*

2.

 律が部室に入ると、既に梓が居た。
ソファに座ったまま律を見上げて、一礼と挨拶で迎えてくれた。

「こんにちは、律先輩。今日は皆さんと一緒じゃないんですね」

「うん。ていうか、来ないよ。唯は憂ちゃんのお手伝い。
で、ムギは傘下企業のイベントがあって、
それの手伝いに駆り出されてる」

 律が言葉を返すと、梓は思い出したように言った。

「ああ、そういえば、憂も言ってましたね。
今日はシーツやらの寝具をクリーニングに出すから、大変だとか。
それを唯先輩も手伝うなら、嵩張っても安心でしょう。
でも、珍しいですよね、唯先輩が手伝うなんて」

 梓の鋭い指摘に、律は糾弾された思いだった。
一昨日の激しい性交では、律と唯から大量の体液が溢れてベッドを汚してしまった。
その事に対する負い目もあって、唯は手伝うのだろう。
反面、同じくベッドを汚した自分は何もしていない。

「まぁ、唯も漸く姉としての自覚が出てきた、って事じゃないかな?
でもムギこそ大変だろうね。誰よりも大変な事をやれ、って父親から厳命されたらしいし」

 後ろめたい思いから、律は話を逸らした。

「へぇ、企業トップの一人娘なのに、ですか?」

 梓は案の定、興味津々といった様子を見せている。

「いや、だからだろうね。
ムギの会社も大変で、その傘下企業には切り売りの憶測さえ飛び交ってるらしい。
だからまぁ、それ否定して士気を上げる為に、経営陣との一体感を見せたいんだってさ。
その為にも、泥に塗れて機材搬入とかの大変な仕事をやれと」

「律先輩、よく知ってますね。
ムギ先輩の会社が大変だなんて、私、初めて知りました」

 そういえば、と律は思う。
紬は自分以外に、弱みを見せた事などなかった。

「ムギが言ってた。それだけ、心細いんだろうね。
日本はともかく、フィンランドの方でちょっと、いやかなり、ね」

「例のソブリン問題ですか?
でもフィンランドって、ドイツやオランダみたいにその逃避先として機能してませんでしたか?
国債利回りマイナスってニュース、見た気がします」

 律は意外に感じていた。
梓が音楽以外の知識を持っているとは思ってもみなかったのだ。
話が通じると分かり、自然と律の口も滑らかになる。

「へー、詳しいね。
まぁ確かに国債はそんな感じだけど、国の財政ファンダメンタルズとは違う話だよ。
そもそもソブリン問題じゃなくて、
今時よくある話だけど、アップルやグーグル、サムスンに勝てなかったって理由で、
ノキ何とかって向こうの大企業が危ないらしいんだ。
その煽りを受けて、そこと間接的にせよ繋がりのある事業が痛手を食ってるらしい」

 全て紬からの受け売りだったが、梓は感心したような表情を浮かべている。


「律先輩の方こそ、詳しいじゃないですか。
学校の勉強はさっぱりなくせに、どうしちゃったんですか?」

「中野ぉ。お金になりそうな事は勉強してるのっ。
学校の勉強より、そういう勉強の方が有意義だし。
それに、学校の成績だって唯や梓より上だよ」

 律は紬から聞いた話だという事は、伏せたままにしておいた。
単に自分の能力を高く見せたいだけではない。
他人の家の懐を話し過ぎてしまったのではないか、という懸念があったのだ。
口が軽い人間に見られたくなかった。

「それを言われると、耳が痛いです」

 梓は耳を抑える仕草を見せた。
自然、律は慰めるように言う。

「梓だって、充分に詳しいよ。
債券利回りと価格の逆相関なんて、大人でも誤解してる人が居る分野だぞ」

「だって、律先輩とかムギ先輩とか、そんな話ばかりしてるから。
負けたくなくて、私も少し勉強したんですよ」

 梓は勘違いしているようだった。
律はただ紬の話を聞いているだけで、自分からファイナンシャル・リテラシーを披歴した事はない。
そもそも律は紬の話を聞いても、理解に至らない事が多々あった。

