「清純だなんて……。私、清純なんかじゃないわ。
今、とってもドキドキしちゃって、熱く疼いてるの」

 紬の潤んだ瞳が熱を帯びて、律に注がれる。
律は柔らかく笑むと、紬の瞳を正面から受け止めて言う。

「清純だよ。そんな気持ちになるの、私に対してだけでしょ?
さ、私だけに、ムギの肌、全部見せてよ」

「わ、私も見たいっ。りっちゃんの、見たいわ。
先に……駄目?」

 上目で遠慮がちに問う紬に、律は身体を開いて答える。

「いいよ。まずは私から見せる。でも、ムギが脱がせて?
ムギのは、私がヴェールを剥いであげるから」

「う、うん。じゃあ、りっちゃんの、見せて、もらいます」

 その声同様に震える紬の腕が、律の背へと回される。
律はその直後に、背を向けるべきだったと気付いた。
手慣れていない紬には、正面からホックを外すこの体勢は敷居が高いに違いない。
実際、紬の指はブラジャーの紐を捩るばかりで、遅々としてホックを外せずにいる。

「あー、ごめん。難しいよね。上はいいや、自分で外す。
胸なら、自分でできるよ。
その代わり、下はお願いね。ちょっとそっちは、恥ずかしいから」

 表情に焦燥が浮かび始めた紬に、律は助け船を出した。
同時に、初な紬に合わせて、恥じらいを演出する事も忘れなかった。
実際には、短期間で不倫を重ねた律にとって、既に羞恥心など希薄になっている。

「あ……ごめんね、りっちゃん」

 見るからに落ち込んでいる紬を慰めるように、律は言う。

「気にしないでよ、ムーギ。
私の気が利かなかっただけだからさ。お詫び」

 律は後ろ手にホックを外して、ブラジャーを重力のまま落下させた。
そのブラジャーが床へと落ちる前に、紬の口から息を呑む音が聞こえてきた。

「綺麗……」

 布地が床に落ちて乾いた音を響かせた直後、紬が律の胸を凝視しながら惚けた声で呟いた。


「いや、こんなに小さいと、綺麗も何もないでしょ」

 律は苦笑を交えて謙遜したが、内心は満更でもなかった。
大きさはともかく、形に自信がないわけではない。
紬も認めてくれたのだと、張りのある三角錐を見下ろしながら思った。

「そんな事ないわ、サイズじゃないもの。宝石は小さくても高価よ。
……ねぇ、ちょっと、触ってもいい?」

 遠慮がちに訊いてくる紬に、律は小さく笑いながら返す。

「駄目だって言うのなら、脱いだ意味がないよ。
でも、あまり焦らされると辛いから、少しだよ?
どうせお互い裸になったら、触り合うんだしさ」

 紬の口から、気付いたような短い声が漏れた。

「あ……それを考えると、改めて恥ずかしいわ。
でも、こんな愛おしいもの、触らずにいられないの」

 紬は言い終わらぬうちに、律の乳房を両手で包み込んでいた。
言葉が終わるとそのまま律の乳房は撫で回され、優しい力で揉まれてゆく。
滾る性欲のままに律を求めてきた唯や梓と違い、慎み深い愛撫だった。

「ね、りっちゃん。この、先端部分も触っていいかしら?」

 紬が揉む動きを休めて、指を律の乳首の周りで回しながら問うてきた。
律が小さく頷くと、紬の指が恐る恐るといった様子で乳首へと伸びてくる。
そうして微かに触れた途端に紬は一旦指を引っ込めて、再び触ってきた。
二度目に触れた紬は離す事なく、乳首を回すように弄ってくる。
それに対して律は呼気を荒げるだけに留められたが、
乳首を摘まれて引っ張られる段になると堪らず喘ぎ声が漏れ出ていた。

「あ、ごめんね、りっちゃん。
痛かった?つい、夢中になっちゃって」

 律の声を痛み故だと思ったのか、紬が指を離して謝ってきた。

「んーん、気にしないで。感じちゃったからで、痛いとかじゃないから。
でも、感じたせいか昂ぶっちゃって、私もムギが欲しくなっちゃったな。
ね、そろそろ、私の全て、見て欲しいな」

 まだ胸は刺激を欲しているが、律はその欲求に靡く事なく紬を促した。
行為が途切れたこの機を逸してしまっては、紬との性交が遠のいてしまう。
この程度の愛撫よりも深い繋がりを、律は求めているのだ。


