してくれなかったよね?
なのに今更、信じろって言うのかなぁ?この場で私を選んでよ」

 先程も律の目論見を看破した唯が、まずは提案に難色を示した。
更に紬も続く。

「そうね。私だって、澪ちゃんとは別れるって聞いていたわ。
それができていないのに、本当に一人に絞ってくれるの?
今、私に決めて欲しいわ」

「大体、猶予とか時間とか、具体的にどれくらいですか?
いえ、答えなくて結構です。今、私を恋人だって宣言してもらいますから」

 梓も加勢して、律に即断を迫ってきた。
苛立った律は、半ば自棄になって言う。

「何さ、私の立場も考えてくれないなんて、嫌いだもん。
少しくらい、待ってくれてもいいじゃん。
私を恋人にしたいなら、信じてよ。信じてくれない人なんか、別れてやるもん」

 言った後で、律はすぐに後悔した。
怒りに滾っている者達の神経を逆撫でしては、暴力に訴えられかねない。
体躯で劣る律にとって、有形力を行使されては圧倒的に不利だった。


 だが今の三人に、律を責める様子は見られなかった。
お互いを牽制するかのように、三人の間で視線が巡り合っている。
実際に牽制しているのだと、すぐに律も気付いた。
もし自分だけ律の提案を拒めば、自分だけ脱落してしまいかねない。
その危惧が彼女達にはあるのだろう、と。
自棄で言った言葉が思わぬ効果を生んで、律は内心で僥倖を喜ぶ。

「まぁ仕方ありませんね。少し、待つ事にします」

 まず、梓が折れた。こうなれば、他の二人も折れてくれる事だろう。
拒んでしまえば、自分は脱落して梓だけが検討の対象となってしまうのだから。

「分かったわ。その代わり、あまり待たせないでね」

「もう、りっちゃんの好きにしてくれていいよ。
そこまで言うなら、私だって待たなきゃ始まらないし」

 律の予想したように、紬も唯も順に提案を呑んでくれていた。

「ありがとねー。なるべく、結果を早く出すようにするからさ。
まぁ、今日のところは、家で休んでてよ。
私だって、早速一人で熟慮したいし」

 提案が通った事で、早速律は帰るように三人を促した。
唯達は渋々と言った様子ながらも、律に逆らう事なく家路へと就いてゆく。
彼女達が異口同音に放つ「お邪魔しました」という言葉には、
乾いた形式的な響きしか籠もっていなかった。

 律は三人の背を見送った後で、玄関を閉めて部屋へと戻った。
澪とショッピングに行こうとは、もう思っていなかった。
急場を凌いだこの問題と、早速対峙しなければならないのだ。
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