「いや、私だってムギに比べれば全然だよ」

「確かにムギ先輩、詳しそうですよね。
あの人はそういう話に限らず、ここでは澪先輩に次いで成績もいいですけど。
ん?そういえば、澪先輩は?」

 今気づいたのか、梓は律に問うてきた。
待っていたとばかりに、律は用意していた言葉で応じる。

「ん、唯もムギも居ないからさ、今日の部活は中止って伝えちゃった」

「え?でも、私聞いてないですよ?
それに、律先輩だって来てます」

 梓の首が訝しげに傾いた。

「ん、偶には梓と二人で練習するのもいいかなー、とか思って。
澪や唯と一緒だと、梓ってその二人ばっかりと話するもんな。
梓の事を良く知って近付くいい機会かなーって」

 律は本音を混ぜて言った。
確かに律は、これを機に梓に近付こうと思っている。
だが梓が受け取るであろう意味は、律の本意と異なるに違いなかった。
律は単に、友情や仲間の延長として絆を深めたいのではない。
唯に続いて、梓も試してみたくなっていたのだ。

 律は梓の外見や性格が、澪に似ていると感じる節が多々あった。
一方で、体型を始めとして異なる部分も少なからずある。
本命の澪から逸れずに新しい刺激を求める相手として、理想的に思えた。

「それを言うなら、律先輩だって人の事を言えないじゃないですか。
いっつも澪先輩にべったりです。
それで偶に離れたかと思えば、唯先輩と戯れたり、ムギ先輩と話し込んでたり」

 梓はそこまで言った後で顔を朱に染め、焦ったように付け足してきた。

「って、何言わせるんですか。
ま、まぁとにかく、律先輩が私との会話を重視しているのなら、
それは間違っていない傾向だとは思います。
私だって、律先輩とはあまり話せていませんでしたから」

 梓も自分との会話を望んでいると分かって、律の内心は歓喜に満ちた。
この調子ならば、近付く事も容易に思えてくる。
律は悪戯っぽい笑みを浮かべて、梓の隣に腰掛けながら言う。

「へー、梓も私と話したかったんだ?嬉しい。
いっぱい話そうなー」


「でも、話すって言っても、何を」

 梓は緊張したように目を逸らした。
普段、先輩の律や唯が相手でも、遠慮なく意見を言う梓にしては珍しい態度だ。
自分から話を振った手前、律は会話を主導してやった。

「そうだなー、年頃の女子らしく、恋の話でも。
好きな人の打ち明けっこ、とかさー」

「律先輩の好きな人なんて、分かりきって」

「どうせ澪だと思ってるんでしょ?」

 梓が言い終わらぬうちに、律は言葉を割り込ませた。
途端、梓の驚きに満ちた目が、律へと向けられる。

「え?違うんですか?」

「うんっ、梓が好き」

 冗談めかして、律は言った。
梓の緊張を解しつつ、安全圏から反応を探ろうとの意図がある。

 だが予想外にも梓は、急に戸惑ったような態度を見せてきた。

「えっと、好きっ、て……。そういう意味の、好き、なんですよね?
えっと……」

 言った後で、梓は顔を染めて俯いてしまった。
律の言葉は、冗談に捉えられなかったようだ。
冗談めかした態度に込めた二つの意図は、完全に空振っていた。

「えーと、梓?」

 完全に予想外の事態に、律はそう声を掛ける事が精一杯だった。
次の言葉が続かない。

「律先輩っ」

 どう出るべきか迷っていた律は、急に声を掛けられて驚いた。
反射的に目を向けた途端、いつの間にか顔を上げていた梓と目が合った。
自分に向けられる眦を決した表情が気になり、律は訝しげに梓の名を呼ぶ。

「梓?」

「恋の話でしたよね?つまり、そういう意味の好きなんですよね?
今更、撤回なんて許しません。
そういうのが許されない言葉だって、重く自覚してもらいます」

 決然と語る梓の言葉を聞いた律は、反応を返す前に口を塞がれてしまった。
梓の唇が律の唇に重ねられ、言葉など出る余地もない。
律は唐突な行動に驚いたが、梓の唇の心地好さに抵抗する気をすぐに失くした。
もともと、梓とこういう仲になる事が狙いだったのだ。
予想よりも早まっているが、目的から逸れた訳ではない。
言葉を失う代償で目的が果たせるのなら、梓の情動に身を委ねていても構わなかった。