「そうよね、少しって、約束だったものね。
じゃあ、りっちゃんの大切な部分、見せてもらうわ」

 紬は律に応えて屈むと、ショーツの両端を指で掴んだ。
その段になってもまだ躊躇いがあるのか、紬は上目で律を見上げながら問い掛けてくる。

「ねぇ、本当に、いいのよね?私なんかで、いいのよね?」

「うん。私は、ムギがいいんだよ」

 律が面倒がらずに肯定してやると、紬も漸く覚悟が固まったらしい。
ゆっくりと、律の腰からショーツを下ろし始めた。
だがすぐに、紬の動きは再び止まってしまった。ただ、今度は躊躇った訳ではないだろう。
それは紬の硬直した目線を追えば、知れる事だった。
眼前に開帳された律の性器に目を奪われて、動く事さえ忘れているだけなのだ、と。

「これが……りっちゃんの……綺麗……」

 長引く沈黙と凝視に耐えかねた律は、声を掛けようと開口しかけた。
その時、紬の口から途切れ途切れの呟きが聞こえてきた。
赤く火照った顔同様、熱に浮かされたような口調だった。

「ありがと。それ、ムギが好きにしていいんだよ?
でもその前に、その準備はちゃんとしないとね?」

 律に指摘されて、紬は我に返ったようだった。

「あ、ごめんね。つい、見惚れちゃって」

 紬は律の性器に目を注いだまま、太腿で止まっていたショーツを一気に下ろした。
望んでいた性器が眼前にある事で、気が急いているのだろう。
律も気持ちは同様だった。
足を片方ずつ持ち上げてショーツから外す間にも、紬を求める情欲は高まり続けている。

「これ、どこに置こうかしら?」

 辺りを見回す紬の両手には、律のショーツが大切そうに包まれている。

「その辺に置いといていいよ」

 律の大雑把な指示にも、紬は的確な対応を見せた。
ショーツをベッドの隅に綺麗に畳んで置き、
更に床に落ちていたブラジャーもその上に畳んで重ねてくれた。


「ありがと。ムギってさ、律儀だよね。
次はムギの大胆なところ、見てみたいな」

「分かってるわ。りっちゃんだって、全部見せてくれたんだもん。
私も、全部、見てもらうわ。見て欲しいの」

 紬の手が背中へと回り、深呼吸が繰り返された。
そうした逡巡を数秒程経て、紬も思い切りが付いたらしい。
紬の瞼が強く閉じられて、ブラジャーが胸から舞い落ちる。

「りっちゃんっ」

 露わになった乳房を律が目に焼き付けるよりも早く、紬が抱き付いてきた。
押し付けられているのでもう乳房は見えないが、
包まれるような柔らかい感触を通じてその大きさが伝わってくる。
自分が紬を抱き止めているはずなのに、まるで抱擁されているような感覚さえ受けた。

「こーら、ムギ。それじゃ、見えないでしょ?」

 律が窘めても、紬はなかなか離れようとはしなかった。

「だ、だって。恥ずかしくって……」

「だーめ。こんなに素敵なもの持ってるんだから、
勿体ない事してないで見せてよ」

 律は紬の肩を押して引き離すと、改めて乳房に見入った。
尖鋭的な傾斜で僅かに膨らむ律の胸とは違い、
紬の胸には椀を裏に返したような緩やかな傾斜が広がっている。
乳房に比して乳輪も乳首も小さく、綺麗な薄桃色だった。

「やぁ……そんなに見つめないで。恥ずかしいわ……」

 律が凝視していると、紬が両腕で胸を隠してしまった。
性的な穢れのない紬には、羞恥の念が一際強いのだろう。

「こんなに綺麗な胸してるんだから、恥ずかしがってたら勿体ないよ」

 律は微笑みながら、紬の乳房を指で押した。

「ぁ……」

 紬の口から震えた吐息が漏れ、律の指には心地好い弾力の感触が残る。


「ふふ、ムギって敏感なんだね。それとも、胸が弱いのかな?
ま、今はいいや。後で確かめさせてもらうよ。
その時は恥ずかしがらず、見せて触らせて、そして弄らせてね」

 紬の身体は緊張に硬直し、額には薄っすらと汗が滲んでいる。
それは、後で、という律の言葉に紬が見せた敏感な反応だった。
いよいよ全てを見せる時が来た、と察知したのだろう。

 律が指をショーツに掛けると、紬の緊張は更に顕著なものになった。
肉体が小刻みに痙攣して、大きな瞳は涙を湛えて潤んでいる。

 紬の見せる一々初々しい反応に、律は澪と初めて溶け合った夜を思い出した。
思えばあの時の自分も、肌を見せる事に大きな躊躇いがあった、と。
それでも一度全てを見せてしまえば、以降は気が楽だった。
その経験則を活かして、律は紬の羞恥に頓着せずにショーツを下へと引いた。

 糸を引きながらショーツが股から離れ、同時に性器が露わになった。
律は紬がそうしたように、一旦ショーツを止めて眼前の光景に眺め入る。
強烈な印象を残した澪や唯、梓とは違い、上品な性器だった。
陰毛は薄く、淡い桃色の性器がよく見える。
性器とショーツの間に引かれた糸も光を反射して、艶のある輝き放っていた。

「やっ、あまり、見ないでよぅ……」

 紬の両手が伸びてきて、性器を覆い隠してしまった。
それでも律の脳裏には、すっかりと焼き付いている。

「糸を引くなんて、ムギ、相当我慢してたんだね。
いつからそんなに濡れてたの?」

 律が問い掛けると、紬は羞恥に染まった顔を背けた。

「やぁ、そんな事、言わないでよぉ。
だから、見せるの恥ずかしかったのよ。
性にだらしのない淫らな女だって思われそうで」

「淫らだなんて思わないよ。そんなになっちゃうの、私に対してだけでしょ?
それってさ、私にそこまで興奮してくれたって事でしょ?
嬉しいなって、私はそう思ってるんだよ。
さ、ムギ。足上げて?」

 紬のショーツを足首まで下ろしてから、律は促した。
紬はすぐに応じて、足を片方ずつ上げてくれた。

「ちょっと、待っててね」

 律は紬に倣ってショーツとブラジャーを綺麗に畳むと、
ベットの隅に積まれている自分の下着類と並べて置いた。


「ありがとう、りっちゃん。それで……」

 靴下を残して裸となった紬は、律の先導を待つように佇んでいる。
律はそんな紬を抱き寄せると、身を重ねたままベッドへと押し倒した。

「ムギー、大好きー」

「りっちゃん、私も、んっ」

 紬にみなまで言わせず、律は唇を唇で塞いだ。
そうしてお互いに舌を絡ませ合った後、どちらともなく唇を離して見つめ合う。

「夢みたい、りっちゃんと、こういう関係になれるなんて。
私ね、醜いと思うかもしれないけど、澪ちゃんに嫉妬もしていたの。
考えた事もあったわ。
眉毛を剃って、髪の毛を黒く染めてストレートパーマを当てたら、
りっちゃんも振り向いてくれるかな、って。
でも、できなかったわ」

 始めは陶酔に浸っていた紬の声は、語るうちに重々しい調子を帯びていった。
律にはそれが、懺悔のようにも聞こえる。

「澪に罪悪感を覚えちゃったから?
でもそれ以前に、ムギは今のままでも、十分に可愛いのに。
特に髪の毛なんか、色も綺麗だしふわふわしてて、私大好きだよ」

「ありがとう。ええ、勿論、罪悪感もあったわ。
澪ちゃんには確かに嫉妬もしていたけれど、大切な友達でもあったし。
そんな人と競い合うなんて、したくなかった。
でも、それだけじゃないの。んーん、それは決定的な理由じゃないの」

 それ以外にどのような理由があるのか、律の好奇心を引いた。
早く紬と淫らな行為に耽りたいという欲求を堪えて、律は問い掛ける。

「じゃあ、決定的な理由ってなぁに?」

「この髪の毛に、あまり手を加えたくなかったから。
この髪はね、母から受け継いだものなの。
それは私が、日本人とは違う血筋を持っている証で、母との繋がりを示すもの。
母にとっては異国の地で、本当は心細いかもしれない。
そんな時に私を見て、故郷の血は繋がってるんだっていう安心感を持って欲しいの」

 語る紬の目は、何処か遠くを見ているようだった。
北欧の第二の故郷に思いを馳せているのかもしれない。

 律は頷きながら、そういえばハーフも初めてだ、と話とは関係のない事を考えていた。
普段は意識していない紬の希少性を、律は改めて噛み締める。
律にとっては紬の肉親よりも、肉欲に繋がる話の方が関心事だった。

 そんな律の胸中に気付く事なく、紬は言葉を続けていた。

「だからね。りっちゃんが、この髪の毛を褒めてくれて、嬉しかったわ。
私にとって、もう一つのアイデンティティだったから。
皆、私を半分しか見ていない。でもりっちゃんは、もう半分の私も見てくれているのね」

 紬は嬉しそうに微笑んだが、律は既に話などどうでもよくなっていた。
そもそも紬は誤解している。律は紬の事など、性の対象としか見ていないのだ。

「うん。そしてこれからは、今まで私も知らなかったムギが見たいな。
さ、もっと深く、ムギを見せてよ。
素直な欲望を、私にぶつけてよ」

 律は紬の陰門の奥深くへと指を滑り込ませて、性交の開始を告げた。
慣れていない紬は挿入に痛みを覚えたのか、口から荒い息を断続的に吐き出している。
都合が良かった。
言葉を奪う事ができたのだから。



5