 だが梓の情動は、言葉を奪っただけでは終わらなかった。
律の唇を割って、梓の舌が口腔に侵入してきたのだ。
瞬く間に絡め取られた律の舌へと、梓の舌の生暖かい感触が伝わってきた。
途端にうなじが総毛立つように震えて、律は思わず首を竦める。
そのような律へと追い討ちを掛けるように、梓の舌は器用に動いた。
律の舌に絡ませては解きを繰り返しながら、隈なく口内を舐めるように這い回っている。
そうして梓の執拗な舌に口内を犯し尽くされた頃、漸く律は解放された。


「ごめんなさい」

 口と口の間に引かれた唾液の糸を拭おうともせず、梓が呟いた。
衝動的に唇を奪った事を悔いて謝罪したのだろうと思ったが、
どうも違うらしい事に律はすぐ気付いた。
そもそも梓の瞳は、自分を捉えてなどいないのだ。
梓の視線は律の頭上を通り越して、その後方へと向けられている。
律も梓と視点を合わせようと、首を振り向かせた。

 律の目に、壁に貼られたコルクボードが飛び込んできた。
コルクボードには軽音部の活動を写した写真が、何点も画鋲によって貼り付けられている。
夏祭りに出向いた際や合宿に行った時、
ライブハウスのチルアウトスペースや何気ない部室でのティータイム。
状況も場所も様々だが、貼り付けられた写真に部員が誰かしら映っている事だけは一貫している。
田井中律、中野梓という今部室に居る自分達二人を含め、
平沢唯、琴吹紬、そして──

「澪先輩、許してください」

 再び呟かれた梓の声に引き戻されるように、律は首を前へと向け直そうとした。
だが、梓の顔を見る間もないまま、律の身体はソファーに押し倒されてしまった。
それでもすぐに圧し掛かる梓を見上げて、律はその表情を窺う事ができた。

 強い決意の漲った顔が目に映り、律は思わず固唾を呑んだ。
律が緊張に身を固めている間にも、梓の口からその表情に負けぬ強い言葉が放たれてゆく。

「不慣れですし、昂ぶり過ぎていますから、痛くするかもしれませんが。
声はなるべく、抑えて下さい」

 自身のブレザーのボタンを外す動作と相俟って、律は梓が本気だと分かった。

「あのー、梓しゃん。ここ、部室だよ?学校、だよ?」

 予想外に性急な梓に戸惑った律は、思い出させるように言った。
確かに、いずれは梓とこういう関係になりたいという思いが、
律が仕掛けた今日のアプローチに繋がっている。
だが、ここまで梓が積極的になろうとは思ってもみなかった。

「だからどうしたって言うんですか。だって、澪先輩達は、来ないんですよね?
それに私、もう我慢できない」

 梓の指が、律のワイシャツに伸びてきた。
だが、その手を払い除けようとは思わなかった。
強硬な態度で梓を拒んでしまえば、今後同衾する機会さえ遠ざけてしまう。
故に、柔和な姿勢で梓を諌める必要があった。
そもそも律は梓に犯されたくないのではない、場所が問題なだけだ。
その事を伝えれば、強行な手段に頼らずとも済むように思えた。

「いや、別にエッチは構わないんだけど。家に帰ってからにしない?」

 既に律のワイシャツのボタンを外し始めていた梓は、その指を止めずに見返してきた。

「言ったじゃないですか、我慢できないって」

「いや、でもさ。やっぱり、学校は不味いよ。
澪達は来ないけど、誰か来たりしたら。さわちゃんとかさ。
家に帰ってからの方が」

「無理なんですよっ、見て下さいっ」


 律の言葉は、室内を劈く梓の叫喚で遮られた。
そのまま間断のない動作で梓の腰が浮き、履いているスカートがたくし上げられる。
そして律が止める間もなく、ショーツさえも下ろされた。
ワイシャツのボタン一つだけ残して肌蹴た律の目に、梓の性器が飛び込んでくる。
梓の小柄な体躯からは想像できない形相に、律は息を呑んだ。

 唯よりも濃い陰毛の奥に、やや黒みを帯びた陰唇が蠢いている。
それでも生々しい肉厚の陰唇である為、
黒々と茂る陰毛の中でも色褪せる事なく存在を際立たせていた。
唯が熟して爆ぜた果実ならば、梓は生臭い海産物に喩えられる。
蠕動と厚みとそして塗れた体液が相俟って、律はアワビを具体的に連想していた。

 律が性器に見入って言葉を失くしているうちに、梓が続けて言う。

「もう、こんなに濡れちゃってるんです。
律先輩の……せいですよ。告白なんてするから、
毎夜々々の習慣に留めていた情欲が反射的に蘇えっちゃって、止まらないんです。
こんな疼いた状態で家まで我慢なんて、無理ですっ。
もし家に誰か居てできなかったら、考えただけで耐えられないっ」

 猛る梓の声には、切なさと激しさが入り混じっていた。
もう一刻の猶予さえない、という差し迫った欲情がありありと表れている。
説得は無理そうだと感じた律は、早々に受け入れる覚悟を固めた。
強硬に拒んで今後の関係に響かせるくらいなら、
学校で行為に及ぶという危険を冒した方がまだ良かった。
自分こそ淫乱だ、と。律は胸中で苦笑する。
その淫らな仲間に梓も巻き込むべく、分かりきっている事を律は問い掛けた。

「その、毎夜毎夜の習慣って?」

「律先輩の事を想って、毎晩毎晩、ここを弄ってるんです。
弄り過ぎたせいで、こんなになっちゃいましたけど。
でも、これだって、律先輩を恋い慕う気持ちが強い証なんですっ。
絶対に今、受け取ってもらうんだから」

 梓は恥じらう素振りも見せずに返答してきた。
取り繕う余裕など、何処にもないのだろう。
零れ落ちそうな梓の理性を感じ取った律は、ワイシャツの最後のボタンを自ら弾き飛ばして言う。

「分かったよ。私だって、梓に私の身体、受け取って欲しいし。
ねぇ、食べて?梓の身体も、食べさせて?」

「ええ、頂きます。律先輩も、どうぞ」

 そう言ってすぐに梓は体位を変えて、律に臀部を向けてきた。
そのまま律のスカートとショーツを纏めて荒々しく下ろし、陰唇に舌を這わせてくる。
性器から押し寄せる心地好い感触に蕩けそうになりながら、
律も梓のスカートに顔を潜らせて性器に口付けた。
スカート内には饐えた匂いが籠もっているが、律の嗅覚は不快を訴えていない。
逆に、淫らな匂いとして捉え、律の快感と興奮を増幅させている。
陰唇に舌を挿し入れてみれば、塩辛さに似た味覚で口中が満たされた。
それもまた、淫らな味だと律は感じた。


「あはぁ、ごめんなさい、律先輩。
今日、体育で激しい運動したから、蒸れちゃってて匂いますよね?
こんなだから、本当は家に帰ってシャワー浴びてからの方が良かったんですけど。
でも、我慢できなくって」

 梓が申し訳なさそうに謝る声を、律は彼女のスカートの中で聞いた。

「んーん、梓本来の匂いって感じがして、大好き」

 再び梓の匂いを鼻腔に吸い込んでから、律は答えた。
唯とはまた違う種類の雌の匂いが、律を深みに嵌めてゆく。

「私も、律先輩のここ、大好きですっ。
ピンク色のコスモスが、シナモンみたいな匂い放ってるようで。
私、自分のケバいそれが恥ずかしくなりますよ。
いいなぁ、可愛らしくって」

 自分の性器を褒められた事は嬉しいが、律とてそこに劣等感が皆無という訳ではない。
律は梓の性器から口を離して、愚痴を零すように言う。

「私だって梓のここ、羨ましいよ。
成熟してるっていうか、インパクトがあるっていうか。
毛だって、ちゃんと生えてるし。
それに比べて、私のって何か幼いよね」

「幼いだなんて。さっきも言ったように、可愛い、って言うんですよ。
無駄毛だって、処理とか面倒ですよ?
いや、今日まで見せる相手が居なかったから、私はサボりがちでしたけど」

 梓にせよ、自身の性器に劣等感を抱えているらしい。

「ふーん、梓は梓で、苦労があるんだね。
ね、でもね、よく考えてみると、
自分の性器に不満でも相手の性器が好きなら、それでいいような気がするんだ。
だって、舐めたりできるの、相手の性器だけなんだし。
ね、だからね、お互いに好きな性器、貪り合お?」

 律は腰を前後に揺らしながら言った。
淫靡な雰囲気に酔わされた律は、
既に会話よりも肌の触れ合いを求めるように仕上がっている。

「そうですね。じゃあ、遠慮なく」

 梓は再び向きを変えて、今度は律に乗って顔を合わせてきた。
梓が身体の位置を微調整して性器と性器が重なり合った事で、律にもその意図が知れた。
間を置かず、律の性器に摩擦が走った。
梓の性器と自身の性器が擦れ合い、ゲル状の液体を啜るような濁った音が室内に響く。
梓の陰毛が敏感な粘膜に絡み、始めの内こそ律は痛みを覚えていた。
だがすぐに、その痛みさえ快感へと変わる。


「くすっ、律せんぱぁい、見て下さいよぅ。
貝が花びら食べてるみたいです」

 梓が悪戯っぽい笑みを浮かべながら、二人の接合部を指し示してきた。
つられて目を遣ると、律の性器に覆い被さって蠕動を繰り返している梓の性器が確認できた。
それは律にとっても、梓が喩えた通りに連想できる光景だった。

「うん、私のお花、梓に食べられちゃってる」

 脳が淫楽に振り回されて、律は単調な感想を零す事が精一杯だった。

「ふふっ、律先輩って、セックスの時には甘えモードになるんですね。
可愛らしいです。私だってスイッチ、入れちゃうんだから」

 梓は摩擦の運動を速めながら、両サイドに束ねていた髪を解いた。
真っ直ぐな長い髪が落ちて、梓の風貌は更に澪へと近付く。

「毎晩、律先輩を想って自分を慰める時、髪を解いているんです。
髪の毛なら私だって澪先輩に負けないって、そう思っちゃって。
今だって、澪先輩に負けたくないって、思っちゃってて。
妹のように可愛がってくれた人にそんな感情抱くなんて、最低だって分かってます。
でも、どうしても律先輩に訊きたいんです。
私の髪、澪先輩と比べて遜色ないですか?」

 普段の梓は澪を非常に尊敬しており、張り合う素振りなど見せた事はない。
だが、律の告白によって利害が対立する事となった今、
どうしても張り合いたい気分になったのだろう。
特に髪は澪と似ている要素であり、そして梓自身も自信を持っているのだから尚更だ。

「梓の、髪の方が、綺麗だよ」

 喘ぎながらも、律は梓の自負心を擽ってやった。
この程度の言葉なら、淫らな感覚に満たされた脳でも紡げる。
そしてこの程度の言葉でも、好きな相手から掛けられれば嬉しいものだ。
その律の目論見を裏付けるように、梓の顔に満面の笑みが広がった。

「えへ、嬉しいです。今度から、ずっと、髪解いたままにしようかな」

 垣間見える梓の一途な姿には、律も心を揺らされるものがあった。
尤も、澪の地位を揺るがすまでには至っていない。
それでも今は、梓に耽溺していたいと思えた。

 先程、顧問の山中さわ子が訪れる恐れを口にはしたものの、
自分の提案を通す為の方便に過ぎない。
この時期、文化祭に向けた衣装作りや吹奏楽部の顧問が忙しいらしく、
名前だけ貸しているに過ぎない軽音部には滅多に姿を見せていない。
梓とてそれを織り込んでいるからこそ、
山中に対する懸念を全く見せていないのだろう。
律の方便はまるで通用していなかった事になるが、今となっては構わなかった。
すっかりと性欲に飲み込まれた今、邪魔されず性交に没頭できる事の方が重要だった。

 律は絶頂へと達しつつある中、梓と交わり続けられる幸福を噛み締めていた。



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